あらすじ
魔 王 降 臨
レックスたちがアルストから転移したその時、同時にとある陵墓もまたこの世界に招かれていた。
その陵墓の名前はナザリック地下大墳墓。その持ち主であるモモンガは慎重であった。
かつてユグドラシルにおいて最強であると自負していたギルドも、もはやメンバーは自分ひとり。NPCが自ら考え、行動する異世界において未だ負け知らずでいることはできないだろうと考えていた。
ナザリック内で今自分ができることを確認した後は、外にいる生物のレベルを知る。そのために彼はアイテムボックスから《遠隔視の鏡/ミラー・オブ・リモート・ビューイング》を取り出し、幾重にも防護呪文やアイテムを消費してまで安全を確保した上で周囲を探索する。
「うーむ、このあたりの生物はどれもユグドラシルの初心者エリアで見た覚えがあるな。欲を言えば狩りをしている姿を見れば本当の実力もわかるのだが」
ユグドラシルにおいて、対象のレベルや職業構成を知る魔法はない。レベルに関して言えば、PvPを愛するプレイヤーであれば理由がない限りレベル100にしている。職業構成は「簡単に知れるようだったらゲームとして面白くないだろう」というのが運営のスタンスだ。ネタがすぐにバレてしまう環境であれば、弱点の少ない職業、種族で固めるプレイヤーばかりになってしまうだろう。未知だらけの世界を作り上げたおかげで、いわゆる「変態構成」が生まれる余地があるのだ。
だがモモンガからすれば、そんな一発屋の「変態構成」でキルされればたまったものじゃない。レベルダウンこそあるものの、リスポーンが可能であることが知られているユグドラシルではFPSのように「命が軽い」が、異世界に来た今、その常識は疑ってかかるべきだ。鏡に見えるモンスターが初心者用の弱いモンスターに見えて実はレベル150だったら、ゲームなら喜劇でも、その結果起こるのは
これまで《遠隔視の鏡/ミラー・オブ・リモート・ビューイング》を駆使して見えたのはいずれも低レベルのモンスターとモブにしか見えない人間のみ。人間については《農家/ファーマー》であろう者たちが、たかだか水が入った木桶を運ぶのに汗水たらしている時点で、危険を感じる必要もないと判断した。
「セバス、何時間たった?」
「4時間と38分になります」
「おお、もうそんな時間か(骨の体になってから疲れを感じなくなっているなぁ)。だがなにも成果がないというのも味気ない。なら5時間まであと22分頑張るとするか」
はじめこそ変化した使い方にあたふたしたものだが、コツを掴んでからは意のままに操れる。部下が働いている中で何もしないのは社会人としての心が痛む。だから、キリが悪いからという雑な理由で操作を続行した。その勤勉な願いが通じたのか、あるものを視界の端に捉えた。
「ん、森のなかに見かけない色合いのものが。拡大して・・・ッ!?」
もはや反射と言っていいほどの反応速度で今まで座っていた椅子から飛び退いた。
そんな主人の姿を見てすぐさまセバスも応戦体勢をとった。
「プレイヤーだ、カウンターに気をつけろ」
「承知いたしました、命を賭してもモモンガ様をお守りいたします」
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だが想定していた探知に対する反撃魔法は来ない。防御が間に合ったのかと鏡に掛けられたアイテムを確認したが、消費された様子はない。
「おかしいぞ・・・さっき見た限りでは10人ぐらいいたはずだ・・・そこまで大人数なら探知阻害役も用意するのが普通だ」
「あれがプレイヤーですか?」
「そうだ。青、黄、赤とずいぶんとまあカラフルで統一感がない。全体的に露出度が高く、派手だ。村にいた人間とはずいぶんと違うと思わないか?」
「私もそう思います」
リアル志向のゲームを除き、ユグドラシルのようなDMMORPGにおいては、一定のレベルを超えたあたりから地味な服装ではなくなってくる。
より個性的に、絵になるキャラクターになりきるため、生活感のない色合いの服やアクセサリーがドロップするようになる。
たいがいそういったアイテムのほうが性能がいいので、暗殺者RPなどの特定の事情がない限り、高レベルプレイヤーは独特のファッションになっていくものなのだ。
鏡の中推定プレイヤーたちは剣を振り回し、苦もなくモンスターを狩っていく。彼らの動きはモモンガにも追えるものであり、相手のモンスターはモモンガが危惧したような高レベルモンスターの擬態でもなかった。それは幸いだが、今度は彼らの物差しになるモンスターが見当たらない。
