桜が咲いたら、雪が……   作:何故か外れる音

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九校戦編 Ⅺ

 旧長野県との境に近い旧山梨県の山々に囲まれた狭隘な盆地に存在する地図にも載っていない名も無き小さな村の中央に位置する広い屋敷に、モノリス・コードに深桜が出場すると知って、観賞しないわけがない女性がいることを忘れてはいけない。

 亜夜子から連絡がなければ、そのことを知る事はなかったのだが。

 その他五名が映った時と深桜が映った時の真夜のテンションの差があまりにも酷く、珍しく近くに控えている葉山が少し引いていた。

 

「四ヶ月見ない内にここまで魔法力が育つとはねえ。葉山さんもそう思わない?」

 

 全試合が終わり一息ついた所で真夜は葉山に声を掛けた。

 人並み外れた深桜の学習能力を思い出しながら、葉山は真夜のその言葉に合意する。

 

「折角なら、粒機波形高速砲?でしたっけ?それも見てみたかったわ」

 

「真夜様、その魔法は…」

 

「分かっているわよ。お遊戯会で使っていい魔法じゃないことぐらい」

 

 粒機波形高速砲  原始崩し(メルトダウナー)

 

 決して人に気安く撃って良いような魔法ではない。

 超電磁砲共々威力はかなり落ちていると言えど、人体を吹き飛ばすことぐらいは出来る。

「電子制御系の超能力を持っている事は確定、と見て間違いないでしょうな」

 

「ええ、そうね。深桜さんとしては、魔法特性として見なして欲しかったみたいだけど」

 

 何故、真夜と葉山がそのような結論を出したのか。

 四葉家にて立てられた幻想殺し(イマジンブレイカー)の仮説の一つとして、幻想殺し(イマジンブレイカー)は超能力の暴走を防ぐためのリミッターである、というのがあった。

 その仮説に付随する形で、「分解」と「再生」は元々深桜が所有する超能力だったが収まらずあぶれ達也の魔法演算領域を占有した、というのも存在する。

 ただ、この仮説は棄却されていたのだが、亜夜子の心変わりと深桜が魔法を扱えると判明したことが大きく影響し、再度浮上することとなった。

 決定的となったのは、深桜の魔法に対して見せた適応力の高さというべきか。

 ほとんど知らないはずの魔法という分野を、自分の庭のように闊歩する様を見せつけられれば、先の仮説の信憑性が増すのも仕方ないことだった。

 

 また、深桜の事を深く知っている二人、ということもこの結論に達した大きな理由の一つだった。

 深く知っている、と言っても、他の人と比べて、の話だが。

 寧ろ、二人でなければ、深桜の魔法特性と見なしていたことだろう。

 

「深桜さんは何か隠し事をしている時にでる癖を直すべきよね」

 

「思考を誘導したい時、とも言えますな」

 

 そう言いながら、真夜と葉山は深桜の変わらぬ部分を微笑ましく思う。

 真夜は深桜の母になりたいと言う思いから、深桜の細かい部分に気付く様になった。

 では、葉山も同じかと言われれば、決してそんなことはない。

 先代から四葉家当主に仕えていたということもあり、深桜が今回の様に何かを企んでいる際、その姿に僅かな違和感を感じ取れたのがきっかけである。

 そのことを真夜に伝えてみると、そのときに出る深桜の癖を教えられたという経緯である。

 

 断じて、真夜と同じ理由で深桜の癖に気付いたわけではないのだ。

 

「しかしこうなると、深桜殿の魔法特性が気になるものですな」

 

「超能力を元に組み立てたであろう魔法を使ってまで隠そうとしているのですから、よほど常軌を逸しているのでしょう」

 

「深桜殿の部屋を調べれば、何かわかるやもしれませぬが…」

 

 深桜の領域と化した離れが存在する方向に二人は目をやる。

 そこは一体の人形がセキュリティーとして存在している。

 正式名称:完全自律型上海人形「ファイブオーバー」通称、上海。

 シャンハ∸イシャンハ∸イと可愛い声を出しながら巡回している。

 

 深桜曰く、最高傑作。

 

 その時見せた深桜のドヤ顔を思い出し、悶絶している女性がいるが気にしてはいけない。

 

 深桜曰く、そのへんの軍隊より上海の方が強い。

 

