【遊馬と万丈目で】 YU-JO!【時空を超えた絆】   作:千葉 仁史

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私:今回もデュエル構成、万丈目準(おジャマエクシーズ)vs観月小鳥(代行天使)でやってくれ!
弟:分かった。

数ヶ月後
弟:代行天使を回すトリガーになる【神秘の代行者アース】がチューナーで、シンクロ召喚が存在しないZEXAL世界では使えないから、構成無理。難しい。
私:なら、私がやってやる!

私:小鳥のエースモンスターの効果が強過ぎる……orz
弟:チェーンしろ、チェーン。

私:墓地の獣族のモンスターカードの枚数が足りない……orz
弟:【森の聖獣 キティテール】を使え。

私:【天霆號(ネガロギア)アーゼウス】というカードがあるんだけど……orz
弟:見なかったことにしろ。これからのデュエル、全部それを出す気か?

私:なんとか出来た。デュエル構成の大変さを理解できたよ。今までありがとう。
弟:どういたしまして。



※【天霆號(ネガロギア)アーゼウス】
エクシーズ・効果モンスター
ランク12/光属性/機械族/攻3000/守3000
レベル12モンスター×2
「天霆號アーゼウス」は、Xモンスターが戦闘を行ったターンに1度、自分フィールドのXモンスターの上に重ねてX召喚する事もできる。
(1):このカードのX素材を2つ取り除いて発動できる。このカード以外のフィールドのカードを全て墓地へ送る。この効果は相手ターンでも発動できる。
(2):1ターンに1度、このカード以外の自分フィールドのカードが戦闘または相手の効果で破壊された場合に発動できる。手札・デッキ・EXデッキからカードを1枚選び、このカードの下に重ねてX素材とする。

これを出してしまうと、エクシーズ召喚を使うZEXAL世界のすべてのデュエルがこれ対策(デュエル構成のワンパターン化)になってしまうので、今のところ、使う気はありません。



第十節 WDC開催! 私にもデュエルできるかな?★

 

「え、いないんですか?」

 

 WDC開催のホイッスルが鳴ってから、どれくらいの時間が経っただろうか。多くのデュエリスト同士が大会の初戦をぶつかり合うなか、万丈目と遊馬は待ち合わせの場所に現れなかった小鳥を迎えに観月家の玄関にいた。だが、小鳥の母親が言うには彼女は朝早くに家を出てしまったらしい。どうやって遊馬を支えたらいいか、昨日も遅くまで悩んで、母親にバレない様に――とは言っても母親にはしっかりバレていたが――こっそり深夜にカードパックの自販機へ買いに行ったりしていたという。

 

(遊馬の奴、結構想われているじゃねぇか。あーあ、俺にも幼馴染がいればなぁ)

『アニキ』

 

 万丈目が遊馬を羨んでいると、ポンタがちょんちょんと肩を突っ突かれる動作の真似――カードの精霊は万丈目に触れられないので――をしながら呼び止めてきた。

 

「なんだよ、タヌキ」

『机の上を見るポン』

 

 ポンタに促されて万丈目が机に視線を向けると、其処には見慣れた封筒が置いてあった。

 

「これはWDC参加証のハートピースが入っていた封筒じゃないか。小鳥ちゃん、WDC参加者だったのか?」

 

 遊馬は知っていたのか? 万丈目が水を向けるが、彼も知らなかったようで目をまん丸にしていた。

 

「小鳥、参加していたのか? 俺、全然知らなかったぜ」

『しかし、彼女はデュエルについてあまり知らないようだったが……?』

 

 皇の鍵の持ち主である遊馬と同じようにアストラルが首を傾げると、小鳥の母親が「ああ、それね」と万丈目の質問に答えた。

 

「あの子、申し込んだけれども、まだデュエルについて勉強中だから、ちゃんとした参加はしないみたいよ」

「え? 申し込んだのに参加しないってどういうこと?」

「記念参加ってやつだろう。成程、道理で彼女はWDCに向けてシステムをダウンロードしなくてはいけないことを知っていた訳だ」

 

 最も記念参加だけでなく、大会のルールを知ることで少しでも遊馬に助力したいというのが彼女の心積もりだったのだろう。あまりにも献身的な行動に二ブチンの遊馬には本当に勿体ない、と万丈目は心の内で毒づいた。

 

「でも、なんで小鳥は朝から飛び出して行ったんだ?」

「分からないわ。それから何故か冷蔵庫の野菜室にあった人参がごっそり消えていたのよ。これも関係あるのかしら?」

「それは関係ないと思いますよ」

 

 万丈目は即座に小鳥の母親の言葉を否定する。

 人参嫌いの万丈目からすると食べるのも嫌なら聞くのも嫌なレベルの代物だ。今は居候故に文句が言えないから黙って耐えて食べているが、内心辛くて辛くて堪らなかったりする。異世界トリップの際の大怪我により大食いが出来なくなったからか――大食いどころか、かなりの小食になってしまったので明里たちに無理強いされないのが不幸中の幸い(?)だ。

 ともかく今は人参の話をしている場合ではない。小鳥を探すため、遊馬と万丈目たちは街へ小鳥を探しに行くことに決めたのだった。

 

 しかしながら小鳥を探すために飛び出したはいいものの、何の行先も心当たりも無かった。このままじっとしていても大会の時間は無為に過ぎて行ってしまう。万丈目は大会参加者だ。参加した以上はデュエルしたいし、やはり優勝したい。いっそのこと遊馬に任せてしまおうかな、と悪い考えも(よぎ)ったが、心配の余り思い詰めた表情を浮かべる遊馬を見ると、此奴を一人きりにしてはいけない、とストップが掛かる。

 

(もしかしたら、アストラル捜索の時みたいに強く願えば帝の鍵は光ってその場所を指し示してくれるのではなかろうか……?)

 

 その時のことを思い出した万丈目が帝の鍵を握り込もうとした瞬間、公園から野太い男の声が響いてきた。

 

「なんだ? 今の雑巾を()くような悲鳴は!?」

『雑巾? ああ、女の子なら『シルクを割くような悲鳴』と比喩するから、野郎相手なら『雑巾を割く』ってことポン?』

『成程、そういうことか。記憶しておこう』

「アストラル! そんなの記憶しなくていいって! それよりも早く向かおうぜ! 誰か困っているみたいだ」

 

 万丈目から始まったボケの応酬に珍しく遊馬がツッコミを入れると、彼等は公園へと向かった。しかし残念ながら本調子では無い万丈目は、小鳥のことを考える余りに必死な遊馬にあっという間に置いて行かれてしまったのだった。

 

 公園では、雑巾を割いたような悲鳴の持ち主であろう男性がへたり込んでいた。豊満なボディーをしていて、麦藁帽を被り、手ぬぐいを首に回しているので農業従事者のように思われるが、WDC会場にいるということは恐らく彼もデュエリストなのだろう。そんな彼が「わしの野菜が~っ!」と悲鳴を上げ続けている。男性の目の前では大きな籠に入った野菜を貪り食べる、遊馬たちの探し人こと、観月小鳥の姿があった。

 

『遊馬! 小鳥がいたぞ!』

「他人の空似じゃないかな」

 

 声を上げるアストラルの横で、遊馬はてんで正反対の方向を向いていた。幼馴染の女の子が生の野菜を貪り食べる姿を見れば、誰だって現実逃避したくもなるだろう。しかしアストラルはそれを許さず『いや、彼女は間違いなく小鳥だ』と言い張り、それどころか『見てみろ!』と追撃を重ねてきた。

 

「俺、あんな小鳥を見たくねぇんだけど」

『そうではない! 彼女を覆うあのオーラを見ろ。あれはナンバーズによるものだ!』

「ナンバーズ!?」

 

 弾かれるようにして遊馬は小鳥を見る。瘴気のようなオーラが彼女を包み込んでいるのを見た遊馬は「小鳥!」と大事な幼馴染の名前を呼んだ。

 

「ナンバーズめ! 小鳥に何させてんだよ!」

 

 強く地面を蹴り飛ばして遊馬が小鳥に駆け寄るが、まるでヤクシニー(妖精の一種)みたいに小鳥は軽やかにジャンプして遊馬の突撃を上手く躱してしまった。

 

「なんだ! あのジャンプ力!? 俺を軽々飛び越えちまったぞ!」

『恐らくナンバーズによるものだろう』

 

 動転する遊馬にアストラルが冷静に話し掛ける。そのまま小鳥は公園の外に出ようとしたが、草むらから出た手に腕を掴まれた。

 

「ククク、掴まえたぞ、小鳥ちゃんならぬ、子兎ちゃん。遊馬に追い付くために近道をした甲斐があったぜ」

『おかげで道なき道を行く羽目になったポン』

 

 ポンタはげっそりしていたが、頭に葉っぱやら何やらを付けた万丈目は不敵な笑みを浮かべていた。そのまま彼女の腕を掴んだまま、公園の広場へ出る。彼女がナンバーズに操られているのは明白の事実だ。こうなれば、デュエルで勝利し、そのナンバーズを回収して助けるほかない。

 

「万丈目! 俺がデュエルで小鳥の目を覚まさしてやる!」

「さん、だ! 俺が捕まえた以上は俺の対戦相手だ! このウサギには時間を取らせた落とし前ついでにハートピースも貰わないと俺様の気が済まん!」

『つまり君はハートピースを欲しいだけでは? それよりも何故ウサギ――』

「Shut up!!」

 

