【遊馬と万丈目で】 YU-JO!【時空を超えた絆】   作:千葉 仁史

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私事ですが、出産が終わり、育児が始まりました。
いつエタる(更新ストップする)か分かりませんが、頑張って書きます。


第12節 暴走機関車に要注意! 恋する乙女は止まらない!? ★

 突如として、ハートランドシティの波止場近くのアーケード街に爆発音が響き渡った。粉塵が舞い、煙が上がり、それを受けたバニーラがくしゅんと小さく(くしゃみ)をする。

 

「へぇ~、ARヴィジョンのデュエルにしては随分とリアリティーがあるな」

『アニキ、あれは現実ポン。Dゲイザー無しでARヴィジョンが見える訳ないポン』

 

 万丈目のボケにナンバーズの精霊であるポンタのツッコミが光る。

 

「小鳥ちゃんから『助けてください!』っていう電話があって来てみたら、なんだ、あの爆発音は? まさか、あっちに遊馬たちがいるなんてことは無いよな?」

『そのまさかだポン。電話越しで爆発音が聴こえていたから間違いないポン』

「やっぱり、そうだよなぁ。あーあ、今はWDC中だってのに。時間ロスが痛いぜ、全く」

『でも、なんだかんだ言ってもアニキは遊馬を助けに行くポンね』

「フン、年上は年下を守るものなんだよ。それに俺は『今度こそは』って決めているだけさ」

『今度こそって何がポン?』

「気にすんな、こっちの話だ。それにしても遊馬の奴め、次から次へとトラブルを引き起こしやがって!」

 

(いや、トラブルを引き寄せているというべきなのか? ――アイツみたいに)

 

 最後のセンテンスは言葉にせず、心の中で万丈目は思う。それからわざとらしく溜め息を吐き、矢最豊作とのデュエル後に調整したデッキが入ったケースを包帯越しに左の薬指でなぞると、人々が逃げ惑う方向とは逆の方向へ――爆発音がした方へ万丈目は足を向けたのだった。

 

 遊馬は困り果てていた。

 WBCの予選が開始されてから国立カケル・油圧ショーベェと立て続けにデュエルに勝利し、着々とハートピースを集めていたところ、跳ねっ返りの赤髪の少女が空飛ぶ大砲こと、フライングランチャーでいきなり狙い撃ってきたのだ。咄嗟に小鳥を庇った遊馬は彼女を連れて逃げ惑うが、赤髪の少女は何処までもしつこく追いかけ回してきた。遊園地を、下水道を、展望台タワー内を逃げて逃げて逃げまくり、とうとう波止場近くのアーケード街を抜けようとした瞬間、お店の影から伸びてきた手によって、突如として遊馬と小鳥は建物の隙間へと引き摺り込まれてしまった。

 

「おわっ! もう、今度は何なんだよ!」

「暴れるな、遊馬。俺だ、万丈目だ」

「万丈目!?」

「さん、だ! 言っておくが、貴様の為では無いからな! 小鳥ちゃんからの要請を受けてやってきただけだ!」

 

 こんなときでも『てんどん』を忘れない万丈目は遊馬へ素直じゃない返事をしつつも、そうっと壁越しに様子を見てみた。フライングランチャーに乗った赤髪の少女は遊馬たちを完全に見失ったらしく、うろうろとあたりを彷徨(さまよ)っている。

 

「随分とアグレッシブな女の子だな。小鳥ちゃん、いったいあの子は何者なんだ?」

「多分、私たちが小学生のときのクラスメイトで、二年前に転校した神月アンナだと思います」

『遊馬。何故、小学校時代のクラスメイトが君たちを狙っている?」

「そんなの、こっちが聞きたいぜ! しかも、俺、アイツのこと全然覚えていないし! ……あ、もしかして!」

 

 万丈目と小鳥とアストラルがああだこうだと会話をしていると、ひらめいた! と言わんばかりに遊馬が真剣な表情で尋ねてきた。

 

「アイツ、ナンバーズに操られているんじゃあ――?」

「いや、それは無い。あの子からはナンバーズも小鳥ちゃんの時みたいにカードの精霊の気配もしないからな」

『彼の言う通りだ。あの少女からはナンバーズの気配は感じられない』

「万丈目さん、アンナがナンバーズに操られていないということは、つまり素であれをやっているということですか?」

「恐ろしいことだが、そうなるな」

 

 遊馬の推理を万丈目とアストラルが揃って“NO”とばっさり切り捨て、小鳥が導き出した結論に万丈目はうんざりした表情で答えた。

 

『アニキも常にナンバーズに操られているかのようなテンションだから、あの子となんら変わりないポン』

「タヌキ、なんか言ったか?」

『オイラ、何も言ってないポーン』

 

 ポンタの呟きを目敏く万丈目が拾い上げる。詰め寄る一人としらばっくれる一匹のコントのようなやり取りの下では、バニーラが甘糖人参の美味しさを思い返して幸せな気分に浸っていた。

 

(アストラルも小鳥もスルーしたけど、万丈目自身も気付いていないのかな。自分が“カードの精霊”のことを口走ってしまっていることに)

 

 皆が皆、ナンバーズに操られている訳でも無いのに暴走している神月アンナに気を取られている一方、遊馬は黙って万丈目を見詰めていた。

 

(万丈目の奴。小鳥とのデュエルの後、俺たちには何も言わずに真っ青な顔して走り去った癖して、今はこうして何も無かったかのように合流するなんて狡くないか? 少しぐらい言い訳や説明をしてくれれば良いのに。どんだけ俺が心配したのか、万丈目は考えてもくれないんだ。“カードの精霊”が異世界人である万丈目にしか視えないこと、俺は知っているんだし、そろそろ全部を打ち明けてくれねぇかな――俺たち仲間なんだから)

 

 もやもやとした気持ちが遊馬に沸々と溜まってくる。辛抱溜まらなくなった遊馬が口を開いた瞬間だった。

 

「なぁ、万丈目。“カードの精霊”って――」

「くそっ! 全然見付からねぇ!! 何処に行きやがった!? こうなったら、いっちょ軒並み破壊して回るか!」

 

 赤髮の少女こと、アンナがそんな物騒なことを元気良く言い出したのだ。あまりにものっぴきならない台詞に、遊馬も万丈目もぎょっとする。

 

「俺がデュエルで止めて――」

「貴様は引っ込んでろ、遊馬」

「ぐえっ!」

 

 アンナの危なさを察知した遊馬が一人で飛び出そうとしたが、万丈目が咄嗟に彼を物陰に押しやり、代わりと言わんばかりにストリートへ大きく躍り出た。

 

「おい! 貴様、なに考えてやがる――って、人が話し掛けている最中に撃ってくるな!!」

 

 反射的に砲弾を避けた万丈目がギャンギャンとがなり立てる。

 

「うるせぇ! 俺は遊馬に用があるんだ! 黒髪のツンツン頭には用はねぇ!!」

「誰が黒髪のツンツン頭だ! 俺は万丈目さん、だ!」

『アニキ、どうしてそこまでさん付けにこだわるんだポン』

 

 天と地で口論し始めるアンナと万丈目に、ポンタは呆れた声を出した。

 

「第一、お前は遊馬の何なんだ!」

「何なんだって言われてもなぁ、同じ屋根の下に住んでいる居候――」

「お、同じ屋根の下に住んでいるだと!? なんて羨ま……いや、不埒な奴なんだ!」

 

 最後まで聞かずに言い返してくるアンナに、気が短い万丈目の堪忍袋の緒はすぐに切れてしまった。

 

「誰が不埒だ!? 街を破壊して回る貴様に言われる筋合いは無い! こうなったら、デュエルだ! この万丈目サンダー直々に貴様に『制裁(せいさい)』を与えてやるわ!」

 

 万丈目が放ったワードにアンナが狼狽するくらい大きく反応した。

 

「え!? デュエルに勝ったら『正妻(せいさい)』を与えるだって!?」

「ん? なんだ、貴様は『制裁』されたいのか? おかしな奴め」

「いやいやいや、ちょっと待て! なんでお前にそんな権限があるんだ! も、も、もしかして、お前が遊馬の『正妻』なのか? なんてことだ! 小学生時代、俺が告白しようとしたら来なかった癖して、中学生になったらこんな黒髪ツンツン頭の男の『正妻』が既にいるなんて! 俺の復讐の矛先は、今の俺の想いはどうなるんだよ!? ……よし、決めた! 俺はお前を倒して遊馬の『正妻』を手に入れてやる!!」

「なにを訳分からないことを長々ごちゃごちゃと……って、実弾を撃ってくるな! デュエルしろっての!!」

 

 何処か噛み合わない会話をしながら万丈目がデュエルを提案すると、彼女は案外素直にフライングランチャーから降りてきた。

 

「こんなこともあろうかとデュエルを勉強しといて良かったぜ! さぁ、いくぜ! デュエルディスク、セットスタンバイ!!」

 

 アンナの号令にやや遅れるようにして、万丈目はDパッドを夏空目掛けて放り投げる。空中で展開したデュエルディスクを万丈目は左腕に装着し終えると、新たに構築し直したデッキをセットした。

 

「Dゲイザー、セット!」

 

 今度は二人揃って声を上げると、それぞれ天高く投げたDゲイザーを左目に装着する。建物の影から二人の同行を見守っていた遊馬たちもまたDゲイザーを身に着けた。

 

『ARヴィジョン・リンク完了』

 

 もはや馴染となった機械音声と数字の羅列の雨を受けながら、WDCが始まってから三回目となるデュエルに万丈目の喉が意識せずとも鳴った。

 

「覚悟しろ、黒髪ツンツン野郎! 遊馬を賭けて勝負だ!」

「だーかーらー、俺は万丈目さん、だ! よく覚えておけ、暴走ガール!」

 

 まるで同年齢かのように騒ぎ立てる万丈目の足元ではバニーラがいつも通りの呆けた表情を浮かべ、ポンタは『なーんか勘違いしているような気がするポン』とぼやいている。

 

「俺がアンナを止めようとしたのに、まさか万丈目が先に飛び出すなんて。小鳥のときといい、万丈目って勝手だよな」

「遊馬! 万丈目さんは貴方を庇って飛び出したのに、そんなこと言わないの!」

『彼は君に似たところがあるからな』

 

 そして突如として始まることが決まったデュエルに遊馬は唇をひん曲げ、小鳥がそれを窘め、アストラルが慰めにもならないことを言う。

 

「デュエル!」

 

 とにかく二人が宣言したことで、デュエルは始まったのだった。

 

 

☆第一ターン目

万丈目準

ライフ4000

手札5枚

 

 

「先攻は俺がもらう!」

 

 出発時の汽笛のように大きな声を出した万丈目は早速初ターン目に配られた手札に視線を落とした。モンスタカードが二枚、魔法・罠カードが三枚――、魔法・罠カードのどれを伏せるか。須臾とも言える時間だが、逡巡とした後、万丈目は“ブラフもどき”も含めて伏せようと決める。

 

「モンスターを裏守備表示でセット、魔法・罠ゾーンに三枚のカードを伏せてターンエンドだ!」

 

 五枚の手札のうち四枚もフィールドに伏せると、手札一枚を残してターンエンド宣言をしたのだった。

 

 

☆第一ターン目エンド

万丈目準

ライフ4000

手札1枚

 

フィールド

モンスタカード 裏守備表示

魔法・罠ゾーンにカード3枚

 

 

☆第二ターン目

神月アンナ

ライフ4000

手札5+1=6

 

 

「よっしゃ! 第二ターン目、俺のターンだ! ドロー!!」

 

 台詞だけ見ると男の子だと間違われそうな言葉遣いで、じゃじゃ馬ガールの神月アンナがドローする。六枚になった手札を見た彼女は得意気な顔でロケットスタートを切った。

 

「俺は手札から通常魔法から【機甲部隊の再編制(マシンナーズ・リフォーメーション)】を発動!」

 

(マシンナーズか! 俺のいた世界でもあったデッキテーマだが、こちらの世界では【マシンナーズ・フォートレス(効果モンスター/星7/地属性/機械族/攻2500/守1600)】を筆頭にかなり強化されていたはずだ。等々力や鉄男のデュエルを強化する為に調べた機械族のカードを、まさかこんな局面で思い出すことになるとはな)

 

 暴走少女の手札が五枚になる。万丈目は瞬時に“マシンナーズ”のカード郡を頭の中で検索し、それを相手がどう有効活用してくるのか、と身構えた。

 

