ノット・アクターズ   作:ルシエド
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 この作品の時代設定だと英二くんアキラくん茜さんが2000年生まれの18歳で、仮面ライダージオウの主人公と同じって感じですかね

 祝え! 新たなる仕事の誕生を!


芸術は天使と共に在り

 うーん俺の周りは畜生多すぎねえか。からかわれるだけで終わってしまった。

 

 いや大人は信頼や期待してくれてんのは分かるが。

 一昔前の大人は「アドバイスで簡単に解答を教えると若者のためにならない」みたいなノリ持ってるからなあ……あれ、どうなんだろう。

 俺としてはサクッと答えを教えて欲しい。

 でも実際はどうなんだろうか?

 簡単に答えを教えるのは間違いなのか、そうじゃねえのか。

 

 分からん。

 俺みたいな製作者じゃなくて、物語と映像を0から作る創作者ならどうなんだろうか。

 自分の中にある何かを外側に出力する俳優や監督は、安易に他人に答えを求めなかったりするんだろうか?

 分かんねえな。

 

「ふー」

 

 結局、バイク案も衣装案も完成してねえ。

 期限的には一刻も早くやらないと間に合わない、ってほどカツカツでもねえが、撮影や企画準備ってのは余裕があればあるほどいい。

 時間があるとはいえ期限に余裕があるわけでもなし。急いだ方がいいだろう。

 

「あ、そうだ」

 

 思い出した。

 親父のバイク図鑑が何十冊か俺ん家にあったはずだ。

 家に帰れば、あれを参考にできる。

 

 多くの脚本家、デザイナーは、"頭の中の引き出しを増やす"ことが重要だと語ってる。

 おう、ド正論。

 まったくもって同意だ。

 普段から多くの本、多くの図鑑を見ておくことで頭に情報が蓄積され、何かを作る時に活かされる『地力』になってくれるってわけだな。

 

 特にスケジュールがキツキツになりがちな特撮映画、毎週一本撮影しないといけない特撮番組の現場ではこいつが必須になる。

 企画段階で脚本やデザインが全部ガッチリ決まってる、なんてことはまずありえん。

 大抵の場合は撮影しながら、放送しながら、脚本・ヒーロースーツ・怪人スーツなどを作っていくもんだ。

 

 なら、そこで一々資料は探す時間はねえし、参考本なんて買ってられねえし、資料の山からデザイン集を引っ張り出してくる時間もねえ。

 何せ最悪、毎週新しい怪人を出さないといけない番組もあったんだ。

 頭からパッと情報を引っ張り出して、商業的に合格のラインのもんをささっと作る、そんな腕と知識が必要になるもんだぜ。

 

 仮面ライダー電王(2007)放映時、造形会社ブレックス所属デザイナーの安倍さんは、電王の第一話と第二話の脚本が出来上がった頃、西映の黒倉プロデューサーにこう言われたそうだ。

 「プラットフォームってのが出ることになったので描いてください。30分で」と。

 この無茶振りもう殺意抱いても仕方ねえと思うんだけど?

 

 バンダイと西映の同時要請みたいなもんだから、まあ断るのも難しく、しかもブレックスの安倍さんにはこれをサクッとこなしてしまう能力もあった。すげえ。

 安倍さんも中学校の頃から特撮デザイナーを目指してた人だし、頭の中に入ってる資料の量はとんでもねえこったろう。

 俺の親父もそうだ。

 資料を普段から沢山頭に叩き込んでる男だった。

 

 俺も親父のマネをしてきたが、親父の持ってた資料にはまだ手を出してなかった。

 親父のメカデザインは凄かったが、そいつは親父が軍艦などの兵器や、バイクやスポーツカーなどのメカニカルなもんを十分研究してたからだ。

 親父のバイク系の参考資料を見れば、俺のバイク仕事も一歩先に進むかもしれん。

 

 揺れる電車の中、親父の残した資料に思いを馳せる。

 

「あとは、構成素材(マテリアル)か」

 

 こっそりと、電車の音で消えてしまうくらい小さな声で、俺は呟いた。

 

 現在、仮面ライダーのスーツを作る主要構造材は二種類。

 FRP(繊維強化プラスチック)と、ウレタンだ。

 

 FRPは炭素繊維などを内部に仕込むことで、強度を飛躍的に上昇させたプラスチック。

 仕組みとしては、コンクリートの中に鉄筋を仕込むことで強度を飛躍的に引き上げる鉄筋コンクリートのそれに近い。

 こうして作られたプラスチックは、引張・捻じれなどの弾性強度が極めて高いものとなる。

 