 アストラルからのハートピースが欲しいだけという図星に万丈目がきつく声を荒げる。万丈目から腕を離された小鳥は彼から距離を取ると、Dゲイザーに手を伸ばした。どうやらナンバーズもまた万丈目を対戦相手に定めたようだ。

 

「デュエルディスク、セット!」

 

 万丈目は腰のベルトに付けていたDパッドを青空に向けて放り投げ、デュエルディスクへ展開する。そして、それを左腕に装着すると、深夜まで思案して構築したデッキをセットアップした。

 

「Dゲイザー、セット!」

 

 それから万丈目はDゲイザーも同じように投げ飛ばして左目に装備する。小鳥も倣ってそれぞれをセットし、遊馬もまた「相変わらず万丈目は無茶苦茶なんだから」とぼやきながらDゲイザーを起動させた。

 

『ARヴィジョン・リンク完了』

 

 今になっては聞き慣れた機械音声と共にマトリックスが降り注ぐなか、急に始まったWDC一回戦目に万丈目は静かに息を吐く。そして、復活の証たる黒コートを薙ぎ払いながら真っ直ぐに対戦相手を視界の中央に収めた。

 

「さぁ! 小鳥ちゃん、俺様と勝負だ!!」

 

 デュエル! と力強く宣誓する声が公園に響き渡った。

 

 

 

☆第1ターン目

観月小鳥

ライフ4000

手札5枚

 

 

 

「初ターンは私が貰うわ!」

 

 ナンバーズに操られているであろう小鳥が快活にスタートダッシュを切り出す。

 

「私は手札から【ヘカテリス】(効果モンスター/星4/光属性/天使族/攻1500/守1100)を墓地へ捨てて効果発動! デッキから【神の居城-ヴァルハラ】一枚を手札に加えるわ!」

 

 一枚使用して、デッキから一枚サーチして手札に加えたので小鳥の手札はプラマイゼロとなる。そして、彼女はサーチしたカードを掴むと、効果を発動させた。

 

「手札から永続魔法【神の居城(きょじょう)-ヴァルハラ】を発動! このカードは一ターンに一度、自分メインフェイズに発動可能、自分フィールドにモンスターが存在しない場合にのみ、手札から天使族モンスター一体を特殊召喚する!」

 

 一旦息を吸い込むと、小鳥はしかと目を見開いて、フィールドに特殊召喚するモンスターの名を高らかに読み上げた。

 

「さぁ、現れて! 【大天使クリスティア】(効果モンスター/星8/光属性/天使族/攻2800/守2300)!!」

 

 (ほま)れ高き騎士の魂を集結させる場所ヴァルハラの名を(うた) った神の居城の扉が開き、鴇色(ときいろ)の翼を持った無慈悲な天使が小鳥のフィールドに舞い降りた。

 

「い、いきなり攻撃力2800の高火力モンスターかよ!? 小鳥はデュエルに疎いんじゃなかったのか?!」

『これもナンバーズの力なのか……?』

 

(もしかすると、遊馬を思うが故に小鳥ちゃんは人知れずデュエルタクティクスを磨いていたのかもしれないな)

 

 初っ端からブースト掛けてぶっ飛ばしていくような小鳥のコンボに遊馬は素頓狂な声を上げ、アストラルは疑問を呈し、対戦相手の万丈目は密かに顔を顰めた。

 

「本来、【大天使クリスティア】は自分の墓地の天使族モンスターが4体のみの場合、手札から特殊召喚できるけど、【神の居城−ヴァルハラ】の効果で踏み倒しできるのよ」

 

 補足説明を終えた小鳥は、とうとう本命の効果を口にした。

 

「そして【大天使クリスティア】がモンスターゾーンに存在する限り、お互いにモンスターを特殊召喚できない!!」

 

 特殊召喚封じに万丈目どころか、遊馬もアストラルもポンタも固まってしまった。

 

「更に私は手札からフィールド魔法【天空の聖域】を発動! このカードがフィールドゾーンに存在する限り、天使族モンスターの戦闘で発生するそのコントローラーへの戦闘ダメージは0になる! 最後に魔法(マジック)(トラップ)ゾーンにカードを一枚伏せてターンエンドよ!」

 

 ダメ押しとばかりに天使族モンスターへのダメージは0となるフィールド魔法とカードを一枚伏せ、手札一枚となって小鳥のターンは終了する。万丈目たちは以前静まり返ったままだったが、悪夢に囚われたかのようにポンタが毛皮の下で顔を青くしながら呟いた。

 

『まずい、まずいポン。アニキのデッキはおジャマを使った特殊召喚軸のデッキポン。特殊召喚を封じられたら手も足も出ないポン』

「俺だって特殊召喚が封じられたら、どうしたらいいか分かんねぇよ! ま、万丈目は大丈夫なのか?」

『彼のデュエルタクティクスと運を信じるしかなさそうだな』

 

 ポンタと遊馬とアストラルの会話を聞きながら、万丈目は手札を掴む左手に知らぬ間に力を込めていた。それにより包帯を巻かれた左の薬指が痛むが、今はそれを気にしている場合ではない。

 

(特殊召喚封じ、か。シャークと共に闘ったゴーシュたちとのタッグデュエルを思い出すぜ。最も、あの時は【No.86 H-C ロンゴミアント】の効果で特殊召喚だけでなく通常召喚すら封じられていたな)

 

 だが今回は一対一のデュエルだ。万丈目を助けてくれる味方(シャーク)はいない。仮に万丈目を助けてくれるものがあるとするならば、この世界で皆から貰ったカードで出来たデッキと、これまでに培ったバトルセンス、そして(ひらめ)きであろう。

 

愕然(がくぜん)とするな、万丈目準! プロデュエリストならば、この難題を乗り越えてみせろってんだ!)

 

 万丈目は霧で覆われかける思考に発破かけると、第二ターンに向けて――まるでその霧を吹き飛ばすためのように――意識して大きく息を吸い込んだのだった。 

 

 

 

☆第1ターン目エンド

観月小鳥

ライフ4000

手札1枚

・フィールド

大天使クリスティア

神の居城−ヴァルハラ

天空の聖域

伏せカード1枚

・墓地

ヘカテリス

 

 

 

★第2ターン目

万丈目準

ライフ4000

手札5枚+1枚

 

 

 

「第二ターン目! 俺のターン、ドロー!」

 

 大きく声を出して、万丈目がスタートを切る。対戦相手のフィールドには互いに特殊召喚を封じる無慈悲な天使が悠然と攻撃表示で構えており、そちらを意識しながらも万丈目は六枚になった手札に視線を向けた。

 

(今回の小鳥ちゃんのタクティクス。本人の実力か、ナンバーズに依るものか分からないが、小鳥ちゃんはデュエル初心者だからって油断していたぜ。だが、もう油断大敵タイムは終わりだ。どんなデュエルにも全力でいかせてもらう!)

 

「俺は手札から【スナイプストーカー】(効果モンスター/星4/闇属性/悪魔族/攻1500/守 600)を通常召喚!」

 

 万丈目の手札が五枚になり、彼のフィールドにガンを持ったレベル4の悪魔属が躍り出る。それを見た遊馬が「万丈目って、光属性でも獣族でもレベル2でもおジャマでも無いモンスターカードを使うんだなぁ」と小さく、それでいて不思議そうに呟いた。

 

『【スナイプストーカー】か。このカードは手札を一枚捨て、フィールド上のカード一枚を選択して発動可能、 サイコロを一回振り、一と六以外が出た場合、 選択したカードを破壊することができる効果モンスター。つまり、彼はこれで特殊召喚封じの【大天使クリスティア】を破壊するつもりのようだな』

 

 アストラルの独り言に従うように万丈目は五枚の手札から一枚のカードを手に取った。

 

「俺は手札を一枚捨て、【スナイプストーカー】の効果を発動! 対象は【大天使クリス――」

「モンスター効果を発動したわね! 伏せていたカウンター罠【神罰】発動! このカードはフィールドに【天空の聖域】が存在し、モンスターの効果・魔法・罠カードが発動した時に発動可能。その発動を無効にし破壊する! 神に“()”わって(オシオキ)を“(おこな)”ってあげるわ。ターゲットは勿論【スナイプストーカー】! 神罰覿面(しんばつてきめん)!」

 

 カウンター罠【神罰】が発動する。特殊召喚封じの【大天使クリスティア】退治のために登場した【スナイプストーカー】が呆気なく破壊され、万丈目は「Shit!」と舌打ちするかのように呟いた。

 

『以前にアニキが使った【天罰】と違って、実質ノーコストで発動とか恐ろしいカードだポン!』

「せっかく【スナイプストーカー】の効果の為にカードを捨てたのに、これじゃあ全くの損じゃないか!」

『いや、全くの損では無さそうだぞ、遊馬』

 

 外野(がいや)が外野らしくガヤガヤ言い合うなか、万丈目は努めて冷静にカード処理を行う。

 

「俺が【スナイプストーカー】の効果発動の為に墓地に捨てたのは通常魔法【おジャマジック】だ。このカードが手札・フィールドから墓地へ送られた場合に発動。 デッキから【おジャマ・グリーン】【おジャマ・イエロー】【おジャマ・ブラック】を一体ずつ手札に加える」

 

 三枚のモンスターカードを加えた結果、万丈目の手札が七枚になる。全くの損にはならない回し方に遊馬が驚嘆の息を漏らした。

 

