ノット・アクターズ   作:ルシエド
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 感想、お気に入り、評価など、ありがとうございます。
 一つ貰えるだけでとても嬉しく、励みになっております。
 皆様のくださるそれらが自分の動力源です。
 作者冥利に尽きる想いで、いつも更新のためのパワーになっております。
 なので、重ねて。ありがとうございます!

 定期的にこういう前書き書いて、その度に「これからも定期的にこういうお礼は言っていかないとな」と思うんですが、いつも書くことだけに夢中になって忘れちゃうので結果的に年に一回か多くて二回くらいしか言えないんですよね……


デスアイランド:六日目:英二離脱二日目

 さてデスアイランドスケジュールで言うところの六日目、朝八時。

 昨日から大体24時間作業机に向かいっぱなしなことになる。

 全力を尽くしフルの集中力と、フルの肉体稼働率を維持してたせいで、結構体がガタガタになってきた。

 普段は仮眠や休憩を挟むんだが、ちっと気合いを入れすぎたかな。

 今日中に一度しっかり寝とこう。

 かなり消耗が激しい。

 

 使いすぎた金属はヘロヘロになって、折れやすく千切れやすくなるもんだ。

 仕事がキリいいとこまで進んだら休憩室で寝かせてもらおう。

 何かあったらすぐ起こしてくれって周りに言ってからな。

 あ、石垣さんからLINEだ。

 どうしたデスアイランド俳優最年長。

 何かあったのか。

 

『朝風君、ヤンキー漫画読んだことあるかい?

 服の下に雑誌を入れて包丁に刺されても腹を守れるようにしてたりね。

 フフフ、あれ漫画の絵にも映えるし結構いいよね。腹を守れるのが特にいい』

 

 どうしたんですか、と返信。

 

 いや本当にどうした。

 

『いや、こっちで特に何かあったわけじゃないけどね。

 ただ包丁防ぐにはそういう有効な手段もあるよ、とアドバイスさ』

 

 ありがとさん。

 よく分かんねえけど何かアドバイスされてんな俺。

 でも刃物ならアラミド繊維の服で防いだりとかした方が良さそうですね、と送信。

 間髪入れず、特救指令ソルブレイン*1のアラミド繊維*2ですよ、と追記も送信。

 

 アラミド繊維はいいぞ。

 こいつで作ったロシアのコンバットスーツとかは、特撮でよくやる爆発のど真ん中に人放り込むとかやっても、中の人無傷だったくらいだぜ!

 リアル特撮ができるレベルだ!

 俺はやらねえがな。

 つか周りがやろうとしたら止めるわ。

 これでリアル特撮やんのはちと怖すぎる。

 

『朝風君はそうそう死にそうにないね、フフフ』

 

 いえいえ俺そんな頑丈でもないですよ、と返信。

 ついでに島で俺がいない間に仲良くなっていってるっぽい人がいるかどうか、聞いてみた。

 

『最近は和歌月ちゃんと堂上君が仲良さげだね』

 

 うーん、百城さんと景さんは目につくほどじゃねえか。

 あるいはどっかで何かが噛み合わなくて仲良くなるのに失敗したか。

 早めに帰りてえなあ。

 心配になってきた。

 ダチを傍で助けてやりてえ。

 とは思うものの、二日で島ミニチュア完成ってのもかなりギリギリのラインだし早く帰るなんてどだい無理な話だ。

 

 俺がいなくて大丈夫ですかと、つい遠回しに石垣さんに聞いちまう。

 石垣さんと柊さんは同い年だから、俺も無意識の内に、同じように年上として頼っちまってるのかもしれねえな。

 俺もさっさとハタチになりてえや。

 

『大丈夫とは言えないかな。君がいないと、ほら。

 やる気が消える人増える人、寂しさで闘志が増える人減る人、色々いるから』

 

 ほー。

 なんかむず痒いな。

 

『ほら。君が居ない間頑張ろうって人とか。

 君が居ないと仕事で融通利かせてもらえないからやる気減ってる人とか』

 

 ふむふむ。

 

『あと、堂上くんもずっといるね。撮影で島抜けることもあるけどずっといるよ』

 

 それは割と本気でなんで? なんであの人帰ってねえの?

