「30kgの着ぐるみを着てパレードに参加させられる重労働」
「中の人は体を壊し胸郭出口症候群を発症」
「『夢の国に未来はない』と中の人が発言」
とか見て、『最近の人類はずいぶん脆くなったな』と思ってしまい、「いやこの女性は普通だよ」と思わず自分にツッコミ入れてしまったりしました
昔、俺が小学三年生くらいの頃、スタジオXO*1で以前代表をやっていたっていう杉口篤彦*2さんと少しばかり話をしたことがある。
あの人は言っていた。
『笑っちゃうくらい不景気だって知人が言ってたんだよ、最近』
『日本特撮は膠着状態』
『娯楽が増えて消費者が分散しすぎた。
売上の天井が下がったから、メーカーも企画に金を出さない負のスパイラル。
ヒットするメジャー作品と、存在すら無視される作品の二極化は進んでいくだろうね』
なるほど、と当時の俺は思った。
当時の俺から見ても、特撮の界隈は死んでいく過程にあった気がする。
深夜特撮放送作品枠は6作品から0になり、特撮界隈に入る金や新規ファンの数は、ぐんぐん減っていた。
杉口さんなんて『バブル崩壊後より酷い』なんて言ってたほどだぞ。やべえ。
『本来経済ってのは"場を乱す無謀者"がいた方が正常に回るんだよ。
膠着状態をぶっ壊す、ハイリスクハイリターンを好む……そう、破壊者だね』
杉口さんは十年周期で時代を変える作品が来る説の支持者だった。
そして、"一億円は無理でも一千万は出せる"っていうスポンサーに合わせて、予算を抑えてヒットを狙う作品に着目していた。
当時の俺にはあんまピンと来てなかったように思える。
そうしたら同年に仮面ライダーディケイド*3が来たもんだから、そりゃもうビビった。
ディケイドは作中では世界の破壊者、現実でも商業世界の破壊者だった。
過去のヒーロー、敵の再利用。
それが転じた過去作を引用したアイテムの数々。
お約束も決まり事も全部ぶち壊す、型破りでかつ、見ていて楽しい魅せ方。
こいつが出る前と後じゃ商品の売り方とか、スピンオフムービーの作り方とか、全然違うんだぜ……現実でもディケイドは、世界の破壊者だった。
既存の商法システムすら破壊した、破壊者の仮面ライダー。
結果、期間あたりの玩具売上とか前年比で三倍近くまで跳ね上がってんだからな。
すげえぞディケイド!
その後の時代も、杉口さんが着目してた低予算工夫品質の特撮が続いていった。
『破壊者』。
次の時代を作る、誰よりも多くの批判と称賛を浴びる者。
杉口さんは、十年周期で時代を変えるものが来ると言っていた。
ディケイドが2009年。
それからもうそろそろ十年が経つ。
次に来る『時代を変えるもの』はなんだろうか。
杉口さんは作品のことを言ったんだろうが、俺はそれが俳優ということもありえるだろうと思ってるし、技術ってこともありえるだろうと思っている。
そういうのが仮に来るとしたら、できれば良いものであってほしいよな。
良い破壊者であってほしい。それなら俺も、迷いなくそれを肯定できるから。
ウルトラマンの方の仕事の援軍に行き、帰り道でふと思い出す。
そういや今日はスターズの女優部門のオーディションの日だった。
もう終わってる頃か?