「よろしければ私が偵察に行ってまいります」
「バカをいえ、おまえたちは全員大切なギルドメンバーの作った子どもたちだ。どんな間違いがあっても俺のミスで死なせたとなったらあの人達に顔向けできない。全員戦士の軍団とかいうネタパーティだったおかげで我々は気づかれずに観察を続けられるんだ。気長に待とうではないか」
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あれから監視を続けたものの、カウンターが発動する気配はない。監視を続けていたら最初ははセバスだけだったが、続けて見ているうちに俺に会いたいという守護者が集まり、さながら映画上映会のようになってしまった。
「ふむ、奴らは拠点を持たずに転移してきたか。この村を住処にするために恩を売っているということか」
「彼らは良いプレイヤーなのですね」
「人間に良いも悪いもあるのかしら?」
「いるでありんしょう、いい声で鳴く人間こそいい人間でありんす」
「その意見には同意するよシャルティア、人間は食料として潰す以外にも、その悲鳴には価値があるものだ」
「強イ人間デアレバイイ。弱イ者ハ不要ダ」
これは・・・守護者たちの人間に対する価値観が見えてくるな。やはりカルマ値が低い連中の発言にはトゲがある。それに俺たちアインズ・ウール・ゴウンは元々異業種PK(プレイヤー・キラー)する人間に対抗する、異業種だけで構成されたPKK(プレイヤー・キラー・キラー)ギルドだった。もしかしたらその意志が受け継がれているのかもしれない。
「おまえたち、人間種を軽視するのは許そう。だが強者は違う。自分を殺す実力のある相手に油断してかかるのは愚か者のすることだ」
「申し訳ございません、モモンガ様」
多少の意識改革をしていかないと余計な敵を作ってしまいそうだ。モモンガは自分の心のメモ帳に意識改善をメモした。
「さて、奴らの話だな。私はこいつらをプレイヤーだと思っていた。だがよくよく考えてみると、そうではない可能性もあるのだ。なぜそう思ったのかお前達にわかるか?」
ざわりと守護者達の間にどよめきが生まれる。理解できないというよりは混乱か。今まで俺がプレイヤーだと言っていたからそう信じていたのに、自分の口からまた否定されたからか。あまり不用意に断定するとNPCの考えを狭めてしまいそうだな。
プレイヤーではないという理由について聞いているのは、情報の偽装こそ醍醐味だったユグドラシル時代では、相手の作戦について逐一ギルドメンバーで意見交換していた名残だ。自分の考えが間違っている可能性もあるし、よりよい対抗策がその会議の中で生まれることも多々あった。だからこそ彼らにもギルドメンバーと同じく、考えて発言させることで戦術眼を養ってほしいという意図もある。まあ、軽くアルベドやデミウルゴスと話した時にこいつらの頭やべーと思ったから、自分の意見を補強しようとしたのが一番だが。
「それでは私からよろしいでしょうか」
「いいぞ、話してみろデミウルゴス」
「はい、彼らは撒き餌であり、プレイヤーが使役する守護者であるとお考えになったと私は愚考します」
「続けよ」
「モモンガ様が当初彼らがプレイヤーであると判断されたのは、彼らが傭兵モンスターの様な汎用的な見た目ではなく、それぞれが特徴的な装備をしているほか、召喚モンスターのように一定時間後に送還されることを前提とせず、村人との交流や食事を重視していることから判断されたのだと思います」
うわー、俺の考え全部どころかそれ以上深掘りしてる。俺は見た目で判断してたけど、生産活動とか人間種だったら必須だもんな。「あいつはスーツ着ているからお金持ちだ」みたいな事言おうとしてた。
「しかし彼らがプレイヤーであるとすれば、情報系の魔法に対して全く無防備であることが不可解です。位置が筒抜けであれば、超々遠距離から超位魔法を放つことすら可能だ。命が惜しくない狂人であるならば話は別ですが」
「フル装備のわらわであれば耐え切ってみせるでありんす」
「それはシャルティアが前衛職だからでしょ?私やマーレが食らっちゃったら相当ヤバイし」
「仮に彼らが全員前衛職だとしても被害は甚大になる。プレイヤーが11人もいてなぜそこまで偏ったパーティになったのか、相手が馬鹿という結論しか見出せませんでした。しかし、モモンガ様の深遠なる叡智によってもたらされた助言によってようやくその謎が解けました」
