ノット・アクターズ   作:ルシエド

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 スターズの戦略だと歌音ちゃんに鳩羽つぐのコラボを担当させてコスプレ広報とかさせたりするのかな、とかふと思いました


「優しい人に報われてほしい」と芸能界で願う人間ほど、愚かで間違っている存在はいない

 現在黒さんと通話中。通話しながらスタジオ大黒天に向かっている最中だ。

 黒さんに景さんがスターズ主催映画『デスアイランド』に潜り込めるよう、俺にスターズでちょこっと工作してくれないかと頼まれた。

 えー。

 なんでやねん。

 まあやるけど。

 

 この人強制はしないが、目の前にチラつかせる餌のチョイスが絶妙なんだよな。

 おかげで良いように使われる……いや、それも違うか。

 俺が"やりたいと思うこと"を見抜くのが上手いんだ、この人は。

 

『監督の手塚にはもう話を通してある』

 

「正気ですか?

 まだ無名な景さんを名前見ただけで拒絶するのはスターズだけです。

 スターズは言わば今唯一の反夜凪景派閥ですよ? 分かってますよね?」

 

『おう』

 

 あえて、ってことか。

 確かに景さんの"どんな状況でも主演級に目を引いてしまう"って欠点を解決しないまま、一気に経験積ませて成長させるには、優秀なスターズの集まる映画は最高かもな。

 そもそも他の映画で景さんを的確に成長させていける道がほぼねえ。

 俺もそういうのには賛成だ。できる限り協力してえ。

 だがなあ。

 

「俺、アリサさん達には結構恩があるんですよ」

 

『ああ』

 

「俺がそっちを優先して、裏切るような真似すると思いますか?」

 

『お前がどうするかはお前の自由だろ』

 

 うーわずっりぃー言い方。

 でもしょうがねえ。

 見透かされてんなら、誤魔化したってしょうがねえか。

 

「俺は俺のやり方でやります。良いですね?」

 

 電話の向こうで、黒さんがくっくっくと笑った。

 俺はこの男に、どんぐらい見透かされてるんだろうか。

 

『俺はな、お前がお前らしく在ることを知ってんだよ』

 

「……何を」

 

『道を"作れ"。その道を進んだ夜凪が、お前が見たいものを見せてくれるぞ』

 

「―――」

 

 俺が見たいもの。

 

 ……他の誰もが見せられない、あの人だけが俺に見せてくれるもの。

 

「こういうのを、悪魔の類との契約って言うんでしょうかね」

 

『悪魔に魂を売った奴は願いを叶えるもんだがな。お前の願いはなんだ?』

 

「父を超えることです。

 景さんと出会ってから、凄く遠く感じていたそれが、近くに感じられるようになりました」

 

『そうか』

 

 自分が成長してることを実感できると、改めて思うこともある。

 もっともっと、行けるところまで行ってみたい。

 俺が思うに、黒さんは他人の才能を伸ばすために劇薬をぶっ込めるタイプだ。

 

「黒さんは強引で自分勝手ですけど……

 映画至上主義で性格があまり良くないだけですよね。

 景さんとかはきっと、黒さんと出会えたことが一番の幸運だったんでしょう」

 

『おい、それは貶してんのか?』

 

「褒めてるんですよ」

 

 アリサさんと黒さんが合わない理由は、心底よく分かる。

 

「少しほっとすることもあります。

 時々、"お前の影響力考えて振る舞い考えろ"みたいに言ってくる大人もいますが……

 黒さん、そういうこと全然言いませんから。

 この俳優お前好きだろとか、好きにやれとか、これやってみろよお前とか。

 そういうことばっかですからね。

 周りと上手くやれとか、偉い人には逆らうなとか、礼節を弁えろとか絶対言わない。

 だからほんっとうに気が楽です。あ、褒めてるんですよ?

