【遊馬と万丈目で】 YU-JO!【時空を超えた絆】   作:千葉 仁史

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デュエル監修中の一幕

仁「指定したカードさえ使ってくれれば、どんなデッキでもOK」
弟「じゃあ、遊戯王5D'sのアンドレが使ったコンボするわ」
仁「なら、『おジャマ』が描かれている、あの強化カードも使おう」
弟「あ、ヤバい。余裕でオーバーキルする。映画登場のカードでガード、と」
仁「かなり早い段階で鉄壁に入りました」
弟「長作とのデュエルに使ったカードも使うか」
仁「これで守りは盤石!」
弟「……になったら面白くないから、その効果の隙を突く懐かしのカードを登場させて」
仁「それ、いつのカードだ」
弟「かなり昔の遊戯王のゲームに同梱していたカード三枚のうちの一枚。自分でもよく思い出せたなぁって思ってる」
仁「万丈目、ピンチだ! まずい!」
弟「このカードで守らせて、と。遊馬と交換したってことで使えるし」





結果、対戦相手側に攻撃力5000のモンスター登場!

二人「どうしてこうなった」


第五節 はじめてのエクシーズ召喚! 対戦相手は闇川……? ★

 

 耳元でピーチクパーチク喋られるほど、鬱陶しいものはない。デュエルアカデミアの高等部からカードの精霊を視る力を持ってしまった万丈目はその状態を嫌と言う程、味わっていた。お喋り・出しゃばりな《おジャマ》を筆頭に、自分には何故かへんてこりんで奇妙なカードの精霊が纏わりつくのだ――《アイツ》には格好の良い奴ばかり集まるくせに! プロデュエリストになってからもそれは変わらず、むしろ、わらわらと増えていき、一人暮らしのはずなのにそいつらのせいで部屋は狭くなるうえ、遠征先まで着いてこようとする始末だ。カードの精霊なので、借りているマンションの自室にカードを置き去りにすればいい話なのだが、そうすると遠征先から帰って来たときに近隣住民から「誰もいないはずなのに煩かったわよ」なんて奇怪な噂とクレームで住み辛さが増すので、荷物になるとは分かっていても、そのデュエル大会に使おうが使うまいが、最初から持っていく――連れていくことにしている。

だから、万丈目は彼らをU-20の大会にも連れて行った。無論、流石に大会中に騒がれたら大切なデュエルに集中できないので、デッキに入れていたおジャマ共を除いてホテルに置いていくことにしているが。私もプロデュエリストの試合を観たいのに~、と大会会場まで連れて行ってくれないことに拗ねる黒蠍盗掘団の【棘のミーネ】たちを無視して、万丈目はU-20の三位決定戦の観戦をするため、その日、ホテルを出発した。

 

『万丈目のアニキ~、エドの旦那との二回目のデュエル、緊張しなぁい?』

「フン、今回も俺様が勝利を戴くと相場は決まっているが、決勝戦で緊張しない馬鹿はいないだろう。なんで、そんな当たり前のことを聞くのだ?」

 

 異国の地である周りの景色を見ようともせず、ツカツカとU-20の会場であるホームへ向かう万丈目の耳元で、【おジャマイエロー】が耳元で息を吹きかけるように駄弁り始めると、ほかの二匹の兄も体をクネクネしながら追随する。

 

『明日はその大切な決勝戦で、今日は三位決定戦だけだからアニキが行く理由はまるでないじゃない』

『そうだよ、ブラック兄ちゃんの言う通り、万丈目のアニキはホテル一室で明日に備えてデッキ調整していた方がオイラは良いと思うんだけど』

『それとも』

 

 にゅるり、と万丈目の前に集合した三兄弟は揃って告げた。

 

『準決勝のこと、まだ――』

「うるさーい! 消えろ、ザコ共! どっか行っちまえ!」

 

 両手を広げ、オーバーリアクションに万丈目が叫ぶ。一人で考え事をしたいときに煩くされるのは本当に腹が立つものだ。全く、耳元でピーチクパーチク喋られるほど、鬱陶しいものはない! こんなことなら、カードの精霊が視える力なんて――しかも《アイツ》やヨハンより強くはない力なんて、全く以て欲しくない!

 

(そんなこと言ったところで、この力が消えることないだろうがよ)

 

 万丈目は苛々しながら『そんな冷たいこと、言わないでよ~』やら『冷たすぎて凍っちまうよ~』とか『万丈目のアニキ~』等と気持ち悪い声で反応するであろう、おジャマ共に備えた。だが、いつまで待ってもその応答はなかった。

 

「ザコ共?」

 

 返事がないことに不信感を抱いた万丈目が落としていた瞼を開けると、おジャマ共は一匹もいなかった。

 

「おーい、何処行ったんだ? おジャマ共、つまらん冗談はよせ」

 

 呑気に呼び掛けるが、やはり何の応えもない。訪れる静寂が教える事実に万丈目は体を震わせ、それでも信じられないと言わんばかりに声を荒げた。

 

「早く姿を現せ! 消えろとか毎度言っているだろ、今更本気にするなよ! アニキって、いつもみたいに呼べよ! なぁ!」

 

 それがどうにも懇願しているような響きをしていて、万丈目は頭を抱えそうになる。具現化し始める己の弱さに耐えかねて、万丈目が「違う!」と叫ぼうとした矢先、背後から気配がした。ザコ共? と振り向いてから気が付いた。そいつがカードの精霊ではなく、もっと大きな図体をしていて、確固とした存在感を放っていることに。万丈目の眼に刻まれる、振り下ろされる、鈍く光る、長い、鉄の棒は――。

 

 

 2

 

「万丈目?」

 

 肩を掴まれる。吃驚するあまり、万丈目は一歩踏み出すが、その足は空を切る。声を出す間もなく、石畳の階段から落ちそうになった彼をその肩を掴んでいた男――闇川が余った片手で支えた。

 

「大丈夫か? まさか、階段に疲れた余り居眠りするとは思わなんだぞ」

「闇川、余計なことするな! 俺は平気だ……って、放すな! 俺様を落とす気か!」

 

 何をしても文句を言うアルバイト先の先輩に闇川は静かに息を吐く。一度は緩みかけた、彼の腰を掴む力を強めながら、闇川は万丈目を階段に座らせる。

 

「万丈目、体力無さ過ぎじゃないか。振り返ったらお前がいなくて吃驚したぞ。しかも、階段に座り込んでダウンしていたとは。せっかく俺が六十郎師匠に、お前にデュエルの稽古付けて下さるよう話を付けたというのに、これでは決闘(デュエル)庵(あん)に着くころには日が暮れてしまうではないか」

 

 好きで体力が無いわけではない! と万丈目は怒鳴り散らそうと思ったが、腰かけた階段から立ち上がる元気すら未だ回復していないので、ぐっと耐える。昨日、万丈目が勇気を出して遊馬にお礼を伝えようとしたときに掛かってきた闇川からの電話の内容は「師匠にお前を決闘庵で稽古して下さるよう話を付けた。明日、決闘庵に来い」というものだった。決闘庵は遊馬が一皮剥けたところでもある。其処で修行したら強くなるかもしれない、と思い、闇川の誘いに乗ったのだが、如何せん、階段がきつ過ぎた。道案内する闇川に続く最中、決闘庵に続く石階段の、まだ中腹にも差し掛かっていないところで早々にバテた万丈目は、器用なことに半分居眠りして、白昼夢を見てしまったらしい。

 

(よもや、ザコ共の夢を見るとはな。忌々しい!)

 

 姦(かしま)しいおジャマ共の夢を見たからか、それとも、カードの精霊を視る力を失った事実を再度突き付けられたからか、万丈目は不機嫌に鼻を鳴らした。

 

「いっそのこと、俺が背負って決闘庵まで階段を上ってやろうか?」

「いらん! 俺は俺で俺をどうにかするのだ!」

 

 闇川の提案を一蹴すると、万丈目は踏ん張って立ち上がる。意地っ張りな男に、闇川はもう一度溜息を吐く。頬の汗を緑のベストで拭い、頂上にある決闘庵を睨みつけていた万丈目だったが、その瞬間、ピコンと閃いた。

 

 

 3

 

「フッ、やっと着いたな」

 

 頂上に着いた万丈目が、いの一番にゴンドラから降りる。初めて決闘庵に上ったとき、遊馬の祖母のハルから教えてもらい、利用した荷物運搬用のゴンドラを万丈目が思い出したおかげで、楽々と決闘庵に辿り着けたが、闇川は「これはズルではないのか」と一人呟く。

 

(今まで馬鹿正直にあの長い階段を上っていたのは何だったんだろう。……今度、師匠に米を買うようお使いに行かされたら、これを使うとしよう)

 

 闇川は軽いショックを受けながら、悪知恵が回る万丈目の後ろを歩いていく。それにしても、六十郎師匠は何処にいるのだろう? 道場だろうか、と万丈目と共に向かうと、かの師匠の気配はなく、代わりにその扉に半紙が貼られてあった。

