「すまない、マリア。待たせてしまったな。」
「いいえ。気にしなくていいわよ、翼。早く行きましょう。」
パヴァリア光明結社との戦いから2か月ほどが経ったある日、マリアと翼は休日のショッピングへと足を運んでいた。様々な洋服やアクセサリーを手に取り、どれが似合うかとお互いに着せ合う。昼過ぎには新しく開店した話題のレストランへ、そして日が傾き始めるころには映画鑑賞。その感想を話し合いながら夜の街中を散歩する。
「......ア、マ......ア、......マリア!」
「へ!?あ、あぁ、ごめんなさい。サインだったわね。」
「どうしたのだ急に、ぼうっとして。」
「いえ、なんでもないわ。遊び過ぎてちょっと疲れたのかしらね......?」
道中、正体がばれてしまい、数人の女子高生にサインを書いていたところ、マリアは集中を欠いたのか、長いこと棒立ちしてしまったらしい。普段凛としている彼女であるものだから、これもまた良いファンサービスだろうか、などと翼は考えていた。そして、当のマリアはというと、気が付かされた今でさえ、何かをその瞳で追っていた。
そう...ふわり、と揺れる栗色の後ろ髪を......
「......ッ!」
突如マリアが走り出す。後ろ髪を追って人混みをかき分け、さらに追いかけていく。まるでマリアを誘い込むかのようにその後ろ髪はゆらり、ゆらりと距離を離してゆく。その少女が奥の路地へと入り込もうとした瞬間、風がなびく。髪は搔き上げられ、その横顔が露わとなった。艶のある栗色の髪、透き通るような碧眼、自分によく似た顔立ち。そのときマリア・カデンツァヴナ・イヴは確信していた。いや、確信せざるを得なかった。心の中では克服した、頭でも理解している。しかし、過去の記憶がどうしても彼女の脳裏にちらつかせる姿がある……
「セレナッッ...............!!!!!!!」
「おい!どうした!マリア、大丈夫か?」
「セ、セレナが、、、いたわ。」
「セレナが?何を言っているのだ。お前の妹ならもう何年も前に......」
「申し訳ないが、他人の空似だろう。今日はもう帰ってゆっくり休もう。」
「ええ、ごめんなさい。やっぱり疲れているみたいね。でも、不思議だわ。本当によく似ていたの、あの子に。」
「髪や目の色だけじゃない、顔立ちも。ちょうど、あの子が今生きていれば、きっとあんな感じだったはずよ。本当に、本当によく似ていたの......」
そうこうしているうちに栗毛の少女はどこかへと姿を消してしまったようだ。はたして、彼女はセレナに似ているだけの少女だったのか?マリアの頭の中はただその問いだけが支配していた。