ノット・アクターズ   作:ルシエド
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 なんか久しぶりに原作の大筋ストーリーに影響が少ないサイドストーリー系二次創作書いてる気がします


古来、天才芸術家は天使の絵や像と共に在った

 俺の今のメイン業務は日曜朝の子供向け番組・ウルトラ仮面の補佐である。

 そもそも俺はフリーランス。

 特にどこかの企業に属してるわけでもなく、けれども給料と引き換えに雇われればどこの会社においても社員のように働く。

 

 そのため、俺のポジションは雇われる度に変動する。

 美術監督をやったこともあったし、バイトと一緒くたにされることもあった。

 ウルトラ仮面の製作現場において俺は、美術監督の下くらいに位置している。

 現場レベルの話で言えば、監督が「こういうのを作りたい」と指示を出し、脚本がシナリオを/美術監督が絵作りを始め、脚本に沿って俳優が演技練習を/俺が美術監督の指示に沿ってセットや道具を作っていく感じの流れになっている。

 

 ただそれ以外にも、総合的な玩具や関連グッズの造形の話し合いに、顔を出すこともある。

 

 現在、仮面ライダーや戦隊シリーズなどの日曜朝のヒーローものは、パンダイなどの玩具屋・西映のプロデューサー・造形の会社が話し合って

「どういう作品にするか」

「どんな玩具を出していくか」

 を最初に決めてから、番組を作る監督達に下達されるスタイルになっている。

 要するに『この玩具を出してこういう番組を作ってね』という部分が最初から決まってるのだ。

 

 当然、この初期方針を決める話し合いはかなり白熱する。

 白熱しすぎて、後に食い込みすぎることもある。

 

 例えば仮面ライダー電王(2007年)は2007年1月28日開始の番組だが、仮面ライダーの名前もデザインも決まっていない企画提出が2006年6月。

 メインキャラクターのデザインの決定稿が出揃ったのが2006年8月から9月にかけてである。

 スケジュールギチギチすぎじゃね?

 でも面白かった。

 万人受けする傑作だと思うぜ。

 

 その翌年の仮面ライダーキバ(2008年)は2008年1月27日開始の番組だが、2007年5月の時点でそれまで進めていた企画を全部白紙にし、七転八倒の末にやっと決まったらしい。

 造形の会社の方の都合で、企画が連鎖崩壊して全部白紙にしないといけなかったって話だ。

 こっちも相当ギチギチじゃねえか……

 でも面白かった。

 万人受けはしないがドロドロした人間模様から爽快感のある結末、本当に最高だったぜ。

 名護さんは最高だ。

 

 西映の慣例だと、平成仮面ライダーは前作の放映開始から二ヶ月後に次作のキャラクター提案がパンダイから行われ、そこを叩き台にして、話し合いが始まる。

 ここでようやく、俺が関わってくる。

 まあつまりだ。

 パンダイは俺に、玩具展開の一つを任せてきた。

 ウルトラ仮面の次の商品展開を見据え、玩具会社、特撮会社、造形会社全てが納得するような一品を納めてくれと依頼してきたのだ。

 

 それが―――『バイク』だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 現代、バイクというものは、過激に言えば需要として死滅しかけていると言っていい。

 

 俺はバイクは好きだ。かっけえし。

 だが、かつての仮面ライダー達が走り回っていた時代ほど、子供達や若者はバイクというものに憧れを抱かなくなっている。

 バイクの売上ピークは1982年(仮面ライダースーパー1翌年)の時代で、その後売上は下がり続け、2016年にはそのピーク時の一割程度まで売上が低下したと言われている。

 つれえ話だ。

 

 んでもって仮面ライダーなどにも、交通法の規制が入った。

 昔ほど、仮面ライダーのバイクは自由に公道を走れなくなったわけだ。

 バイクの人気低下に加え、こいつが追撃として突き刺さる。

 その結果、仮面ライダー本編でのバイクの登場頻度の低下に繋がり、バイク関連の商品展開の縮小化に繋がっていった。

 

 つまりだ。

 この時代、バイクを売りにするのはキツいって分かりきってるわけで、その上でこんな仕事を俺に振るのは、とんでもねえ無茶ぶりだっつーことだ。

 ウルトラ仮面の新展開、それに合わせた新バイク。

 こんなもんどう仕上げても期待を下回る気しかしねえ。

 