 どこからどう見ても普通の人形にしか見えないが、侮るなかれ。

 ISコアがどうとか深桜は言っていたが、仔細な情報の一切が秘匿されているコアを埋め込んだ人形。

 知る由もないが、コアは未元物質(ダークマター)も用いて開発されている。

 深桜の能力を受け継いだ「反逆者」が生まれるのを防ぐように調整された結果、本来の未元物質(ダークマター)と打って変わり、深桜にとってたいへん都合の良い物質の生成能力となっている。

 本当にこの世界には本来存在しない新物質  魔法科世界には存在しない物質を作り上げることが出来るわけで、深桜は基本的にこの力を使わないように決めている。

 あまりにも便利すぎる…のが悪い。

 

 真夜と葉山には、五メートル前後のカマキリを虚空から出現させる様を見せている。

 そのカマキリがどれだけの性能を誇っているのか、というテストなどは行っていないが、上海を紹介している時の深桜の有り様を鑑みれば相当ヤバい代物だということだけは十分伝わっていた。

 

 先日亜夜子が訪れた際は、上海に見張られ誘導を受けながら、持ってくるように言われた代物を回収している。

 浮遊する人形を追いかけるゴスロリ少女の光景はキッチリと録画してある。

 

「娘の部屋、漁ってみたいけど、深桜さんに嫌われたくはないわね」

 

「意外と聞けば教えてくれるやもしれませぬぞ」

 

「そうだといいけど」

 

 真夜はそこで話を切り上げた。

 深桜の異常と言うべき技術力の高さは、幻想殺し(イマジンブレイカー)の先にある何かの一端であるのだろう、そんなことを思いながら真夜は一つの手帳を取り出す。

 手帳の中身は予定表。

 深桜が帰ってくる日は近い。

 限られた時間で、深桜とどう戯れようか、どれだけ戯れられるだろうか、それは真夜が立てる予定に全て掛かっている。

 

 一条の御曹司が敗れたことで十師族会議が行われることとなり、真夜が僅かながらに切れたことを葉山以外の誰も知らないことだろう。

 

 

 ◇  ◇

 

 

「ジャッジメントですの!」

 

 時刻は六時過ぎ。

 とある宿泊施設の一室にて、そう宣言する令嬢の姿。

 ビシッと腕に巻かれた何も書かれていない布切れを見せつけるように立ちながら、どこか目が泳ぎ、僅かながらに赤面している。

 因みに、テイク四。

 

「…ジャッジメントってなんですの?」

 

 そんな事をさせていた深桜が満足したところで亜夜子がそう聞いてきた。

 

「風紀委員?かしら」

 

 風紀委員?と二人で首を傾げる。

 亜夜子は風紀委員とジャッジメントが繋がらず、深桜はあの仕事は風紀委員の仕事と呼んでいいのだろうかというズレはあるが、二人して首を傾げたのが意外にも面白く、笑いあった。

 

 亜夜子の着替えを亜夜子の双子の弟にあたる文弥が届けることになっていて、彼が到着するまでの暇を潰している。

 と言っても、連絡を取ったのはつい先ほどの事であり、それなりに時間が掛かる事だろう。

 そんなに急いで出かけようとしているわけでないわけで構わないのだが。

 

 深桜は満足したところで、無理を言って彼女からしたら意味不明なことをさせられた亜夜子を放ったらかし、残った布切れなどを利用し何か小物を作りはじめた。

 中々、自分勝手な行動をしているが、それに追従するように深桜の髪を弄り始めるのだから、二人にとってやりなれた流れなのだろう。

 黙々と手元を動かしている訳ではなく、基本的に亜夜子が話し、深桜が聞きに回るというのが二人のスタイルである。

 亜夜子がある程度話し終えた所で、深桜は今日の日中の予定を話す。

 具体的に何処で何を食べるといったことは決まっていないが、食べ歩き、この言葉で大体わかってくれるだろう。

 

「…私はお姉さまと部屋でゆっくりしていたいですわ」

 

「それじゃ、亜夜子はお留守番ね」

 

「私の話聞いていました!?」

 

「亜夜子は部屋、私は外出、そうでしょう?」

 

「私は、お姉さまと一緒に過ごしたいのです!」

 

「それじゃ、亜夜子も一緒に行くのね?」

 

