桜が咲いたら、雪が……   作:何故か外れる音

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横浜騒乱編
横浜騒乱編 Ⅰ


 

「ぐっ…」

 

 弧を描くように振り上げられる足を視界の端に捉え、達也は両腕をクロスさせ撃ち落とされる踵を防いだ。

 斧を振り落としたかのような衝撃が両腕に伝わり、達也は更に体勢を崩しかけた。

 

 深桜と達也の二回目となる手合わせは、前回と同様に、序盤からつい先ほどまで達也が優勢だった。

 前回と違う点を上げるなら、手数は少ないが深桜が攻撃していたこと、そして今、立場が完全に逆転していること。

 深桜が攻撃に転じる、ただそれだけの事が、達也を追い詰めている。

 

 既に、しゃがみ込む形になるまで体勢を崩されているため、これ以上崩されるわけにはいかない。

 両腕の上にある足を払いのけ、達也は地に着いたままの片足に足払いを仕掛けた。

 

「アハッ…!」

 

 だがしかし足払いは空を切った。

 それは読んでいたとでもいうように笑みを浮かべながら跳躍した深桜の姿を確認し、背筋に走った悪寒に従い達也は防ごうとせず転がるように後ろに距離を取った。

 上手くタイミングを盗めたのに…と思いながら深桜は、標的が居ないため威力をかなり落とした右脚を地面に振り下ろし、後退する達也を逃がさない為に詰め寄る。

 

 転がりながら回避した達也は、深桜の姿を捉えるために視線を深桜がいる方向に向けた。

 その瞬間達也は自分の側頭部を狙いすまし放たれる蹴りを認識し、咄嗟に片腕でガードする。

 

 深桜は右足をそのまま振り抜く様に回すが、達也は少しも体勢を崩さずにやり過ごせた。

 そのことを達也が疑問を抱く間もなく、深桜は流れるように左脚で達也の側頭部を狙った後ろ廻し蹴りを放ち、達也はそれを流すようにいなし、体勢を立て直すために後ろに跳び腕の力で跳ね起きる。

 跳ね起きた達也は体勢を立て直す間もなく思考が停止し、こんな事を思わずにはいられなかった。

 

(……なん……だと……)

 

 達也の顔面に深桜の肘打ちが迫っていたが故であり、為す術もなく顔面に打ち込まれた肘に怯み、よろめきながら後退しようとする達也に深桜は容赦なく掌底を撃ち込んだ。

 

 

 仙峯寺拳法・奥義・仙峯寺菩薩脚

 

 悟りの峯に登りきった者は菩薩の貌となり、心囚われず、流れるような連撃が、自ずと繰り出される。

 無形の技であり、連撃の形は人により異なり、心の在りよう、拠り所とするものが現れる。

 

 

 達也が後ろ廻し蹴りを流したのを受け流れるように深桜は拝み連拳を繰り出したが、流されなければ、槍足の如く蹴り飛ばしていた。

 しかし、まだ、深桜の放つ仙峯寺菩薩脚は終わっていない。

 

 呼吸や感覚に異常をきたしながらもよろめきながら距離を取る達也との間合いを一瞬で詰め、深桜は拳を振るった。

 その拳の威力を殺すべく、どうにかタイミングを取り達也は後ろに跳んだ。

 しかし完全に殺すことはできず、達也は殴り飛ばされたことに変わりはなかった。

 そしてまだ、深桜の連撃はまだ終わっていない。

 

 殴り飛ばされ、宙を舞っている達也を殴り地面に叩きつけた。

 

 御子の忍びが楔丸を振るったように、深桜はその幻想をぶち殺すと言うように深桜は拳を振るう。

 飛天御剣流の抜刀術は「隙を生じぬ二段構え」を見習い、深桜はたとえ隙が生じたとしても、その幻想をぶち殺すと二回、拳を撃つことにしている。

 尚、もし、一発目がきれいに決まろうともしっかりと二発目もお見舞いすることを決めているため、二回拳を振るうことは確定事項のようなもの。

 

