桜が咲いたら、雪が……   作:何故か外れる音

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夏休み編 Ⅱ

 

「……また、つまらぬ物を斬ってしまった」

 

本当につまらなさそうな表情を浮かべながら、深桜はそんなセリフを吐いた。

手に握られている一振りの刀を流れるように血が地面に滴り落ちている。

深桜の顔や衣服には真新しい返り血の痕が付いている。

器用と言っては何だが、髪には一切の返り血を浴びていない所には感心してしまう。

 

そんな深桜を中心として、周りには十数の死体が転がっていた。

綺麗な太刀筋で首を切り落とされたもの、四肢を切り落とされもの、身体の一部を切り落とされた訳ではないが無数の深い跡を刻まれたものと色々と転がっている。

斬死体が数多く転がっていると思うだろうが、一番多いのは感電死したもの。

奇声を発しながら飛び上がったと思いきや、振り上げた刀に雷が落ち、何故かその雷が刀に纏わるようにその身に留まり、挙句の果てにその雷を飛ばしていた。

その光景をモニターを通じて見ていた者の心情は推して量れるだろう。

 

「ねぇ、活きがいい奴はいないの?」

 

深桜は携帯端末を取り出し、モニターの先に居る少女に問いかけた。

だが、返事は帰ってこない。

寝てるのかな…と深桜はそれとなく思考を巡らせてみるが、分かるわけもない。

 

「水波ちゃん?聞こえているよね?」

 

「……は、はいっ!聞こえております!深桜様!」

 

数秒ほど間が空いてから少女  水波から応答があった。

やっぱ寝てたのかと見当違いのことを確信しながら、深桜はもう一度先の問いかけを行った。

 

「えっと…、すみません。他にはもう…」

 

「そう、分かったわ。私は離れに戻ると叔母様に伝えておいて」

 

「はい、分かりました」

 

労いの言葉を掛けて深桜は通話を切る。

それから少しして、深桜は腰に差していた刀を鞘ごと地面に突き刺してその場を後にする。

どこぞの剣のように、選ばれし者にしか抜けないようになっているとか、そんなことはない。

ただ、無茶苦茶な使い方をしたから打ち直してちょうだいという意思表示。

それとは別に、物足りないという抗議の意が少しばかり含まれていたりするが、そんなことに気が付く者は少なくともこの場にはいなかった。

 

 

 

膝下に至る程のゆったりと三つ編みに編まれた髪を揺らしながら去っていく深桜の後姿をモニター越しに見送った後、桜井水波は大きく息を吐いた。

水波は深桜のガーディアンという訳ではない。

それ以前に深桜にガーディアンがつくことはないのだが。

 

水波は肉塊と成り果てたものの処分とあの場所のお片付けや深桜が残していった刀の打ち直し等と手配などとやることを済ましていく。

幼少の頃より使用人として四葉家本邸で育った水波は、深桜に苦手意識を抱いている。

四葉深夜の血を引いているとはいえ、継承権を持たない深桜が我が物顔で四葉家本邸の離れの一つを占有していることが原因ではない。

元を辿れば、真夜が深桜に与えたようなモノなのだから、そのことについて何か思うことはないのだ。

 

では何が原因かと言えば、今先ほどまで深桜が行った実戦と言う名の殺戮劇に関係する。

実戦であり、決して実戦訓練などではないことを間違えてはならない。

 

齢が十に達したころから始まり、前回から大体半年ぶりに行われた。

深桜は魔法を使えないとなっていたため、幼少の頃から魔法師を想定した訓練や演習が組まれていた。

情動を抑え込むために達也に施された訓練と当然違い、深桜は魔法師を殺すことを前提とした鍛錬を積んでいた。

積まされていた、と思っていた時が水波にはあったが、深桜が扱う武術や剣術、といったありとあらゆる戦法は深桜が自分で編み出したものだと聞かされてからはその思いは無くなっていた。

今となっては、自分から死地に飛び込んだのではと考えている。

 

深桜の実戦の相手は、四葉家の魔法師、正しくは国家の粛清対象となるような反逆魔法師の一部である。

四葉家の魔法師の数は多いとは言えず、数が物を言うケースに備えて用意された使い手の魔法師の一部。

そんな魔法師を相手として試合ならぬ死合を行う。

勿論、一方的に深桜に大人しく殺されろという訳ではない。

深桜を殺すことが出来たら、解放し、場合によっては国外へと逃がすことを契約し、行われる殺し合い。

試合形式としてはモノリス・コードの殺し合い版と考えれば分かりやすいだろう。

一対一の形式から複数対一の形式もある。

どちらにせよ、一人なのは深桜の方である。

 

魔法を使えない少女を一人殺せば、四葉家から逃げられる。

 

そんな甘言に乗せられ、洗脳が解かれた魔法師は深桜を殺そうとし、そして深桜に殺されていく。

先に殺した方が勝ち、というルール以外何も存在しない。

逃走を図ろうものなら、四葉家に消されるだけなので、誰しもが深桜に殺されに行くのだ。

 

