暇潰しに見てやってくれると、ありがたいです。
「──最近妹の様子がおかしいんだ」
「へー、そうかい」
「いやもっと興味向けろよ。冗談じゃないんだ」
「はあ、さっきから話切り出そうとして黙ってたから何かと思えばいつものシスコンじゃないか。はいはいお前の妹可愛いよというより美人だよ」
「確かに俺の妹が可愛いというより美人系で、超ふつくしいことは否定しない。だが今回ばかりは少し話が違うんだ」
「へー、どの辺が?」
「……目が怖いんだ」
「……お前の妹は少し気の強そうな顔をしてるが、そういうことじゃなくて?」
「ああ、なんというか……少し冷静でないように感じた。そもそも話は昨日の夜に会長の話を出したことなんだ」
「会長って……風紀委員の? お前役員だもんな。何かの拍子に話題に上がってもおかしくないだろうな」
「あぁ、俺も昨日風紀委員の仕事で帰るのが遅れたから、夕飯の時にその話をしたんだが……会長の名前が出た途端──スー、って表情が消えたんだ」
「それは……まあ嫉妬してたんじゃねーの? 兄妹仲良いからなお前ら」
「俺も気のせいだと思ったんだが……今日の朝はやたら触ってくるし、一緒に学校来るときも今日の予定を根掘り葉掘り聞かれたし……終いにはほら、弁当の海苔がハートマークな次第だ」
「お、おう。それは……まあおかしい、か。他に何か変わったこととか無いのか? 昨日じゃなくて最近のことで」
「いや、昨日以外は……いや、待て」
「何だ、歯ブラシが新品にでも変わってたか?」
「何故分かったんだ」
「何で気付かねーんだよというかそれを真っ先に言えよ! 普通疑問に思うだろそんなん!」
「いや結構使ってたし、てっきり妹が気を利かせてくれたのかと思った。……普通にありがとうって言ってしまったんだが」
「…………他には?」
「あとは……そう、下着も何枚か新しくなったな。同じメーカーの同じやつだけど着心地が違った。そういえば今日の朝飯もいつもと味が微妙に違ったな、ちょっと血みたいな味がした。指を切ったのかと思ったけど手に傷なんて無かったし……あと部屋の本棚にも小さいカメラが置いてあったな。丁度ベッドの方を向いてた気がするが、忘れ物かと思って返してしまった」
「一杯心当たりあるじゃねえか。てゆうか心当たりしかねーじゃん!」
「気のせいかと思った」
「気が付けよヤンデレの数え役満じゃねーか……間違いない、お前の妹はヤンデレだ」
「ヤン…………だと…………?」
「中国人かよ」
「そのヤンデレとは一体全体何なんだ。病気か? 主な症状と兆候は? 医者に行くべきか?」
「取り敢えずお前の危機感の無さは脳外科に見てもらってこい。ヤンデレは……まあある種の思いの形、になるのか? 『思い』というか『重い』というか……まあ、簡単に言えばお前の妹は、お前の事が好きすぎて変な方向にねじまがってんだよ」
「具体的には?」
「他の女がお前に近づくのが嫌とか、お前の存在を感じられないと不安になるとか、いっそお前の一部になってしまいたいとか、もしくはお前の事をずっと見ていたいとか……そういう屈折した愛情の形を、ヤンデレって呼ぶんだよ。まあ中には『彼に恋する自分が好き』とか『手に入らないならいっそ殺したい』とか、かなり危ない趣向が混じってたりするがな。要は精神的に病み気味ってことだ」
「それは……大丈夫なのか? 妹は……俺はどうすればいい?」
「物分かりの良さ凄いな、シスコン過ぎだろ……まあ幾つか対処法は存在する」
「教えてくれ親友、俺はどうすれば良い? どうすれば妹を戻してやれる? 教えてくれよ親友……
「安易に鉄血ネタに走るなよゴロ悪いわ。……一つ目の対処法としては──無視することだ」
「却下だな」
「即決過ぎんだろ」
