そしかい後 2   作:とましの

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第1話

ある秋の晴れた日。土曜日だと言うのにランチタイムに突入すると社会人たちが世話しなく来店して食事を済ませようとする。そんな彼らのほとんどが今日はコーヒーとパスタを注文していた。

 

ホットコーヒーと梓さん特製カラスミパスタ。

 

梓さんは気づいていないようだが、彼女にはファンが多いらしい。

 

世話しなく働きランチタイムが過ぎると一気に客足が減る。そろそろ休憩をと考えていた僕の頭上でバタバタと物音が聞こえた。

皿を洗う手を止めた僕のそばで梓さんが笑う。

「毛利探偵事務所にお客様でしょうかね」

「蘭さんはまだ高校でしょうから、そうでしょうね」

 

さて名探偵を失った毛利探偵にどんな依頼がやってきたのか。僕は軽い好奇心とともに天井を見上げた。

 

すると聞き慣れない関西弁とともに店のドアが開かれる。

 

「のんきに飯食うとる場合か!」

「いらっしゃい」

 

にぎやかな友人を引き連れて来店した工藤君に僕は笑顔を向ける。

すると工藤君はやけに嬉しそうな顔で指を二本立てた。

 

「ミックスサンド三人分と安室さん、頼めます?」

「ミックスサンドはこちらでお召し上がりで?」

「テイクアウトっていうか、博士のところで食べようかと」

 

工藤君が嬉しそうなのは事件の予感がするからか。彼はコナン君だった頃も殺人事件などを前にして楽しげな顔を見せる子だった。

その精神構造を一度専門機関で調べてみたいくらいだ。

 

僕はミックスサンドの準備をしながらカウンターに座る工藤君を目にした。工藤君の背後には不機嫌な様子の学生が立っている。

 

「彼は友達かい?」

「西の高校生探偵で服部って言うんだ。おい服部、こっちは安室さん。俺の……あー、兄貴みたいな? とにかく誰より頼れる人だよ」

 

工藤君はどういう意味合いで僕を頼れると説明しているんだろう。ここでの僕は毛利探偵の弟子という肩書きしか使えないんだけど。

 

ほんの少しの不安を隠しながらミックスサンドを作った僕はそれを包んでカウンターへ置いた。

そこで梓さんから後は大丈夫だからと告げられた。

 

「あの有名な高校生探偵から頼られるなんて凄いことなんですからね」

 

どこか嬉しそうなの梓さんに見送られてエプロンを脱いだ僕は店を出る。

 

「それで? 今日はどんな問題を持ってきたんだい?」

「実は……」

 

そこで不意に工藤君の真剣な表情が向けられる。そのため僕も自然と緊張感を手にしていた。

 

「先週のテストの結果がボロクソ過ぎたんやと」

「はい?」

 

服部君から告げられた予想外の発言に僕は目を丸める。すると工藤君は肩をすくめて見せる。

 

「テストの日にたまたま近くで事件があって、学校サボってそっちに行っちまったんだよ。それを知ったこいつがグチグチと」

「アホか。おまえ今まで休学しとったせいでいろいろ遅れとるやろ。成績ぐらいは高いとこ維持しとらんと休学から留年になってまうぞ」

 

話を聞けばそれは高校生らしい平和で他愛ないものだった。しかもどうやら工藤君は服部君がいると態度から丁寧さが抜けて高校生らしい姿を見せる。

 

そんな彼らの様子を眺めながら僕の脳裏にはかつての友人たちの姿が浮かぶ。

 

今の僕がいるのは友人たちのおかげだ。彼らなしでは今の僕はあり得ない。もしかしたら生きていなかった可能性すらある。

だがその誰とも……。

 

「安室さんは赤……」

 

瞬間、思案をかき消した僕は工藤君へ目を向ける。

 

「点なんて取ったことないですよね」

「ん?」

「だから赤点」

 

別の何かを連想してしまった僕の目の前で工藤君が微笑んでいる。

そんな工藤君に服部君が「そうそうおらんやろ」とつぶやいている。

でも僕は彼らの言葉に笑顔を向けて曖昧に返した。

「どうだったかな? 昔のことだから忘れちゃったよ」

「あははは、ですよねー」

「だから工藤君の赤点対策とやらの役には立てられないと思うよ」

 

工藤君が何を考えて僕と関わろうとしているのかはわからない。だけど役に立てる事はないだろうと、念を押すように告げる。

でも工藤君はなぜか「大丈夫です」とうなずく。だけどやはり僕には彼の言いたい意味がわからなかった。

 

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