 ウレタンは柔軟で、多様性と汎用性がある、極めて便利な素材だ。

 人工皮革にすれば硬い靴底にもなり、柔らかく仕立てればソフトパッドになり、スポンジや接着剤に使うことすらできる。

 仮面ライダーのメタリックに見える(が実はそこそこ柔軟性を持つ)装甲は、このウレタンの上に塗装を施すことで完成する。

 

 FRPは硬く、鋭い角や、鋭利な角度の装甲も仕上げられ、硬質な質感も出せる。

 よってアップ撮影などに使う、アップ用スーツに向いている。

 ウレタンは壊れにくく、柔軟で強靭、折れや割れとも無縁だ。

 よってアクション撮影などに使う、アクション用スーツに向いている。

 

 西映の仮面ライダーが使うバイクには、FRPは使えない。

 ちょっと転べば折れて怪我に直結する上に、鋭く割れるという最悪のパターンになった場合、現代の仮面ライダースーツすら貫通して、中の人の肉に深く刺さりかねないからだ。

 けれども、ウレタンの方はバイクパーツに使われることがある。

 硬質ウレタンは危険な『割れ』を避けつつ、仮面ライダー達の剣も硬質ウレタンで形成することが可能なほどに、十分すぎる硬度を持つからだ。

 

「ウレタンかなやっぱ」

 

 基本強度を計算し、ステンレスパーツとウレタンパーツでバイクの装飾を作る。

 この方向性で良い……と思う。

 奇抜な素材を使いたい気持ちもあるが、希少な素材は値段がたっけえし、壊れた時に素材を取り寄せようとすると苦労することもある。避けてえところだ。

 

 ありふれてる素材ってのは、安いし簡単に手に入るっつー最高の長所がある。

 FRPもウレタンも、一般人もプロも買ってて、色んな人が買うから企業も沢山作ってて、沢山作られてるからどこでも買えるし値段も安い。

 この長所を無視して奇抜な素材に走る、ってのは俺の趣味じゃねえな。

 

 要所に塗料・マジョーラを使うこと。

 バイクパーツにウレタンを使うこと。

 そこまでは決まった。

 じゃあ、ここから俺は、どうデザインを設計していくべきなんだ……?

 

 

 

 

 

 移動中も色々考えたくて電車に乗ったが、最近は電車でスマホ弄る人増えた気がするな。

 電車降りて、後はバスで帰るか。

 

 ……ちょっと寄り道したくなってきたぞ。

 あの駄菓子屋まだ残ってるかな?

 "このガムの中に一個だけめっちゃ酸っぱいハズレが入ってるよ"ってガムとか買ってたんだけどまだ売ってるといいなぁ、へっへっへ。

 

「あ」

 

「あ」

 

 って、夜凪さん? 制服……ってああそうか、この年頃って学生なのが普通だったか。

 

「夜凪さん。学校の帰りですか?」

 

「お隣さんの……そう、美味しいお弁当の人」

 

「朝風です、朝風英二」

 

 俺の名前のインパクトが弁当のインパクトに上書きされてる!

 

「あなたも学生の人?」

 

「いえ、俺はもう働いてるので」

 

「そうなの? だからいつも家にいなかったのね」

 

 いや、家に帰ってなかったのは面倒くさかったからっす。

 仕事場に寝泊まりって楽……めっちゃ楽……俺の携帯に仕事の電話かけてくる人も、俺の事務所の留守電に仕事の依頼残す人も、事務所に直接来る人も、全部対応できるからな!

 事務所=自宅が許されるのは若い内だけ、らしい。

 もっと自宅に帰る癖付けた方がいいんかね。

 

「ここで会えたのも何かの縁ですし、ご飯でも奢りましょうか?」

 

「嬉しいけど遠慮するわ。私は家に帰って弟と妹にご飯を作ってあげないといけないの」

 

「家族思いなんですね」

 

「普通だと思うわ。親がいなかったら、姉ってこうするものでしょう?」

 

 !

 この歳で親がいなくて、かつ家族思いとは……いかん。俺こういう話に弱い。

 家族思いな人っていいよなあ。尊敬する。

 俺は親父が死ぬまで、親父に息子らしいことしてあげられた記憶がない。

 なんかこの子にしてやりたいな、って思っちまうな。

 

 しかし、なんだ?

