【遊馬と万丈目で】 YU-JO!【時空を超えた絆】   作:千葉 仁史

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出産・育児が控えているため、連載はストップします。

此処まで読んでくださり、ありがとうございました。

ちなみに計算をミスったのは万丈目ではなく、私です。


第11節 ドキ☆ドキ野菜デスマッチ!★ 後編

☆5ターン目

万丈目

ライフ1200

手札0+1枚

 

フィールド

おジャマ・カントリー

 

墓地

おジャマ・ブルー

ディメンションガーディアン

融合解除

融合

No.64 古狸三太夫

No.96 ブラック・ミスト

素早いモモンガ

リミット・リボーン

おジャマ・イエロー

おジャマ・ブラック

おジャマ・グリーン

素早いビーバー

 

 

「第五ターン目、あなたの番ですよ」

 

 審判を務めるボランティアスタッフの青年に促されても、なかなか万丈目は動き出すことが出来なかった。今の盤面が声に出さずとも最悪の最悪ということを万丈目が理解していたからだ。相手フィールドには攻撃力2000超えのモンスターが三体並び、万丈目のフィールドには一体もいないうえに、手札もドローしたところで一枚しか無い。そのたった一枚で何が出来ると言うのだろうか。

 

 今思い出すのはダークネスの悪夢のことだ。何回ドローしても“勝てないカード”を引かされ、敗北を繰り返す文字通りの悪夢。それがエンドレステープのように万丈目の脳裏を過ぎり、次に引くカードがその悪夢の続きのようにしか思えない。

 

(WDC二回戦目で俺は負けるのか)

 

 きゅっと唇を噛むと同時に、左の拳も握り込む。チリチリと帝の鍵が光を零している。包帯と皮膚の擦れにより、また別の悪夢が呼び起こされそうとした瞬間、引き攣った万丈目の頬にちゅっと柔らかいものが触れた、ような気がした。

 

「へ?」

 

 頬への不意打ちキッスで現実に呼び戻される。思わず真隣を見ると、万丈目の肩に――触れられないから、乗ったフリをしている――カードの精霊こと、バニーラがいた。あまりにも近過ぎて目の焦点が合わず、バニーラがふんふんと鼻を動かす度にひげが万丈目の頬に触れたような気がして擽ったくて仕方がない。何を考えているのかさっぱり分からない、まんまるでつぶらな瞳を向けるバニーラを見ていたら、万丈目は「ふはっ」と笑いたくなってきた。

 

(思考に囚われ過ぎだ、万丈目準! この瞬間、己の中に呼び起こすべきは『過去の悪夢の恐怖』でも『未来への悲観』でも無い! 『今、カードを引く勇気』だけだ!)

 

 気持ちを切り替えるべく、大きく息を吸い込む。そして、己の――いや、皆の想いで出来たデッキのカードトップに指を添えた。添えた途端、万丈目の脳裏に過ったのはこの世界で巡り会えた少年こと九十九遊馬に重なった遊城十代の姿だった。

 

(また“お前”とデュエルするためにも、俺はまだ負ける訳にはいかない!)

 

「第五ターン目、ドロー!!」

 

 これが俺のブレイビングだ! と言わんばかりに万丈目がしっかりデッキトップから一枚ドローする。その姿に誰かの喉がゴクリと鳴った。もしかすると、そらは緊張し過ぎた万丈目自身のものだったかもしれない。カードをピッとひっくり返して、一枚きりの手札見た万丈目は一瞬ぽかんとした後、すぐにいつもの凶悪面になった。

 

「いくぜ! 俺は通常魔法『龍の鏡(ドラゴンズ・ミラー)』を発動!! 自分のフィールド・墓地から、ドラゴン族の融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを除外し、その融合モンスター一体をEX(エクストラ)デッキから融合召喚する!! 俺は墓地から【おジャマ・ブラック】【おジャマ・グリーン】を除外するぜ!」

「おぬしのデッキはおジャマデッキ。おジャマの融合モンスターでドラゴン族はいないはず!!」

「勘違いするな、俺様が融合召喚するのは『おジャマ』モンスターじゃない」

『え、どういうことポン?』

 

 首を傾げる矢最豊作とポンタを余所に、万丈目がはっきりと言い切る。そんななか、ボランティアのスタッフは黙(だんま)りを決め込んでいた。万丈目が何を融合召喚するのか分かっているからだ。