 地面に叩きつけられた達也は、すぐさま起き上がり反撃を始めた。

 今の一撃で決まったと思った深桜は、達也が元気な姿で襲い掛かってきたことに驚きを隠せない。

 達也の猛攻を防ぎながら、達也が元気になった要因を考える。

 

 そしてすぐに思い至った。

 

   もしかし…てッ!やり…す…ぎ…た…?」

 

 猛攻を捌きながら深桜が発したその言葉に、達也は猛攻を止めた。

 その予想は当たっていたようだ。

 

 自動的に『再生』が発動するレベルのダメージを与えてしまった。

 

 ただそれだけの話である。

 

「俺も思わなかったよ。再生するほどのダメージを加えられるとはね」

 

「同感」

 

 達也がそう言って再び猛攻を開始し、その言葉にたった一言だけ返し、深桜は達也の猛攻を捌き始めた。

 

 

 再び、達也が地面に叩きつけられた所で、二度目となる深桜と達也の手合わせは終わりを告げた。

 九月一日明朝、夏休みが明けてから最初の出来事であった。

 

 

 ◇  ◇

 

 

 夏休みが明けてから二日程、女子生徒の間では「一夏の体験談」なる自慢話で盛り上がっていたのは記憶に新しい。

「一夏の体験談」とは「結婚まで純潔を守り続けるもの」というのが一般的なこのご時世にて、最後まで行く直前でブレーキを踏む悪女的チキン・ランのことを主に指す。

 いくら女性としての振る舞いを身に付けたりしたとはいえ、性根の部分というのは変わらない。

 なので、男性に押し倒されただとか嘘を吐くことをしてまで新たに人間関係を構築しようなどと思えず、結果として、夏休み前と深桜の周りは相変わらず静かなものである。

 いや、変わったことは一つだけあった。

 毎時間という訳ではないが早朝や休憩時間といった空いた時間に、深雪が周りをうろつく様になった。

 

 それはさておき、九月の最終日には、第一高校では午後の授業を全て潰して、生徒総会・立会演説会・投票が行われた。

 真由美が念入りに根回しを済ましたからか、次期生徒会長に立候補したのは中条あずさだけであった。

 魔法科高校の生徒会長という役職は、高校卒業後も多大な影響力を持つというにも拘わらずである。

 第一にして、真由美と対立していた勢力から誰も立候補しなかったところをみると、対立派閥のトップ陣あたりは真由美の手駒だったのではと邪推してしまうのも仕方ないことだろう。

 

 また、四月に行われた公開討論会で真由美が宣言した通り、生徒会役員の選任資格に関する制限の撤廃、つまり二科生も生徒会役員になれる様になった。

 個人的には、反対派を応援していた所なのだが、深雪の一喝によって、なし崩し的に賛成多数で可決したのだった。

 

 ただ、問題があるとすれば信任投票の投票結果にあるだろう。

 投票数五百五十四票。

 内、有効投票数、百七十三票。

 

 どういうわけか深雪に二百二十票、達也に百六十票入っていた。

 

 およそ一世紀前の前世の学校で行われた信任投票ですら、こんな酷い事にはならなかったと深桜は思い出せる。

 そもそも信任投票なのだから、あずさが生徒会長になる事に信任・不信任、この二択であるはずなのである。

 電子投票という形をとっているのだから、信任・不信任の選択式にするべきだろうと思わずにはいられない。

 

 無効票を無効票として一緒くたにせず、無効票をご丁寧に分類してくれた第三者・選挙管理委員に問題があるのではないだろうか。

 

 

 そんな深桜以外にとっては怒涛の日々が過ぎ去り、新たな生徒会が発足された。

 

 生徒会長∸中条あずさ

 副会長∸司波深雪

 書記∸光井ほのか

 会計∸五十里啓

 

 以上のようになり、また、風紀委員長に千代田花音、部活連会頭に服部刑部少丞範蔵がそれぞれ就任したのが一週間前の事である。

 

 

 そんな事を考えながら、達也たちより一足遅れて帰宅すると、玄関に綺麗に揃えられていた見覚えのないパンブスがあった。

 見覚えのないというのはこの家においてはかなり重要な意味を持つ。

 何せ、兄妹+私以外に住んでいない。

 なので、客が来ていることになる。

 

