ノット・アクターズ   作:ルシエド
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単行本プロフィールで好きなカマキリ、好きなヤスデ、好きな寄生虫が記載してある百城千世子ちゃん

 バイク作りに、車のCMの撮影。

 アキラ君と一緒の仕事のウルトラ仮面に、百城さんと一緒のCM仕事。

 二人共売れっ子だからこういうことは時々あるが、俺が積んでるタスクがこの二人との仕事だけになるのは結構珍しい。

 ちょっとしためぐり合わせというか、運命を感じる。

 

「アキラさんって百城さんの昔馴染でしたっけ?」

 

 塗装に一区切りつけて、今日も来てくれたアキラ君に呼びかける。

 

「そうだね。結構昔から……もうそろそろ十年くらいの付き合いになるのかな」

 

「十年。そりゃ長いですね」

 

 日曜朝のイケメンヒーローと、可憐な若手No.1女優。

 熱愛報道されてもこの二人なら許せる気がする。

 他だったらちょっと殺意を抱くかもしれん。

 

 俺が作ったデザのバイクには、アキラ君だって乗るわけだ。

 アキラ君を事故で死なせでもしたら泣く人は多そうだな。百城さんとか。

 ……手は抜けねえぜ。

 

「やっぱこれだと空力の干渉で変な振動がハンドルに来るから……ここ削って……」

 

「朝風君、そんなにバイクの安全面をデザイン時点で考えなくてもいいんじゃないか?

 安全面に関して神経質になりすぎて、デザインの自由度が少なくなってる可能性だって……」

 

「死にますよ」

 

「えっ」

 

「仮面ライダーのバイクは安全面軽く見ると死にます」

 

 死ぬぞ。

 

「初代仮面ライダー・本郷猛を演じた富士岡さんはスーツアクターも兼任してました。

 危険なアクションもこなしていたものの、バイクで転倒事故が発生。

 富士岡さん曰く、肩の上に自分の足があるのが見えたそうです。

 しかも運び込まれた先の病院が最悪に質が悪かったと聞きます。

 古い医療しかしない、患者が転院を申し出ると拒絶、転院時にカルテの受け渡し拒否……

 富士岡さんは転院先で最先端の医療を受けられましたが、当時は車椅子覚悟だったとか」

 

「その頃日本に人権はなかったのかな?」

 

 あったぞ。

 

「なぜ事故ってしまったのか。

 その理由の一つに、初代仮面ライダーのバイク・サイクロン号が挙げられます。

 何せ、造形師が作ったもので、見かけはいいものの機能性は最悪。

 溶接は造形師、カウルの作成者は彫刻家。

 造形しなかった風防は市販品なのでマシだったものの、非常に脆かったとか。

 最悪なことに、最初のサイクロン号は人が乗ると部品が干渉し走行不能になりました。

 バッテリーもパワーが足りないので後に増設し、結果バランスは悪化。

 改造したマフラーは落ちやすく、一度草むらに落ち火事になりました。

 富士岡さんは後年、いつか事故るだろうと思ってたとインタビューで明かしています」

 

「その頃日本に人権はなかったのかな?」

 

 あったぞ。

 

「そういうことで、仮面ライダーの仕事は分業されました。

 俳優、スーツアクター、バイクスタントの三人で演じられるようになったんです。

 それから毎年、バイクに余計な装飾を盛る人と、それを却下する人の戦いは始まりました。

 そして、歴代七人目の仮面ライダーとなるストロンガー(1975)の到来。

 バイクスタントの栗沢さんはストロンガーのバイクを指して、

 『バイクの原型が残ってるから歴代で一番走りやすかった』

 とコメントしています。やっと仮面ライダーのバイクは、バイクになったのです」

 

「うん、いいことだ」

 

「まあ栗沢さんはその後、撮影中にバイクの下で爆薬爆破されちゃうんですけどね。

 スタッフのうっかりミスでバイクと一緒に吹っ飛ばされて、心停止状態で運ばれました」

 

「その頃日本に人権はなかったのかな?」

 

 あったんだよこの野郎。

 

「現代ではそういうことはもうほぼありません。

 でもアキラさんが乗るかもしれないバイクですし、構造から手は抜けませんよ。

 人が乗った重量でパーツが変形してタイヤに当たったりしたら、最悪でしょう」

 

「ああ、分かった。朝風君の気遣いも感じられたよ」

 

「……いえ、それは、その、別に」

 

 爽やかな微笑みで恥ずかしいこと言うなコイツ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 車のCMの仕事の最中も、バイクの進捗が悲しいことになってることが頭から離れん。

 いかんな、頭の切り替えができてない。

 しっかりしろや俺。

 頭の切り替えができないようじゃ、複数の仕事を同時に受ける資格はない。

 複数の仕事を同時に受けてどれかが疎かになるようじゃプロ失格だ、死ねばいい。

 

「ねえ」

 

 うおっ!?

