♪-旋律ソロリティ-
「セレナ...今、今度こそ貴女を救うわ。」
「たとえクローンでも、セレナはセレナ、アタシたちの大事な仲間デス!」
「うん。絶対に...連れて帰る。」
-どこからだろう? 声が響く 立ち上がれと 言っている
いつからだろう? 鼓動が打つ 勇気を掲げ今......-
「「「明日へぇぇぇぇぇぇええええええ!!!!!」」」
クイーン・ノイズの傷口からぼろぼろと分離し崩れ落ちるノイズ。肌を伝うように流れ落ちてゆく様はまるで涙のよう。果たしてそれは賭けた理想を呑まれたセレナの涙か、それとも人への憎しみを忘れぬノイズの涙か。巨大な咆哮を上げ、それは3人を迎え撃つ。
-自分よりも相手を-
アガートラームが切り開く。
-信じることをしたくて-
イガリマが切り払う。
-上手くは難しいけど-
シュルシャガナが切り墜とす。
-教える背を追って 弱さを断ち切ろう!-
3人の連携に為す術もなく倒れゆくノイズ。人間を巧く、確実に仕留めるよう教育された彼らにとって、たった3人。僅かな人間にこれほどまでに蹂躙されるのは恐ろしい光景であった。シンフォギアに背を向け死ぬもの、同じノイズを庇い死ぬもの。
しかし、倒れゆくときは皆必ず一つの願いを胸に切られる。セレナを、ノイズの女王を覚醒させるのだと。たとえそれが彼女の意志でなくとも人を滅ぼすために心を通わせた身。で、あれば...
-強さの 理由に 溺れ足掻いて 闇に飲まれてた ちっちゃなカラダに 未熟な心-
再び咆哮を上げるクイーン・ノイズ。3人は負けじと声を張る。互いに叫び合う。セレナはこちら側のものだと。お前たちには渡さないと。
-「頑張れッ!」 って言葉 ちゃんと受け止め 答えて行きたい
キ ・ ズ ・ ナ!旋律にして
歌に束ね ぶち抜け空へ-
「切歌!調!あれをやるわよ!!」
「了解(デス)!!」
-涙しても拭いながら 前にだけは進める-
3人が空高く飛翔し、空中でマリアを中心として右肩に切歌、左肩に調が手を乗せ、マリアはアガートラームをクイーン・ノイズへ向けて構える。
ガントレットに打ち込まれた聖剣は強く輝き出し、翅のようにフィンを広げる。
-傷だらけで 壊れそうでも 「頑張れッ!」が支えてる-
「あれは...ホライゾンキャノンか?」
「いや、違う。よくみてみろ、雪音。」
「アガートラームに3人乗力が集まっていく...」
-高くは 飛べない ガラクタ それでも踏み出す-
「後ろ!」
「だけは!!」
「向かない!!!」
イガリマのバインダーとシュルシャガナのコンテナが巨大化し、左右に大きく開く。
それは巨大な羽を携えた不死鳥の如く、輝き、光の粒子を放つ。
「ぜ!・っ!・た!・い!・にぃぃぃぃぃいいいいいいい!!!!!!!!!」
【TRINITY✞SPARKLE】
アガートラームの切っ先へ光が収束し、巨大な一閃を放つ。クイーン・ノイズの装甲を溶かし、抉り取る。三位一体の技が貫いた先にはセレナの顔が。どうやら意識は残っているようで、再びもがき始める。それを諌めるようにノイズが彼女をクイーンの中へ取り込もうと絡みついてゆく。
「マリア!今(デス)!」
「セレナ!こっちへ来なさい!貴女にはまだ話すことがたくさんある!貴女とやりたいことがたくさんある!貴女に見せたいものがたくさんある!確かに人間は馬鹿で愚かよ。もちろん私達のような力を持ったものでも。でもね、それでも人間なんか滅びればいいなんて、そんな事絶対に思えないくらい幸せなことで世の中は溢れているわ!」
「でも......でも、私はもうそっちへは戻れない!...もう決めたのだ!人を滅ぼすと!一度決めた!実行した!ここまで来たら、もう完了させるしかないじゃないか!」
「違う!そんな事ないわ!私は覚えている。貴女と過ごした日々を。幸せを知っている貴女の顔を!あのときだって、血を流しながら貴女は人を守ろうとした!あのときの貴女のギアを、思いを受け継いで私は今ここにいる!守ると決めた誰かの、愛の盾に!貴女のその思いを受け継いだ私とこのギアならば!今、貴女をも救ってみせる!」
「貴女がまた利用されそうになったら私が守る!誰かに傷つけられそうになったら私が守る!全部、全部守る!貴女の身も、心も...」
「私が!!守る!!!だから、迷っているのなら、少しでも心が揺らぐなら、助けを請いなさい、セレナ!!!!」