 この子が自分のことを話してる台詞が、妙に他人事に聞こえる。

 役者が役を演じているときのような、かすかな作り物っぽさを感じる。

 気のせいか? 気のせいだよな。

 

「それじゃ弁当やお惣菜でも奢りますよ。そこのお店あたりで」

 

「そんなにしてもらう理由がないわ」

 

「実はちょっとお願いしたいことがありまして」

 

「お願い?」

 

 人間は理由のない施しを中々受け取らないが、だったら理由を付けてやりゃいい。

 

「俺はあんまり家に帰らないので、回覧板が来てたら回しといてほしいんです」

 

「そういえば、ご近所の人が朝風さんは回覧板を回さない人間の屑って言ってたわ」

 

「うぐっ……」

 

 やべーな。もうちょっと家に帰るようにしねえと。

 

「弁当どれ買います? 俺を助けると思って、どうかお願いします」

 

「じゃ、お言葉に甘えて、ハンバーグカレー弁当を三つ」

 

 ハンバーグにカレーとか欲張りセットだな。

 最近の弁当はすげえや。

 俺も料理とか人並みにしか作れないが、俺が自分で作る料理よりコンビニ飯の方が美味いと感じる時もあるんだよなあ……悲しいぜ。

 

「この店初めて来ましたけど、このハンバーグカレー弁当子供が好きなものが詰まってますね」

 

「そうね」

 

「夜凪さんがこれを選んだのには何か理由があるんですか?」

 

「子供は、好きなものに好きなものを足したらもっと好きだと思うものでしょう?」

 

 そうだな、子供は好きなものに好きなものを足すのが好きで、日曜朝のヒーロー番組ではその辺りも常に意識して―――いや、待て。

 

 好きなものに、好きなものを足す?

 

「閃いた」

 

「ヒラメ? ヒラメのお弁当が欲しいの? 店員さん、ヒラメ弁当も追加で!」

 

「え? ま、待った待った!」

 

 お前は難聴系主人公さんか何かか! 待て待て! その弁当俺が嫌いな野菜入ってる!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 眠い。

 眠いが、眠くない。

 矛盾してるが、最高の仕事が出来た日の翌日、徹夜明けの朝はいつもこうだ。

 体は眠りたがってるのに、意識はギンギンに覚醒してハイになってやがる。

 

 CM用の百城さんの服と、バイクの設計図は完成した。

 夜凪さんから得たヒントが、俺の中に足りなかったピースをきっちり埋めてくれた。

 センキュー夜凪。

 好きなものには好きなもんを足せばいい。そう考えてからは早かった。

 

 百城さんとのCMの仕事も、アキラ君との特撮仕事も、分割して考える必要なかったんだ。

 何故なら。

 俺は百城さんもアキラ君も、二人とするどっちの仕事も、好きだったんだから。

 

「では朝風君、見せてもらおうか」

 

「はい、では、新衣装を身に着けた百城さんをご覧ください」

 

 かつ、かつ、と小さな足音を響かせて、その衣装を身に纏った百城さんが来た瞬間。

 

 新人の息を飲む音と、熟練の監督が目を細める仕草が、仕事が当たったということを俺に確信させ、安堵させた。

 

「白のワンピース……いや、照明の加減で、うっすらと青紫が見えるな」

 

「はい。薄めたマジョーラによる塗装を施してあります。他にも、細かいところに色々」

 

 ベースはありきたりな白一色のワンピース。

 スカートに前回監督に要望された通りのなびく仕込みをすることを忘れないようにして、それ以外の部分には大幅な改造を施した。

 

 製作にあたり俺がまず思い出したのは、仮面ライダーオーズ(2010)に登場した主人公の最強形態・プトティラコンボだった。

 

 平成仮面ライダーのスーツは、ベースが黒というものが多い。

 黒いタイツに、ウルトラマンスーツに使う『ネオプレーンゴム』というゴムの黒い種類のものを含有させ、ゴムとタイツの中間の性質を実現するものが開発されてから、黒いスーツをベースに主役仮面ライダーを作るというシステムは更に確固たるものになっていった。

 これは西映がインタビューされても製法を明かさなかった秘蔵のスーツ製法だったが、近年はこのスーツに代わる黒いスーツの製法が、次々生み出されるようになってったという。

 

 んで、紫と黒の装甲を際立たせるため、ベーススーツを白くしようってなったのが、仮面ライダーオーズ・プトティラコンボだった。

 悪くねえ選択だ。

 おかげでプトティラは、たいそうカッコいい仮面ライダーになったしな。

 プトティラの白いベーススーツは、無地の真っ白なグロー感のあるものがセレクトされ、アクション用スーツは通気性の良いメッシュ生地にて作られた。

 今回使ったのは、このプトティラのスーツ製法と縫製技術だ。

 

 白いワンピースに、グロー感のあるプトティラコンボの白地スーツを合わせ、そこに下地になる白色塗料を含有させ、一旦乾燥させ、服の裏側に薄い裏地を貼ってから、本塗装を行った。

 

 ただの布の上には、綺麗に塗料が塗りにくい。

 なんで、プトティラを参考に改造したワンピースに無害な白い塗料を染み込ませて、柔らかい仕立てになるよう固めた。塗料の上には塗料が乗るからだ。

 塗料が固まっても、ワンピースの生地の柔らかさは損なわれない。

 そして百城さんの肌に塗料が触れないよう、服の裏に薄い生地を貼り付けた。

 

 最後に、服の表面を薄めたマジョーラにて塗装した。

 マジョーラは薄めて使うことで、下地の色を取り込みつつ、マジョーラの色をまろやかに引き立てるという使い方もできる。

 

「ねえ英二君、これなんて名前の塗料を使ってるのか聞いてもいい?」

 

 えっ、百城さん、ここでそれ聞く?