「【機甲部隊の再編制(マシンナーズ・リフォーメーション)】の二つある効果のうちの一つを発動、手札を一枚捨ててて、デッキから『マシンナーズ』モンスター二体を手札に加える! 俺は手札から効果モンスター【無限起動(むげんきどう)ロードローラー】を墓地に送るぜ。そして、デッキから加えるのは【マシンナーズ・フォートレス】と【マシンナーズ・カーネル(効果モンスター/星10/地属性/機械族/攻3000/守2500)】の二枚の効果モンスターだ!」

 

(【マシンナーズ・フォートレス】の効果はレベルの合計が8以上になるように手札の機械族のモンスターカードを捨てて、フィールドに特殊召喚する効果モンスターだ。そして、共に手札に加えた【マシンナーズ・カーネル】のレベルは10。【マシンナーズ・カーネル】を捨てて【マシンナーズ・フォートレス】を特殊召喚する戦法だろうな)

 

 アンナの行動に、万丈目は彼女が次にするであろう展開を頭に思い描く。そして、それはすぐさま現実となった。

 

「俺は【マシンナーズ・カーネル】を墓地に捨て、【マシンナーズ・フォートレス】を手札から特殊召喚するぜ! 【マシンナーズ・フォートレス】はレベルの合計が8以上になるように手札の機械族モンスターを捨てて、手札・墓地から特殊召喚できるからな!」

 

 キャタピラーで地面をならしながら、水色の装甲のマシンがアンナのフィールドに登場する。続けてアンナは四枚まで減った手札から更に一枚を発動させた。

 

「自分フィールドに機械族・地属性モンスターが召喚・特殊召喚された場合に発動可能、こいつを手札から特殊召喚するぜ! 出てこい、【重機貨列車(じゅうきかれっしゃ)デリックレーン(効果モンスター/星10/地属性/機械族/攻2800/守2000】!」

 

 大型クレーンがついた、黄色のディーゼル機関車がアンナのフィールドに特殊召喚され、彼女の手札は残り三枚となった。

 

「この効果で特殊召喚した場合、このカードの元々の攻撃力・守備力は半分になるが、気にするこたぁ無いぜ!」

 

 アンナの説明の通り、【重機貨列車デリックレーン】の攻撃力は1400まで減少したが、【マシンナーズ・フォートレス】の攻撃力は2500なので、万丈目のフィールドを攻撃するには十二分の火力といえるであろう。しかし、アンナの攻勢はまだ終わらなかった。

 

「手札三枚のうちの一枚を使って、速攻魔法【エクシーズ・アライン】を発動! 1~12までの任意のレべルを宣言し、自分フィールドのモンスターを含むフィールドの表側表示モンスター二体を対象として発動可能、そのモンスターのレベルはターン終了時まで宣言したレベルになる! このカードの発動後、ターン終了時まで自分は対象のモンスターのいずれかと同じ種族のモンスターしかEXデッキから特殊召喚できないが、俺のデッキは機械族オンリーだから何の問題も無し! 俺はレベル7の【マシンナーズ・フォートレス】とレベル10の【重機貨列車デリックレーン】のレベルを両方ともレベル10にするぜ!」

 

 横一列のラインに並んでいる二体のモンスターが共に同じオレンジ色に包まれると、双方揃ってレベル10へと変更される。レベル10のモンスターが二体という事態に万丈目の眉間に皺が寄った。

 

「二体のモンスターのレベルが同じになったわ!」

『レベルが同じモンスターが二体以上いるなら、最早することは一つしか無い』

「アストラルの言う通り、することなんて一つしか無いけど、レ、レベル10だぞ!?」

 

 建物の影から小鳥が驚愕の声をあげ、アストラルの台詞に遊馬が信じられないと言いたげに小さく叫ぶ。当のアンナはというと、得意気に片手を大きく天へと翳し、この世界特有の召喚を発動させた。

 

「俺はレベル10の【マシンナーズ・フォートレス】と【重機貨列車デリックレーン】でオーバレイ! 二体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築! エクシーズ召喚!」

 

 二体の機械族モンスターがそれぞれ光となり、オーバーレイ・ネットワークの紅い渦へ飲み込まれていく。紅い渦ということはナンバーズではないということは確かであったが、レベル10モンスター二体という高ランクのエクシーズ召喚という事実が控えている以上、万丈目たちにとって何の慰めにもならなかった。

 

「鉄路の彼方より、地響きともにただいま到着! 現れろ、【超弩級砲塔列車(ちょうどきゅうほうとうれっしゃ)グスタフ・マックス(エクシーズ・効果モンスター/ランク10/地属性/機械族/攻3000/守3000)】!」

 

 エクシーズの渦から伸びた黄金のレールがアンナのフィールドまで敷かれ、その上を地響きと共に超弩級の列車が走ってくる。そして鼓膜を引っ掻き回すようなブレーキ音を立てながら止まると、格納されていた巨大な砲身がこれでもかと言わんばかりに飛び出し、対戦相手である万丈目に照準をバッチリ合わせてきた。

 

(なんて威圧感……っ! これがランク10のエクシーズモンスターかよ!?)

 

 今まで万丈目は練習を兼ねて様々なデュエルを重ねてきたが、ランク10という高ランクのエクシーズモンスターとは初めての邂逅であった。基本的にエクシーズモンスターはランクが高かったり、召喚条件が難しかったりするほど、強い効果を持っているのものだ。それがランク10となるなら、言わずもがなである。

 

「【超弩級砲塔列車グスタフ・マックス】の効果発動!! 効果はシンプルイズベスト! 一ターンに一度、このカードのX素材を一つ取り除いて発動可能、相手ライフに2000ダメージを与える!」

 

 長く伸びた砲身同様、ターゲットを指差しながら告げたアンナの言葉に、そのターゲットである万丈目は思わず「げぇっ!」と叫んでしまった。

 

「マ、マジで!? まだ二ターン目なのにこの万丈目サンダー様のライフ半分も削られるのかよ!?」

「ちょーマジだぜ!! いくぜ! “発射オーライ! ビッグ・キャノン”!!」

「ぎゃーっ!!」

「万丈目!!」

 

 アンナの合図を受けた高ランクモンスター【超弩級砲塔列車グスタフ・マックス】の砲撃が万丈目に直撃する。万丈目の悲鳴を聞いた遊馬はもう我慢できず、隠れていた建物の影から飛び出してしまった。

 

「あ、遊馬! そこにいやがったのか!! 覚悟しろ、次はお前だからな!」

「え、ちょ、おまっ!?」 

 

 【超弩級砲塔列車グスタフ・マックス】の砲身がぐりんと回り、今度は遊馬に照準を合わせてきた。ARヴィジョンとはいえ、巨大な砲身を向けられ、流石の遊馬も萎縮してしまう。デュエルそっちのけで今にも撃ってきそうなアンナだったが、それを万丈目の声が押し止める。

 

「待てーい! 貴様の相手はこの俺様だろうが!! 遊馬を狙うのはこの俺を倒してからにしろ!!」

 

 ARヴィジョンだから本当に汚れることは無いのに、まるで砲撃による煤煙で顔を汚したかのように万丈目が頬を擦りながらアンナに怒鳴り立てる。

 

「チッ! まだ生きていやがったのか!」

「その台詞は俺のライフをゼロにしてから言いやがれってんだ!」

「万丈目、無事だったのか!?」

「だから、さんを付けろ! さん、を!」

 

 アンナの物騒な言い草にも負けじと言い返す様は万丈目らしいと言えば万丈目らしい。その勢いのまま、万丈目は心配の言葉をかける遊馬にも噛み付いてきた。

 

『そこまでされて尚、遊馬を優先するとは。これが君の遊馬への想いというものか』

「じゃあかしい! 年上は年下を守るものなんだよ! 俺は居候だからな、居候先の子どもくらい大事にしてやらないとな!」

 

 アストラルからのストレートな物言いにさえ万丈目が噛み付くものだから、ポンタが「アニキってホントに兄貴だなぁ」とぼそりと呟く。

 

「万丈目さん、なんだか大丈夫そうね。遊馬もそう思わない?」

「え? ああ、うん」

 

 小鳥からそう話を振られた遊馬は曖昧に返事する。らしくない態度に小鳥が首を傾げるが、遊馬はただ「居候で年上だからか」と呟いただけだった。

 

「おい、暴走少女! 俺はまだくたばっていないぞ! デュエルを続行しろってんだ!」

「言われなくても!」

 

 なにか引っ掛かったような顔付きを浮かべる遊馬を置き去りにして、万丈目とアンナのデュエルは進んでいく。

 

「【超弩級砲塔列車グスタフ・マックス】のエクシーズ素材として墓地に送った【重機貨列車デリックレーン】の効果発動! エクシーズ素材となったこのカードがエクシーズモンスターの効果を発動するために取り除かれ墓地へ送られた場合、相手フィールドのカード一枚を対象として発動可能、そのカードを破壊する! お前が魔法・罠ゾーンに伏せた三枚のカードのうち、俺から見て一番右のカードを破壊だ!」

「くそっ! “ミラフォ”が!」

 

 まるで道連れにするかのように【重機貨列車デリックレーン】が墓地から放った車輪が、万丈目が伏せた通常罠【聖なるバリア -ミラーフォース-】を破壊する。これにて、万丈目の魔法・罠ゾーンに伏せたカードは残り二枚となった。

 

「驚くにはまだ早いぜ! 俺は【超弩級砲塔列車グスタフ・マックス】でオーバーレイ・ネットワークを再構築だ!!」

 

 アンナの此の行動には万丈目も遊馬も小鳥もアストラルでさえも「えっ!?」と驚愕した。オーバーレイ・ネットワークの再構築なんて、万丈目は今のところ遊馬とアモンでしか見たことが無かった。それをさらりとやってのけるアンナに、万丈目の背中に冷や汗が流れる。WDCに入ってからのデュエルはどれも万丈目の想像の遥か上をいっていた。

 

「エクシーズ召喚!! 圧倒的な力を以て敵に引導を渡せ! 化身クリシュナが誘導したレールに乗って只今登場! 【超弩級砲塔列車(ちょうどきゅうほうとうれっしゃ)ジャガーノート・リーベ(エクシーズ・効果モンスター/ランク11/地属性/機械族/攻4000/守4000/レベル11モンスター×3)】!!」

 

 再構築されたエクシーズの渦から飛び出してきたレールの上を走りながら現れたのは、まるで動く要塞のような列車であった。そして、それはまたしても長い砲身を携えており、その照準は【超弩級砲塔列車(ちょうどきゅうほうとうれっしゃ)グスタフ・マックス】の時と同様に万丈目をしっかり捉えていた。

 

「【超弩級砲塔列車ジャガーノート・リーベ】はランク11モンスターだが、一ターンに一度、自分フィールドの機械族・ランク10のXモンスターの上に重ねてX召喚する事もできるんだぜ!」

「すっげぇ……、オーバーレイ・ネットワークを再構築のうえ、攻撃力4000なんて――」

 

 神と呼ばれるモンスター郡と同じ攻撃力に遊馬は感心しつつも二の句が告げなかった。恐れ慄く観衆に気を良くしたアンナは腰に手を当てながら堂々と話し始める。

 

「驚くにはまだ早いぜ! 【超弩級砲塔列車ジャガーノート・リーベ】は一ターンに一度、エクシーズ素材を一つ取り除いて、このカードの攻撃力・守備力は2000アップする効果を持っているんだ! つまり、こいつの攻撃力は6000になる! いくぜ、“ハイパーパワーアップ”だ!!」

 

 エクシーズ素材を吸収した【超弩級砲塔列車ジャガーノート・リーベ】の攻撃力は2000ポイントアップし、攻撃力は合計6000となった。

 

「こ、攻撃力6000!?」

「でも、万丈目さんのフィールドのモンスターは裏守備表示だから、攻撃力をアップしたところで破壊されることはあってもダメージまでは通らないわ!」

「ところがどっこい! 【超弩級砲塔列車ジャガーノート・リーベ】は一度のバトルフェイズ中にエクシーズ素材の数+1回までモンスターに攻撃できる効果を持っているんだぜ! つまり、コイツは二回も攻撃できちまうってことだ!」

 

 素っ頓狂な声を出す遊馬の隣で、小鳥が安心させるための言葉を用意するが、それをアンナが呆気なく離散させる。そのやり取りを見たポンタが『もう終わりだポン、おしまいだポン』と泣きそうになるなか、万丈目は黙って腕を組んだだけだった。