 そういう意味では本当に、黒さんはスターズのやり方に絶対馴染めないと思います」

 

『俺よりガラ悪くねえお前に、俺が言うことなんてねえよ』

 

 多分、多分だが。

 

 黒さんの人生って、本当に楽しいんだろうな。結構羨ましくなる。

 

 

 

 

 

 大黒天に行く前にスターズ事務所に寄ることを、電話で黒さんに伝えておく。

 善は急げだ。

 受付の人に話を通して、階段を上がって社長室に向かう。

 こういう時顔パスで行ける信用があると楽だな。

 

「何の用?」

 

 社長室のアリサさんの前に立つ。

 単刀直入に言った。夜凪景にオーディションを受ける権利くらいはやってくれと。

 

「駄目よ」

 

「ですよね」

 

「私が認めるわけがない。あなたも分かっていたことでしょう。それで、ここから話す本題は?」

 

 黒さんといい、この人といい、見透かしてきやがる。

 まあいい。

 どうせ、本当の勝負はここからだ。

 

「取り引きがしたいんです」

 

「交渉材料は?」

 

「景さんにオーディションを受ける権利をあげてください。

 そうしたら俺はデスアイランド後、今の事務所を引き払って、スターズの専属になります」

 

「―――なんですって?」

 

「何でも言ってください。

 景さんに二度と手を貸すなと言われたらそうします。

 スターズとだけ仕事しろと言われたらそうします。

 出張しろと言われれればどんな現場にも行き、誰の靴でも舐めますよ」

 

 悪い話じゃねえだろ?

 

 俺の全能力を、スターズに渡す。

 前からアリサさんが欲しがってた手駒だ。

 それを景さん素通し一回で手に入れられるなら、安いもんだろ?

 俺が景さんに手を貸すのを邪魔することだってできる。

 景さんを業界から締め出したいなら、悪くない一手のはずだ。

 

「悪い話ではない……けれども。あなたがそこまでする意味はあるの?」

 

「あります」

 

「この世界では惚れ込んだ方が負けよ。

 夜凪景はあなたが献身するほどには、きっとあなたに報いない」

 

 いいだろうがよ、別に。

 

「能面研究家の上村保雄*1さんはご存知ですか?」

 

「いいえ」

 

「上村さんは、女優が被る役の仮面と、仮面ライダーの仮面に近似性を見ていました」

 

「被ると別の存在になる、ということ?」

 

「はい。被ると被る前にはできなかったことができるようになる仮面、だと解釈していました」

 

 仮面を被って別人になる。

 仮面を被って活躍する。

 視聴者が皆、被られたその仮面を見る。

 それがルールだ。

 俺は昔からずっと、仮面を被ったヒーローにも、仮面を被る名俳優にも、心惹かれていた。

 

「引き続き、その方の考えから引用すると……

 古来から、仮面は悪霊を退散させ幸福をもたらすものだったそうです。

 悪を倒し幸をもたらす仮面ライダーの仮面も、その一種であると。

 仮面ライダーが仮面を被ると、テレビの中で物事が解決され、視聴者に幸がもたらされます。

 女優が仮面を被ると、テレビの中で物事が解決され、視聴者に幸がもたらされます」

 

「……憧れるように言うのね、朝風」

 

「憧れますよ。

 俺には決して被れないものですから。

 仮面を被るあの人達に、俺は憧れ、敬意を持ってるんです」

 

 アキラ君も。百城さんも。景さんも。他の皆も。

 それぞれが違う仮面を使い、違う仮面を被っている。

 ウルトラ仮面に憧れる子供も、女優に見惚れる大人も同じだ。

 俳優達が見せようとして魅せたその仮面に、心奪われている。

 

「惚れ込んだ女優に全財産捧げるファンと同じです。

 見返りが欲しいわけじゃないんですよ。

 心底好きだなあと思えたら、その人の損得が、自分の損得のように思えてくるんです」

 

「―――」

 

「惚れ込んだ俳優のために物を作ること。

 惚れ込んだ俳優のオーディションのために動くこと。そこに何の違いがあるでしょうか」

 

 "夜凪景が報いない"、だ?

 "惚れ込んだ方が負け"、だ?