 

「さぁ、今こそ現れるときだ! 俺の新たなエースモンスター【始祖竜(しそりゅう)ワイアーム】(融合・効果モンスター/星9/闇属性/ドラゴン族/攻2700/守2000/通常モンスター×2)!!」

 

 ビビットカラーの融合召喚の渦を越え、何層にも重なった旧き地層の渓谷を轟かせるような雄叫びをあげなから赤眼の竜が攻撃表示で万丈目のフィールドに現れる。予想していた通りのモンスターの登場に、ボランティアスタッフの青年は誰にも気付かれないようにニヤリと確かに笑った。

 

「な、なんじゃあ! このドラゴンは!?」

「コイツの名は【始祖竜ワイアーム】、通常モンスター二体の融合で召喚できるモンスターだ。あんな雑魚共からこんな高攻撃力のモンスターが出て、さぞ驚いたことだろうが、早速バトルフェイズだ! 【始祖竜ワイアーム】で【ギガプラント】を攻撃!!」

「なぬっ!? 儂の【ギガプラント】が!!」

 

 驚く矢最を他所に、万丈目の命令を受けた【始祖竜ワイアーム】は空中を旋回してから、攻撃対象を見付けると勢い良く降下し、地面に根を張っていたように立ち尽くしていた【ギガプラント】を破壊した。これにより、2700-2400=300のダメージを受けた矢最のライフは2000になった。

 

「バトルフェイズ終了。そして俺の手札は無いため、これでターンエンドだ」

 

 ふぅ、と万丈目が息を吐く。たった一匹の守護龍をフィールドに残して、万丈目のターンは終了したのだった。

 

 

☆5ターン目エンド

万丈目

ライフ1200

手札0枚

 

フィールド

おジャマ・カントリー

始祖竜ワイアーム

 

墓地

おジャマ・ブルー

ディメンションガーディアン

融合解除

融合

No.64 古狸三太夫

No.96 ブラック・ミスト

素早いモモンガ

リミット・リボーン

おジャマ・イエロー

素早いビーバー

龍の鏡

 

除外

おジャマ・ブラック

おジャマ・グリーン

 

 

★6ターン目

矢最

ライフ2000

手札1枚【ギガプラント】+1枚

 

フィールド

人造人間-サイコ・レイヤー

リミット・リボーン

伏せカード1枚

 

墓地

イービル・ソーン3枚

桜姫タレイア

茨の壁

超栄養太陽

スーペルヴィス

ローンファイア・ブロッサム2枚

ギガプラント2枚

 

除外

魔天使ローズ・ソーサラー

 

 

「まさか、あの瞬間にディスティニードローを決めるとは思いもしなかったわい。じゃが、たった一体のモンスターでこの儂を止められるとは思わん方が良いぞ。第六ターン目、ドローじゃ!」

 

 矢最の手札が二枚となる。そのうちの一枚は【ギガプラント】だ。果たして、このターンで引いたカードはいったい万丈目にどのような絶望を与えるのだろうか。

 

「儂はフィールドに伏せていた永続罠【ダブル・フッキング】を発動! このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動不可じゃが、気にすることは無い! このカード効果は手札を一枚捨て、自分の墓地のモンスターを二体まで対象としてこのカードを発動可能、そのモンスターを特殊召喚する! 儂が手札から墓地に捨てるカードは【ギガプラント】じゃ。そして、墓地から【ギガプラント】と【桜姫(おうひ)タレイア】を特殊召喚じゃ!」

 

「ちっ! また現れやがったな!」

 

 幾度も無く登場するモンスターに万丈目が舌打ちをする。そして、これから行われるであろう見慣れたコンボに辟易とした。

 

「まだ通常召喚権は使われてないからのう、その権限を使って儂はフィールドにいる【ギガプラント】を再召喚する! そして、再召喚された【ギガプラント】の効果発動、デッキから【ローンファイア・ブロッサム】を儂のフィールドに特殊召喚するわい! そして、儂は【ローンファイア・ブロッサム】をリリースして、デッキから二体目の【桜姫タレイア】を特殊召喚する!!」

 

