ノット・アクターズ   作:ルシエド

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日曜朝のヒーローと、名女優は魅了する

 ゴジラは、盗まれる宿命にある。

 そう言うとちょっと過言かもしれねえが、定期的に盗難被害が取り沙汰される特撮の世界でも、ゴジラの盗難騒ぎはドラマティックなエピソードがあるもんだ。

 

 1979年、2mほどのゴジラ展示用人形が盗まれた。

 この犯人は当時大学生だった人気イラストレーターで、酒に酔った勢いでゴジラの人形を盗んだっつー話だ。

 1991年にゴジラの宣伝用スーツが盗難。

 ゴジラ捜索本部が設置され、1979年の犯人が名乗り出て、盗んだゴジラを返却するという珍イベントになったらしい。

 1979年の犯人は返却して、公の場でこう呼びかけたという。

 

「(俺は返したから)名古屋の君も早く返した方がいいよ」

 

 ゴジラ界隈の人間面白すぎねえ?

 

 ところがこの宣伝用スーツは結局見つからず、1992年には更に撮影所から撮影用スーツまで盗まれちまったという。

 ガバいな防犯!

 ただこっちの撮影用スーツは犯人が怖くなったのか多摩湖近辺に捨てられてるのが発見され、撮影は問題なく行われた。不幸中の幸いだな。

 

 特撮ゴジラの映画がそこそこの頻度でやってた時代は、もう終わった。

 だから最近の若い人はこういう感覚が分からねえらしい。

 ゴジラのスーツ盗めば高く売れるんじゃねえか、って感覚が。

 ゴジラのスーツを盗むような熱狂的なファンがいる、って感覚が。

 俺も最近の若い人だけどその辺の感覚わっかんねえなぁ。

 

 ゴジラのスーツは盗まれる。

 それは一種の宿命みたいなもんだ。……嫌な宿命だなこのやろう。

 まあ盗んでるってだけで言うなら、子供の心と女性の心はアキラ君が、男の子の心は百城さんが奪いまくってると思うがな!

 

「見つからないね」

 

「どこかに隠れてると思うんですよ。アキラさんも十分に気を付けて」

 

 しかし見つからん。

 三階のどこかにいると思うんだがな。

 今は三階にも結構人がいるから、隠れられる場所は多くないと思うんだが。

 

「三階以外にいる可能性はあると思うかい?」

 

「百城さんに言われて気付きましたけど、確かに四階から三階にしか匂い付いてないんですよね」

 

「考えにくいか……」

 

「多分台車で運んで、ちょっと床や壁でこすったから、そこに臭いが付いてるんだと思います」

 

 日も昇りきってない早朝のことで、エレベーターとか使えなかったなら、運べるのは階段だけのはずだ。

 じゃあやっぱ三階より下には持って行けてないと思うぞ。多分。

 

「私達と手分けして別々の部屋を探せばいいんじゃない?」

 

「泥棒と百城さん達だけが出会ったら、百城さん達が危ないじゃないですか」

 

「ふーん」

 

「やっぱ百城さん達はもっと人が多い安全なところに行ってた方が……」

 

「今の三階も人は十分いるし大丈夫じゃない?」

 

「私も、頑張ってみます!」

 

 何故か手伝いを申し出てくれた百城さんや歌音ちゃんが、クローゼットとかをガンガン開けていく。

 この二人外見は可憐な女の子だが少々怖いもの知らずで怖い。

 アキラ君が二人を見てくれてるおかげで、なんとか安心できてるのが現状だ。

 自然に女の子を気遣うイケメンの安定感はパねえな。

 

 だが、本当にどこだ?

 ゴムの匂いが手がかりだが、三階に移動したその後が分からん。

 初代ゴジラの1号スーツは高く売れそうで魅力的なのは分かるが、折り畳めねえし、重いから棚の上に押し上げたりすんのも難しい。

 

「……あの、百城さん、何故俺の横顔を見てるんですか?」

 

「気にしなくていいよ」

 

 考え事してたら、百城さんに横顔を見られていたらしい。

 何故?