 作っても作っても満足行く仕上がりにならない。

 考えても考えても『これだ』っていう結論が出ない。

 駄目だ。

 上手くいかん。

 俺は駄目だ。

 

「根を詰めるとよくないよ」

 

「アキラさん」

 

「コーヒー淹れたけど、飲む?」

 

「……いただきます」

 

 いい人だわ、アキラ君。

 

 俺は現在、西映私有地の片隅でアキラ君とあーだこーだとバイクの試行錯誤をしていた。

 『(ほし)アキラ』。

 現在業界最大手の一つである芸能事務所・スターズの顔の一人であり、スターズ社長星アリサさんの息子さんでもある。

 要するに、彼に何かあればお偉いさんが黙ってないおぼっちゃまだ。

 

 が。

 ただのおぼっちゃまじゃあねえ。

 

 割と背も高い。

 スタイルもよくイケメン。

 一定上の演技力もあり、日曜朝のヒーロー番組の主演もしっかり果たしている人だ。

 かつ努力家で、撮影初日は大して動けてなかったが、撮影の途中からは生身で怪人との戦闘シーンも撮れるくらいには動けるようになっていた。

 

 一年間毎週放送するために、毎日のように過酷な撮影スケジュールをこなすのが日曜朝のヒーロー達だ。

 撮影の合間にもコツコツ努力することがどれだけの負担だったのか、俺にも分からん。

 一年間撮影を続ける日曜朝番組で一緒に仕事したからこそ、俺はこの人の努力家な面に気付けたが、そうでなければ気付けたかも怪しい。

 

 おかげで子供や女性からの人気は絶大だ。

 しゅっとしたイケメンで、素の性格もよく振る舞いもかっこいい。

 俺はあんま背が高くないから横に並ばれるとクソが死ねとつい思ってしまうが、死んではならない芸能界の次代のエースの一人だろう、と俺は考えている。

 

 何より彼と俺は、映画の趣味が合う。

 LINEとかで話してると楽しい。

 俺も彼も特撮ヒーローものの映画が好きなんだぜイェイ。

 

 そんな彼の力を借りても何も思いついてないダセえ役立たずが俺だ。

 情けねえ。

 

 バイク作りに詰まった俺がLINEでアキラ君に相談したところ、アキラ君は「オフだったから」とすぐ駆けつけてくれた。

 僕が主演の番組の新展開のバイクなら、僕がいたほうがいいだろう、と言って。

 いい人すぎねえかこいつ、頭大丈夫か?

 振る舞いがかっけえ奴は性格もかっけえのか、ぱねえ。

 

 アキラ君の助言を貰ってすぐ解決、ってなったなら俺もカッコつけられたんだがなあ。

 駄目だ。

 完成図すら見えてこない。

 駄目だ。

 あ、コーヒー美味い。

 

「こういうのは一つ一つ決めていった方がいいかもしれない。何か決まった部分はあるかい?」

 

「決まった部分、ですか」

 

 おぼろげながら、色合いにはうっすらとイメージがある。

 

「塗料は、要所にマジョーラを使おうと思ってます」

 

「マジョーラ?」

 

「キングギドラや仮面ライダーで使われてる分光性塗料です。

 携帯電話や車、電車なんかにも使われてることがあります。

 MAGIA(マジア)AURORA(オーロラ)の名前を混ぜてマジョーラ。

 『魔法のオーロラ』の名に恥じず、複数の色合いを表現する優秀な塗料ですね」

 

 マジョーラは、日本ペイント社が開発した分光性塗料だ。

 こいつは五層構造のクロマフレア顔料……まあざっくり言うと、塗料の中に層が作られていて、それらが光を個別に反射するようになってるんだ。

 

 イメージとしては、赤い鏡と青い鏡を溶かした塗料をイメージすりゃいい。

 光を当てると、赤い鏡と青い鏡が個別に光を反射して、見る角度によって全然違う鮮やかな――かつ複雑で美麗な――色合いが見えるってわけだ。

 

 オペイク・リフレクター・メタルと呼ばれるこの仕組みが、塗料の世界にかなりの革新をもたらした。

 "緑の奥に金色が見えるメタリック"といった、目を疑うような色もこの塗料のおかげで鮮やかに描けるようになったってーわけだ。

 

