ノット・アクターズ   作:ルシエド

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 ルシエドは短い文で何か異常性出したり、文章を書き連ねて天才性を強調したりしますが、世の中には無限の表現があります。
 色々学んでいきたいとこですね。
 例えばこれは10代でジャンプに拾われた、アクタージュ作画の宇佐崎しろ先生のツイッターでの先月のつぶやきですが、地味に天才性がにじみ出てると思います。

「もののけ姫初めて観た、面白かった~」

 ルシエド、ジャンプで売れてるのにもののけ姫生まれて初めて見たとか言う若年の天才は初めて見ました……有名名作見ないまま成功した天才って凄えと思います。


千世子「ファントム・スレッド良いよね英二君。服作りの天才と女性の恋物語。より深く愛してる方がより強く相手を支配すると教えてくれる名作映画だよ」

 歌音ちゃんにもラーメンを作ってやった。

 さっさと食っておかわり申し出てきた堂上さんにも作ってやって、四人でラーメンをすする。

 

「さっきの話の続きですけど」

 

「刺激の話?」

 

「そうです。

 俺達が作るもの……

 映像作品には、刺激があるといいって話です」

 

 色とりどりの花の形にぱぱっと切り揃えてあげた薄いかまぼこを、歌音ちゃんのラーメンの上に並べてやると、ぱあっと表情が明るくなる。

 俺は手を動かしつつ、アキラ君や堂上さんとの会話を続けた。

 

「料理の世界で、少し前の時代から言われてることがあります。

 料理の良さには、未知への感動と既知への安堵がある、というやつです。

 俺は個人的にはこれが映画作りにも適用されると思うんですよね」

 

「ああ、分かる。

 ウルトラ仮面の時に僕もプロデューサーから散々言われたよ。

 新しいことをやれ、斬新な面白さを、古くからのファンを驚かせろ。

 でも古くからの王道をやれ、定番の良さを魅せろ、過去の受けた作品を参考に。

 難しい注文だらけだった覚えがあるよ。

 失敗する挑戦はするな、でも成功する挑戦は増やせ……みたいな」

 

「おいおい、特撮の世界だけじゃねえぞ。

 普通のドラマの界隈でもそういうのはちゃんと言われてるからな」

 

「朝風さん達は、とても大変なんですね……」

 

 そうだぞ、歌音ちゃん。

 

「自覚していかないといけないんですよね。

 俺達は斬新なインドカレーも、懐かしい実家のカレーも作れないといけない。

 そして時に、実家を思い出す安心と斬新な驚きを両立しないといけない……」

 

 映画ってのは、そういう矛盾を抱えてるのかもな。

 

「俺の知ってる中だと、そうですね。

 手塚監督が、漫画原作から安定した作品を作る既知の安堵型。

 なんだかんだ原作の良いシーンは残して、視聴者を安定して楽しませてると思います。

 あと、有名俳優を使ってるので視聴者は皆演技面では安心して見てる気がします」

 

「未知の感動型は?」

 

「それなら黒山監督ですね。

 新しいことをやっている、だから海外の映画祭りでも評価されてます。

 あの人は毎回誰もが見たことのないものを作ってるタイプだと思います」

 

 ん? どうしたアキラ君、考え込んで。

 

「千世子君の安堵……夜凪君の未知……僕の演技が安堵の方だとすれば……」

 

「アキラさん?」

 

「あ、ああ、ごめん。少し考え事をしてた」

 

 俺は難聴系主人公じゃねえからな、聞こえてたが聞こえてなかったことにしてやる。

 

「昔ながらの醤油ラーメンが食いたい!

 って消費者の需要があります。

 でもありきたりな醤油ラーメンはもう要らん、って批判もあります。

 今まで食べたことのないラーメンが食いたい!