「それは彼らが干渉を受けることを前提としているから。彼らに監視対策を持たせない代わりに、彼らの行動を後ろから観察させる者を用意した、そうでしょう?」
自分の説明に横槍を入れられたデミウルゴスはムッとする。だが、彼女も愛する主人のためにアピールしたいのだろう、そう思って素直に引き下がることにした。
「私の姉さんは探知魔法のスペシャリストで、一日の長がある。話を聞いたことがあるのですが、探知魔法の対策には、探知した相手を攻撃する攻勢防御、そもそも探知に引っかからなくする隠蔽の他に、そういった探知魔法をトリガーにする魔法を使わず、囮を見張るだけにとどめておき、引っかかった者が周囲に現れたら広範囲攻撃を浴びせるという戦術があるらしいのです。曰く、自分が探知されていることを知る手段は多くても、自分が見ている場所が誰かに探知されているかを知る手段は少ないが故に生み出された戦術とか」
そうそう、だから目に見える召喚モンスターに手を出すときは自分の姿を見せないという鉄則が生まれたんだよな。
「そういえばペロロンチーノ様から一度そういった罠に引っかかったことがあると聞いたでありんす。なんでも探知アイテムで「えろモンむす」を見つけたらしく、飛んでいったら「運営に見つからない様に上から見たときだけ絵が見えるように加工したハリボテ」だったらしく、その場に着いたら焼き払われそうになったと。人間はペロロンチーノ様を害するためになんと卑劣な手口を使うでありんしょうか」
「ペロロンチーノォ!」
お前、そんな間抜けな話聞いたことないぞ!昔からあるゲームに出てくるエロ本に群がる兵士みたいなことしやがって・・・あ、沈静化した。
というかNPCは異世界に召喚される前の会話を覚えているのか、あとで確認しないと。
「ま、まぁアルベドの言うとおり、彼らのお粗末な耐性はそれで説明がつく。そしてNPCが外を出回れるようになったことでプレイヤーと誤認させる行動を取り、手を出させようとしたのか」
なんだろう、怒りがこみ上げてくる。精神抑制に引っかからない程度に苛立ちが溜まっている。この感情の正体はなんだ。
手を出させる・・・後ろにいるプレイヤーは自分が作り上げたNPCが傷ついてもいいと思っているのか。どうでもいいと思っているのか。彼らは生きているんだぞ。でも、生きたまま、捨てられている。
「どうして・・・どうしてそんなことができるんだ!」
玉座の間に自分の声がビリビリと響き渡る。理由がわかったことで感情が爆発して、精神抑制で逆に冷静になった。不快な気持ちはそれでもなおじわじわと心を蝕む。だがそれでも周りを見る余裕はできた。
守護者たちが青ざめた顔でガタガタと震えながら跪いている。彼らに対して怒ったわけではないが、俺も上司が苛立っているときにそれが自分に向かってくるのではないかと思うと、職に就ける人間が少ないリアルであれば命取り。ここまでではなくとも恐れるだろう。
「すまん!お前たちのことを怒っているわけではないんだ!むしろその反対だ!俺はお前たちを見捨てない!絶対に捨て駒になんてするものか!」
「モモンガ様・・・」
「お前たちはギルドメンバーの忘れ形見のようなもの。この世界にくるまでは懐かしいという気持ちしか浮かばなかった。だが、今やお前たちと話し合い、一緒に作戦を立てられる。わかったんだ、アルベドはタブラさんの、シャルティアはペロロンチーノの、アウラとマーレはぶくぶく茶釜さんの、デミウルゴスはウルベルトさんの、コキュートスは武人建御雷さんの子どもだと!」
「俺は、お前たちと家族になりたいんだ!」
あたりはしん、と静まり返る。言いたいことを言ったら、今になって恥ずかしくなってきた。なんだよ、いい年こいて家族になりたいとか熱弁しちゃって、これで笑われちゃったら一生引きこもっちゃいそうだ。
うっ、うっ、と、声が聞こえる。声をだすことは失礼に当たると思いながらも、歓喜を目に留めることはできない。こらえきれない思いは涙となって守護者たちの顔を歪ませた。
「あ、ありがたき、しあわっ、せ・・・!!
オォォ・・・ナント、慈悲深キ、オ方!」
「モモンガ様っ・・・!さらなる、さらなる忠義を尽くさせてもらいます!」
「お、おう・・・期待しているぞ」
あーん、と親からはぐれた子供のような泣き声さえ聞こえてきた。もはや鑑賞会に移る気力もなくなってきた。鏡の中彼らはしばらくは動きもなさそうなので、休憩がてら転移して席を外すことにした。
悪役ムーブした理由まで行きたかったけど、脇道にそれてしまいました。
感想、評価ありがとうございます!