「俺が妹を無視するなんてことはあり得ん。例えそれが小さな変化で、アイツにとって不都合なことでも俺は無視なんかしない。家族を無視なんて出来ない」
「そこまでは言ってねーよ……まあ俺もこの対処法は愚策だと思ってるから、別にいいけど。要はヤンデレっぽい部分に対してだけ鈍感になって欲しかったんだが、お前はそういうの気付かないだろうし、そもそも無視すると悪化しそうだしな」
「他には何か無いのか?」
「二つ目の対処法としては、お前自身がその事を指摘して注意することだ。……ぶっちゃけこれもオススメしない」
「? 何でだ?」
「反応が怖い。断言しても良いが、ヤンデレに対してそれを指摘して注意とか批判とかしても意味無い、というか逆効果なんだよ。それを第三者が言うなら未だしもお前が言うとなると……お前の両親まだ帰ってこねーの?」
「あぁ、まだアメリカだ。あっちの方で何かの事件に巻き込まれたとかで、今月は帰って来ないだろう。一応解決もして、先週電話がきた」
「だとするとお前以外の近しい人間に言って貰うのは無理、俺もあの子とまともに話したのなんて中学生の時くらいだろうし……妹なら同じ一年のクラスだった気がするけど、アイツ俺に対して冷たいからそれも難しい」
「くっ、俺は……無力なのか!」
「……三つ目の対処法は、あるにはある」
「それは何だ親友! 勿体振ってないで早く言え!」
「冷静になれよブラザー、
「お前みたいな弟がいた覚えなんか無い」
「そこはノッとけよ……まず先に言っておくが、これはある意味奥の手だ。状況を打開する可能性を持ってはいるものの……あまりに先例がない。つまりは相手の出方が予測できないということだ。綿密な打ち合わせと、お前のアドリブが試されることだろう。そして何より……お前は本気になれるか?」
「──ああ、なれる。妹のためなら、俺は何だってしてやれる」
「……フッ、やっぱりお前は筋金入りのシスコンだよ。OKだ、それなら俺も協力してやる。親友の頼みだからな」
「……ありがとう、我が友よ」
「気にすんな、何時ものことだろ?」
「──それで、俺はどうすれば良いんだ参謀。お前の言う、妹を助ける三つ目の対処法は、一体何だ?」
「至極簡単な事で初歩的な問題提起だ、ワトソン。愛が重すぎるが故に歪んだ方法で行動をする大事な人……確かにキョウイ的だ。驚きあきれ果てるほどに驚異的で、震え上がるほどに脅威的だ。だがな友人、確かに相手の行動は読むのが難しいだろう……しかしそれは相手も同じことだ。お前の妹も、お前の出方が分からない以上、ある意味打つ手は少ない。なら、ここですべきは定石外の一手」
「ヤンデレにはヤンデレ、つまりヤンデレ返しだ」
「──最近の兄さんの様子がおかしいのよ」
「はぁ、そりゃまたどうして?」
「ありがとう、話に乗ってくれる友人を持てて私は幸せよ」
「目の前で思わせ振りに手を組まれたら誰だって気になるよ……それで? お兄さんがどうしたって?」
「貴方を妹にした覚えなんかないわよ」
「そこはノッてよ……で、何があったの?」
「……ちょっと目が怖いのよ」
「へぇ、確かにお兄さんは結構切れ目だけど……そういうのとは違くて?」
「ええ、違うわ。何時もの兄さんが目付き悪いけど根は優しい系主人公だとすれば、昨日からの兄さんは目付き悪くて闇を抱えていそうなダークヒーローよ」
「結局は主人公なんだ」
「当然でしょ? 兄さんが主人公じゃなかったら私はヒロインやってないわよ」
「ちゃっかり自分のことヒロインにしちゃうのかー」
「……話を戻しましょう。昨日の、夕御飯の時よ。珍しく兄さんが料理をしたいって言うから一緒に作ったのだけれど……私、その時緊張し過ぎて指を少し切ってしまったの」
「それは珍しい。容姿端麗眉目秀麗、難攻不落にして金剛不壊のヒロイン様が得意の料理で失敗なんて」