 上等だ。

 それでいいだろと、俺は胸を張って言い切れる。

 

「……景さんも、親が両方いないらしいです。俺と同じで」

 

「同情しているとでも言いたいの?」

 

「いいえ」

 

 大人。親。なあアリサさん、俺の目に、あんたはどう見えてると思う?

 

「黒さんも。アリサさんも。

 お互いに対して、

 『お前のやり方は押し付けで独善だ』

 って思ってると思うんですけど……俺に見えてるお二人は違います」

 

 嫌いじゃねえんだよ、二人のどっちも。

 

「お二人とも、俺や景さんの未来と幸せのこと考えてくれてるんですよね。

 俺の将来のこととか考えてくれてるんですよね。

 ずっと俺の将来に興味とか持ってなかった母さんと違って。それが嬉しいんです」

 

「―――」

 

「大人が自分の将来のことを真剣に考えてくれてるのって、なんだか嬉しいじゃないですか」

 

 同じように親がいないからって、景さんが俺と同じ考えの人間だなんて思わねえよ。

 でもさ。

 景さんの将来のことを考えてる、持論を絶対に譲らねえ黒さんとアリサさんって二人の大人がいることは、なんだかんだちょっとは幸せなことなんじゃねえかな。

 景さんが自分の意志で人生を選択する過程で、もしかしたら黒さんやアリサさんが邪魔になることもあるかもしれねえけど、それでも、俺は。

 まだ10代の子供の将来を本気で考えられる人が、悪人だなんて思えねえんだ。

 面倒臭え二人だとしても、悪だなんて思えねえ。

 

 黒さんとアリサさんに独善の要素がねえとは言わねえよ。

 だけど、思いやりがねえとも言わせねえ。

 黒さんは天才の舞台の世界にある幸せを知ってて、アリサさんはそこにある不幸を知ってる、それだけの話じゃねえか。

 

「だからどっちも蔑ろにできないんです。

 それに何より、俺は景さんにもっと上に行ってもらいたい。

 なら俺がこういう選択をするのは必然で、これ以外に道は無いんです」

 

 アリサさんが黙り込む。

 眉間を揉んで、手で顔を半ば覆う。

 困り果てたような、疲れ果てたような、そんな表情だった。

 

「……黒山が自分の道に引っ張り込もうとするわけだわ。今更に理解した」

 

「え?」

 

「『一緒に行こうぜ』と言ってるのよ、黒山は。

 映画史に残らない便利屋扱いの職人ではなく……

 他の俳優の引き立て役に終わるただの裏方でもなく……

 他の誰でもない朝風英二の名前を、映画史に刻もうとしているのよ。自分と共に」

 

「いや、そんなまさか」

 

「あの男はそういう男よ。あの男は傲慢だから」

 

 まさか。……無いとは言い切れねえな、あの人の考えは読み切れん。

 

「いいわ。一度だけ、一次審査と二次審査での確定脱落を無しにしてあげましょう」

 

 よし!

 

「けれども、それだけよ。

 一次審査と二次審査で落ちればそこで終わり。

 三次の演技審査で手塚が落とせば、それでも終わりよ。

 夜凪景の演技には極端に汎用性がない。

 オーディションに合わせた最適化など、土台無理な話でしょう。

 堅実な路線を好む手塚の作風と、夜凪景の演技が合うとも思えない」

 

「俺は景さんを信じてます。あの人は信じれば、名演で応えてくれるはずですから」

 

 アリサさんが目を細める。

 

「女優に惚れ込んだ造形屋のその台詞ほど、信頼できるものは……」

 

 アリサさんが溜め息を吐く。

 

「……信頼できないものはないわ」

 

 俺との取り引きに応じ、景さんを通すだけは了承したアリサさんの表情は。

 

 隠しきれない、かつての日々に刻まれた摩耗の跡が見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。

 スタジオ大黒天に俺が車で運び込んだものを、事務所で屯していた夜凪家三人と、黒さんと柊さんが見つめていた。

 

「送るエールの代わりのケーキです、どうぞ」

 