 

 勘鋭すぎんだろこの美少女。

 

「……マジョーラの中でも、天使(ミカエル)と呼ばれるカラーリングのものを使ってます」

 

 おい百城千世子。

 その表情はなんだ。

 皆さんその頷きにはどういう意味があんの? なんで皆頷いてんの?

 

 ミカエルは、仮面ライダー響鬼に使われたアンドロメダIIと同じシアン&パープルの改良品……いや、正確にはバージョン違いのマジョーラだ。

 オパールカラー2PLが多く配合されていることで、マジョーラ特有の多彩な色合いが、天使らしい白っぽくて柔らかなカラーリングに仕上がっている。

 そういう塗料だ。

 

 少し薄めたミカエルと、かなり薄めたミカエルを併用すれば、ミカエルだけで服の表面を塗装してもかなり美しい仕上がりになる。

 優しく、柔らかな、白を貴重とした模様を描ける。

 百城千世子という天使の服の上に、天使(ミカエル)を表現できるってわけだ。

 

 ワンピースの上にこのミカエル塗料を、濃淡を付けた波模様状に塗装することで、このワンピースは金属に親しい硬質さと天使を思わせる柔らかさを同時に表現する。

 柔らかい金属を表現するだけなら液体金属っぽさを出せばいい。

 だが、硬い印象と柔らかい印象を両立するだけでは、百城千世子にはあまりにも相応しくない。

 『天使らしさ』ってやつも強調しなきゃ、プロの仕事じゃねえさ。

 

「いいよいいよイメージ通り! 流石は朝風英二だ、仕事が早い!」

 

「満足していただけて光栄です」

 

「悪いね、こんな監督で。昨日の夜も電話で色々注文つけちゃったしさ」

 

「……いえ、それが俺の仕事ですから」

 

 殺してえ。

 だが表現者なんて皆こんなもんだ、しょうがない。

 表現者が「こういうアイテムが欲しい」と言ってきたなら、その人がイメージ通りに創作するために、必要なもん作るのが俺だ。

 できないんなら、俺の腕がポンコツだったってだけの話さ。

 

 それに、いつものことながら、この達成感は悪くない。

 

「お疲れ様」

 

 百城さんが労ってくれた。

 いたずらっぽく笑って、俺の前でくるりと回り、スカートの裾を摘んで――おとぎ話の中のお姫様がそうするように――俺にお辞儀する。

 芝居がかった自然な動作、という矛盾する所作。

 うーわ可愛い。

 

 こうして見ると、俺の服が美しいものに添えるだけの添え物でしかないとよく分かるぜ。

 "服に着られている"ってことが絶対にないのが、この人の素晴らしいところだ。

 

「ふふっ」

 

 何故今俺の顔見て笑った?

 

「知ってる?

 昔の芸術家って、よく天使の絵や像を作ってたんだって。

 何故かっていうと、天使は物を作る芸術家を守護するものだったからなんだって」

 

 ああ、知ってるよ、天使様。

 

「もったいないお言葉です。撮影頑張ってください、百城さん」

 

「うん、最高の()が撮れるだろうけど、それよりさ」

 

 なんぞや?

 

「私は君の頑張りに報いるために頑張ります、とか言ってあげようか?」

 

 試すようなこと言うな、この人。

 そう言われたら俺は確かに、天にも昇る気持ちになるだろうがよ。

 そう言われたら、嬉しさで死ぬかもしれねえけどよ。

 

「遠慮しておきます。貴女がテレビを見る多くの人達のために演じてること、知ってますから」

 

 その服は、俺を魅了するためのもんじゃなく、大衆を魅了するために作ったんだぜ?

 

 百城千世子は微笑んだ。

 その微笑みは、俺の気のせいかもしれないが、いつもより年相応の微笑みに見えた。

 

「それじゃあね」

 

 感情が読めないからかい屋はこれだから怖い。

 今のからかいに"言ってほしい"と答えてたらどうなってたことか。

 幻滅されてたか。

 失望されてたか。

 百城さんの心情はいまいち読み切れないから、分からん。

 

 ただ、彼女に必要な物を作ってやれたことには、満足感しかねーな。

 

 俺にも作れねえものはある。

 百城千世子は長年のトレーニングで、俺が作れないそれを身に着けている。

 だから彼女は若手世代を代表する売れっ子女優で、俺はカスみたいな俳優にもなれない。

 彼女の微笑みと、俺の作る物は同じだ。

 何年も何年も頑張って、ようやく作れるようになった、自慢のものなんだ。

 だから、誰もが彼女に魅了される。

 

「さて、撮影に一区切りついたら次はバイクだ。作成の予定を立てないと」

 

 もうひと頑張りだ、さあやるぜ。

 

 アキラ君にもっと多くのスポットライトを当てて、目指すはあの天使超えだ!