 

『ターニヤちゃんとお茶会する約束が入った。因(よ)って、本日は稽古無しじゃ』

 

 わざわざ筆を使った達筆な走り書きに「さすが師匠」と感嘆する闇川の横で、万丈目は唖然としている。

 

「ターニヤちゃん……?」

「六十郎師匠が通うダンス教室のアイドルだ」

「ダンス教室ゥ?」

「師匠は足腰が鈍(なま)らないように社交ダンスをしている。彼女とは、其処で師匠の曾祖母と似たような名前ってことで仲良くなったらしい。確か、師匠の曾祖母の名前は――」

「ンなこと、どうだっていいわ! あンのクソ爺(ジジイ)! 《アイツ》のエースモンスターの木像は作ったくせに俺の《アームド・ドラゴン》を彫らないどころか、この俺様との稽古をすっぽかすとは、イイ度胸してやがる!」

 

 訳の分からないことをぼやきながらブチ切れる万丈目に、闇川は「ズルをした罰が下ったのでは?」と思った。こんチクショウ! と万丈目が半紙に手を掛ける。あ! と闇川が思わぬうちに、半紙が扉から剥ぎ取られた瞬間、糸が切れる音が微かに聞こえ、仕掛けられていた金(かな)盥(だらい)が万丈目の頭上に落下した。見事な罠(トラップ)である。目を回す万丈目を下敷きにした金盥には、扉に貼られていた半紙と同じようにメモが残されていた。

 

『剥がした罰じゃ、蔵の中の古本を虫干しすること!』

 

 やっぱり師匠は達筆だ、そしてズルは良くないな。呻く万丈目を他所に、闇川はぼんやりと現実逃避したのだった。

 

 その土倉は決闘庵の敷地内に入って、すぐ横にあった。正面に庵があるからか誰も気に留めず、良い言い方をするならば歴史を感じさせる、万丈目に言わせればオンボロの土倉である。錆び付いた扉を開けた瞬間に埃が吐き出され、逃げ出そうとする万丈目を闇川がとっ捕まえる。土倉の中は見事にガラクタばかりで、もう使わなくなったであろう家具や電化製品、中に何が詰められているのか考えたくもない、お菓子の空き缶やダンボール箱、そして今回のミッションたる古本が山みたいに乱雑に積まれてあった。

 

(闇川が一度クソ爺の元から出奔したのは、破門だけじゃなくてこき使われるのが嫌になったからでは?)

 

 だが、こうして戻ってきてこき使われているので闇川も満更ではないのかもしれない。つらつらとどうでもいいことを考えながら、観念した万丈目は適応な本をぽんぽんと叩く。舞い上がった埃に咳を零しつつ作業する万丈目に、闇川は「この倉は決闘庵よりも古いらしい」と聞いてもいないことを話し出す。

 

「前々から、この山の頂上にあったのを師匠の曽祖父が買い取った後に決闘庵を作ったと俺は聞いている」

「へぇ。なら、お宝でもあるんかねぇ?」

 

 興味無さげに万丈目は感想を漏らすと、積み上げた書籍を持ち上げる。欲張って重ね過ぎたからか、よろよろ・ふらふらしながら出入り口に向かうが、足元を何かに掬われ、万丈目は盛大にすっ転んでしまった。

 

「いってー! なんだよ……って、あれ?」

「賑やかな奴だな、どうした?」

 

 梯子を伝って、上段を見ていた闇川が降りてくる。万丈目の足元には、地下へ続く扉があった。この扉の取っ手に万丈目は足を引っ掛けてしまったようだ。

 

「地下へ続く扉? 師匠からは何も聞いていないな」

「もしかして、本当に宝が?」

 

 互いに首を傾げ、闇川と万丈目は顔を見合わせる。先に行動に移したのは万丈目だった。

 

「どれ、何が入っているのか、確認してみるか!」

「おい、万丈目! 勝手なことはやめろ!」

「俺は万丈目さんだ!」

 

 早速とばかりに取っ手に手を掛ける万丈目を闇川が叱る。地下へ続く扉の上で二人して、ぎゃあぎゃあ騒いでいると、蝶番が壊れ、声を出す間もなく万丈目と闇川は地下へ落ちてしまった。

 もうもうと煙のように埃が舞う。あまりにも急なことでチカチカする目頭を押さえながら、万丈目は立ち上がった。瞬きを数度繰り返し、暗闇に慣れると、その石畳の地下倉庫にズラリと並ぶ木像が目に入った。地上の決闘庵にあった木像とは程遠い完成度で、万丈目にはそれらがデュエルモンスターズを模倣したものだとは一発で気が付かなかった。

 

(もしかして、此処はクソ爺が作った木像の失敗作置き場?)

 

 だとしたら、闇川が知らないのも当然だ。後で六十郎を揶揄ってやろう、と万丈目は試作の木像を物色し始めた。これらを作り始めた時は本当に初心者だったのだろう、いったい何のモンスターがモチーフなのかすら判別付かない。ただ一つ言えるのは、何体も並んだ木像は全て、同じモンスターをモチーフにしているということぐらいだ。

 

(そんなに、そのモンスターを彫りたかったのか?)

 

 雪のように埃を被った木像の爪先から頭の先まで観察する。恐らくドラゴンなのだろう、翼はあるが、削り過ぎて針金のようになっていて、何体か折れているものもあった。膝に大きな突起があり、尻尾の先端は更に小さな突起が集中しているらしく、造形の難しいものに挑戦したということが伺い知れた。そもそも、隆々とした筋肉を創造したいのか、鋼のように固い皮膚を表したいのか、どっちつかずなものが多い。トドメにお腹に車輪のようなものが彫られていて、それが尚更このモンスターが何か分からなくさせていた。

 

(翼があるからドラゴンか? ……ということは、決闘庵に飾られていた《あの男》のフェイバリットカードの【E・HERO(エレメンタルヒーロー) フレイム・ウィングマン】や【E・HEROネオス】 みたいな戦士族でも、デュエル・キングこと武藤遊戯のエースモンスター【ブラック・マジシャン】みたいな魔法使い族でもないようだな。海馬社長の象徴たる【青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)】、丸藤亮ことカイザーが誇る【サイバー・ドラゴン】、ヨハン・アンデルセンの奥の手のカード【究極(きゅうきょく)宝玉(ほうぎょく)神(しん) レインボー・ドラゴン】にしては翼が細すぎるし、そもそも、こんなドリルみたいな突起がどれにも当てはまらない……って、この世界にしかないモンスターなら俺が知る訳ないか)

 

「おい、闇川。貴様は何のモンスターをモチーフにしているか分かるか?」

 

 くるりと振り返って、万丈目が闇川に話し掛ける。其処には、地下に落ちた衝撃で、地下倉庫にあったモヒカン頭の武士の石像に頭をぶつけ、白目を剥いている男の姿があった。

 

「え?」

 

 決闘庵で殺人事件発生! 石像に頭をぶつけ、闇川さんが死亡。犯人は万丈目準(19)容疑者――。瞬時に、九十九明里が記事にする光景が万丈目の脳裏に浮かんだ。冗談ではない! 万丈目は直ぐに闇川に近付く。

 

「おい、起きろ! 起きやがれ、闇川!」

 

 このままでは殺人事件の犯人である。往復ビンタでもしそうな勢いで万丈目が呼び続けると、闇川の目がカッと見開いた。

 

「お、起きたか。この俺様を心配させるんじゃ――」

「ポーーーン!!」

 

 出し抜けに奇妙な声で叫ぶ闇川に、万丈目は呆然とする。瞬きすら忘れた万丈目を尻目に、何故か目の下に隈を作り、赤鼻になった闇川は「やっと自由の身だポン!」とくるくると回ると、地上へ出る階段を無視して、ひとっ跳びで地下倉庫から出て行ってしまった。あまりの唐突な奇行にしばらく放心状態の万丈目だったが、慌てて階段を上り、闇川の後を追った。

 

 急に暗がりの土倉から明るい日の下に出たものだから、万丈目は眩しくて堪らない。その日差しのなか、側転やでんぐり返し、とんぼ返りしながら「ポンポポーン!」とあの奇妙な声を上げて、闇川は跳ね回っている。

 

(頭を打って、おかしくなったのか!?)