 まあいいか。

 もうちょい詳しく、皆が大丈夫かどうかを掘り下げて聞いてみる。

 

『でも君が心配するほどじゃない。皆、プロだからね。一線は守るよ』

 

 少し、安心した。

 色んな人から多角的な意見を貰ってまとめるのがやっぱ大事だよな。

 そういうのが結局、一番『一般的』で正解に近い解答になる。

 集団の強みだわ。

 

『今、問題になりそうなのは夜凪ちゃん周りの派閥形成かな』

 

 ほほう。

 景さんの才覚と芝居に惹かれてる人が増えてきてるのは分かってたが、石垣さんの目から見てもそう見えるか。

 じゃあもうこれスターズ俳優が共通で持ってる危機感なんじゃねえの?

 気になるな。

 もうちょっと聞いてみるか。

 俺が居ない時に景さん周りに問題が出るようなら、百城さんとかにフォロー頼まなくちゃならなくなる。

 

『スターズ俳優の多くは夜凪ちゃんに大なり小なり悪い印象を持ってると思うよ、フフフ』

 

 やっぱか。

 アキラ君と百城さんくらいか、景さんの味方になってくれそうなのは。

 和歌月さんは景さんの味方ってわけじゃねえし、景さんを芝居で超えてやろうって気概が伝わるが、景さんの悪口は許さねえっていうベジータ。

 堂上さんは夜凪景なんて認めんぞっていうベジータ。

 アキラさんは景さんの能力に憧れてるけど敵わないと内心気付いてるベジータ。

 百城さんは対等のライバルとして競い合うベジータだな。

 

 どこもかしこもベジータベジータ。

 生い茂るベジータ祭り。まさにベジータの森だ。

 『さらばだブルマ、トランクス』とかここだけ台詞切り取ると下着泥棒みてえだな。

 ドラゴンボールは西映のアニメだから、意外と西映特撮と人材の交流があるんだよなあ。アニメでも特撮でもノリが同じな音楽分野は特に。

 俺の場合は実物造形だからあんま仕事で関わりねえけど。

 

 石垣さんに、じゃあスターズ俳優の皆さんと景さんの間取り持たないといけなそうですね、と送信。

 

『ただこれもそんなに問題無い気がするね。スターズのオールアップはもう始まってるから』

 

 あー。

 石垣さんはそう読んでんのか。

 

 スターズはオールアップを迎えた端から撮影を離脱していく予定だ。

 堂上さんとかもうオールアップ迎えてるのにまだ島にいるが、あの人は……スターズでも個性的(婉曲的表現)だから例外として。

 "破天荒な俳優にスケジュール狂わされたくない"スターズ組からの悪感情があっても、スターズ組が抜けてくなら、結果的に景さんへの悪感情は減っていく。

 

 デスアイランドの撮影形式が、幸運にも景さんの味方してやがるのか。

 

『千世子ちゃんが表立った喧嘩はしないようにしてるからね。

 スターズの反夜凪みたいな子達が抜けていけば、自然と夜凪派が多数派になるんじゃない?』

 

 時間は俺達に味方してくれてるわけだな。

 

 アキラ君あたりを頼るか?

 一番不安定くさい景さん周りと、俳優で一番負担が大きそうな百城さん。

 この辺気遣ってもらうか?

