ノット・アクターズ   作:ルシエド
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 アクタージュ公式のサイトが出来て「ネットプライムオリジナルのドラマ『大遅延!参勤交代』」って情報が出たの面白いですよね。
 これだけで色々考えられます。
 しかし今年度に配信用オリジナルコンテンツの撮影などに1兆1200億円をぶちこんだようなネットフリックスと、そのライバルのアマゾンプライムを融合させたような『ネットプライム』とやらはどのくらい予算出してくれるのか……震えてきますね……


ここが時代劇の世界か(ディケイド導入)

 俺のスマホに連絡が入った。

 景さんじゃねえか! 何用だろうか。

 ふむ、公欠の影響が出てて今日ルイ君とレイちゃんを大黒天に預けてるって?

 

 おー、俺と柊さんで色々景さんの学校の校則調べといた甲斐があったか。

 景さんの学校、それが理由として認められれば公的欠席として認められるんだよな。

 ……限度はあるから気を付けろよって感じだが。

 今回CM撮影をして景さんに"実績"が出来たんで、ある程度の欠席は俺達の業界側が証明書出せばどうにかなるようになった。

 

 ただまあそのせいで、景さんも休日に出席したりしないといけねえことも出てきたとか。

 高校行く必要あんのかあんた?

 まあそれは俺がなんか言うべきことじゃねえか。景さんが決めることだな。

 

 ほうほう、なになに。

 景さんがこれから帰るから、時間あったら弟妹を拾って連れ帰ってほしいと。

 そうしたら晩飯奢ってくれると。

 いい話だ、思わず即答したくなる。

 しかしこんなお隣さんへの頼み事みてえなことを……お隣さんだったわ。

 

 俺今の仕事のタスクどうなってたかな。

 頭で覚えてるつもりだが、念のため手帳で確認確認。

 よし。まあ余裕あるな。

 

 10日かかる仕事や作業を技術革新などで1日で終わらせられるようにして、そこで「9日休もう」じゃなくて「10倍仕事できるな!」と考えてきたからこそ、人類文明は進歩してきた。

 俺もそうだ。

 他人の10倍速く仕事できる能力がありゃ、俺は10倍仕事する。

 だが別にこのスタンスを徹底してるわけでもねえ。

 仕事受けるペースを少し緩めたりとかの調整をすりゃ、他に色々できることはある。夜凪家のちみっこ達を拾ってくくらいは難しくないな。

 

 そんなこんなで、俺はスタジオ大黒天を訪れたのであった。

 お、柊さん。ちびっこ達二人もいる……黒さんはまたいないか。

 

「あ、いいところに。ちょっと意見聞いていいかな?」

 

「なんでしょうか?」

 

「けいちゃんの次のお仕事のことなんだけどね」

 

 ほー。

 固まったのか、仕事の話。

 その書類か。んじゃちょっと拝見。

 

「おお、ネトプラのオリジナル時代劇ですか。よくこんないい仕事取ってこれましたね」

 

「エキストラだけどねー」

 

 『ネットプライム』。

 ネット上で様々な動画を有料サービスとして配信しつつ、独自の「ここでしか見れない映画!」などのコンテンツの製作依頼と、独占配信を行ってるとこだ。

 ネットプライムは外国資本の配信サービス会社にあたるな。

 

 個人的に、ネット中心の情報化社会になった現代の中じゃ、時流を完全に掴んだネットサービスの一つだと思ってる。

 その収入は膨大だ。

 月額である程度ここに金払っとけば、好きなだけ娯楽コンテンツを貪れるようなもんだから、人が集まってくるのも当然なのかもしれん。

 

 現代じゃ、一サイトだけでも独自コンテンツ作成とその宣伝に年間100億ドルを費やしてることが発表されてるところもあるくらいだ。

 金額が頭おかしい。

 え、どうなってんのそれ。

 独自で撮ってる映画も、力入れてるやつと力入れてないやつこそあるが、撮影現場に落としてくれる映像作成依頼料の平均値は、テレビの平均値を超えてるとかも言われるやべーやつら。

 外資怖え。

 

 2018年初めに少し話題になったが、時代劇の時代は終わりつつあるというより、新しい時代に突入しつつある。

 地上波放送や映画で時代劇を見られる機会はどんどん減ってきた。

 だが24時間365日時代劇を流し続ける『時代劇専門ch』などに視聴者が流れ、多くのチャンネル加入者を獲得することで、未だかなり多くのファンを保持してる。

 流石時代劇。

 歴史が長いだけあってしぶとく強え。

 