 

 決闘庵で殺人未遂事件! 被害者は闇川さんで、加害者は万丈目準(19)容疑者――。先程とは微妙に異なる、明里の記事が万丈目の脳裏に過(よぎ)った。明里さん、違うんだーっ! と裁判まで想像してしまう万丈目の視界に、この決闘庵から降りようとしている闇川が入り込む。あの状態で街まで降りられたら非常に困る! まだ言い訳の一つも思い付いていないのに! どうにかして止めなければ、と焦る万丈目だったが、決闘庵の玄関前に転がったままの金盥に気が付いた。

 

「このまま自由を謳歌するポン! ……ん?」

「逃がすかーっ!」

 

 ボウリングのように金盥を勢いよく転がし、万丈目は闇川の足に見事にヒットさせた。弁慶の泣き所に当たって、もんどり打って倒れ込む闇川を万丈目は上から抑え込む。

 

「もう逃げられないぞ、闇川」

「くそっ! オイラを放すポン! オイラは自由になるポン! もう誰の指図も受けないポン!」

 

 やいのやいのと抵抗する闇川を抑えていた万丈目に、まるで光明のように名推理が浮かんだ。そして、フッとニヒルに笑うと、万丈目は闇川の胸ぐらを掴んだ。

 

「分かったぞ、貴様が何を企んでいるか」

「!?」

 

 答えに自信があるのだろう。余裕の笑みを浮かべる万丈目に、闇川は「クッ」と悔しそうな声を漏らす。

 

「バレちゃあ仕方ないポン。そう、オイラの正体は――」

「貴様、頭がおかしくなった振りして、古本の虫干しをサボろうとしただろ」

 

 ポン!? 斜め方向過ぎる推理に、闇川が驚きの声をあげる。だが、万丈目は気にもせずに迷推理を披露し続ける。

 

「土倉の古本の虫干しが面倒臭くなった貴様は石像に頭をぶつけたのを幸いに頭がおかしくなった振りをして逃げようとした。だが、語尾に『ポン』を付けたり、鼻先を赤くして目の下に隈を付けたぐらいで、この名探偵万丈目サンダー様を出し抜こうとするとは笑止千万! 罰として、俺様の分まで働いてもらう!」

「それって単にお前が働きたくないだけポン!」

「問答無用! さぁて、きりきり働いてもらうとしようか」

 

 ちゃっかり自分はサボって、全てを押し付けようとする万丈目に闇川は全力で抵抗する。どうにかマウントポジを取っていた万丈目の下から這い出すと、闇川は彼から距離を取った。

 

「闇川! 貴様、そんなにも虫干しをしたくないのか!」

「いい加減、虫干しから離れるポン! もういい! これを見るポン!」

 

 闇川がカードを天に掲げる。そのカードはオーラを放ち、万丈目が見慣れた独特なフォントで64という数字を浮かびあがらせていた。

 

「ナンバーズ!? ……と言うことは、貴様、ナンバーズの精霊か!?」

「ようやっと、話が出来るポン」

 

(この男、オイラが言い出さなければ、もしかしてずっと気が付かなかったかもしれないポン……)

 

 頓珍漢な流れからようやく本流に戻ったことで、闇川に憑りついていたナンバーズの精霊は、呆れて怒らせていた肩を下げた。

 

「オイラはずっとあの石像に封印されていた妖(あやかし)ポン。けど、この男が激突したおかげで乗り移ることが出来たポン。オイラはこれで自由ポン!」

 

 ポーンポポン! と闇川が嘲笑う。

 

(《ずっと封印されていた》? ナンバーズはアストラルの記憶の欠片、世界を渡るときに障壁にぶつかってばら撒かれたと思っていたが、それよりも前にあったということか? それとも、ナンバーズがこの石像に接触した際に、封印されていた妖が力を得たというのか?)

 

 頭をフル回転させ、万丈目は今の状況を見極める。

 

「貴様、闇川をどうする気だ?」

「知れたこと! この男を使って、生前のオイラを裏切った男の生まれ変わりを見付けて、復讐するポン! その男のせいでオイラは死んだ後に未練が募って妖から悪霊になった挙句、石像に閉じ込められる羽目になったポン! この男はオイラの新しい身体、道具だポン!」

「ふざけるな! 闇川を返してもらうぞ!」

 

 闇川に憑りついた妖のあまりにも勝手な言い分に万丈目が怒鳴る。お約束的な仲間想いの発言に妖が嗤おうとした瞬間、はっきりと万丈目は言った。

 

「そいつはアルバイト先の後輩だ。そいつを連れていくなんて!」

「連れていくなんて?」

「シフトに穴が開いて、その皺寄せが俺に来るではないか! それに、俺は絶対にこんな大量の古本の虫干しを一人でなんかしたくはない!」

「お前、俺様主義過ぎるポン!」

 

 どれだけ虫干ししたくないんだ、と妖は思わず突っ込んだ。

 

「こうなれば、デュエルだ! 闇川を返してもらうぞ!」

「ポン! オイラに挑むとは、とんだ命知らずだポン! お前が負けたら、オイラの部下としてこき使ってやるポン!」

「それはこちらの台詞だ!」

 

 ああ言えばこう言うで向かい合った二人――いや、一人と一匹は決闘庵前で対峙した。何の覚悟もすることもなく始まるデュエルに、万丈目は知らず知らずのうちに唾を飲み込んだ。

 

「デュエルディスク、セット!」

 

 遊馬の動作を思い出しながら、万丈目は空高くDパッドを投げ飛ばす。青空に反射しながら展開したDパッドのデュエルディスクが彼の左腕に装着される。左腕に掛かる重みに昨夜の決意を感じながら、万丈目は作ったばかりのデッキを投入した。

 

「Dゲイザー、セット!」

 

 左目に特殊な片眼鏡を装着すると、「ARヴィジョン、リンク完了」という電子音声と共に数字の羅列がデュエルフィールドに降り注ぐ。一息吐いて、万丈目は対戦相手を視界に収める。対戦相手もデュエルの準備を整え終わっていた。瞬きすると、瞼の裏に何の感情もみせないアモンが浮かんだ。

 

(アイツとデュエルするまで、俺の復活の象徴であり、誇りのカード《アームド・ドラゴン》を取り戻すためにも、もう負ける訳にはいかない!)

 

 この世界の新たな仲間(カード)と共に、絶対に勝つ! 煌めきを放つ帝の鍵を握り締め、息を吸い込むと、万丈目は宣誓するように叫んだ。

 

「デュエル!」

 

 今、一人と一匹の決闘の号砲が鳴らされた。

 

 

4:デュエル

 

――1ターン目、闇川(?)。4000ライフ。

―手札:5枚

 

「先攻はオイラが貰うポン! 第1ターン目、モンスターカードを一枚セット、ターンエンド、ポン!」

 

 闇川に憑りついたナンバーズの精霊は一枚伏せただけで終わった。

 

 

――2ターン目、万丈目。4000ライフ。

―手札:5+1枚

 

「俺のターン! 第2ターン目、ドロー!」

 

 加えたカードを見ながら、万丈目はタクティクスを打ち立てていく。新たな仲間を手にすると、覚悟したかのように動き始めた。

 

「俺は手札から【おジャマ・レッド】(星2/光属性/獣族/攻   0/守1000)を表側攻撃表示で召喚!」

 

 万丈目のフィールドに、赤パンツを履き、黄色いスカーフを首に巻き付けた、頭が梅干しに似た奇天烈なモンスターが躍り出る。はっきり言って、可愛くもなければ、カッコよくもない。到底愛せそうにない造形に、妖はドン引きした表情になった。

 

「攻撃力0のモンスターを攻撃表示で召喚とか、無謀の極みだポン!」

「攻撃力だけが全てではないということを教えてやろう」

 

 嘲笑する闇川に、万丈目は見事な悪人面を浮かべると、大声で効果を口にした。

 

「【おジャマ・レッド】の効果発動! このカードが召喚に成功した時、手札から《おジャマ》と名のついたモンスターを四体まで自分フィールド上に攻撃表示で特殊召喚する事ができる! 現れろ! 俺様のエースモンスター【おジャマ・イエロー】(星2/光属性/獣族/攻0/守1000)よ!」

「攻撃力0の通常モンスターがエース? ちゃんちゃらおかしいポン!」

 

 手札から一枚抜き取り、万丈目は叩き付けるようにデュエルディスクに読み込ませる。【おジャマ・レッド】の導きにより、《おジャマ》と名のついたモンスターである【おジャマ・イエロー】が特殊召喚される。これまた気持ち悪いデザインのモンスターに闇川は顔を歪ませるが、その二体が同じレベルであることに更に眉間に皺を寄せ、万丈目はARヴィジョンによって具現化された【おジャマ・イエロー】に沸き上がろうとする感傷を抑え込むようにして声を発した。

 

「いくぞ! 俺はレベル2の【おジャマ・イエロー】とレベル2の【おジャマ・レッド】でオーバーレイ・ネットワークを構築! エクシーズ召喚!!」

 

 渦に二体のモンスターが光になって吸い込まれていく。初めて味わう感覚に、万丈目は全身が心臓になったような気分にさえ陥る。震える指先でデュエルディスクの、エクストラデッキが入ったポッケを開閉させる。一枚のカードを抜き取り、それを自分フィールドにセットしようとした瞬間、青年はその気分が《興奮》だと気が付いた。

 

「来い! 鉄子さんから貰った、俺のはじめてのモンスターエクシーズ! 【ダイガスタ・フェニクス】(ランク2/風属性/炎族/攻1500/守1100)!」

 

 エクシーズの渦から、飛び出したモンスターが暴風を巻き上げる。あまりの強風に万丈目は思わず目を瞑ってしまったが、その最中、幻を聴いた。

 

『見ろよ、万丈目』

 

 それは二度と聞くことのない、異世界にて自分たちが見捨ててしまったことで人間であることの総てを諦め、悟りを得てしまう前の、自分勝手で明るくて、好きだった頃の友人の声だった。

 

「十代!」

 

 暴風が止む。顔を上げた万丈目の目の前には、二つのオーバーレイ・ユニットを纏(まと)った青緑の炎の翼を持つ怪鳥が羽搏(はばた)いていた。

 

(これがエクシーズ召喚……! 俺の世界にはなかった新たな召喚法を、今、俺が使役した!)