 って消費者の需要があります。

 でも奇をてらいすぎたこのラーメンは要らん、って批判もあるわけです」

 

「まさに撮影作品だな。俺達が苦しめられてるもんだ」

 

 こういう矛盾がなー。

 

「矛盾あってこそ、両立できれば強い、って感じがしますよね。映画は。

 芸術性とエンタメ性の矛盾。

 未知の感動と既知の安堵の矛盾。

 さっき話した、ホラーのハッピーエンドと怪物の恐ろしさの矛盾。

 あとは……『怪物が走るかどうかの矛盾』とかもそうですね。ゴジラとかゾンビとか」

 

「僕は走るゾンビが出る作品が好きかな」

 

「俺は走らんゾンビが出る作品の方が雰囲気出て好きだが」

 

 意見真っ二つに割ってんじゃねーよ。

 

「ゴジラはゆったりと歩いた方が雰囲気が出てて怖いのか。

 それとも素早く走って飛び回る方が強く見えるのか。

 ゾンビはゆっくり動き、数で人間を包囲し、圧殺するのが恐ろしいのか。

 走って来るゾンビが、怒涛の勢いでバリケードを乗り越え、噛み付いて来るのが恐ろしいのか」

 

「面倒臭えファンが自分の派閥の仲間をわんさか揃えて論争してるイメージしかねえぞ」

 

 ごもっとも。

 

 そういや、日本でゾンビと言えばバイオか。

 

「バイオハザード*1はやったことないのでどっちだったのやら」

 

「映画はスタイリッシュアクションだったな。

 俺は映画だけだが、三人はバイオのゲームやったことあるか?」

 

「俺も無いですね」

「僕も無いかな」

「私は、ちょっと年齢が……」

 

 ……そういやバイオハザードって年齢制限あったな!

 18の俺、19の堂上さん、18のアキラ君ならともかく、7歳の歌音ちゃんにはそりゃあれだ!

 

「そういえば、バイオハザードの劇場版*2ですが……」

 

 ちょっとばかり、歌音ちゃんの耳を塞ぐ。

 

「?」

 

 不思議そうな顔をする歌音ちゃん。

 まあここは大人しく耳を塞がれとけ。

 

「バイオハザード:ザ・ファイナル*3の事故の詳細、去年に出ていましたが……

 凄かったですね。結局吹っ飛んだ片腕は戻らなかったみたいです」

 

「え、何それ俺知らん」

 

「高速で走るバイクの撮影中のことです。

 スタントマンがメタルのカメラアームとぶつかってしまったんです。

 骨は折れ、指は飛び、脳内出血し、骨と血と肉と神経をその場に撒き散らして転がったとか」

 

「うわぁ」

「うわぁ」

 

「吹っ飛んだ骨は全部見つからなかったそうです。

 体中の骨はバキバキ、吹っ飛んだ指や骨は見つからず。

 脊髄の神経も切れ、脳は出血しながら腫れ上がり。

 手術とリハビリで最終的には片腕の喪失と、半身の骨の歪みという形に収まったようです」

 

「うわぁ」

「うわぁ」

 

「お二人とも、スタントすべきところはスタントにちゃんと任せてくださいよ。危険ですから」

 

「頼まれてもやらねえよ、俺は」

 

「僕もある程度ならまだしも、本当に命まで危険そうならスタントに任せるよ……」

 

 ちょくちょく思う。世界はアリサさんのトラウマを刺激するもんに溢れてるよな。

 

「本当に気を付けましょうね。

 ザ・ファイナルはこの事故の後、細心の注意を払って撮影を継続しましたが……

 それでも作品完成までに撮影スタッフが一人、撮影用車に潰されて死んでますから」

 

「えっ」

「えっ」

 

 そう警告して、歌音ちゃんの耳塞ぎを解除した。

 

「なんで今、私の耳を塞いだんですか?」

 

「ちょっと男同士の愉快じゃない話をしていたんです。

 すみません、勝手に身体に触れてしまって。嫌じゃありませんでしたか?」

 

「朝風さんならいいです。くすぐったかったですけど」

 

 懐かれてんなあ。

 こんな懐かれるようなことした覚えあんまねえぞ。

 

「最初はそこまでじゃなかったんですけどね。

 初代バイオ劇場版のラストで女優の体についているあざは本物ですが……

 あれは女優がスタントを使ってなかったからで、必然のものでしたし……」

 

「いやいやいや、それは結構どうかと思うよ朝風君!

 もしもの話だけど、千世子君がそういう撮影に放り込まれたらどう思う?」

 

「撮影中止にするために手を回すと思いますけど」

 

「うわっ」

 

 初代バイオ劇場版はアクションを活かすため、服をめっちゃ薄着にして、そのせいで下着付けられないから下着無しでアクションしてたんだぞ……?

 おめーやらせること許すと思うか? 俺が? 百城さんで?

 そういうこととか……アキラァ!

 見てみたい以上に百城さんに絶対やらせたくねえだろ当たり前に!