 んで、こういうネット配信系に移りつつある時代劇がここ数年熱意を注いでんのが、ネット配信限定系の時代劇だ。

 配信会社が金を出す。

 製作が時代劇を撮る。

 その配信サイト限定で有料配信する。

 配信サイトが儲けを独占してがっぽがっぽ。

 おそらくだが、今回景さんが参加するっていう『大遅延!参勤交代』も、このウェーブを把握した目敏い人による企画だろうな。

 

 ……宮河さん*1か?

 ネット配信限定のオリジナル時代劇撮影っていうと宮河さんっぽいよな。

 黒倉さん*2のアマゾンズ*3の話を聞いて打診したのか?

 さーてどうだろ。

 

 確か時代劇撮影には一般募集以外のルートで入れられる俳優エキストラもあったな。

 撮影スケジュールと募集期間を見るに、監督とか迂回してこっから景さんを入れたか。

 ……黒さんの知り合いとか現場にいそうだ。

 黒さんが悪巧みしてたら撮影所から蹴り出しそうな人とか。勘だけど。

 いかんな、監督を迂回してるからちと勘ぐっちまう。

 

「撮影は……ワープステーション江戸ですね。

 これ大丈夫ですか?

 あそこ茨城のつくばみらい市ですよね?

 この事務所からだと国道経由で片道一時間以上かかると思うんですが……」

 

「そうなんだよねえ」

 

 ワープステーション江戸。

 時代劇を何度か見たことのある人なら「あーこれ見たことある!」となる、江戸の街並みを再現したロケ施設だ。

 今年明治・大正・昭和ゾーンが完成したため、撮影のバリエーションがぐーんと増え、今指折りにホットな撮影所だ。

 景さん魅せるにはいい場所だと思うが、どうなんだそこは。

 

「電車使ったらもっとかかりますしね、移動。

 撮影ぎっちりやったら帰宅開始が夕方で、そこそこルイ君達一人にしてしまうような……

 どうするんですか? 俺が小学校まで迎えに行くとかそういう想定だったりしますか?」

 

「墨字さんはそこは心配しなくていいってさ」

 

「なぜに」

 

「『どうせそんなこと考える必要なくなるからだ』だって」

 

「……?」

 

「撮影が長引く前にさっさと撮影バックレて帰るつもりだったりして……

 あ、英二君は手が空いてたら極力撮影来いって、墨字さんが言ってた」

 

 んな無茶な。

 撮影の途中でバックレて帰るとかやったら業界で干されるルート一直線だぞ。

 ……んー、でもなあ。

 適当に見えて計算尽くって時々やるしなあの人……また後で聞いてみるか。

 小学校が終わる時間とかあの人の計算に入ってんなら、俺に見えてない何かがあの人の目には見えてるはずだ。

 

「呼んだー?」

 

 景さんの弟君達の名前を呼んだからか、走り回っていた二人が飛びついてくる。

 ぐええ。

 子供の肘が首とみぞおちに入った。

 

「にいちゃんまたウルトラ仮面のとこ連れてってー」

 

「また今度ね」

 

「おねーちゃんの言う事ならなんでも聞いてくれそうなのに、おとこってかってね」

 

「レイちゃん、覚えたての言葉を使いたがるのは分かるけどやめようね」

 

 元気いいなあ子供達よ。

 柊さんがくすっと笑っている。

 

「懐かれたねぇ」

 

「懐かれてしまいました……」

 

 ここまで懐かれるとか想定もしてなかったわ。

 俺の何がいいんだ?

 あっちの製作職なのに女優って言っても通じるっちゃ通じる美人さんに抱きつけよ。

 

「おなかすいたー」

「すいたー」

 

 そっか、腹減ったか。

 

「何か作りましょうか。柊さん、二人の相手をお願いします」

 

「はいはーい」

 

 そういや、夜凪さんちに差し入れしようと思って道中で買ってきた食材があった。

 ここはスタジオ大黒天事務所でしかねえが、簡単な調理くらいはできる。

 と、いうか。

 俺が普段持ち歩いてる仕事道具だけでも、拾った木に可燃性の溶剤とエンボスヒーター*4で火を着けて、未加工のステンレス板とかを加熱すりゃちょっとした料理は作れるんだよな。

 

 ちょうどよく今日の俺のワークリュックの中には撮影用フライパンがある。

 軽くて人を殴っても(それなりには)平気なやつだ。

 ちゃちゃっと作ろう。

 

「わ、オムライス」

 

「生卵一気飲みができなくなったので、毎日オムライスにしてたらちょっと上手くなりまして」

 

「ごめん、日本語で話してくれるかな」

 

 日本語ですけど!?