 こいつを一躍有名にしたのが、凝り性なスタッフが集まりこだわりまくったことで有名な仮面ライダー響鬼(2005)。

 主役の仮面ライダー響鬼の全身に使われたアンドロメダIIという名称のマジョーラが、響鬼を最高にかっこいい仮面ライダーに仕立て上げたのだ。

 

 アンドロメダIIはシアン&パープルのマジョーラで、これによって響鬼は見る角度によってシアン、パープル、そしてその二色が混ざった色に見える。

 これが実に生物的な色合いを醸し出し、『ただの人間が修行の果てに辿り着く戦闘形態』という響鬼の異例的な設定と、実によく噛み合ったってわけだ。

 響鬼は顔部分もグラデーション仕立てにしてたもんだから、この光によって変化する響鬼のマジョーラカラーとは相乗効果を起こす、まさしく芸術的な仕立てだったってわけよ。

 

 マジョーラは優秀だ。

 だが、優秀な分扱いも難しい。

 色ってのは増やせばいいってもんじゃない。良い色を使えばいいってもんじゃない。

 色を増やしすぎればごちゃごちゃしてかっこ悪いし、鮮烈な色を沢山並べれば目に痛いし気持ち悪いしで褒めるとこ無しだ。

 めんどくっせえ。

 だがやりがいはあるってもんだ。

 

 何より、色だけ決まっても仕方ない。

 バイクをマジョーラで仕立てることを決めたなら、さっさとデザインそのものも決めちまわないと話が進まねえ。

 

「……しょうがない、最後の手段で行ってみますか」

 

「へぇ、最後の手段? 君がそう言うのは珍しい」

 

「発泡スチロールの削り出しをやめて、バイクの実機で実際に製作してみます。

 実物大のバイクでモデルを作ってみれば、何か新しいイメージが湧いてくるかもしれません」

 

「それはまた、豪快だなあ」

 

 発泡スチロールには、三種類の製法がある。

 その中でも最も有名なのは、ビーズ法発泡スチロールだろう。

 叩いたりぶつけたりすると小さい白い粒になるアレだ。

 一般人は『発泡スチロール』と聞くと、まずビーズ法発泡スチロールを想像する。

 

 こうした粒になる物とは別の発泡スチロールをナイフなどで削り、簡単に加工できるミニチュアのメカにしたり、着色して川のセットの小石等に使う。

 これを撮影の世界では、『カポック』と言う。

 

 俺は今日までカポックで色々とバイクのモデルを作ってきた。

 だが、いつまで経っても完成形が見えてこない。ピンと来る形が見えてこない。

 だから西映の倉庫に眠ってたバイクを借りて、とりあえずの仮装甲を色々付けて、アキラ君にも感想を聞いてもらうことにした。

 

 ま、いいだろ!

 西映やたらバイクあるしな!

 仮面ライダー剣の時代には本編の仮面ライダーが使うバイクが4種類しかなかったのに、ホンダのバイクだけでも撮影に14種類のバイクを使ってたらしい。ホンダの人が言ってた。

 なんでそんなに無駄な数のバイクを……いやまあそれはいいか。

 

 借りてきたバイクを据えて、使うかもしれない素材と塗料片っ端から揃えて、よし。

 

「アキラさん、離れててください。

 切断時に飛ぶ破片や、塗料なんかがそっち飛びますから」

 

「気にしないでくれていいよ、大丈夫だから」

 

「死にますよ?」

 

「……え」

 

「昔は俺みたいな仕事してた人、よく早死にしてたんですよ。

 有機溶剤はシンナーを始めとして、吸いすぎれば脳は萎縮し、血管はボロボロに。

 吸い込んだ塗料の粉は肺の内側に張り付いて一生取れません。

 FRP(繊維強化プラスチック)や金属の欠片は切断時に飛んで失明もあります。それから」

 

「うん、わかった。大人しく離れてることにする」

 

 分かってくれたようでよろしい。

 俺も作業に合わせてマスク、ゴーグル、手袋は使ってるんだ。

 危ないから近寄らんでくれ。

 あんたの顔は俺と違って商品なんだから。

 

「さて」

 

 まず、カッターナイフで木の板をサクサク切り刻んで……よし、ここから塗装して、今俺の脳内にあるイメージを再現するためにバイクに貼り付けよう。

 