 百城さんが自分の意志でそういうの進んでやるとかでもなきゃ絶対に止めるわ!

 

「バイオ劇場版の撮影状況は2で一回凄くまともになったんですよね。

 女優本人がやりたがってたことをスタントにやらせるようになったので。

 ビルの上から50m分の壁を駆け下りるシーンとか、あれこれそういうのです」

 

「それを美人女優にノースタントでやらせたら俺も驚くぞ」

 

 俺もそう思うわ。

 バイオ劇場版五作目で16人くらいが落下事故で下敷きになって怪我してたあの時、撮影の危険化の予兆はあったのかもしれん。

 

「よし、次はゾンビ映画見ようぜ。俺達だけじゃなく、歌音ちゃんも見れるやつ」

 

 そう来たかー。

 

「話に聞くショーン・オブ・ザ・デッド*4とかいいんじゃないか?」

 

「あれ、見たことありませんでしたか。

 終盤ちょっとあれ、辛いところがあるんですよね。ネタバレは伏せますけど」

 

 ショーン・オブ・ザ・デッドは基本的にボボボーボ・ボーボボだが、終盤だけちょっとメインヒロインが死んだ頃のるろうに剣心みたいになって、またボーボボになる。

 基本的にボーボボの眷属だからな、ラストもゾンビをペットの犬みたいに使ってる人達が出て来るとか凄いんだよアレ。

 でも終盤で「あ、俺達ゾンビ映画作ってたんだった!」「もっと人死なせないと! グロも出さねえと! あぶねーあぶねー忘れるとこだった」って監督が思い出しちまうからな。

 歌音ちゃんにはもうちょっと抑えめのがいいだろうぜ。

 

「そこでこの『ゾンビ・ヘッズ 死にぞこないの青い春』です。

 ショーン・オブ・ザ・デッドはギャグの傑作ですが、腸が出るところが痛そうです。

 ですがこの映画の場合、途中から主人公達の腸は仲間に引かれるロープにしか見えません」

 

「どういう映画だよ……」

 

「何より、素敵なハッピーエンドですからね」

 

「ほほう」

 

「あの、私のせいで見られる映画が限られるなら、私は帰りますからどうか気にせず……」

 

「大丈夫ですよ。

 ゾンビ映画のため、ノングロとは言えませんが……

 それでも俺はこの作品が、子供の心の教育にいいものだと信じてますから」

 

「ゾンビなのに……」

 

 ゾンビでもだよ。

 

「あらすじはこうです。

 目覚めた主人公は、自分がゾンビになっていることに気付きました。

 しかも特別な自我が残っているゾンビです。

 あてもなく歩いていると、頭空っぽの軽い男と出会います。

 頭空っぽ、というか頭腐ったゾンビの男は、優しい男でした。

 ゾンビになったことに絶望する主人公を励まします。

 『お前の恋人を探しに行こうぜ』。

 主人公が繰り返し励まされ、死んでも離さなかった指輪のことを思い出します。

 『彼女と結ばれることを諦めても、せめてこの指輪だけは』。

 ソンビの友情、ゾンビの純愛、死んでも冷めなかった愛を届けるための旅路が始まります」

 

「あっ、俺が好きそうなやつ」

 

 視聴開始。

 

 視聴完了。

 

「「「 終わりが……雑! 良い意味で! 」」」

 

 うわっ、三人の声が揃った。

 

「いや……なんだあれ……

 エヴァンゲリオンの最終回だっけか。あれの数倍インパクトあるんじゃねえかこれ」

 

「いいんじゃないかな。僕はああいうハッピーエンドは嫌いじゃないよ」

 

「わ、私、ハッピーエンドでいいと思います。

 それと、迷いながらも貫かれた一途な愛が素敵だと思いました」

 

 三者三様だな。

 山森さんが怖がって泣き出したら止めようと思ってたが、そういうこともなかった。

 むしろ途中の心優しい人食いゾンビが、人間に撃たれたところで泣きそうになってたか。

 

 ゾンビが立ち小便してる途中に警官にホールドアップ! って言われた時、つい腕を上げて自分のチ○コもぎ取っちゃって「やべっ」って顔でポケットに隠すシーンとかでは流石に歌音ちゃんの目を塞がせてもらったが。

 

「というか、アレだな。

 ゾンビが普通の人間の爺さんと友達になるのが意外だった。

 その爺さんが長年連れ添った婆さんの遺灰を湖に撒きに行く途中の話、いい感じだったな」

 

「ゾンビの死が全てじゃないって感じでしたね。俺も好きです」

 

「コミカルで、血が出るシーンでも私大丈夫でした。朝風さんが目を隠してもくれましたし」

 

「下手な全年齢よりグロっぽくないですからね。

 血が出るシーンのグロさは、この前の時代劇の山森さんが切られるシーンと……

 ……同じくらいと言いたいところですが、こっちの方がちょっと上かもしれません」

 

 流石にグロすぎかな?