 百城さんにストレスを与える人、景さんにストレスを与える人を、あの二人のために遠ざけてもらうとか? そんな奴が今いるか知らんけど。

 

 ……でもそうするとアキラ君の負担も増えねえかな。

 そういうのはあんまよろしくねえ。

 困るとついアキラ君を頼る心持ちになっちまうのは俺の悪い癖だな。

 アキラ君の負担も計算して色々考えねえと。

 

 撮影は一人でやってんじゃねえんだ。

 特別な奴だけいればそれでいいわけじゃねえんだ。

 俳優全員に気持ちよく撮影を終えてほしいもんだぜ。

 

『千世子ちゃんは何考えてるか全く読めないんだよね。

 ちょっとでも読める朝風君が結構な特別なんだよ、フフフ』

 

 読めねえよなあ。

 でも信じられる。

 だからそれでいいんじゃねえのかな。

 

『これで君が女の子の心の機微においても優秀だったらなあ。苦労しないのに』

 

 難しいですよね、と凄まじい速さで文字打ち込んで送信しちまった。

 

『ほどほどでいいのさ、ほどほどで。

 女の子だって分かってほしい心とそうでない心もあるだろうから。

 第一内心を隠してるのが女の子の意志なら、それを正確に知る方が失礼じゃない?』

 

 うっわおっとなー。

 スターズ俳優はスキャンダル避けるために恋愛事案も避けるって人が結構多い――避けない人は隠す――が、この人恋愛経験ありそうな雰囲気がある。

 これで雰囲気があるだけで適当なことほざいてるだけだったらどうしよう。

 それ信じたら俺もかなりバカみたいだが。

 

『後で代金払うから酒のおつまみのピスタチオ買ってきて』

 

 なんだかなーもう!

 

 石垣さんも柊さんも今年から20歳になったからって、今年になってハタチになってからナチュラルに酒飲み始めやがってよォ!

 

 時々疎外感覚えるだろうが!

 

 

 

 

 

 六日目昼。

 

 店屋物*3が並ぶテーブルを挟んで、俺は柊さんと向き合って飯を食っていた。

 

 俺が頼んだカツ丼定食セットがとても美味い。

 分厚いなこのカツ。

 卵と甘辛いソースがよくカツに染みてやがるぜ。

 

 昔の映画年鑑とか見りゃちょこちょこ書いてあるが*4、昔の映画って接待費も堂々と制作費の中に計上してあんだよな……凄え世界だぜ。

 まー映画売るための接待だしな。

 ここに計上しなくてどこに計上すんだって言われたら少し返答に迷うが。

 ともかく。

 映画作りしてる人達の飯代を会社側が出すのは筋ってもんだ。

 遠慮なく食って計上すりゃいい。

 でも高え飯を頼むのは少し気が引ける。

 高くても1000円から1500円の間に収めてえとこだ。

 理想は500円から1000円だけどな!

 

 一般人の人は大して気にしてねえけど、ロケ弁の値上がりとか結構死活問題だぞ……クソぁ……俺の腕でどうにもならねえところで制作費高騰の原因出来やがって……!

 弁当1個50円値上がりされたらスタッフ40人で2000円上昇、三食用意する撮影だと6000円上昇、30日スケジュールだと仮定すると最低18万円の上昇だぞ……おのれ。

 18万ありゃそこそこの特撮スーツ一個作れそうだぞ。

 近年はちょくちょく弁当が値上がりしてて困る。

 そんなことを思いながら、柊さんの見てる前でカツを頬張った。

 うまい。

 

「そういえば自分の家いつ帰るの、エージくん」

 

「俺が帰るのはデスアイランドですよ」

 

「つまり、この二日はここで寝泊まりすると。通りで朝早くから現場にいるわけだ」

 

「シャワーもあるんですよねここ。俳優のみだしなみ整えるために」

 

「んもー」

 

 柊さんが呆れた顔をする。

 いやすんません。

 でもしょうがねえんだよ。

 俺は元々、東京で一睡する予定もねえんだ。

 東京で活動できんのは二日しかねえが、理想的に撮影を進めるならこの二日でCM撮影に使えるだけのミニチュアは、絶対に完成させとかなきゃならねえんだ。

 