「カッターナイフで木の板を!?」

 

「アキラさん、もうちょっと離れてください」

 

「えっ、今のどうやって」

 

「刃にちょっと仕組みがあるんですよ。それだけです」

 

 カッターナイフの刃には工業なんかで使う『黒刃』ってやつがある。

 刃が黒いカッターナイフの刃みたいなもんで、近年はホームセンターにも並んでる。

 表面が黒いのは青色酸化皮膜っつー表面処理をしてるから、らしい。

 

 こいつの特徴は、普通のカッターナイフの刃よりも遥かに鋭利に研磨された鋭い刃だ。

 カッターナイフでダンボールを切るのに苦労する人間とかいるらしいが、こいつを使えば誰が切ろうと、ダンボールも薄紙同然。

 現在の仮面ライダーのアクション用スーツくらいなら、スーツの上からぶっ刺して中の人を殺すことだってできるだろうな。

 プラスチックでもスパッと落ちる。

 指もうっかりでスパッと落ちる。

 鋭く薄いもんだから下手に使えば切れ味だってゴリゴリ落ちる。

 そんな、普通のカッターナイフよりちょっと使いにくい黒い刃だ。

 

 切れ味があるもんで、刃筋を立てて上手く走らせれば、細い板を切断するのにノコギリを使うよりよっぽど速く切断できる。

 要するにアレだな。

 映画とかでやたら優れた武器として扱われる日本刀の同類。

 切れ味良いけど、刃が欠けやすく、扱いが難しいってやつだ。

 

「それと、強度が……補強しておくか」

 

 実際にバイクを走らせてみて転倒した時のことを考え、ステンレスをちまちまと切断し、ペンチで変形させて木の板だけの装甲を裏から補強していく。

 使うのは、ドイツのエッセイ社の金属切断用ハサミだ。

 

 ハサミといえば紙を切るもの、というイメージが日本では強い。

 だが、強化プラスチックや金属を切断するためのハサミというものも存在するもんだ。

 エッセイ社製のものであれば、金属切断用と銘打たれているものも、防弾チョッキなどの素材であるアラミドファイバーをスパスパ切断できるのが売りなものもある。

 

 つか、ドイツ製のこの手のハサミは大体優秀なんで、安めのハサミを買っても十分だ。

 ドイツスリップスあたりなら、ホームセンターならどこでも置いてるし、金網だって余裕、慣れてれば厚さ1mmくらいのステンレスを切ることも難しくない。

 犯罪にも使われてることがあるらしい高性能ハサミ! いやそれはよくねえことだな。

 

 俺みたいな職業の人間は、私的に購入して持っておくに越したことはない。

 持っておくとクソ便利でとてもよろしい。

 

「て、鉄の板が銀色の折り紙みたいにスパスパ切られてる……」

 

「コツは刃筋を上手く立てることですよ。後でアキラさんもやってみますか?」

 

「え、じゃあ、やってみようかな」

 

 後で、ちゃんと安全確保してからな。

 

「朝風君は、何をそんなに悩んでいるんだい?」

 

 あんたみたいにただかっこよくあれば良いってもんじゃないのさ、ヒーロー。

 

「現在の西映特撮番組に出すバイクなら、必要な要素は三つ。

 まず、単純なかっこよさ。

 次に、ギミック。

 最後に、売れる要素。この三つが揃っていないと駄目だと思われます」

 

「バイクの三つの要素?」

 

「まず、かっこよくなければ売れない。

 そして、子供がガチャガチャ動かして遊べるものでないと売れない。

 なのでバイクに合体機能や変形機能を付けて、玩具にも反映するんですよ。

 子供は自分の手でガチャガチャ動かせる玩具が好きですから。

 平成仮面ライダーの変身ツールで、スマホよりガラケーが人気なのにはそういう面もあります」

 

「ああ、なるほど」

 

 子供は意外とかっこいいだけの玩具を、かっこよさだけで愛さない。

 動かない玩具でもいわゆる『ブンドド』して遊ぶ。

 子供がその手でガチャガチャ弄れるということが、その時点で玩具の売りになるのだ。

 

 西映はそのあたりをよく分かっている。

 初代仮面ライダーの大ヒットは、1971年に発売された『光って回る変身ベルト』が子供達に大受けしたこともその理由である、と言われている。

 

 子供でも遊べる単純さで、子供が操作すると光って回るこの変身ベルトは、当時二年間で380万個売れたって話だ。

 消費者物価指数は2017年が100.5、1971年が33.5だったから……現在の価値に換算すりゃ、ベルトの売上は171億円相当になる。やっべえ、初代様のこの売上頭おかしいぞ? ベルトだけで年収85億って何?