 

 スポットライトを集めるような良いバイク、ここに作り上げてやる!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アキラ君にそのバイクを見せた瞬間、手応えみたいなもんを感じた。

 

 銀と緑を基調にしたバイクは、アキラ君の視線の先で、きらりと輝いていた。

 

「これは……近未来的? いや、生物的? 朝風君、これは」

 

「次の番組展開に合わせて作った、バイク案の完成形です」

 

 基本の塗装は通常塗料にし、要所にマジョーラ『セイファート』と、マジョーラ『ガブリエル』を使用した。

 セイファートはシルバー&グリーンのマジョーラ。

 ガブリエルは天使(ガブリエル)の名の通り、百城さんの衣装に使った塗料の兄弟にあたる塗料であり、真珠のような輝きを放つグリーン&パープルのマジョーラだ。

 

 特撮の世界、特に仮面ライダーの世界では、風を緑色で表現する。

 俺は一度記憶していた西映作品の『風の表現』を思い出し、その一部を抽出し、このバイクの表面に、うっすら見える緑の模様として再現した。

 主に参考したのは、仮面ライダーW(2009)のサイクロンジョーカーが回し蹴りをした時、エフェクトとして現れる緑の風である。

 

 セイファートが銀と入り混じる緑を描き、ガブリエルが紫と入り混じる緑を描く。

 要所に彩られたマジョーラは、通常塗料と相まって、バイクの表面に風を描く!

 光の加減で角度ごとに違う表情を見せるこのバイクは、まさしく風そのもの!

 星アキラは風になるのだ!

 

 ……何考えてんだ俺は。

 徹夜の影響まだ残ってんのか。

 やべえ、今の中二すぎる思考を口に出してたら、自殺もんだったぜへへへ……

 

「悩んでいたフォルム形状がようやく決まったったんだな、朝風君」

 

「はい。アキラさんが協力してくれたおかげです」

 

 百城さんの衣装は、アキラ君と一緒にやってた仕事で使った技術の流用で完成した。

 そしてこっちのバイクもまた、百城さんをヒントに得た着想で完成した。

 

 スターズの天使、百城千世子。

 俺がそこから連想したのは、天装戦隊ゴセイジャー(2010)だった。

 「地球(ほし)を守るは天使の使命!」を合言葉に、人の姿をした護星天使という存在達が地球を狙う悪と戦う、という戦隊シリーズの作品だ。

 『戦隊全員人間じゃない!?』と驚いていた人がいたのが記憶に新しい、かなり踏み込んだ設定の異色戦隊シリーズだ。

 結構すき。

 まあ異色って言ってもカーレンジャー(1996)ほどじゃねえが。

 

 『星を護る天使』。

 星アキラと百城千世子と一緒に仕事をしていた俺は、ここにぴーんと来たわけだ。

 

 ゴセイジャーの敵をデザインした東澤安施さんは、企画者の松丼大さん、老松豪プロデュサーからの要望を聞き入れ、"虫をデザインに取り入れているが虫に見えないロボの敵"をゴセイジャーの敵としてデザインしていったという。

 おかげで、敵の本拠はガをイメージしたものに、本拠から飛び立つ宇宙船はサナギをイメージしたものになったそうだ。

 虫と機械の組み合わせで子供を魅了した、というものなら日本特撮には代表格がある。

 

 そう。

 ()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()だ。

 

 仮面ライダーのバイクというものは、虫と機械の延長にある。

 東澤さんがゴセイジャーで描いたデザインを思い返せば、それらのデザインを参考にして、仮面ライダーのようで仮面ライダーじゃないバイクのデザインも作れる。

 虫のようで虫でない、仮面ライダーらしくないのに仮面ライダーの良さを継承した、そんなウルトラ仮面のバイク。

 これでまず、バイクの大雑把な方向性が出来た。

 

 虫らしさをイメージした俺の頭に、そこから百城さんとした会話が蘇る。

 そして連鎖して、モスラ3キングギドラ来襲(1998)に登場したモスラの最強形態、鎧モスラが頭に浮かんだ。

 

 鎧モスラにはデザインとして、一つの革新がある。

 それは、メタルボディに虹色の羽を合わせたということだ。

 

