あらすじ
レックスを見つけたモモンガ。彼らのことを囮に使われたNPCだと考えた彼は激昂した。
あの後いたたまれなくなったモモンガは自室の椅子で本を読んでいた。もっともそれはただの気分を落ち着かせようとするポーズであって、実際のところ内容はほとんど頭の中に入ってこなかった。
何か悪いことしたかなぁ・・・またあの中に入っていくの気まずいなあ。
そう思い始めたころ、セバスが「大変見苦しい姿を晒してしまいました」と謝りに来た。自室に転移してからわずか5分後のことである。
(はやっ)と心の中でツッコミつつも威厳たっぷりに「わかった。続きを見に行こう」と今一度観賞会に戻ることにした。
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モモンガが戻ってきた頃には、周辺の村を荒らしていた騎士とレックスが戦っていた。しかし彼らが現地住民と比べてある程度強い程度の情報しか集まらなかった。その後、王国戦士長、ガゼフ=ストロノーフと名乗る者と会談をしていた。武術の心得があるセバスは「およそ30レベルぐらいと推測されます」と話していた。それも結局「王国と呼ばれる国はその程度の戦力を重要な役職につけている」程度の情報しかない。
彼がこの村に来たのは周辺を荒らしていた騎士が現れたとの情報を聞いてのことだが、それは彼を呼び寄せる罠。彼らはすでに包囲されているということで、それらをなぎ倒せば立て続けに起きていたイベントも終了かな、と思っていた。
「モモンガ様、よろしいでしょうか」
「デミウルゴスか、なんだ?」
「はい、モモンガ様は彼らに介入するタイミングを図っている様子。シモベの出撃準備は整っております」
「(仕事早っ。これが有能な部下を持った上司の気持ちか)わかった。だが、せっかくどこの誰だかがこの世界の情報を集めているのだ。利益は最大限に活かさないとな」
NPCを外に出せるようになって、一人の時よりも格段に打てる手の数は増えた。だけどそのためには身を守るためのアイテムが必要だ。
攻撃を受けた時だけ消費するタイプだけでは心もとないから、使うことで一定時間守れるタイプも併用しなければ、大切なギルドメンバーの子供と言える彼らを傷つけるかもしれない。
それを考えれば無一文でほっぽり出されたような彼らの処遇には同情する。だが、ノーリスクでリターンを得られるこの機会を逃すわけにはいかない。
時が過ぎれば、陽光聖典と呼ばれる集団が彼らとガゼフを襲っていた。陽光聖典はいずれもユグドラシルでは第三位階魔法相当の召喚魔法によって生み出される天使を従えていた。特段容姿に代わりもなかったが、隊長格と思われるものが召喚した天使はわずかに強かったのかもしれない。
モモンガたちはいずれもレベル100。その域に達している時点で、たとえ乱数によってきまる召喚モンスターのパラメータが最大化されるタレントでも、第三位階程度の術の強さがどうこうとかわからないのだ。
特に苦労もなくバッサバッサと天使をなぎ倒していることから、奴らはレベル50以上かなぁとぼんやり考えていたが、突然陽光聖典の隊長が〈魔封じの水晶〉を取り出し、おもむろに使ったかと思えば、中から出てきたのはまた天使、それもレベルにすれば70から80といったところか。
「なんてもったいない使い方だ。だがようやく面白そうな相手を出してきたじゃないか」
「わらわであればあの程度本気の装備をだすまでもないでありんす」
「彼らが役不足であるならば私が行ってまいります」
「君たち、手柄が欲しいからといってあまりがっついてはいけないよ。我々はモモンガ様の手足。「行け」と命じられたその時動けばいい。引きしぼられた弓であればいい。だが、その時になって出来ませんでしたでは済まされませんよ?」
デミウルゴスがそう言うと、シャルティア、アウラ、コキュートスはいそいそと配下の者たちに準備を整えるように伝えた。なんだか大ごとになっちゃったなあとモモンガは思っていたが、もはや止めろとも言い難い。そんな微妙な気持ちになりつつも、ようやく奴らのレベルを測れる「ものさし」が現れたことに感謝していた。
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「へぇぇ、あの人たち前衛と後衛に分かれて戦ってますね」
「前衛は戦士で、後衛は武器に力を送るなんてへんな戦い方でありんす」
「私たちの中にそんな戦い方するのがいないだけで、人間の中にはそんなやつらもいるんじゃない?」
「確かに戦闘中に武器を生み出すスキルはありますが・・・」
「見て。後衛が姿を変えた時に前衛の持っていた武器が変わっているわ。たぶんそれぞれの姿に対応する武器を渡すことで状況に対応している」
「うむ」
確かに前衛の中でもヒーラーを担当していたネコミミの少女が武器を持ち替えて相手の攻撃を防いでいた。その時々で後衛のバフを受けてステータスを変化させてロールを変化させるなんて・・・そりゃあ魔法対策なんて考えてない変態ビルドなだけあるな。回復役にヘイトが溜まって集中攻撃されてもあれで防御を固められれば、その隙にアタッカーがダメージを稼ぐ。
それだけ言えば強いビルドに聞こえるが、現実は違う。
まず、相当のプレイスキルが必要だ。戦う前衛とステータスを変化させる後衛の二人一組を前提としている時点でもはやおかしい。いつ防御すればいいのか、周りに回復を必要とする者がいるのか、余裕があるから攻撃するべきなのか、それらを相手の様子をうかがいながら意思を合致させなければならない。最初は後衛が召喚モンスターで前衛がコントロールしていると思ったぐらいだ。まあ俺だったらそんな無駄なMPの使い方はしない。