 客といっても私には関係のない人だろう、と深桜は当たりをつける。

 分別をある程度弁えていたとはいえ、我儘し放題な軟禁生活を送っていた自分に客が訪れるのはありえないと深桜が考えるのも当然だ。

 

 ただ深桜の部屋は、小さな庭に面した一階の部屋  元々はゲストルームとして使われていたが、達也と深雪の手によってオープンテラスのような扱いとなっていた部屋が深桜が住まう際に再び改装された  である。

 間取りの関係上、一応顔を出しておくべきかと悩むところ。

 

 玄関で立ち尽くしているわけにもいかないため、深桜は無作法にも客がいると思われるリビングに突撃する事に決めた。

 どのみち、リビングに繋がる扉の近くを通る事に変わりはないのだから、一度顔を出しておくべきだという判断だ。

 

  貴方が進学しなければ別のガーディアンが手配されていたでしょう」

 

 リビングから女性の声でそんな言葉が聞こえてきた。

 なかなか面白いことを言う女性がいたものだと少しばかり面白いと感じてしまった。

 達也がその言葉に反論するタイミングで、深桜は一言口をはさんだ。

 

「ただいま」

 

 家に帰ってきたからには言うべきだという一言。

 リビングで面白い話をしていた二人からすれば、この瞬間水を差されるどころの話ではなくなった。

 

「…………おかえりなさい」

 

「…………誰?」

 

 達也からは普通に返事が返ってきたのだが、見知らぬ女性からは誰何の声があがった。

 それはこっちのセリフだ!と何となく言いたくなったが黙っておき、達也に目で、こいつは誰だと問いかけた。

 達也はその視線の意味を理解したが、どちらから紹介すべきかと逡巡したが、深桜の事を先に紹介することに決めた。

 

「小百合さん。こちらは司波深桜。俺と深雪の姉です。そして姉上、こちらの女性は司波小百合。親父の後妻…といえば分かるか?」

 

 司波小百合  旧姓古葉小百合。

 親父  司波龍郎が四葉深夜と結婚する前、司波達郎と恋人同士の関係にあった女性であり、良質の遺伝子を求めた四葉家の謀略により強引に別れさせられたという過去を持っている。

 そんな過去は深桜にとってはどうでもよい話で、気に留める価値のある点は、母  司波深夜が亡くなってから半年で司波龍郎と結婚したということぐらいである。

 正直な話、それすらもどうでもいい。

 

「へぇ…貴女が。……失礼。初めまして、司波深桜です」

 

 恐らく、司波深桜という存在がいるということは聞いていただろうが、四葉本家から出てきている事は聞いてはいなかったのだろう。

 その証拠…とまでは言えないだろうが、改めて名前だけ自己紹介したというのに、固まって動く気配が感じられない。

 固まって動かないので、現状を空想で補完しながら彼女、小百合の心境を考えてみることにした。

 

 幼少期の頃に四葉家本邸に軟禁されているはずの娘が、第一高校の校章入りの制服を着てここに居る。

 魔法が使え、四葉家本邸で育った娘が居ることになり、そして深桜がこの場に存在するには四葉家当主の許可が要る。

 妄想を重ねるなら、四葉家当主の息が掛かった娘がこの場にいる。

 

 先の発言のことも踏まえて考えると、なるほど、固まってしまうのも無理はない。

 

 九校戦の新人戦は見ていなかったのだろう、たぶんそうだ。

 一人そんなことを考えながら、未だに固まってしまっている小百合に微笑んでみた。

 すると、硬直から抜け出して自己紹介を軽くしてくれた。

 彼女が何か言っている気がしたが、それを聞き流しながら、彼女の経歴を疑似・禁書目録(ミサカネットワーク)から引っ張り上げていた。

 

 これ以上ここにいても仕方ないので、一言告げてからこの部屋を去ろうとした。

 リビングから出る際に深桜はある事に気が付いたので教えておくことに決めた。

 

「そう言えば、小百合さん」

 

「なにかしら」

 

「先に四葉家と話をつけたほうがいいですよ」

 

