マイク・ルチアーノは私的なボディーガードを引き連れて来日した。あげく怪盗など相手ではないと挑発めいた言葉をテレビカメラの前で披露している。
そして怪盗キッドが予告した当日、僕はひとり鈴木大博物館へ向かっていた。
その日は夕方から小学生以下の子供たちを招いて「月光の女神」が披露される。
それはマスコミの前では挑発していた彼なりの怪盗キッド対策なのだろう。いくら変装の得意な怪盗でも子供に変装することは不可能だ。
「工藤君なら子供に変装して紛れ込んでそうだけど…」
彼は殺人現場や謎の組織と言ったものに興味を抱いてそうだが、怪盗の暗号解読にも熱心な姿を見せていた。おそらく謎というものが彼の好奇心を刺激するのだろう。そして神出鬼没の怪盗とやらも十分に彼の好奇心を刺激しそうではあった。
だとしたら彼が首を突っ込む前にマイク・ルチアーノについて調べてしまおう。そんな事を考えながら僕は愛車を走らせていた。
宮野志保の説明では薬の効果は四時間で、効果が切れれば大人の姿に戻るらしい。四時間もあればルチアーノの動向を十分に観察できる。
近くの駐車場に止めた愛車の中で薬を飲むとすぐに効果が現れる。激しく脈打つ心臓とともに血が頭に上るような感覚に包まれ僕は目を閉ざしていた。心を落ち着かせるように激しい心臓の音に耳を傾ける。
しばらくうずくまっていると身体の変化に気づいた。手足が縮まり視界も少し低くなっている。
子供になったことを自覚した僕は準備しておいた衣類に着替えて愛車を後にした。
だが駐車場を離れたところで視線を感じた気がして足を止める。素早く周囲に目を走らせるが不審な人物は見られなかった。
急ぎ博物館に到着すると既に入り口にマスコミを中心とした人だかりができていた。
怪盗キッドの予告まであと三時間と騒ぐ記者のそばを抜けて博物館の玄関へ駆け寄る。僕の手元には風見に用意させた特別観覧チケットがあった。これがあれば招待児童のひとりとして入り込むことができる。
数十名の児童に紛れて館内へ入ろうとする脇で警備の人間が学生服姿の高校生たちを足止めしていた。
「探偵と言えども今日は中に入れてあげられないんだ。入れるのは招待児童とその保護者だけだよ」
警備の人間がそう告げるそばで高校生のひとりと視線がぶつかる。
だが僕は彼が口を開く前に、案内役に促され館内の奥へ進んでいった。
今回、僕が気になるのは怪盗キッドではなくマイク・ルチアーノのほうだ。
今回の話を聞くかなり前に僕はこの男の名前を耳にしたことがあった。
慈善家で知られるルチアーノは風見の報告書を見る限り、経歴や性格になんの傷もない。だがかつてジンはこの男について自分たちよりどす黒い、機会があれば殺すべき男だと語っていた。
1ミリも信用していた相手ではないが、その言葉は今でも僕の中でくすぶっている。そのため……さすがに殺そうと言う考えはないが警戒してしまう。
僕が守るこの国でルチアーノが悪事を企てているのなら、それは全力で阻まなければならない。