 

「もぐ、もぐ、けいちゃんが来てくれてからうちの事務所も経済状況改善しそうだよ」

 

 美味そうに食べてくれる柊さんと向き合う俺は、ルイ君とレイちゃんの口元を拭いてやったりするので手一杯、柊さんの話に耳を傾けるのに精一杯だった。

 

「黒さんそんなに稼いでなかったんですか?」

 

「私が持って来た仕事を気に食わないって断ったのもしょっちゅう。困るオブ困るだね」

 

「なんだか分かる気がします」

 

 あれはそういう人だわ。

 

「だから私の給料とかも、ね……」

 

「黒山墨字なだけにブラック企業ですね」

 

「だれうまだよエージ君」

 

 柊さんも大変だな。

 

「ブラックじゃないよ。

 墨字さんが仕事勝手に断ったら仕事も収入もないだけよ。ただの無色」

 

「無色じゃなくて実質無職じゃないですか……?」

 

「ぐ」

 

 映画業界って時々『誰も彼に仕事依頼しなくなったんで実質引退です』とか雑誌に掲載されたりするような、ひっそり死がある世界だからな……気を付けよう。

 

「そーれぐちゃぐちゃ!」

 

「あー! 俺が気合いを入れてルイ君に贈ったケチャップ製平等院鳳凰堂のオムライスが!」

 

「ケチャップで何描いてんの君……」

 

 うるせえ。

 

「無駄な所でも手の込んだことしちゃうのはエージ君の欠点かもね」

 

 うっせ。

 

「そうだ、時代劇だけどけいちゃんの服どうしよっか?

 エージ君がけいちゃんの専用の服とか作るなら、うちがお金出して依頼するけど」

 

「やめた方がいいと思います。エキストラ役は黒さんの要望だったんですよね?」

 

「うん」

 

「それなら、他の人と同じレンタルにしといた方がいいと思います。

 エキストラを望んだということは、群衆に紛れる何かの演技……

 いえ、正確な狙いは分かりませんけど、群衆の演技をさせたいんだと思うんですよね」

 

「そうだね。それなら、他のエキストラと同じレンタル品の方がいいか」

 

「はい。統一感と群衆感を出すなら他のエキストラと同じところから借りるのが一番です」

 

 俺が目立たせようと服を作りゃ目立ちすぎるし、目立たせないように意識するとそれはそれで一般人っぽくはない。

 借り物の服を着てるエキストラ達の中に、一着だけ俺製の服混ぜんのはちょっとな。

 少々目立つ人と少々目立たない人が混ざってるくらいが、エキストラとして理想的な塩梅……と言いたいところだが、こういうのは監督の趣味も影響するから一言には言えん。

 

「今回の仕事、目的としてはどのあたりになると思います?」

 

 柊さんに問うてみると、柊さんは腕を組んで考え込む。

 

「墨字さんは、一回自分が監督する作品からけいちゃん離そうとしてるのかも」

 

「……あー」

 

「墨字さんが監督だと、その現場は墨字さんが自由にできるからね。

 けいちゃんの方に現場を合わせることができちゃう。

 でも墨字さんが監督じゃないならけいちゃんが現場に合わせないといけない。

 そんなこと考えてるんじゃないかな、なーんてちょっと思った。個人的な予想だけどね」

 

「結構当たってる気がします。俺も腑に落ちましたし」

 

 なるほどなあ。

 景さんの才能を考えると、さほど無茶とも思えねえ。

 黒さんが監督しねえ作品にガンガン景さんを放り込んでいけば、景さんの成長の仕方もかなり多様性が出てくる……『黒さんの色に染まった女優』じゃなくて、『黒さんの誘導で多彩な強みを持たされた女優』になるわけか。

 この先、景さんの仕事で黒さんの監督作品じゃねえものが続いてたら、黒さんがその辺考えてる可能性は高いかもしれん。

 