 

「俺は大きくて強いものが好きだからな、オーバーキル目指して、どーんといかせてもらうぜ! 【超弩級砲塔列車ジャガーノート・リーベ】で相手の伏せモンスターを攻撃! 一発目の“カタストロフ・ショット”!!」

 

 勝利を確信したアンナが意気揚々と攻撃命令を繰り出すと、【超弩級砲塔列車ジャガーノート・リーベ】は砲身に光のラインを浮かび上がらせてエネルギー充填した後、地面を揺らがす勢いで長い砲身からショットを放った。結果、万丈目のフィールドに伏せたモンスターカードが為す術もなく破壊され、ポンタが「あっちゃー」と声を漏らすが、今まで黙り込んでいた彼はというと「きたか」と言わんばかりに効果を宣言したのだった。

 

「この瞬間、破壊された【素早いモモンガ(効果モンスター/星2/地属性/獣族/攻1000/守 100)】の効果発動! このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、プレイヤーは1000ライフポイント回復する! さらにデッキから【素早いモモンガ】を任意の数だけ裏側守備表示で特殊召喚できる! デッキに入れた【素早いモモンガ】の枚数は三昧、残り二枚を裏守備表示で特殊召喚するぜ!」

 

 万丈目のライフが1000ポイント回復し、3000となる。そして、デッキから二体の【素早いモモンガ】が裏守備表示で特殊召喚された。

 

「デッキから二体も裏守備表示で特殊召喚かよ! くそっ、このターンで終わらす予定だったのに【超弩級砲塔列車ジャガーノート・リーベ】の攻撃はあと一回しか出来ないから倒し切れねぇじゃねぇか!! 仕方ねぇ、二発目の“カタストロフ・ショット”で攻撃だ!」

 

 【超弩級砲塔列車ジャガーノート・リーベ】の攻撃【素早いモモンガ】が破壊されるが、裏守備表示なので万丈目にダメージは入らない。かつ、戦闘破壊になるので【素早いモモンガ】の効果により万丈目のライフが1000回復し、4000となった。折角半分まで減らしたライフが元に戻ったうえ、このバトルフェイズで万丈目を仕留められなかったことも合わさって、アンナが悔しそうに唸った。

 

「メインフェイズ2だ! 俺は残り二枚の手札のうちの一枚、【爆走軌道(ばくそうきどう)フライング・ペガサス(効果モンスター/星4/地属性/機械族/攻1800/守1000)】を通常召喚するぜ!」

 

 黄金(こがね)白銀(しろがね)のメタリックな鎧がぬるりと夏空の太陽に反射する。アンナの大声に呼応するように、列車を馬車のように引き連れたペガサスナイトが現れた。

 

「こいつが召喚・特殊召喚に成功した場合、【爆走軌道フライング・ペガサス】以外の自分の墓地の機械族・地属性モンスター一体を対象として発動可能、そのモンスターを効果を無効にして守備表示で特殊召喚する! 俺は墓地にいる【重機貨列車デリックレーン】を特殊召喚するぜ!」

 

 アンナのフィールドにレベル4の【爆走軌道フライング・ペガサス】とレベル10の【重機貨列車デリックレーン】が並ぶ。レベルが違うのでエクシーズ召喚は出来ないはずだが、それで油断するほど万丈目も馬鹿ではない。

 

「【爆走軌道フライング・ペガサス】の二つ目の効果を発動! このカード以外の自分フィールドの表側表示モンスター一体を対象として発動可能、そのモンスターとこのカードのレベルは、その内の一体のレベルと同じになる! 俺が選ぶのはレベル10の【重機貨列車デリックレーン】で、勿論揃えるレベルは10だ!」

「またレベル10のモンスターが二体並んだ!?」

『くるぞ、遊馬』

 

 【爆走軌道フライング・ペガサス】の嘶きを受け、二体のモンスターのレベルがアンナの言に従ってお揃いになる。驚く遊馬にアストラルが冷静に呼び掛けるなか、万丈目は心の内で「また来るか」と身構えた。  

 

「レベル10の【爆走軌道フライング・ペガサス】と【重機貨列車デリックレーン】でオーバーレイ・ネットワークを構築! エクシーズ召喚! これぞ、天空の要塞! 【超巨大空中宮殿(ちょうきょだいくうちゅうきゅうでん)ガンガリディア(エクシーズ・効果モンスター/ランク10/風属性/機械族/攻3400/守3000/レベル10モンスター×2)】だ!!」

 

 アンナの言う通り、その姿は空中宮殿というより天空の要塞のようであった。雲を割って現れた赤紫色のボディーを見て、アンナはニヤリと笑った。

 

「俺がデュエルするって言ったら、海美ねぇちゃんたちが貸してくれたカードなんだぜ! すっごく強そうだろ? その強い効果を今見せてやるよ! 【超巨大空中宮殿ガンガリディア】の効果発動! このカードのエクシーズ素材を一つ取り除き、相手フィールドのカード一枚を対象として発動可能、その相手のカードを破壊し、相手に1000ダメージを与える!」

「チッ! またバーン効果かよ!」

「バーン効果のうえに破壊効果付きだぜ! 破壊するカードは勿論、裏守備表示の【素早いモモンガ】だ! 受けな! “タイタニック・ダイブ”!!」

 

 万丈目の舌打ちを物ともせず、アンナが切り込むように号令を出す。裏守備表示の【素早いモモンガ】を巻き込む形で【超巨大空中宮殿ガンガリディア】が体当たりを万丈目に仕掛けた結果、カードは破壊され、彼のライフは4000-1000=3000まで減少した。

 

「あれっ? なんで【素早いモモンガ】のライフ回復効果が発動しないんだ?」

『【素早いモモンガ】のライフ回復効果は“戦闘破壊”のみだ。今回は“効果破壊”だから発動しない』

 

 遊馬の疑問をぱぱっとアストラルが解決する。たくさんのデュエルを経験したとはいえ、遊馬のデュエル知識はまだまだのようだ。

 

「更に更に! 【超巨大空中宮殿ガンガリディア】のエクシーズ素材として墓地に送った【重機貨列車デリックレーン】の効果を再び発動するぜ! エクシーズ素材となったこのカードがエクシーズモンスターの効果を発動するために取り除かれ墓地へ送られた場合、相手フィールドのカード一枚を対象として発動可能、そのカードを破壊する! そうだな……、魔法・罠ゾーンにセットしてあるうちの一枚、俺から見て左のカードを破壊だ!」

『しまった! また破壊されてしまったポン!』

 

 またしても【重機貨列車デリックレーン】が墓地から放った車輪が、万丈目が伏せたカードを破壊する。これにて、万丈目の魔法・罠ゾーンに伏せたカードは残り一枚となってしまったが、ポンタの焦りを他所に彼はニンマリと笑っただけだった。

 

「残念だったな、お前が破壊したのは通常魔法【おジャマジック】だ。このカードが手札・フィールドから墓地へ送られた場合に発動、俺はデッキから【おジャマ・グリーン(通常モンスター/星2/光属性/獣族/攻 0/守1000)】【おジャマ・イエロー】【おジャマ・ブラック】を一体ずつ手札に加えるぜ」

「ブ、ブラフかよ!」

「ブラフ“もどき”みたいなもんさ」

 

 アンナの文句に万丈目はウインクで答えると、デッキから三枚の通常モンスターカードを手札に加えた。これにより万丈目の手札は1+3=4枚となった。

 

「まぁ、いいさ! 後続となり得るモンスターはみんな破壊できたし、お前のフィールドに残ったカードは魔法・罠ゾーンに伏せた一枚だけ。通常モンスターで手札を肥やしたところで、俺のフィールドにいる攻撃力3000超えのモンスター二体を破壊できる訳がない! 俺はこれでターンエンドだ!」

 

 高火力モンスター二体をフィールドに置いたまま、アンナはターンエンド宣言を行った。

 

 

☆第二ターン目エンド

神月アンナ

ライフ4000

手札1枚

 

フィールド

【超弩級砲塔列車ジャガーノート・リーベ】

【超巨大空中宮殿ガンガリディア】

 

墓地

【無限起動ロードローラー】

【重機貨列車デリックレーン】

【マシンナーズ・カーネル】

【マシンナーズ・フォートレス】

【エクシーズ・アライン】

【機甲部隊の再編制】

 

 

☆第三ターン目

万丈目準

ライフ3000

手札4+1=5枚

 

手札

【おジャマ・グリーン】

【おジャマ・イエロー】

【おジャマ・ブラック】

???

???

 

フィールド

魔法・罠ゾーンに伏せカード1枚

 

墓地

【素早いモモンガ】✕3枚

【聖なるバリア -ミラーフォース-】

【おジャマジック】

 

 

「俺の番だ! 第三ターン目、ドロー!」

 

 万丈目が一枚ドローし、手札が五枚になったことで第三ターン目がスタートする。

 

(彼の手札の五枚のうち、三枚が低レベルの通常モンスターだ。対して、アンナのフィールドには3000超えのモンスターが二体も控えている。万丈目準、君がこの局面を如何にして乗り越えるのか、是非とも観察させてもらおうか)

 

 アストラルが鋭い視線を向けるなか、万丈目は五枚の手札のうち一枚を掲げた。

 

「手札から通常魔法【ワン・フォー・ワン】を発動。手札からモンスター一体を墓地へ送って発動可能、手札・デッキからレベル1モンスター一体を特殊召喚する。俺は手札にある【森の聖獣カラントーサ(効果モンスター/星2/地属性/獣族/攻 200/守1400)】を墓地に送り、デッキから【森の聖獣ユニフォリア(効果モンスター/星1/地属性/獣族/攻 700/守 500)】を特殊召喚する」

 

 通常魔法【ワン・フォー・ワン】を受け、万丈目のフィールドに新緑の葉を生い茂らせたユニコーン型のモンスターが蹄を鳴らしながら、おっとりと現れた。

 

「続けて【森の聖獣ユニフォリア】の効果発動。自分の墓地のモンスターが獣族のみの場合、このカードをリリースして発動可能、自分の手札・墓地から【森の聖獣ユニフォリア】以外の獣族モンスター一体を選んで特殊召喚する。特殊召喚するのは先程【ワン・フォー・ワン】効果で墓地に捨てた【森の聖獣カラントーサ】だ」

 

 万丈目の墓地にいるモンスターは獣族の【素早いモモンガ】がいるだけだ、効果の発動条件はしっかり満たしている。【森の聖獣ユニフォリア】は嘶き一つ残して退陣すると、代わりに【森の聖獣カラントーサ】が草むらからひょっこり姿を見せた。同じうさぎ型のモンスターにバニーラがヒクヒクと鼻を動かし、小鳥が「カラントーサって、かわいいのね!」と手を叩いた。

 

「【森の聖獣カラントーサ】の効果発動、このカードが獣族モンスターの効果で特殊召喚に成功した場合、フィールドのカード一枚を対象として発動可能、そのカードを破壊する。俺が破壊するのは【超弩級砲塔列車ジャガーノート・リーベ】だ!」

「なにっ!?」

 

 【森の聖獣カラントーサ】が背中に茂らせているのはカランコエという植物だ。そして、カランコエの花言葉は『あなたを守ります』という。【森の聖獣カラントーサ】は小さな体を震わせると、その葉を撒き散らして、自身より遥かに大きい機械兵器【超弩級砲塔列車ジャガーノート・リーベ】を破壊し、その花言葉通りに万丈目を守護した。

 

「くそっ! 俺の【超弩級砲塔列車ジャガーノート・リーベ】がこんなに呆気なく破壊されるなんて……っ! だが、この瞬間、俺の墓地にある【マシンナーズ・カーネル】の効果発動! このカードが墓地に存在する状態で『マシンナーズ・カーネル』以外の自分フィールドの表側表示の機械族・地属性モンスターが戦闘・効果で破壊された場合に発動可能、このカードを特殊召喚する! 出てこい、攻撃力3000のモンスター!!」

 

 攻撃力4000の巨大な要塞列車が小さな白うさぎによって破壊されたことにアンナはショックを隠せない。しかし、気持ちを持ち直すと、墓地から左右の腕に武器を装備した四脚の水色のマシンを呼び出した。【超弩級砲塔列車ジャガーノート・リーベ】より攻撃力は劣るが、攻撃力は3000で火力としては十二分といえよう。

