「ふざけんな。ここはこれを使って解くんだろ」
「ああ? おまえ何抜かしとんねん。ここはこっちを使うて解かな遠回りになってまうやろアホか」
高校生ふたりが激しく意見をぶつけ合う脇で僕は手元の新聞紙に目を落としていた。
テストをサボって事件解決に貢献した工藤君は、サボったことで赤点となってしまった。このままでは留年となってしまうからと、僕は呼ばれたはずだ。
だが阿笠博士の家で怪盗キッドの予告状なるものの話を聞いたとたんに話が変わった。
工藤君はテスト対策を放棄して服部君とともに暗号解読に精を出している。
高校生名探偵と言われるふたりがかかれば暗号などすぐに解けるだろう。だが僕はこの怪盗が狙っているという宝石が気になった。
「月の光を浴びると宝石の中に女神が浮かび上がる。話としては面白いかもしれないけど、非科学的だわ」
新聞紙を眺める僕のそばで宮野志保が嘆息を漏らす。
「僕の記憶が正しければ、この宝石は5年前にアメリカで盗難被害に遭っている」
「でも戻ってきたんでしょう? だからこうして持ち主が来日して怪盗キッドの予告状を受けた」
宮野志保の話に耳を傾けながら僕は軽く頭を巡らせた。
この話は僕には関係のない事だ。だが公安として新しい任務もないし、工藤君に手を貸すのも良いかもしれない。
むしろ僕は怪盗よりも宝石の持ち主に興味があった。
「シェリーに聞きたいんだけど、工藤君を小さくさせたあの薬はまだ残ってるかな?」
「あるけど……どうするつもりなの?」
「潜入は僕の十八番だけど、その薬があればそれがもっと簡単になるからね」
僕の記憶が間違っていなければ、宝石「月光の女神」の持ち主であるアメリカの富豪は子供が好きだったはずだ。そのためこれまでも恵まれない子供への援助などいくつも慈善事業をしていた。
だとしたら大人よりも子供の姿のほうが懐に入り込みやすい。
そう考える僕だけど、そこまで彼女に説明する義理はない。
「悪用しないのなら……だけどまだ実験段階だし、安全な薬じゃないわよ」
「危険を避ける性格ならバーボンとしてあの組織に潜入したりしないよ」
これ以上の異論は聞かないという強さを持って手を差し出す。すると宮野志保は再びため息を吐き出したが薬を取りに行ってくれた。
薬を受け取った僕は工藤君に謝罪をして博士の家を後にした。
帰り際、僕は簡単にネットを探る。怪盗キッドが狙うという理由でネットやメディアを騒がせている。その流れで宝石に関する説明もちらほら見られた。
だがその持ち主についてはあまり触れられていない。
「アメリカ……」
スマホの画面に記された国名を目にしながら僕は宝石とも怪盗とも関係ない男を思い浮かべる。
あの男を見送ったのは秋のことだった。あれからまだ季節をめぐったわけでもない。そのためかまだ鮮明に脳内で思い浮かべることができた。
「……って、なんであんなヤツのことを思い出してるんだ」
あんなヤツを思い浮かべて寂しいと思うなんてありえない。きっとのんきな高校生たちと一緒にいたせいで思考がおかしくなってるんだ。
自分を落ち着かせるため大きく息を吐き出しながら僕は夕焼け空を見上げた。