 あ、危ねえ、変な声出すとこだった……って百城さん!?

 なんでこっちに?

 

「百城さん? 休憩時間ですか、お疲れ様です」

 

 とりあえず頭下げとこう。

 あ、微笑んだ。

 この自然な作り笑顔は、差し詰め本物と見分けがつかない美しい造花ってとこか。

 自然の花はうっかりすると枯れるが、造花は枯れない。

 彼女の作り笑顔はとても自然で、かつ大抵の逆境で揺らがない強さがある。

 

「セット組み直してるらしくてさ、私暇になっちゃったんだ」

 

「そうでしたか。俺に何かご用ですか?」

 

「ねえ、また虫の話してよ。前は仮面ライダーの元ネタの話聞いたから、それ以外で」

 

「え、虫の話?」

 

「私が聞いたことのある虫の話をしたら罰ゲーム、でどうかな?」

 

「え゛っ」

 

 おい仕事で無茶振りするのは許すが仕事以外で無茶振りすんのやめろ。

 そもそも仮面ライダーの話を百城さんにした覚えは……いやどうだっけ、覚えてねーわ。

 えー、なに、虫の話?

 どうすっかな。

 百城さんが聞いたことのない虫の話か……じゃあニッチな話した方がいいのか?

 

「えーと、モスラいますよね。百城さんはご存知ですか?」

 

「虫の大怪獣だったっけ」

 

「そう、それです」

 

「あれ、()だよね?」

 

「!」

 

「綺麗な(チョウ)って言ってる人いるけど、あれは蛾だよね」

 

「……さすがお目が高い」

 

 大怪獣モスラ。

 虹色の美しい羽を持つ、女性人気が昔から高い蝶の怪獣……と誤解されることが多い、蛾の怪獣だ。

 平成の主役映画では全身フルメタルの鎧モスラなども登場し、クッソかっこいい。

 モスラをダサいと言う奴には例外なく鎧モスラでググらせることにしてる。

 

 しかしすげーなコイツ、昆虫博士か?

 そういえば小学生の頃昆虫博士とか呼ばれてるやつクラスにいたけど中学校にはいなかったな……もしや、昆虫博士とかいう役職には小学生しかなれないのでは……?

 

 チョウ目の中で蝶とされる個体を除いた、残り全てのチョウ目を蛾と言う。

 なので蝶が持っている特徴って奴は、必ず蛾のどれかが持っている。

 蛾ってのは要するに『その他』なのだ。

 未確認奇天烈生物のモスラは学術上、どんなに綺麗でも蛾でしかねえのだ。

 

「それで、今のところ私が聞いたことのある話だけだけど、これだけ?」

 

 おう、無茶振り。

 この人地味にサドっ気あるんじゃねえか?

 しかし女の子に虫の話ってどこまでしていいのか判断に迷うぞ。

 

「えと、1996年にそのモスラの平成シリーズ一作目がありまして」

 

「うんうん」

 

「撮影のためにスタジオに天然芝を運んできたんですね」

 

「人工芝じゃないんだ。今なら人工芝になるのかな?」

 

「凝り性な製作スタッフだったのでどっちにしても天然芝だったと思いますよ。

 で、スタジオに天然芝を持ってきたわけなんですが、そこからどうなったと思います?」

 

「どう、って?」

 

「天然芝にくっついてたヒルの卵が、照明に暖められて一斉に孵化したそうです」

 

「……ヒル!?」

 

「なのでヒル注意の張り紙貼って撮影を継続したそうです」

 

「いや撮影中止しないの……?」

 

「血を吸われたくらいじゃ死にませんからね」

 

 どうだ? このラインの話はセーフか? アウトか?

 百城さんも女の子だ、気持ち悪いとか思われてねえよな?

 

 ……駄目だ! 内心が読めねえ! 自然な作り笑顔が可愛……じゃなくて、自然な作り笑顔のせいで感情が読み切れねえ!

 ちょっと驚いた表情とかさえ演技に見える!