「ええ、本当に迂闊だったわ。いきなり後ろからあすなろ抱きされたから……危うくを壁に包丁を刺してしまうところだった」
「それは……何て言うか、珍しいね? お兄さんあんまり自分からボディタッチとかしないと思ってた」
「ええ、いつもはしないわ。だから驚いてしまって……しかもその後、かなり慌てて……こう、パクって」
「指を?」
「いえ、左手ごと」
「豪快に食べられてる!?」
「ええ、しかもかなり傷口を舐められたわ。まるで血を啜るように……全く、落ち着きが無いったら」
「で、本音は?」
「超興奮したわ」
「興奮するんだ……」
「その場で左手を舐めそうになったのを止めたあの時の自分を誉めたいくらいよ。……そのあとキチンと手を洗ってから消毒させられたから、結局嘗められなかったけど」
「お兄さんファインプレーだなぁ……でも、確かにちょっとおかしいね。お兄さんそんなにアクティブだった?」
「いえ、どちらかと言えばもっと天然というか……とても真面目なのに、何だか変な方向に突っ走ってしまうタイプだから、少し気になって……今朝もいってきますのキスも積極的にしてきたし、登校するときも今日の予定をかなり詳しく聞かれたし……あと私の口から男の名前が出る度に、無表情になるのよ」
「色々ツッコミたいこと満載だったけど……それは嫉妬なんじゃ?」
「……そうなのかしら。兄さんは私のこと、ちゃんと見てくれてるのかしら」
「お兄さんは君の事をちゃんと見てるよ。目に入れたって痛くないくらいにさ」
「さすがに目に入るのは……兄さんが言うなら頑張るけれど」
「……君、お兄さんのこと天然って言えないんじゃない? ……で? それだけ?」
「……これは、少し確証は無いのだけれど……私の下着が、二枚ほど無くなってるの」
「なにそれ怖い」
「あと、歯ブラシも新品の物に変わっていたし、妙に私のこと抱きしめてきたり、監視カメラに手を振ってくれたり……考えてみればとてもおかしいわね、兄さん」
「気付いて、君の発言の中におかしな物が混じってることに気付いて」
「それで……私ちょっと気になって聞いてみたのよ。何だか今日の兄さんは変な兄さんね、って」
「……それで?」
「顎クイされて、『お前は俺に着いてくればいいんだ』って言われてはぐらかされわ」
「ちょっと危ない雰囲気が漂って参りました」
「私はあまりの嬉しさに参ってしまってたわ」
「上手いこと言ってるんじゃないよ」
「それで……私はどうすれば良いのか分からなくて……最近は、ちょっと積極的になろうかなって思って、貴方から貰った恋の指南書を参考にしていたのだけど、この反応は載っていなかったから」
「あぁアレ……いや待って、アレが指南書なの? 私がたまたま読んでた『気になる彼のハートを鷲掴み! ─選ばれたのは包丁でした─』を参考にしたの!? 」
「まさに天啓と言っても過言では無かったから……最近はちょっと面倒な女の子とか人気らしいじゃない?」
「それが罷り通るのはフィクションの世界だけなんじゃ無いでしょうか」
「どちらにしろ路線変更はしたくないわ。既に賽は投げられたのだから」
「もう匙を投げて真っ正面から告白しに行った方が良いんじゃない?」
「それは……ちょっと、恥ずかしいじゃない……」
「今までの行動は恥ずかしくなかったんだ……」
「毎朝キスするくらいなら小学生からやってるわ」
「友人の知られざる日常を垣間見てしまった私はどうすればいいのでしょうか」
「笑えば良いと思うわ」
「まさかのエヴァネタ!? てゆうか見てるのエヴァ!?」
「兄さんあれでアニメとか好きだから自然とね……だから何らかの策を講じて欲しいのよ我が子房。このままでは持たないわ、主に私が」
「何か勝手に劉邦に使えた名軍師にされてるんだけど……一応持たない理由を聞いても良い?」