 と思ったシーンでは咄嗟に歌音ちゃんの目を覆ってしまった。

 アキラ君が俺の横で腕を組んでいる。

 

「バイオハザードの主人公に相当しそうな黒人が敵にいてビックリだよ、僕は」

 

「主人公がモブゾンビですからね……

 そして黒人ゾンビハンターが強いこと強いこと。

 正統派主人公に相当する無双系黒人に見つかるとまとめて倒されかねないのです」

 

「ソンビが主人公の映画でゾンビ映画主人公みたいな無双キャラが敵にいんの怖くね?」

 

 あれはあれで怖いよな。

 見逃してくれー! 主人公に指輪渡させてくれー! ってなる。

 ゾンビ映画主人公にあたる黒人が暴れれば、ゾンビはゴミのように死ぬ。摂理だ。

 

 あ、なんか山森さんが初めて見る笑顔してる。

 

「私、嬉しいです。

 周りの大人の人は、私にこういうのは絶対に見せないようにしてて……

 でも朝風さんは、こういうところで私を単純に子供扱いしないでくれて……

 ちょっと、大人になった気持ちです! 私、今日ちょっとだけ大人になりました!」

 

「喜んでもらえてよかったです」

 

 あっ。

 今気付いたが主人公の親友がゾンビ顔で店員に怪しまれて、「病気なの?」「ゴム無しでセックスしたからな。君は注意しろ」ってかっこよく誤魔化して突破するところ、歌音ちゃんの目を塞ぐの忘れてた!

 やべー、やべー。

 歌音ちゃんが言ってることよく分からないレベルの年齢でよかった。

 小学校高学年レベルだったら危なかったかもしれん。

 

「ちょっと感想戦に一捻り入れてみましょうか。

 ゾンビ映画に高い演技力って、どのくらい要ると思いますか?」

 

「私は、あの湖に遺灰が撒かれるシーンが出来るくらいは必要だと思います」

 

「俺はそんなに要らねえと思うな。

 ゾンビ映画の俳優ってのは絶叫と変顔一歩手前の死亡顔が大事だろ。演技は大味でいい」

 

「僕は演技力とアクションの両方が出来ると良い気がするけど」

 

 悪くない意見が並んだな。

 

「皆さん、正しいと思います。

 怪人、怪獣、怪物が出て来る映画は、ある意味モンスターが主役です。

 なので俳優の演技が多少悪くても目立たないんですよね。

 派手に戦う映画であればあるほど、そういった傾向は強まっていきます」

 

「だな」

 

「ですが、例えば……

 派手に戦わない映画。

 幽霊や怪物がひっそり闇から忍び寄る作品。

 怯える主人公の恐怖が伝わってくるような名演の作品。

 そういった、人間の心情描写こそが主役の作品もあります。

 『怖い』と言わないまま恐怖していることを伝える演技力は、その場合必須ですね」

 

 今思ったが、アキラ君はモンスター系はいいが幽霊系あんま向いてないかもな。

 かっこよくモンスターをばったばった倒して爽やかに微笑みかけるとかは最高だろうが、幽霊に忍び寄られて、観客すらも総毛立つような恐怖をシアター越しに伝える……とかは多分そんな向いてねえ気がする。

 

 景さんがリング*5の貞子を演じたらヤバそうだ。

 皆チビる気がする。

 魂レベルで怨霊になれそうな景さん以上に怨霊役に適役な人いんの?