 

「そして最後に三つ目の、売れる要素。

 これがあるとパンダイさんや西映のプロデューサーからOKが出やすいです」

 

「だ、打算!」

 

「俺はこの15年で売れるかどうかを軽視して潰れた特撮会社を沢山見てきたので……

 売れない商品を納入すんのはちょっと、いやかなり気が引けます、はい。ごめんなさい」

 

 俺の仕事を勘違いしちゃならない。

 俺は芸術家じゃねえんだ。

 ウルトラ仮面も、俺一人で作ってるわけじゃない。

 芸術家みたいに好きなように作りたいもんだけ作って、結果売れませんでしたじゃ、他の関係者に合わせるツラがない。

 

 かといって、かっこよくて売れるバイクならなんでもいい、ってわけじゃない。

 

「ただあんま細かすぎるディテールにすると、造形会社さんに怒られてボツくらいます」

 

「難しいね」

 

「難しいんですよ。細かすぎる造形は壊れやすいですし、金型も作りにくいんです」

 

 必要なのは三要素。単純なかっこよさ、ギミック、売れる要素だ。

 

 売れない造形は、玩具屋のパンダイがボツを出す。

 かっこ悪すぎる造形は、ヒーローに詳しい西映がボツを出す。

 実際に作るのが難しいくらい、複雑過ぎたり芸術的すぎたりする造形は、ブレックスや虹色企画といった造形会社がボツを出す。

 そういった前提で、それぞれがアイデアを出し合うんだ。

 

 こうすることで、いつも一定以上売れ、いつも一定以上のかっこよさを維持し、製造コストと製造難度を低めに抑えたシンプルかつスタイリッシュなヒーローやバイクができる。

 これが、現在の西映ヒーローの企画システムなのである。

 一種の三権分立みたいなもんだ。

 こいつが毎年新しいヒーローを生産するという無茶を、商業的に成立させる。

 仮面ライダーの場合はここに岩森プロの監修も加わるため、更に手堅い企画運営システムが出来上がってるってわけよ。

 

 ウルトラ仮面という番組も当然、このシステムの一環に組み込まれてる。

 この三権分立システムを突破する物を作るのは容易じゃねえ。

 アキラさんの主演番組だし、なんとか成功させてやりたいもんだが……そう思っても、いい感じ物は思いつかねえんだよな……シット!

 

「朝風君、提案なんだが」

 

 ん?

 

「僕の方をバイクに合わせてみたらどうだろうか?」

 

「アキラさんの方を……バイクに合わせる?」

 

 なんじゃそりゃ?

 

「他のドラマでの話を思い出したんだ。

 ドラマの企画を通したかったそのプロデューサーは、一計を案じた。

 自分が考えていたドラマの舞台を作り、女優を借り、作りたいドラマの雰囲気を見せたんだ。

 そのプレゼンで『このドラマの企画は当たる』と思わせ、企画を通したそうだよ」

 

「雰囲気を……見せる……」

 

「バイク単品では審査を通る質にはならないかもしれない。

 でもそれなら、例えば僕が着替えてバイクに跨っている姿の写真なら?

 僕という添え物を添えて、審査を通る『一枚絵』を作ってみるというのもいいんじゃないかな」

 

「……!」

 

「大切なのは、君が作ったものが、最終的にどういうプレゼンになるかさ。

 誰も、君が作ったバイクが売れるかどうかなんてわからない。

 偉い人達は、君が作ったバイクデザインと、そのバイクのプレゼンを見るんだ」

 

 プレゼン。

 プレゼンか。

 確かに、バイク単品のデザインや特異性で売ることばっか考えてたな、俺。

 

 "星アキラに合うバイク"という売りなら、別の方向性も見えてくる。

 近年の特撮バイクは、変身後の姿とマッチするように作られてる。

 だが、変身前の姿にも、変身後の姿にも合うデザインのバイクなら、十分な強みになる。

 