 何故こっちを見る。

 やめろ、恥ずかしい。

 

「そ、それよりですね、犯人とスーツどこに行ったんでしょうね」

 

 話を逸らそう。視線も逸らしてくれ百城さん。

 

「朝風君、ちょっといいかい?」

 

「なんでしょうか?」

 

 よし、百城さんがアキラ君の方を見た。

 

「こっそり警備員に混じってるとか、そういう可能性はないかな」

 

「警備員に?」

 

「警備員はよそからの派遣で、そこに泥棒が混じっていたという話だからね。

 母さんだって警備員の顔全員分は覚えてないよ。

 泥棒が警備員の服を着直して、少し変装して、ゴジラを隠して……

 他の警備員とは顔を合わせないようにして、しれっとした顔で事務所を歩いてるかも」

 

 え、なにそれ俺できない。

 俳優ならできんの?

 泥棒にそれできんの?

 

「それでバレないもんでしょうか?」

 

 うーむ、それで誤魔化して隠れられるって発想がそもそもなかったな。

 泥棒はどっかの箱の中にでも、スーツと一緒に隠れてると思ってた。

 でもアキラ君は、人の中に泥棒が隠れてると推測したわけだ。

 これは"物は箱にしまう"って発想が起点の俺と、"人は人の中に隠せる"って発想が起点の俳優アキラ君の違いか。

 

 百城さんが苦笑している。

 

「普通の人ってそんなにマジマジと他人の顔見てないよ」

 

「そうだね。千世子君も僕と同意見みたいだ」

 

「肝心な部分を抑えて変装すれば意外とバレないものだよ?」

 

 ぬ。

 大人気俳優二人が口を揃えてそう言うか。

 じゃあありえるのか?

 

 いや、でもそうか。

 

 特命戦隊ゴーバスターズ(2012)で主人公のヒロムを演じた鈴本勝大さんは、戦隊制服のイメージが強すぎた。

 だから私服でロケバスから降りた時、子供達が沢山いたが「ヒロム~、出てきてよ~!」と気付かない子供達の声をもろに食らい、めっちゃショックを受けたらしい。

 

 仮面ライダードライブ(2014)で敵組織幹部のブレンを演じた松鳥庄汰さんは、『メガネの敵幹部』という印象が強すぎて、眼鏡を外すと誰だか分からなくなくなる人だった。

 子供にも分かってもらえないのがショックだったらしく、眼鏡を外して幼稚園の周りをフラフラしたりとかしてみたが、結局誰にも分かってもらえなかったらしい。

 事案!

 

 服を変えるだけで、眼鏡を変えるだけで、意外と人は気付かない。

 変える前と変えた後の顔を見比べるならまだしも、目に映る数多くの人の中の顔から"気付く"ことはかなり難しい。

 人は普段、そこまで道行く人の顔を見てねえからだ。

 

(あ、歌音ちゃんに顔を見られないようにしてたのはそういうことでもあるのか?)

 

 特撮の主人公やメインキャラだってそうだってんなら、帽子とかで顔のパーツの一部を隠してれば、結構多くの人の目を欺けるかもしれねえ。

 センキューウルトラ仮面。

 するとゴジラの着ぐるみを着て歌音ちゃんを脅したことも、相方を意識が失われるようなスーツに入れて口封じしたことも、安全策に見えてくる。

 俺達は誰も犯人の顔を見てねえんだよ。

 警備会社が写真とかでも送ってくれない限りは、顔が分からん。

 

「英二君、犯人を見つけられるスーツとか作れないの?」

 

「作れませんよ!」

 

 俺をなんだと思ってんだ百城さん!

 

「だって英二君は物作りが一番得意じゃない?」

 

「得意と万能は違いますよ……

 赤外線を可視化するスーツくらいなら作れますけど、泥棒の役に立つだけですね」

 

「……作れるのか、朝風君」

 

 泥棒を見つけられるスーツが作れないことに変わりはないんだから意味なくね?