 

「ま、また攻撃力3000! アイツ、どんだけ強いモンスターを持っているんだよ!!」

 

 再び攻撃力3000以上のモンスターが二体並んだことに遊馬が声を震わして動揺するが、万丈目は意も介さずにメインフェイズのアクションを続けただけだった。

 

「俺は魔法・罠ゾーンに伏せていたカードをオープンするぜ。伏せていたカードは永続罠【おジャマパーティ】だ。このカードの効果は三つあるが、そのうちの一つ、デッキから“おジャマ”カード一枚を手札に加え、その後手札を一枚選んで捨てる効果を発動させるぜ。俺がデッキから加えるのは【おジャマ・ピンク(効果モンスター/星2/光属性/獣族/攻 0/守1000】で、捨てるのもそのカードだ」

「加えたカードをそのまま捨てちまう? なんだって、そんなことを? 意味が無いじゃないか」

 

 意味が無いように思われる行動に対戦相手であるアンナは首を傾げる。それに対して万丈目は「デュエルに意味の無い行動は無いさ」と答えた。

 

「この時、【おジャマ・ピンク】の効果発動。このカードが手札・フィールドから墓地へ送られた場合に発動可能、お互いのプレイヤーはデッキから一枚ドローし、その後手札を一枚選んで捨てる。さぁ、互いに一枚ドローして、一枚墓地に捨てようじゃないか」

 

 またしても一枚引いて一枚捨てる効果――しかも、今度は対戦相手にも促す効果にアンナは意味が分からないと言いたげな表情を浮かべる。とりあえず促されるままにアンナも万丈目同様にデッキから一枚ドローした。

 

(俺が引いたのは【爆走特急(ばくそうとっきゅう)ロケット・アロー(特殊召喚・効果モンスター/星10/地属性/機械族/攻5000/守 0)】か。自分フィールドにカードが存在しない場合のみ特殊召喚できるモンスターカードだが、俺のフィールドには【マシンナーズ・カーネル】がいるし、手札も次のターンで二枚になるから、この引いたカードはそのまま墓地に捨てる方がベターだろうな)

 

 アンナはそう判断して、引いたカードを墓地に捨てる。それに対して万丈目は引いたカードを手札に加え、墓地に捨てたのは元から手札にあったカードであった。

 

「この瞬間、【おジャマ・ピンク】のもう一つの効果発動。この効果で自分が『おジャマ』カードを捨てた場合、使用していない相手のモンスターゾーンを一ヵ所指定して、相手ターン終了時まで使用不可にすることができる。俺が捨てたのは【おジャマ・ブラック】だ。よって、貴様のモンスターゾーンの一つを封鎖させてもらうぜ」

 

 アンナのモンスターゾーンの一つが、ばってん印で封鎖された。エクシーズ召喚はモンスターを広げて行う召喚方法のため、一つ封鎖されるだけでもなかなかの痛手だ。そのことに顔をしかめるアンナだったが、万丈目はお構いなしに進めていく。

 

「手札から【おジャマ・イエロー】を通常召喚。続けて【おジャマ・イエロー】と【森の聖獣カラントーサ】でオーバーレイ! レベル2の獣族モンスター二体でオーバーレイ・ネットワークを構築! エクシーズ召喚!」

 

 二体の獣族モンスターがオーバーレイ・ネットワークの渦に飲み込まれていく。先程アンナが行った紅色の渦ではなく、混沌(カオス)が入り混じった漆黒の銀河の色――即ち、ナンバーズ特有の渦であった。冷静な顔付きのまま、万丈目は手慣れた様子でこの世界における、彼のエースモンスターの名を呼んだ。

 

「権謀術数の世を斬り裂く俺の部下よ、この世界を化かせ!  現れろ! 【No.64 古狸三太夫(ランク2/地属性/獣族/攻1000/守1000)】!」

『呼ばれて飛び出て、ドバババーン!! やっとオイラの出番ポーン!』

 

 オーバーレイ・ネットワークの渦から赤鎧を身に纏った武士姿の狸が守備表示で飛び出してきた。ナンバーズの精霊であるポンタもノリに乗っており、万丈目も同じ調子で効果を発動させた。

 

「【No.64 古狸三太夫】の効果発動! 一ターンに一度、このカードのエクシーズ素材を一つ取り除いて発動可能、自分フィールド上に『影武者狸トークン(獣族・地・星1・攻?/守0)』一体を特殊召喚する! このトークンの攻撃力は、このトークンの特殊召喚時にフィールド上に存在する攻撃力が一番高いモンスターと同じ攻撃力になる! 真似る相手は攻撃力3400の【超巨大空中宮殿ガンガリディア】だ!」

 

 ぽん! と小気味いい音を立てて【No.64 古狸三太夫】のエクシーズ素材が攻撃力3400の『影武者狸トークン』に化ける。攻撃表示の影武者は高火力を誇示するように薙刀をぶん回した。

 

「バトルフェイズだ! 『影武者狸トークン』で【超巨大空中宮殿ガンガリディア】を攻撃! “影武者流・薙刀十文字切”!!」

「同じ攻撃力だから相討ちになっちまうぞ!?」

「それを承知の上での攻撃だ」

 

 アンナからの指摘を物ともせず、相討ち覚悟で万丈目は攻撃命令を下す。結果、『影武者狸トークン』と【超巨大空中宮殿ガンガリディア】はぶつかり合って、お互いに破壊されてしまった。

 

「これで貴様のモンスターを一体まで減らすことが出来たぜ。俺はメインフェイズ2へ移行、魔法・罠ゾーンにカードを一枚伏せて、ターンエンドだ」

 

 【おジャマ・ピンク】の効果で引いたカードをセットし、万丈目の手札が【おジャマ・グリーン】の一枚きりとなる。こうして、第三ターン目は終了したのだった。

 

 

☆第三ターン目エンド

万丈目準

ライフ3000

手札1枚

 

手札

【おジャマ・グリーン】

 

フィールド

【No.64 古狸三太夫】

【おジャマパーティ】

魔法・罠ゾーンに伏せカード1枚

 

墓地

【素早いモモンガ】✕3枚

【聖なるバリア -ミラーフォース-】

【おジャマジック】

【おジャマ・イエロー】

【おジャマ・ブラック】

【ワン・フォー・ワン】

【森の聖獣ユニフォリア】

【おジャマ・ピンク】

 

 

☆第四ターン目

神月アンナ

ライフ4000

手札1+1=2枚

 

フィールド

【マシンナーズ・カーネル】

 

墓地

【無限起動ロードローラー】

【重機貨列車デリックレーン】

【マシンナーズ・フォートレス】

【エクシーズ・アライン】

【機甲部隊の再編制】

【超弩級砲塔列車ジャガーノート・リーベ】

【超巨大空中宮殿ガンガリディア】

【爆走特急ロケット・アロー】

【超弩級砲塔列車グスタフ・マックス】

【爆走軌道フライング・ペガサス】

 

 

 第四ターン目に突入した。しかし、神月アンナはなかなかアクションを起こそうとはしなかった。

 

(チクショウ! 【超弩級砲塔列車ジャガーノート・リーベ】だけでなく、海美ねぇちゃんたちから借りた【超巨大空中宮殿ガンガリディア】まで破壊されちまうなんて! 今、俺のフィールドには【マシンナーズ・カーネル】がいるだけだ。コイツは自分・相手ターンに、自分フィールドの機械族モンスター一体を対象として発動可能、その機械族モンスターと、その攻撃力以下の攻撃力を持つ相手フィールドのモンスターを全て破壊する効果を持っているが、今発動したところで【No.64 古狸三太夫】一体しか破壊できねぇ。せめて【No.64 古狸三太夫】の効果が発動する前に【マシンナーズ・カーネル】を犠牲にして効果を発動させれば、【超巨大空中宮殿ガンガリディア】を戦闘破壊されずに済んだのに! まさか、ランク2モンスターで同じ攻撃力のトークン召喚とか、あんなエグい能力を持っているとか知る訳ないだろ! ……もしかして、俺、このまま負けちまうのか。想いも伝えられずに終わってしまうのか)

 

 ライフが4000も残っているとはいえ、アンナは手札・デッキを鑑みると思わず頭を抱えたくなった。どうしよう、と気ばかり逸っている彼女の耳に列車がレールを走る音が聴こえてきた。幻聴だろうか。俯いていた顔を上げた先には列車の幻影が走っていた。そのシルエットは【超弩級砲塔列車グスタフ・マックス】よりずっと巨大で、三つの砲身を持っており、凛々しくて尚雄々しいものであった。アンナにしか視えない超重量級の列車は甲高いブレーキ音を立てながら、彼女の目の前で静止してみせた。まるでアンナに語り掛けるように止まった列車に、彼女は「俺は負けたくないんだ!」と心の中でより強く叫んだ。途端、列車は頷くかのようにその身を光の粒子に変え、それは彼女のエキストラデッキへ吸い込まれていった。それを見たアンナは確信した――コイツは俺を勝たせる為にやって来たのだ、と。

 

 一方で、第四ターン目のドローフェイズにすら入ろうとしないアンナに万丈目は訝しげな視線を向けていた。彼女のフィールドには攻撃力3000の【マシンナーズ・カーネル】がいるのにも関わらず俯いたままだと言うことは、彼女には切り札(ラストリゾート)がもうこれ以上無いのかもしれない、と万丈目は推理した。

 

(攻撃力3000超えのモンスターを四体も出せただけでも十二分に俺は凄いと思うんだが)

 

 とにかくサレンダーをするにせよ、何かしらアクションを起こしてもらわなければ困るので、アンナに声を掛けようとした瞬間、万丈目は不気味な空気を感じ取った。既視感のある雰囲気に、万丈目がそれを以前何処で感じたかを思い出そうとする間も無く、予兆なく急にアンナが顔をあげた。

 

「うおーっ!!」

 

 アンナの、男よりも男らしい雄叫びにその場にいた全員が竦み上がる。そして、万丈目は思い出した、この空気の既視感を。闇のデュエルだ、遊馬と神代凌牙の初めてのデュエルで、凌牙がナンバーズを呼び出したときのものにそっくりであった。

 

「第四ターン目、ドロー!! 手札から【深夜急行騎士(しんやきゅうこうきし)ナイト・エクスプレス・ナイト(効果モンスター/星10/地属性/機械族/攻3000/守3000)】を通常召喚! このカードはリリースなしで召喚できるが、その場合、元々の攻撃力は0になるが気にするこたぁ無いぜ」

 

 アンナのフィールドに下半身が列車と合体したホワイトナイトが現れる。レベル10の【マシンナーズ・カーネル】と同じくレベル10の【深夜急行騎士ナイト・エクスプレス・ナイト】。同じレベルのモンスターが二体も並んだのだ、することなんて一つしかない。

 

「俺はレベル10の【マシンナーズ・カーネル】と【深夜急行騎士ナイト・エクスプレス・ナイト】をオーバーレイ! 二体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築! エクシーズ召喚!!」

 

 二体のモンスターを吸い込んだエクシーズの渦は紅色ではなく、漆黒の銀河の色であった。その色を見た万丈目の頭の中で警戒音がけたたましく鳴り響く。そして、エクシーズの渦は爆発し、見慣れた独特なフォントの数字“81”を浮かび上がらせた。

 

「何物も受け付けないまま、歴史の闇に消えた幻の列車よ、今こそ甦れ! 来い! 【No.81 超弩級砲塔列車スペリオル・ドーラ(エクシーズ・効果モンスター/ランク10/地属性/機械族/攻3200/守4000/レベル10モンスター×2)】!!」

 

 頭が割れるようなボリュームで汽笛が鳴った。地響きを伴いながら、四台の列車を足爪のように備えた黒衣の砲台列車が線路上を走行してくる。砂煙を物ともせずに登場した【No.81 超弩級砲塔列車スペリオル・ドーラ】は三対の砲身を持っており――特に中央が巨大で――左側の装甲には自身のナンバーである“81”がくっきりと刻印されてあった。

 

「おい、アストラル! お前、アイツからはナンバーズの気配はしないって言ってたのに、なんでナンバーズを出てくるんだよ!?」

『シャークの時と同じだ、遊馬。ナンバーズは意思を持つカード、アンナの思いにナンバーズが共鳴して、それが彼女に力を与えたのだ』

 