 それにしても、ヒーローとセットのバイクか。

 そういえば昔、バイクの玩具にはそれにまたがるレーサーの人形もちゃんと付随してて、レーサーの人形の出来も売上に影響したって話を聞いたことがある。

 

「なるほど、盲点です。ありがとうございますアキラさん。ちょっと光明が見えてきました」

 

「君の助けになったなら、何よりだ」

 

 技術屋でしかない俺にこういう視点はありがたい。

 

「バイクが完成したら飯奢らせてください。面白い店と美味しい店、どっちがいいですか?」

 

「え、なんだいその二択……面白い店が気になりすぎるじゃないか」

 

「へへ、それじゃ面白い店に今度ご案内しますよ。期待しといてください」

 

 お連れするぜ、『仮面ライダー・オブ・ダイナー』へ。

 

 『仮面ライダー・オブ・ダイナー』は、仮面ライダーシリーズとパセリリゾーツがコラボレーションした公式レストラン。

 本家撮影の関係者や、本家仮面ライダーの俳優が入り浸ってることでも有名だ。

 東京池袋駅から徒歩二分でアクセスもいい。

 だが何よりも、その特徴的なメニューが話題になり、客の目を引く斬新なメニューが売りである店だ。

 

 クウガのラスボスをネタにした『ン・ダグマ・ゼソバ』はまぜそばとして割と美味かった。

 逆に主人公をネタにした『喫茶ポレポレ雄介特製カレー』も中々に美味かった。

 でもアマゾンズのイユの目玉ケーキはちょっとオススメできないぜ。

 誰だよ目玉ケーキに赤いフルーツソースかけようとか思いついた料理人……

 

「それより、いいのかい? もうそろそろ時間的に危ないんじゃないか、朝風君」

 

「えっ? ……あっ」

 

 あ、やべっ、今日は午後から仕事あんのに! バイク作りに熱中しすぎた!

 

「すみません! アキラさんを呼んでおいて、置いて行くような形になって……」

 

「気にしてないさ。君が慌ただしいのはいつものことじゃないかな」

 

 マジでごめんなさい。

 

「千世子君によろしく。彼女のことだから、誰によろしくされる必要もないかもしれないが」

 

 そうなんだよなあ。

 

 彼女くらいになると、俺の腕もあまり必要じゃない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 仕事場に入った時、そこはCMの仮撮影中だった。

 俺は第一声も忘れ。

 CM撮影の手伝いに来たことも忘れ。

 ただ、『彼女』に見惚れていた。

 

 幼く、無邪気で、悪戯で、それでいて美しい、そんな少女。

 男女問わず魅了する少女。

 大衆の最大多数人種から愛される少女の姿を()()()()()()()()怪物。

 だから彼女が微笑み動けば、見慣れた俺でも目を奪われる。

 

(相変わらず、綺麗だな)

 

 百城千世子は、美しかった。いつものように、それが当然であるように。

 

(CMの監督を探すか)

 

 時代の変化は、特撮の撮影にも影響を及ぼす。

 その中でも、怪人の造形にまで影響を及ぼしてしまったのが、仮面ライダーBLACK RX(1988年)と仮面ライダークウガ(2000年)の間の断絶……いわゆる、昭和ライダーと平成ライダーの間の十年の断絶だ。

 この断絶の間、仮面ライダーはずっとテレビのレギュラー枠では放送されてなかったんだと。

 

 これが、クウガの撮影に影響を及ぼしちまったんだ。

 世はテレビの革命時代。

 BLACK RXが終わってからクウガが始まるまでの十年で、一般家庭に普及しているテレビの質は一気に上がり、これが撮影スタッフの間でも問題に上がり始めていた。

 

 つまり、『テレビ画質が上がったことでスーツのシワが見えてしまうのでは』という問題が出てきちまったわけだ。

 

 そうして生み出された『仮面ライダーの敵である怪人』が、クウガの『グロンギ』、アギトの『アンノウン』だ。

 グロンギやアンノウンは装飾が多くて洒落てる、って感想を見た覚えがある。

 怪人スーツを作り、後からそこにセットする衣装を作っていくグロンギとアンノウンのスーツの製造方式は、何も知らないとさぞかしオシャレに見えるだろう。

 