 深桜のその一言に小百合は目に見えて困惑した。

 唐突に、四葉家と話をしろと言われて、分かりましたとあっさりと返せる猛者などそうそういない。

 動揺しているのをどうにか隠そうと努めながら、小百合はどういうこと?と聞きたそうにしていた。

 

「知らないようなので教えておきます。仮に、マスター・ミストレスから解任されたガーディアンが現れた場合、その魔法師は四葉家に帰属することとなります」

 

「……は?」

 

 深桜のその言葉に反応を声を出したのは達也のほうだった。

 小百合のほうはまだオロオロとしていた。

 大丈夫なのかと気遣ってしまうが、達也から困惑の声が上がったということは知らなかったのだろうか。

 

「もしかしてだけど、解任されたら自由に、一般市民とまではいかなくとも四葉家から解放されると思っていたの?」

 

 そこまで言葉を続けて、わざとらしく一つ、大きく息を吐いて見せた。

 確かに、十年前まではそうだった。

 だが、達也がガーディアンに選任される折に少し変わった。

 

「達也も分かっていると思うけど、四葉家も例に漏れず、魔法師業界はどこも人手不足。そこは大丈夫よね?」

 

 確認を取る言葉に、達也のみならず小百合も首を縦に振った。

 幾度となく、達也をガーディアンからFLTの研究社員として引き抜こうと画策した経緯があるだけに、そのあたりの事情もそれなりに知っていた。

 

「次期当主候補の一人に付けるようなガーディアンを、マスター・ミストレスに解任されたからとそのまま野放しにするわけないでしょう」

 

 十年前まではそういう仕組みだった。

 達也がガーディアンになると真夜から教えられたときに、ついボソッと言ってしまった一言。

 

  ガーディアンを野放しにできる仕組みなの?ガーディアンを熟せる実力者を?

 

 この一言で、解任されたら四葉家に帰属することが決まった。

 正直、達也には悪い事したなぁと思っていなくもない。

 ちなみに当時の深桜は、何かある度にボソッと呟いていた。

 

「ガーディアンの性質上、四葉家の事を内部から知ることができる。情報秘匿の為に記憶を操作して解放する、という方法もとれるけど、そこまでするなら記憶を操作した後別の人のガーディアンに任命するなりした方が四葉家にとってはお得。あの四葉家がどちらを採るかなんて少し考えれば分かるでしょう?」

 

 言外に、愛する人を十六年の間奪われていたことを忘れたの?と言ってしまっているが深桜は気付いていない。

 そんな幻聴が聞こえたのか、小百合は悔しそうに食いしばっていた。

 

 魔法師業界はどこも人手不足。

 それは四葉家も同じことで、ガーディアンに充てられる人材など更に限られている。

 あの一言からそこまで発展するとは当時の深桜は思ってもいなかったが、あの時から既に真夜の溺愛は始まっていたんだなとかそれとなくふと思った。

 

 深桜の簡単な説明に、達也は感慨もなく納得していた。

 あの四葉家がやることだもの仕方ない。

 

 そんな小百合の人生に思うところがないわけではないので、深桜はさらに一つ思いついた。

 小百合の側面に移動しながら、一つ、提案してあげた。

 

「どうしても、というのなら、私から真夜さん…四葉家当主に話しておくわよ」

 

 四葉家の内情がどうなっているのかなど、小百合が知る術はない。

 そして、司波龍郎ですら四葉家本邸に軟禁されているという情報以外なにも知らない、そんな深桜の立場がどういったモノかなど以ての外であった。

 

 だが、この時の小百合は目聡く、深桜のその提案に達也が動揺し目を見開いている事に気付いた。

 少なくとも、深桜は真夜にお目通りすることなど容易く、意見することすらできる立場にあるということと考えて差し支えないない。

 そう小百合は判断した。

 

「……ほんとうに?」

 

 深桜がそこまでのことを出会って数分でやってあげると提案してくれるのかは分からない。

 もしや、自分の境遇を憐れんで何かで報おうとしているのかと、思ってしまった。

 

 深桜は小百合の後ろに回り込み、後ろから抱き着くような体勢をとった。

 思いがけない深桜の行動に、小百合は一瞬身体を震わして見せた。

 