「お城にしか見えないんだけど……」

 

「縦1m、横1mのお菓子の敷地に、高さ1mのお城。どうぞ、食べていいですよ」

 

「待って、頭が混乱してるの」

 

 夜凪さんの目がぐるんぐるんしてる。

 良いから食えよ。

 この和風の城はオーディションを控えた景さんへの応援の品として持ってきた菓子なんだぞ。

 

 肌色の土地。

 そびえ立つ漆喰色と紺色の二色の城。

 生える木。敷地を囲む塀。

 和風の城、お菓子の城だ。

 

 素材は市販品! ゆえに味は市販品相応。

 最近気付いたんだが、市販品を素材に使えば味は市販品相応で、でも造型のレベルは俺基準のままだから、スイーツアートって汎用性かなり高いな。

 料理の腕が平々凡々な俺でも、なんか料理の達人みたいに見えるんじゃね?

 いや実際はそんなことねえんだけど。

 

「ほら食べていいよルイ君、レイちゃん」

 

「この壁、チョコだー!」

「食べられる!」

 

「塀っていうやつだから覚えておこうね」

 

 さあ食えどんどん食え。

 どうせ一人で食い切れる量じゃあねえし。

 

「あっ、この地面みたいに見えるの、底が浅いしプディングだ……」

 

 そうだぞ柊さん。

 しかし真っ先に地面にスプーン伸ばすのは流石っすね。

 

「おいエージ、これヘクセンハウス*2か?」

 

「モデルの一つではありますね。

 あ、特撮映画へのリスペクトもちょっと入ってますよ。

 ほらここの瓦を見てください。

 ここの瓦を八ツ橋*3で作ってるんですよ。

 大魔神怒る*4のミニチュア技術でして、失われた技術の一つってやつです」

 

「なるほどな。その下のチョコと味を合わせてんのかこれ」

 

「特撮の歴史は食べるもの作りの歴史ですからね。

 電王のデネブ*5の飴。

 鎧武のヘルヘイム*6の実。

 最近だとザミーゴ*7の氷とかも。

 他にも色々と、たくさんの物が作られてきました」

 

「技術のレベルは上がったか?」

 

「はい。色々と試せました」

 

 食べ物で遊ぶなって怒られそうだが、食べる奴が楽しめたなら、残さず食いきれたなら、まあいいだろって思わなくもない。

 

「墨字さん墨字さん、このお城チョコとクッキーですよ。芯にポッキーまで入ってます!」

 

「やめろ柊、女子のノリをこっちにまで強制すんな!

 強度計算はいつものエージらしいな。

 お、この木に見えるやつ、レープクーヘン*8とチョコと……葉の緑は抹茶か」

 

 しかしアレだな。

 食いながら分析してるプロ二人見てると、美味しい美味しい言いながら何も考えず食ってる双子の子達の純粋さが際立って見える。

 純粋さを失っちまった大人ってのは悲しいもんだぜ。

 

 ん?

 どした景さん、俺の袖引っ張って。

 その右手に持ってるのは……おお、お目が高い。

 飴細工で作ったクリスタルの木だぞ。一本しか作ってないけど良い出来だろ。

 

「英二くん、英二くん」

 

「どうかしましたか?」

 

 景さんが、透き通るような表情で飴細工の木を見つめる。

 

「綺麗ね」

 

 お前の方が綺麗だぞ。

 

「私、英二くんが作ったもの、好きだわ」

 

「ありがとうございます。そう言われるたびに、俺はもっと頑張ろうって気になれます」

 

 おいどうした、木をじっと見て。

 さっさと食っちまえよ。

 

「食べるのがもったいなくないかしら」

 

「ええと、また見たければまた作りますよ」

 

 ん、なんだ。景さんの雰囲気が妙な気がする。

 

「英二くんにとっては、自分が作ったものは全部いくらでも作れる、量産品みたいなもの?」

 

「? いえ、そうじゃないものもありますが」

 

「たとえば?」

 

「ええと、そうですね。景さんにあげたあの指輪とか、ああいうものはワンオフです。

 代わりは作ってませんし、力も入れてるので、この世に一つだけのものですね。はい」

 

「そうなんだ」

 

 うんうん頷く景さん。

 俺に分からん形で一人で納得してんのやめろ!