 

「ポーン! 二ターン目からエクシーズ召喚とは、なかなかやるポン!」

 

 背格好に似合わず地団駄を踏む闇川を見て、万丈目は『今はデュエル中だ』と正気を取り戻す。

 

「【ダイガスタ・フェニクス】の効果発動! 一ターンに一度、このカードのエクシーズ素材を一つ取り除き、自分フィールド上の風属性モンスター一体を選択して発動できる! このターン、選択したモンスターは一度のバトルフェイズ中に二回攻撃が可能になる! 俺は風属性の【ダイガスタ・フェニクス】を選択! 自分で自分をどうにかしろ! 《エアリアル・フレアチャージ》!」

 

 オーバーレイ・ユニットを一つ吸収すると、【ダイガスタ・フェニクス】は甲高い雄叫びをあげ、オーラを振り撒く。途端、【ダイガスタ・フェニクス】の炎の翼は更に大きくなり、一度のバトルフェイズ中に二回攻撃が可能になった。

 

「バトルフェイズへ移行だ! 【ダイガスタ・フェニクス】で貴様の裏守備表示モンスターを攻撃!」

 

 万丈目の号令を受けた【ダイガスタ・フェニクス】は羽搏(はばた)きを一度すると、急転直下で闇川のフィールドの伏せモンスターに体当たりを仕掛ける。【ダイガスタ・フェニクス】の攻撃力1500より守備力が低かった闇川のモンスターは、破壊される瞬間にひっくり返り、効果を発動した。

 

「ポポン! オイラが伏せていたカードは【子狸たんたん】(星2/地属性/獣族/攻0/守800)! リバースした瞬間、デッキから【子狸たんたん】以外の獣族・レベル2モンスター一体を特殊召喚するポン!」

「チッ! リバースモンスターか!」

 

リバース(裏側表示のモンスターが表側表示になること)を引き金にして効果が発動するリバースモンスターに万丈目が舌打ちする。しかも、破壊こそできたが、守備表示のモンスターへの攻撃なのでダメージすら通らない。

 

「オイラは【素早いモモンガ】(星2/地属性/獣族/攻1000/守 100)を――表示形式に指定はないから攻撃表示でも守備表示でも好きにできるけど――表側守備表示で特殊召喚するポン!」

 

 闇川のフィールドに、獰猛な目付きをしたモモンガ型のモンスターが守備表示で特殊召喚される。

 

(懐かしいな、【素早いモモンガ】は俺の世界にもあったモンスターカードだ。コイツの効果は覚えている、破壊したら厄介なことになるってことも。だが、だからと言って放って置く訳にもいかない!)

 

 戦況を理解すると、万丈目は仕方なく【ダイガスタ・フェニクス】に「もう一度、【素早いモモンガ】に攻撃だ!」と指示を与える。自身の効果により一度のバトルフェイズ中に二回攻撃が可能になっていた、攻撃力1500の【ダイガスタ・フェニクス】の攻撃に、守備力100の【素早いモモンガ】は破壊され、墓地へ送られた。無論、守備表示なのでダメージは受けない。

 

「愚かだポン! 【素早いモモンガ】の効果発動! このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、自分は1000ライフポイント回復するポン! さらに、デッキから【素早いモモンガ】を任意の数だけ裏側守備表示で特殊召喚できるポン!」

 

 闇川のライフは1000回復して5000となり、デッキには同名モンスターは三枚まで投入できるので、倒されたモンスターの代わりにデッキから二体の【素早いモモンガ】を裏側守備表示で特殊召喚する。【素早いモモンガ】のレベルは2、この二体のモンスターを使い、次の闇川のターンでエクシーズ召喚するのは火を見るよりも明らかだ。

 

(……といっても、まだ二ターン目。そんなに身構える必要はないか)

 

 万丈目は一枚のカードを魔法・罠カードゾーンに伏せ、ターンエンドした。この考えが吉と出るか、凶と出るか、次のターンまで分からない。

 

 

――3ターン目、闇川(?)。5000ライフ。

―手札:4+1枚

―場 :【素早いモモンガ】×2体

―墓地:【子狸たんたん】【素早いモモンガ】

 

「第三ターン目! ドロー、ポン! オイラは【おとぼけオポッサム】(星2/地属性/獣族/攻800/守600)を攻撃表示で通常召喚するポン!」

 

 これで闇川のフィールドにはレベル2のモンスターが三体も揃った。もしかすると、この妖のナンバーズはレベル2×三体のモンスターエクシーズなのかもしれない。そう推察する万丈目の耳に、対戦相手からとんでもない台詞が入って来た。

 

「【おとぼけオポッサム】の効果発動、自分のメインフェイズ時、このカードの攻撃力よりも高い攻撃力を持つモンスターが相手フィールド上に表側表示で存在する場合、フィールド上に存在するこのカードを破壊する事ができるポン。【おとぼけオポッサム】、自壊するポン。《フェイク・ダイ》!」

「は?」

 

 【ダイガスタ・フェニクス】の攻撃力は1500、【おとぼけオポッサム】の攻撃力は800、ちゃんと条件は満たしている。擬死行動で有名な動物・オポッサム(Opossum)と名乗る通り、【おとぼけオポッサム】は自身より強い攻撃力を持つ【ダイガスタ・フェニクス】を見て飛び上がると、そのままひっくり返って死んだ振りをして、自壊――自身を効果破壊した。一ターンにつき一回ぽっきりの通常召喚権まで行使しての自壊に、万丈目には何が何だか分からない。だが、これはとんでもない悪夢の始まりだった。

 

「この瞬間、手札の【森の番人グリーン・バブーン】(星7/地属性/獣族/攻2600/守1800)の効果発動! 自分フィールドの表側表示の獣族モンスターが効果で破壊され墓地へ送られた時、1000ライフポイントを払って、手札に存在する【森の番人グリーン・バブーン】を特殊召喚するポン!」

「なんだと!」

 

 万丈目のモンスター【ダイガスタ・フェニクス】の攻撃力1500を優に上回る、攻撃力2600の、こん棒を持った厳めしい面をした猿人類が闇川のフィールドに攻撃表示で特殊召喚される。ライフコストを1000払う必要があったが、前のターンで【素早いモモンガ】の効果により1000ライフポイント回復しているため、5000から最初の値の4000に戻っただけなので、闇川は痛くも痒くもない。

 

「更に! オイラは手札から永続魔法カード【一族の結束】を発動するポン! 自分の墓地の全てのモンスターの元々の種族が同じ場合、自分フィールドのその種族のモンスターの攻撃力は800ポイントアップするポン! オイラの墓地にいる【子狸たんたん】【素早いモモンガ】【おとぼけオポッサム】の三体は全て獣族、【森の番人グリーン・バブーン】も獣族! よって、【森の番人グリーン・バブーン】の攻撃力は2600+800=3400になるポン!」

 

 おジャマたちが仲良く手を繋いでいる永続魔法カードは万丈目の見たことがないカードであった。第三ターン目で、攻撃力3000越えのコンボに青年は歯軋りする。そして気が付いた――まだ闇川のフィールドには手付かずのレベル2・獣族モンスターが二体も控えているという事実に。

 

「まだ終わらないポン! オイラは裏側守備表示のレベル2・獣族の【素早いモモンガ】二体をオープンして表側攻撃表示にして、オーバーレイ・ネットワークを構築ポン! エクシーズ召喚!」

 

 ひっくり返った二体のモンスターは光になると、混沌渦巻くオーバーレイ・ネットワークの円陣へ吸い込まれていく。それは遊馬のエースモンスター召喚の際に現れる、万丈目も見慣れた、ナンバーズ召喚時のものであった。

 

「現れろ、混沌と混迷の世を斬り裂く知恵者よ。世界を化(ば)かせ、【No.64 古狸(ふるだぬき)三太夫(さんだゆう)】(ランク2/地属性/獣族/攻1000/守1000)!」

 

 オーバーレイ・ネットワークの渦から飛び出したぶんぶく茶釜が変形し、64の数字をあしらった兜と赤鎧を身に纏った武士姿の狸となった。勿論、獣族のため、【一族の結束】の影響下に入り、攻撃力は1800となる。これで闇川のフィールドには二体のモンスターが並び、手札は二枚のままだった。

 