「はい!……あれ?」

 

 

 

 ミラージ・バットで墜落事故が起きたころ深桜と亜夜子は対峙していた。

 亜夜子に文弥も誘ったら?と提案したのだが、なにやら追い返したらしい。

 

「お姉さま!いくらなんでもその服装はダサいです!」

 

「ダ、ダサい…?」

 

 深桜の今の服装はどこぞの竹林にすまう薬師の服装である。

 銀髪ではなく、白髪である点を除けば、それなりにきっちりとしたコスプレが出来たと自負している。

 コスプレと自負しているあたり、ダサい事はそれなりに自覚している。

 しかし、この一線だけは引く気は一切ない。

 

「んー…そうねえ。それじゃあこっちにしましょうか」

 

 そう言って深桜が取り出したのは、どっかの魔神が着けていた服…服?である。

 その服…?を見て亜夜子が明後日の方向に叫んでいるのが見えるが、冗談で取り出したのにそういった反応をされるのは予想外である。

 深桜としても、流石に外にこの服?を着ていこうなどと思わない。

 

「……なにかこう、そう!普通の服は無いのですの?」

 

「普通かは分からないけど、真夜さんに買ってもらった服はあるわ」

 

「それは止めておきましょう!」

 

「そしたら、こんな服以外ないわよ?」

 

「えっ!?」

 

 お姉さまの服のセンスが…などと言っているのが聞こえるが、コスプレに重点を置いている関係上仕方ないというしかない。

 何もコスプレにはまったとか、そういうわけではない。

 

 強者たる者、服装はダサくなくてはならない。

 

 そんなふざけた信条の下、動いているにすぎない。

 何せ、冬服は兎も角としても第一位様がウルトラマンしているのだから。

 

 結局、真夜から買い与えられた服に着替え、出かけることに決まった。

 

 

 

 深桜と亜夜子はとある喫茶店にてケーキを食べていた。

 本来、この店に立ち入る予定はなかったのだが、店名が「あんていく」だったのを見て、入らないという選択肢を取る理由はないだろう。

 当然、といってはあれだが、名前がかの喫茶店と同じなこと以外、何の変哲もない喫茶店だった。

 九時には開店していたのは、深桜たちにとって好ましいことだが、まさか、本日初めて食するものがケーキになるとは、考えもしていなかった。

 

 コーヒーを楽しんでいる最中、声を掛けてきた青年男性二人組を店外に容赦なく叩き出していたが、それ以外はいたって普通である。

 ここの店長が凄いのか、葉山が凄いのかは分からないが、ほぼ同等の代物を提供され、楽しんでいた時に起きた出来事だったので、あまり気にしていない。

 亜夜子が嫌悪感を丸出しにしてから、叩き出すまでの手際が異常だったぐらいである。

 ここの店長ロリコンなのかと疑念を抱いてしまうほどの手際だった。

 

「…?」

 

「お姉さま、通話ですの」

 

 携帯端末に表示されている名は司波達也。

 時間を考えれば、九島閣下と対峙した頃だろうか。

 そうであれば、この通話の用件は電子金蚕に関する話と考えられる。

 ここで通話に出ない、という選択を取る事ができるが、それをすると最悪、無頭竜と繋がっていると取られることも考えられる。

 それはそれで面白そうだが、ここは通話に出ることにする。

 

『……もしもし、姉上?』

 

「…何?」

 

『一つ聞いておきたいんだが』

 

「確認?」

 

『そろそろ深雪が出場する第二試合が始まるんだが、会場には着いているか?』

 

「えっ?」

 

『まさか…』

 

「言ってなかったわ。私、ミラージ・バットという競技がよく分からないので、町に繰り出します。試合、頑張ってね。と深雪に伝えて頂戴」

 

『待ってくれ姉上。まさか、会場に向かってすらいないのか!?』

 

「そのまさかよ」

 

『正気か』

 

「どうして正気を疑われているのかしら」

 

『贔屓目抜きに見ても稀有な美少女で、有り余る才能を抜きにしてもその場にいるだけで注目を集めずにはいられないという天性のアイドル、いや、スターと言っていい深雪が、スポーツ系魔法競技の花形と呼ばれる、ミラージ・バットに出場するんだぞ!?それを観ないなんて、本当に深雪の姉なのか!?』

 