 動揺する遊馬にアストラルが乱暴に答えるなか、万丈目は心の内で「厄介なことになったな」と舌打ちをしていた。ビシバシと肌を打つナンバーズの威圧感に、万丈目の手札を握る手に汗が滲んでいく。

 

「バトルフェイズだ! 【No.81 超弩級砲塔列車スペリオル・ドーラ】で【No.64 古狸三太夫】を攻撃! 撃ち抜け、“Acht mal zehn(アハト マール ツェン)”!!」

 

 アンナの思いと共に号令を受けた【No.81 超弩級砲塔列車スペリオル・ドーラ】はエネルギーを充填すると、機械らしく情けも容赦もなく【No.64 古狸三太夫】を見事撃ち抜いた。

 

『うわーん、やられちゃったポーン!』

「守備表示で良かったぜ、じゃなかったら此処で敗北するところだった」

『アニキ! ライフだけじゃなく、オイラのことを心配して欲しいポン!』

 

 【No.64 古狸三太夫】を破壊され、ポンタはめそめそ泣いていたが、万丈目の呟きに即座に反応できるぐらいには元気そうだ。

 

「アーハッハッハッ! このターンは守備表示で命拾いしたようだが、良いことを教えてやるよ! 【No.81 超弩級砲塔列車スペリオル・ドーラ】は相手ターンに一度、このカードのX素材を一つ取り除き、フィールドの表側表示モンスター一体を対象として発動可能、その表側表示モンスターはターン終了時まで、自身以外のカードの効果を受けなくなる効果を持っているんだぜ!」

「つまり、効果対象を【No.81 超弩級砲塔列車スペリオル・ドーラ】自身にしたら、どんなカード効果も受け付けない攻撃力3200の無敵最強のモンスターになるってことじゃねぇか!」

「そういうこった! 【超弩級砲塔列車ジャガーノート・リーベ】は【森の聖獣カラントーサ】の効果で破壊されちまったが、レールを走る列車といえども、同じ轍を踏まねぇぜ!」

 

 ナンバーズの力に呑まれたアンナが高笑いする。【No.81 超弩級砲塔列車スペリオル・ドーラ】の効果に遊馬は真っ青になっていたが、万丈目は気になるところがあったのか、考え込むようにして自身の蟀谷(こめかみ)をトントンと右手の人差し指で叩いただけだった。

 

「どうした、黒髪ツンツン野郎! 俺の切り札――【No.81 超弩級砲塔列車スペリオル・ドーラ】の効果を知って、恐ろしくって声も出ないか!」

「そんなんじゃないさ」

 

 アンナからの煽りに対して、万丈目は普段の言動からは信じられないほど飄々と受け答えた。

 

「アンナ、俺からも良いことを二つ教えてやろう」

「良いこと、だと?」

「一つ目は切り札(ラストリゾート)なら切り札らしく、みだりに(意味:これといった理由もなくやたらに)相手に効果を教えないことだ。二つ目は俺の名は万丈目さん、だということだ! 覚えておけ!」

 

 最終的には相変わらずのブレの無さに見せ付ける万丈目に、ポンタは「そんな場合ちゃうやろ」と心からツッコミしたくなった。

 

 【No.64 古狸三太夫】を破壊された今、万丈目のフィールドには何のモンスターもおらず、対してアンナのフィールドにはどんな効果も受け付けなくなる効果を持つ攻撃力3200のモンスターが悠然と待ち構えている状況だ。アンナが呼び出した五体目となる3000超えのモンスターに、いったいどのようにして彼は立ち向かうというのだろうか。

 

「減らず口を! メインフェイズ2に入る! 俺は最後の手札を魔法・罠ゾーンに伏せてターンエンドだ!」

 

 アンナが音を立てて最後のカードをセットする。こうしてナンバーズを呼び起こした第四ターン目は終了したのだった。

 

 

☆第四ターン目エンド

神月アンナ

ライフ4000

手札0枚

 

フィールド

【No.81 超弩級砲塔列車スペリオル・ドーラ】

魔法・罠ゾーンに伏せカード1枚

 

墓地

【無限起動ロードローラー】

【重機貨列車デリックレーン】

【マシンナーズ・フォートレス】

【エクシーズ・アライン】

【機甲部隊の再編制】

【超弩級砲塔列車ジャガーノート・リーベ】

【超巨大空中宮殿ガンガリディア】

【爆走特急ロケット・アロー】

【超弩級砲塔列車グスタフ・マックス】

【爆走軌道フライング・ペガサス】

 

 

☆第五ターン目

万丈目準

ライフ3000

手札1+1=2枚

 

手札

【おジャマ・グリーン】

???

 

フィールド

【おジャマパーティ】

魔法・罠ゾーンに伏せカード1枚

 

墓地

【素早いモモンガ】✕3枚

【聖なるバリア -ミラーフォース-】

【おジャマジック】

【おジャマ・イエロー】

【おジャマ・ブラック】

【ワン・フォー・ワン】

【森の聖獣ユニフォリア】

【おジャマ・ピンク】

【No.64 古狸三太夫】

【森の聖獣カラントーサ】

 

 

 第五ターン目に入った。

 アンナのライフは4000、万丈目は3000というように両者共にライフは多く残っている。しかしアンナが高火力のモンスターを繰り出してきたため、このターンの万丈目の行動次第では次のターンで一瞬に刈り取られる危険性をはらんでいた。

 

(俺は知っているぜ。おジャマというカテゴリーは【おジャマ・レッド】を起点として、一気にフィールドにモンスターを特殊召喚して並ばせて、エクシーズ召喚をする手法ってことをな。第四ターン目の最後に俺が伏せたカードは通常罠【転轍地点(てんてつちてん)】だ。このカードは相手フィールドにモンスターが三体以上存在する場合、その内の一体を俺が選んで、相手は選んだモンスターか、選んだモンスター以外の自身のフィールドの全てのモンスターを墓地に送らなければならない効果だ。万丈目準、お前のフィールドにモンスターが三体以上並んだ瞬間、一気に地獄へ落としてやるぜ。そして、俺は遊馬に思いを伝えて、正妻になるんだ!)

 

 ナンバーズを介して得た知識を総動員して、アンナは心の内でガッツポーズをした。そんなこともなんて露とも知らずに万丈目はデッキトップに静かに指を添える。

 

「いくぜ、第五ターン目、ドロー!」

 

 大きな声を出して勢い良くドローする。そして引いたカードを見た万丈目は「良いカードが来たぜ」と胸の内で思った。

 

「まずは永続罠【おジャマパーティ】の効果発動だ。デッキから“おジャマ”カード一枚を手札に加え、その後手札を一枚選んで捨てる。俺がデッキから加えるのは二枚目の【おジャマ・ピンク】で、このままこのカードを捨てさせてもらうぜ。この瞬間、【おジャマ・ピンク】の効果発動。このカードが手札・フィールドから墓地へ送られた場合に発動可能、お互いのプレイヤーはデッキから一枚ドローし、その後手札を一枚選んで捨てる。アンナ、貴様も一枚ドローして、一枚捨てな」

「言われなくても!」

 

 第三ターン目と同じ流れで万丈目に促され、アンナが一枚ドローする。

 

(俺が引いたカードは通常魔法の【臨時ダイヤ】か。自分の墓地の攻撃力3000以上の機械族モンスター一体を守備表示で特殊召喚する効果だから、捨てるのが勿体ないぜ)

 

 投げやりな気分でアンナはドローしたカードをそのまま墓地へ捨てる。万丈目はというと、ドローしたカードを見て、ほんの僅か目を輝かせた。

 

(とうとう来たか! だが、あともう一枚足りない。ならば!)

 

 第三ターン目同様に万丈目は引いたカードをそのまま手札に加え、手札にあった【おジャマ・グリーン】を代わりに墓地へ捨てると、すぐさま次の行動(アクション)に移った。

 

「続けて俺は手札から通常魔法【貪欲な壺】を発動。自分の墓地のモンスター五体を対象として発動可能、そのモンスター五体をデッキに戻してシャッフルし、自分は二枚ドローする。俺は墓地にある【素早いモモンガ】二枚と【おジャマ・イエロー】と【おジャマ・ブラック】と【No.64 古狸三太夫】の計五枚をデッキに戻し、デッキからカードを二枚ドローするぜ!」

 

 手慣れた動作で万丈目は五枚のモンスターカードを墓地からデッキに戻すと、デッキから二枚ドローした。こうして万丈目の手札は三枚となった。そして、揃った手札に彼は胸の内で「よし!」と叫んだ。

 

「反撃の準備は整った! 覚悟しやがれ、アンナ!」

「攻撃力3400、あらゆる効果を無効化するモンスターを倒せるものなら倒してみろってんだ!!」

 

 万丈目の台詞にアンナが吠え立てる。それに対して万丈目は息を小さく吸い込んでから、はっきりと口にした。

 

「今から貴様を倒す儀式を行う」

 

 そうして、万丈目は手札から一枚のカードを掲げた。

 

「儀式魔法【高等儀式術(こうとうぎしきじゅつ)】を発動。レベルの合計が儀式召喚するモンスターと同じになるように、デッキから通常モンスターを墓地へ送り、手札から儀式モンスター一体を儀式召喚する。俺はデッキから【おジャマ・イエロー】二体、【おジャマ・ブラック】一体、【おジャマ・グリーン】一体を墓地に送るぜ」

 

 フィールドに魔法陣が現れ、生贄として墓地に送られたモンスターのレベルの数だけ焔が灯った瞬間、深淵より闇が溢れ出し、一体のモンスターを浮き彫りにさせていった。

 

「ザコどもを儀式の糧とし、終わり亡き世界の果てよりその真の姿を現せ! 儀式召喚! 出てこい、【終焉の覇王デミス(儀式・効果モンスター/星10/闇属性/悪魔族/攻3000/守3000)】!!」

 

 轟雷が鳴り響く。地獄で得た(はがね)の斧を以てその稲妻を切り裂いて現れたのは、闇の鎧を纏った強大な悪魔であった。デュエルアカデミアで見掛けたときよりも、さらなる進化と強化を得たモンスターの背中を見上げながら、万丈目は心の内で「懐かしい」と密かに思った。

 

「な、なんだ!? あの召喚方法は?」

『儀式召喚だ。手札に儀式魔法、儀式モンスター、そして儀式に捧げるのに必要なレベルの数になるためのモンスター数枚を揃え、その生贄用のモンスターを墓地に送ることで発動する召喚方法だ。【高等儀式術】で手札に生贄用のモンスターがいなくても発動できるようにしているが、いつの間に彼はあんなものを……?』

 

 アストラルからの説明を受けたとはいえ、基本的にエクシーズ召喚しか取り扱わない遊馬からすると、儀式召喚はとてつもなく奇異なものように思われた。遊馬だけでない、エクシーズ召喚をスタンダードとするこの世界において儀式召喚そのものが珍しいのだ。その証左に対戦相手であるアンナもぽかんとした表情で【終焉の覇王デミス】を見上げていた。

 

「け、けったいな召喚方法を使いやがって! だが、攻撃力3000もあったところで【No.81 超弩級砲塔列車スペリオル・ドーラ】の攻撃力3200には届かないぜ」

「誰も真正面からバトルするとは言っていないぜ? 【終焉の覇王デミス】の効果発動、一ターンに一度、2000ライフポイントを払って発動可能。フィールドの他のカードを全て破壊する! “ディマイズ・エンド”!」

 

 万丈目のからの命を受けて【終焉の覇王デミス】が鋼の斧を振り回し始めだが、ナンバーズに心を支配されたアンナはそれを見て「アハハッ!」と笑った。

 

「折角、説明したのに【No.81 超弩級砲塔列車スペリオル・ドーラ】の効果を忘れたのかよ! 【No.81 超弩級砲塔列車スペリオル・ドーラ】の効果発動! このカードのX素材を一つ取り除き、フィールドの表側表示モンスター一体を対象として発動可能、その表側表示モンスターはターン終了時まで、自身以外のカードの効果を受けなくなる! 俺が選ぶのは勿論【No.81 超弩級砲塔列車スペリオル・ドーラ】だ!」

 

 【No.81 超弩級砲塔列車スペリオル・ドーラ】が砲身からバリアを展開させる。このままでは【終焉の覇王デミス】の効果は不発に終わり、2000ライフポイントの支払い損に終わってしまう。遊馬が「効果を忘れちゃったのかよ、万丈目!」と責め、アンナが「とんだプレイングミスだぜ」と笑い、ポンタが「アニキ、何やってんだポン!?」と嘆くなか、万丈目は対戦相手を見据えたまま、絶望することなく勝負に挑んだ。