「レベル2モンスター二体だけでなく、二体とも獣族という縛りが入ったモンスターエクシーズの驚きの効果を見せてやるポン! 【No.64 古狸三太夫】の効果発動ポン! 一ターンに一度、このカードのエクシーズ素材を一つ取り除いて発動! 自分フィールド上に《影武者狸トークン》(獣族・地・星1・攻?/守0)一体を特殊召喚するポン。このトークンの攻撃力は、このトークンの特殊召喚時にフィールド上に存在する攻撃力が一番高いモンスターと同じ攻撃力――すなわち、攻撃力3400の【森の番人グリーン・バブーン】と同じになるポン! しかも、獣族ゆえ【一族の結束】の効果を受けて、800ポイントプラスの攻撃力4200のトークンになるポン!」

「マジかよ!」

 

 【No.64 古狸三太夫】のオーバーレイ・ユニットが、ぽんっと小気味いい音を立てたかと思うと、攻撃力?が4200となった《影武者狸トークン》に変化する。結果、闇川のフィールドには攻撃力1800の【No.64 古狸三太夫】、攻撃力3400の【森の番人グリーン・バブーン】、攻撃力4200の《影武者狸トークン》の三体が並んだ。

 

(たった第四ターン目でモンスターが三体、しかも、最高攻撃力4200だと!? 海馬社長が使いこなしたという伝説のカード【オベリスクの巨神兵】(星10/神属性/幻神獣族/攻4000/守4000)の攻撃力すら上回っているじゃねぇか! 語尾にポンとか、ふざけた言い回ししている癖に、なんつープレイングだ!)

 

 冷や汗が万丈目のこめかみを流れていく。アモン戦の時も第四ターン目でモンスターを五体も並べられているのにもかかわらず、このデュエルの前のターンで『……といっても、まだ二ターン目。そんなに身構える必要はないか』と甘く見て、一枚しか罠カードを仕掛けなかった己を殴りたくなった。

 そして、まだこの世界のデュエルを直視できていなかった事実に気付かされる。モンスターエクシーズを手に入れてからって、この世界では通用しない。一番肝心なスピードを万丈目は理解できていなかった。デュエルモンスターズとはいえ、万丈目の世界のものとは全くの別物として捉(とら)えていなくてはならなかったのだ。

 

「さぁて、終わりの時だポン」

 

 狸の癖して、肉食獣のように目を光らせながら、ぬらりと闇川が動き出す。

 

「準備は出来た、バトルフェイズに入るポン! まずは攻撃力1800の【No.64 古狸三太夫】で攻撃力1500の【ダイガスタ・フェニクス】を攻撃するポン! 《薙刀・十文字切》!」

「くっ!」

 

 攻撃力1800の【No.64 古狸三太夫】が手にしていた薙刀を振るい、攻撃力1500の【ダイガスタ・フェニクス】を破壊する。これにより、万丈目のライフは4000から3700まで減った。

 

「トドメ! 攻撃力4200の《影武者狸トークン》でプレイヤーにダイレクトアタック! 終わりだポン! これからはオイラが下僕として人間を――お前をこき使ってやるポン!」

「この万丈目サンダーを下僕だと!? 死んでも認めるかよ! 通常罠【カウンター・ゲート】発動! 相手モンスターの直接攻撃宣言時に発動可能、その攻撃を無効にする!」

 

 《影武者狸トークン》が大きく飛び上がり、プレスを仕掛けてくる。高笑いする狸の妖に、山よりも高いプライドの持ち主の万丈目が激昂し、唯一伏せていた罠カード――明里から貰ったパックに入っていた――をひっくり返して4200のオーバーキルアタックを阻止した。

 

「更に! 【カウンター・ゲート】を使ったプレイヤーはデッキから一枚ドローし、そのドローしたカードがモンスターだった場合、そのモンスターを表側攻撃表示で通常召喚できる。いくぜ、ドロー!」

 

(俺のデッキよ、応えてくれ! まだ相手のフィールドには攻撃力3400の【森の番人グリーン・バブーン】が控えている。此処でモンスターカードを引けなければ、3400のダイレクトアタックを受けてしまう!)

 

 果たして新しく投入したカード【カウンター・ゲート】は万丈目を救うのだろうか。だが、勝利の女神は万丈目に対して半目で微笑んだ。

 今の万丈目のデッキは《おジャマ》軸だ。つまり、差している(デッキにカードを入れることを《差す》という)モンスターカードはほとんど《おジャマ》である。そして、《おジャマ》シリーズは例外なく、攻撃力は0である。すなわち――。

 

「……俺が引いたカードは【おジャマ・ブルー】(星2/光属性/獣族/攻0/守1000)だ。コイツを攻撃表示で特殊召喚する」

 

 低テンションの万丈目とは裏腹に、テンテケテーン! と情けない効果音と共に、赤いパンツを履いた青肌の、攻撃力0のモンスターが攻撃表示で特殊召喚される。デッキ構築をしたのは昨夜、そして、これがそのデッキを使ったはじめてのデュエル。攻撃力0のモンスターしか入れていないことを忘れて、うっかり思い込みミスに万丈目は溜息すら出なかった。

 

「ポーンポポン! せっかくモンスターカードを引けたのに、攻撃力0じゃあ、引けても引けなくても大差ないポン! 攻撃力3400の【森の番人グリーン・バブーン】で、攻撃力0の【おジャマ・ブルー】を攻撃ポン!」

 

 【森の番人グリーン・バブーン】がこん棒を振り下ろすと、【おジャマ・ブルー】は為す術なく破壊され、万丈目は3400の貫通ダメージを受けたことにより、ライフは300まで減った。ナンバーズが絡むデュエルゆえ、万丈目自身に与えるリアルダメージもとてつもなく強い。それでも、両足で踏ん張り、無様な真似だけは回避する。

 

(くそっ! 俺のデッキに攻撃力4200の《影武者狸トークン》を超える攻撃力を持つモンスターはいない。死中に活路を見いだせない。せっかく、遊馬や等々力、鉄子さんたちが協力してくれたのに、万事休すか……)

 

『なんだよ、万丈目。もう諦めるのか』

 

 項垂れる万丈目の耳に、デュエルアカデミア高等部一年の頃の《アイツ》の声が蘇る。

 

(黙れ。運命に愛された貴様には分かるまい)

 

『ひっでぇ言い方するなぁ! でも、お前は仲間に愛されているじゃないか』

 

(仲間?)

 

『そうだぜ! それに諦めが悪くて、最後まで足掻くのがお前だろ? それを――』

 

『《かっとビング》って言うんだぜ、万丈目!』

 

 《アイツ》の声が、遊馬に変わる。万丈目は顔を上げた。デュエルディスクの墓地行きになったカードをしまう個所が光を零していた。脳内に閃きが走り、万丈目は叫んだ。

 

「【おジャマ・ブルー】の効果発動! このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、自分のデッキから《おジャマ》と名のついたカード二枚を手札に加える事ができる!」

 

 デッキから《おジャマ》と名のついた二枚の通常魔法カードを選び、相手に見せつける。これにより、万丈目の手札は3+2=5枚に増えた。

 

「攻撃力0のモンスター関係のカードを増やして何の意味があるポン? 手札を圧迫させるだけポン。オイラはこれでターンエンド、ポン!」

 

 闇川のライフは4000、フィールドに攻撃力1800の【No.64 古狸三太夫】、攻撃力3400の【森の番人グリーン・バブーン】、攻撃力4200の《影武者狸トークン》の三体が並び、万丈目のライフを300まで減らした第三ターンは幕を閉じた。

 

 

――4ターン目、万丈目。300ライフ。

―手札:5+1枚

―場 : なし

―墓地:【おジャマ・イエロー】【おジャマ・レッド】【おジャマ・ブルー】【ダイガスタ・フェニクス】

 

「最後まで――いや、勝利の瞬間まで足掻いてやるぜ! 第四ターン目! ドロー!」

 

 闘志を秘め、万丈目がカードをドローする。そして、第三ターン目で【おジャマ・ブルー】の効果で手札に加えたカードを掲げた。

 

「フィールド魔法【おジャマ・カントリー】発動!」

 

 この世界のカードをデュエルディスクが読み込み、ARヴィジョンにより周りの風景がおジャマたちの住む村へ変わっていく。気持ち悪いモンスターの、気持ち悪い故郷に、闇川はげんなりとした表情になる。

 

「一つ目の【おジャマ・カントリー】の効果! 一ターンに一度、手札から《おジャマ》と名のついたカード一枚を墓地へ送る事で、自分の墓地に存在する《おジャマ》と名のついたモンスター一体を特殊召喚する。俺は第三ターン目で【おジャマ・ブルー】の効果で手札に加えた通常魔法【おジャマジック】を墓地に送り、代わりに墓地から【おジャマ・ブルー】を守備表示で特殊召喚する!」

 