 【ギガプラント】が【ローンファイア・ブロッサム】を呼び、【ローンファイア・ブロッサム】が枯れることで【桜姫タレイア】が花開く。まるで春夏秋冬のような美しい、そして万丈目には閉口したくなるような流れであった。トドメに【桜姫タレイア】自身の効果により、フィールドにいる植物族の枚数分だけ【桜姫タレイア】の攻撃力が上がるので、万丈目は更にうんざりした気分に陥る。こうして、矢最のフィールドには攻撃力2400の【人造人間-サイコ・レイヤー】、攻撃力2400の【ギガプラント】、攻撃力3100の【桜姫タレイア】二体の、計四体のモンスターが並んだのだった。

 

(【桜姫タレイア】の攻撃力は3100。対して【始祖竜ワイアーム】の攻撃力は2700しか無い。【桜姫タレイア】で【始祖竜ワイアーム】を倒して、相手のフィールドを空にしたら、残りの三体の儂のモンスターで総攻撃してジ・エンドじゃ)

 

 勝利を確信した矢最はペロリと自身の唇を舐めると、総攻撃開始の合図を行った。

 

「バトルじゃ! 【桜姫タレイア】で【始祖竜ワイアーム】を攻撃!!」

 

 乱れ桜吹雪が舞い、一気に【始祖竜ワイアーム】を包み込む。この攻撃により、万丈目のライフが3100-2700=400ポイント減り、800ライフポイントになった。

 

「これでおぬしを護るモンスターはもうおるまい。このターンで儂の勝ち……」

「それはどうかな」

「なにっ!?」

 

 万丈目の言葉通り、桜の花弁が散った後には【始祖竜ワイアーム】が悠然と佇んでいた。

 

「な、何故じゃ!? どうして戦闘破壊されていないんじゃ!?」

「【始祖竜ワイアーム】の効果だ。このカードはモンスターゾーンに存在する限り、通常モンスター以外のモンスターとの戦闘では破壊されず、このカード以外のモンスターの効果を受けない。まったく、通常モンスター二体による融合モンスターらしい効果だよな」

 

 動揺する矢最に万丈目が淡々と落ち着いて説明する。それを肯定するように【始祖竜ワイアーム】が一発吼えた。

 

「ふぬーっ!! 効果を受け付けないということは【人造人間-サイコ・レイヤー】の効果対象にもならんということでは無いか! ええい、このターンで儂が勝つ予定じゃったのに! くそったれ! ふんぬ! 憤怒(ふんぬ)! こうなれば、もう一体の【桜姫タレイア】で【始祖竜ワイアーム】を攻撃じゃ!」

 

 思惑が外れ、あまりの悔しさに鼻息荒く怒り狂った矢最は攻撃宣言を行い、攻撃力3100の【桜姫タレイア】で攻撃力2700の【始祖竜ワイアーム】をアタックする。これにより、万丈目のライフはとうとう400まで減少した。

 

「面妖なモンスターを出しおってからに!! チクショウ、儂はこれでターンエンドじゃ!!」

 

 このターンで決着をつけられなかったことが余程悔しかったのだろう。歯軋りをしつつ、顔を真っ赤にした矢最は怒りに支配されたまま叩き付けるようにして、ターンエンド宣言を言い放ったのだった。

 

 

★6ターン目エンド

矢最

ライフ2000

手札1枚

 

フィールド

人造人間-サイコ・レイヤー

ギガプラント

桜姫タレイア

桜姫タレイア

リミット・リボーン

ダブル・フッキング

 

墓地

イービル・ソーン3枚

茨の壁

超栄養太陽

スーペルヴィス

ローンファイア・ブロッサム3枚

ギガプラント2枚

 

除外

魔天使ローズ・ソーサラー

 

 

☆7ターン目

万丈目

ライフ400

手札0枚

 

フィールド

おジャマ・カントリー

始祖竜ワイアーム

 

墓地

おジャマ・ブルー

ディメンションガーディアン

融合解除

融合

No.64 古狸三太夫

No.96 ブラック・ミスト

素早いモモンガ

リミット・リボーン

おジャマ・イエロー

素早いビーバー

龍の鏡

 

 

「第七ターン目、俺のターンだ。ドロー」

 