「至極簡単で初歩的な回答よ太公望。あの距離感の兄さんがこのまま続いたら私ちょっとヤバイわ。凄いヤバイ。具体的には兄さん押し倒してそのままゴールイン目前よ」
「勝手に中国周の時代の名軍師にされた挙げ句酷い理由だったよ。……もうそれで良いんじゃない? ほら、ゼクシィあげるから、何か凄いピンクでちょっと引きそうな婚姻届の付録ついてるのあげるから」
「何で結婚関係の雑誌持ってるのよ……一応貰っておくわ」
「あぁいるんだ……」
「それで理由だけど……ほ、ほら、やっぱり段階って必要じゃない? まずはこう、ちょっとお洒落なお店で将来を誓ったり、もしくは海の綺麗な海岸で夕焼けを見ながら……とか、必要じゃない?」
「リアルにそれを求めるのは難しいよ……何でそんなに乙女脳なのかなこの子は」
「い、良いじゃない。兄さんの脳内では理想的な女の子でいたいじゃない」
「お兄さんがそれを求めてるか甚だ疑問なんだけど……まあ、何? ここで止めるのもアレだし、やっぱりヤンデレ路線で良いんじゃない? 反応も別に悪い反応じゃないみたいだし」
「それは……そうかもしれないけど、でもこのまま現状維持は私としてはちょっと難しいわ。自制できなさそう」
「……………………じゃあ、もうアレだよ。ここまで来たからにはアレだよアレ」
「一体全体どれの事なのよ。指示語しか無いじゃない」
「あーもう、あの本に書いてあったでしょ? 最初やって反応が無かったらそのままごり押し、嫌な顔されたらちょっと引いて優しめに。それで反応が予測できてなかったら」
「第三の選択──ヤンデレ度を上げる」
「おいテメェクソ野郎話が違うじゃねぇか」
「ちょちょちょちょ待て待てって! 出会い頭に胸ぐら掴むなマジで怖いんだよお前のキレ顔は!」
「こっちはそれどころじゃないんだよ。家帰ったら妹が包丁片手に出迎えてきたぞ治ってねぇよむしろ悪化してるじゃねぇか」
「えーマジかよ。絶対いけると思ったんだけど。ヤンデレ行動を進行させつつあすなろ抱きとか妹ちゃん特攻だと思ったんだけど」
「ふざけんなテメェ妹が何かの拍子に怪我したらどうすんだ」
「そこ心配する辺りさすがのシスコンだよお前は。……結局その場はどうしたん?」
「取り上げようかと思ったがハイライト消えた目でふらふら寄って来て危なかったから包丁は弾き飛ばした。壁に刺さったが無傷でなによりだった」
「やっぱすげえよミカは……そして結局壁は犠牲になったのか……哀れ壁」
「全く……お前に聞いた俺が馬鹿だった。やはり俺がどうにかしないと……机の上にゼクシィ置いてあったし……くそ、どうすりゃ良いんだ……」
「……昨日から聞いてみたかったんだが……お前は何が不満なんだ?」
「はあ? 何が?」
「妹ちゃんのことだよ。……お前もさすがに気付いてんだろ、彼女のお前に対する思いくらい」
「…………」
「まあ、兄妹で恋愛なんてそうあることじゃないだろうが……一応ほら、二年くらい前にそれも法改正して大丈夫になったろ?」
「知ってるよそのくらい……一夫多妻に一妻多夫、近親結婚からGLBT、もしくはその他諸々あらゆる愛の形を許容する……今の首相が立ち上げた公約が達成されたことだろ」
「そうそれ。当時は日本未来に生きてんなーとしか考えなかったけどよ、今のお前にはかなり関係してくるんじゃ無いのか?」
「そんな事言ってもなぁ……今さら妹を恋愛対象とは見れないんだよ、俺は」
「ならこれから見てけばいんじゃねーの? どうせ好きな人とかいないんだろお前」
「まあ、いないが……」
「お前は真面目すぎんだよ。ほら、ためしに妹の事を思い浮かべてみろよ。ぶっちゃけ好みかどうか考えてみ?」
「そう言われても……まあ、確かに、容姿は俺の好み……か?」
「じゃあ性格は?」
「…………うん、まあ悪くない。……いや寧ろドストライク?」