 あ、とうとう飴細工の木が食われた。

 

「でも私、こんな素敵な応援されても、返せるものがないわ」

 

「オーディションでの景さんの頑張りが俺の報酬になりますよ。

 ただの応援ですし、何か返してもらいたいわけでもないです。

 ……あ、そうだ。

 できればでいいんですけど、景さんに周りを見てから演技してもらいたいです」

 

「周り?」

 

「周りと競うのはいいです。

 でも、周りに飛び蹴りとかをしないでほしいんです。

 景さんの演技の性質上、難しいのは承知してるので、お願いです」

 

「あぅ」

 

 景さんがあわあわしだした。かわいいな。

 

「そういうことになったら、景さんまで失格になってしまいます。

 それどころかオーディションの他の人が怪我してしまいかねません。

 デスアイランドには俺の友人も参加しています。

 俺はその友人を一番に応援しています。

 景さんがその人を怪我させ、景さんが罰されたりすれば、俺はどういう顔をすればいいのか」

 

「え?」

 

「え? あれ、今俺何か変なこと言いました?」

 

 待て、どこに引っかかり覚えたんだ。

 

「英二くんって、私以外もそんなに応援してたんだ」

 

「え?」

 

「ううん、なんでもないわ」

 

「ともかく、頭の隅にでも置いておいていただけると嬉しいです」

 

「うん、約束する。私、誰にも迷惑をかけずに受かってみせるわ」

 

 良かった。

 何の確証もねえけど、少し安心できる。

 ほっとしていた俺の手を掴んで、柊さんが事務所隅に歩いていく。なんぞ?

 

「けいちゃんをちゃんと口で応援しないの?」

 

「え? 景さんは俺の応援の声が一番要らない人では。

 エール代わりのお菓子はちゃんとこうして作りましたし。

 わざわざ応援しなくても、俺は景さんがこのくらい一発合格で通過すると思ってますし……」

 

 わざわざ内緒話するほどのことじゃねえだろ。

 え、何その顔。

 コーラだと思ってコップの中身一気飲みしたら醤油だったみてえな顔だな。

 

「エージくんさ、それ応援してる人にも応援してないけいちゃんにもナチュラルに失礼」

 

「え? ……あ」

 

「けいちゃんが受かると信頼してるから応援しない。

 その人のことは受からないかもと思ってるから応援する。

 それじゃ駄目でしょ。どっちも応援の言葉贈って、どっちも信じないと」

 

「……です、ね」

 

「もー。応援するのもしないのも、どっちも根底が好意で信頼だからタチ悪い……」

 

 いつの間にか、応援の言葉なんてなくても、景さんはさっくり受かると信じきってた。

 このまま当日を迎えてたら、オーディション現地で湯島さんだけ応援の言葉かけて、景さんにはうっかり何も言ってなかったかもしれねえ。

 危なっ。

 そうなってたら、あまりにも失礼なことになってたぞ。

 

「気を付けなよエージくん。

 凄く優しい人と凄く他人に興味が無い人って、振る舞い同じだからね。

 他人に迷惑かけられても微笑んでるだけの人ってそんな感じだからね。

 エージくんはどっちにもなりそうだし、どちらでもある人にもなりそうだから」

 

「……肝に銘じておきます」

 

 こえーこと言うなよ。

 

 景さんに応援の言葉をとりあえずかけておこう。

 

「気負わない程度に頑張ってください、景さん。応援してます」

 

「でも一番に応援してるわけではないんでしょう?」

 

「そうですね、すみません。一番に応援するのは、その友人との約束なので」

 

「そう……ええ、頑張るわ。

 こんな美味しいお菓子を貰ったんだから、ちゃんと頑張らないと」

 

「その意気です」

 