 対戦相手の怒り様に気圧されつつも、万丈目は泰然とした心持ちでドローフェイズに入った。

 前回のターンで万丈目はディスティニードローに成功したが、今なお手札は0枚なので、このターンもまたディスティニードローに成功しなくてはならない。しかしそんな状況の最中でも万丈目は落ち着いていた。勝利の風は己に吹いていると信じていたからだ。そして、引いたカードこと、デュエル前にボランティアスタッフが万丈目にくれたカードが黒髪の彼の背中を更に強く押し出した。

 

「俺はフィールド魔法【おジャマ・カントリー】の効果発動! 今引いたカード【おジャマパーティ】を墓地へ送り、墓地から【おジャマ・イエロー】を特殊召喚する。来い、俺のエースモンスター【おジャマ・イエロー】よ!!」

 

 引いたばかりのカードを墓地に送った代わりに【おジャマ・イエロー】が万丈目のフィールドに現れた。これによりフィールド魔法【おジャマ・カントリー】の効果が発動し、フィールド全てのモンスターの攻守が逆転する。

 

「この瞬間、永続罠【おジャマパーティ】の効果が発動! このカードが墓地へ送られた場合に発動可能、除外されている自分の『おジャマ』モンスターを可能な限り特殊召喚する! 除外エリアから戻ってこい! 【おジャマ・ブラック】(アンド)【おジャマ・グリーン】!!」

 

 第五ターン目の『龍の鏡』の効果により除外されていた二体のおジャマモンスターが万丈目のフィールドに再び登場する。

 

「そして俺は【おジャマ・ブラック】と【おジャマ・グリーン】の二体のレベル2モンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築! エクシーズ召喚!!」

 

 流れるような召喚コンボにポンタが思わず溜め息を吐く。誰も見たことが無い、宇宙の始まりのような渦へ二体のモンスターが引き摺り込まれた結果、一体のエクシーズモンスターが飛び出してきた。

 

「出てこい! 【ガチガチガンテツ】(エクシーズ・効果モンスター/ランク2/地属性/岩石族/攻 500/守1800/レベル2モンスター×2)!!」

 

 巨石の巨人が攻撃表示でエクシーズ召喚されるが、調子に乗った万丈目の台詞はまだまだ止まらない。

 

「【ガチガチガンテツ】の効果発動! このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、自分フィールド上のモンスターの攻撃力・守備力はこのカードのエクシーズ素材の数×200ポイントアップする!! しかも【おジャマ・カントリー】の効果により攻守は逆転。【ガチガチガンテツ】の攻撃力は1800+400=2200となり、【おジャマ・イエロー】の攻撃力は1000+400=1400となる!」

 

 これにより、万丈目のフィールドには【始祖竜ワイアーム】と攻撃力2200まで増えた【ガチガチガンテツ】、同じように攻撃力1400まで増えた【おジャマ・イエロー】が並んだ。

 対して、矢最のフィールドのモンスターは【おジャマ・カントリー】の攻守反転効果により、二体の【桜姫タレイア】の攻撃力は1200+300=1500となり、【人造人間-サイコ・レイヤー】の攻撃力は1500、【ギガプラント】に至っては攻撃力1200となってしまった。

 

「バトルだ! まずは【おジャマ・イエロー】で【ギガプラント】を攻撃!」

 

 攻撃1400の【おジャマ・イエロー】のへろへろパンチにより、攻撃力1200の【ギガプラント】が破壊される。矢最のライフ2000から200が差し引かれ、1800ポイントライフになった挙げ句、矢最のフィールドの永続罠【ダブル・フッキング】が消滅し、一体の【桜姫タレイア】が急に自壊してしまった。

 

「な、な、な……何故、儂の【桜姫タレイア】が急に自滅したんじゃあ!?」

「【ダブル・フッキング】の効果だ。対象のモンスターがフィールドから離れた時にこのカードは破壊され、また、このカードがフィールドから離れた時に対象のモンスターは破壊される。貴様が【ダブル・フッキング】で特殊召喚したのは【ギガプラント】と【桜姫タレイア】だ。【ギガプラント】が破壊されたことで【ダブル・フッキング】は破壊され、その時一緒に特殊召喚された【桜姫タレイア】も破壊されたのさ」

 

(アニキ、そこまで考えて攻撃していたなんて、ううむ、驚きだポン)

 

 当惑する矢最に万丈目が(ねんご)ろ丁寧に説明する。デュエル経験値の高さにポンタは唸り込んでしまった。

 