「【スナイプストーカー】の手札コストで【おジャマジック】【おジャマ・グリーン】【おジャマ・イエロー】【おジャマ・ブラック】を使って、効果発動のチャンスを四回得ようと思ったんでしょうが、そう簡単に【大天使クリスティア】を破壊させないわ」

 

 当然だが、たった一枚のカードで(フィールド)を制圧できる天使を易々(やすやす)と手放す気は小鳥には無いらしい。

 

「良いことを教えてあげる。フィールド表側表示の【大天使クリスティア】が墓地へ送られる場合、墓地へは行かず持ち主のデッキの一番上に戻るの。【神の居城−ヴァルハラ】がフィールドにある限り、私の大天使サマは不死身なのよ」

「ご丁寧にドーモ」

 

 さらなる効果を対戦者に説明され、万丈目はなんとも歯がゆい表情を浮かべる。

 

(まさか、万丈目、もしかして本当にこの一枚のカードでやられてしまうのか……? ナンバーズに操られた小鳥が心配だけど、万丈目のことも心配だぜ)

 

 ハラハラする遊馬を他所に、万丈目は短く息を吐くと「カードを一枚伏せてターンエンドだ」と二ターン目を早々と切り上げてしまったのだった。

 

 

 

★第2ターン目エンド

万丈目準

ライフ4000

手札6枚(そのうち3枚はおジャマ)

・フィールド

伏せカード1枚

・墓地

おジャマジック

スナイプストーカー

 

 

 

☆第3ターン目

観月小鳥

ライフ4000

手札1枚+1枚

・フィールド

大天使クリスティア

神の居城−ヴァルハラ

天空の聖域

・墓地

ヘカテリス

神罰

 

 

 

「第三ターン目、ドロー!」

 

 初ターン目で使い過ぎて一枚になった小鳥の手札がこれにて二枚となる。

 

「私は手札から【創造の代行者 ヴィーナス】(効果モンスター/星3/光属性/天使族/攻1600/守 0)を攻撃表示で通常召喚するわ」

 

 【大天使クリスティア】の効果により、万丈目は勿論、コントローラーの小鳥も特殊召喚は出来ない。そのため、三つの宝玉に囲まれた金色の天使が小鳥のフィールドに通常召喚される。

 

『まずいポン! 【創造の代行者ヴィーナス】の攻撃力は1600で、【大天使クリスティア】の攻撃力は2800ポン。このままだと4400のダイレクトダメージを受けて、アニキが負けてしまうポン!』

「おの伏せたカード、まさかハッタリのブラフじゃあ無いよな……?」

 

 ハラハラするあまり、ポンタと遊馬が声を震わせて呟いている。アストラルも万丈目も何も言わない。対戦相手の小鳥が総攻撃の合図のように手を掲げ、バトルフェイズに突入した。

 

「バトルよ! 【創造の代行者ヴィーナス】でプレイヤーにダイレクトアタック!」

「くっ!!」

 

 【創造の代行者ヴィーナス】の攻撃がストレートに万丈目に当たり、これで彼のライフが2400となった。彼が場に伏せたカードを発動させなかった事実に、やはりあのカードはブラフだったと確信した小鳥はトドメを刺すべく声を上げた。

 

「これでおしまいよ! 【大天使クリスティア】でプレイヤーにダイレクトアタック!!」

 

 無慈悲な最後の一撃に悲鳴をあげる遊馬とポンタ。だが、万丈目の顔に浮かんだのは落胆ではなく、悪役(ヒール)のような笑みだった。

 

「攻撃宣言をしたな! 俺は伏せていた通常罠【次元幽閉】発動! 相手モンスターの攻撃宣言時、攻撃モンスター一体を選択して発動可能、選択した攻撃モンスターをゲームから除外する! 勿論、対象は【大天使クリスティア】だ! あばよ、大天使サマ! 除外されちまいな!」

 

 バトルフィールドに異次元への穴が開いたと思うや否や、あっという間に【大天使クリスティア】を包みこんで消滅してしまった。

 

「貴方の狙いは最初から【大天使クリスティア】だったのね!!」

「無論! 【大天使クリスティア】がフィールドにいる限り、俺はロクに戦えないからな。ついでに【大天使クリスティア】のデッキトップに戻る効果は墓地に送られたときだけだから、除外には発動出来ないぜ」

 

 万丈目の説明に、小鳥が悔しそうな表情を浮かべる。とりあえず、このターンがラストターンにならなかったことに遊馬とポンタは安堵を覚えた。

 

「メインフェイズ2に入るわ! 【創造の代行者ヴィーナス】の効果を発動! 500LP(ライフポイント)を払って発動可能、手札・デッキから【神聖たる球体(ホーリーシャイン・ボール)】(通常モンスター/星2/光属性/天使族/攻 500/守 500)一体を特殊召喚する! 【大天使クリスティア】がいなくなったことで、私も特殊召喚ができるようになったわ。更にこの効果に回数制限は無いから、私は1500LPを支払って【神聖たる球体(ホーリーシャイン・ボール)】をデッキから三体特殊召喚するわ! ……くぅうっ!!」

 

 1500のライフコストを支払ったことにより、彼女が蹌踉(よろ)めいて(うめ)き声を漏らす。遊馬が咄嗟に「小鳥!!」と名を呼ぶが、ナンバーズに操られた少女は持ち堪えると効果名を強く叫んだ。

 

「私に戦うチカラを! “ホーリー・コーリング”!!」

 

 小鳥のライフは2500まで減ったが、デッキからレベル2の攻撃表示のモンスターが三体飛び出し、彼女のフィールドに整列した。

 

『レベル2のモンスターが並んだポン……っ!?』

『くるぞ!』

 

 ポンタとアストラルが警戒の声を上げる。万丈目も眉間に皺を寄せて、それに構えた。

 

「私はレベル2の【神聖たる球体(ホーリーシャイン・ボール)】二体でオーバーレイ! 二体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築! 【ガチガチガンテツ】(エクシーズ・効果モンスター/ランク2/地属性/岩石族/攻 500→900/守1800→2300)を表側守備表示でエクシーズ召喚!!」

 

 かつて使ったことがあるモンスターエクシーズが現れ、万丈目は瞠目してしまう。使用したことがあるだけに彼はそのカードの効果を熟知していた。

 

「【ガチガチガンテツ】……っ! このカードはフィールド上に表側表示で存在する限り、自分フィールド上のモンスターの攻撃力・守備力は、このカードのORU(オーバーレイ・ユニット)の数×200ポイントアップする効果を持つ。《ガチガチガンテツ》のORUは二つ、よってこのカードの守備力は1800+400=2300となり、【創造の代行者ヴィーナス】(攻1600→1800/守 0→200)の攻守も200ポイントずつアップという訳か」

「そういうことよ! 続けて私は【馬の骨の対価】を発動! 効果モンスター以外の自分フィールドの表側表示モンスター一体を墓地へ送って発動可能、自分はデッキから二枚ドローする。対象は余った【神聖たる球体(ホーリーシャイン・ボール)】よ!」

 

 フィールドに残された弱小モンスターを回収するため、【馬の骨の対価】発動される。これにより小鳥の手札が一枚から0枚、そして二枚にまで増えたが、引いたカードに伏せれるものが無かったのか、彼女はそのままターンエンド宣言を行った。

 

 

 

☆第3ターン目エンド

観月小鳥

ライフ2500

手札2枚

・フィールド

神の居城−ヴァルハラ

天空の聖域

創造の代行者ヴィーナス(攻1800)

ガチガチガンテツ(守2200)

・墓地

ヘカテリス

神罰

馬の骨の対価

神聖たる球体(ホーリーシャイン・ボール)

・除外

大天使クリスティア

 

 

 

★第4ターン目

万丈目準

ライフ2400

手札6枚(そのうち3枚はおジャマ)+1枚

・フィールド

なし

・墓地

おジャマジック

スナイプストーカー

次元幽閉

 

 

 

(なんとか【大天使クリスティア】は追放出来たが、今度はランク2エクシーズモンスターか。俺が使用したことがある【ガチガチガンテツ】と【馬の骨の対価】を小鳥ちゃんが使った。……ということは、この調子だと他にも出てきそうな気がするぜ。なにはともあれ、とにかくまずはドローだ!)