 くそうここで"作れますよ"とか言えてたら百城さんに褒められてたんだろうか。

 

「あれ」

 

 歌音ちゃんが走っていく。

 おいちっさい体で走ると転ぶぞ、気を付けろ。

 危ないことは控え目にしとけ、小さいけど女優だろうが。

 ん?

 何だ? 歌音ちゃん何か拾ったか?

 

「朝風さん、これ何でしょう?」

 

「これは……」

 

「何?」

 

 透明樹脂だな。この形は、見覚えがある。

 

「メカゴジラの歯ですね。あの部屋にも落ちていたやつです」

 

 初代メカゴジラの頭部はFRP(繊維強化プラスチック)製、歯は透明樹脂製だ。

 当時の映画の画質では分かりにくいが、立ち絵写真だとよく形が分かる。

 当時のFRPは、今のFRPほど強度が高くなく、また他素材と接合した場合の相性も良くはなかったのが問題だった。

 仮面ライダーV3のマスク造形でも、FRPの予定だった部分をラテックスゴムで造形し、割れるのを恐れてマスク内側に布を貼っていたはずだ。

 

 再現スーツの接着が甘かったのか、FRPのメカゴジラマスクに据えた透明樹脂製のメカゴジラの歯が外れやすくなってたんだろうな。

 泥棒がスーツを盗んだ時、ぶつかって落ちたんだろう。

 

「あの人の靴に引っかかってたみたいで……」

 

 よく見つけてくれたな、歌音ちゃん。

 ああそうか、納得だ。

 スーツを盗んだ時に、靴の紐にでも引っかかってたのか。

 俺達の身長よりも低い、小さい子の低い視点だからこそ、透明樹脂の歯が転がっても見逃さなかったんだな。

 

 小さな子供しか見つけられない手がかり。

 MVPやりたいとこだが、それは全部終わってからにしてやろう。

 

「ありがとうございます山森さん。あなたのおかげで、泥棒が見つかりました」

 

「え……あ、役に立てて嬉しいです!」

 

 歌音ちゃんが指差したあいつが、おそらく泥棒クソ野郎だ。

 

 アキラ君は何か言いたげだな。

 

「偶然靴に引っかかった可能性はあるんじゃないか?」

 

「ですね。もう一つ確証が欲しいところです。ですので」

 

 一芝居打つか。

 芝居なら俺より歌音ちゃんの方が上手いくらいだろうが、泥棒なんぞにこの人達の素晴らしい芝居をくれてやることはねえ。

 あまりにももったいなすぎる。

 

「いざという時はおまかせします、アキラさん」

 

 近場の衣装部の部屋から生地を二つ引っ掴んで、事務員みたいなフリして、偶然ぶつかったフリを装って生地二つをぶちまける。

 

「ご、ごめんなさい!」

 

「ああ、気を付けて」

 

「あれ?

 運んでこいって言われったメカゴジラ機龍の生地どっちだったかな。

 ど、どっちだったかな……ああ困った困った。

 あの、あなた、自分がどっちの手でどっちの生地持ってたか覚えてませんか? どうです?」

 

 俺に絡んでほしくないみたいな表情してるな。

 早く生地拾ってどっか行けって顔だ。

 そりゃあそうだろうな。警備員の服着て、人に紛れて、お前の顔を知ってるかもしれない人に絶対に会わないようにして、こそこそ逃げるタイミング窺ってたんだろ?

 俺にはさっさと離れてほしいよな?

 

「こっちの生地だろうから、早く拾って行きなさい」

 

 だからうっかり、どっちの生地がメカゴジラ・機龍のバックパックの生地なのか、俺に教えちゃうんだよな。

 青い生地と、青寄りの紫の生地で、紫の生地を選んじまうんだよな。

 

「なんでこれだと思ったんですか?」

 

「え? ……そ、そりゃ、昔ポスター見たことあったからさ」

 

 墓穴を掘ったなドマヌケめ。

 

「なんで"こんなに紫っぽい生地"を選んだんですか?」

 

「え?」

 