「じゃあ想像してみろよ……お前の隣に妹が立ってる。それも立ってるだけじゃなくてお前の腕を取って、それも上目遣いでお前を見てるんだ。お前はそれに対してどう返す?」
「俺は……もしそうなら……妹の頭を……」
「恋人だったら?」
「……………………色々危ないかもしれん」
「さあ、どうだ? 見える世界が変わったんじゃないか?」
「……ああ、そうだな。お前の言う通りだったよ。俺は頭が固すぎた、どうしようもないくらい頑固で、最も身近にいる大切な存在に気付けなかったんだ。ありがとう、さっきは怒鳴ったりして悪かったな」
「気にすんなよ、俺とお前の仲だろう?(やっぱチョロいなコイツ)」
「──見て、来たからには勝つのは道理。教えてくれよシャーロック、俺は次に何をすべきだ?」
「難しいことなんて何もねーよ、昨日と同じだ。だが今のお前は昨日とは違う、ならそこに込められる意味も思いも増していく。つまり」
「──倍プッシュだ」
「一体どう言うことよ話が違うじゃない」
「えっちょ何止めて襟掴まないで制服延びちゃうー!」
「これで兄さんも冷静になるとか言うからヤンデレ度上げたら、昨日は指輪について話してきたわよ嬉しすぎて話す前に気絶したじゃないどうしてくれるの全くもうぅぅぅぅぅぅぅ!!」
「あーちょ、ガチ泣きは止めてよ周りからの視線が痛いって。ほら、そんな顔じゃお兄さんに心配されるよ?」
「……泣いて、ないわよ」
「(ホントに泣き止んだよこの子は……)あーほら、ある意味結果オーライじゃない? お兄さん絶対気になってるって。絶対恋愛対象として見られてるって」
「……そうかしら。一昨日なんて包丁弾き飛ばされた勢いで押し倒されたのに、怪我の心配しかしてくれなかったわよ?」
「そりゃあ、怪我してたら大変じゃん? お兄さんなら例え何があっても君の安全を心配するよ」
「……私は、もう子供じゃないのに、兄さんはずっと心配ばかりしてて……私だって兄さんのために色々したいのに……」
「具体的には?」
「……………………性処理?」
「台無しだよ! 何かそこそこ良い話だったのに台無しだよ!」
「それはさておき、やはり兄さんも少しは本気になってくれたのは分かったわ。以前よりも私の顔を見つめる時間が延びたような気がするの」
「立ち直り早いなぁ」
「今日なんかクラスの話をしたら『話をしたのか……俺以外の男と……』なんて言って壁ドンされたもの。まあ、ちょっと目が血走ってて怖かったけれど」
「で、本音は?」
「凄い興奮したわ」
「興奮したんだ……」
「自分で言うのも何だけど、私ちょっとMよりなのよ。その後股の間に膝入れられたまま『お前は俺とだけ話してれば良いんだ』って言われてつい勢いで『は、はいぃ!』って言っちゃったもの」
「何だかヤンデレから離れていってる気が……」
「もう今日から兄さん以外の男子とは筆談でコミュニケーションを取ることにしたわ」
「君、クラス委員長じゃなかった?」
「スマホ使えばどうとでもなるわね」
「マジでやる気ですよこの女……」
「さて、それじゃあ策を練りましょう。私は次にどうしたら良いかしら? 教えて頂戴、孔明先生」
「何時から私は三國時代のヤベー奴になってしまったんだ……というか自分で考えようよ、何で私にアドバイス求めてるのさ」
「まあ、それは私も考えていたのだけど、やはり先達に習うというのはどの世界でも常識だと思うのよ」
「え、なに? 私先輩になってるの? 君の中で私はカップルの伝道師みたいになってるの?」
「いえ、そっちじゃなくて……その、最近までは報われなかった恋についての先達よ」
「はあ?」
「あなた、自分のお兄さんのこと好きじゃないの?」
「は、はあぁぁぁぁ!!?? な、バカ何言ってんのよ! 何で私がお兄のことなんか好きなわけないじゃん!!」
「ちょっと煩いわよ、周りの迷惑も考えなさい」
「さっきまでガチ泣きしてた人が言うことか!」