 

「ハリウッドは複合型を結構やってる気がしますね。

 名演が出来る人に、主要人物としてしっかり心情描写をさせる。

 その上で、しっかり掘り下げた登場人物を怪物とぶつける。

 俳優の演技力が低くてもいいのに、俳優にも名演者を揃える。

 金の暴力で揃えた素材で、人間と怪物が互いの存在感を高め合う……」

 

「そして面白い。いいよね、アメコミ映画。

 僕も朝風君も好きな映画には相応の理由があるってことだ」

 

「こう言っちゃなんですけど。

 造型(おれ)が傑作モンスタースーツとか作っちゃうと……

 ある程度俳優さんの演技がしょぼくても、映画成功しちゃうことあるんですよね……」

 

 "成功した映画だけど俳優はちょっと棒だった"みたいな作品あるよな。

 誤魔化せちまうんだよなあ、ある程度なら。

 

「ただ、これそんな悪いことでもないと思うんですよね。

 演技力がやや足りない、がそこまで致命的で無いというか。

 高度な演技も高度なアクションも習得が難しいというか……

 顔の良さ、アクション技能、演技力。

 この内二つが揃ってれば、十分特撮の世界で大成功できると思いますし」

 

「いるなー、演技は上手くなくても顔とアクション技能高えアクション俳優」

 

 百城さんは顔と演技力が最高レベルで、身体能力はそこまで高いわけじゃないが、自分の身体の使い方を分かってるんで動きは悪くねえ。

 景さんは顔が最高レベル、演技力が規格外数値化不能で、新聞配達のバイトで走り込んでたらしく身体能力も体力もかなりのもの。

 アキラ君は顔とアクション技能が最高レベルで、演技力も結構高い。

 

 アクションにおいてアキラ君は前二人に圧倒的に勝ってんだが、演技における人外じみた何かの才能……そいつへのあこがれを捨てられなきゃ、羨望はなくならねえだろうな。

 

 アキラ君が今一瞬、暗い顔をしていたのはそいつが原因か。

 なんか余計なこと考えちまったんだろう。

 三つの内二つが十分なレベルなら、そこで満足したって問題はねえと思うぞ。

 ……満足せず上に行こうとしてるから、アキラ君はアキラ君なんだろうけどさ。

 

「あの、朝風さん」

 

「なんですか? 山森さん」

 

「朝風さんが俳優さんの演技力を作り物で補ったって聞いたんです。出来るんですか?」

 

 できなくもねえけど。

 

「一つ、覚えておいてください」

 

「はい」

 

「俺ができるのは、引き立てることだけです。

 99を100にするだけです。

 何の能力もない人を名優に見せかけることはできません。

 俳優さんが素晴らしく見えたということは、その俳優さんが素晴らしいということ。

 俺の力なんて微々たるものです。

 第一、物でそこまで演技力を補えるなら、俳優が努力する意味なんてなくなってます」

 

 忘れんなよ。

 

 主役は俺じゃねえ、君達だ。

 

「それでもいいなら、俺の事務所の倉庫をご案内します。いかがですか?」

 

 俺にあんま幻想持っても、いいことねえぞ。

 

 しっかり今の実像を見といてくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 事務所の倉庫には色々入れてる。

 実験的に作った物とか、技術の仮集大成とかな。

 その中でも出来が綺麗に見えるもんは、既存の特撮武器とかを俺が当時の構造・当時の素材で再現したもんだ。

 一度過去の物をそのまんま作ることで、その改善案や改良発展案が見えてくる。

 なので、その辺の再現品は特に要らんやつらだったりする。

 

「英二、これなんだ?」

 

「電王ライナーフォーム*6のグローブ部分ですね。

 ライナーフォームは服飾メーカーの特注赤スーツに、黒を塗装しています。

 塗装以外の部分はシート貼り付けですね。

 ですがグローブだけは黒と白の革を縫い合わせて作られています。それがそれです」

 

「へー……見かけもいいが、付け心地もいいな」

 

「グローブの表面には装甲が接着してあります。

 でも薄く軽いものですから、そんなに気にならないでしょう?」

 

「ああ、このまんまバイクでも使えそうだ」

 

 なんか皆電王*7コーナーとキバ*8コーナーの方行ってんな。

 

「わっ、重い」

 

「山森さん! その辺は重いものありますのでお気をつけて。

 ドッガハンマー*9は先端が極端に重い上に10kgもあります。

 当時のスーツアクターですら振り回すのを諦めたレベルです。

 俺の知る限りですが、仮面ライダーの手持ち武器トップクラスの重さですよ」

 

「じゅ、10kg……!?」

 

 7歳女子の平均体重って21kgだっけ?