「周りの人にも迷惑をかけずに受かる……うん。ちゃんと覚えたわ」

 

 応援された景さんが、独特の動きで何やら自分に言い聞かせている。

 ……あ。

 最悪だ。

 今気付いた。

 俺、景さんが受かることは信じてたが、景さんが他人を傷付けないと信じきれてなかったのか。

 信じるっつーのは……なんか、難しいな。

 

 俺の中で、俳優が二種に区分されてる。

 『信じてる人』と、『信じたい人』に。

 オーディションに受かると信じてる人と、オーディションに受かってほしいと願ってる人に。

 

 人間の心ってのは、なんでこう面倒臭え構造してんだよ。

 信じられる人は頭でどうこう考えなくても信じてるし、信じたい人は頭で頑張って色々考えねえと信じきれねえ。

 クソ。

 天才なら、能力が高い人なら、こんなにも簡単に信じきれるってのに。

 ……信じられる人に、惚れ込んだ人に、一途なだけの人間になりてえな。

 

「エージ」

 

 黒さん? どうかしたか?

 

「分かってると思うがな。

 デスアイランドの一般採用枠は12。

 夜凪が受かるってことは、お前の友人が受かるかもしれない可能性が減るってことだぞ」

 

「……分かってます」

 

「割り切れる心の姿勢になっちまった方が楽だぞ」

 

 そうだな。

 

 民衆が相対的にも絶対的にも優れた作品を求める以上、俳優は何かの形で絶対的にも相対的にも優れた人間が求められる。

 だから、業界の形は変わらねえ。

 何も変わらねえ。

 ……だから、『本物』じゃねえ皆に業界に残って欲しいって気持ちは、ガキのワガママで、ガキの苦しみでしかねえんだ。

 

「"優しい俳優が業界から消えるのが苦しい"……

 事あるごとにそんなこと考えてるお前は、今が一番の地獄なんじゃないのか」

 

 うるせえな。

 

 ……うるっせえんだよ。

 

 

 

*1
1919年生誕、1996年没。能面作家を父に持ち、物理学校数学科を卒業、高校教師を経て、大学教授となった。芸術選奨文部大臣賞の受賞経験有り。著作も基本お硬い彼が、仮面ライダーと女優の相関性について少し触れていたことはあまり知られていない。

*2
ドイツのお菓子。いわゆる『お菓子の家』型のお菓子のこと。

*3
せんべいの八ツ橋。茶でやや硬い。

*4
1966年公開の特撮映画。縦22m横40mのセットを用意し、鉄板2000枚・丸太500枚・トラック十数台分の火山岩を運び込むなど、桁外れの規模の撮影が行われた。

*5
仮面ライダー電王で、とある残酷な設定に繋がる『侑斗をよろしく!』のギミックに使われた飴。食べられるものと食べられないものがある。

*6
見かけこそ不気味だが味がない。食べると不味い。元パティシエである駆紋戒斗役の小森豊は「言ってくれれば僕がもっと美味しく作ったのに」とコメントしている。

*7
ザミーゴ・デルマ。快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャーにおける最大の宿敵。人間態では氷をかじる癖がある。ただしただの氷の塊をかじることにはそこそこ顎の筋力を使ってしまうため、ザミーゴがかじる用の氷は小道具が担当して作成している。

*8
ドイツ系のお菓子。ドイツではお菓子の建物や像を作るのに使われる。蜂蜜などで甘みをつけ、シナモンなどのの香辛料や果物の皮で風味付けする。




 見失ってた最初期プロットのメモを発見したんですが、メモの端っこに

『紅音也の如く。最初に見惚れた女、最後に見惚れた女』
『百合のような白く可憐な女、夜のように引き込む魅力の女』
『天才の理解者への感情は恋慕に似る』
『価値観ズレてる天才のろくでなしではあっても悪ではない』
『素晴らしき青空の絵』

 みたいなことが書いてありました。
 勿論現在連載中の作品にこれが反映されることはありません。あくまで使われなかった最初期のメモです。かしこ

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