「おかわり!」「おかわり!」

 

「はいはい」

 

 とりあえず今は、このちみっこ達にオムライスでも作ってやろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 撮影当日。

 俺と柊さんは先に現地入りしていた。

 ワープステーション江戸は大人でも一人400円で入れるが、一般人と業界関係者がきっちり分けられていて、事前の申請によって「撮影スタッフの分の料金は最初に計算して全員分まとめて支払い」って感じになることもある。

 柊さんはエキストラの女優のマネージャーとして。

 俺の場合は緊急の応援美術スタッフとしてここに入ってる扱いだな。

 

「エージ君はよく自分の仕事をここにねじ込めたね」

 

「佐々本修平*5さんには以前お仕事でお世話になってましたからね。

 その恩返しをしたかったのも、ここの撮影の美術が緊急募集入れてたのも本当ですから」

 

 佐々本さん達の仕事の下働きに欠員が出たから、そこを俺が埋める。

 俺が仕事の穴を埋めつつ、景さんが何かマズいことになったらサポートに行く。

 そんな感じか。

 黒さんが俺呼んだってことはその程度の塩梅の仕事を期待してる、と思いてえところだが。

 

 さて、景さんが今回するエキストラって仕事は何か。

 

 エキストラには極端な例外を除けば二種類いる。

 事務所にエキストラ登録された俳優が出るやつと、一般人から集めて使うやつだ。

 どっちにしろエキストラってやつは、怪人から逃げる民衆、怪獣から逃げ惑う人々、江戸の街を歩くモブとかの群衆をやらされる。

 ま、基本的な仕事だけ見れば、背景のモブなんで大差はねえ。

 

 だが、柊さんがマネージャーとして付いてるってことは当然、景さんは事務所から来てる女優枠のエキストラになる。

 こっちの場合はちゃんと給料が出る分、求められることも多い。

 

 例えば、一般人のエキストラの中に混ぜられ、背景の中で名演技を見せて、全体の"逃げる演技のレベル"を引き上げたり。

 密集して逃げる一般人エキストラが転ばないよう、わざと集団の中でそこそこ程度の速さで逃げることで、全体の速さを調節したり。

 一般人のエキストラは俳優や監督に優しくしてもらえるが、俳優がやってるエキストラは下手を打つと「素人以下か出てけ! 事務所に苦情入れてやる!」となる。

 

 さて。

 自分を殺せねえ景さんが、どこまでできるか。

 『主役にしかなれない』景さんを、黒さんがどうやって背景の群衆に仕立てるか。

 ちょっと楽しみになってきたぜ。

 

「柊さん、飲み物買ってきました」

 

「あ、いいのにそういうの。でも、ありがと」

 

 二人で並んで建物によりかかり、ワープステーション江戸の街並みを見やる。

 江戸、江戸、江戸。

 どこからどう見ても江戸だ。

 俺達が時代劇とかでよく見る江戸だ。

 実は撮影上の都合で本物の江戸時代の江戸からはかけ離れてる街並みがあったりするが、時代劇はフィクションだ。許される。

 だからここは江戸なんだ。

 江戸だっつってんだろ!

 正確な歴史考証をしてるやつがこのスタジオにケチつけてくることもあるが、ここは誰がなんと言おうと江戸なんだ。

 素晴らしい作品を生み出してきた江戸なんだ。

 日本に住んでる人が江戸をイメージするとこういう時代劇セットが頭に浮かぶのがほとんどなんだから、もうこれが真実の江戸でいいよな。

 

「柊さんがいてこそですよね、今回の撮影は」

 

「ん?」

 

「俺や黒さんじゃ、景さんを時代劇用の着物に着替えさせるのはアウトですから。

 女性で、昔ながらの着物を着せられる人って、最近凄く減ってますし。

 景さんも女性ですから、事務所に同じ女性の柊さんがいて安心してる部分あると思いますよ」

 

「やだなーもう、着替えしかさせる予定ないのに。私あんまり働く予定ないんだよ、今回」

 

 重要なことだって。

 女優の不安を取り除ける女性マネジメント担当ってのは大切なもんなんだぞ。

 

「あ、梅坂桃李*6さん、左藤健*7さんですね。現地入りみたいです」

 

「え、どこどこ?」

 

「あそこですあそこ」

 

「口で言うだけじゃなくて指でも指してエージ君……あ、いたいた! 迸るイケメン力!」

 