 現代デザインにおいて、鉄っぽい造形を作るなら、色は極限まで減らす方が簡単だ。

 カラフルにすればするほど、『錆の臭いがしそうなほど重厚な鉄の塊』からは遠ざかる。

 重厚な鉄っぽさと虹色を最高の形でマッチさせることは難しく、これがデザイン技術的に成立したのは比較的近年である。

 

 鉄と虹を合わせた成功例があまり多くなかった時代に、前例の真似ではない形で最高の成功例を見せてくれたものが、モスラ3にて登場した鎧モスラなのだ。

 

 俺は参考資料の一つに、この鎧モスラを使った。

 鎧モスラは美しい流線型の体型をしており、空力を意識した細身のフォルムは、生物というよりもバイクのそれに近い。

 更にはマジョーラの多彩な色合いと、無骨なメタリック塗装の部分をマッチさせるのに、鎧モスラの造形は最高の参考資料と断言できる。

 断言して悪いか!

 

 仮面ライダーのバイクは、バッタの改造人間のバイク。

 ゴセイジャーの敵は、虫をモデルに使った虫に見えないメカ要素ありの怪人。

 鎧モスラは、メタリックなボディを手に入れた虫。

 これを、俺の頭の中で混ぜて、俺の頭の中で一つのイメージにまとめる。

 

 そうして出来たシルエットに、通常塗装と、セイファートとガブリエルの二種のマジョーラを塗り、バイク表面に風を作り上げた。

 

 今こいつには、仮面ライダーと、戦隊シリーズと、大怪獣モスラの魂が宿っている。

 風をバイクの形にしたかのようなバイク。

 こいつはまさに、俺にとってのサイクロン号だった。

 

「アキラさん、どうですか?」

 

「デザインは申し分ないと思う。これが走ったら、流れる背景に相当映えそうだ」

 

 よし! 好感触!

 

「ところで、さっき向こうで拾ったんだけど」

 

「え?」

 

「これ、千世子君の方の仕事で使ったっていう塗料だろう?

 それでこっちはバイクに使った塗料だったね。

 この二つ、入れ物を見るに天使(エンジェル)コレクションというシリーズものだったのか」

 

 やめろや、そういう目ざといの。

 

「天使か。千世子君のあだ名を思い出すな」

 

 おい、俺の発想の源をさっさと見抜くんじゃない。

 女の子をきっかけにいいデザインを思いついたとか恥ずかしいだろ。

 衣装もバイクも天使揃えですー、とか見抜かれたら心が死ぬ。

 公に知られた日には、俺は切腹も覚悟するぞ。

 

「まあ、それはいいじゃないですか。

 それでですね、もう一つこのバイクにギミックを考えたんですよ」

 

「ギミック?」

 

「アキラさんがバイクに話しかけると、バイクが答えるんです。

 喋って走る、主人公の相棒としての存在。

 そういうバイクはどうかと、企画会議にプレゼンしようと思ってます」

 

「バイクが……ああ、そうか。

 それならバイクの玩具も、『喋る玩具』という売りを付与できるんだね」

 

「はい、そうです。

 うるさいくらいペラペラ喋る相棒バイク。

 仮面ライダーの方が試行錯誤してるバイクのどれとも被らせないため、こうなりました」

 

 俺の中では、仮面ライダー555(2003)のオートバジンというバイクと、仮面ライダーキバ(2008)の相棒・キバットを混ぜたような存在を想定している。

 これなら売れる可能性は結構あると思う。

 何故なら仮面ライダーW以降、平成ライダーにおいて『相棒』は売れる要素だからだ。

 

 でもパンダイあたりはどう反応するかわっかんねえんだよなー。

 実際売るのあそこだからなぁ。

 

「この発想に至った経緯なんですけど……

 ディケイド14話の時に、黒倉さん達が残したコメントを思い出したんですよ」

 

「黒倉さん……黒倉プロデューサーかな?」

 

「そう、あの人です」

 

 仮面ライダー、戦隊、現在は西映の特撮番組分野全体に責任を持つほどの人、黒倉伸一郎プロデューサー。

 あの人はディケイド14話の時に、興味深いことを言っていた。

 

「黒倉さんは、ウルトラマンの元ネタである20億の針というSF小説を引き合いに出しました」

 

「20億の針?」

 

「宇宙からやってきた刑事と犯人は、地球では人間と一体化しないと生きていけません。

 少年は正義の刑事と一体化し、地球にやってきた悪を探し、倒そうとする……そんな話です」

 

「それは確かに、ウルトラマンだ」

 

 宇宙からやってきた光の戦士が地球人と一体化して、ってのがウルトラマンの基本フォーマットだもんな。

 

「黒倉さんは言いました。

 ウルトラマンよりも、仮面ライダーの方がその面白さを受け継いでいたと」

 