 スターズの超大作ともなりゃ、早けりゃ公開の一年前から配給と劇場に予告映像(トレーラー)を入れることを要求されることもあるし、ミニチュアも相応に早く作っとかなきゃならねえ。

 デスアイランドの場合、公開の半年前にはトレーラーを納入する予定になってる。

 となるとミニチュアも早く作らなきゃならねえわけだ。

 このスケジュールは、デスアイランド本撮影分……つまり一ヶ月分後に食い込んだらかなり渋い顔をされるレベルだと言っていい。

 

 だから、この二日でとりあえずでも完成させとかなきゃいかねえんだよ。

 

 東京行きの船で寝て、二日寝ずにミニチュア作成、島行きの船で寝る。

 これが俺のパーフェクトプランだ。

 睡眠時間は移動中に確保する。

 

 ただ作業に夢中になりすぎて、食事も後に回してた俺が、柊さんにとっちゃどうにも腹立たしかったらしい。

 怒られた。

 座らされた。

 で、飯を選ばされて、奢ってもらっちまった。

 嬉しいが、大変申し訳ねえ。

 

「ご飯くらいちゃんと食べなよ」

 

「すみません、ありがとうございます」

 

「無理矢理連れて来ちゃったから、私の方が謝らないといけなそうだけどね」

 

「飯食うの忘れてた俺が悪いんですよ」

 

 俺のはカツ丼定食セットなんで、サラダとスープとデザートがおまけについてきた。

 ……そういや、柊さんは甘いものとネバネバしたものが好きだったか。

 いやもうすっかりうろ覚えだな。

 ええいままよ。

 柊さんが要らねえなら要らねえでいいや。

 

「柊さん、デザート要りますか? 杏仁豆腐みたいですけど」

 

「わ、いいの? じゃあ貰おうかな。ありがとっ」

 

「あはは、柊さんの奢りなんですから、お礼言われることはありませんよ」

 

「なんか前にも似たようなことあったねえ。あの時は私がチョコ貰ったんだっけ」

 

「ああ、そういえば、そんなこともありました」

 

「エージくん、食べ物を他人と分け合うの、もしかして好きだったりする?」

 

「特にそういうことは無かったと思いますけど」

 

 ただ……こうして、他人と一緒に飯食うのは好きだ。そこは否定しねえよ。

 

 だって、家族みたいで楽しいだろ?

 

「じゃあお礼にこのアンコウ揚げあげる」

 

「ありがとうございます。あ、美味しい」

 

 揚げアンコウ定食セットとかおもしれーもん頼んだよなこの人。

 美味い。

 深海魚ってあんなグロいのになんでこんな美味いのか。

 いや、美味いから食われねえためにグロい見かけしてんのか?

 グッピーとかアロワナとかニシキゴイとかちょっと美味そうだもんな。

 

「そういえば、アンコウってあんまり深海魚じゃないらしいですね」

 

「え、そうなの?」

 

「市場に一番流通してるのはキアンコウって言うらしいです。

 水族館の深海コーナーにいるやつですね。

 コイツに発信機を付けたところ、一年のほとんどは深海でなく浅い海にいたそうなんです」

 

「へぇ。深海魚じゃないじゃん」

 

「『アンコウ』と言えば深海魚ですからね……

 でも店で食べるアンコウは大体深海魚じゃないわけです。

 それどころか水族館にいる自称深海魚の大嘘アンコウ野郎も深海魚じゃないわけです」

 

「深海魚とは一体……」

 

「ほら、いるじゃないですか。

 バラエティとかで『元スターズ』だけが売りみたいな芸能人さん」

 

「あーいるいる。

 それしか誇るものないの? って時々思うね私。

 元スターズのイケメンとか中身ないなあ、って印象受けちゃうともう好きになれないわ」

 

「アレと同じなんじゃないでしょうか」

 

「『深海魚ブランド』的な?」

 

「そうですそうです、『スターズブランド』的な」

 

「深海魚って個性が無いと価値が薄れちゃうアンコウも大変だね……」

 

「ブランドは大事ですよ。スターズはまさにそういうものを作ろうとしてる会社ですし」

 

「それは分かるけどねえ、うーん」

 

「例えば、俺がその辺で布を千円で買ったとします。

 この時点では千円の価値しかありません。

 でも、大手の有名服飾メーカーが服に仕立て上げ、それを宣伝したら?