 

「第四ターン目、俺のターン! ドロー!!」

 

 警戒を緩めないまま、万丈目が第四ターン目に入る。おジャマだらけの手札七枚を見ながら、なすべきこと・すべきルートを導き出していく。

 

「俺は手札から【おジャマ・レッド】(効果モンスター/星2/光属性/獣族/攻 0/守1000)を通常召喚! そして、【おジャマ・レッド】の効果発動! このカードが召喚に成功した時、手札から『おジャマ』と名のついたモンスターを四体まで自分フィールド上に攻撃表示で特殊召喚する事ができる! 現れろ! 【おジャマ・イエロー】【おジャマ・グリーン】【おジャマ・ブラック】(通常モンスター/星2/光属性/獣族/攻 0/守1000)!!」

 

 たかが数秒のアクションで万丈目のフィールドにレベル二✕四体のモンスターが並ぶ。これで彼の手札は三枚となったが、ここまできたらやることなんて一つしかないだろう。

 

「俺はレベル2の【おジャマ・イエロー】と【おジャマ・レッド】でオーバーレイ! 二体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築! エクシーズ召喚! 俺様の新たな仲間のお披露目だ! 来い! 【神騎セイントレア】(エクシーズ・効果モンスター/ランク2/光属性/獣戦士族/攻2000/守 0)!!」

 

 万丈目が手慣れた様子で、彼にとっての異世界の召喚法を発動させる。現れたエクシーズの渦より、白い鎧を身に纏った半人半馬の騎士が攻撃表示で新参した。

 

「まだだ! 更に俺はフィールドに残ったレベル2の【おジャマ・グリーン】と【おジャマ・ブラック】でオーバーレイ! 獣族二体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!!」

 

 先程までのオーバーレイ・ネットワークとは異なる、カオスの色合いをした渦が現れる。その渦からは『やっとオイラの出番ポン!』と何処か嬉しそうなポンタの声が響いていた。

 

「エクシーズ召喚!! タヌキよ、誰の目にも見える形となれ! 来やがれ、【No.64 古狸三太夫】(エクシーズ・効果モンスター/ランク2/地属性/獣族/攻1000/守1000)!!」

 

 万丈目のフィールドに、ナンバーズである【No.64 古狸三太夫】が 攻撃表示で登場する。

 

 小鳥のフィールドには攻撃力1800と守備力2200のモンスターが二体並んでおり、対して万丈目のフィールドには攻撃力2000と攻撃力1000のモンスターが並んでいる。このままでは一体倒せるのが精一杯なところだ――そう、このままの状態では。

 

「【No.64 古狸三太夫】の効果を発動! 一ターンに一度、このカードのORU(オーバーレイ・ユニット)を一つ取り除いて発動可能、自分フィールドに【影武者狸トークン】(獣族・地・星1・攻?/守0)一体を特殊召喚する。そして、このトークンの攻撃力は、フィールドのモンスターの一番高い攻撃力と同じになる。今現在、一番高い攻撃力を持つのは俺の場にいる【神騎セイントレア】だ! さぁ、攻撃力2000の【影武者狸トークン】のおでましだぜ!!」

 

 三体目のモンスターとなる、攻撃力2000のトークンが万丈目のフィールドに現れる。そして息を着く間もなく、万丈目は「バトルフェイズへ移行だ!」と叫んだ。

 

「まずは攻撃力2000の【神騎セイントレア】で、守備表示の【ガチガチガンテツ】を攻撃! “シアナス・ランス”!!」

「ま、万丈目! 正気か!! 【ガチガチガンテツ】の方が守備力2200で高いんだぞ!!」

「バカ遊馬! 俺は万丈目さん、だ!」

 

 遊馬と万丈目がコントをしている間に、名前の由来ともなった矢車菊(セントーラ・シアナス)の文様が入った馬上槍(ランス)を振り回した【神騎セイントレア】が【ガチガチガンテツ】に突撃する。その結果、遊馬の言う通り【神騎セイントレア】の攻撃力2000より【ガチガチガンテツ】の守備力2200が上回っていたため、【ガチガチガンテツ】の破壊はおろか、万丈目は200のライフダメージを負ってしまい、彼のライフは2200となった。

 

「攻撃対象を間違えたのかしら?」

「いや、あっているさ」

 

 小鳥らしからぬ揶揄にも動じず、万丈目は爛々と焔のように燃える瞳を彼女に向けて、こう言った。

 

「この瞬間、【神騎セイントレア】の効果発動! このカードが相手モンスターと戦闘を行ったダメージステップ終了時に、このカードのORUを一つ取り除いて発動可能。その相手モンスターを持ち主の手札に戻す!」

「なんですって!!」

「【ガチガチガンテツ】の破壊無効化効果は“破壊”のみにしか発動しないからな、大人しくエキストラデッキに戻ってもらうぜ! 【神騎セイントレア】、バウンス効果をお見舞いしてやれ! “アステラシー・アステラレス”!!」

 

 【神騎セイントレア】が最高級の蒼玉彩(コーンフラワーブルー)色に輝き出した楯を掲げる。すると、キク目(アステラシー)キク科(アステラレス)特有の花弁をあしらった魔法陣が現れ、戦闘したモンスターの【ガチガチガンテツ】を場外へ吹っ飛ばした。これにより【ガチガチガンテツ】はエクストラデッキに戻り、ORUになったモンスターカードは墓地に落ち、【創造の代行者ヴィーナス】の攻撃力が1800から1600に戻った。

 

「次は攻撃力2000の【影武者狸トークン】で、攻撃力1600の【創造の代行者ヴィーナス】を攻撃! “薙刀十文字斬り”!」

 

 万丈目の指示を受けた【影武者狸トークン】が薙刀を振り被り、【創造の代行者ヴィーナス】を斬り裂いた。

 

「攻撃表示の【創造の代行者ヴィーナス】が破壊されたけど、フィールド魔法【天空の聖域】がフィールドゾーンに存在する限り、天使族モンスターの戦闘で発生するそのコントローラーへの戦闘ダメージは0になるから、ライフダメージは受けないわ!」

「だが、これで小鳥ちゃんのフィールドにモンスターはいなくなった。攻撃力1000の【No.64 古狸三太夫】でプレイヤーにダイレクトアタックだ!」

「きゃあ!!」

「小鳥!」

 

 【No.64 古狸三太夫】にダイレクトアタックされた小鳥が悲鳴をあげ、遊馬が慌てふためく。それを見た万丈目は、彼がそういう奴では無いと知りつつも、後で遊馬に恨まれたら嫌だな、とらしくもない弱気なことを思った。

 

(とにかく、これで小鳥ちゃんのライフは1500まで減った。場にモンスターも残っていない。もしかすると、ナンバーズが登場する前に勝てちまうかもな)

 

 そう考えながら万丈目は手札一枚を魔法・罠ゾーンに伏せ、ターンエンドしたのだった。

 

 

 

★第4ターン目エンド

万丈目準

ライフ2200

手札2枚

・フィールド

神騎セイントレア

No.64 古狸三太夫

影武者狸トークン

伏せカード1枚

・墓地

おジャマジック

スナイプストーカー

次元幽閉

おジャマ・イエロー

おジャマ・ブラック

 

 

 

☆第5ターン目

観月小鳥

ライフ1500

手札2枚+1枚

・フィールド

神の居城−ヴァルハラ

天空の聖域

・墓地

ヘカテリス

神罰

馬の骨の対価

神聖たる球体(ホーリーシャイン・ボール)✕3枚

創造の代行者ヴィーナス

・除外

大天使クリスティア

 

 

 

「第五ターン目、ドロー!!」

 

 場にモンスターなし、ライフ1500と追い込まれた小鳥がデッキから一枚ドローする。そして引いたカードを見た彼女は「来たわ!」とみるみる喜色満面に溢れ出した。

 

「永続魔法【神の居城−ヴァルハラ】の効果発動! 自分のフィールドにモンスターがいない場合、召喚条件を無視して、手札から天使族モンスターを特殊召喚する!」

 

(やばい、小鳥ちゃんのフィールドには【神の居城−ヴァルハラ】があるんだった! もしかして、また【大天使クリスティア】か!?)

 

 焦る万丈目に対して、彼女は素敵な笑顔で名を読み上げた。

 

「助けて、私の最大守護神! 太陽より更なる高みを行く者、その名も【マスター・ヒュペリオン】(効果モンスター/星8/光属性/天使族/攻2700/守2100)!!」

 

 太陽を含む、すべての恒星を束ねる魔神が小鳥のフィールドに現れる。攻撃力2700というステータスに万丈目は思わず顔を引き攣らせてしまった。

 

「【マスター・ヒュペリオン】の効果発動! 一ターンに一度、自分の墓地から天使族・光属性モンスター一体を除外し、フィールドのカード一枚を対象として発動可能、そのカードを破壊する! 私は墓地にある【ヘカテリス】を除外してこの効果を発動、対象はその伏せカードよ!」

「させっかよ! 俺は【マスター・ヒュペリオン】の効果にチェーンして、伏せカードを発動だ!」

 

 小鳥の行動に万丈目が即反射でチェーン宣言する。伏せていたカードは通常罠の【ハーフ・アンブレイク】だった。

 

「【ハーフ・アンブレイク】! 遊馬がよく使うカードをどうして貴方が持っているの?」

「その遊馬がダブったからって俺にくれたんだよ。知っての通り、通常罠【ハーフ・アンブレイク】はフィールド上のモンスター一体を選択して発動可能、このターン、選択したモンスターは戦闘では破壊されず、そのモンスターの戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは半分になるという効果だ。俺はこのカードの対象を……【古狸三太夫】にするぜ」

 

 少し考えた後に万丈目は対象先を決めた。泡がぶくぶくと【古狸三太夫】を包んでいく。

 

『アニキ! オイラは獣族がフィールドにいる限り効果破壊も戦闘破壊もされない効果を持っているから、【ハーフ・アンブレイク】で戦闘破壊を無効化しても、効果が重複して意味が無いポン!』

「タヌキ、今は黙っていろ」

 

 バブルに埋もれながら訴えるポンタこと古狸三太夫をスルーして、万丈目が淡々と諌める。

 

「アストラル、なんで【マスター・ヒュペリオン】の効果で破壊しようとした【ハーフ・アンブレイク】が発動できるんだ?」

『それはチェーンしたからだ』

「チェーン?」

 