「…………」

 

『いくら競技の魅力が分からなくとも、観戦するのが、身内、それも姉の役割じゃないのか!?』

 

「さっきの言葉のインパクトが強すぎて、今の正論じみた訴えが陳腐なものに聞こえるわ。不思議ね」

 

『…町に繰り出すと言っていたが、深雪より優先する用事がこの町にあるのか』

 

「用事と言うか食べ歩きするだけだけど」

 

『食べ歩きだと?深雪と食べもの、どちらをとるかと言われたら姉上は食べものをとるというのか!?』

 

「そうね」

 

『よし、姉上。一旦、冷静になろうか』

 

「その言葉そっくり返すわ」

 

『目を惹かずにはおかない、十人が十人、百人が百人認めるに違いない可憐な美少女とこの町の食べもの。どちらか一つを無人島に持っていくならどちらを取る?』

 

「美少女ね」

 

『姉上も本当は分かっているじゃないか。なら、今すぐに会場に向かうべきだ』

 

「意味が分からないわ」

 

『いや、単純な意味しか込められていない』

 

「…因みにどういった意味かしら?」

 

『深雪の応援に来てくれ』

 

「最初からそう言って欲しいわ」

 

『…来ないのか?』

 

「一応言っておくけど、食べ歩きのついでに叔母様へのお土産探しを兼ねているわよ」

 

『何…?』

 

「深雪と叔母様どちらを優先すべきでしょうね。私は」

 

『……深雪には叔母上からの急用が入ったと伝えておくよ』

 

「そうね……応援に行けなくなって非常に残念がってたとも伝えるのよ」

 

『分かった…。伝えておくよ』

 

 

 通話が切れて直ぐに亜夜子から心配の声が掛けられた。

 

「…お姉さま。大丈夫ですの?」

 

「え、ええ…。大丈夫よ」

 

「お姉さま、目が死んでおりましてよ」

 

「今の通話を経て、生き生きした目をしていないだけマシです」

 

 考えもしていなかったお土産探しを予定に加え、深雪たちにもあげるお土産を探そうと決意したのだった。

 

 

 ◇  ◇

 

 

『これはまさか、Demon Right!?』

 

 真夜中になる前、横浜市内にて行われた粛清。

 それを観測し続けている深桜の姿も横浜市内にあった。

 達也がいる場所と、無頭竜がいる場所、その両方を観測するにたる場所を見つけるのに少し時間が掛かったが、一連の様子を見ることが出来たので良しとした。

 深桜が背負っているケースには狙撃銃が収められているが、その出番が訪れることはなかった。

 結果的に、亜夜子に持ってこさせた物は一度も活躍することは無かった。

 

 彼らを分解することなく始末し、魔法師の脳を弄ってみたいという思いが少なからずあった。

 ついでに彼らの記憶を抜き取り、裏を取るべきではないか、という考えもあったが、ここに辿り着いてから取りやめることとした。

 よくよく考えてみると、達也から四葉家に依頼する、という手段は無に等しい。

 

 深桜の場合は真夜か亜夜子に放り投げるという手段が取れるが、そのことを達也が知っているはずもない。

 

 そういった事情もありつつ、また、今となってはどうでもよくなっているが、さすおに!を観たいという目的があったなあ、なんてことをふと思い出し、無頭竜の幹部が分解される様を見ることにしたのだ。

 

 少なくともそれを目的としていたはずなのだが、感慨深さというものはあまりない。

 

「帰りましょうか…。亜夜子を待たせていますしね」

 

 深桜はそう言いながら、今の今まで座していたドラゴンライダーに跨った。

 いつ、免許を取ったのかと言われれば、この何とも言えない四月から始まった生活の合間に取得した。

 果たしてこれをバイクとして扱っていいのかという疑問はあるが、あくまでもバイクである。

 たとえ、最高時速が1050㎞、ボディにジェットエンジンやリニア機関などが搭載されていようが、バイクである。

 ライダースーツ型駆動鎧は装着していない為、そのポテンシャルを発揮することは出来ないが、そんな速度で街中を走る気は更々ないので問題ない。

 

 余談だが、上海の武装にも追加されている。

 駆動鎧の中に入るのが上海人形というシュールな光景が見られる。

 

 何はともあれ、深桜の九校戦は幕を閉じた。

 

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