 そんな小百合の耳元で深桜は告げた。

 

「司波小百合が、四葉家から魔法師を引き抜こうとしているってね」

 

 それは、駄目だ。

 小百合はそう思ったが声が出せないほどに硬直してしまっていた。

 

 それを知ってか知らずか、深桜はさらに腕に力を籠めるように、身体に引き寄せながら耳元で言葉をつづける。

 その時、達也は深桜の両目が怪しく赤く光を灯しているのに気付いたが、深桜が何をしようとしているのか見守ることにした。

 

「小百合さんが、どんな意図で行動しているとしても、達也にどんな感情を抱いていたとしてもね。四葉家からすれば、ガーディアンを熟せるような人材を引き抜こうとしてると判断してもおかしくないわ    

 

 四十五の人妻(後妻)を口説く旦那の連れ子(十六)の図。

 達也をそっちのけで、そんな光景が司波家のリビングに広がっていた。

 

 上階に逃げている深雪が気付くことはないが、明らかに異常な光景がそこに広がっていた。

 時間にしては十分と短かった。

 

 この十分が過ぎたとき、達也は、俗にいう、親バカの誕生を目にしたのだった。

 

 

 ◇  ◇

 

 

 親バカと言っても、深桜限定の話であって達也たちにそれが向けられることはなかった。

 八尺瓊勾玉の解析および複製の仕事について、達也とやり合った末、癇癪を起し、家を出て行った。

 ただ帰り際、深桜に今度外食する約束を取り付けて帰っていた辺り、それはなんとも言えない気持ちになった。

 

 何故か深桜と小百合が良好な仲を築いたことに、深雪が少しだけキレた。

 

 だが、深桜の次の一言でその怒りは霧散し、それだけに留まらず、既に帰って行った小百合を初めて哀れんだ。

 

  四葉家に十六年無茶苦茶にされたのだから、残りの人生を私に捧げても一緒でしょう?

 

 残りの人生、という言葉にやや引っ掛かりを覚えた深雪だったが、それ以降の小百合の深桜に対する執着具合を見て自ずと理解してしまうのだが、それは先の話である。

 

 深桜が心理掌握(メンタルアウト)を利用してまで、小百合を手駒にした理由は、端的に言えば自己満足である。

 四葉家に愛する人を奪われて十六年、そしてこれから先も四葉家を目の敵にして生きていくのは目に見えていた。

 それならば、どこかの山奥で母にならんと努める女性のようにしてしまえば、いいのではと思いついてしまったのだ。

 やり方は亜夜子にやったやり方のさらに時間短縮版。

 深桜に関する事柄を、親バカの思考に導き続けるというふざけた誘導を施した。

 ただ、モンスターペアレントやDQNになられたら困るので、そのあたりの分別はつけれるように。

 そんな面倒なことを施すのに十分程時間が掛かってしまったのだ。

 

 

 それは兎も角として、今、深桜はとあるビルの屋上に立っていた。

 

 その手に握られているのは、一昔前まで現役だったと言って過言ではない、ドラグノフ。

 だがそれはドラグノフの形をした、レールガン式の狙撃銃だった。

 

 先々月、亜夜子に持ってこさせた銃器を、この空いた一ヶ月の間にできた暇な時間に改造した物

 尚、引き金は、超電磁砲(レールガン)を登用し、レールガンを放つ要領で行われる。

 要は、長距離の射程を飛べるように加工が施された特殊な弾丸を装填するだけの装置である。

 

 小百合に関する情報を疑似・禁書目録(ミサカネットワーク)から引っ張り上げた際、小百合がこの後襲われることを思い出したのだ。

 そんな小百合を達也は助け出し、瓊勾玉を小百合から預かるのだ。

 だが、そこはどうでもよく、深桜にとって肝心なのは、達也が正確な狙撃を受けるという点であった。

 

 光学スコープのみで、千メートルの狙撃を成功させる。

 

 魔法を使わずに成功させると付け加えれば、かなりの技量を誇っている。

 そして、それを思い出して、深桜も久々に的当てすることにし、狙撃地点と思われる場所から二キロ離れた地点に都合よく建っていたビルの屋上に来たのだ。

 