 そんな万丈目の後ろでは、遊馬とアストラルがお話をしている。チェーンという単語をはじめて聞いた、とばかりに首を傾げる遊馬にアストラルは懇ろ丁寧に説明した。

 

『端的に言うなら、チェーンは一枚のカードの発動に対応して別のカードを発動させる行為の事を指す。最初に発動したカードをチェーン1、次に発動したカードをチェーン2と呼び、チェーンの処理は後ろから――最後に発動したカードから行っていく』

 

 アストラルは腕組みをして、ふよふよと浮いているのに対して、内容はガッチガチの講義であった。

 

『この場合、【マスター・ヒュペリオン】の効果がチェーン1、それに対して発動した【ハーフ・アンブレイク】がチェーン2となる。処理は後ろから行われるため、【ハーフ・アンブレイク】からチェーン処理が始まったのだ』

「それだったら、破壊しようとしたら、その対象のカードが発動されちまうから意味ないじゃねぇか」

『それはどうかな。今回は【ハーフ・アンブレイク】だったから発動できたものの、もし、あれがバトルフェイズ中に発動するタイプのカードだったらチェーンは出来なかっただろう。それに破壊しようとしたら発動された、を防ぐためのカードもある』

「どんなカード?」

『分かりやすい例として挙げるならば、通常魔法【ナイト・ショット】だ。相手フィールドにセットされた魔法・罠カード1枚を対象として発動可能、セットされたそのカードを破壊する。ここまでなら速攻魔法【サイクロン】とほぼ同義だ。しかし、【ナイト・ショット】は“このカードの発動に対して相手は対象のカードを発動できない”とテキストが続いている。つまり、君が言う“破壊しようとしたら発動された”を防ぐことが出来る』

「……ということは【ナイト・ショット】は【サイクロン】の上位互換なのか?」

『上位互換とは、君も難しい言葉を知っているのだな。それはさておき、そうとも言い切れない。【サイクロン】は速攻魔法だ。つまり、手札からの発動も、場に伏せて罠カードのように発動も可能だが、対して【ナイト・ショット】は通常魔法なので自分のターンにしか発動できない』

 

 それからアストラルは遊馬を真っ直ぐに見て言った。

 

『タッグではない限り、デュエルは自分一人で行うものだ。本来ならば君の隣には誰もいない――このデュエルにおいて、小鳥が、万丈目が、おのおのが一人で対戦者と向かい合っているのと同じように。天城カイトに打ち勝ち、そしてWDCを勝ち進む気なら、ルールをよく覚えておけ、遊馬』

 

 最後のセンテンスと同時に遊馬へ向けられたアストラルの視線は、触れたものを全て凍らせる氷の矢のようであった。思わず、ぶるりと震えた遊馬は目の前のデュエルに集中する――勿論、小鳥と万丈目のことは心配だが――このデュエルから学べるものはすべて学んで、天城カイトのような強敵が待つWDCを勝ち進んでいくためにも。

 

 そんな風に遊馬とアストラルが話し込んでいる間、小鳥の【マスター・ヒュペリオン】の効果を不発にしたことで余裕を感じ取った万丈目は一息を吐いていた。

 

「小鳥ちゃん、これで一ターンに一度しか使えない【マスター・ヒュペリオン】の破壊効果は不発に終わっちまったな」

「それはどうかしら」

「なに?」

 

 万丈目が挑発的に笑うが、対戦相手の少女もまた笑い返す。その言動に「ハッタリを!」と思った万丈目だったが、小鳥の次の行動で引っ繰り返ることになる。

 

「私は【マスター・ヒュペリオン】の効果を発動、墓地にある【創造の代行者ヴィーナス】を除外して【神騎セイントレア】を破壊するわ!」

「待て! 【マスター・ヒュペリオン】の効果は一ターンに一度だけしか発動できないはず!」

「ふふふ、フィールドに【天空の聖域】が存在する場合、この効果は一ターンに二度まで使用できるのよ」

「マジかよ!?」

「さぁ、【マスター・ヒュペリオン】、やっちゃいなさい! “シュステーマ・ソーラーレイ”!!」

 

 魔神が両手を天へと掲げる。すると、空から急降下で落ちてきた光線(レイ)が【神騎セイントレア】を貫いて破壊した。これにより、万丈目が先程まで感じていた余裕の気持ちもまた同じように散り散りになってしまったのだった。

 

(くそっ! 【神騎セイントレア】はORUがある限り戦闘破壊は防ぐが、効果破壊にはどうしようも無い……っ!)

 

 破壊の衝撃で巻き起こった煙が晴れていく。それにより、はっきりと見え出した小鳥の手元を認めた万丈目はもう平生を保っていられなかった。少女の手札はまだ二枚残っているのだ。

 

「私のメインフェイズ1はまだ終わっていないわ! 手札から通常魔法【トライワイトゾーン】を発動! 自分の墓地のレベル2以下の通常モンスター3体を対象として発動可能、そのモンスターを特殊召喚する! 私が選ぶのは墓地にいる三体の【神聖たる球体(ホーリーシャイン・ボール)】よ!」

「あ! 万丈目が俺とのデュエルで使ったカードだ!」

 

 遊馬が叫んだ通り、それは第四ターン目の冒頭で万丈目がした予測が嫌な形で実現した瞬間であった。小鳥のフィールドに、三体の【神聖たる球体(ホーリーシャイン・ボール)】がきれいに一列に整列する。

 

「そして、私は手札最後の一枚を使って【テイ・キューピット】(効果モンスター/星2/光属性/天使族/攻1000/守 600)を通常召喚するわ!」

 

 小鳥の手札の最後の一枚が使用され、可憐な庭球(ていきゅう)マドンナの姿をしたキューピットの低級(ていきゅう)モンスターが舞い降りる。これにより、レベル2のモンスターが四体も並んでしまった。

 

「私はレベル2の【神聖たる球体(ホーリーシャイン・ボール)】二体でオーバーレイ・ネットワークを構築! 【ダイガスタ・フェニクス】(エクシーズ・効果モンスター/ランク2/風属性/炎族/攻1500/守1100)を攻撃表示でエクシーズ召喚!」

 

 またしても万丈目が以前使用したことがあるモンスターエクシーズが召喚される。効果を言うまでもなく知っている万丈目は浮かび上がりそうになる焦りの表情を必死になって隠した。

 

「一ターンに一度、このカードのエクシーズ素材を一つ取り除き、自分フィールド上の風属性モンスター一体を選択して発動可能、このターン、選択したモンスターは一度のバトルフェイズ中に二回攻撃する事ができる! 私はORUの【神聖たる球体(ホーリーシャイン・ボール)】を墓地に送って、効果発動! 対象は【ダイガスタ・フェニクス】自身を選択するわ! さぁ、自分で自分をどうにかしなさい! “エアリアル・フレア・チャージ”!!」

 

 小鳥から万丈目と同じ口上で命令を受けた怪鳥がORUを飲み込み、雄叫びを挙げる。これにより【ダイガスタ・フェニクス】は二回攻撃が可能になった。

 

「まだ私の特殊召喚は終わってないわ! レベル2の【神聖たる球体(ホーリーシャイン・ボール)】と【テイ・キューピッド】でオーバーレイ! 二体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!」

 

 二体のモンスターを飲み込んだ渦はカオスの色合いをしていた。この色に見覚えがある面々の誰もが息を飲んだ。

 

「太陽神から学んだ予言術で破滅の理論を貴方にプレゼントしてあげるわ!! エクシーズ召喚! 実現しなさい、【No.45 滅亡の予言者 クランブル・ロゴス】(エクシーズ・効果モンスター/ランク2/地属性/アンデット族/攻2200/守 0)!!」

 

 墓場の霧(グレイブミスト)がオーバーレイ・ネットワークの渦から吹き出し、冷気が対戦者である万丈目の頬を叩く。蹄の音がカンカンと遮断器のように響いてくるなか、まず霧から現れたのは突き出た指であった。その指は真っ直ぐに対戦者を捉えており、万丈目は不愉快さに眉間に皺を寄せる。次第に霧は晴れていくが、全身が現れても尚、黒き半人半馬の賢者こと【No.45 滅亡の予言者 クランブル・ロゴス】の指先は万丈目(ターゲット)を差したままだった――まるで破滅の予言を言い当てるかのように。

 

「ナンバーズ!! アイツのせいで小鳥が……っ!」

 

 今にも飛び掛からん勢いで遊馬が叫ぶ。本当は自身の手で彼女を救いたいのだろう。それに対して、万丈目は若干のばつの悪さを覚えたが、今はそれどころではない、と首を振った。いや、本当にそれどころではないのだ。なんたって、小鳥のフィールドには攻撃力2700の【マスター・ヒュペリオン】、攻撃力2200の【No.45 滅亡の予言者 クランブル・ロゴス】、攻撃力1500しかないが二回攻撃ができる【ダイガスタ・フェニクス】がいるのに対して、万丈目のフィールドには攻撃力2200の【影武者狸トークン】と攻撃力1000の【No.64 古狸三太夫】の二体しかいないのだから。

 

「バトルフェイズへ移行するわ! まず攻撃力2700の【マスター・ヒュペリオン】で攻撃力2000しかない【影武者狸トークン】を攻撃!! “ハイペリオンØ(ゼロ)”!!」

 

 【マスター(Master)ヒュペリオン(Hyperion)】が放った炎の円球がトークンを跡形もなく燃やし尽くす。万丈目は700の差額ダメージを受け、彼のライフは2200-700=1500となった。

