桜が咲いたら、雪が…… 作:何故か外れる音
試合が終わるとすぐに、深桜は帰路に就いた。
競技用CAD諸々と、使用した防護服やアンダーウェアといったモノも全て達也にぶん投げてきた。
CADに登録されている起動式は見られたところで何ら問題ない。
「汝の欲する所を為せ、それが汝の法とならん」
起動式を読み込む際、適切な解読をしなければ、魔法式が構築されることはない。
解読方法を複数用意し、並列的に展開し、展開し終える時間差を利用し一つの魔法式を構築するという、演算力に物を言わせたふざけた起動式もある。
展開が終える順番が前後したりすれば魔法式としての意味をなさなくなるように、絶妙な場所で区切りを設けているのだから質が悪い。
それだけでなく、全く機能しない魔法式のような何かが構築出来るようにも作られているため、更に酷い。
そんな風に、演算式を起動式に変換したり、既存の起動式を改造したりしている。
普通に魔法が扱えるのなら、既存の起動式を改造する必要は全くないのだが、そうせざるを得ない、というのが現状だから仕方ない。
無意識的に表層に影響を及ぼしている異能の影響だろうか、CADから送られてくる起動式を読み込み辛いのだ。
魔法式の規模が大きくになるにつれ、当然、起動式の規模も大きくなる。
起動式の読み込みに時間が掛かれば、魔法式の構築までの時間が自然と伸びるのも道理。
それを解決するために、こんな滅茶苦茶とも言える魔法式を改造する羽目となった経緯が存在する。
普通の魔法師からすれば、複雑難解な起動式となり、逆に時間が掛かる。
深桜にとっては、読み込み辛い起動式の情報量を大幅に削減でき、演算力にものを言わせることで、結果的に魔法の高速化に成功している。
それに加え、科学に転用することすら可能な演算式を隠すことにも繋がるのだから、深桜は面白いとすら感じている。
解読できたとして、それを科学に転用できるのかと言われれば、それはこの世界の人達によるだろう。
事実、CADを初期化する際、その起動式を見た達也が、好奇心を擽られ、解読に走り、達也の得意分野である術式解体だけはどうにか解読することが出来た。
構築されるはずの魔法式を知り得ているがゆえに、その起動式の在り方を理解できた。
それと同時に、深桜が自分でCADを用意すると言った本当の理由を察することとなった。
そんなことになっているとは知らないが、深桜は先の試合を思い出す。
登用していた異能は、変わらず、超電磁砲。
あくまでも魔法の補佐の役割として登用したに過ぎないが。
雷を降らせたり、雷撃の槍を放ったのは、四葉家の人間を始めとした様々な魔法師に、雷に関する魔法を得意とする魔法師だと誤認してもらうためである。
生体電流を操作する形で精神干渉魔法を扱えるのではと、明後日の方向に思考を飛ばしてくれたら尚良い。
試合については悪くなかったのではないかと深桜は思う。
達也がフラッシュ・キャストという四葉の秘匿技術を使うことになったとは言え、「再生」という傍からみれば不可解な現象を起こさずにも済み、将輝にレギュレーション違反の威力の魔法を使わせることにならなかった。
専門の研究者ですら目にかかる事が少ない超高等対抗魔法を扱う魔法師二人に攻撃をすることを許されない中、三人掛かりの攻撃を捌きながら、攻撃し勝ち筋を見出そうとしたその姿勢と技量は、目を見張るものだったはずだ。
それだけでなく、一条家のお家芸である「爆裂」は封じられたと言えるステージであり、魔法競技という制限の中であれだけのことをして見せれたのだから、十師族の力を疑うような人間はかなり限られるはず。
そんな人間がいるのだろうかと疑問に思いながら、深桜は自分が泊まっていた部屋の前で立ち止まった。
部屋の鍵は亜夜子に渡した。
肝心の亜夜子は通話に応じない。
部屋の中に意識をやるとベッドに横たわっているのが分かる。
寝ているのだろうかと思うと、深桜は何故か殺意が湧き出るのを感じた。
亜夜子が寝ている事に対してではなく、部屋に入れない現状に対してだが。