 参考資料を沢山詰め込んだ俺のスマホを操作し、俺のスマホの中の、メカゴジラ・3式機龍の画像を泥棒に見せつける。

 それはゴジラ×メカゴジラ(2002)のとあるポスター広告の画像。

 かつて映画で大暴れしたメカゴジラ・機龍のバックパックの色は、その広告では青だった。

 

「3式機龍のバックパックって、実は紫色なんですよね。

 ウルトラマンティガ(1996)のスカイタイプと同じ生地を使ってるんです。

 あなたの選択は正解です。この青寄りの紫の生地こそが、メカゴジラ機龍の生地」

 

 スタッフロールを見りゃ誰でも分かるが、『ゴジラ×メカゴジラ』はチーフ助監督の野座間さんも、セカンド助監督の伊東さんも、西宝の現場は初めてな棘谷系の人だ。

 つまり普段はウルトラマンを撮ってる人達ってこった。

 当時、ここからウルトラマンティガの生地がメカゴジラの素材へと流れた。

 

「でも広告パッケージやモンスターアーツなど、大抵の場合青だと扱われます。

 だから機龍のバックパックが青だと思ってる人の方が多いんですよ。

 フジミ模型のチビマルゴジラシリーズに至っては、3式機龍のバックパックは水色です。

 紫っぽくても、紫っぽい青なことがほとんど。

 バックパックが紫であることを意識している公式絵や人形は少数……それは、何故か?」

 

 青だと思ってる企業。

 紫混じりの青だと思ってる企業。

 青いバックパックなら水色で良いと思ってる企業。

 色々居たな。

 だが、本当は紫なんだよな、あのバックパック。

 

「生地は照明の下で色合いが変わるからです。

 カメラというフィルターを通せば映像は違うものになるからです。

 だから、ティガと機龍は違う色に見える。

 映画とTVでは、西宝と棘谷では、ステージも照明も全く違います。

 だからこそ、機龍のバックパックは青、あるいは紫風味の青に見える。

 ウルトラマンティガの体表の紫は、少し青っぽい紫色に見える。同じ生地なのに」

 

 表情が動いた、失言に気付いたな?

 

「機龍改のバックパックの本当の生地を知っているのは!

 日本特撮映画師列伝 ゴジラ狂時代(1999)の読者か!

 当時の撮影の関係者と、その関係者に師事したものか!

 スーツを見ることができた、事務所の偉い人と泥棒しかいない!」

 

 ウルトラマンティガが、テメエの悪事を暴く!

 

「ぐ……そんなカマかけ回避できるわけないだろ……!」

 

「ウルトラマンは悪を見逃さないんですよ、泥棒さん」

 

「頭大丈夫かよ?」

 

 泥棒に頭の出来を心配される謂れはねえよ死ね。

 

「どけっ!」

 

「ぎゃっ」

 

 押されただけで突き飛ばされる自分が憎い! もっと身長と体格欲しかった!

 くそがっ喧嘩も強くなりたい。

 って、泥棒が百城さんと山森さんがいる方に向かった!

 

「危ない!」

 

 その瞬間。

 

 何気ない動きで、百城さんは、視線を近くの窓に向けた。

 

「―――」

 

 やべえ、なんだ今の。

 

 所作一つ。

 動作一つ。

 小さく手を動かし、姿勢の向きを動かし、目を自然に見開いて、耳を澄まさないとよく聞こえないくらいに小さく声を漏らす。

 それだけで、百城さんは窓の外に()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 泥棒に足を止めさせ、窓の外に顔を向けさせた。

 逃げようとした泥棒は、百城さんを見た瞬間"そこに何か恐ろしいものがいる"と思ってしまい、そちらに顔を向けてしまった。

 俺でさえ、一瞬窓の外の方を見てしまったほどだった。

 

 『パントマイム』。

 説にもよるが、2200年以上前から存在する演劇の基本にして、肉体の芸術と呼ばれるもの。

 口を使わず、体の動きだけで何かを魅せる技だ。

 