 何も剣術や武術などに傾倒していたわけではなく、当然、銃撃、狙撃といったこともやってきた。

 だから、こんな事も当然やりたくなるわけだ。

 

   私は一発の銃弾

 

 小百合が乗ったコミューターを襲った男たちと達也が交戦しているのが見える。

 キャスト・ジャミングの嵐に晒されている中、相手の銃を分解していた。

 

   銃弾は人の心を持たない

 

 達也は分解魔法・霧散霧消の局所的に人体を分解した。

 何処をどう刺し貫けば、意識の耐久力を超えた痛みを人体に与えることができるか、どこをどう撃ち抜けば、意識の制御から四肢を遮断できるのか、それを理解して実践しているのが見えた。

 遠慮せず、分解すればいいのにとか思ってはいない。

 

   故に、何も考えない

 

 達也のやり方を見ていると油断しているのが見て取れた。

 そして、かの狙撃手はその油断を突き、狙撃を成功させ、達也の左胸を貫いた。

 

 深桜は狙撃手の頭に狙いを定めた。

 先の狙撃の腕を称賛するように。

 

 達也が狙撃手の位置を特定するため、コミューターに姿を隠しながら頑張っていた。

 それが少し微笑ましく目に映った。

 

 

   ただ、目標に向かって飛ぶだけ

 

 

 

 

 狙撃手の位置を特定した達也は、狙撃手を分解しようとしたその瞬間、白く発光する弾丸が狙撃手を貫いたのを見た。

 突然の出来事だったが、達也はその光の元をたどり、そして、見覚えのある情報体を捕えた。

 

「……姉上」

 

 深桜の情報体は特徴的で、穴抜けの様に部分部分観ることができない様になっているのだが、仕組みは全く分からない。

 相変わらず異色な情報体に身震いしながら、狙撃手と深桜の間にある距離を算出して達也は驚愕した。

 

(二千メートル…だと!?)

 

 一三〇〇メートルの狙撃を成功させたという話は達也も聞き及んでいた。

 だが、それが更に伸びているとなると、ただただ頭を横に振った。

 理解できないと。

 

 正確には二千三十九メートルだったがそんなの誤差である。

 達也は知らないが、深桜の絶対半径(キリングレンジ)は二〇四二メートル。

 また、あのウルス族の末裔に未だに届かず悔しがっている姿が、四葉家では確認されているのだが、彼らからすれば、深桜の狙撃の腕も十分おかしいので何を悔しがっているのか理解できずにいる。

 

 そんな驚きに包まれている中、達也は小百合から瓊勾玉を押し付けられるように受け取り、駅まで見送った後、帰宅した。

 帰宅早々、深桜が出かけていることを深雪から伝えられたが、状況は把握しているので、一先ず先に独立魔装大隊司令部の風間少佐に連絡を取った。

 

 カメラの処理を深桜の事も含めて行ってくれていることをまず最初に告げられた。

 街路カメラから身元を特定されるのを防がないといけないので、風間少佐の計らいに深く感謝した。

 そして、襲撃者について報告を終えたところで、話は深桜のことへと移り変わった。

 

  特尉の姉、深桜さんだったか。彼女は末恐ろしい女性だな。新人戦での動きにも、我々は驚かされたが、まさか、二〇〇〇メートルの狙撃を夜間に成功させるとは』

 

 風間の言葉に達也は同意して見せる。

 手合わせを含めて、深桜の底が全くと言って見えず、そんな中、新たに狙撃の腕がおかしいことが更におかしなことになっていることがわかったのだから。

 

『あと、深桜さんが使用したのはレールガンだろうな。二〇〇〇メートルの狙撃を行えるモノとなると軍に配備することも検討したい所だな』

 

「……姉上が帰宅次第、伺っておこうと思います」

 

『あぁ。よろしく頼む。それにしても、四葉家から彼女のような隠し種が出てくるとは思いもしなかったよ』

 

 風間が目を遠くしながら発したその言葉にも、何故か達也は同意して見せたのだった。

 

 

 

 

 

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