未来のスターがまた一人選ばれてる頃かね。
俳優発掘オーディション、か。
色々絡むんだよな、ああいうのは。
事務所が受けようとしてる仕事から考えて、足りない人材を補充するとか。
審査員がピンと来た人が選ばれるとか。
今の能力とか。
将来性とか。
話題性とか。
黒さんは審査側行ったし、和歌月さんとか桃野さんも気が向いたら参加してんだろう。
他にも最近会ってない知り合いとかが参加してるかもしれん。
女部門だけじゃなく男部門も気になるよなあ。
こういう新人が入ってくる時期ってのはワクワクする。
業界に人が増えるっつーことは、多様性が増えるってことでもあるからな。
ちょっとスターズ事務所寄ってくか。
グランプリ受賞者のツラくらいは拝めるかもしれん。
と、思って来たものの。
なんだ、なんか変な空気だな。
事務所全体が、静かでもなく、騒がしくもない。
普段通りの空気でもなく、かつ非常事態でもなさそうだ。
事務所の色んなところから漏れ聞こえる声に……変な熱というか、妙な興奮を感じる。
「あ、こんばんわ。朝風さん」
歌音ちゃんじゃねえか。
この時間までお疲れさん。
七歳にはぼちぼちキツい時間だろうに。
「こんばんわです、山森さん。巡業仕事は上手くいきましたか?」
「上手くいきました。朝風さんのアドバイスのおかげで……あ、これお土産のチョコです」
「ありがとうございます。山森さんのお力になれて嬉しいです」
ああいう長距離移動仕事は『子役にはちゃんと小学校に行ってもらいたい』って考える親御さんとの兼ね合い、時間的制約の問題で結構キツいことになることも多々だろうに。
よく頑張ったな。
偉い偉い。
「事務所が妙な空気ですが……山森さん、何かご存知ですか?」
「オーディションで何かがあったみたいです」
何か?
……ちょっと心配になってきたな。
知り合いが何か変なことに巻き込まれてたらアレだし、スキャンダル事案になってたら事務所が巻き込まれる案件になるよな。
無視するって選択肢はナシか。
「オーディションを受けた人はまだ残っていますか?」
「ええと……確かおねえさんがお二人、残ってました」
「申し訳ありませんが、その二人がいる場所まで案内してもらっていいですか?」
「はいっ、任せてください!」
張り切ってんなぁ。
そんな張り切らなくていいぞ。
足元に気を付けて転ばないようにしとけ。
山森さんが転んでも支えられるよう、少し後ろに付いていき、オーディションの参加者二人――オーディションが勝ち抜きである以上おそらくどちらも最終選考候補者――がいるっていう、その部屋に向かう。
肌がピリピリする。
俺の本能が、何かを感じていた。
「え」
そして、その部屋に居たのは、和歌月千と桃野アイの二人だった。
俺の知りあいである、アクション女優とモデルの二人だった。
二人の間に会話は無く。
部屋の中に明るい空気は無く。
二人の表情に肯定的な感情は無い。
どこか、何かが、打ちのめされていた。二人ともだ。……なんだこりゃ?
「何があったんですか……?」
俺が声をかけると、二人が顔を上げた。
どちらも選ばれなかったんだろう、と俺は思った。
だから、オーディションでは二人共最後まで残り、和歌月さんが最後に選ばれたと聞いた俺の頭は混乱する。そりゃもう混乱する。
ますます意味分かんねえぞオイ。
俺の事務所はスターズ事務所に近い。
歩いて行き来すんのにも大して時間はかからん。
とりあえず、オーディションが終わって事務所に留まっているだけだった二人を、俺の事務所に誘ってお茶を出してやることにした。
なんで事務所にいつまでもいたんだ?
そう聞いても、"余韻があったから"とかいうよく分からん答えが返ってくる。
余韻?
それがすぐに帰らなかった理由? 意味不明だぞコラ。
「それで、改めて聞きますが、何があったんですか?」
改めて、何があったかを聞く。
曰く、とんでもない奴がオーディションにいたらしい。
最終審査のお題は
おい桃野! じゃあお前ちょっと有利だったんじゃねえか何やってんだ!
アリサさんがそこで『野犬』というお題を出して、そのとんでもない奴が名演を見せて、そいつ以外は全員が脇役に成り下がって、演技が終わった途端拍手喝采だったらしい。
桃野さんも参加者だっていうのに、思わず拍手してたとか。
……ヤバいなそりゃ。
オーディションは審査だ。
審査員が全員の能力を見ようとするところだ。
そこで他の候補者を全員脇役に成り下がらせる?
全員が主役に等しいオーディションで?