 例えば特撮の世界では、スーツを着て演じるスーツアクターはアクションだけでなく、これができなければならないとされる。

 ()()()()()()()、だ。

 仮面ライダーは仮面を被ったまま、子供に微笑む演技をしないといかん。

 ウルトラマンはスーツの変わらない表情で、弱りきった弱々しい姿を見せなきゃならん。

 怪獣の身振りで人間のような感情表現をさせるのパントマイムだ。

 

 表情や視線で何かを表現することも許されず、体の動きで口で語るに等しいことをし、観客に情報と感情を伝えなければならない。

 それが、日曜朝のスーツアクター達がずっと背負ってきた義務だった。

 

 百城千世子は今、それをハイエンドレベルでやりやがった。

 

 少し体を動かし、少し演技をしただけで、人を操った。

 まるで、ドラマで演技をして視聴者の心を奪うように、泥棒の心を意のままにした。

 何をすれば、それを見た人間の心がどう動くか、そこまで把握できてこその大女優。

 一秒の演技が、泥棒の足を完全に止めた。

 

 俺から見て左側の窓を見て足を止めた泥棒の視界の死角を縫うように、俺から見て右側の壁に跳びつき、壁を蹴り跳んだアキラくんが、泥棒の背後から空中回し蹴りを叩き込んだ!

 倒れる泥棒!

 取り押さえるアキラ君!

 

「っ!」

 

 あれは! ウルトラ仮面32話の三角跳びからの空中回転蹴りのシーン!

 ウルトラ仮面はあれで怪人を地面に転がしたんだ!

 

「……ふぅ。こんなものか」

 

 かっけえぞウルトラ仮面! 日曜朝に子供に夢を与える動きだ!

 

 そして思わず、俺の口から言葉が漏れた。

 

「思い知ったかコソドロ、これが日曜朝のヒーローの力だ」

 

 思わずどやっと笑んでしまった。

 

 山森さんが俺の服の裾を掴んで、なんだか不思議な表情で話しかけて来た。

 

「朝風さんが敬語以外を使ってるところ、初めて見ました」

 

 ……。

 

 やべっ、うっかり。

 

 まあいいや。

 俺やっぱ、俳優さん好きだわ……俺にできないことをサクっとやるとこ特に好き……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺はバカだ。

 自分基準で色々考えすぎてた。

 『素人考え』をもっと計算に入れておくべきだった。

 自殺してえ……ああ、なんつーこった。

 

 泥棒をふんじばって、俺達はスーツの場所を聞き出した。

 曰く、この泥棒は駐車場に細工した車を用意して、回転扉天井やらクッションを仕込んだそこにスーツを投げ落とし、何着も一気に盗むつもりだったらしい。

 四階から三階に移動したのは、投げ落とすのに相応しい位置の窓がなかったから、三階に移動してから投げ落としたんだそうだ。

 スーツが見つからないわけだ。

 

 そして、ふんじばった泥棒に案内させた先で見つけた、車のクッション上のゴジラは。

 

「……ボロボロだね」

 

「あああああああああああ」

 

 見事に悲惨なぶっ壊れ方をしていた。

 

「な、なんでこんな……スーツはこんくらいの高さなら大丈夫って聞いてたのに」

 

「お前ー! お前なー! 俺の知り得る範囲でこんななー!

 硫黄や炭素すら加えてないミキサー練りしてない生ゴムスーツにんな耐久性あるかッー!」

 

 生ゴムに千切れ難さはない。

 生ゴムに硬さはない。

 生ゴムに経年劣化耐性はない。

 

 生ゴムに硫黄などを加えて弾性限界を劇的に引き上げる加工法を『加硫』って言うが、当然昔のゴジラスーツにそんな気の利いた加工なんてされてねーよ!

 

 つーかな!

 鉄骨とかの"重い骨"が使われてるスーツは落下によえーんだよ!

 "軽い骨"が使われてるスーツでもなきゃ骨も折れるわ!

 見ろよこの全身複雑骨折状態のゴジラをよォ!

 

「おま、おま、それでなんで、バーニングゴジラのスーツの仕組みは知って……」

 

「え、だってネットでネタにされてたから……

 いいじゃんこんくらい。昔の特撮の人って人の命とかどうでもいい悪人だったんだろ?」

 

 しまいにゃ殴るぞこのコソドロ野郎!