 

「他にそういう話ってあるの?」

 

 あ、意外と反応悪くないやつだこれ。

 

「1970年にガメラ対大魔獣ジャイガーって映画があったんですよ」

 

「私のお母さんも生まれてなさそうな大昔だね」

 

「ジャイガーは産卵管を相手に突き刺し、卵を産み付けるタイプの珍しい怪獣なんです」

 

「寄生蜂みたいな怪獣なのかな?」

 

「ええ、まあ」

 

 昆虫博士かよ。

 

「このジャイガーが産卵したゾウの鼻を切って、寄生虫を取り出すシーンがあるんですよ。

 メイクしたゾウの鼻を使って、特殊撮影でボドボドーっと出て来る寄生虫を描写したんです」

 

「へぇ」

 

 なんだそのへぇは。どういう意味のへぇだ。

 

「豚の内臓の寄生虫を臓物屋から仕入れてきたんだそうです。

 豚の寄生虫を怪獣の幼虫に見せかけたんですよ

 あまりにもグロテスクだったので映像にはフィルターかけたって言ってました」

 

「豚の臓物から回収したのなら、多分豚の回虫かな」

 

 寄生虫博士かよ。

 

「こんなもんでよろしいですか?」

 

「他に何かある? 映画の話なのに、私が聞いたことがない話は興味あるかな」

 

 この大女優、寄生虫が大丈夫なタイプの美少女だったか……幻滅はしないが意外だな。いやめっちゃびっくりするわ。寄生虫に興味ある天使……?

 アキラ君とか下ネタ苦手だったし、多分彼でもこの寄生虫話はギリギリだぞ。

 しっかしトークとか本業でもないのに何頑張っちゃってんだ俺は。

 

「ええと、他だと」

 

「百城さん! 休憩終わりですよ、戻ってください!」

 

 よかった、タイムアップだ。

 

「あらら……英二君、話の続きはまた後でね」

 

「え、あ、はい」

 

 やべーな、話のネタが尽きるぞ。ネタを集めておこう。

 

「監督は朝風さんも呼んで来いって言ってましたけど」

 

「え?」

「え?」

 

 なんかあったか? 嫌な予感しかしねえ。

 

 

 

 

 

 俺と百城さんを呼び出した監督は、「スカートのなびきを調整してくれ」と言い出した。

 どうやら、今回のCMを作るにあたって監督が持ってきたイメージは、新規発売車とマッチする百城千世子を演出するため、夏らしいワンピースとスカートのはためきを持ってきたいらしい。

 澄み渡る青空、鮮烈な木々の緑、そこにスカートがなびくワンピースの百城千世子を車の脇に添える……なるほど、ベタだがいい絵だと思う。

 監督は色気や淫靡さを出すためではなく、少女らしさを出すためにイメージ通りにスカートを動かしたいっぽい。

 

 だが、撮影用大型扇風機の風量を調節しても、いい感じになびかないらしい。

 監督は今の衣装に問題がある、と考えたようだ。

 つまり、俺の出番ってわけだな。

 

「分かりました。丁寧に仕上げるんで10分ください」

 

「オーケー。休憩10分延長!」

 

 ハサミと針と糸を引っ掴んだ俺の手元を、百城さんが覗いている。

 やめろ。

 照れる。

 手元が狂う。

 

「どうするのかな?」

 

「スカートに重りが足りないんですよ、多分」

 

 カーテンに触れたことがない人間、というのはいないだろう。

 だが、"カーテンのどこが一番重いのか"と考えたことがある人は、そこまで多数派ではないだろうと俺は思う。

 カーテンで一番重いのは、下端だ。

 下端の折り曲げられたところのウェイトが計算され、僅かな風ではためきすぎないように、かつ人間が簡単に開け閉めできるように、軽さと構造が計算されている。

 完成されたカーテンは、風が吹いても、見ていて不快でないなびき方をする。

 

 この技術が応用されたのが、仮面ライダーウィザード(2012)だ。

 仮面ライダーウィザードの制作陣は、それまで戦隊シリーズを担当してきた岩垣さんをアクション監督に招き、魔法使いのローブを華麗にはためかせる流麗なアクションを実現した。

 人によって「踊っているよう」「魔法使いそのもの」「華麗の具現化」と様々な評価を下すそのアクションは、今でも仮面ライダー最高傑作と言う者がいるほどだ。

 

 そんなウィザードのアクションを支えた最たるギミックが、マントでありコートでもある造形の『魔法使いのローブ』である。

 ビニルレザーで形成し、フチをポリ塩化ビニルで加工してラインを作り、端にはカーテンと同様の理論で計算されたウェイトが仕込まれた。

 この魔法使いのローブはウィザードが飛んだり跳ねたり、その場でくるりと回るだけで綺麗に動き、仮面ライダーウィザードの華麗な動きを視聴者に印象付けたという。

 

 必要なのは計算だ。

 マントローブも、カーテンも、スカートも同じ。

 下端のウェイトを計算して、百城さんの身体能力を計算に入れれば、百城さんの動きに合わせて狙った通りにスカートを動かすことは、そう難しいことじゃない。

 

「では、今作った布のウェイト仕込みますんで、百城さん着てる服ください」

 

「私が着てる服をください? 裸が見たいの? セクハラかな?」

 

「!? せ、セクハラなんてしませんから!