ライオンと子猫くらいの力量差があっても難しいんじゃねえのか、それ。
「それで和歌月さんが選ばれたんですか? 聞いている話だと、俺は、その……」
「私だって分かりません。納得いきませんよ。
拍手喝采を受けたのは、彼女の演技だけだったんですから。何故私が選ばれたのか……」
何があったんだ?
政治的な何か(婉曲的表現)か。
オーディションで選びたかった人間のタイプにそいつが合致しなかったのか?
いや、どうなんだろう。
有能なんだよな。
それなら他の事務所に取られる前に、囲い込むのが鉄板だと思うんだが。
「私、さ」
桃野さん。
……あんたがそういう顔してるのが、今は無性に怖えよ。
何見てきたんだお前。
「分かってなかったスタッフ塾の講義が、今になってようやく分かったわ」
俺の講義が?
「想像力の利用、だったっけ?
無いものを有るように見せる、だっけ?
うん、分かった。あれがそうなんだなあって、予備知識があったからよーく分かった」
「桃野さん……?」
「野犬ってお題が出されて、あの人が構えたの。
そうしたら私の目に森が、野犬が見えたわ。
あの人が演技をしただけなのに、なぜか野犬の動きから表情まで見えたの」
そのレベルか。
そりゃやべえな、発掘オーディションに出ていいレベルじゃねえ。
マルセル・マルソー*4クラスの演技か。
マルセル・マルソーは、神と呼ばれた表現者だ。
コーポラルマイムのエチェンヌ・ドゥクルーの愛弟子でもある。
エチェンヌ・ドゥクルーが『神を生み出した天才』であり、マルセル・マルソーは天下を制覇した『パントマイムの神』と呼ばれる。
マルセルの天才的な演技は、「小説家が何冊書いても表現しきれない世界を二分で表現してしまう」と絶賛された。
即興のお題に対応して体の動きだけで、それだけの世界を魅せたなら、あるいは。
マルセルのそれに迫るものがあるかもしれねえな。
「あれは無理。絶対無理。……いや、本当に私には無理」
桃野さんの反応見りゃ、伝わってくる。
そのとんでもねえやつの演技能力は、絶対的に天才のそれだ。
「元プロか、プロの娘でしょうか。俺の知り合いの娘さんだったりするかな……」
「いえ、そういうのではないと思います」
「?」
和歌月さん?
「あの人は、審査員を見ていなかった。
オーディションの仕組みを知っていれば絶対にありえません。
それに、動きも……私が見てきたどのプロとも違いました。あれは、何かが違います」
いや、いやいやいや。
誰かに教わってないってことはねえだろ。
どのプロの動きとも違う?
既存技術による指導を受けてない?
専門の訓練を受けてない天然物……?
いや、いやいやねえだろそれは。
ありえねえって。
「俺は見てないので、本当に信じられない気分なんですが……本当なんですか?」
「はい」
「……うん」
俺の理性はこの二人の勘違いだと言ってるが、俺の心はこの二人の見たものと感じたことを信じたいって言ってる。
二人とも同じ顔をしてやがる。
和歌月さんが勝者で、桃野さんが敗者で、同じ顔をするはずがなかったってのに。
分かる。
分かるさ。
二人とも今、敗北者の気分なんだろ。
心中察するぜ、和歌月さん。
「正直に言えば、少し怖さすら感じました。
野犬に立ち向かう自分を演じている、というより……
"演じている"意識さえなさそうなあれは、果たして『演技』だったんでしょうか……?」
にわかには信じられねえ。
二人が見たものをこうして話に聞く限りじゃ、そいつは演じているとかそういうレベルじゃなく役に入ってて、既存の技に見えるものは何も使ってなかったんだろ?