 だがあの装飾は、大体がスーツの劣化やシワを隠すためのもんだ。

 特にスーツの部位の中でもシワが寄りやすい股間部分は、腰布や腰アーマーで隠しているパターンが多い。

 そういう視点で見れば、グロンギやアンノウンの"装飾で股間を隠している率"が異常に高いってことにも気付けるはずだ。

 

 つまり、グロンギやアンノウンの衣装ってやつは、オシャレで付けてるわけじゃない。

 あれは画質がどんどん高くなっていくテレビから、シワが寄った部分を守り隠す、一種の鎧だったってわけさ。

 

(まったく、彼女は相変わらずだな……

 年食った俳優は、シワの出る肌を気にしてカメラを変な目で見ることもあるってのに)

 

 高画質なテレビ、高画質なカメラ。

 それはスーツのシワだけでなく、女優の僅かな肌の荒れすらも映し出してしまう。

 技術の発達は、美しさを売りにする女優の僅かな隙すら撮影してしまう、女優にとっては生きにくい時代になった。

 

 それでも俺は断言できる。

 百城千世子を撮影しているあのカメラに、百城千世子の商品価値を落とすようなものは、一切映っていない。

 百城千世子が、そんなものを映させない、完璧な立ち回りを演じきると断言できる。

 

(お、車……そういや今回の仕事は、車屋と百城千世子による新車のCMだったな)

 

 近年、『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』という作品を研究する機会があった。

 サンダーボルトファンタジーは、簡単に言ってしまえば特撮技術の粋を集めて撮影した、ドラゴンボールばりの迫力で行われる、中国風味の武侠ファンタジー人形劇だ。

 人に操られた人形がドッカンドッカンと派手に戦う映像はかなり見ごたえがあった。

 

 このサンダーボルトファンタジーの撮影には、通常の撮影カメラよりも遥かに高画素のカメラが使用された。

 性能が良すぎるカメラ、ってのは人を映すのにあまり向かない。

 肌荒れや眼球の血管すらも映してしまい、変に不気味になってしまうからだ。

 だが人形を俳優代わりに使ったかっこいいファンタジーアクションである"サンダーボルトファンタジー"は、人形なので肌荒れ等もない。

 高画素カメラで撮影することがメリットにしかならないのだ。

 人形劇による撮影は、そうして人間が演じる演劇では真似できない個性、新たなる地平を切り開いたってわけ。

 

 けれど、そんな人間と人形の演劇の関係性にも、例外はいる。

 

 このCMの撮影も、かなり高画質な映像を撮るためのカメラだ。

 人間を撮影するというより、風景を撮影するカメラに近い。

 風景を撮影するカメラはどこまでも良い映像を求めるため、高い解像度を求めることが多い。

 それは女優の僅かな目の下のクマすら許さないような、タイトな映像撮影をするってことを意味するんだが……百城千世子は、なんてこともないように、撮影の舞台で振る舞っていた。

 

 歳を取った女優が嫌がるような、高画素での撮影にも笑顔で応じる。

 高画質のテレビにも一切隙を映さないような、完璧な容姿と振る舞いで演じる。

 サンダーボルトファンタジーが人形劇だからこそ許されたことを、人形のように美しい彼女は、その身一つでこなしてしまう。

 人形のような美しさ。

 人でないような美しさ。

 天使のような美しさ。

 

 ゆえに、付いたあだ名が『天使』。

 彼女はスターズの天使、なんて呼ばれてやがる。

 他の誰かが天使なんて呼ばれてたら俺は心の中で笑ってたかもしれねえが、彼女は別だ。

 彼女に対してだけは、『天使』という評価が過大評価になりもしない。

 

 俺はこの子と一緒に仕事をする度に、"失敗できないな"と気を引き締めている。

 

「あ」

 

 あっ、気付かれた。

 

「そっか、英二君も絡む仕事だったんだ」

 

 天使が俺に微笑みかける。

 

「よろしくね。君がいるならアクシデントがあっても安心かな」

 

「よろしくお願いします、百城さん」

 

 俺の心拍数とか、俺の心情とか、俺の体調とか、全部に影響するような微笑みだった。

 

 百城千世子は今はまだガンには効かないがそのうち効くようになると思う。

 

 

 






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