思いの丈をすべてぶつけるマリア。妹の一瞬の心の迷いを彼女は見逃さない。セレナ・カデンツァヴナ・イヴが結局はノイズの憎しみに利用されていたことを、本当は心の底から人間を憎んでなどいないことを、彼女は確信していた。
「...m、マ...マリア姉さぁぁぁぁん!!!!!」
顔をくしゃくしゃに歪め、ようやく本音を叫んだその声が姉の元へと届くのはいとも容易かった。
「セレナァァァァァァアアア!!!!!!!!!!」
【SERE✞NADE】
聖剣を今度は逆手にガントレットへと打ち込み、ブースターが火を噴く。
加速、加速、更に加速。ノイズが彼女を呑み込む前に、撃ち抜く。
セレナを抱えたままクイーン・ノイズを貫通し、激しく着地する。すると、力を維持する核を失くしたためか、ノイズが崩れ落ちてゆく。
「セレナ、止めを刺すわよ!」
「はい、マリア姉さん!」
セレナは右手を、マリアは左手をクイーン・ノイズへ向け、互いに両手を握り、セレナのガングニールを構える。二人のガントレットからフィンが広がり、白銀と漆黒、二対の光が放出される。
「すまない、マリア姉さん。私、ノイズに騙されていた。たしかに人間への恨みは持ったし、本気で殺してきた。でも、今になって理解できた。あの、ネフィリム起動実験の事故があった日、それでも人を守ると、愛の盾になると決めていたことを。」
「良くはないわ。貴女のやってきたことは。それでも今、私と、私達とここにいる。私だって、人を殺したことはあるわ。だから今、正義を信じて、貫いて、償っている。貴女もこれからは私達と共に償うのよ。その罪を。大丈夫、天は、神様はしっかり見てくれているわ。」
「ありがとう。じゃあ、まず、最初の償いは...」
「クイーン・ノイズを、倒すことよ!」
「「とどめぇ!!!」」
【VICTORY✞KADENZ】
白と黒の光が混じり合いながらクイーン・ノイズへと放たれ、最後の咆哮を上げながらそれは崩れ落ち、消失してゆく。
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「や、やったぁ!マリアさんと、セレナちゃんが!」
「ふふっ、流石だな。」
「ああ、よくやったぜ。」
「セレナ。」
改めて妹の名を呼ぶ。きっとその声色はあのときのままで、今、彼女にそのように聞こえるように。
「ありがとう。私に、私達に応えてくれて。貴女はノイズの女王なんかじゃない。私は信じていたわ。」
「な、なぜ?」
「ふ、ふふっ!ふふ、くふふふ!!」
「ほんと、おかしい(デス)。」
「な、何がおかしい?!」
「だって、あなた、昔の私達にソックリなんだもの!」
「相手の善を信じないあたり、頑固な調に似てるデス!」
「勢いで大技に出るあたり、考えなしの切ちゃんに似てる。」
「結局、優柔不断で自分の正義を信じられなかったあたり、私に似ているわ。」
「な、何だそれは。わ、私がそんなわけ無いだろう!」
「なんだか、セレナに反抗期が来たみたいで楽しいデスね。」
「うん。とっても意外。」
まあまあ、と、これ以上からかうことを静止しつつマリアは問いかける。
「セレナ、これからどうするの?貴女さえ良ければS.O.N.G.に来ない?きっと司令も許可してくれるわ。シンフォギア奏者が増えるんだもの。同情じゃない、貴重な戦力として貴女を迎えたいのだけれど...」
「いや、私はいい。さっきは共に償う、なんて言葉に惹かれはしたが、まずはこの世界を色々見て回りたい。今まで暗い研究所で生きてきた身。人の愚かさ以外、まだ何も知らないのさ。」
「そう、じゃあせめて門出の餞ぐらいはさせて?」
「わかった。だが、それが終わり次第私は行く。姉さんが言っていた世の中の幸せを、人間の良いところを探したい。それがわかって、自分の罪の重さを知ってから、そのときからは私はシンフォギア装者として、力を存分に振るおう。」
「それじゃ、帰りましょう?セレナ!」
「はい!マリア姉さん!」
黒いガングニールの少女は凛とした瞳と、満面の笑みで応えた。栗色の艷やかな後ろ髪を風になびかせ、その足取りはふわり、ふわりと姉の影を踏む。
なぜだろうか、ノイズたちと記憶をかわしたときは、過去のセレナが憎しみに満ちた血涙を流していたというのに、今、記憶の片隅で彼女は笑っている。誇りに満ちたその眼差しを解する日まで、姉がその思いを継いだように、いつか自分も愛と正義を掲げたいと、そう胸に刻み朝焼けの中に溶けていく。
『戦姫絶唱シンフォギア-カデンツァの系譜-』完