 スターズの百城千世子がこれを着て、スターズが宣伝したら?

 有名服飾メーカーの製造と、スターズの名前、二つのブランドが付随されたら?

 きっと、一万円でも飛ぶように売れると思います。

 これが『付加価値』。これが『ブランド』ってやつでしょう、柊さん」

 

「私そういう名札だけ立派になって中身が無いのはちょっとねー」

 

 この人、中身の無い会話する男が嫌いって前に言ってたっけなあ。

 実が伴うものが好きってのはめっちゃ柊さんらしい。

 

「エージくんはさ、作るもの全部質が伴ってんじゃん。

 制作担当の人間としてはああいうのが好ましいんだよ、ああいうのが」

 

「ありがとうございます。そう言っていただけると嬉しいです」

 

「アンコウはイケメンじゃないし、エージくんもイケメンじゃないけどさ。

 こう、中身はいいものじゃん。アンコウは中身が美味しいし、エージくんは中身があるし」

 

「あっ、傷付く」

 

「映画だってそういう風になればいいんだけどね。

 『スターズ』のブランドがなくても。

 『○○賞受賞』みたいな名札がなくても。

 『□□監督作品』みたいな宣伝がなくても。

 映画の質と口コミだけで大ヒット、みたいな映画作れたら最高じゃない?

 大事なのは中身中身!

 ましてや英二くんはアンコウみたいブサイクじゃないから、きっといけるはず!」

 

「あっ、嬉しい」

 

「エージくんは俳優になれるほどじゃないかもしれないけど、顔悪くないし。

 あの無表情がデフォのけいちゃんにきゃーかっこいー! って言わせることだって!」

 

「それはもう一度ビッグバンが起きても絶対に言わないと思います」

 

「うん、言わないわ。ごめん」

 

 言わねえだろ景さんは。

 そもそもあの人が芝居以外で誰かに惚れた風になるところがあんま想像できねえわ。

 芝居の上でならいくらでも想像できるけどよ。

 ……あーでも、最近はそうでもなかったか。

 普通の女の子らしさも増してきたよなあ、あの人。

 

「でも深海魚のあの外見にも良いとこは多くあるんですよ。

 平成ガメラシリーズの樋田監督*5の話ですけど……

 樋田監督は子供の頃、怪獣が好きすぎて親に禁止され、その代わりに深海魚にハマったとか」

 

「怪獣の代わりが深海魚でいいんだ……」

 

「深海魚と虫は怪獣のモチーフには最適ですからね。

 個性的で、気持ち悪くて、多様性があって、邪悪が表現しやすいですから」

 

「……確かに、そう言われてみると」

 

「ジュネッスブルー*6もモデルに使ったものの一つに深海魚ありますしね。だから―――」

 

 そんなこんなで、二人での飯の時間は過ぎていった。

 

 このままいけばどんなにトラブルが起ころうが、ミニチュア制作作業は予定通り終わる。

 他のスタッフ次第だが、もしかしたら最後に結構時間の余裕ができるかもしれねえ。

 二時間か三時間くらいは。

 島への移動前に寝て、予定してた睡眠時間をもうちょい長めにとってもいいかもな。

 

 

 

 

 

 あれ。

 あの姿は、ルイ君とレイちゃん。

 景さんの家族じゃねえか。

 デスアイランドに行ってる間、景さんが安心して仕事に専念できるよう、黒さんがあれこれもろもろをやってるはずだが……責任持って預かってるオッサンはどうした。

 柊さんがこっちで仕事してるってことは、あのオッサンが居場所把握してなくちゃならねえもんだろ。

 何やってんだヒゲ!