演じてるなんてもんじゃなく、技もねえ。
ならその演技は、演技であって演技じゃねえんだろう。
「とにかく、俺が見る限り、二人とも引きずりすぎです。気持ちを切り替えましょう」
俺は知ってる。この二人は決して凡百じゃねえ。
アクションクラブってのは下地を徹底的に仕込む。
剣崎アクションクラブのレベルに相応に、和歌月さんも能力は高い。
正直、オーディションを最後まで勝ち抜いてこの人が選ばれたのは納得だ。
この人にはその能力に相応も自信もあった。
業界でずば抜けた天才も見てきたはずだ。
なのに、これだ。
桃野さんだって自分に相当自信を持ってただろう。
正直、その自信に相応の顔面偏差値はあるだろうと思う。可愛くはある。
適度に無知なのも打たれ強さに繋がってる。
並大抵の『名演』を見ても、演技の下地がないこの子には「なにそれ?」で終わるだろう。
なまじ演技の知識のある人は、名俳優の名演技を見て正確に実力差を理解して心折れちまうことがあるが、演技への理解力が低い桃野さんはそういうこともねえ。
なのに、これだ。
「
それが、この二人の中にあった自信にヒビを入れちまってる。
「私、ちょっとでいいから、頭冷やしたくなった。なんていうか、駄目、無理」
「桃野さん」
「しばらくはスターズのレッスンに集中したいと思います。
折角ですから、選ばれた幸運を活かして……
損なわれた自信を、厳しい環境での努力で取り戻したいと考えています」
「……和歌月さん」
ただのオーディションでここまで絶対的な『敗北感』を刻まれた人達を、俺は初めて見た。
「その、オーディションで目立ったという人はなんという名前の人なんですか?」
「夜凪景、だって」
は?
悪い、耳が腐ってたみてえだ。もう一回言ってくれ。 ……夜凪?
二人が事務所から帰って行くのを駅まで送って、俺は事務所前まで帰り、溜め息を吐いた。
「なんだ、何が起こってんだ?
俺の知らないところで、何かが起こってやがる……」
ここ数年で、とんでもないところからとんでもない女優が生えてくる……つったら、山木千尋*5さんだろうか。
まず12歳の時にジュニア武術選手権大会で槍術金メダル、長拳銀メダル獲得。
16歳までの合計だと、ジュニア武術選手権大会で金メダル2個に銀メダル3個、太極拳のジュニアオリンピックでも3年間で優勝9回。14歳の時には最優秀選手に選ばれている。
武術大会で世界一になった回数、実に11回。
拳闘と剣と槍の部門に同時にエントリーして全部で優勝するようなモンスターだ。
んで、女優になった。
高校卒業したらハリウッドに留学にも行ってる。
パねえな経歴!
おかげで仮面ライダーではライダーをボコボコにする女性役、ウルトラマンでは宇宙人を生身でボコボコにする地球人剣士役をやらされている。すっげえ。
女性の生足と女優のアクションが大好きな坂木監督*6は、めっちゃ彼女がお気に入りだ。
ちなみに両親はめっちゃウルトラマンが好きらしく、彼女も幼い頃はウルトラマンが好きで、その後に武術にはまり込んだらしい。
そして成人後にウルトラマンジード*7のメインヒロインに抜擢、と。
なんつーもんを生み出してんだ、ウルトラマン。
だが、仮に夜凪さんが山木千尋さんみたいな評価をされたんだとしても、そうはならねえだろう……と、思う。
山木さんは身体能力と武術技能の傑物だ。
夜凪さんがそういう人間かというと、俺はちと首を傾げる。
前に会ったが、そういう体格をしてた印象はねえ。
話を聞く限り単純に山木千尋さんより能力が高い人が来た、って感じはしねえ。
何か、それよりもっと何か異質な、異常な何かでも来たかのようだ。
経験が言う。
何かやべーやつが来たぞ、と。
直感が言う。
楽しいことになるぞ、と。
俺の場合こういう時は大体、直感の方が正しい。
事務所の前でちょっと考え事をしていると、お客さんがやって来た。
「アキラさん」
「事務所までちょっといいかな。母さんが、君の意見を聞きたいらしいんだ」
「今日のオーディションのことでしょうか?」
「耳が早いね。ああ、夜凪景のことだ」
「じゃ、歩きましょうか」
夜道を二人で歩く。
いやー、俺が女じゃなくてよかった。
女だったら夜道でアキラ君と二人で歩くとか許されねーわ。
サタデーされちまう*8。
幼馴染の百城さんと二人で歩いたりもできないアキラ君には同情しかできん。
アキラ君に恋人とか出来たら俺は隠蔽工作に全面的に協力するぞ! 任せろ!