 ドッガハンマー二個で山森さんと同じくらいの重さになるか。

 やべーな。

 

「普通、仮面ライダーの造型はデザイナーがデザインをまず出します。

 それを造型企画が形にします。

 けれどもキバはその逆で、造型会社がまずデザインを出し、デザイナーがブラッシュアップ。

 完成したデザインを造型会社が実物にする……という経緯を経ています。

 そのためキバは個性が強いんですが……よく分からないところで弊害が出てるんですよね」

 

「この重さも、そうなんですか?」

 

「俺はそう推測しています」

 

 キバの世代で実験的な技術が導入されて、後の時代に繋がる革新が生まれたことも確かなことなんだけどな。

 ああほらほら。

 ドッガハンマーに近付くんじゃない。

 君の体格じゃ運が悪いと潰されるぞ。

 

「山森さんは足元にも気を付けて。ここ、そんなに明るくしてませんから」

 

「はい!」

 

 小さな手を引いていく。

 こっちを見ていたアキラ君が、その手に剣を取っていた。

 

「朝風君、こっちの剣も随分重くないかな」

 

「デンカメンソード*10ですね。

 子供用玩具だとせいぜい60cmと少し。

 撮影用は131cm、ターンテーブルが幅39cm。重量はおおまかに5kgといったところです」

 

「僕は体力に自信があったけど、これは流石に振り回しにくいかな」

 

 そりゃそうだ。

 5kgって言ったら猫一匹くらいの重さはある。

 10kgなら下手したらデスクトップパソコン一つくらいにもなりそうだ。

 昔の西洋騎士のロングソードや日本刀でも1.5kgってとこだぞ。

 撮影用だから許されてるがドッガハンマーもデンカメンソードも、こんなんリアルの手持ち武器だったら落第ってレベルじゃねーわ。

 

「おーい英二ー、この剣出来よくね? 俺が貰っていいか?」

 

「いいですよ。どうせ練習作ですから。

 それは電王のモモタロスォード*11ですね。

 赤色の青竜刀ですが、制作における形状名称は蛮刀でした。

 本来は芯材にウレタンを巻いて、削り出しで作られた刀です。

 俺の作品の場合は芯材を中空の硬質パイプで代用し、軽く強固にしてあります。

 それと表面の塗装もオリジナルよりもやや金属質に仕上げてありますね」

 

「へー。電王ってどんな作品なんだ?

 ……思わずチャンバラしたくなるような良い出来だなこれ」

 

「やめてください、怪我しますよ。電王はですね……」

 

 仮面ライダー電王は、仮面ライダーの傑作である。

 もう十周年とかいうレベルの存在だが、ちょくちょく客演したり、平成ライダーの中では例外的なレベルに沢山のスピンオフ映画が作られていたりする。

 視聴者に深く考えさせるテーマ性、何も考えなくても楽しめるエンタメ性が両立されていて、仮面ライダー入門にもオススメできるレベルのもんだ。

 

 とにかく面白え。

 造型畑の俺の目から見ると、斬新な試みも見えてくるから更に面白え。

 特に西映が独自技術で作ってた下地スーツを全部ミズノに任せた結果、ミズノの技術でスーツのレベルが格段にアップしたとか面白え話だと思う。

 

 硬いアーマー部分に至っては、パーツごとに金属フックピンで止める方式を辞め、超高度な造型によってFRP(繊維強化プラスチック)だけで形成。

 プラスチックだけでパーツを固定することで、構造に遊びがない匠の技としか言いようがねえ綺麗な装甲構造が完成した。

 

 更に、塗装にも革新的な塗料がいくつも使われた。

 特に白の塗装部分は傷に強く、素晴らしい光沢が見える。

 これは塗料に雲母(マイカ)を混ぜたオフホワイト塗料によるものだ。

 俺がルイ君の玩具の修理に使ったやつで、雲を描くのに使った化粧品の原材料にも使われてたやつだな。

 化粧品の白、電王の白、雲の白。

 ちゃんと素材を見て論理で思考すりゃ、この『白』が至極妥当な存在だってよく分かる。

 

 さて。

 電王のストーリーはこうだ。

 

 歴史を変え、世界の時間を丸ごと思うままに改変してしまう怪人・イマジン。

 その恐るべき侵略に抵抗できるのは、気弱でひ弱、何をしても不運に見舞われる頼りない青年・野上良太郎のみ。

 時間改変の影響を受けない『特異点』である良太郎だけが、世界を守ることができる。

 けれども彼に、世界を守る戦いなんて担えるはずもなく。

 