 この世界で新しく手に入れたカード【おジャマ・カントリー】の効果で、前の世界から持っていたカード【おジャマジック】を墓地へ送る。テンテケテーン! と気の抜けた効果音を鳴らしながら、墓地から【おジャマ・ブルー】が再び特殊召喚されるや否や、ほんの一瞬、ぐわんぐわんとフィールド上の全てのモンスターが揺らめいた。

 

「二つ目の【おジャマ・カントリー】の効果! 自分フィールド上に《おジャマ》と名のついたモンスターが表側表示で存在する限り、フィールド上に表側表示で存在する全てのモンスターの元々の攻撃力・守備力を入れ替える! つまり、【おジャマ・ブルー】の攻撃力は1000、守備力は0となる!」

「甘いポン! その際、ひっくり返るのは元々の攻撃力と守備力ポン! 【No.64 古狸三太夫】の攻守は同じ1000、【森の番人グリーン・バブーン】は攻撃力2600・守備力1800、《影武者狸トークン》は攻撃力?・守備力0! 攻撃力?の場合、元々の攻撃力は0として扱うポン。そして、【一族の結束】の効果は最終的な攻撃力に加算されるポン! すなわち、【No.64 古狸三太夫】の攻撃力は1000+800=1800、【森の番人グリーン・バブーン】の攻撃力は1800+800=2600、《影武者狸トークン》に至っては、攻守ともに0だから、ひっくり返っても、攻撃力は0。そこに、自身の効果および【一族の結束】による上昇値が加算されるから、変わらず4200のままポン!」

「へぇ、【No.64 古狸三太夫】は【おジャマ・カントリー】の影響下には入らないのか」

「何がそんなに嬉しいポン?」

 

 せっかくカードを展開したというのに、あまり変わらない戦況。それでも、悪人面で口端をニンマリと上げる万丈目に妖は訝し気に尋ねる。

 

「俺様が扱う《おジャマ》と相性が合うんだ。喜んで当然だろうが」

「厚かましいポーン! それを《捕らぬ狸の皮算用》っていうポン!」

「狸の癖して、その諺、使っていいのかよ」

 

 勝利して、ナンバーズを得る気でいる万丈目に狸の妖がポンポン噴火したように怒る。

 

「【おジャマ・カントリー】の効果で【おジャマ・ブルー】を復活させるために墓地へ送った、通常魔法【おジャマジック】の効果を発動するぜ。このカードが手札またはフィールド上から墓地へ送られた時、自分のデッキから【おジャマ・グリーン】(星2/光属性/獣族/攻0/守1000)、【おジャマ・イエロー】、【おジャマ・ブラック】(星2/光属性/獣族/攻0/守1000)を一体ずつ手札に加える!」

 

 デッキから三色の通常モンスターを加えたことにより、万丈目の手札が七枚になる。二枚目の【おジャマ・イエロー】を見て、青年は思わずニンマリと声も出さずに笑った。

 

(ザコばっかり手札に増やして、いったい何の意味が……って、【おジャマ・グリーン】【おジャマ・イエロー】【おジャマ・ブラック】は全て同じレベル2! しかも、相手はまだ通常召喚を行ってはいないポン!)

 

 エクシーズ召喚を危惧する狸を前にして、万丈目はこのデュエルを如何にして勝利するかを考えていた。

 

(俺はまだ通常召喚していない。そして、手札にはレベル2のザコ共がいる。エクシーズ召喚をしようと思えば出来るが、俺が持つモンスターエクシーズでは、タヌキ率いるモンスター共の攻撃力に到底敵わない。だが、守りに優れたモンスターエクシーズはいる。しかし、そいつを召喚したところで、戦局を長引かせ、下手すると余計不利になるだけの可能性も高い)

 

 この世界の召喚法・新たなカードを得て万丈目のタクティクスの幅は広がったが、かえってそれが彼を惑わせていた。

 

(でも、何かしなければ。うだうだ考えても仕方ない。いったい、どれをエクシーズ召喚すれば――)

 

『万丈目さん、貴方には膨大な経験に則った、一朝一夕では手に入らない《センス》と《閃き》があるように思われます』

 

 不意に等々力の声が蘇る。悩むあまり頭を垂れ、手札に万丈目の唇が触れたことで、あの時、背伸びして、最低な告白をする彼の唇を人差し指で封じた等々力の仕草が記憶から浮かび上がる。

 

(このデッキは構築してから一日しか立っていない。信頼関係なんて、まだ築けていない。ドロー力だって、俺にはない。では、何を信じるか。……ならば、今までデュエリストとして培ってきた《センス》と《閃き》を信じるしかない!)

 

 星屑のように、帝の鍵が閃光を散らした。

 

「俺は永続魔法【暗黒の扉】を発動! お互いのプレイヤーは、バトルフェイズにモンスター一体でしか攻撃する事ができない。そして、俺は魔法・罠ゾーンにカード一枚伏せてターンエンドだ!」

 

 万丈目の手札が五枚になる。結局、エクシーズ召喚することなく、万丈目はターンエンドしたのだった。

 

 

――5ターン目、闇川(?)。4000ライフ。

―手札:2+1枚

―場 :【No.64 古狸三太夫】(攻撃力1800)【森の番人グリーン・バブーン】(攻撃力2600)《影武者狸トークン》(攻撃力4200)

―魔法:【一族の結束】

―墓地:【おとぼけオポッサム】【素早いモモンガ】×2体【子狸たんたん】

 

―フィールド魔法:おジャマ・カントリー

※万丈目のフィールドに【おジャマ・ブルー】がいるため、攻守反転している

 

「せっかくのエクシーズ召喚のチャンスを棒に振るなんて、おばかさんだポン。第五ターン目、ドロー! そして、ドローフェイズ後のスタンバイフェイズで発動ポン! 第三ターン目で自壊した【おとぼけオポッサム】の効果発動! 自分のスタンバイフェイズ時、このカードの効果で破壊されたこのカードを墓地から特殊召喚する事ができるポン! 甦れ、【おとぼけオポッサム】!」

 

 闇川のフィールドに四体目のモンスターが特殊召喚される。

通常召喚でもう一体レベル2モンスターを召喚して、エクシーズ召喚する気か! と身構える万丈目に、対戦相手はチッチッと人差し指を振った。

 

「【暗黒の扉】なんて時間稼ぎにすらならないポン! オイラは【おとぼけオポッサム】をリリースして、【ツインヘデッド・ビースト】(星5/炎属性/獣族/攻1700/守1900)をアドバンス召喚!」

 

 場の一体のモンスターをリリースして、手札からレベル5以上のモンスターを通常召喚――アドバンス召喚を行う。闇川のフィールドに鼻息荒く現れたモンスターの造形はケンタウロスに近いだろう。だが、本来、人間であるはずの頭は炎の鬣(たてがみ)を持つ双頭の獅子になっていた。【おジャマ・カントリー】の効果で攻守反転しつつも、闇川のフィールドに躍り出た獣族モンスターは【一族の結束】の恩恵を受け、攻撃力1900+800=2700となった。

 

(随分、懐かしいモンスターを!)

 

 万丈目の顔付きが険しくなる。彼の世界にもあったカードだ、効果を知らない訳がない。

 

「このカードは一度のバトルフェイズ中に二回攻撃できるポン! 【暗黒の扉】の効果内容は、お互いのプレイヤーはバトルフェイズにモンスター一体でしか攻撃する事ができないだけで、一体のモンスターで二回攻撃してはいけないとは言ってないポン! 守備表示モンスターを破壊した後、二回目の攻撃のダイレクトアタックで終わりポン!」

 

 バトルフェイズに入るポン! と闇川が宣言する。

 

「【ツインヘデッド・ビースト】で【おジャマ・ブルー】で攻撃! これでお前の負けポン!」

「まだ何も成し遂げていないってのに、終われるかよ! 通用罠発動、【攻撃の無敵化】! バトルフェイズ時にのみ、以下の効果から一つを選択して発動できる。一つ目、フィールド上のモンスター一体を選択して発動可能、選択したモンスターはこのバトルフェイズ中、戦闘及びカードの効果では破壊されない。二つ目、このバトルフェイズ中、自分への戦闘ダメージは0になる」

 

 はじめて遊馬がシャークとデュエルする際、デッキを再構築するために万丈目のサイドデッキのカードと交換した通常罠カードが発動された。

 

「この期に及んで、また防御カード!? お前はどっちを選択するポン!」

「二つ目! このバトルフェイズ中、自分への戦闘ダメージは0になる効果を選択するぜ!」

 

 苛々した闇川に、万丈目が二番目の効果で応える。すると、見たことのないヒーローとそのヒロインが現れ、星降るバリアを張って万丈目だけをガードする。守られなかった【おジャマ・ブルー】は【ツインヘデッド・ビースト】によって破壊された。

 

「この瞬間、再び【おジャマ・ブルー】の効果発動! このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、自分のデッキから《おジャマ》と名のついたカード二枚を手札に加える事ができる!」

 

 第三ターン目と同じように、万丈目はデッキから《おジャマ》と名のついた二枚のカードを選び、相手に見せつける。これにより手札は5+2=7枚になり、万丈目は心の内で嗤った。