「まだ俺のバトルフェイズは終わってないぜ。攻撃力2200の【ガチガチガンテツ】で攻撃力1500の【人造人間-サイコ・レイヤー】を攻撃だ!」

「ぬおっ!!」

 

 2200-1500=700のライフダメージを受け、矢最のライフが1800-700=1100となる。残ったのは攻撃力1200の【桜姫タレイア】だけとなった。

 

「【始祖竜ワイアーム】で攻撃力1200の【桜姫タレイア】を攻撃……って、嗚呼!」

 

 攻撃宣言後、万丈目が急に戸惑ったように叫んだ。いったい、どうしたのだろうか。不思議に思ったポンタが万丈目を見ると、彼は真っ青な顔でこう呟いた。

 

「【始祖竜ワイアーム】は効果モンスターの効果を受け付けないから、【ガチガチガンテツ】の効果でパワーアップしないんだった」

『嘘やろ?』

 

 ポンという口癖を付けることすら忘れて、ポンタもそう呟いてしまった。第六ターン目で矢最が目先の勝利に釣られたように、万丈目もまたディスティニードローの二度の成功により気が大きくなり過ぎていたのだ。だが後悔したところでもう遅い。攻撃宣言は既に下されてしまっているのだ。【ガチガチガンテツ】のパワーアップ効果を受けず、また【おジャマ・カントリー】の攻守逆転効果により攻撃力2000まで下がった【始祖竜ワイアーム】が攻撃力1200の【桜姫タレイア】を破壊する。2000-1200=800のライフダメージを受け、矢最のライフは1100-800=300となった。

 

(こ、こんな初歩的なミスを犯すなんて……)

 

 このターンで終わらせられなかった事実、前の世界でデュエルアカデミアを卒業してプロデュエリストにまでなったのにも関わらず犯してしまった失敗に万丈目は頭を抱えたくなった。

 相手のライフは300で、フィールドにモンスターは一切いないが、次の第八ターン目で手札は二枚となり、もし【ローンファイア・ブロッサム】のようにデッキから高攻撃力モンスターを特殊召喚されたら即終了、即ち万丈目の敗北決定だ。

 くらくらする視界をどうにもすることも出来ないまま、万丈目は「ターン終了だ」と力無く宣言するしか無かった。

 

 

☆7ターン目エンド

万丈目

ライフ400

手札0枚

 

フィールド

おジャマ・カントリー

始祖竜ワイアーム

おジャマ・イエロー

ガチガチガンテツ

 

墓地

おジャマ・ブルー

ディメンションガーディアン

融合解除

融合

No.64 古狸三太夫

No.96 ブラック・ミスト

素早いモモンガ

リミット・リボーン

おジャマ・イエロー

素早いビーバー

龍の鏡

おジャマ・パーティ

 

 

★8ターン目

矢最

ライフ300

手札1枚+1枚

 

フィールド

リミット・リボーン

 

墓地

イービル・ソーン3枚

茨の壁

超栄養太陽

スーペルヴィス

ローンファイア・ブロッサム3枚

ギガプラント3枚

人造人間-サイコ・レイヤー

桜姫タレイア2枚

ダブル・フッキング

 

除外

魔天使ローズ・ソーサラー

 

 

「ふははははっ! 第八ターン目、儂のターンじゃな!」

 

 勝利を確信したのか、それとも空元気なのか。何なのか分からない高笑いを矢最があげる。それから矢最は手札の一枚を見下ろし、大きく息を吐いた。万丈目には彼の一挙一動が死刑宣告のように思えた。それなのに、まるで出し渋るようになかなかドローしようとしないものだから、ボランティアスタッフがドローを矢最に促すと、彼は「分かっとるわい」と叫び、もっと大きな声で汗が飛び散る勢いでドロー宣言をした。

 

「ドローじゃ!!」

 

 矢最がカードを一枚ドローする。嗚呼、おしまいだ。後悔に潰されそうになりつつも、それでもと目の前の現実を受け入れようと見開く万丈目の視界に入った光景は想像だにしないものだった。

 

 矢最豊作は己のデッキトップに片手を添えていたのだ。

 

「サレンダーですか?」

 

 審判のボランティアスタッフの青年の言葉に矢最が力無く頷く。理解出来ない現実に万丈目はその場に崩れ落ちそうになるのを堪えていたが、ボランティアスタッフの「このデュエル、万丈目準選手の勝利です」という淡々とした宣言に思わずへたり込んでしまった。

