桜が咲いたら、雪が……   作:何故か外れる音

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今話から転生特典を異能と呼称します。


九校戦編 Ⅱ

 突然だが、魔法科高校の定期試験は魔法理論の記述式テストと魔法の実技テストで行われる。

 俗にいう一般科目の成績は普段の提出物の評価により決定されるのだ。

 魔法師の育成のための高等教育機関なのだから、魔法以外で競わせることは無駄だと考えられているらしい。

 

 さて、定期試験についてだが、記述式テストは必修である基礎魔法学と魔法工学に加え、選択科目の魔法幾何学・魔法言語学・魔法薬学・魔法構造学の中から二科目、更に魔法史学・魔法系統学の中から一科目選択し、計五科目行う。

 魔法実技は処理能力(魔法式を構築する速度)を見るもの、キャパシティ(構築し得る魔法式の規模)を見るもの、干渉力(魔法式がエイドスを書き換える強さ)を見るもの、上記の3つを含めた総合的な魔法力を見るものの四項目から評価される。

 この二つが魔法科高校、第一高校の定期試験の内容となっている。

 

 ここ第一高校では、成績優秀者の氏名を学内ネットにて公表されることとなっている。

 この話をするのだから、当然公表済みである。

 理論・実技を合算した総合点による上位者は、順当な結果となった。

 一位、司波深雪。

 二位、光井ほのか。

 三位、僅差で北山雫。

 

 ここまでA組の名が続き、四位にようやくB組の十三束という男子生徒が登場する。

 そして、司波深桜の名前は七位に記されている。

 実技のみの点数でみると、一名を除き、総合順位から多少順位の変動が見られる。

 具体的には、一位が深雪、二位が雫、三位が森崎、四位がほのか、深桜はフェードアウトしたが悲惨な結果ではなかった。

 

 そして理論のみの点数になると、面白い事が起っていた。

 一位、A組、司波深桜。

 二位、E組、司波達也。

 三位、A組、司波深雪。

 ついでに四位、E組、吉田幹比古。

 

 第一高校では、一科生と二科生の区分け、そして定期試験の総合成績は実技の成績が比重を大きく占めている。

 しかし、普通では、実技が出来なければ理論を十分理解することはできない。

 感覚的な理解を必要とする概念が存在するからというのが理由として挙げられる。

 深桜はともかくとして、二科生の生徒が上位に二人位置しているというのは前代未聞なことである。

 それだけに留まらず、深桜と達也は平均点で三位以下と十点差以上引き離していた。

 深桜に至っては、達也ともそれなりに点差が開いており、達也は深桜に記述で負けたことに彼が想像していた以上のショックを受けたことを言っておこう。

 

 深桜がこれほどの結果を理論で収められたのかは、異能による副産物によるものである。

 たとえ強力な能力を得たとしても、深桜が得た能力に関して言えば幻想殺しの様な一部を除き、彼女自身の脳髄、特に演算能力に依存する代物である。

 当然、彼女の脳髄の規格が低ければ転生特典で得られた能力の大多数を扱うことなどできないわけである。

 しかし、彼女の外見的に見受けられる特徴を見れば、深桜がそれらの能力を扱えている事は言わずとも分かるだろう。

 つまり何が言いたいのかと言うと、深桜の脳髄はそれらを十分に扱えるだけの規格、能力を備えていることに他ならない。

 ただ、深桜の場合はそれだけの脳髄を持って生まれることが転生する時に決まっていたというのもある。

 ついでに言えば、それらの能力に関する知識等も全て頂いた状態で。

 

 深桜が入学前、そして入学してから学んだ魔法に関する知識は、あくまでも異能の亜種程度に収まるものが多く、モノによっては劣化版と呼んでも差し支えない。

 勿論中には類を見ないモノも存在したが、無駄にハイスペックな脳のおかげで難儀せずに終わっている。

 

 魔法実技はどうかというと、深桜の実技のみの成績が上位二十名に含まれていない事を見れば分かるように、魔法実技が良くない様に見える。

 しかし、一高に一科生として入学する分には魔法実技の成績は収めており、さらに言えば、試験の比重を踏まえて考えても、総合成績で七位に収まるほどには魔法は扱える。

 理論における貯金をかなり吐き出しているが、達也の総合成績を考えれば、如何に、魔法実技に比重が取られているかも想像できるだろう。

 ついでに深桜の魔法実技が言うほどひどくないということも。

 