水波からすれば、深桜の正気を疑わずにはいられない状況。

曲がりなりにも、国家の粛清対象となるほどの反逆魔法師をその身一つで殺戮していくのだ。

 

そのことに少なからず、恐怖心を抱いた水波は何も間違っていない。

水波がこの仕事を取り扱うようになってから、先程のように深桜と少しだけ話をすることがある。

勿論、深桜から話しかけるまで水波に取れる行動は限られている。

少ないやり取りも増えれば、水波にも深桜の性格などがそれとなく分かるようになり、そして恐怖せずにはいられないのだ。

 

能ある鷹は爪を隠すと言うが、深桜は能ある鷹は姿を化かすというのが正しい女性だと深桜を知る者はそう思っている。

水波だけでなく、何らかの形で深桜を見かけた使用人等は深桜との彼我の力量差を必ず見間違い、深桜の殺戮劇に関わることがあれば己の勘違いを身を震わしながら実感することになる。

それほどまでに、深桜は自分の実力を隠すのに長けている。

それだけではない。

殺戮劇、魔法師という魔法師をありとあらゆる手段をもって殺していながら、深桜は何ら歪みなく、それどころか亜夜子を魅了するほどの人格を形成し得ているのだ。

教養に長け、使用人が熟す様な仕事を、深桜の離れは全て深桜が行う。

水波が又聞きした話では、離れは異世界と称すべきものだという。

何でも、出回っていないものが溢れていて、それらは深桜が開発したもの、モノによっては既存のモノの質を高めたものと色々とあるそうだ。

その話と、深桜が魔法科高校に通う事が決まった話を組み合わせたら、深桜は自分の意志で離れに籠ったのだと分かってしまう。

 

何をどうすれば、何をどうしたら、このように深桜が育つのか、全くと言って分からない。

 

そして今となっては、魔法を使いながら殺戮していくため、更に深桜が恐ろしく見えてしまう。

ただでさえ魔法師を殺すことに長けている深桜が魔法を使い始めたのだから。

それも他に類を見ないほどの速さで深桜の魔法力が伸びていると聞いたときには瞠目せずにはいられず、こう願わずにはいられない。

 

どうか、四葉家を恨んでませんようにと。

 

 

  ◇  ◇

 

 

四葉家本邸の内の離れの一つ。

今となっては全て遠き理想郷と呼ばれている深桜が住まう場所。

どちらかと言えば呼ばせているのだが些細な事だろう。

 

渡り廊下伝いでたどり着ける正門、正門と言うよりかは一枚の扉。

そして離れを挟んだ向こう側に存在する裏門。

裏門の先にある開けた場所一帯を含む離れ全体が深桜が住まう空間である。

 

風呂に入りスッキリしたところで、深桜は髪を纏める。

ラフな格好を取る際は、三つ編みにせず、かといって放ったままにするわけでもない。

例の如く、半分ほどで折り返して髪留めで留めるだけ。

ゆったりと膨らみのある三つ編みで、膝下まで伸びているのだから、放ったらかしにしようものなら髪が地に届いてしまうのだから仕方がない。

準備を終えて振り向くとそこには六体の人形が浮いていた。

 

「シャンハーイ」

 

先日までこの離れを一体で警備していた上海人形が鳴いた。

この離れの地下空間に格納されている兵器群を狙ってか、深桜の部屋に有るコンピュータ群を狙ってか、はたまた上海を狙ってかは分からないが、離れに侵攻する者との戦闘がこの四ヶ月の間に何回か確認されている。

不届き者の正体が四葉家の者で、四葉家のことを思って行動していることまで確認している。

それで処断されているのだから話にならない気はするが。

 

一体でよく守り切ったなとふと思うと、最高傑作に間違いなかったと確信を得られるというモノである。

 

そのお陰で、上海人形の量産に安心して当たれ、二十体で打ち止めとなった。

暇を見つけて作っていたコアが十九個しかなかったが故であるが、ローテーションを組めたりしてより頑強に警備に当たれる様になったと言えよう。

 

「シャンハーイ?」

 

「それじゃ、行きましょうか」

 

そういった事を考えていると、上海一号に声を掛けられ当初の予定に従いこの子たちを引き連れ移動を始める。

製作した順に一号・二号…と名付けているが、ミサカを意識したモノであると言っておこう。

決して名前が思い浮かばなかった訳ではないのだ。

麻雀役を元にして名付けようか迷っていたぐらいだ。

今の所、服の色の違いぐらいしか見分ける違いがないことが大きく、一応進化していく機能は付与しているので、進化次第で名付けていこうかと思っている。

 

そんな子たちを引き連れて向かうのは裏門をくぐり山道を少し歩いたとこにある場所。

真夜に初めて我儘を言って作ってもらった建造物がある場所。

上海六号に日傘を持たせ、道を歩いていく。

道なりに数分歩くと視界が開き、それなりの大きさの木造の建築物が開けた場所に建っているのが見える。

変若の御子が住まう奥の院をイメージして造られた建物。

建物の周りに水が張られてはいないのと、少し増設されているぐらいである。

七歳児でありながらよくこんな無茶を言ったモノだと今更ながらに思う。

そしてそれを叶えようと思った真夜には脱帽である。

 