「だってあなた、そもそもあの指南書持ってたのもあなただし、ゼクシィ『禁断の兄弟愛』特集号持ってたのもあなただし、私の話聞いてホッとしたような顔してたし……やっぱり、仲間がいるのは安心するわよね」
「あ、あれはちょっと気になっただけっていうか……ていうか私のことはどうでも良いの! 君のお兄さんの話でしょ!」
「ええ、そうだったわね。献策を頼めるかしら」
「…………やることなんて一つしかないよ。結局、君の戦いに必要なものはそれだけで良いんだ」
「逃げず怯まず──ゴリ押しだ」
「何? 妹が空鍋に火をかけていたって? 逆に考えてみるんだ──具材を放り込めば良いんだと」
「え、睡眠薬効かなかったの? おかしいなぁ部長が使った時は三日くらい寝てたんだけど……」
「はぁ? 手錠? 持ってるが……いや、理由は聞かないし聞くな、俺にも欲しいものはあるだけの話だよ」
「……それで? 二人とも手錠用意したから仲良く二人で着けたと……それ意味あるのかなぁ」
「ほう、なるほどサプライズねぇ……良いだろう、誕生日くらい骨を折ってやる」
「へぇ、それでその髪止め貰ったから、サプライズ返しをしたい……いいけど、それもうあの指南書関係無くなっちゃわない? 別に良い? あ、そう」
「そういえばお前進路どうすんの? ……政治家はなっても意味なくなったから銀行員目指す? まあ安定してるしいんじゃね? 大黒柱(予定)は大変ですこと」
「お兄さんの勉強を手伝いたい? 夜の? あぁ、そっちじゃない……いや、今のは君のせいだから、絶対違うから笑うなこのヘタレめ」
「クリスマスに、デートに誘いたいと。いい加減さっさと告白すれば色々楽になるだろうに……これ以上好感度上げても変わんねーだろ」
「お正月に両親に話をしたい? そもそも付き合えてないのに親に話通しても意味なくない? 何でここまで来て日和っちゃうかなー」
「バレンタインにハート型のチョコと……髪の毛も血も入って無いし、妹ちゃん絶対忘れてんだろうなー。そういうところお前そっくりだよな。本当マジ天然」
「ホワイトデーに焼きマシュマロ一緒に食べたと……なんかレベル下がってる気がする。まあ、君が良いなら良いんだろうけどさ──本当にずっとこのままでいたいの?」
「──さて、今日は卒業式な訳ですが……やっと決めたのかよ遅すぎだろマリカーなら強制退場レベルの周回遅れだぞ。……まあ、頑張れよ。俺もそろそろ終わらせなきゃだし、お互いにキチンとしなくちゃな」
「──ふぅん、そっか。今日呼ばれてるんだ。まあ、その、何? 頑張んなよ。結局私は何もしてないけど……それでも友達の幸せくらいは願ってあげるからさ。フラレたら慰めてあげるよ。……あり得ない? ははっ、それなら宜しい」
「悪い、ちょっと遅れた。待ったか?」
「ええ、かなり待ちましたよ。兄さん」
「……こういう時は、今来た所です……みたいな事を言うのがお決まりだった気がするが」
「それを言うには普通男性側ですし、それなら兄さんが私より先に来てる必要がありますよ」
「そうか、なら、遅れて悪かったよ」
「ええ、分かってくれれば良いんですよ」
「……………………」
「……本当に、待ってたんですよ?」
「そうか……どのくらいだ?」
「そうですね……三年くらい、でしょうか」
「そんなにか?」
「兄さんは気付いてなかったかも知れませんが……私はずっと兄さんの事を見てたんですよ? 朝起きてから目で追って、ご飯を食べるところとか、お友達と喋ってるところとか、風紀委員の仕事してるところとか……私の事を、あんまり見てくれていないところとか」
「……そうか」
「だから私は色々と拗らせて……あんな変な事をしてたんですよ?」
「悪かったな……でもそのお陰で、俺は気付けたよ。俺一人じゃ無理だったけど、ちゃんと気付いて……俺もお前を見ることにした」