「奴らは・・・(ゲームキャラクターのロールプレイのことをどうやって説明すればいいんだ?)あー、こういう戦い方をするように設定されたNPCなのだろう。おそらく、何らかの・・・そう、物語に出てくる登場人物を再現したんだろう」
「物語の登場人物の再現といえば、かつてペロロンチーノ様が苦しめられたと言われた相手もそうであったでありんす」
「ほう、ペロロンチーノ様を苦しめるまでの強さを持った相手とは、是非とも対策したいところだね。シャルティア、もっと詳しく教えてくれないか?」
そんなことがあったのか!ユグドラシルでかつてのゲームを再現するロールプレイヤーの9割は、再現のために無駄な職業をとったりするせいでまず勝てないんだよな。でも残り1割のキレッキレの変態は、プレイヤースキルがワールド級に高かったりシステムにマッチしてたりして、新しい戦術がそこから生まれることもザラにあったりした。
今なお人気の高いゲーム会社の看板キャラクターを模倣して、本人曰く、「飛翔《フライ》に使用するMPがもったいないからジャンプ力にステータスを割り振って、飛び回りながら火球《ファイアボール》を投げつける」という戦術でユーザー主催のロールプレイヤー限定大会で優勝したやつもいるぐらいだ。無論それは牽制による詠唱キャンセル、ジャンプによる攻撃の回避、時に格闘攻撃を織り交ぜて翻弄するといった圧倒的なプレイヤースキルの元に成立した強さであり、だれにも真似できなかった。チートを疑ったプレイヤーによって特定され、彼のキャラクター名ではなく、本名から「フルダ戦法」のほうが定着したのは笑えた。
「私にもそのプレイヤーについて教えてくれないか?」
「はい、ペロロンチーノ様は『努力は認めるが、なぜもっと攻めないんだ!』とおっしゃり、服を少しずつ削り取っていったのですが、その相手もろとも「あかばん」によって消滅されそうになったと」
「へぇ、相手に手を出させて強烈なカウンターをするタイプの相手かしら。遠距離攻撃に対しても対抗できるとすればかなり厄介ね。・・・どうなされたのですか、モモンガ様?」
「ペロロンチーノォ!」
あ、沈静化した。
「はぁ・・・その話はもういい。お前たちが心配する必要はない」
「彼らと天使との戦闘が始まってから3分ほど時間が経っております」
「もうそんなに経ったの、セバス?こいつらあの程度の相手に手こずりすぎ。モモンガ様が退屈しちゃうでしょ」
「あの、きっと、この人たちはレベルが低いんだよ、お姉ちゃん」
「私のような盾役でもレベル70の天使相手なら1分でカタがつくわ」
「防御寄りの構成だとしてもあれだけの数を揃えてこうなのだから、つまりそういうことなのでしょう」
ユグドラシルにおいては、レベルが10離れていれば基本的に「相手にならない」。
デス・ナイトのように特殊能力によって一撃を耐えることが出来ても、それ単体で勝つことはあり得ない。
逆に言えば、互角の戦いをしている両者のレベルの差は10以内に収まるということ。
しかも1体に対して複数だ。レベル60から70、高くてもせいぜい75止まり。
「よし、突入するぞ。たとえMPを別のことに割り振っても奴らに我々を傷つける手段はないだろう。プレイヤーの痕跡を持つ陽光聖典とやらを捕らえるぞ」
「ですがモモンガ様はあれは囮だと言ったでありんす。姿を見せるのはよろしくないのでは?」
「バカねシャルティア、モモンガ様が何の策もなしに行動すると思っているの?」
「ふっ、これはユグドラシルでも使われたことのある手垢のついた戦法だ。種が割れていればどうということはない。せっかく用意してくれた戦力だ、派手に行くぞ」
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「それではモモンガ様、手はず通り15時、1分後に転移門《ゲート》を開くでありんす」
「わかった」
魔法持続時間延長化《エクステンドマジック》という魔法強化系のスキルがある。その名の通り、魔法の効果時間を伸ばすものだ。バフやデバフに使う他、条件反射、カウンター系の魔法にも使用できる。モモンガが常日頃かけている探知阻害魔法にはこれを使っている。
だが、最強の魔法を永続的に使うことはできない。効果時間が続いている間、MPがどんどん目に見えて減っていくからだ。当時のプレイヤーはそこに目をつけた。
「魔法遅延化・探知対策《ディレイマジック・カウンターディテクト》」
探知対策に対する対策をしていたとしても、それは永続的に使用するためどうしても格が落ちる。
遭遇戦であれば、相手の探知対策も永続化するために相殺できるだけの威力にとどまるため、問題なかった。
「魔法遅延化・魔法抵抗難度強化・現断《ディレイ・ペネトレートマジック・リアリティ・スラッシュ》」
だが、それが万全な用意をしたものであれば?当然受けきれないだろう。戦術からして見破られているならば、それを防ぐ手立てはない。
「魔法遅延化・魔法三重化・隕石落下《ディレイ・トリプレッドマジック・メテオフォール》」
モモンガは魔法遅延化の効果時間を完璧に把握し、狙ったタイミングで発動させることができるほどの廃人プレイヤーだ。その技量を持ってすれば、転移する瞬間に探知対策を発動して相手の座標を特定し、その1秒後に発動するように設定した魔法を当てることができる。
「時間です」「転移門《ゲート》」
「行くぞ、っと、まだ天使を倒せてなかったのか。仕方ない、魔法最強化《マキシマイズマジック》」
タイミングを図りながら、ゆっくりを足を進めて。
「暗黒孔《ブラックホール》」
どうだ、ロボットはロボットらしく、俺とスマブラしないか?
メリークリスマース!はーっはっはっはっはー!