 更衣室かなんかで着替えてくれればいいですから!」

 

「うん、分かってる。それじゃ着替えてくるね」

 

 この野郎! からかったな! ぶっ殺……どこかでほどほどに適度に痛い目見やがれ!

 

 ……駄目だ、本心が見えない。なんなんだこの美少女!

 

 

 

 

 

 ささっと10分で仕上げた俺を待っていたのは。

 

 "あ、これ今日中に終わる仕事じゃねーな"という確信だった。

 

「うーん……スカートの動きは理想的になった。

 でもだからこそ分かった。このワンピースじゃ駄目だ。

 このCMに相応しい専用の衣装を作る必要がありそうだな……」

 

 これだから凝り性な監督は!

 良いもの作るけどよ! その苦労のしわ寄せは下に来るんだぞ!

 低寺プロデューサーが作ったクウガとか凝り性がいい方向に噛み合ってたけどよォ!

 

「朝風、新しいの作れない?

 あの銀色のカーボディとマッチしつつ、天使のイメージに合うような衣装」

 

「……えーと、硬質でメタリックな車と、柔らかな百城さんの印象を、服で合わせろと?」

 

「そうそう。んじゃぱーっと頼むね? 特別ボーナス上にかけあっておくからさ」

 

 硬いイメージの車と柔らかな少女のイメージを合わせろってか。

 確かに百城さんが車に寄り添う絵を撮るなら、百城さんと車の間にあるものは、百城さんが着ている服以外にはない。

 服をクッションにして、車と百城さんのイメージを合わせる気か。

 でもな、割と高難易度だぞそれ。

 

 百城さんは売れっ子だ。彼女の世代では間違いなくトップと言い切れる。

 そんな彼女は、料理で言えば最高級の食材だ。

 俺が彼女に服を作るということは、最高級の食材を調理するに等しい。

 下手な仕事をすれば、素材の良さは全く活かされなくなるだろうよ。

 最悪だ。

 

「できるか? 朝風、監督としてお前にしか任せられないんだ」

 

「できます、任せてください」

 

「よーしそう言ってくれると信じてたぞ」

 

 期日的にもそんな余裕ないな。死ねよ……滅びろよTV業界……凝り性な監督より仕事が速くて安定してる監督の下の方が仕事は本当に楽だわ……

 

「英二君」

 

「百城さん?」

 

 天使は、俺に微笑んだ。

 

「頑張って」

 

 しょうがねえな!

 

「頑張ります。百城さんも期待して待っていてください」

 

「そうだね。期待して期待して、ハードルを上げて待ってるね」

 

「あっ、それはちょっと許してください」

 

 バイクと新衣装か。ピンチの理由が増えてきたな、震えてきやがったぜ。

 まずはバイクか新衣装か、どっちかでも片付けないと話にならないな。

 

 仕方ない、最後の手段だ。

 人を頼ろう。

 ちょっとのアドバイスでいい。

 何かが変わるきっかけになればいい。

 

 現役の伝説の男達の一角、黒倉伸一郎さんと、井下敏樹さんにアドバイスを求める―――!

 

 

 




 なお少年はからかわれただけであんまり多くアドバイスは貰えず終わった模様


【原作コミックスのプロフィールを転載しつつ主人公のを追加する】

●夜凪景
 16歳 身長168cm
・好きな映画
 ローマの休日、カサブランカ、風と共に去りぬ
 「意外にラブロマンス好き」

●百城千世子
 17歳 身長157cm
・好きな映画
 晩春、ローマの休日、時をかける少女、花とアリス
 「お気に入りの横顔を探している様子」

●星アキラ
 18歳 身長173cm
・好きな映画
 スパイダーマン2、ダークナイト、キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー
 「2作目が好きな様子」

●湯島茜
 18歳 身長158cm
・好きな映画
 フォレスト・ガンプ、ビッグ・フィッシュ、横道世之介、6才の僕が大人になるまで
 「一生懸命な男の子の人生に泣いちゃいがち」

●朝風英二
 18歳 身長160cm
・好きな映画
 AtoZ運命のガイアメモリ、ガメラ2レギオン襲来、ベリアル銀河帝国、パシフィック・リム
 「懸命な者が最後に勝ってこその物語」





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