宿泊施設なのだから、寝ていることに文句はない。
だが、前日の夜に連れ出されてから、CADを調整し、亜夜子に会い、CADを調整し、試合をこなし、と色々やったが、要は眠いのだ。
このまま別の宿泊施設を探すべきかと思考を走らせていると、突然、部屋のドアが開いた。
「ご、ごめんなさい、深桜お姉さま。えっと、その…」
「…………構わないわ」
深桜はそう言って何も見ていないかのように部屋の中に入る。
そう何も見ていないのだ。
一昨日の夜に寝間着として使用した衣服を亜夜子が着用しているのはまだ、どうにか、理解を示せる。
だが、わずかに上気させた表情を浮かべているとなると話が変わってくるわけで。
何をしていたのかといったことは尋ねはしないが、かといって完全に無視するのは不憫に思えたので話しかける。
何かをしていたとは分かっていないが故でもある。
「…ここにまだ着ていないのもあるんだけどね」
「その…」
「んー?」
言いづらそうにする亜夜子に先を促すと、何やら意を決し、それでいて恥ずかし気な表情を浮かべ一言。
「こちらの方がよりお姉さまの匂いに包まれている気がしますからっ…」
「くぁwせdrftgyふじこlp」
使った衣服を手に取れる場所に纏めていたのが悪かったのか。
せめて、使用していない衣服に身を包み、ベッドのシーツに僅かについた匂いで我慢してほしかった。
かの風紀委員はベッドの匂いで我慢できていたと言うのに。
それに少なからず汚れているであろう衣服を進んで身に付けるとは一体…と戦慄した。
言葉にならないような奇声を発した深桜に対し、亜夜子は心配そうに駆け寄ってきた。
そんな亜夜子の姿を見て、深桜はふと思う。
(好奇心は猫をも殺すってよく言ったもんね…。猫じゃないけど)
もちろん身を滅ぼした覚えはないが、亜夜子から向けられる好意が、自身の好奇心が由縁と知っているとそう思わずにも居られない。
これで深桜がノーマルで、その気が一切なければ、非常に悲しい世界が広がったことだろう。
「…大丈夫よ。私は風呂に入ってからすぐ寝るけど、亜夜子はどうするの?」
「えっ、お風呂にご一緒してもいいってこt」
「疲れてるからまた今度ね」
「やった!……家に連絡を入れたら、深桜お姉さまがここに泊まっている間はお姉さまと一緒に居ていいと言われましたの」
「それで?」
「その…、一緒に居てもいいですか…?」
「…そう、二日だけだけどよろしくね」
深桜はそう言いながら、残りの二日の予定を考える。
明日の夜の予定は変える気はないが、日中の予定を変える必要がある。
黒羽の娘と大会会場に赴くのは避けた方が良いだろうから、この部屋でモニター観戦することになるだろう。
そこまで、考えたところで、亜夜子と一緒に風呂入る約束したのは早まったかなーなんてふと思ったが、なるようになるだろうとその思いを振り落とし、風呂場へと足を踏み入れたのだった。
風呂から上がると、亜夜子がドライヤーとタオルを手に持ち待ち構えていた。
確かに、膝下まで伸びたこの長髪の手入れに興味を示すのも深桜は分かる。
自分でやるよりは、誰かにやってもらいながら話をするのが、深桜は好ましかった。
やるのが面倒だとかそういった思いも少なからずあるが。
だが、眠気は風呂に入る前より酷くなっているため、早くベッドに入りたかった。
なので、髪の手入れを省くために態々用意した魔法を用い、過程を省略。
恐らく、髪の手入れをするのを楽しみに待っていたのだろう。
その光景を目の前で見せられた亜夜子が膝から崩れ落ちた。
だがそれをスルーし、深桜はベッドへと向かう。
流されたことに亜夜子は少なくないダメージを負う。
まだ使用していない衣服の場所を教えたと言うのに、亜夜子が着替えていなかったからというのが、深桜の言い分である。
横になってから亜夜子の方を見やると、まだショックを受けているのか床にへたり込んでいるのが見える。
「着替えたら一緒に寝てもいいわよ」
亜夜子が演技でそうやっていようが別に構わない。