 

「は? え、な、なんで……?」

「儂が第八ターン目で引いたカードは永続罠【デュアル・アブレーション】じゃ。効果は強力じゃが、永続罠故にこのターンで使うことは出来ん。せめて、前のターンで引ければ良かったんじゃが、運命の女神様は儂には微笑まなかったようじゃのう」

「もう一枚の手札は……?」

「【姫葵(ひまり)マリーナ】(効果モンスター/星8/炎属性/植物族/攻2800/守1600】)じゃ。レベル8モンスター故に出そうにも出しようが無かったわい」

 

 力無く笑う矢最だったが、デュエル道具をしまい込み、一度麦藁帽子を脱ぐと、致し方ないように頭を掻いた。

 

「第六ターン目、おぬしのディスティニードローで現れた【始祖竜ワイアーム】を倒せないことに腹を立てたあまり、儂は冷静を欠いておった。もし、あの時、【始祖竜ワイアーム】の効果に目が行き過ぎず、【人造人間-サイコ・レイヤー】の効果で【おジャマ・カントリー】を破壊していれば良かった。反撃の芽を摘み忘れた儂の負けじゃ」

 

 顔を隠すように矢最が麦藁帽子を被り直す。その様子を下から覗き込むようにして見ていた万丈目だったが、何と言って良いか分からなかった。確かに勝負は時の運と言う通り、ディスティニードローは矢最には起きなかった。だが、その通りの言葉を言うのは躊躇われた。今、言うべき言葉はそれでも無く、謙遜でも無いだろう。万丈目は力を込めて立ち上がると、Dゲイザーとデュエルパッドを収納し終えると口を開いた。

 

「貴様は強かった。エクシーズモンスター対策ばかりしていたから、デュアルモンスターを出してくるなんてびっくりしたぜ。正直、負けるかと思った」

 

 今、すべきことはリスペクトだと万丈目は思った。素直に正直にそう告げると、矢最は目を潤ませて万丈目に近付くと「おぬしとデュエルできて良かったわい!!」と感動のあまり力一杯ハグしてきた。デュエルする前のキラーハグと同じ勢い、いや、それ以上の力でハグされる。これではハグというより鯖折りだ。声を出す暇すらなく、潰される万丈目にポンタはおろおろし、バニーラはいつも通りぽけっとしている。ボランティアスタッフの青年が止めなければ、万丈目のデュエリスト人生はきっと此処で終了していたに違いなかった。

 

「し、死ぬかと思った」

「はははっ、大袈裟じゃのう!」

「俺と貴様の体格差を考えろ、体格差を!」

「すまんすまん。では詫びと言ってはなんじゃが、ええものをあげようかのう」

「え!? 良いもの!?」

 

(あ、デジャヴ)

 

 万丈目と矢最のコントにポンタはそう思った。ポンタですら気付くのに、どうして万丈目は気付かないのだろうか。ウキウキする万丈目に矢最は人参がたっぷり入った籠を指さした。

 

「あれら全てをやろう!!」

「要らない」

 

 矢最の提案に万丈目が光の速さで却下した。

 

「世界一甘いと言われる甘糖人参じゃ! こんなええもの、都会であるハートランドじゃあ滅多に手に入るまい。さぁさぁ、遠慮せずに! ナマでも十二分に美味しいぞい!!」

「バカヤロー! 遠慮じゃねぇよ! うわっ、おい、押すな! マジでやめろって!!」

 

 矢最にぐいぐい押され、万丈目は籠へ押し出された。大きな籠いっぱいに入った大嫌いな人参に万丈目の背中に怖気が走る。とうとう万丈目が「ひぃ!」と本格的な悲鳴をあげそうになった瞬間、今まで彼の肩に乗っていたバニーラがぴょこんと籠の中へ飛び降りた。そして、あのぽけっとした面が嘘のように野生動物さながらに目を光らせながら甘党人参を貪り食い始め、あっという間に食べ尽くしてしまった。

 

「この甘党人参は最高品でのう……って、もう食べてしまったのか!?」

「ふふっ、まぁな。これぐらい、ちょちょいのぱぁだぜ」

「なら、おかわりいるか?」

「いや結構だ」

 