「景さんが出る作品のキャストっぽいですね」

 

「へー、あの二人が出てるのかぁ」

 

 お、通行制限が始まった。

 ワープステーション江戸は、大人一般人が小学生お小遣いレベルの入場料で入れるようなところだが、撮影が開始されると入場禁止や一部通行止めになる。

 一般人は排他され、本格的に撮影が始まるってことだ。

 

「あ、原田*8さんですよ原田さん」

 

「色々人来てるね。あ、あれは……見覚えあるんだけど、誰だっけ」

 

「福木*9さんですよ。ほら、『五万回切られた男』の異名で呼ばれる名演者です」

 

「あ、思い出した! ありがとね、エージ君」

 

 というか何だこのメンツは。震えてきたぞ。

 

 外資からたらふく金貰ったプロデューサーが本気で撮影してる気配を感じられる……あー、臨時応援スタッフだけで俺の仕事が終わんの悔しいなこれ!

 

「さて、どうなるものでしょうか」

 

「けいちゃんのこと?」

 

「時代劇って、実はメソッド演技の対極なんですよね」

 

 そう、そこが難しい。

 

「現代の街では皆、大なり小なりメソッド演技してるようなものなんですよ。

 だって現代の街っていうのは、皆住んでる場所ですから。

 皆が街で生きてきた思い出を持っていて、それを思い出しながら、自然に街で生きてる」

 

「あるよね、現代の街での振る舞いの癖が付いちゃってて、時代劇で違和感ある人」

 

「そうです。

 自分の過去の記憶に引っ張られて変になる、って意味ではメソッド演技の弊害と同じです。

 現代の街で生きてた俳優さんは、現代の街に生きてる人間は自然に演じられます。

 現代の街に生きてた記憶と体験を今の自分に引っ張ってくればいいからです。

 でも時代劇はそうはいきません。

 誰も江戸時代に生きた経験なんてないですから、参考にできる記憶と経験がないんですね」

 

 そう、そこが、時代劇を演じるにあたって厄介なところだ。

 

「となると、必要なのは知識に技量。

 江戸時代にはどんな街があったか?

 どんな人が住んでいたのか?

 そこにはいかなる常識があったのか?

 そういうのを頭の中に入れて、意識的に振る舞いを考えないといけないわけですが……」

 

「けいちゃんは……うん」

 

「基本、昔の自分を引っ張ってくるのが彼女ですから。

 江戸時代に生きた経験が無い彼女は絶対に不協和音を起こします。

 時代劇ほど『この時代に生まれ育った"自分"を使ってはいけない』ドラマもないですね」

 

「大変だよね。江戸時代より後に生まれた食べ物も、道具も、概念とかも話しちゃいけないし」

 

「ギャグとか相当大変だと思いますよ。

 現代のワードも中々使えませんし……

 かといって昔の言葉遣いや専門用語を多用すると、若い人や新規さん置いてけぼりですし」

 

 まあそういうの全く気にしてねえ時代劇作家とかもいるっちゃいるけどな。

 

「けいちゃん大丈夫かなぁ」

 

「景さんの今のメソッド演技だと詰みですけど、黒さんがどう出るかですね」

 

「けいちゃんこのまま芸幅広がらないと、こういう難しい状況増えちゃうんじゃない?」

 

 それがなー。

 間違いなく天才なんだが、間違いなく使い勝手が悪い。

 黒さんがそれの解決を狙ってんなら、景さんが過去の記憶のどこを探っても近いものしか見つからねえであろう、『江戸時代の江戸の世界』を使うのは妙案かもしれん。

 

「髪に虫ついてますよ柊さん、ちょっと動かないでください」

 

「え、ちょっ、取って取って! ……ありがと。虫多くない? ここ」

 

「近辺に緑が多いですからね、ここ」

 

 問題は、黒さんの妙案を俺達何も知らねえってことなんだが。

 

「景さんって、他には狙ってギャグとかもできなさそうですよね」

 

「あー、分かる。墨字さんがそもそもギャグやらせようとするのか分かんないけど」

 

 ギャグは勢い型でも計算型でも景さんには苦手だと思う。多分。

 

「ただ、素の景さんはかなり面白いと思うんです」

 

「あー、分かる! 真面目な役者さんがバラエティに出て天然キャラで面白いやつ!」

 