「? ええと、よくわからないな」

 

「石ノ森章太郎先生が書いた初代仮面ライダーの漫画で、本郷猛は死ぬんです。

 そして脳だけになった仮面ライダー一号の意識は、二号の意識とテレパシーで繋がり……

 というのが、初代仮面ライダーの漫画のフォーマットなんです。

 ウルトラマンで言えば、地球人が二号で、ウルトラマンが一号って感じでしょうか」

 

「聞いてもあまり良く分からないけど、なんとなくは分かるよ」

 

 こんなクソややこしい話によくついてきてくれてるよ、マジでありがとう。

 ややこしい話してマジすまん。

 

「黒倉Pは電王がその流れの継承者、バディ物の後継だと言っていたんです。

 電王とモモタロス。

 翌年はキバとキバット。

 当時はそういう、主人公&主人公と一つになる相棒、という製作側の流行があったんですね」

 

「なるほど。黒倉P等、その時代からいたPには受けが良い可能性があると?」

 

「そうです。

 そして、この"相棒路線"は少しだけ形を変えて続きました。

 仮面ライダーWの、翔太郎とフィリップ。

 仮面ライダーオーズの、映司とアンク。

 仮面ライダーフォーゼの、弦太朗と賢吾。

 仮面ライダーウィザードの、晴人とコヨミ……相棒が人間になったんですね」

 

 そして、仮面ライダードライブ(2014)で、黒倉プロデューサーが目指していた、『別質の意識と地球人が融合し共存して完成するヒーロー』って奴は復活した。

 今なら喋る相棒バイクとか、企画に採用される可能性は十分にある。

 

「『バイクとのバディ』。これは比較的、西映のプロデューサーに受けが良いと思うんです」

 

 まー喋るバイク、って部分は採用されなくてもいいんだけどな!

 喋るって部分が却下されれば、バイクのデザインそれそのものは企画を通りやすくなる。

 

 "企画チェックはとりあえず粗探して一つくらいはケチつけとけ"ってのがあるらしい。

 これやると企画の質がグッと良くなるらしいが、ケチつけられる方からすりゃたまったもんじゃあない。

 たとえバイクが喋らなくなっても、俺が魂込めたバイクのデザインは通るだろう。

 

 ……ん?

 待て。

 アキラ君、なんだその表情は。

 

「……朝風君、よく頑張った」

 

「な、なんですかいきなり」

 

「こういう商売っ気のある話は、君は苦手だろう。

 君が頑張って色々考えたのが伝わってくるようだ」

 

 失礼だな星アキラ! しまいにゃ怒るぞ! でも言ってることは正しいから悔しい!

 

「ええ、まあ、はい、結構苦労しました。

 期日にもっと余裕があったら、もっとゆったりまったり完成に向けてたでしょうけどね」

 

「僕が思うにだが、君が無茶な仕事振られるのは……。

 普通の人が1ヶ月でやる仕事を1週間でやれと言われたら、3日で仕上げるからじゃないか」

 

 ……。

 

 やめろやそういうこと言うの!

 

「それ言われたら、その……反省は次に生かそうと思います」

 

「絶対君は同じこと繰り返すと思うよ」

 

 なにおう。

 

「こほん。ええと、バイクは完成したので、それでは約束の食事にお誘いしたいと思います」

 

「面白い店っていうの、期待してるよ。朝風君がそういうなら相当だろうしね」

 

「インスタ映えだけは保証します」

 

「インスタ映えしか保証してくれないのか……」

 

 大丈夫大丈夫、あの店はアマゾンズ劇場版の一番印象に残る食事シーンを再現した肉料理とか、血まみれのアマゾン腕輪を模したケーキとかしかないわけじゃないから。

 555の主人公たっくんが舌を火傷させた熱々のうどんも、たっくんのための冷やしラーメンとかもちゃんと置いてあるから。

 バーニング揚げだし豆腐辛味噌仕立てとか、響鬼の明太鼓とか、ネタにしか思えなくてもちゃんと美味しかったんだぜマジで!

 最高にネタにはなる! それだけは保証する!