扉を開き中に入ると、正面奥に二振りの刀が飾られ、側面の壁にはよく分からない壁掛けが左右に三つずつ飾られている。

上海らに指示を出しながら、掃除を開始する。

離れも同じだったが、四ヶ月ぶりに掃除を行うのだから、幾分か力が入るものだ。

 

 深桜、掃除中 

 

一時間程掃除してさすがに面倒になり、魔法でササっと掃除を終えることにやり方を変更した。

数分足らずで掃除が終わったとなれば、なんとも言えない気持ちにもなった。

そんな気持ちを払いながら、深桜は二振りの刀が飾られている棚から少し離れた場所にある座布団に座る。

御神体も御本尊も存在しないこの場所で深桜は祈りを捧げた。

 

転生させてくれたかの神に。

 

正直な所、どこの国が、どの宗教が奉っている神なのか分からないので、デタラメにやっているだけである。

御神体や御本尊代わりに、未元物質を素材に作り上げた二振りの刀を祀っているようなモノ。

しかも将来的に普通に刀として振るう予定であるのでありがたみもないというデタラメ具合である。

ただただ、感謝の祈りを捧げるためだけにこの建物を建ててもらったのだ。

もう少し形式ばったりした方がいいのかとか色々と考えたこともあるが、あっさりと諦めた。

 

祈りを捧げながら、深桜はこの四ヶ月間の間の出来事や諸々のことを話す。

 

そしてそれは、実戦が行われた日から遅くとも二日以内に必ず行う儀式でもあった。

 

 

  ◇  ◇

 

 

外で飛び回って遊んでいた上海らを引き連れ、離れに戻ると酷い匂いが漂っていた。

全くと言って意味が分からないが原因はそれとなく予想が付く。

深桜は上海らを警備に戻し、リビングを抜けた先にある場所に向かう。

匂いの元がここだと確信し、深桜はキッチンに突撃する。

 

「あら深桜さん、ちょうどよかったわ。ご飯にしましょう?」

 

「分かりました…」

 

キッチンに居たのは案の定、真夜だった。

そして既に料理を作り終え、キッチンの片付けをきちんと終えているのを見て、深桜は軽く絶望した。

 

「今日は新しい料理に挑戦してみたのよ~」

 

などと真夜が言っているのが聞こえるが深桜からすれば更なる絶望が訪れるのを感じてた。

真夜は普段料理などしない。

する必要がないとも言える。

だが、深桜に食べさせたいという思いからか、深桜が料理をする様子を見てやりたくなったのかは分からないが、真夜は不定期的に料理をする様になった。

それ自体は別にいいのだが、勿論問題もあった。

 

「…真夜さん、これは何ですか?」

 

深桜は少し大きめの器に入った黒い物体を指差しながら真夜に聞く。

 

「肉じゃがよ?」

 

何をどうしたらこうなるか分からないが、深桜はその黒い物体を食す。

黒々しい癖して普通に肉じゃがの味が口の中に広がる。

ただ、咀嚼音は「バリバリ」である。

 

「真夜さん、これは?」

 

「ふふっ…。当ててみて」

 

「…いただきます」

 

そんな会話を交わしながら別の器に入っている黒い物体をバリバリと食す。

こんなやり取りは毎回のように執り行われるが、食べる以外に道は無い。

 

「これは…」

 

「なにか分かったかしら?」

 

「不味い」

 

「やっぱり?」

 

そしてこれもいつもの事。

付け加えるなら作った本人が何を作ったのかを把握していないことぐらいか。

バリバリと音を立てながら、深桜は黒い物体たちと白米を食べていく。

白米については真夜が一切手出ししていない故に無事だったのだ。

 

「一応聞いておくけど、これは何?」

 

「分からないわ」

 

「…ですよね」

 

真夜の料理の腕は不思議が多い。

一緒に料理したら普通に作れる。

ちゃんと作れる。

一緒に作ったことのある料理なら、八割の確率で普通のができ、残りの確率で黒い物体ができる。

食感はバリバリとしているが、味等は普通なのである。

そして作ったことのない未知の料理を一人で作ろうものならただただ美味しくない黒い物体ができあがるわけだ。

 

初めて一緒に料理をする際に真夜の口から「塩酸」とか「硫酸」などと言った単語が出た時はさすがに慄いた。

本当に実在したのかと。

そして黒い物体が出来上がっていたときには気が遠のいたものだ。

作り方が気になったので聞いてみたところこう返ってきたときには殴ろうかと思ったぐらいだ。

 

  私は「夜」を作れるでしょう?だから料理で暗黒物質が作れるのよっ!

 

と、ウインク付きで茶目っ気を出しながらそう言ってきたのだ。

実際は、何故こうなったのか分からないからデタラメを言って誤魔化そうとしただけだったが。

 

不味いわね…と言いながら真夜も食べているのを見ると、どうしてそれが作れるのか不思議でならない。

 

そして食べ終えた後、何故か不味かったわねと笑いながら一緒に片付ける光景はまた不思議なモノだった。

 

 

 

 

 

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