 

「あ、にーちゃんだ!」

 

「こんにちはー」

 

「こんにちわ、ルイ君、レイちゃん。黒さんはどうしたのかな?」

 

「受け付けで手続き? してるよ」

 

 疑ってごめんなさい黒さん。

 子供だけ先に走ってきたのか。

 置いていかれた黒さんはむしろ被害者かもな。

 

「にーちゃんかたぐるまー! かたぐるまー!」

 

「はいはい」

 

 ルイ君を肩車してやる。

 しっかし何があって黒さんこっち来たんだ?

 子供達から目を離したくねえからここまで来るのに一緒に連れて来た、ってのは分かる。

 じゃあなんかこっちに用があったと思うんだが。

 なんだろうか?

 

「おにーちゃんいつ、お休みしてんの? いつもお仕事だね」

 

「動けなくなったら休むよ。心配してくれてありがとう、ルイ君」

 

「クロちゃんはいつ働いてるの?」

 

「あの人はあの人で働いてる時は働いてるんだよ、レイちゃん」

 

 この歳の子に完全に舐められてるってのは、それはそれで凄いぞ黒さん。

 俺に対してすら、年上のあんちゃんに対する見上げ目線と僅かな敬意みたいなもんは持ってるからなこの二人。

 

「おねーちゃんと電話したんだよなー」

 

「ねー」

 

「おねーちゃんの芝居に惚れ込んだなら浮気しちゃ駄目だぞ!」

 

「クズ男になっちゃうよ?」

 

「あ、あはは……ごめんな。

 一人に専念して支援してたら駄目な仕事なんだよ、今の仕事。

 俺はまだ、君達の立派なおねーちゃんに相応しい能力の裏方じゃないのかもしれない」

 

 まいったな。

 この二人にとっちゃ、景さんこそが一番大切な人。

 だからこの二人にとって理想的な裏方は、大好きな姉だけの味方になるような人なわけだ。

 でも俺はそういう風になれねえからなあ。

 

 道理0感情10割で語る子供を、大人の事情で納得させられるわけがねえ。

 無理に納得させようとしても泣いちまう。

 だからちゃんと謝って、子供心に何かしら納得させてやらねえと。

 

「おねーちゃんを安心して任せられないよな」

 

「ねー」

 

「ご、ごめんな。君達のお姉さんを助けるのは全力でやるから、それで許してくれ」

 

 ぐあっ。

 胸に刺さる。

 た、確かに友人としちゃ頼りねえとこもあるかもしれねえが。

 友人として、景さんの心労減らす努力はしてるぞ! 守る気概もある!

 時間くれ時間!

 "朝風英二は惚れ込んだ女優にはこのくらいする"ってことを景さんにしっかり認識させて、景さんを安心させて見せるから! な!

 

 ルイ君とレイちゃんに『この人はお姉ちゃんと硬い友情で結ばれたいいお友達だから、安心して任せられる』って思われるようになるのはいつの日か。

 俺の頼り甲斐はこの二人に大分疑問視されてる気がするぞ。

 

「安心して任せるにはにーちゃんちょっと背が低いよな」

 

「私やルイでもすぐ追い越しちゃいそう」

 

「……そ、そこはどうにもならないから」

 

 ぐっ。

 身長か。身長が足らねえと頼りになる男に見えねえのか。クソぁッ!

 

 身長を補って余りある頼り甲斐が欲しい。

 ナイスガイになれねえならせめて頼り甲斐が欲しい。

 俺160cm。

 景さん168cm。

 残酷な身長差が胸に痛え。

 家族が……景さんの身長を見慣れた家族が……俺に身長の指摘を入れて来るんじゃねえ……!