 

 仮面ライダー・オブ・ダイナーは定期的にメニューを入れ替える。

 俺にも今あそこにどのメニューが揃ってるのかは分からん。

 アキラ君がどの料理を選ぶか想像してワクワクしながら、俺は彼と共に歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ねみ。

 ねむい。

 ここどこだ。

 俺の家? 事務所じゃないな。俺の家か。

 

 そうだ、アキラ君と一緒に飯食って、カラオケ行って、事務所よりこっちの方が近かったから家に帰ってきたんだけ。

 スマホスマホ。

 緊急の仕事なし。

 テレビテレビ、ニュースニュース。

 あ、リモコン見っけ。

 明神阿良也特集とかやってるよすげー、天気予報見よ。

 

 しかし、今思い返してみても、俺にしてはいい出来だったな、あのバイク。

 メタルに複数の色を複数合わせる技術とセンスは、鎧モスラを作り上げた西宝の特撮美術造形部・大林知己さん・老狭新一さんのカラーリングとテクニックを採用。

 "風を緑色で表現するパターンの書き方"は西映の仮面ライダーの表現をアレンジして使用。

 そしてバイクの全体像のデザインベースに、子供が好きな虫らしさと、子供が好きなロボらしさを融合させたゴセイジャーのデザインライン……東澤安施さんのデザイン技術を使った。

 

 その上で、それらを噛み砕いた俺の中のイメージに沿い、俺のセンスで実際に作った。

 

 いやーやっぱデザイナーと造形を一人でやると楽だな。

 苦沢靖さんとかは仮面ライダーで剣(2004)、カブト(2006)、電王(2007)で死ぬほどかっこいい怪人デザインを描いたが、複雑なデザすぎて死ぬほど造形が難しかったと聞く。

 でも造形の虹色企画さんに苦沢さんのファンが多くて、死ぬほど面倒臭いデザインを死ぬほどかっこいいスーツに仕上げてくれたんだとか。

 造形会社にファンがいる有能デザイナーって卑怯じゃねーかな!

 

 俺はそういうこともないから、この手の仕事は、自分の発想をそのまんま形にするために自分で造形やっていくしかない。

 専門のデザイナーと専門の造形が組んで作った作品と比べりゃ見劣りもするだろう。

 俺が出したあのバイクも、あくまで企画案でしかなく、玩具屋と特撮屋と造形屋にブラッシュアップされて全然別物になる可能性だって非常に高え。

 

 だが、今の俺に出来ることは全部つぎ込んだ。

 満足した。

 俺のデザインがそのまんま残らなくても、おそらく後に残るもんはある。

 良い造形が出来たって満足感と、この造形がそのまんま残らないっていう悲しみが混ざったこの感覚が、造形屋の醍醐味ってやつだと、俺は思う。

 

 あのバイクは間違いなく、俺のこれまでの仕事の中でも最高傑作だ。

 ま、だからといってこれで満足してたらいけねえ。

 すぐにあの最高傑作を超えるくらいのもんを作るくらいの気概じゃなきゃ、俺に成長はねえ。

 だってそうだろう。

 俳優は人間だ。

 人間は成長する。

 なら、俺が作るもんも進化していかなきゃおっつかねえ。

 

 かつて仮面ライダーが空を飛んでいなかった時代があり、今は仮面ライダーが自然に空を飛んでいるのが当たり前の時代だ。

 進化しない奴は、置いていかれるしかねえんだ。

 演劇(act)時代(age)が流れることを、誰も止めることなんて出来やしねえ。

 

「おっ」

 

 CMが流れている。

 少し前に俺も少しだけ手伝った、百城千世子と新車のCM。

 マジョーラ・エンジェルコレクションのミカエルが、車の色合いを映えさせ、同時にそれを身につける百城さんの容姿を引き立てていた。

 

 百城さんに目を奪われ、少し経って、俺は瞳を閉じる。

 頭の中に、鮮明なイメージが浮かぶ。

 車の横に立つ百城千世子、バイクの横に立つ星アキラ。

 俺が人間の方を演出した事例と、俺が機械の方を演出した事例。

 

 俺のイメージの中でも、百城さんとアキラ君はとても『主役』らしい輝きを放っていた。

 

「『主役』は綺麗だな、本当に」

 

 輝ける舞台の主役。

 

 その輝きの手伝いができるのなら、こんなに嬉しいことはねえ。

 

「今日は仕事の予定ないしレンタルショップでゴセイジャー借りてこよう」

 

 星と天使の事を考えていたら、本家ゴセイジャーの決め台詞『地球(ほし)を護るは天使の使命!』が聞きたくなってきた。

 今日は一日かけてゴセイジャー全話見ることにしよう。

 スーツの素材全部見分けるテストとかやるかな。いい訓練になりそうだ。

 

「……今思ったが、アキラ君が百城さんを護ることはあっても逆はあんまなさそうだ……」

 

 星を護るは天使の使命、じゃないな。うん。

 

 百城千世子、あれは天使だけど小悪魔なのではないだろうか?

 

 俺は訝しんだ。

 

 

 




 他人のデザインを見る、他人の仕事の流れを見る、他のプロの大人と一緒に仕事をする、他の職人と会話する、図鑑などで知識を貯め込む、高難易度技術を模倣する
→英二「覚えた」
→事前に覚え蓄積した技術や知識を、必要に応じて脳内で自己流でミックスして物作りをする
→納品する

なので仕事が早い


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