それ以上に、そんなもんから着替えて欲しいという思いが強い。
なのでこうして軽く餌を吊り下げれば、亜夜子は素早く着替えを済ませ、深桜の所へとやってきた。
時刻は二十一時頃と寝るには少し早いが、亜夜子は一緒に横になるようで。
それならと、深桜は亜夜子を引き寄せる。
亜夜子は深桜に抱き着ける、深桜は感じることの少ない人肌を感じることが出来る。
少し、暑い気はしなくもないが、深桜は、亜夜子を抱き枕として寝ることに決めたのだった。
◇ ◇
新人戦優勝のパーティーは総合優勝のパーティーまでお預けとなった。
主な理由としては、総合優勝の掛かった明日のミラージ・バットの準備で忙しいからであり、決して、モノリス・コードに代役として出場した深桜が姿を消したから延期したというような事情はない。
新人戦から本戦に鞍替えがあったものの、深雪がミラージ・バットに出場することに変わりはなく、その準備をつつがなく終えた後、達也は深桜から渡されたCADの処理を行った。
その際に見た複雑怪奇な起動式のうちの一つを解読 解読できたのは術式解体のみで他はサッパリだった し終え、謎の達成感を得られた。
作業をすべて終え、深雪たちのもとに戻るために歩いていると、達也は深桜にCADを渡されたときに掛けられた言葉をふと思い出した。
そういえば、達也。『電子金蚕』という魔法、知っていて?
知らない?どんな魔法なのかって?そうねえ…知っておいて損はない魔法、と言ったところかしら
聞きたいことは聞けず、言いたいことを言って去っていく姉の後ろ姿に呆れてしまったが、あのような事を言って去ったのかが気にかかるところがある。
どういった意味をこめてあのような言葉を残したのかは知る由もないが、意図的に魔法の内容を教えるのを避けたのだから、急を要して知るべき魔法ではないのだろう、と達也はそう判断した。
この翌日、その魔法を知る事になるとは、このときの達也は全くといって予期していなかったのだった。
◇ ◇
日が昇るより二時間程早く、深桜は目を覚ました。
腕の中に亜夜子が収まっていることに気が付く。
真夏と言うのもあるからか、暑くて寝苦しそうに唸っている様子が伺えた。
冷房を少し強くしておくべきだったかな、と思いながら、深桜はベッドから抜け出し今日の予定をどうするかを考える。
起こさないように、予想以上に強い抵抗を繰り広げる亜夜子を引き剥がすのには苦労したが。
埋まっている予定はあくまでも夜だけであり日中は何も決まっていない。
ふと携帯端末を開いてみると、深雪を始めとした面々から祝福を主としたメールが届いていた。
深雪に至っては、深桜が軽く引くほどに称賛の言葉を並べた後、九校戦が終わったらちゃんと教えてくださいね、と記されていた。
そんなメール群をそっと閉じ、深桜は亜夜子を見やる。
見やったところで今日の予定が決まるわけではない。
天気予報を見た所、昨日までの晴天とは打って変わり、曇天模様となるようで、外出しようか悩むところである。
ミラージ・バットを鑑賞する、というのも一つの手だが、正直な話、深桜はこの競技の何が楽しいのかが全くと言って分からない。
何かが楽しいのだろうということは理解は示せるのだが。
そんな事を思いながら、深桜はこの周辺の町情報を調べている。
九校戦に興味を示せない以上、別の予定を立てるためである。
色々と情報を見ていると、ある事をふと思った。
(ジェネレーター回収する?)
しかし、その考えはすぐさま棄却した。
恋査というジェネレーターとは程遠いサイボーグの存在を知っている以上、あまり魅力的ではない。
それに加え、独立魔法大隊の面々と鉢合わせる可能性が非常に高い、ということもある。
どうしたものかと考えるも、案は浮かばず、それとなくモニターの電源を付けた所、都合がいい事にこの町の食事処の特集を組んでいた。
今日の予定が決まった瞬間だった。
食べ歩き。
これに付き合わされることとなった亜夜子はかつてないほどの強敵と戦うこととなる。
深桜は色々と美味しいモノをゴスロリ美少女と食したことに満足したそうな。