 

 身長は作れねーんだよ!

 

「朝風さん、ちょっといいで……子供?」

 

「身内です。気にしないでください」

 

「は、はあ」

 

 あ、事務員の人。

 普段スターズで事務してるけど今はこっちの島ミニチュア関連の事務担当してくれてる田中さんじゃねーか。

 この前俺と百城さんで車のCM撮った時も担当だったな。

 何用だ?

 

 俺が肩車してるルイ君と手を引いてるレイちゃんのことは気にすんな。

 

「朝風さんは一昨日、スターズ協賛のドラマにスキャンダルがあったことを覚えてますか?」

 

「ああ、スターズ女優が何人か参加してましたね。

 ドラマの規模が大きかったので騒ぎも大きかった覚えがあります。

 確か参加女優の一人が監督と不倫してたんでしたっけ……それがどうかしましたか?」

 

「週刊誌の記事が発端で、共演したスターズ女優数人にも疑惑がかかっています」

 

「え? 本当ですか? それは知らなかっ……待ってください。俺に言うってことは」

 

「はい。デスアイランドの撮影に多大な影響が出ます。かなり大きなものが」

 

 ウッソだろ。

 これだから色恋沙汰は!

 色恋沙汰が悪いとは言わねえがな!

 せめて女優が恋愛感情抱かないようにプロとしてちゃんと振る舞うとか色々あんだろ!

 何やってんだよ!

 恋愛感情は理性でどうにかできねえからしょうがねえ、って部分があるのは分かってるが、分かってるんだが……あーもう。

 

 眉根を寄せる俺の髪を、肩車された状態のルイ君が引っ張る。

 

「すきゃんだる?」

 

「俳優さんはね、恋愛しちゃいけないんだ。恋愛して色んな人に怒られたってことだよ」

 

「え……おねーちゃんも?」

 

「景さんもだよ。隠れてするなら、バレない限りは許されるけどね」

 

「あ、なんだ。かくれんぼしながらなら、していいんだ」

 

 なんかニュアンスが微妙に違えなあ。

 まあいいか。

 しかし女優の恋愛がかくれんぼってのは言い得て妙だな。

 この子も割と役者のセンスあったりして。

 

「では話を続けますね、朝風さん。

 スポンサーの一つが難色を示しました。

 現在ネット掲示板を中心に大騒ぎで、そのスポンサーは少しスターズと距離を取りたいと」

 

「もう撮影始まってますし、それを盾に現状維持を要求してはどうでしょうか?」

 

「前にスターズが借りを作った会社みたいなんです。

 その時の借りの精算込みで、その会社はデスアイランドから離れようとしてるようですね」

 

「……と、いうことは」

 

「一社、出資取り止めです。このままだとデスアイランドの方の予算が足りなくなります……」

 

「うぎゃぁ」

 

 やめろよお前本当やめろよそういうの。

 

「お気を確かに、朝風さん。

 それと、スターズのアリサ社長から伝言を受け取っています」

 

「……なんでしょうか」

 

「『こっちはこっちで何とかするから8000万円分のスポンサーを見つけておいて』と」

 

「あの人は俺を何だと思ってやがる」

 

 あ、やべ、つい素が。

 

 え、何?

 俺、こっからミニチュアの仕上げとスポンサー確保やんなくちゃならねえの?

 今は撮影六日目14:00。

 島への出発が撮影七日目07:00の予定だったから、あと17時間か。

 17時間で8000万かー。

 

 嘘だろ!?

 

「にーちゃん、かくれんぼしよーぜ!」

 

「スポンサーがかくれんぼしちゃったからちょっと無理かな、ルイ君」

 

「えー」

 

 えーじゃないが。

 

 俺が言いてえよ「えー」って。

 

 ええええええええ……? 俺はどの方向を向いて『ぶっ殺すぞ』って言えばいいんだオラぁッ!