 カードの精霊が視えない矢最からしたら万丈目が食べ尽くしたように見えただろう。冷や汗を流しながら返答する万丈目にポンタは『調子の良いアニキだポン』とひっそりと毒づく一方、膨れたお腹を抱えたバニーラは満足気に転がっていた。

 

「矢最豊作さん、万丈目準さんへ他にも渡すものがあるでしょう?」

「おかわりならいらんぞ!!」

「いえ、そうではなくて――」

「おお! これを渡すのを忘れていたわい」

 

 ボランティアスタッフに促され、ポケットを漁っていた矢最は万丈目の手の平に持っていたそれをころんと転がした。

 

「おぬしの勝ちじゃからのう。儂のハートピースを持っていけ」

 

 WDC(ワールド・デュエル・カーニバル)の参加の証であり、集めきれば決勝トーナメントへ道が開かれる夢の欠片を渡され、万丈目は目をぱちくりする。

 

「これがハートピース……」

「WDCでデュエルに勝利するのは初めてでしたか? 負ければ、ハートピースを勝者に渡す決まりとなっていて、すべてのハートピースが無くなった瞬間、参加資格は剥奪されます。ハートピースはパズルのピースのようになっていますので、時には合わない欠片があるかもしれません。デュエルに勝利して幾つもの欠片を集め、三日後までにこのハートの枠内に綺麗に収め切ることができれば、第一予選突破となります」

 

 ボランティアスタッフの青年からの説明をふんふんと聞いていた万丈目だったが、ある事実を思い出して「あ」と微かな悲鳴をあげた。

 

『アニキ、どうしたポン? 嬉しくないのかポン?』

「小鳥ちゃんに勝ったのに、ハートピースを貰うのを忘れてた……」

 

 あの時はカード精霊が視える・見えない云々で混乱した万丈目が逃げるように立ち去ってしまったため、完全に貰いそびれてしまっていたのだ。

 

「今から貰いに行っても間に合うかな」

『アニキ、とりあえず貰いに行った方が良いポン』

 

 ポンタにも言われ、万丈目は取りに行くことに決めた。

 

「ボランティアスタッフさん。一回戦目、デュエルに勝利したのにハートピースを貰い忘れたので取りに行ってきます」

「なんじゃ、一回勝っていたのに貰い忘れておったのか。……まぁ、儂は此処で予選敗退じゃ。おぬしの活躍を楽しみにしてるぞ」

「おう、万丈目サンダーがでかでかと表彰台のてっぺんに乗る様をよーく見ておけよな」

「よし! おぬしが勝ったら、花束代わりに野菜を贈ってやろう」

「いや、それは要らない」

 

 万丈目と矢最のコントのようなやり取りにポンタは密やかに溜め息を吐いた。

 

「えっと……色々と協力してくださって、ありがとうございました」

「きっと貴方はデュエルを重ねることでどんどん強くなっていくことでしょう。そして、いずれ出会うであろう『強敵』にも必ず勝てるはずです。私も貴方の活躍を楽しみにしていますよ、心からね」

「ええ、絶対に優勝してみせますから!」

 

 自分の胸をドンを叩いて、万丈目はボランティアスタッフの青年に誓った。それから万丈目は青年に頭を下げ、矢最に手を振り、その場を後にした。

 

(どんどん強くなる、か。融合モンスターをデッキに組み込んだおかげだな。あのボランティアスタッフさんには本当に感謝をしなくては。そういえば、鉄子さんから別の特殊召喚のカードの束も貰っていたっけ。あのカード群もデッキに投入してみようかな)

 

 様々なことをわくわく考えながら、万丈目はDゲイザーを取り出し、小鳥とコンタクトを取ろうとする。長いコール音の後に繋がった小鳥はいの一番にこう言い放った。

 

『万丈目さん! 助けてください!!』

 

 その瞬間、遊馬の悲鳴と見知らぬ少女の怒声、そして爆発音がDゲイザー越しに万丈目に届いたのだった。

 

 

 

 

「それにしても愉快な男じゃったのう」

 

 万丈目が去った植物園にて、矢最がぽつりと呟く。

 

「うっかりなところもあるが、本当に優勝してしまうかもしれんなぁ。おぬしもそう思うじゃろ?」

 

 矢最がボランティアスタッフの青年に同意を求めるが、彼の姿はもう何処にも無かった。

 

