招待された児童は主に小学生で学年は様々だ。僕の今の大きさは他の児童たちと比べる限り小学一年生を名乗るのが妥当だろう。
児童たちはエレベーターで上層階へ連れていかれ、そこで「月光の女神」を見学しながら宝石の成り立ちを聞くことになる。
宝石のもとへ案内された子供たちは興味津々と展示物に群がる。僕はそれを後ろから眺めつつ周囲に目を向けた。
鈴木大博物館には様々な美術品が展示されている。しかしこの宝石周辺には展示物が一切置かれていなかった。
「君は宝石を見ないのかい?」
周囲を眺める僕のそばにボディーガードらしき外国人が近づいてきた。流暢とは言えない日本語で話しかけられた僕は笑顔を作る。
「はい、あとでゆっくりみようようと思ってます」
子供の姿であるため相手の男を含む周囲の大人たちが普段より大きく見える。これではもしもの事があっても実力行使はできない。
だとしたらもし目の前の相手が危険人物だった場合、どう対処すれば良いのか。工藤君はこんな状況で戦っていたのかと改めて尊敬の念を抱きそうだ。
「そういえば君は保護者と一緒に来なかったようだね。親御さんは忙しかったのかな?」
「はい。ちょうど仕事が入ってしまって」
実のところ招待チケットを風見がいかにして入手したのかは知らない。しかしどうやら保護者の付き添いはないというが相手に知られているらしい。
「それは少しさみしいね。君はさみしくないかい?」
「いえ……あ、えっと慣れましたから」
どう返せば子供として正解になるのかわからない。だが相手はそんな僕に優しげな顔を見せてくれた。
「君はとてもイイコだね」
そう告げた男に頭を撫でられるとさすがに反応に困る。まったくこんなことを続けていた工藤君を心底尊敬するよ。
そうこうしていると専門家という男性がやって来て子供たちを相手に宝石の説明を始める。
500年前に発見された宝石は様々な人の手を巡り今の持ち主の元へやってきた。そんなありきたりな話を聞いていた僕は違和感を覚えて視線を移した。
誰かの視線を感じた気がして目を向けた先には誰もいない。
「お話を聞いたところで次は感想文を書いてもらいますのでこちらへ進んでください」
案内役が再び前に進み出ると子供たちを誘導する。すると入れ替わるように警察官たちが慌ただしく入ってきた。
そろそろ怪盗が予告した時刻なのだろう。そう思いながらポケットに入れていた腕時計で時刻を確認する。
そこで不意にカランと金属音が聞こえる。目を向けた僕の視線の先で天井にある通風口のふたがはずれていた。
「ガスだ!待避しろ!」
誰かが声をあげると同時に慌ただしく人が流れ始める。警察官たちが避難指示を出し、博物館の警備員たちは子供たちを避難させようとする。そしてボディーガードたちもそれに手を貸そうとしていた。
そんな中で僕はハンカチで口許を塞ぎつつルチアーノの姿を探した。ここに到着した時から彼の姿を見ていない。だがそれは僕の視線が低すぎて見えていないのだと思っていた。
「どこだ……」
スモークが充満する中で僕の中に焦りが膨らんでいく。僕の脳内で警告音が鳴っているがまだルチアーノは見つけられない。
だがそこで横合いから腕を捕まれ目を向ける。そしてガスマスクをつけた相手を目にしたのを最後に僕の視界は暗転した。