 

「俺は【No.81 超弩級砲塔列車スペリオル・ドーラ】の効果にチェーンして、魔法・罠ゾーンに伏せたカードをオープンするぜ! 俺が伏せていたカードは通常罠【ブレイクスルー・スキル】だ。相手フィールドの効果モンスター一体を対象として発動可能、その相手モンスターの効果をターン終了時まで無効にする! 言うまでもなく、対象とするモンスターは【No.81 超弩級砲塔列車スペリオル・ドーラ】だ!」

「なに訳の分かんないことをしてんだよ! 【No.81 超弩級砲塔列車スペリオル・ドーラ】は自身の効果であらゆる効果を受けないようになったんだから、意味ないぜ!」

「それはどうかな!」

 

 万丈目があまりにも意味深に笑うものだから、アンナは意味も分からずに焦ってしまった。

 

『遊馬。この場合、どのような処理が行われると思う?』

「え?」

『ヒントは“チェーン”処理だ。……3……2……1』

「あ、ちょっと、待って――」

 

 アストラルのカウントダウン内に遊馬が答えられないままに0を迎え、解答編と言わんばかりに万丈目が解説をしだした。

 

「チェーン処理は最後から順番に行われることになっている。つまり、今回の場合は【ブレイクスルー・スキル】→【No.81 超弩級砲塔列車スペリオル・ドーラ】→【終焉の覇王デミス】の順番で処理が行われるということだ。よって、【ブレイクスルー・スキル】で【No.81 超弩級砲塔列車スペリオル・ドーラ】の効果を打ち消すため、【No.81 超弩級砲塔列車スペリオル・ドーラ】は効果を失い、【終焉の覇王デミス】の効果によって破壊されることになる!」

 

 万丈目の言う通り、チェーン処理が行われる。【ブレイクスルー・スキル】により【No.81 超弩級砲塔列車スペリオル・ドーラ】の効果は打ち消され、【No.81 超弩級砲塔列車スペリオル・ドーラ】はありとあらゆる効果を無効化する効果を失ってしまった。

 

「そんな!? 無敵の【No.81 超弩級砲塔列車スペリオル・ドーラ】の効果が打ち消された!?」

「そういうことだ。……という訳で、改めて受け取ってもらうぜ、【終焉の覇王デミス】の効果を! “ディマイズ・エンド”!!」

 

 そこへ【終焉の覇王デミス】が追い打ちをかける。終わり亡き世界の果てより来た悪魔は鋼の斧を振り回すと、その風圧で自身以外のカードを全てを破壊してしまった。

 

「更に! 【終焉の覇王デミス】の追加効果により、破壊した相手フィールドのカードの数×200ダメージを相手に与えるぜ!! 400ポイントのダメージを受けろ!!」

 

 【No.81 超弩級砲塔列車スペリオル・ドーラ】と【転轍地点】の二枚が破壊されたことにより、アンナのライフが4000-400=3600に減ってしまった。

 

「ま、まさか【No.81 超弩級砲塔列車スペリオル・ドーラ】がこんなに早く、しかも呆気なくやられちまうとは! 俺のフィールドは空になっちまったが、ライフは3600、相手のモンスターの攻撃力は3000だから600残る! 次のターンのドローカードに賭ければ、まだ――!」

「おっと! 残念だが、俺のメインフェイズはまだ終わっちゃいないぜ、アンナ」

 

 高速で計算をするアンナに万丈目は非情にも手札最後のカードを発動させた。

 

「手札最後の一枚を発動するぜ。通常魔法【龍の鏡(ドラゴンズ・ミラー)】。自分のフィールド・墓地から、ドラゴン族の融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを除外し、その融合モンスター一体をEXデッキから融合召喚する。俺は墓地から【高等儀式術】で墓地に送った【おジャマ・イエロー】と【おジャマ・ブラック】を除外し、コイツを融合召喚する! 来い、俺の守護龍! 【始祖竜ワイアーム(融合・効果モンスター/星9/闇属性/ドラゴン族/攻2700/守2000/通常モンスター×2)】!!」

 

 古代からの風を巻き起こしながら、腕のない翼竜が万丈目のフィールドに舞い降りた。【高等儀式術】で墓地に送った通常モンスターを用いて、またもや見慣れない召喚方法を万丈目が使用したことに遊馬は驚きのあまり「うっひょー」と素っ頓狂な声を漏らした。

 

「つ、次は何なんだよ? 融合召喚?」

『手札から【融合】のカードと決められたモンスターカードを捨てることでエクストラデッキから指定された融合モンスターを召喚する方法だ』

「へぇ、万丈目はエクシーズだけでなく、儀式や融合も使うんだなぁ」

『そんな呑気なことを言っている場合か』

 

 感心の息を吐く遊馬の隣でアストラルは万丈目に対して警戒心を覚えていた。

 

『私はこれまで万丈目のデュエルの練習風景を何度も見ていたが、彼が融合と儀式を使う瞬間を見たことは一度として無かった』

「そういえば、俺も万丈目とは何回もデュエルの練習したけど、融合も儀式も一回も見たことが無いや。万丈目の奴、俺たちにバレないように今まで隠していたのかな」

『私はそうとは思えない』

「え?」

 

 どういうこと? と言いたげに見上げる遊馬にアストラルは話を続けた。

 

『恐らく万丈目は我々と別れてからの短い間でこの召喚法をデッキに組み込んだのだろう。彼の知識の吸収率、及び成長速度は君並に早い。いずれ我々とデュエルしたとき、どのようなデュエルをすることになるのだろうかな』

「そんなの俺が勝つぜ、たとえ万丈目が相手であっても!」

『チェーン処理すら未だに飲み込めていない君がか?』

「い、今飲み込んだからいいんだよ!」

 

 焦りながら返答する遊馬にアストラルは些かの不安を覚えたが、気にすべき点はそれだけでは無かった。

 

『彼は、万丈目準は要注意人物だ――無論、デュエリストとして、だけでなく』

「アストラル、何が言いたいんだよ」

 

 会話の流れが変わったことに鈍感な遊馬も流石に気づいたのか、少年の視線が剣呑なものに変わった。小鳥はアストラルの声が聞こえないため、急に変わった幼馴染みの雰囲気に少し驚きの表情を浮かべている。アストラルは万丈目が目の前のデュエルに集中して、こちらの話が聴こえていないことを良いことに遊馬に対してだけ話し掛けた。

 

『万丈目は記憶喪失のフリをしているが、そもそも彼は異世界から来た人物だ。この世界の者ではない』

「でも、それはお前だって同じだろ。お前もこの世界の住人じゃない」

『君の言う通り、私はアストラル界から来た使者だ。……そういえば、遊馬、君は以前言っていたな。当初、万丈目は異世界に来たことに気付いていなかったようだ、と』

「ああ、そうだ。俺はそうだと思っている」

『彼はこの世界に迷い込む前はデュエルアカデミアという教育機関に属していたらしいが、彼がこの世界に来たのは本当に“事故”みたいな意図しないものだったのだろうか。私にナンバーズを探すという目的があるように、彼にも何かしらの目的があるのではないのだろうか』

「万丈目も何かしらの目的があって来たとでも言いたいのか?」

 

 俺はそう思わないぞ、と言外に忍ばせながら遊馬はアストラルを睨みつける。

 

『だが、いずれ彼に全てを聞かねばならないときが来るだろう――君すらも知らない事実や君だけが知っている事実も含めて』

「アストラル、お前……っ!?」

 

 冷静な言い回しをするアストラルに遊馬は憤りを覚えたが、これ以上は小鳥に怪しまれるため、口にすることはなかった。

 

(確かに、異世界云々以外にも最近の万丈目は隠し事が多いように思うぜ。俺はずっと待っているけど、万丈目は自分が異世界人であることを俺たちに言い出す気は無さそうだ。もしかして、万丈目は俺のことを仲間だと思っていないのか? 信用していないから言い出さないのか? 俺は万丈目のことを仲間だと思っているのに)

 

 こちらの心配なんて気にも止めない万丈目の行動や年上だから年下の遊馬を守るという先程の発言も相俟って、遊馬は万丈目のことを以前と同じ気持ちで見ることは出来なくなりつつあった。

 

「遊馬、アストラルといったい何の会話をしているの? そろそろ万丈目さんとアンナのデュエルの決着が着きそうなのに」

 

 小鳥の声で遊馬はいつの間にか垂れていた頭を上げた。遊馬が視線を向けた頃には、ライフ3600のアンナに攻撃力3000の【終焉の覇王デミス】と攻撃力2700【始祖竜ワイアーム】のダブルダイレクトアタックが決まり、万丈目の勝利が決まった後だった。

 

「よっしゃあ! 俺様の勝ちだぜ!」

 

 遊馬とアストラルの会話の内容なんて露知らず、勝利した万丈目が大人気もなくガッツポーズを決めている。そして、アンナがダイレクトアタックを受けて倒れた際にひらりと落ちたナンバーズ【No.81 超弩級砲塔列車スペリオル・ドーラ】をさらっと回収すると、万丈目はダウンしたアンナを助け起こした。

 

「ナンバーズが賭かったデュエルなのに大事にならなくてホッとしたぜ。おい、大丈夫か?」

 

 万丈目に肩を揺すられて目を覚ましたアンナは瞬時に飛び退いて、フライングランチャーを手繰り寄せた。

 

「ど、何処触ってんだよ、スケベ!」

「アホか! 肩に手を置いただけだろが……って、銃口を此方に向けるな! 俺は今も昔も天上院くん一筋だ! 貴様みたいな暴走ガールに微塵も興味ないわ!!」

「お、俺だって……遊馬一筋だ」

 

 命の危険を感じた万丈目が大慌てで弁明する。それに対して、今までの勢いが嘘のようにモニョモニョとした小声で想いを口にするアンナに万丈目は天を仰ぎたくなった。

 

(なんてこったい! 小鳥とキャシーに留まらず、この娘にまで遊馬は想いを寄せられているのか! 俺は前の世界でもこの異世界でも誰とも浮いた話が無いってのに!)

 

 涙したくなる万丈目にポンタが半笑いで『どんまい』と触れられないのに肩を叩く真似をした。後で折檻されるのは言わずもがなであるのに随分と命知らずな行動である。

 

「とにかく! 俺がデュエルに勝利したのだ。寄越すもの、寄越してもらおうか!」

「? なんだよ、その手。アンティルールじゃねぇだろ」

「違ぇよ! ハートピースだよ、ハートピース!」

「ハートピース? 俺はWDCに参加してねぇから持って無ぇよ」

「は? え、じゃあ、このデュエルの意味は……?」

『全くのタイムロスだポン。ナンバーズをゲットしただけ貰いものポンね。そもそも自分から助けにやって来て、その言い草は……痛いポン! やめるポン!』

 

 固まる万丈目にポンタが追い打ちを掛ける。それがトドメになったのだろう、万丈目がポンタの依代となるナンバーズのカードに思いっきりデコピンをかました。痛がるポンタと八つ当たりする万丈目の横では、興味無さげにバニーラがくしくしと耳を掻いていた。

 

「予選は三日間しか無いのに、貴重な俺様の時間がぁぁ……」

「俺だって遊馬に、小学生時代に不意にされた告白のチャンスを復讐しに来たってのに全部パァになっちまったじゃねぇか。あ、あんなにも遊馬に小学生の時に構ってやって、今だって想っているのに……」

 

 万丈目はお袈裟なぐらいに項垂れながら、アンナは乙女のように自身の人差し指を突き合わせながら、双方違った形の落ち込み様を見せる。そんな万丈目を遊馬が「お〜い、万丈目〜」と呼んだ。遊馬にその気は無かったに違いないが、その声の調子がデュエルアカデミアの一年生時代の“あの同級生”が呼ぶ呑気なものと重なって聴こえ、そのことに無性にイラッとした万丈目はアンナにこっそりと吹き込んでやった。

 

「WDC参加者じゃないなら、俺に負けたところで関係ないから遊馬とデュエルしたら良いじゃねぇか」

「いいのか? お前に負けたら“正妻(せいさい)”は貰えないのに」

「そんなにも“制裁(せいさい)”が欲しいなら、いっそのこと遊馬から直接貰ってきたら良いじゃないか」

「ゆ、遊馬から直接“正妻”を?!」

「ああ、そうだ。遊馬とデュエルして直接貰ってこい。それに遊馬はデュエルに強い奴が好きだから、勝つことが出来れば、もしかすると貴様に惚れてくれるかもな」

「ゆ、遊馬が俺に惚れ……っ!!」

 