「あの男、ボランティアスタッフと名乗っておったが、WDCにそんなのはおらんはずじゃ。いったい何者だったんじゃ……?」

 

 麦藁帽子越しに頭を掻きながら、矢最は疑問を口にする。このWDCそのものがナンバーズを集めるものとは知らない男にそれ以上のことは分かるはずが無かった。

 

 

 

 

 其処は幾つもある隠れ家の一つだった。顔が売れているため、ファンに追っ掛けられてもすぐに逃げ込めるように契約していたアパートの一室。シャワーの栓を締め、タオルで拭きながら、シャワーを浴びている最中ずっとうるさく鳴り続けていた通信機の通話モードをONにした。

 

『いったい何処にいる?』

「汗をかいたのでシャワーを浴びてた。ハートランドシティの温度調整機能があっても、流石に夏は暑いからな。髪のセットもやり直しだぜ」

『そんなことは聞いていない』

 

 通話先からぴしゃりと返されるが、髪を拭いていた青年は何処吹く風と言わんばかりに櫛を手に取り、ドライヤーを片手で探している。

 

「こそこそ活動する『お兄様』と違って、俺は外で、かつ公衆の面前で活動しますからね。機械に囲まれた冷房の部屋にずっといるのも不健康だと思いますが?」

『……ナンバーズの情報はどうした?』

 

 慇懃無礼な態度で青年は言葉を続けると――通話先には迷惑だろうに――気にも止めずにドライヤーをONにする。

 

「ちゃーんと探して、見つけていますよ。お兄様も、あの(ゼクス)のお守りをしていないで自分の足で探してみたらどうです?」

『あの男は既に十二分に強い。お前も見ただろう。放っておいても何の心配も無い』

 

 青年の嫌味をスルーして、(ゼクス)を褒めるような、それどころか信頼しているかのような通話相手の言動に、青年はドライヤーの音で誤魔化し切れない程の大きさの舌打ちを放った。

 

「おい、(ブイ)の兄貴。アンタがあの余所者を組むなら、俺は(スリー)と組むぜ。せいぜい頑張ってくれよ、俺より年上同士でさ」

『相変わらずの減らず口だな、(フォー)。……今、お前は何を考えている? それに今は私が動く時では無いと何度言えば分かるのだ』

「はいはい、分かってますよ。それじゃあ、俺はハートピースを集めとファンサービスに忙しいので、また今度」

『待て、話はまだ――』

 

 通信機の電源ごとOFFにすると、青年はそれをソファに投げ付けた。ソファには変装用の赤いジャケット一式とWDCの帽子が既に転がっている。それから青年は髪のセットを終えると、いつもの白い礼服に着替えた。

 

(何を考えている、ねぇ。自分の考えを口にしないでおいて、こっちの腹を探ろうなんて、ちゃんちゃらおかしいぜ)

 

 姿見の前に立ち、最終チェックを行う。自分はプロデュエリストなのだ。半端な格好と覚悟で人前に立つことは出来ない。

 

(万丈目準といったか。デュエル面ではやや危なっかしいところがあるが、成長速度は早く、まだまだ強くなりそうだな。ナンバーズも所持していたことだし、思っていた以上に期待できそうだ。トロンが服を贈るぐらい気にするだけはある)

 

 お気に入りのコロンを巻きながら、礼服に折れが無いか、念入りに見渡した。

 

(それにしても、(ゼクス)の奴め。余所者の癖して、俺たちファミリーに入ろうだなんて不愉快極まり無いぜ。隠れてこそこそ動く(ブイ)やトロンもムカつくが、奴はそれ以上だ。何より、俺はあの目が気に食わねぇ。あの何もかも自分は分かっていますというような、全てを見下ろして見下すような瞳が!)

 

 音を立ててコロンの瓶を洗面台に置く。

 

「貴方が一番見下してやまない万丈目。その彼に貴方がデュエルで負けたら、(ゼクス)、貴方はどんな面をするのでしょうねぇ? ……今回、俺が万丈目準に接触し、助言したのはその為だ。貴様が敗北と悔しさで歪む面、特等席で見させてもらうぜ。これが貴様へのファンサービスだ!」

 

 いやしないボランティアスタッフの青年に変装していた(フォー)は大きく高笑いした。

 

 

 

つづく

 

※一旦、此処で終了します。

此処まで読んで下さり、ありがとうございました。

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