「あれいいですよね。俺ああいうの好きです。

 真面目な顔で天然なことやられるとついクスっとしちゃうんですよね」

 

 景さんはお笑い芸人にはあんま向いてねえ気がするが、売れてからバラエティーで年食ったオッサンのベテランお笑い芸人に囲まれてトークすると、絶対面白い。

 いや本気でそう思うんだって。

 

「おはようございます」

 

「ん? あれ、山森さん。この撮影に来てたんですか」

 

「はい。大名行列の前を横切って殺される役ですけど」

 

「目立つ役ですよ。子役の誰もが任せられるとは限らない役です。

 流石は山森さんですね。俺も裏方でお手伝いしますが、頑張ってください」

 

「はい! それで、その……」

 

 おずおずと、山森さんが一歩こっちに近寄ってくる。

 なんだ。聞きづらいことでも聞きたいのか。

 何でも答えてやんぞ。

 

「その人のこと、好きなんですか?」

 

「え?」

 

「今そこのお姉さんと話してた人です。朝風さんの表情が、その、特別に見えて」

 

 景さんのことか。

 邪推されてんのかこれ?

 

「え……んー、それはどういう意味ですか? 山森さん」

 

「カマトトぶらないでください、朝風さん」

 

「カマト……!?」

 

「控え目に言って猛烈にキスしたい人なのか聞いてるんです!」

 

「それで控え目!?」

 

「朝風さんの、そんな惚れ込んだみたいな表情……

 百城さんより演技が上手い人でもないと、アキラさんが許さないと思います!」

 

「ハードルが高い! そして途方もなく他人事!?」

 

 俺の中で突如記憶が甦る!

 それは友との記憶。

 山森さんの台詞が、俺の中の友達と話した時の記憶を呼び覚まし、俺の脳内で脳内アキラ君が喋り出す。

 

―――朝風君、知ってる? 子供って純粋だけど実は皆大人なんだよ

 

 イケメンの喋りが、脳内で再生される。

 

―――それはそれとして君、敬語使ってるから周りに大人に見られてるだけで子供っぽいよね

 

 アキラ君の台詞の記憶が……

 

―――というか、君は味覚がちょっと子供っぽい

 

 うるせえぞ脳内アキラ!

 

「山森さんが思ってるようなことはありませんよ」

 

「本当ですか……?」

 

「そうです。確かに、俺は夜凪景さんが好きですが」

 

 ガタン、と音がした。

 何かを踏み外すような音。

 それを聞いて振り返った俺が見たものは、口を抑えてる黒さんと、衝撃を受けた表情の景さんであった。

 

 あっ、やべっ。

 

「そんな……英二くんが、私のことを好きだったなんて……」

 

「景さん、そこで思考ストップ、ストップです。今から俺が弁明します」

 

 うわっ面倒臭えことになりやがった。

 

「ごめんなさい英二くん。私、役者に集中したいの」

 

「あっ、別に恋愛的に愛の告白したわけでもないのにフラれたみたいで凄い傷付く!」

 

 ちょっと胸が痛い!

 

「ふられたー」

「ふられちゃいましたね」

 

 柊ィ! 山森ィ!

 

―――朝風君、聞いてくれ。君が時々特撮作品を早口で長々とオススメしてくるの気持ち悪い

 

 脳内アキラァ!

 

 いや待てなんで初対面の柊さんと歌音ちゃんの息合ってんだよ!?

 そこはおかしいだろ!

 

「本当にごめんなさい英二くん。でもこれからもいいお友達でいてね」

 

「あ、俺景さんのいい友達の枠に入れてもらえたんですか?

 ありがとうございます。嬉しいです。いい友達ってこう、響きがとてもいいですよね」

 

「……けいちゃんとエージ君の会話聞いてると時々脳味噌溶けそうだよ……」

 

 柊さん、なんで……?

 

「おいエージ」

 

「なんでしょう、黒さん」

 

「そうだな。俺は映画監督として、一生俺が使わなさそうな台詞で言ってやる」

 

 なんだよ?

