博物館の入り口はすべて封鎖され、その周囲は警察官によって囲まれている。さらにその周辺にはマスコミや野次馬が集まり多くの人でごった返していた。
喧騒に包まれた空間に紛れた工藤新一は悔しげに腕時計に目を落とす。するとそばにいた服部が今後のことを問いかけてきた。
「ここにおってもどうもならんやろ」
「中に入る方法がありゃ良いんだけどな……」
服部の問いかけに新一は顔をしかめて博物館を見上げる。その時、周囲で小さな歓声が沸いた。
警察がざわめきスポットライトを当てたのはそばに立つ街灯の上だった。
街灯の上には白いスーツに身を包んだ男がひとり立っている。
「レディース&ジェントルマン! マジックショーへようこそ!」
派手なパフォーマンスで周囲の視線を集めた白亜の怪盗が両手を広げれば空から無数のカードが降ってくる。
その一枚を拾った新一はカードの文面に眉を潜めた。
「目に見えるすべてはイミテーション」
「何が偽物なんや」
つぶやく新一と同じように服部も疑念を吐露する。そんな友人を一瞥した新一は改めて街灯を見上げた。しかし既にそこに怪盗の姿はない。
「服部、ヤバいぞ」
「急がなあの怪盗に持ってかれてまうな。見せ場」
「は!?」
「あいつにエエトコ見せたいんやろ? ほれ、ポアロの」
「そういうんじゃねぇよ!バーロー!」
服部の発言は図星だがそれどころではないと新一は群衆をかき分け進みだした。しかし怪盗キッドが姿を見せたためか、さらに多くなった人込みに移動もままならない。
ただ周囲の会話を聞く限り、降ってきたカードにはそれぞれ別の言葉が書かれているらしい。そのほとんどは占いのようなもので群衆も楽しげにしている。
「こらまた手の込んだことしよるな」
周囲に占いをばらまき、自分たちにだけ告げたい言葉を飛ばす。世紀の奇術師の几帳面さに服部は感心そうにつぶやいた。
人混みをかき分け前列にいる警官隊へたどり着く。すると別の方向でざわめきが飛び警官隊へ無線の声が飛んだ。
裏口からアルミバンがバリケードを破壊して行った。そう報告を受けた警官隊は怪盗キッドの仕業かと声をあげ動き出す。
瞬く間に正面の封鎖が解かれ新一は博物館の玄関へ駆け込んだ。
「トラックはほっといてええんか」
「安室さんの安全とキッドを取っ捕まえるのが先だろ!トラックは警察が止めるだろうからな!」
館内を走りながら声をあげる新一に服部は呆れた顔を見せる。だが文句を言うでもなく新一とともに階段へ向かった。
宝石「月光の女神」は博物館の上層階に展示されている。そのため階段を駆けあがる途中で壁に貼り付けられたカードを見つけた。
カードの文面に目を通した新一は天井を見上げる。
「真犯人は屋上からヘリで逃げるんだとよ」
「偽物っちゅうんは、そもそもの予告状からなんかもな」
「だからキッドの野郎も真犯人の邪魔をしようとしてんのか」
「予告の時間に現物の前やのうておまえの前に出て来たんやから、そうやろ。おまえに働け言うとんのや」
「あんやヤツに従うのはシャクだが仕方ねぇ」
服部の言い分に舌打ちした新一は携帯を取り出して目暮警部へ電話をかける。そして屋上を目指すべく再び階段を駆けあがり始めた。