 

「キーッ! このバトルフェイズ中、相手への戦闘ダメージは0になるから、【ツインヘデッド・ビースト】でもう一度攻撃しても何の意味がないポン! なんで、たかだか残り300ライフが削れないポン!」

 

 ヒステリックに叫んだ後、闇川に憑りついたナンバーズの精霊はメインフェイズ2へ移行する。

 

「【No.64 古狸三太夫】の効果発動ポン! 一ターンに一度、このカードのエクシーズ素材を一つ取り除いて、自分フィールド上に《影武者狸トークン》一体を特殊召喚するポン。このトークンの攻撃力は、このトークンの特殊召喚時にフィールド上に存在する攻撃力が一番高いモンスターと同じ攻撃力になるポン! 一番攻撃力が高いのは第三ターン目で特殊召喚した攻撃力4200の《影武者狸トークン》ポン! 加えて、トークンとはいえ獣族だから【一族の結束】の効果を受けて、800ポイントプラスの攻撃力5000のトークンを特殊召喚ポン!」

 

 とうとう、攻撃力5000の化け物トークンが召喚される。コイツを上回る攻撃力なんて、到底出せっこないだろう。

 

「ポーンポポン! さぁ、どうやって攻撃力5000のトークンを倒すポン? もう無理ポン! 諦めるポン! 絶望するポン!」

「絶望しろ、だと? ふざけろよ。俺が絶望するなど、この俺が認めない限り存在しない!」

「減らず口を! オイラは最後に魔法・罠ゾーンにカード一枚を伏せて、ターンエンド!」

 

 悲壮感なんて一ミリも感じさせずに万丈目が反論するものだから、ナンバーズの精霊の苛立ちは隠せそうもない。盤石の構えでフィールドを整えた闇川はターンエンド宣言した。

 

 

――6ターン目、万丈目。300ライフ。

―手札:7+1枚

―場 : なし

―魔法:【暗黒の扉】

―墓地:【おジャマ・イエロー】【おジャマ・レッド】【おジャマ・ブルー】【ダイガスタ・フェニクス】

 

―フィールド魔法:【おジャマ・カントリー】

※万丈目のフィールドに《おジャマ》モンスターがいないため、攻守反転していない

 

 状況を整理しよう。闇川が召喚したモンスターたちは【一族の結束】で攻撃力を底上げされ、《おジャマ》と名の付くモンスターが万丈目のフィールドからいなくなったことで【おジャマ・カントリー】の攻守反転効果が消えている。攻撃力1800の【No.64 古狸三太夫】、攻撃力3200の【森の番人グリーン・バブーン】、攻撃力2500の【ツインヘデッド・ビースト】、攻撃力4200の《影武者狸トークン》、攻撃力5000の《影武者狸トークン》の計五体が闇川のフィールドに獣らしく犇(ひし)めいている。そして、魔法・罠ゾーンに一枚のカードが伏せられている。

 

(オイラが伏せたカードは永続罠【吠(ほ)え猛(たけ)る大地】ポン。自分フィールド上に存在する獣族モンスターが守備表示モンスターを攻撃した時、その守備力を攻撃力が超えていれば、その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える効果ポン。更に、この効果が適用された事によって相手ライフに戦闘ダメージを与えた時、相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター一体の攻撃力・守備力は500ポイントダウンまでするポン。つまり、相手が時間稼ぎでまた守備表示で召喚しても貫通攻撃して一貫の終わり、ジ・エンド! ポポン、散々オイラを手間取らせた罰ポン、精々こき使ってやるポン!)

 

 ライフアドバンテージもフィールドアドバンテージも、ナンバーズの精霊が上回っていた。万丈目が上回っているのは手札アドバンテージのみだ。だが、それこそ勝因になるのだ、とでも言いたげに万丈目は対戦相手から目を反らさずにターンの幕を開けた。

 

「いくぜ! 第六ターン目、ドロー! 俺は第五ターン目の【おジャマ・ブルー】の効果で手札に加えた【おジャマ・レッド】を通常召喚するぜ!」

 

 二枚目の【おジャマ・レッド】がフィールドに参上する。おまたせ! とばかりに尻を振るモンスターに「もう効果は分かっているから怖くないポン」と闇川は呟いた。

 

「【おジャマ・レッド】の効果発動! このカードが召喚に成功した時、手札から《おジャマ》と名のついたモンスターを四体まで自分フィールド上に攻撃表示で特殊召喚する事ができる! 現れろ、ザコ共!」

 

 すると、万丈目は手札三枚も掴み、一気に【おジャマ・グリーン】【おジャマ・イエロー】【おジャマ・ブラック】の三体を続けて自分フィールド上に特殊召喚させた。

 

「一気にレベル2モンスターを四体も!? だけれども、フィールド魔法【おジャマ・カントリー】により、お前のフィールド上に《おジャマ》と名のついたモンスターが表側表示で存在する限り、フィールド上に表側表示で存在する全てのモンスターの元々の攻撃力・守備力を入れ替わったところで、そんな小手先騙しで勝ち目なんて無いポン! エクシーズ召喚しても、無駄ポン!」

「おい、タヌキ。いったい誰がエクシーズ召喚するって言ったんだ?」

「ポン!?」

 

 バリバリの悪人面で此方を見詰める人間の男に、ナンバーズの精霊は悪寒を覚える。そして、その寒気は現実のブリザード・ハリケーンとなった。

 

「俺様は手札から第五ターン目の【おジャマ・ブルー】の効果で手札に加えた通常魔法【おジャマ・デルタハリケーン!!】を発動! このカードは、自分フィールド上に【おジャマ・グリーン】【おジャマ・イエロー】【おジャマ・ブラック】が表側表示で存在する場合に発動可だ。通常モンスター・レベル2・攻撃力0というザコ中のザコという縛りが入ったモンスター三体が揃ったときにのみ発動できる、驚きの効果を見せてやろう。効果内容は至極簡単単純明快! 相手フィールド上に存在するカードを全て破壊する!」

「ポン……だと……!?」

「ザコ共、祭りだ! 攻撃力だけが全てではないということを教えてやれ!」

 

 手札が三枚まで減る。万丈目のフィールド上にいた三匹のザコ共は、【おジャマ・グリーン】を【おジャマ・イエロー】と【おジャマ・ブラック】が宙に放り投げ、三角形(デルタ)を描く。魔力の陣の圧が高まり、万丈目の掛け声とともにハリケーンは発射された。

 

「【おジャマ・デルタハリケーン!!】」

 

 ぶっ放された魔力砲が闇川のフィールドを真っ平らにしていく。攻撃力が高い? そんなことお構いなしに、攻撃力2600の【森の番人グリーン・バブーン】、攻撃力2700の【ツインヘデッド・ビースト】、攻撃力4200の《影武者狸トークン》、攻撃力5000の《影武者狸トークン》の四体と伏せカードの永続罠【吠猛る大地】と永続魔法【一族の結束】すら破壊していく。その光景を見ながら、万丈目は「なんだ、あの尻と尻を合わせる気色悪い演出はないのか。やっぱり、ARヴィジョンだな」と寂しく思った。ハリケーンが通り過ぎた後の闇川のフィールドに残ったのは、表側攻撃表示の攻撃力1000の【No.64 古狸三太夫】の一体だけだった。

 

「【No.64 古狸三太夫】には、もう一つ効果があるポン。自分フィールド上にこのカード以外の獣族モンスターが存在する限り、このカードは戦闘及びカードの効果では破壊されないポン」

 

 唯一残された自分自身――ナンバーズを見ながら、苦々しく精霊は告げる。

 

「成程、だから《影武者狸トークン》は獣族――影武者を倒せない限り、本物は倒せないって訳か」

 

 他の獣族モンスターは全て飛ばされてしまったが、その獣族モンスターがいたおかげで【No.64 古狸三太夫】は飛ばされずに済んだらしい。

 

「仕上げに入るぜ。【おジャマ・カントリー】の効果発動! 一ターンに一度、手札から《おジャマ》と名のついたカード一枚を墓地へ送る事で、自分の墓地に存在する《おジャマ》と名のついたモンスター一体を特殊召喚する。俺は通常魔法【おジャマッスル】を墓地に送り、代わりに墓地から【おジャマ・ブルー】を攻撃表示で特殊召喚する!」

 

 手札が二枚になり、まるで戦隊もののように万丈目のフィールドが《おジャマ》五色で染まった。しかも、【おジャマ・カントリー】の効果で攻守がひっくり返っているため、それぞれのザコ共の攻撃力は1000となる。【No.64 古狸三太夫】の攻守は1000、ザコ共の攻撃力も同じ1000なので、一体だけ【No.64 古狸三太夫】に自爆特攻させた後、そのまま残りの四体で相手プレイヤーに総攻撃すれば、闇川のライフ4000-(1000×4体)=0で勝てる……はずだった。

 

「ポーンポポン! 肝心なことを忘れているポン!」

 