 

「草生える」

 

 ぶっ殺すぞ。

 

 

*1宮河朋之。ドラマ版ライアーゲームのプロデューサーなどを努めた。また、配信界隈で日本映画専門ch、時代劇専門chなどの立役者となった人物でもある。地上波から消えていく時代劇と、それを寂しく思う時代劇ファンの受け皿となった配信時代劇界のゴッドの一人。時代劇専門チャンネルで衛星放送内での視聴率トップ獲得など、実績はピカイチである。

*2黒倉伸一郎プロデューサー。黒倉Pが「告知は出さないが2015年9月24日から日本でもアマゾンプライムビデオサービスが始まる」と噂を聞きつけた。それを聞きつけた黒倉Pがアマゾンに撮影を提案。「そんなドンピシャなタイトルがあるんだ」と驚いたアマゾンがマーケットデータを分析し、「仮面ライダーは売れる」と判断したため、アマゾンが予算を出し黒倉Pが作っていく『仮面ライダーアマゾンズ』の企画が成立した。

*3仮面ライダーアマゾンズ。2016年4月配信開始。凄惨な話に悲惨なストーリー、無残な死に胸を抉るような描写を合わせた近年トップクラスの大問題作。ところで放映前の児童誌で正義の味方のごとく書かれた「人間を襲うアマゾンと戦うヒーロー・千翼」っていつ登場するんですかね?

*4最初の話で英二が加工に使っていたもの。

*5ウルトラマン80(1980)の撮影で最高峰のアクションを見せた殺陣師。踊る大捜査線などのアクション指導も担当。近年の時代劇であれば、大人気テレビドラマのJIN-仁-(2009、2011)なども担当した。

*6侍戦隊シンケンジャー(2009)の主人公、殿こと志葉丈瑠でデビューしたイケメン俳優。2018年に時代劇撮影に初挑戦していたことが判明。彼が頼り甲斐のある自信満々な男、罪悪感に蝕まれる男、全てを失った虚無的な男を段階に分けて演じた侍戦隊シンケンジャーは、スーパー戦隊シリーズ最高傑作候補だってルシエドが言ってた。

*7仮面ライダー電王(2007)で連続ドラマ初主演・映画初挑戦・映画初主演のイケメン俳優。時代劇経験も多い。高い演技力、演じ分け、そして鍛え上げたアクション能力などが売り。電王の野上良太郎、るろうに剣心の緋村剣心、ROOKIESの岡田優也などを演じたのが有名か。アキラのような高い身体能力と、アラヤのような(ある意味夜凪のような)深くに潜り役を演じ分ける能力を持つため、ある意味アキラの理想的な完成形の一つでもある。

*8原田智生。朝風英二と同タイプの、祖父のゴジラやウルトラマンの撮影について行き、スタッフに家族のように愛され育てられた男。『海外で大成功し、国際映画祭で入賞し、60年近く現役の、英二と同タイプの男』。世界的な評価も高く、怪獣造型・映画監督・アニメーション制作・特殊メイクと仕事の幅は多種多様。担当作に平成ガメラ、仮面ライダー555 パラダイスロスト、ウルトラマンギンガ、ウルトラマンメビウスなど。

*92018年現在、75歳現役の時代劇界の怪物の一人。『殺され専門の俳優』という、きらびやかな役を求める芸能界では異端とも言える極地を目指した『殺されの達人』。彼の尋常でない身体能力と技で作られる死の演技を見た者は本当に死んだかと錯覚し、トーム・クルーズが「定年で辞めたら是非ハリウッドに来てくれ」と60歳のこの人に言ったという、天才が全ての才能を殺され役に注いだ傑物。時代劇、ヤクザ物、刑事物と幅広い分野で殺され続け、とうとう2011年の映画『レッツゴー仮面ライダー』では、『敵幹部怪人』という最高の殺され役を演じることとなった。余談だが、『超高速!参勤交代 リターンズ』ではスタッフ一覧にこそ名前が載っていないものの、ちゃんと撮影に協力している。




 ルシ江戸!

 ルシ江戸……

 アクタージュ本編のあの『大名行列の前を子供が横切っちゃった』撮影、元ネタ作品から庄内オープンセットの宿場町エリアあたりがモデルだと確信してたんですが、思い出補正排除して色々見直し、アクタ本編読み直してたらワープステーション江戸じゃないのこれ? とも思えてきて、散々迷った挙げ句にワープステーション江戸設定にしてしまいました
 フラフラな作者をゆるして

 こんなこと言っといてなんですけど、橋周り見てると東映太秦映画村の日本橋付近か日光江戸村の両国橋付近がモデルだと言われたら、それはそれで納得しちゃうというか……





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