 遊馬がデュエルに強い奴が好きなのは本当だ、ただし恋愛的な意味ではなく。嘘ではない嘘を吹き込まれたアンナがフライングランチャーに跨って遊馬へすっ飛んで行くのを見ながら、万丈目は「俺みたいに時間ロスくらっちまえ」と遊馬がモテることへの僻みも相まって内心ほくそ笑んだ。案の定、デュエルしないと撃ち込むぞという脅迫を受けた遊馬の悲鳴がすぐに聞こえてきた。

 

「ま、万丈目さん! ナンバーズを回収したのにアンナの暴走が止まっていないんですけど」

「ああいうのは、もう一回デュエルでもすれば治まるさ。それより、小鳥ちゃん、ハートピースをくれないかい? ナンバーズに操られていたとはいえ、君に勝利した訳だし」

「え? あ、はい。では、どうぞ」

「サンキュな。それじゃあ、俺はこれで」

 

 ひらひらと手の平を振りながら、万丈目は少年少女たちに背を向ける。アンナに銃口を向けられ、YESとしか言いようが無い遊馬が「分かった、デュエルするって!」と自棄になって叫ぶ声が背中越しに聞こえてきて、万丈目は少し溜飲を下げることが出来た。そして去り際に、置き土産と言わんばかりに万丈目は戸惑う小鳥の耳元に告げてやった。

 

「アンナ、遊馬に勝ったら告る気らしいぞ」

「!? ……そ、そんなことさせるものですか! それに、遊馬に惚れるなんてきっと何かの間違いよ!」

 

 頬を赤く染めた少女が慌てて少年の元へ駆け寄っていく様子を見た万丈目は「俺にも幼馴染みがいればなぁ」ともう一度派手に落ち込んだ。

 

「それにしても、なんでアンナは“制裁”を欲しがったんだろうな。俺にはさっぱり分からん」

『きっとお互い、なんか勘違いしてるポン。そんな気がするポン』

 

 そんなことをナンバーズの精霊とぼやきながら、デュエルを始めた少年少女たちを置いて、万丈目はその場を後にしただった。

 

 

 

 

「夜七時になりました。予選一日目はこれにて終了となります。勝ち残ったデュエリストは明日に備えて、お早めにお休みください」

 

 日が暮れてしばらくした頃だ。ハートランド中に女性の声で予選一日目終了のアナウンスが鳴り響いた。丁度対戦相手と別れたばかりだった万丈目はDゲイザーで時刻を確認しながら「もうこんな時間か」と呟いた。

 

「三十分ぐらい前にあった停電時の放送といい、あの派手なスーツを着たおっさん――Mr.ハートランド氏自らアナウンスするかと思ったが、そうでも無いんだな」

『WDC開催者だから、きっと忙しいんだポン。それにしても、あの停電はびっくりしたポン」

「すぐに復旧したが、まさか大会中に停電するなんてな。デュエルに影響無かったから良かったぜ」

『なにはともあれ、アニキが今日は勝ち抜くことが出来て、オイラはホッとしたポン』

「エクシーズだけでなく、融合と儀式をデッキに組み込んだおかげだな。鉄子さんとボランティアスタッフのあの人には感謝したり無いぜ」

『あのボランティアスタッフ、オイラはきな臭いと感じるポン』

「おい、デュエルの恩人にそんな言い方は無いだろ」

『アニキは人を信じ過ぎだポン』

「人を信じなきゃ、この異世界で一人っきりでやっていけねぇよ。……さて、WDC一日目、勝ち抜けて終わったし、九十九家に帰ったら早速ハートピースを嵌めてみるか」

 

 ポンタと会話し終えると、万丈目は大きく伸びをした。つられて上を見上げると、未来都市ハートランドは明る過ぎて夜空に星は見えず、安定した光を放つ摩天楼群と月だけが目に入ってきた。

 

(嗚呼、本当に俺は異世界にいるんだな。おジャマ共もおらず、独りっきりで異世界。九十九家に拾われなかったら、他の人たちの助けが無かったら、いったい俺はどうなっていたのだろうか)

 

 見慣れつつある夜空とビルの下で、欠けたもので満たされたお腹を擦りながら、万丈目は感傷に浸った。とりあえず帰ろうと足を九十九家に向けようとした瞬間、雑踏の中に見慣れた紫髪が見えた。

 

『アニキ、あれって――』

「シャーク!」

 

 バニーラが長い耳をピクピク動かすほど、大きな声を出して万丈目は慌てて追い掛ける。走り出したは良いもの、手術により激しい運動が出来なくなっていた万丈目にとってそれは辛いもので、ようやく紫髪の少年こと神代凌牙に追い付いて、その肩を叩けた頃には青年の息は上がり切ってしまっていた。

 

「なんだ、サンダーか」

「はぁ、はぁ……シャーク、お前、WDCに、参加しないって、言って、いたのに、どうして、此処に?」

 

 凌牙を呼び止めることに成功した万丈目はつっかえながらも紫髪の少年に質問をする。そんな彼らの周りには既に人影は無く、車の音と影だけがすぐ隣を通り抜けている。奇しくも万丈目が凌牙を呼び止めた場所は、以前に遊馬やアストラル、小鳥たちとデュエルについて語り合った河川敷近くの、ビジネス街と住宅街を繋ぐ幹線道路がある橋の上だった。

 

「そういうサンダーこそ、どうして街にいるんだ? WDCに参加しないんじゃ無かったのか?」

 

 逆に質問を返された万丈目は息を整えながら、凌牙にはWDCに参加しないと断言していたことを思い出していた。

 

「え? いや、それはなんというか、等々力が勝手に参加登録しちまってな。それで参加することになったんだ。シャーク、お前は? お前も同じ理由なのか?」

「他人によって参加することになったのはサンダーと同じだ。だが、今の俺には優勝以外で参加しなくてはならない目的がある」

「目的?」

「復讐だ」

 

 復讐。

 凌牙の口から放たれたその二文字の単語に万丈目は目を瞬かせる。凌牙の後方にある、少し遠ざかったビル群の明かりが異様に眩しく感じた。

 

「サンダー。以前、アンタに話したことがあっただろ。どうしても勝たなくてはいけないと思ったデュエルで不正したことを。その時はどうして勝たないといけなかったのかの理由については話していなかったよな」

「それが関係しているのか?」

「ああ、そうだ。あの不正したデュエルの大会前のことだ、俺の大事な人が事故に巻き込まれて大怪我を負ったんだ」

「シャークの大事な人が、事故で大怪我を……」

 

 凌牙の告白を聞いた瞬間、万丈目は今の今まで気にしていなかったのに、左の薬指に巻かれた包帯が急に存在感を増したように思われた。凌牙は光に溢れた道路の反対側にある夜闇に染まった川を見下ろしながら、話を続けた。

 

「何重もの包帯に覆われた彼女を見て、俺は愕然とした。今までに無い無力感に襲われた。そんな状態で、心境でデュエルに集中できる訳が無かった。それでも、いや、それだからこそ俺は彼女に勝利を届けたかった。優勝することで彼女を元気付かせたかった。そして俺は勝ちたいあまりに、控え室にて退出した対戦相手がばら撒いたデッキ内容を覗き見てしまった。結果、そのことが露見し、不正と見なされて敗北した俺は表のデュエル界から追放されることとなった」   

 

 走り去る車のライトで凌牙の横顔に陰影が現れては消えていく。それはまるで万丈目が知らない紫髪の少年の一面を浮き彫りにするかのようであった。

 

「だが、それらが――彼女が事故に巻き込まれたことも、デッキをばら撒いたことも全て仕組まれていたことだと俺は“アイツ”から知らされた」

「アイツ? アイツって、誰に?」

「その時の対戦相手である(フォー)だ」

「フォー?」

 

 聞き慣れない名前に万丈目は思わずオウム返ししてしまう。

 

「サンダーはこの世界のことについて、まだ詳しく無いんだったな。Ⅳは極東デュエルチャンピオンで、今や有名なプロデュエリストの男だ」

「何故、そいつはそんな酷いことを? そこまでして大会に勝ちたかったのか?」

「Ⅳは『知りたかったらWDCに参加して、俺のところまで来い』と言って、こっちにハートピースを投げ付けやがった。だから俺はWDCに参加した。Ⅳから全てを聞き出すために、俺の大切な人を事故に巻き込んだⅣに借りを返すために」

 

 凌牙が万丈目の方へ顔を向ける。車のヘッドライトに照らされた彼の瞳は深海でも燃え盛るような憤怒の焔が宿っていた。その迫力と本気に万丈目は一瞬気圧されそうになったが、年上らしく冷静に問い返すよう努めた。

 

「そのことは遊馬に言ったのか?」

「伝えたさ。反対されそうな雰囲気だったから、とっとと撒いたけどな」

 

(シャークの言う通り、遊馬なら反対するに違いない。遊馬は『デュエルとは繋がりだ』と言っていたから、デュエルを復讐の“手段”に使おうとするシャークを許容できないだろう。……そういえば、この川の河川敷だったな、手段としてのデュエルの話を遊馬たちと交わしたのは)

 

 デュエルをなにかのための“手段”にしたくないと会話した場所が見える橋の上で、デュエルを復讐の“手段”とする話をするのは、なんて皮肉だろうか。

 

「サンダーも遊馬と同じく反対するか? サンダーだって、WDCに参加したのは(ゼクス)と名乗るアモンやらに会って、復讐するためだろ?」

「俺はアモンに勝利して奪われたものを――カードと誇りを取り返したいだけだ。復讐とは違う。それにアモンとは前の世界でも負けているからな、負けっぱなしというのは俺の性に合わん」

 

 万丈目がきっぱりと言い返すと、凌牙は眉間に皺を寄せながら本題と言わんばかりに切り出してきた。

 

「だが、その(ゼクス)も俺の復讐とは無関係では無いようでな」

「なんでアモンがお前の復讐に絡んでいるんだよ」

「名前だ。読み方こそ違うが、(フォー)(ゼクス)も数字の名前を名乗っている。偶然なんてことはあり得ないだろ」

 

(つまり、異世界から来た俺が九十九家に、龍可がナンバーズハンターであるカイトのグループに身を寄せたように、アモンもまたⅣが属するコミュニティに加わっていたということか。いや、待てよ……ということは!)