 

 

 

*11991年放送開始、メタルヒーローシリーズ。警視庁の救急所属のヒーロー、という、当時着目されていた救急や消防にヒーロー要素を足す形式の特撮。スーツ造形は独特で、未だに熱烈に支持しているファンも多い。スーツの素材は普通に通気性と重量を考慮した布だが、特撮番組の設定としては、アラミド繊維を使った戦闘服を使っていることになっている。

*2防弾チョッキの材料。銃弾もナイフもガンガン防ぐ頼れるヤツ。アラミド繊維の材料費は、手袋を作る程度なら千円、服一着を作るなら一万円は欲しいところ。逆に言えば、たとえば二股かけた男が女性から包丁で刺されても無事に終われるような服を作るには、余裕を持って二万円あれば十分作ることができる。

*3主に飲食店に頼んだ出前のこと。撮影所の近くに安くて美味い出前してくれる店があると多用される。ホカホカの飯が届いてよろしい。ただしテレビ撮影などの場合は基本、ロケ弁という安い・そこそこ美味い・一気に沢山頼める弁当が人数分注文されるのが慣例。英二のこの現場がロケ弁を頼んでいないのは、デスアイランド制作費内訳にこの食費を含めず、かつ食事代を経費として上に回すため。

*41953年版キネマ旬報社出版『映画年鑑』29ページ目など。昔の本の制作費は当事者が残した情報でありながら間違っていることがあるため、別書籍にて数値が修正されたものが転載されていたりする。

*5シン・ゴジラの監督に、近年では進撃の巨人OP担当監督と、特撮とアニメ両方で大きな活躍を見せる樋田真嗣監督だが、当時共に仕事をしていた操演担当は彼を『アニメのように特撮を、特撮をアニメのように撮る』という印象を受けている。特撮みたいなアニメ、アニメのような特撮を撮ろうとすることで、彼の周りには多くの新技術が生み出された。

*6ウルトラマンネクサスの強化形態の一つ。非常にスピーディでダイナミックな動きをする。特に夕日の中での怪獣ガルベロスとの戦いにおける、防衛隊チームとの連携はウルトラシリーズの中でも屈指の名場面と非常に評価が高い。




●一茶

 2017年にとんでもない内実が発覚した、『スポンサーが勝手に撤退すると映画が死ぬ問題』ジャンルにおける、ここ数年の日本映画界で指折りクラスの大爆弾事件。

 映画『一茶』は制作費約三億円の映画であり、映画誌で期待度ナンバーワンに選ばれるほど、映画愛好家から期待されていた映画であった。
 が、スポンサーが最悪だった。
 三億円の出資を約束していたものの、6500万円しか払わず支払滞り。
 来月払う、来月払う、と言い続け、結局全く支払わず。
 何度催促されても来月払う、としか言わず。
 いっそ払えないと言えば良かったのにそれすら言わず。
 別のスポンサーに切り替える処理もできず、制作費を臨時処理で立て替えていた制作会社が、とうとう破産してしまったのだ。

 スタッフ等への給料未払いは1億7000万以上に。
 プロデューサーも制作費を立て替えていたのか、破産手続きを開始。
 地元のPRになると信じて立て替えていた現地の業者にも2000万以上の未払い。
 脚本はプロデューサーの熱意に負け、相場の1/5の脚本料で受けたのにそれも払われず。
 主演男優が金を出していたことすら発覚し。
 映画は完成しないまま、制作は完全に止まり、監督は無念の内に亡くなった。

 俳優達はクラウドによる映画完成と公開を目指したが、芳しくなく。
 2018年8月に2000万の寄付がなされるという奇跡が起き、現地業者などへの支払いは完了されたが、そこから続報はない。
 事実上の、制作が始まってからのスポンサー非協力化による、悲劇の発生だった。

 スポンサーは映画の生命線。
 ここの機嫌一つで、映画は死ぬ。





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