 魔法実技が今のレベルに収まっているのは単純な理由があり、深桜が魔法演算領域での演算に慣れていないだけの話である。

 慣れていないとは言え、これだけの成績を収められていることから、深桜の魔法力の高さもそれとなく察することが出来るのではないだろうか。

 

 

  ◇  ◇

 

 

 時は流れ、七月終盤。

 九重寺で、深雪のミラージ・バットという競技のトレーニングを行い、吉田幹比古が愉快な面子入りを果たし、達也が九校戦の技術スタッフとしてメンバー入りし、FLTで達也と深雪が父親にあたる司波龍郎と青木(執事)と会談し、幹比古が美月に迫ったり、トーラス・シルバーが飛行魔法を公表したりと色々とあったが、深桜が関わることはなかった。

 

 解せぬ。

 

 しかし、七月中盤から終盤にかけて少しだけ深桜の周りの事情が変わった。

 今、深桜の部屋に達也が来ている。

 ただそれだけのことだが、深桜にとっては非常に嬉しいモノだった。

 達也と深雪と共に過ごして、早三ヶ月、いや、そろそろ四ヶ月か。

 こうして達也が深桜の部屋に来ている事から察する事が出来るだろう、

 

「こんな時間にごめんなさいね、達也」

 

「いや、俺も姉上に話があるから大丈夫だ」

 

 正直な所、達也は今の様な事になるとは思っていなかった。

 こんなことになった原因は、四月、深桜がこの家に来た、帰ってきた日にあった。

 元々深雪は深桜の事を本当に気に掛けており、深桜がどの高校に進学するのかという事を気にしていた。

 しかし、四月になってもその情報が深雪の下に届くことは無く、深雪は気が気でなかったのだ。

 そんな矢先、深桜が一高の制服を装備して、一高に一緒に通うことを伝えるとどうなるか。

 普段の深雪であれば、感極まって涙を流しただろうが、今回の件に関して言えば、怒りと化した。

 翌日以降も続き、挙句の果てには、「あの人は私とは無関係です」などと口走ったほどだ。

 

 深雪の怒りが収まった頃には、深桜と深雪の精神的距離が、物理的距離として現れてしまっていた。

 深雪は深桜と仲直りしたいのだが、二つの距離とすれ違いの日常生活によりその機会を得ることが出来ずにいた。

 そのことに対する不満が募り、ブランシュ日本支部を壊滅させる際に少しやりすぎたりと、色々とあった。

 会話はないとはいえ、最近は家で共に食事をとるようになり、その不満は少し解消されている。

 

 こういった経緯があるということをつい先日達也は深桜に話した。

 その結果、お互いにどのような考えをしていたか等を話し合い、和解に達した。

簡単に言うと、深桜の考えすぎが、結果的に現状の長期化に繋がっていた。

 しかし今までとは違い、深桜は今、達也というスパイ、もとい仲介者を手にすることができた。

 何のかと聞かれれば、深雪との仲直りのである。

 

「んー…。それにしても時の流れは残酷よね。幼いころは私の後ろをねーさまねーさま言いながら引っ付いてたというのに」

 

「……姉上、それは俺ではなく深雪だ」

 

「そうだったかしら?」

 

「あぁ。俺は姉上の後ろをねーたんねーたんと言いながら追っかけていた」

 

「……達也、それは無いわ」

 

「姉上、俺もそう思った」

 

 

 閑話休題

 

 

 気を取り直し、達也の話から先に済ませることにした。

 

「姉上の八月の予定を教えてほしい」

 

「あらやだっ!束縛する気?」

 

 深桜のその返答を達也は予想しておらず、思わず頭を抱えてしまう。

 姉上、と達也が返答を促すと、深桜はあっさりと答える。

 

「八月に予定は入ってないわよ。九校戦を観戦する予定ではあるけどね」

 

「会場まで見に来る予定という事か?」

 

「いや、家でのんびり見ようと考えているわ」

 