 

 いつもの迷推理ではない答えに辿り着いた万丈目は思わず凌牙に大声で詰め寄った。

 

「アモンはナンバーズを持っていた! もし(フォー)とアモンが手を組んでいるとしたら、Ⅳだってナンバーズを持っていることになるぞ! シャーク、それでもⅣと闘うのか!?」

「その程度のことで、俺の復讐の焔は消えやしない!!」

 

 凌牙からの怒気がこもった回答に万丈目は二の句が継げなくなってしまった。突如として二人の間を流れた沈黙を車の走る音やクラクションが埋めていく。詰め寄るあまり近付き過ぎていた万丈目の肩を押した凌牙は、彼から離れながら伝えた。

 

「復讐の邪魔をするなら、サンダーといえども俺は容赦しない」

 

 凌牙はナイフのように尖った視線と共に万丈目に拒絶の言葉を手向けた。

 

「もう俺に関わるな」

 

 それだけ言い残すと、凌牙は万丈目に背を向けて歩き出してしまっていた。万丈目も慌てて振り返ったが、既に彼は橋の向こうへ足を進めていた。その先にある住宅街はビジネス街よりも暗く、続く道も狭く細いように見えた。そんな暗く狭い細い道へ向かって遠ざかりつつある少年の背を振り返って見ながら、万丈目は『なにか言わなくては』と感じていた。

 

(シャークの奴め、折角、“転がりやすい坂道”から脱出したのに、また身を投じようとするなんて。だが、アイツの怒りは本物だ、そんな奴にいったい何を言えば良いのだろうか)

 

 引き止めなくてはならないのに引き止める言葉が思い付かない焦りに万丈目は拳を握り締めた。カードショップの閉店後に彼からこの世界のデュエルをレクチャーされた思い出が万丈目の頭の中を過っていく。次第に凌牙の背に“あの男”の後ろ姿が重なっていった――仲間が自分に関わって酷い目に合わないようにするため、仲間を遠ざけ、一人でいることを選んでしまい、そして辛いデュエルを重ねたが故にデュエルの楽しさを忘れてしまった彼の姿を。

 

 その幻影を視てしまった以上、万丈目はもう言わずにはいられなかった。

 

「それならさ、お前の復讐が終わったら、また楽しくデュエルしようぜ!!」

 

 万丈目らしくない発言に凌牙の足が止まった。

 

「アンタ、なにを言って――」

「お前、遊馬とデュエルするようになってから『俺として俺なりにデュエルに向き合う』って言えるようになったんじゃねぇか! 本当はお前も俺と同じようにデュエルを“手段”にしたくないはずだ! 俺にとってもお前にとっても、デュエルはFor(フォー)(~のため)ではなく、As(アス)(~として)なんだよ! それにな、復讐は目的じゃない、復讐こそが手段なんだ! 復讐なんて、また自分“として”やっていく“ケジメ”を付ける為の手段にしか過ぎないんだよ!」

「“ケジメ”を付けるための手段……」

「そうだ! 大事なのは――本当の目的は“けじめ”を付けた“後”なんだ。だから、“けじめ”を付け終わったら、心のわだかまりが消えたなら、また俺にデュエルをレクチャーしてくれよ。また遊馬と楽しくデュエルしてやってくれよ。神代凌牙として改めてデュエルに向き合ってくれよ!」

 

 次の最後のフレーズは帝の鍵を握り締めながら、胸が張り裂けそうな気持ちで――まるで“あの同級生の男”に伝えたかったかのように――万丈目は叫んでいた。

 

「シャーク。頼むから『俺に関わるな』なんて、そんな寂しいこと言わないでくれよ……っ!!」

 

 考えながら言ったので、内容は無茶苦茶だったかもしれない。それでも万丈目は伝えたいことを大声で言い切った。夜更けが近付いてきたからか、幹線道路を走る車の量が少しずつ減っていく。凌牙は足を止めて万丈目の言葉を聞き終えた後、何回かまばたきを繰り返し、それから静かに笑った。

 

「サンダー、必死過ぎだろ」

「バカヤロー。俺はいつだって全力なんだよ」

「知ってる」

 

 凌牙は(きびす)を返して万丈目に近付くと、顔をゆっくり覗き込んできた。もしかして泣いてた!? と焦った万丈目が目元を擦ろうとしていたが、凌牙は静かに問い掛けてきただけだった。

 

「普通、復讐はやめろって言うところだろ」

「遊馬ならそう言うかもしれんが、俺は万丈目サンダーだからな。お前の怒りを見て、理由を知ったら、そんなこと言えるかよ」

 

 ふん、と鼻を鳴らしそうな勢いで万丈目が意地っ張りのように回答する。

 

 万丈目の言う通り、彼は凌牙がナンバーズと闘うことこそ危惧していたが、復讐をやめろなんて一言も言ってなかったことに紫髪の少年は気が付いた。そして、凌牙の復讐という仄暗い感情を知っても、その気持ちを分かろうと、寄り添おうとする万丈目の姿に凌牙は少し救われたような気持ちになった。遊馬が自分の心を明るく照らし出す太陽ならば、万丈目は照らし出されたことで伸びた暗い影に寄り添ってくれる月に違いない、と改めて凌牙は思った。

 

「遊馬が『太陽』なら、やっぱりサンダーは『月』だな」

 

 橋を抜け、二人で閑静な住宅街を歩く。満月の形をした街灯が伸ばした影を踏みながら、思わず凌牙がポツリと漏らした言葉に万丈目は小首を傾げた。

 

「唐突になんだ、俺が『月』だと? 遊馬が『太陽』はともかく、この俺が『月』な訳があるか。いったいぜんたい俺の何処が『月』なんだ? あんな物静かな月なんて万丈目サンダーの柄ではない!」

『アニキ、そもそも太陽も月も喋ったりしないポン』

「イメージの話だよ、イメージ!! 急に話に割り込んでくるなよ、タヌキ!」

『折角、空気を読んで静かにしておいたのに! それにオイラにはポンタって名前があるポーン』

 

 以前に凌牙が想像した通り、万丈目は自身が月のようだと言われたことに対して、頓珍漢なことで怒っている。凌牙の発言に万丈目が大袈裟に肩を怒らすものだから、銀色の帝の鍵もまた大振りで左右に振れた。凌牙には視えないナンバーズの精霊と喧嘩する万丈目に、紫髪の少年は一呼吸置いてから話し掛けた。

 

「サンダー。俺は真相を知るためにもⅣを追い掛ける」

「そうか、無茶だけはするなよ」

「急に先輩風吹かせんなよ」

「おい、シャーク。忘れてるかもしれんが、俺のほうが年上なんだぞ」

 

 ハイビームで走り去る車を横目に、二人で年上で余裕があるからこそ心配していると忌憚なく相手に言えるのだ、と万丈目は思った。

 

「待てよ、サンダー。この世界のデュエル知識なら俺のほうが上だぜ?」

「シャークの知らないところで、俺もデュエルを重ねるうちに学んでいっているんだ。そんなこと言っていたら、俺とWDCの本選でデュエルすることになったとき、びっくりすることになるぞ」

「ならまずはそこまで生き残ることをお互い考えないとな」

「シャークこそ」

 

 口喧嘩のような会話をしつつ、チカチカ光る信号機を気にしながら二人は渡り切る。そんな風に、いつもの調子で会話する万丈目に凌牙は復讐という暗い焔が揺らめき、真相を知ってケジメをつけるという新たな決意の火が燃え始めつつあるのを感じた。しかし、一旦火が付いた復讐の焔は揺らめきこそすれど、消える気配は全くのゼロであった。

 

「なぁ、サンダー。もし俺が復讐の焔に身を焼かれそうになったら、俺の名を呼んでくれないか?」

「当然だ。嫌になるほど、呼んでやるさ」

 

  一軒一軒の窓から覗く明かりは温かい。そんな光の中、間髪なく、屈託なく応える万丈目に凌牙はひとまず安心感を覚えた。

 

「サンダーって、仲間思いだよな。昔から――前の世界からそうなのか?」

「そうでもないさ。もう後悔したくないだけだ。それに仲間思いなら遊馬の方がよっぽど当て嵌まる。どう育てたら、あんな仲間思いになるんだか」

 

 住宅街に入ってから、人とは両手がカウントするぐらいしかすれ違っていないというのに、万丈目は態とらしく人目を気にしながら大きく伸びをした。きっと、この話題を続けたくなくて誤魔化したいのだろう。それを感じ取った凌牙は、これ以上は詮索しない方が良い、と判断する。

 

(前も思ったが、恐らくサンダーは大切な仲間を助けられなかった過去があるのだろうな。そんな過去を後悔しているからこそ、サンダーは『遊馬ひとりに厄介事(ナンバーズ)を押し付けたくない』と言って自ら事件に突っ込んでいくし、俺に対しても、完全に復讐へ身を委ねないように呼び止め、寄り添おうとしてくれている)

 

 その寄り添おうとする気持ちが嬉しいのだ、と凌牙は心の内で改めて思った。

 

「そういうシャークこそ、仲間思いだと俺は思うぜ」

「俺か? 俺はただ義理堅いだけだ」

「なら、そこに兄妹思いを入れておけよ。大事な人って妹さんだろ?」

 

 まあるい街灯の下で、言い当てられた凌牙が目を白黒させていると、万丈目は「俺の師匠が妹を心配する目と同じだったから」と答えたもんだから、凌牙は「敵わないな」と頭を掻きたくなり、ポンタも『アニキ、よく分かったポンね』と感心した。

 

(小鳥ちゃんやキャシーだけでなく、アンナという奴にまで遊馬がモテるということを今日知っちまったからな。これでシャークの大事な人が恋人だったら、俺の立つ瀬があまりにも無さ過ぎる)

 

 あの遊馬ですらモテていて、これで凌牙の大事な人が恋人だったら滅茶苦茶悔しいから、そうでなければ良い、と思っていたことなんて、万丈目は口が裂けても言えないだろう。

 

「あーあ、俺も妹が欲しかったなぁ。“天使”にも妹がいるって言っていたし、ホント羨ましい限りだぜ」

「“天使”?」

 

 ガードレールに手を滑らせていた凌牙が首を傾げる。

 

「俺の命の恩人。名前知らないから、そう呼んでいるんだ。天使にも妹がいてさ、天使自身も凄いイイ奴だからシャークとも気が合うと思うぜ……って、あ、天使のことは内緒だってこと忘れてた。おい、シャーク、今すぐ忘れろ」

「無茶言うなよ、サンダー」

 

 笑いながら、凌牙はわざと踵を鳴らす。二人以外、誰もいない住宅街にその音はトンネル内のように響いた。先程まで復讐という仄暗い会話をしていたのが嘘のような明るい会話が出来ている事実に、これがきっとサンダーの魅力なのだろう、と凌牙は密かに思う。

 

「このWDCで俺はケジメはつける。サンダーもケジメつけろよな」

「あったりまえだ」

「あと、カイトにも気を付けろよ。アイツは悪魔みたいな奴なんだからな」

「それはこっちの台詞だ」

 

 交差点の別れ目に来たとき、凌牙が忠告してきた。なんだか年下扱いされたような気がして、万丈目はムッとした顔をしながらも頷いた。

 

『そういえば、アニキもオイラもカイトに会ったこと無かったポン。もしかすると知らないだけで既に会ってたりして』

「既にカイトに会っている可能性? 有り得ないな。確かにカイトとは会ったことも見たことも無いが、天使と違って悪魔みたいな奴なんだし、それに俺は万丈目サンダーなんだぞ、会った瞬間にビビビって来て分かるはずだ、多分」

 

 微塵も根拠の無い自信に満ち溢れた万丈目の回答にポンタは呆れ返ってしまう。何処までいってもサンダーらしさを失わない万丈目の姿に凌牙はプッと吹き出すものだから、万丈目が「おいコラ笑うな」と肩を怒らせる。

 

「サンダー、WDCの本選で会おうぜ」

「ああ、シャーク、楽しみにしてる」

 

 星屑のようにポツポツ光る街灯が照らす道を歩いて去っていく凌牙の背を見送ってから、万丈目も九十九家へ足を向ける。思っていた以上に住宅街の夜道は暗くも狭くも細くもなくて安心した。

 

(ケジメ、か)

 

 凌牙と別れた後、浮かぶ月を目にした万丈目は心の内で呟いていた。

 

(もし俺が“お前”より年上で余裕があったら、あのとき、独りで暗くて狭くて細い闇の道へ向かう“お前”を今宵のシャークのように止めれたのだろうか)

 月影に同級生を重ねて、ふぅと息を吐く。デュエルアカデミアの日々は卒業してから二年も経っていないのに、最早遠い過去のように思われた。

 

(我ながら感傷的だな)

 

 悪態を自らに吐いて、万丈目が首を回していると、そう遠くもない公園に佇む男女二人が見えた。二つの人影は顔を近付けて、そして――。

 

『アニキ、どうしたポン?』

「な、なんでもねぇよ。明日も早いし、とっとと帰るか」

 

 万丈目はポンタとバニーラの頭を――触れられないので――撫でくり回す仕草をして誤魔化すと、慌てて音を立てないように競歩の如くその場を立ち去った。

 

(まさか今日一日で九十九姉弟の恋愛模様を見ることになるなんて!)

 

 悔しいような恥ずかしいような、なんとも奇妙な気分である。見知った人物のキスシーンを意図せずに見ることになってしまった万丈目は顔を赤らめた後、どうして自身には恋人がいないのかと青褪めて落ち込んだ。そして九十九家へ急いで帰ると、居た堪れなさも相俟って、姉弟が帰ってくる前にと言わんばかりに物凄いスピードで就寝し、次の日も顔を合わす前に街へ繰り出したのだった。

 

 だから万丈目は知らない。

 その晩の停電が【No.7 ラッキー・ストライプ(エクシーズ・効果モンスター/ランク7/光属性/天使族/攻 700/守 700/レベル7モンスター×3)】を持ったチャーリー=マッコイが引き起こしたものであること、九十九明里とキスしていたのがそのチャーリー本人であること、そして、遊馬との間に小さな亀裂が入りつつあることに、この時の万丈目は微塵も気付いていないのであった。

 

 

 

つづく

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