 

「続いて、攻撃力2200の【No.45 滅亡の予言者 クランブル・ロゴス】で攻撃力1000の【No.64 古狸三太夫】を攻撃!! 【ハーフ・アンブレイク】で戦闘破壊できず、ダメージも半分になるけど、600ダメージを受けなさい!! “バトルディクト”!」

「うぐうっ!!」

 

 【No.45 滅亡の予言者 クランブル・ロゴス】が持っていた予言の書で【No.64 古狸三太夫】に殴り掛かる。しかし、【No.64 古狸三太夫】を包み込むバブルがその攻撃を和らげた。【ハーフ・アンブレイク】の効果により、【No.64 古狸三太夫】は破壊されずに済んだものの、プレイヤーへのダメージは通るため、万丈目のライフは900まで減少した。 

 

「まだよ! 攻撃力1500の【ダイガスタ・フェニクス】で【No.64 古狸三太夫】を攻撃!!」

「うげっ!」

「【ダイガスタ・フェニクス】は自身の効果で二回攻撃が可能になっているから、もう一回攻撃!」

「ぐえっ!!」

 

 【ダイガスタ・フェニクス】が【No.64 古狸三太夫】に体当たりし、背後に回ったところでくるっとターンをして戻りしなに再度体当たりを行う。一体につき1500-1000=500ダメージを負うところを【ハーフ・アンブレイク】の効果により半分の250になるが、二回攻撃を受けたため、結局万丈目は250×2=500のライフダメージを受け、残りは400となった。

 

「万丈目!」

『アニキ!』

「これぐらい、どうってことねぇよ……っ!!」

 

 万丈目は四回もライフダメージを受けて倒れ込んでいたが、遊馬とポンタの悲痛な声を受けて、気合を入れて立ち上がった。

 

(俺のフィールドには、もう攻撃力1000の【No.64 古狸三太夫】しかいねぇが、トークンを呼び出せる効果が後一回残っている! 【No.45 滅亡の予言者 クランブル・ロゴス】の効果は不明だが、まだ俺に勝機は残されているはずだ)

 

 そう計算する万丈目だったが、その淡い希望を、ナンバーズに操られた小鳥が見逃す訳が無かった。

 

「メインフェイズ2へ移行し、私は【No.45 滅亡の予言者 クランブル・ロゴス】の効果を発動。一ターンに一度、このカードのORUを一つ取り除き、このカード以外のフィールドの表側表示のカード一枚を対象として発動可能、このモンスターが表側表示で存在する間、対象の表側表示のカードの効果は無効化される。私はORUの【神聖たる球体(ホーリーシャイン・ボール)】を一つ取り除いて、効果を発動。対象は勿論【No.64 古狸三太夫】! この予言であなたの敗北の未来は決まったわ! “崩壊性理論”!!」

 

 半人半馬の賢者が読み上げた予言が【No.64 古狸三太夫】を縛り上げ、その効果を消失させる。ローソクの火のように淡い希望を簡単に吹き消され、万丈目は声を失った。

 

「このカードの効果の対象としているカードがフィールドに表側表示で存在する限り、お互いに対象のカード及びその同名カードの効果を発動できないわ。最も、ナンバーズは一枚きりしか無いから意味が無いけどね」

 

 補足説明を加えた小鳥がまるでアイドルのようにウインクする。そんなかわいらしい少女のフィールドには攻撃力2700の【マスター・ヒュペリオン】、攻撃力2200の【No.45 滅亡の予言者 クランブル・ロゴス】、攻撃力1500の【ダイガスタ・フェニクス】の三体が並んでおり、彼女の墓地には【神聖たる球体(ホーリーシャイン・ボール)】の二枚のモンスターカードがあるため、第七ターンでも【マスター・ヒュペリオン】の破壊効果を二回発動することが可能だ。

 

 予言された敗北の未来に、万丈目は目眩を覚えそうになる。畜生! と嘆きそうになった瞬間、遊馬の声がそんな弱気を斬り裂いた。

 

「かっとビングだ、万丈目だ! 万丈目の手札まだ二枚あるんだ! 次のターン、ドローすれば三枚になる! 敗北の未来がなんだ! まだ何もやり遂げていないのに諦めるなんて早過ぎるじゃないか!!」

 

『未来に絶望なんてするな。俺達は、まだやり遂げちゃいないじゃないか!!』

 

 遊馬の声が呼び水となり、デュエルアカデミア時代の彼奴の声が蘇る。まるで本当にたった今、言われたかのようにそれは鮮やかに万丈目の頭の中で響き渡った。

 

(そうだな、弱気になっている場合では無い。それにしても、まさか遊馬(この世界のお前)に言われるとは。だが、一つ言わせてもらうぜ、十代)

 

「俺の名は万丈目さん、だ!」

 

 そう言って万丈目が振り返ると、十代と重なった遊馬が嬉しそうに笑った。重なり過ぎて、どっちがどっちだが分からなくなるぐらいだった。

 

「私の手札は0枚だから、もう伏せれるカードは無いわ。私はこれでターンエンドよ。敗北の予言に逆らう(すべ)なんて、もう何処にも無いんだから」

「俺様の未来を勝手に決めないでもらおうか! 万丈目準の未来を決めるのは、この俺だけなのだからな!!」

 

 小鳥のターンエンド宣言に、万丈目はニ枚の手札を力強く掴みながら言い返す。そして復活の証である黒コートの裾を翻しながら、万丈目は万丈目準らしく不遜にも大胆にもこう言ったのだった。

 

「さぁ、ラストターンに入ろうか」

 

 

 

☆第5ターン目エンド

観月小鳥

ライフ1500

手札0枚

・フィールド

神の居城−ヴァルハラ

天空の聖域

マスター・ヒュペリオン

No.45 滅亡の予言者 クランブル・ロゴス

ダイガスタ・フェニクス

・墓地

ヘカテリス

神罰

馬の骨の対価

神聖たる球体(ホーリーシャイン・ボール)✕2枚

・除外

大天使クリスティア

ヘカテリス

創造の代行者ヴィーナス

 

 

 

★第6ターン目

万丈目準

ライフ400

手札2枚+1枚

・フィールド

No.64 古狸三太夫(効果無効化)

・墓地

おジャマジック

スナイプストーカー

次元幽閉

おジャマ・イエロー

おジャマ・ブラック

神騎セイントレア

おジャマ・レッド

 

 

 

『効果を無効化されたオイラなんて、完全に湿って、美味しくなくなった海苔と一緒だポン〜!』

「ええい、タヌキめ! 理由(わけ)の分からん例えをしながら嘆くな!」

 

 【No.45 滅亡の予言者 クランブル・ロゴス】によって効果無効化された【No.64 古狸三太夫】ことポンタが滂沱の涙を流しながら嘆き悲しんでいる。折角やる気を取り戻したのに水を差された万丈目が頭を掻いていると「ごめんポン」とポンタが謝ってきた。

 

『アニキ。オイラ、役に立たなくてごめんポン』

「調子が狂うようなこと言うな。いつもの面の皮の厚さを感じさせる発言はどうした?」

『どっちかと言うと、面の皮が厚いのはアニキの方だポン』

「なんだって!?」

 

 ぎゃあぎゃあ騒いでいた万丈目とポンタだったが、万丈目はコホンとわざとらしく咳をした。

 

「とにかく! この万丈目準が貴様とした約束を破る訳がなかろう! ただ俺は(すべ)てを――手札どころか、フィールドも墓地もエクストラデッキも運さえも、ありとあらゆるものを使って勝ちに行くだけだ!」

 

 最後まで見捨てない、手放さないという約束を振り翳し、ぴしっと伸ばした指先を万丈目はデッキトップに添えた。彼の覚悟を受け、(みかど)の鍵が閃光を(またた)かせる。遊馬もポンタもドキドキしながら見守るなか、アストラルは冷静に彼が如何にして勝つのか、考えていた。

 

(此処で小鳥を倒さなくては、第七ターン目に【マスター・ヒュペリオン】の効果で丸裸にされるのは必定の未来だ。その未来を覆すためにも是が非でもこのターンで小鳥のライフをゼロにしなくてはならない)

 

 遊馬と万丈目のデュエル風景をアストラルは思い返す。

 

(おジャマやランク2のエクシーズは総じて攻撃力が低い。そのためか、万丈目は幾つかの攻撃力アップのカードを入れている。もし彼が攻めるとしたら、小鳥のフィールドで一番低い攻撃力1500の【ダイガスタ・フェニクス】だろう)

 

 だが、とアストラルは続けた。

 

(万丈目のフィールドには効果を無効化された、攻撃力1000の【No.64 古狸三太夫】しかいない。小鳥のライフは残り1500だ。攻撃力アップして倒そうとするなら、(1000+x)-1500=1500となり、x=2000も攻撃力アップする必要が出てくる。それは些か難しくないだろうか? 以前、遊馬とのデュエルで彼はカードをたくさん使って攻撃力をアップさせていたが、今の彼の手札は三枚。ランク2のモンスターエクシーズを呼んだとしても厳しい場面だ。さて、いったい彼はどうやって勝つ気なのか。異世界のタクティクスと勝負師の魂を見せてもらうぞ、万丈目)

 

「第六ターン目、ドロー!!」

 