 

「うるせー!

 危険なスーツでも昔の人は扱いミスったことは無いんだよ!

 仲間を危ない目にあわせたくて、そういうスーツ作ったんじゃねえんだよ!

 だから死人出てねえんだよ!

 皆最高の映像作った上で、皆揃って全員で一緒に完成した映画を見てえんだよ!

 スーツで意図的に人間を危ない目にあわせたお前が偉大な先人達の同類ヅラすんな殺すぞ!」

 

 映画を見る人達の笑顔のためなら、最高のスーツを探求することを躊躇わない人達が、危険なスーツを着て危険な撮影に挑むことを躊躇わない人達がいた。

 

 そうだ。だから子供の頃の俺は、真似し始めたんだ。

 

 あの人達の生き方を。

 

「ふふ、英二君が素の自分出すのって随分久しぶりじゃない?」

 

「……これは、すみません、お見苦しいところを見せてしまいました」

 

 うぐ、また礼儀のなってない話し方しちまった……なんかちょっと楽しそうだな百城千世子!

 

「あの、元気出して……」

 

「朝風君はこういうの本当に嫌いだろうからね……心中察するよ」

 

 歌音ちゃんとアキラ君の優しさが胸に染みるわ。

 

「俺、警察に突き出す時に、あなたが壊したゴジラのスーツの制作費言っときますね」

 

「おいやめろ」

 

 やめねえよ。

 

「どうしましょうかね、ここから……」

 

 あーやだやだ俺思考停止してる。めっちゃショックだ。

 

 

 

「君が直せばいいんじゃないかな?」

 

 

 

 ……百城さん。

 軽く言ってくれるな。

 いや、でも、うん。

 

「直しちゃいなよ。君の本職でしょ?

 探偵ごっこなんかよりずっと君に向いてることだよ」

 

 できない、とは言いたくない。

 

「そうですね、やります。これを使うスターズの展示会イベントまでには必ず間に合わせます」

 

 アリサ社長が俺によこした仕事は、泥棒を見つけて、完璧な状態のスーツをスターズの下に取り戻すことだ。

 俺の仕事はまだ終わってねえ。

 仕事は、最後までやらねえと。

 "奪還"じゃなくて、"修理"って形で、元のゴジラを取り戻す。

 

「やっぱりさ、物を作ったり直したりしてる時の方が、君はいい横顔してるよ」

 

 ……むっ。なんかめっちゃやる気出てきた気がする。

 

 まずはそうだな、解剖だ。壊れたとはいえ当時の再現スーツ。

 このゴジラの亡骸を解剖して分析して、当時の製法技術を正確に吸収させてもらおう。

 スーツの修理はそっからだ。

 

「そういえば3式機龍は、ゴジラの死体から作ったメカゴジラだったかな。

 朝風君のここからの作業は、そういう意味では機龍作成に近いかもね」

 

「アキラさんの今の一言で俺のやる気は十倍になりました」

 

 やるじゃねえかアキラ君!

 

 

 

 

 

 ようやっと完成した初代ゴジラの1号スーツは、信じられないくらい重いスーツのせいで動きがめっちゃ緩慢だったが、百城さんと一緒に元気にイベント会場を回っていた。

 よかったよかった。

 やっぱゴジラはいいな。

 百城千世子もいい。

 並んで歩いてもけっこうサマになる。

 

 良いものと良いものが絡んでるのとても良い。俺はそう思うのだ。

 

 

 




 千世子ちゃんが英二君をコントロールして現在の好感度を2倍くらいにすると

「千世子………君との思い出は、数えるほどしかないけど……
 君を思い出させるものは、数え切れないぐらいある。
 そして……なにより君の笑顔が忘れられない。
 遅いかな? 今頃になって言うのも……
 俺は…俺は…俺は君が好きだった! 君の事を大切に思っていた!
 ヂヨゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」

 とか言うかもしれませんし言わないかもしれません
 いや言わねえな

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