「……ふふ、そうですか。それで、兄さんから見た私はどうでしたか? 遅れた罰として感想を求めます」
「すげぇタイプだった」
「……そ、そうですか。それなら、その……頑張った甲斐があったようです」
「思えばお前はいっつも綺麗だったしな。最初なんか、良いなぁと思っただけだったけど、それが俺の為だと分かったら堪らなく好きになった」
「へ、へぇ」
「後ろから抱いたときも良い匂いしたし、手錠かけて一晩過ごした時なんかすげぇ暖かかったし、勉強してる時も、一緒に家で過ごしてた時も、クリスマスにデートした時も、正月を二人で過ごした時も、何時だってお前の事を見てたんだ」
「そ、そんなにですか?」
「あぁ、こんなにだ。お前が俺を三年も見てくれていたように、俺はこの半年お前をずっと見てた」
「……兄さんって、ちょっとヤンデレですよね」
「三年も見てくれてたお前には叶わないよ」
「…………」
「俺は……高校卒業して、大学に行くために家を出る。別に家から通えない訳じゃないし、この学校にも近い所に住むつもりだ。これは俺の我が儘で、家を出ることで少しは両親に自立した所を見せたいだけの、俺の虚栄心だ。
──俺はお前の事が好きだ。
お前の髪が好きだ。手で触るとお前の匂いがして、ずっと顔を埋めたくなるようなお前が好きだ。
お前の顔が好きだ。何時も気丈な顔してて、でも恥ずかしがるとすぐに赤くなるようなお前が好きだ。
お前の手が好きだ。何時だって俺の手を繋いでくれた、ずっと握っていたくなるようなお前が好きだ。
お前の心が好きだ。何時だって優しくて、そのくせちょっと臆病で、それでも、自分の幸せの為に一生懸命になれるお前が好きだ」
「だから……俺と付き合ってくれ。一緒に笑って、一緒に怒って、一緒に泣いて──一生を俺と生きてくれ」
「…………やっぱり、兄さんはちょっと病んでますね。さすがにこれは重すぎですよ」
「自覚はある。でも止めたりはしない。これが俺の本心で、俺は心からお前を愛してる」
「もう……私で良いんですか? 妹ですよ? 少し前に法改正しましたけど、それでも後ろ指を指されるかもしれませんよ?」
「そんなこと俺は気にしない。俺が大好きなお前といられるなら、俺は何だってしてやれる。お前が気にするなら、その時は俺が胸を張って自慢してやる。良いだろう、俺の最高の嫁だって」
「父さんと母さんには何て言うんですか? 私は……怖くて言えませんでしたよ? 貴方達がお腹を痛めて産んだ子供が、社会的に良くないことしてますよって言うんですか?」
「あぁ、言ってやる。二人の子供が馬鹿なことやって、それでも笑顔で生きていたいと願ってると」
「私は………………そんなに良い子じゃないんですよ? 狡い子なんですよ? 情緒不安定で、兄さんが誰かと喋る度に嫉妬して、兄さんの部屋にカメラ仕掛けて安心したり、ご飯に私を混ぜて優越感に浸るような、そんな気持ちの悪い女の子ですよ?」
「全部受け入れるよ、お前のことなら。お前がどんな女でも、俺はお前を好きになったんだから。その代わり、俺も容赦しないぞ。俺もかなりヤバイからな、もう自重しないからな。
それでもお前はいいのか? 俺といたいか?
お前は、俺と生きてくれるか?」
「──はい」
「私みたいな……不束な妹で宜しければ」
「俺も、お前以上に不束な兄だよ」
「それでも、ずっと私といてください。
二人で笑って、泣いて、怒って、後ろ指を指されても胸を張って、父さんや母さんに怒られても笑って、ずっと、ずっとずっと、私と一緒に生きてくれますか?」
「……任せろ。頼まれても離したりしない」
「……うん、私も、離してあげないから」
これはきっと、そんな簡単なお話。
二人の男女が恋に落ちて、幸せになる話です。
兄妹物、結構好きです。