 アストラルの思惑なんていざ知らず、万丈目がラストターンのドローを行う。これからの行動を左右するドローを勢い良く終えた万丈目はしかとその引いたカードを視線を落とした。そして幾つにも広がる展開へ思考を巡回させると、覚悟したかのように次の台詞を吐いた。

 

「まずは“運”、か」

 

 万丈目は三枚になった手札からドローしたカードを掲げて発動させた。

 

「通常魔法【手札抹殺】を発動! 手札があるプレイヤーは、その手札を全て捨てる。その後、それぞれ自身が捨てた枚数分デッキからドローする。小鳥ちゃんの手札は0枚だから、この効果が適用されるのは俺様だけだ。俺は残りの手札二枚全てを墓地に捨て、デッキから二枚ドローする!」

 

 これにより、万丈目の手札が改めてニ枚になる。万丈目は新たにデッキからドローしたニ枚のカードを見て、目を(しばたた)かせた。それから小鳥のフィールドで一番攻撃力が低い【ダイガスタ・フェニクス】を見て、自身の墓地とエクストラデッキを確認して(だく)と頷いた。果たして“運”はどう彼に味方したのだろうか。それは手札を見た万丈目にしか分からない。

 

「俺は手札から【森の聖獣 キティテール】(効果モンスター/星2/地属性/獣族/攻 200/守 200)を通常召喚する」

 

 万丈目が慎重に――まるで順序を間違えたら即終わりになるかぐらいの慎重さで、額に赤と緑の宝石飾りをそれぞれあしらった二匹組の(にゃんにゃん)を通常召喚した。気色悪いおジャマばかり使う万丈目にしては随分とかわいらしいモンスターの登場だ。思わず遊馬が「万丈目もこんなかわいいモンスターカードを持っているんだなぁ」と零してしまう一方、猫が苦手なアストラルは思いっきり顔を引き攣らせていた。

 

「このカードが召喚・特殊召喚した場合、自分の墓地の獣族・獣戦士族・鳥獣族・昆虫族・植物族モンスター一体を対象として発動可能、元々の種族がそのモンスターと同じとなるモンスター一体をデッキから墓地へ送る。俺は墓地の【おジャマ・イエロー】を選択して、同じ獣族の【おジャマ・グリーン】をデッキから墓地に送るぜ」

 

 万丈目のデッキには通常おジャマが各色三枚ずつ入っている。それを利用して、万丈目は更におジャマ一体を墓地へ送った。彼が何をしようとしているのか、さっぱり分からないポンタはドキドキを通り越してハラハラするあまり、弱冠青褪めてさえいる。

 

「俺は手札の最後の一枚、通常魔法【エアーズロック・サンライズ】を発動。このカード名のカードは一ターンに一枚しか発動できないが、どうせラストターンになるのだから気にする必要はなし。自分の墓地の獣族モンスター1体を対象として発動可能、その獣族モンスターを特殊召喚する。俺が墓地から特殊召喚するのは【おジャマ・イエロー】だ。さぁ、エースモンスターの復活だ!」

 

 デュエルアカデミアで耳にしたことがある、元の世界への郷愁を感じさせるカードが発動される。聖地と呼ばれる大岩から上がった朝日が暗い墓地を照らし出し、万丈目のフィールドに【おジャマ・イエロー】を黄泉(よみ)(がえ)らせた。

 

「この【エアーズロック・サンライズ】は単に獣族モンスターを蘇らせるだけの魔法カードではない。相手フィールドに表側表示モンスターが存在する場合、それらのモンスターの攻撃力はターン終了時まで、自分の墓地の獣族・鳥獣族・植物族モンスターの数✕200ダウンさせるオマケ付きだ」

 

 キラキラとした日差しを受け、小鳥のフィールドにいるモンスターたちの攻撃力が一気に1000ポイントもダウンする。その結果、【マスター・ヒュペリオン】の攻撃力2700から1700へ、【No.45 滅亡の予言者 クランブル・ロゴス】の攻撃力2200から1200へ、【ダイガスタ・フェニクス】の攻撃力1500から500まで下がってしまった。

 

「待って! 貴方の墓地には【神騎セイントレア】のORUとなった①【おジャマ・イエロー】と②【おジャマ・レッド】、加えて【No.64 古狸三太夫】で使用した③【おジャマ・ブラック】、そして【森の聖獣 キティテール】の効果で送った④【おジャマ・グリーン】により、墓地の獣族は四枚しかいないはずだわ! 更に【おジャマ・イエロー】が蘇ったから、三枚✕200=600ポイントダウンになるはずなのに、どうして1000ポイントダウンも!? ま、まさか貴方がこのターンのはじめに【手札抹殺】で捨てたのは……っ!!」

「かねがね、君の思ったとおりだよ、子兎ちゃん」

 

 驚く小鳥に対して、今度は万丈目がウインクする番だった。

 

「俺が【手札抹殺】で捨てたのは【子狸ぽんぽこ】(効果モンスター/星2/地属性/獣族/攻 800/守 0)と【子狸たんたん】(効果モンスター/星2/地属性/獣族/攻 0/守 800)の二枚の獣族モンスターだ。召喚しても、次のターンで【マスター・ヒュペリオン】で破壊されるのがオチだから、思い切って【手札抹殺】してみたが、良いことあるもんだな」

 

(むしろ、守りの姿勢だったら絶対に切り拓けなかったというべきか。防御ではなく、一か八かの攻勢に出れたのは、やはり“お前”のおかげなのだろう)

 

 したり顔で小鳥に語る万丈目だったが、内心は冷や汗だらだらであった。

 

 確かに【子狸ぽんぽこ】と【子狸たんたん】のどちらかを使えば、次のターン、耐え忍ぶ道を取れたかもしれない。だが、それではいずれジリ貧になると万丈目自身も気付いていた。色々と考えた挙げ句、手札三枚という選択肢から運任せの【手札抹殺】を選べたのは、遊馬の声により万丈目の記憶の底から蘇った十代の言葉が背中を押したからだろう。今は遠い場所――次元を幾つも超えた先にいる好敵手に想いを馳せながら、万丈目は吼えた。

 

「“運”が、“墓地”が、“手札”が俺に味方した! 今度は“エクストラデッキ”を信じて突き進むだけよ!」

 

 勢い付いた万丈目が号令を出した。

 

「レベル2の【森の聖獣 キティテール】と【おジャマ・イエロー】でオーバーレイ! 二体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築! エクシーズ召喚!! 新たな絆から新たな可能性を紡ぎ出せ! 出ておいで、海の子猫ちゃん! 【キャット・シャーク】(エクシーズ・効果モンスター/ランク2/水属性/獣族/攻 500/守 500)!!」

 

 にゃああぁぁん!! そう鳴きながら、小さなクリオネたちと共にエクシーズの渦から飛び出してきたのは猫と鮫が合体したようなモンスターだった。またもや苦手な猫が現れたことにアストラルは飛び退いて遊馬の背中に隠れ、当の遊馬というと「シャーク……鮫 ?」と疑問を抱いていた。

 

 遊馬は一度、万丈目のデッキを見たことがあった。大怪我をした万丈目を見付け、救急で彼が病院に担ぎ込まれたときのことだ。その時見たデッキには【おジャマ・イエロー】たちが入っており、また厳しい顔をした【アームド・ドラゴン】等のカッコいいモンスターが並んでいた。万丈目はあれからこの世界で戦えるようデッキを改造していったようだが、では、デッキに投入した新しいカードを渡したのは誰だろうか? 無論、遊馬やナンバーズクラブの面々、明里や鉄子も万丈目に援助している。だが、彼・彼女ら以外にも万丈目をデュエル面で手助けしている人物がいるのではないのだろうか――例えば、鮫をデッキテーマにしている神代凌牙とか。遊馬の前で万丈目は凌牙のことを話題に出さなかったし、凌牙も万丈目のことを話題に出さなかった。

 

(あの【キャット・シャーク】はきっとシャークが万丈目にあげたものだ。それだけじゃない、多分【森の聖獣 キティテール】も。でも、なんで万丈目もシャークも二人が友達同士であることを俺に教えてくれなかったんだ? 言うのを忘れていた? それとも、俺には言えない秘密を二人で共有しているとか?)