 そんな良太郎がある日出会った、喧嘩っ早く喧嘩が強いイマジン・モモタロス。愛称はモモ。

 良太郎に憑依したモモタロスは、良太郎と運命を共にする相棒となる。

 時間改変の影響を受けず、イマジンに支配されない良太郎。

 良太郎と違い、ちゃんと戦える喧嘩強者のモモタロス。

 

 敵は無数。

 守るは時間。

 立ちはだかるは時間を超えて来たイマジンの首魁・カイ*12

 モモと良太郎の心と力が、始まりに悪へと立ち向かう。

 二人の力を合わせた存在『仮面ライダー電王』が、イマジンの野望からこの世界を守る戦いの狼煙を上げた!

 

 ってな感じのことを、三人に説明した。

 

 つか今気付いたがもうそんな時間ねえな。俺そろそろスターズ事務所行かねえと。

 

「あ、皆さんそろそろお開きです。

 気に入ったものがあったら好きに持って帰っていいですよ。

 俺はこれからスターズ事務所の方に行って、帰るのは夜になりますから……」

 

「朝風君」

 

「どうかしましたか? アキラさん」

 

「その電王で、主人公と相棒のモモはラスボスのケイに勝てたのかな?」

 

「ケイじゃなくてカイです。アキラさんはいつから難聴系主人公になったんです?」

 

 やめろよお前!

 

 そういう聞き間違い!

 

 

 

*1ゲームの方。『壁の右側に寄ってゾンビを右に引きつけ、壁の左側を走って抜ける』はゾンビ映画で言うゆっくり型。『モンスターとのハイスピードバトル』はゾンビ映画で言うハイスピード型。

*2劇場版バイオハザードは六作目まで作られた。諸問題もあり、嫌う人が一定数いるものの、間違いなく『未知の感動』カテゴリで優秀な作品である。

*32016年公開、バイオハザード劇場版最終章。

*42004年イギリスのゾンビ映画の傑作。既存の名作のパロディでありながら、とても笑えるギャグ・コメディ。『ソンビ映画で笑えるギャグ映画やっていいんだ』という概念を生み出し、後続に大きな影響を与えた。

*5黒髪ロングの恐るべき女幽霊の恐怖を描いた『リング』は今年で20周年。見たことがない人は見てみよう!

*6仮面ライダー電王・ライナーフォーム。仲間と共に戦ってきた一人の青年が、本当の意味で自分の力で大切なものを守ろうとした、決意の形態。

*7仮面ライダー電王(2007)。カブトコーナー(2006)とキバコーナー(2008)の間にある。

*8仮面ライダーキバ(2008)。電王コーナー(2007)とディケイドコーナー(2009)の間にある。

*9仮面ライダーキバ・ドッガフォームの手持ち武器。巨大な石化能力を持つハンマーで、ドッガフォームは敵を石化させ、ハンマーを引きずりながら歩き、巨大ハンマーで敵を粉砕するスタイルを取る。

*10仮面ライダー電王・ライナーフォームの手持ち武器。主人公の仲間の顔が全て剣にくっついているというとんでもない造型をしている。

*11仮面ライダー電王の最高の相棒・赤鬼モモタロスの手持ち武器である剣。本人にも武器にも、『桃太郎』のイメージが反映されている。

*12カイは仮面ライダー電王においては悪のラスボスだが、ウルトラマンオーブにおいては主役ウルトラマンのガイさんを演じている。俳優さんのガラッと印象が変わる演技力が凄い。




【無料で読める今個人的に応援してるやつ】

・開演のベルでおやすみ

 ジャンプ+で無料で読める漫画作品です。
 アクタージュを別角度で楽しむためにオススメ。まだ序盤ですが。
 アクタージュ本編では作品テンポのためか5話時点で克服と成長が完了している上、この二次でもさらっと流してしまっていますが、『現実逃避が演技に良い効果を与える』ってところに焦点を当てたまだ始まったばかりの漫画ですね。
 この作品では体力作りなどから丁寧に描写していますが、実際演劇にはああいうものが必要で、夜凪は第一話時点でバイトしてる内に体力や体幹などの基礎身体がほぼ完成しています。
 他の漫画で主人公達が改めて努力して身に付けてるものが最初からあるんです。
 化物かな……

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