 鬼の首を取ったように闇川が嘲笑う。

 

「自分で発動した【暗黒の扉】のこと、すっかり忘れているポン! 永続魔法【暗黒の扉】の効果は、お互いのプレイヤーは、バトルフェイズにモンスター一体でしか攻撃する事ができないポン。自分で発動したカードのせいでこのターンをラストターンに出来ないなんて、とんだお笑い種(ぐさ)だポン!」

「それはどうかな?」

「ポ?」

 

 余裕綽々(しゃくしゃく)に応える万丈目に、ナンバーズの精霊の笑いが引っ込む。そして、万丈目は手札二枚のうちの一枚を手に取った。

 

「装備魔法【団結の力】を発動、装備モンスターの攻撃力・守備力は自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター一体につき、800ポイントアップする。俺はコイツを【おジャマ・イエロー】に装備する! 俺のフィールドにはザコ共が五体存在している。800×5=4000ポイント、【おジャマ・イエロー】の攻撃力に加算され、更に【おジャマ・カントリー】の攻守反転効果により、【おジャマ・イエロー】の攻撃力は1000扱い」

「……ということは――!?」

「最初に言ったろ、コイツは俺のエースモンスターだって。攻撃力5000のモンスターのお出ましだぜ!」

 

 団結した仲間の力を得て、攻撃力5000となった【おジャマ・イエロー】は巨人のような体格になった。それを下から唖然として、ナンバーズの精霊は見上げる。

 

「貴様、前のターンで言ったよな、『さぁ、どうやって攻撃力5000のモンスターを倒す?』って。その台詞、文字通り熨斗(のし)付けてお返しするぜ!」

「ちょっと待って欲しいポン!」

「問答無用! やれ、【おジャマ・イエロー】! 《おジャマ・ハンド・クラッシャー》!!」

 

 攻撃力5000の【おジャマ・イエロー】が攻撃力1000の【No.64 古狸三太夫】にパンチを振り下ろす。【No.64 古狸三太夫】は破壊され、ナンバーズの精霊は差し引き4000のダメージを受けて吹っ飛んでいき、ライフポイントは0になった。青空の下、甲高いデュエル終了の電子音が響き渡ったのだった。

 

「俺様の勝ちだな!」

「そんな、お、おかしいポン! 途中まで、オイラの方がはるかに優勢だったのに! お前、何者だポン!?」

「俺の名か? 知らないなら教えてやる」

 

 天に拳を掲げて勝者は言った。

 

「俺の名は! 一! 十! 百! 千! 万丈目サンダー!」

 

 お約束のポーズを取りながら、万丈目が高らかに告げる。拍手喝采の幻聴を聴き、高笑いまでした。その光景を見たナンバーズの精霊は、とんでもない奴に負けてしまったと思った。

 

「さぁて、デュエル前に貴様は言ったよなぁ。『お前が負けたら、オイラの部下としてこき使ってやる』ってな。それに対して、俺は『それはこちらの台詞だ!』だと返した。……俺様の言いたいことは分かるよなぁ?」

 

 吹っ飛ばされた衝撃で落としたカード【No.64 古狸三太夫】を拾い上げ、ナンバーズの精霊が憑りついた闇川の頬にひたひたと当てながら、悪役(ヒール)よろしく万丈目が脅迫する。あのまま封印されていた方が良かったかもしれない、と狸の妖は真っ青な気分で主人となってしまった男の顔を見上げたのだった。

 

 

5:夕焼け、あるいは金盥三段階活用

 

 闇川が目を覚ますと、決闘庵の縁側に寝かされ、しかも丁寧に座布団で枕までされていた。頬に当たる日差しが温かい。横目で見やると、夕焼けが全てを照らし出していく最中であった。

 

(確か、俺は……土倉で地下への扉を見付けて、万丈目と口論しているうちに扉が壊れて落ちたはずでは?)

 

 起き上がろうとしたが、地下へ落ちた衝撃だろうか、身体中が痛くて、とてもじゃないが立ち上がれそうにない。

 

「寝とけよ、闇川」

 

 枕元から声がしたので見上げると、縁側に座った万丈目が水を張った金盥に足を突っ込んで涼んでいた。

 

「貴様、地下に落ちた衝撃で今の今まで寝ていたんだぜ? クソ爺が帰ってくるまで、大人しくしてろよ。貴様が起きたから俺は帰るけどな」

 

 両足をハンカチで拭き、万丈目は爪先でトントンと音を立てながら靴を履くと、決闘庵から出ていこうとする。

 

「万丈目、土倉の虫干しは? そもそも、いったい誰が俺をここまで――」

「さん、だ。虫干しは終わった。それに此処にいるのは俺と貴様だけだぜ、闇川」

 

 ひらりと片手を振って万丈目は去っていく。その後ろ姿に闇川は、万丈目に体力が無いと言ったこと、結局は全て彼にさせてしまったこと、なんだかんだ言ってアルバイト先の先輩であることに様々な気持ちを抱いて、筋肉痛にも似た痛みを堪えながら深く頭を下げたのだった。

 

 茜色に染まるハートランドシティを眼下に望みながら、鼻歌でもしそうな気分で万丈目は石階段をゆっくりと下っていく。その耳元で『鬼ポン』と狸の形をしたナンバーズの精霊が悪態を吐く。

 

「はぁ? 俺様の何処が鬼だって?」

『オイラが闇川って男に憑りついているのをいいことに虫干しも土倉の地下室への扉の修復もやらされたポン! おかげで闇川は筋肉痛だポン!』

 

 そう、あのデュエルの後、ナンバーズの精霊を部下にした万丈目は闇川に憑りついているのをいいことに、ナンバーズの精霊に古本の虫干しも壊れた地下室の扉の修理もやらせたのである。冷たい水を張った金盥――無論、これを用意したのもナンバーズの精霊だ――に両足を突っ込みながら、日陰でのんびりする新主人に殺意を覚えつつも、闇川の身体を使って何度も往復した結果、当の身体は筋肉痛で動かなくなり、ナンバーズの精霊も疲れて、ぐったりと縁側に寝転んだのだった。

 

『それにあの闇川って男、絶対に勘違いしているポン!』

「勘違いも何も、俺は俺がやったなんて一言も言ってないぜ」

 

 ポケットに両手を突っ込んだまま下っていく新主人の後ろ姿を見ながら、ナンバーズの精霊は突き落としてやろうかと物騒なことを考えるが、万丈目が精霊の本体である【No.64 古狸三太夫】を持っている以上、付き従うしかない。悲しいかな、武士に二言はないのだ。そうは思いつつも、腹立ち紛れに土倉の地下への扉を修理する際、思いっきり釘で扉を固定して開かないようにしてしまったことは、せめてものの嫌がらせである。

 

「なに、ぼさっとしてんだ。帰るぞ、タヌキ」

『タヌキじゃないポン! オイラの名前は《ポン太》だポン』

「はいはい。分かったから、とっとと九十九家へ戻るぞ、タヌキ」

『ポーン! 万丈目の殿様はちっともわかってないポン!』

 

 万丈目の正面に回り込んでの抗議に「誰が殿様だ!?」と反応する。

 

『新主人だから、そう呼ぶしかないんだポン』

「バカ殿を連想させるから、それはやめろ!」

『じゃあ、なんて呼べばいいんだポン?』

 

 プリプリ怒りながらのポン太に万丈目は「そりゃあ」と考え込む。ナンバーズと言う名のカードの精霊に詰め寄られ、日中、階段でダウンした際に見た白昼夢を思い出す。万丈目は空白の台詞を吐きだしてから、こう言った。

 

「俺のことは《アニキ》と呼べ」

「分かったポン! 万丈目のアニキ!」

 

 自分でそう呼べと命令した癖に落ち込む新主人に、ポン太は首を小さく傾げたのだった。

 

 

 

6:誰も知らぬ物語

 

 夜になって。

六十郎がルンルン気分でゴンドラに乗って決闘庵に帰ってくると、顔を顰(しか)めた闇川が出迎えた。なんでも、土倉の地下室に落ちた際に身体を痛めたらしい。

 

「土倉の地下への扉!?」

 

 そんな馬鹿な! と六十郎はサンダルも履かずに土倉へ走った。そもそも、其処は開くはずがないのだ――曽祖父が「運命が訪れるまでは開かない」と言っていたのだから。そして、彼は幼い六十郎を前にして、こうとも言っていた。

 

「この扉が開くときは、自分が会いたかった友人が訪れたときだけさ。きっと此処に潜む、彼にしか見えない《もの》が彼に協力してくれるだろう」

 

 だから、それまでどうかこの倉は壊さないでほしい。漢字の名前を持つ癖に、褐色肌で横文字の名前の曽祖母の肩を抱きながら笑う曽祖父の姿を、三沢六十郎はまるでほんの少し前の出来事のように思い出したのだった。

 

 

 

つづく




※漫画「うしおととら」のリスペクトであり、ノース校での万丈目のデュエルのオマージュ
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