 

 遊馬の眉間にらしくもない皺が寄る。しかし、目の前のデュエルに誰もが夢中になっている今、それに気付く者は誰一人いなかった。

 

「こちらのモンスターは攻撃力1000ポイントダウンしているのに、攻撃力500のモンスターエクシーズを召喚するなんて、折角のチャンスを棒に振ったわね!」

「それはどうかな?」

 

 (いぶか)しむ遊馬に気付かないまま、デュエルは進んでいく。【キャット・シャーク】のステータスを見た小鳥が嗤っていると、万丈目はお約束の台詞を口にした。

 

「【キャット・シャーク】の効果発動! 一ターンに一度、このカードのORUを一つ取り除き、自分フィールドのランク4以下のXモンスター一体を対象として発動可能、そのモンスターの攻撃力・守備力をターン終了時まで元々の数値の倍にする!」

「なんですって!」

「言ったろ? 俺は総てを――手札どころか、フィールドも墓地もエクストラデッキも運さえも、ありとあらゆるものを使って勝ちに行くってな。最後に活用するのは“フィールド”にいる【No.64 古狸三太夫】さ」

 

 急な展開で呆けるポンタに万丈目はニィと笑って呼び掛ける。

 

「ちなみに俺は完全に湿気った海苔でも食べられる派だぜ」

『ア、アニキ! オイラのことをそこまで――』

「泣いている暇は無いぞ。このデュエルの総仕上げに行くんだからな! 【キャット・シャーク】、“スプラッシュ・エール・アゲイン”!」

 

 万丈目の掛け声に併せて【キャット・シャーク】がORUを一つ飲み込む。短い(ひれ)にも似た前足をパチパチと鳴らして起こした水飛沫(スプラッシュ)と共にエールを飛ばすと【No.64 古狸三太夫】の攻撃力が1000から2000へアップした。ポンタとの約束を守って勝利へ導き、かつ炭酸のように弾ける水飛沫の向こうで笑う万丈目に、ナンバーズの精霊は一瞬だけ目を奪われた。

 

「バトルフェイズだ! 攻撃力2000の【No.64 古狸三太夫】で攻撃力500の【ダイガスタ・フェニクス】を攻撃! “薙刀一文字斬り”!!」

「きゃあーっ!!」

 

 【エアーズロック・サンライズ】の効果で攻撃力1000ポイントダウンした【ダイガスタ・フェニクス】を【No.64 古狸三太夫】が薙刀で斬り伏せる。【ダイガスタ・フェニクス】の破壊とともに小鳥は1500ダメージを受け、彼女のライフは0になった。

 

 万丈目の勝利だった。

 

「こ、小鳥!!」

 

 ナンバーズが賭けられたデュエルダメージを受け、倒れ込む幼馴染を遊馬がすっ飛んで支えに行く。その時、小鳥のデュエルディスクから外れた一枚のカードが万丈目の足元まで飛んできた。それは【No.45 滅亡の予言者 クランブル・ロゴス】のカードだった。

 

(三枚目のナンバーズ、ゲットだぜ)

 

 万丈目はカードを拾い上げ、ふぅと息を吐いた。Dゲイザーを外し、デュエルディスク状態も解除する。緊張の連続で凝った肩を腕ごとぐるぐる回しながら、万丈目は「もうひと仕事しなくちゃな、子兎ちゃん」と呟いた。

 

「小鳥、大丈夫か? 小鳥!!」

「ううん……」

 

 一方、遊馬が倒れ込んだ小鳥を抱き込みながら懸命に声を掛けていた。そのおかげもあってか、幼馴染の少女の瞼が開いていく。

 

「あれ、私……?」

「お前、ナンバーズに操られていたんだよ! 万丈目がデュエルしてナンバーズを成敗したんだけど、小鳥が無事で良かったぜ!」

 

 小鳥に涙ぐみながら告げる遊馬を見て、万丈目は「どう見ても相思相愛だろ。俺も幼馴染の優しい女の子、欲しかったぜ」と小声で無い物ねだりをしている。そんな万丈目を見たポンタは、デュエル中の彼に一瞬でも目を奪われたことに対して自己嫌悪に陥っていた。

 

「……たい」

「痛い? ナンバーズが賭けられたデュエルのダメージはすっげぇ大きくなるから、それで――」

「……食べたいっ!」

「へ?!」

「世界一甘いと言われる甘糖人参を食べたいのーっ!!」

 

 遊馬の腕の中にいた小鳥が絶叫する。そして、そのまま駆け出そうとするものだから遊馬は慌てて抑え付けた。

 

「なんだよ、これ!? ナンバーズを取ったから収まるんじゃなかったのか!? ア、アストラル!!」

『私にも分からない。ナンバーズは万丈目が回収していた。いったい何が彼女に起きて――?』

「おっと、失礼するぜ」

 

 遊馬と小鳥とアストラルの間に万丈目はひょいっと顔を覗かせると、彼女のデッキから一枚のカードを抜き取った。すると途端に小鳥はトランス状態から開放され、先程までの奇行が嘘のように治まり、いつもの小鳥に戻った。

 

「ゆ、遊馬? なにやってるの? WDCはどうしたの? もう始まっでいるはずじゃあ……?」

「やっと小鳥が元に戻った〜」

「え? え? 何? 何が起きたの?」

『万丈目、君は何を?』

 

 安堵のあまり、へなへなと遊馬が座り込む。正気に戻り、状況が飲み込めない小鳥は目をキョロキョロと動かしている。あまりにも急に治まったので、アストラルが驚きを隠せないまま、万丈目を見た。それに対して、万丈目はカッコ付けにカッコ付けて答えた。

 

「原因はカードの精霊さ」

 

 万丈目が先程抜き取ったカードを三人に見せ付ける。それは通常モンスター【バニーラ】(通常モンスター/星1/地属性/獣族/攻 150/守2050)だった。モフモフとした白い毛並み、垂れ下がった赤いお目々、長いお耳の子兎ちゃんの姿をしたカードの精霊を見つつ、余った片手で帝の鍵を揺らしながら、万丈目は話し続けた。

 

「恐らくナンバーズの影響を受けて、カードの精霊化及び実体化しちまったんだろ。人参を大好物だから人参を食べたさのあまり、小鳥ちゃんに影響を及ぼしたっぽいな。小鳥ちゃんのお母さんが家中の人参が無くなったって言っていたし、さっきも野菜ばかり入った籠から人参だけ選り好みして食べていたし、十中八九当たりだろう。それにしてもナンバーズにとり憑かれたうえにカードの精霊の影響まで受けるとは、な。バニーラ(コイツ)は俺が預かるから、もう気にしなくていいぜ。それにしても皇の鍵と帝の鍵って、ナンバーズ関係だけでなく、カードの精霊まで視えるようにしてくれるんだな」

 

 そう言い切った万丈目が遊馬たちに視線を向けると、彼・彼女らは目を丸くしていた。なにかしちまったか、俺? と万丈目は嫌な予感を覚える。カードの精霊のバニーラがふんふん鼻を鳴らしているなか、沈黙を破ったのは遊馬だった。

 

「万丈目、何が見えているんだ?」

「え……?」

 

 その瞬間、万丈目の表情が硬直した。

 

 万丈目は錆び付いて固まった関節を動かすようにぎこちない動作でカードの精霊であるバニーラを見て、それから遊馬たちを見た。遊馬たちの視線はバニーラを捉えていなかった。アストラルでさえも捉えられていなかった。だが、ナンバーズの精霊であるポンタには視えているようで「オイラとアニキだけには視えてる……?」と呟いている。遊馬と小鳥とアストラルには視えておらず、万丈目とポンタにしか視えていないカードの精霊。その事実を認めた瞬間、万丈目の顔が見るからに青褪めていく。

 

 彼は何も言わずに其処から逃げ出した。

 

「あ、万丈目! 待って――ぶふぇっ!?」

 

 慌てて遊馬が万丈目を追い掛けようとしたが何処からともなく――後にWDCにおける遊馬の初めての対戦相手となる国立カケルが蹴り飛ばした――カード柄のサッカーボールが彼の顔面に激突したため、それは叶わなかった。

 

 遊馬!? と彼を心配する小鳥とアストラルの声を背に万丈目は走り去っていく。付いてくるポンタの声も聞き取れないぐらいに万丈目の頭の中は混乱し、疑問で溢れていた。

 

(小鳥ちゃんは元から()えない側だ。でも、遊馬とアストラルは、ナンバーズ関係なら視ることが出来ていた。遊馬は皇の鍵があるから、アストラルはそもそもナンバーズが彼奴の記憶の欠片だから、視えていたのだろう。俺も俺がナンバーズ関係を視ることが出来るのは、皇の鍵から分離して生まれた帝の鍵があるから視えるのだと思っていた。だが、そうではなかった)

 

 走りながら疑問点を並べていく。デュエルの勝利による興奮はとっくのとうに過ぎ去っており、今はただひたすらに息が切れて、喉が痛い。ブルブルと自身の手が震えるのは、慣れていない運動をしたからだけではないことぐらい、万丈目にも分かりきっていた。

 

(皇の鍵はナンバーズ関係を視れるように出来るだけなのだ! そして、アストラルもナンバーズ関係しか視ることが出来ない。タヌキはナンバーズの精霊であり、カードの精霊でもあるから同じカードの精霊であるバニーラを視ることが出来た。ならば、俺は? どうして俺はカードの精霊が視えた? 皇の鍵じゃあ視えなかったんだ、ならば俺が視える理由は帝の鍵では無い)

 

 あちらこちらで熾烈なデュエルが繰り広げられているハートランドシティを万丈目は駆け抜けていく。流れ落ちる汗を拭うことすらせずに万丈目は結論を出した。

 

(俺はカードの精霊が視える能力を失っていなかったのだ!)

 

 包帯を巻いた左の薬指でデッキケースを擦る。

 

(この世界に来た時、俺のデッキに、精霊が宿っているカードは彼奴等しかいなかった。彼奴等が視えなかったから、俺はカードの精霊を視る力を失ったと思い込んでいた。だが、そうではなかった。彼奴等――カードの精霊であるおジャマたちが三体ともいなくなっていただけなのだ! 何故、いなくなった!? 依代(よりしろ)となるカードは今俺の手元にあるのに、どうして!? いったい彼奴等は何処へ行ったんだ!?)

 

 ショート寸前の思考回路を抱えたまま、万丈目は無茶苦茶に我夢者羅(がむしゃら)に異世界の街を彷徨う。

 

 今はもう何処でもいいから一人になりたかった。

 

 

 

つづく




次回は「DOKIDOKI★野菜デスマッチ!」。
デュエル☆スタンバイ!
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