それにしても、雲行きが怪しい夜空だ。
「今日はいつにも増して星が見えませんね」
「そうだね」
うし、ちょっと聞いてみるか。
「アキラさん、確か審査に参加してましたよね。どうでしたか、夜凪景は」
確かアキラ君は今日のオーディション、俳優視点でのなんたらかんたらってことで審査側で参加してたはずだ。
お隣さんの夜凪さんのことも見てたはず。
アキラ君、悩み始める。何故悩む? あれ? 今の質問そんな悩むようなことか?
悩んだアキラ君が、言葉を選ぶような様子を見せて、ようやく俺に一言告げた。
「『本物』だったよ。まるで、銀幕の向こうの、若い頃の母さんみたいに」
ああ、なるほど。
そりゃ表現に悩むわな。
けどいい表現だ。アキラ君が言うからこそ、よーく伝わってくる。
俺がアリサさんにこのタイミングで呼ばれたのも、なんとなく分かってきた気がする。
俺は、もう死んでるから呼んでも来ない親父の代わりか。
「ああ、そうだ、今気付いたけど……彼女は子供の頃の君に、少し似ていた気がする」
「俺ですか?」
「あの頃の君は、なんというか独特だったから」
「なら、アキラさんはいい友達になれるんじゃないでしょうか」
「はは、どうだろう」
なれるさ。
アキラ君は自覚ねえんだろうけどさ。
色んな変人に根気よく継続して優しく接するのって、本当に面倒臭えことなんだぜ。
やってる人、多くねえもんよ。
ぬ、アキラ君が何か考え込み始めた。
危ねえな。
考え事しながら夜道を歩くなよ。
夜凪さんはそんなに衝撃的な存在だったのか? まだ引きずるくらいに?
危ねえからそういうこと考え込むのは後にしようぜ。
「アキラさん、スーツアクターしりとりしませんか?」
「悪いけど、一人でやっていてくれ。今少し、頭の中でまとめたい考えがあるんだ」
この野郎。
「
「本当に一人でやり始めた!?」
お、やっとこっち見たか。
ツッコミ誘導しないといけないとか真面目でまっすぐ過ぎて面倒な奴め。
ちっせえ時からお前ちょっとそういうところあったからな。
「考え事に没頭しながら夜道を歩くのって、危ないと思いませんか?」
「……まったく」
なーんでお前が呆れた顔するんですかねー?
俺今呆れられることした? してないよな? こんにゃろう。
考え事に没頭してねえで足元見て歩けや、夜だぞ。
「自動販売機ありますよ自動販売機。何か飲みませんか? 俺が奢りますよ」
「ごめん。気を使わせたみたいで。それと、ありがとう」
「何飲みたいか、それ言うだけでいいですよ」
気にすんな。お前は不器用なヒーローで、お前が日曜朝に被る仮面を作るのが俺の仕事。
こんなの、ちょっとした仕事の一環みたいなもんだって。
事務所の階段を登る。
階段を登る前に使っていた携帯電話を、ポケットに放り込む。
アキラ君と別れ、社長室に入る。
「待ったわ」
「お待たせして申し訳ありません」
「急に呼び立てたこっちにも責はあるわ。
アキラを見て、多少は事情を把握していると思うけれど」
「オーディションの他参加者からも話は聞いています」
「流石ね。懐かしさすら感じる仕事の速さだわ」
アキラ君を使いによこしたのは、アキラ君からオーディションの話を事細かに聞いておけって意味でもあったのか。
相変わらず、家族であっても使い方に冷淡さが見える。
「まずはこの録画を見なさい。あなたの意見は、その後聞くわ」
近くのテレビのスイッチが入り、オーディションの映像が流れ始める。
さて。
どんなもんだ、お隣さん。俺は今、実は君にめっちゃ期待しているぞ。
アクタージュ第一話でコマの隅っこに映ってるカメラが夜凪の対狼演技を録画してるのって、二次創作だと面白い要素として使えるものだと個人的に思ってます