「姉上が良ければの話なんだが、会場まで見にこれないか?」

 

「ん?会場まで行った方がいいかしら?」

 

「……深雪の話になるんだが、姉上と仲直りをしたがっているんだ。その為に、九校戦で活躍しようと意気込んでいるんだ」

 

「なんでさ…」

 

 ここにきて、深雪の行動が深桜の予想を超えてきた。

 どうしてその結論に至ったのか深桜は非常に気になるところだが、深雪が仲直りしたがっていると言うのであれば、今すぐ深雪の部屋に突撃したいぐらいである。

こんなことしてる場合じゃねぇと行動を起こそうとするが、それは達也に止められた。

 その理由は、どうせなら張り切っている深雪の実力を見てみたいらしい。

 それはそれで興味が湧いた深桜は、達也の言葉に従うことに決めた。

 

「次は姉上の番だが」

 

「それならもう必要ないわよ。深雪と仲直りできることが分かったから」

 

 この時、達也は深桜が深雪と仲直りしたがっているということを知り、どうして早く行動を起こさなかったんだと少し前の自分を少しだけ恨んでみた。

 それから少しばかり雑談を交わし、達也は自室へと帰って行ったのだが、そこには深雪が待機しており達也は八つ当たりを食らう羽目になった。

 お兄様だけ、お姉様と仲直りしていたなんてずるいとかなんとか。

 

 

  ◇  ◇

 

 

 全体的に白い少女は真っ白なベッドの上に居て、上半身だけを起こしていた。

 ベッドの側にある窓は開いていて、ひらひらとカーテンが揺らいでいた。

 

 そんな少女とは別に一人、人の姿がそこにはあった。

 男性とも女性ともとれる顔つき、身体つきをしている全体的に中性的な人だった。

 

 白い少女が中性的な人と目を合わせた。

 

「本当によかったのかい?」

 

 何がですか、と少女は答える。

 

「君の思い出を全て消したことさ」

 

 真っ白な少女は黙り込む。

 もう何も覚えていなかった。

 思い出を消す前の少女が、記憶を消した後の少女に宛てて書いた手記を読んで思い出を消す前の自身の事を知っているに過ぎなかった。

 それは、他人の日記を読んでいるのと何も変わらない。

 

「良かったんじゃないかと思いますよ」

 

 白い少女はそう言った。

 他人の日記なのに、そこに書かれていた記録は、とても楽しくて、とても辛いモノだった。

 消した記憶はもう戻ってこないのに、何故だか、思い出を消す選択をした自分の事を理解できたから。

 

「私は、前の私は、ただ世界の人たちと笑い合っていたかったんだと思います。だけど、この身に、魂に宿した力は、世界の人たちにとって脅威で、恐怖の対象でしかなかった。たとえ、彼女に害意がなかったとしても、彼女を取り巻く環境は悲惨で、悲しいモノだったと思いました。それが、どれほどのモノだったのか、私は思い出すことはもう出来ないだろうけど、確かに私はそう思ったんです」

 

 白い少女は、優しそうな、悲しそうな、複雑な表情を浮かべながら、どこか遠くを見つめていた。

 

「貴方はどうして私の思い出を消してくれたんですか?」

 

「どうして、と言われてもね。…君をこの世界に転生させたのは私だったから。普通なら、この様な結末を向かえることはなかったし、私がこうして再び、君の前に現れることもなかった。私がしっかりと見張っていれば、こうはならなかったのかもしれない。再び、君の前に現れた時には、君はもうボロボロだった。取り返しのつかないほどにね」

 

 中性的なその人は、悲しそうに、そして申し訳なさそうに、悲痛な笑みを浮かべていた。

 手違いで、起ったこととは言え、彼女の望みを叶え、彼女の希望に沿うように、彼女が幸せになれるように、と送り出したつもりだった。

 だけど、その結果が今だ。

 

「案外、私はまだ覚えているのかもしれませんね」

 

 中性的なその人は、びっくりしたように真っ白な少女をみる。

 

「なっ…、何を言ってるんだい?君の思い出は私が消したんだ。魂の記憶からも、君の脳細胞からも…」

 

 我ながらつまらないことを言っている、とその人は思う。

 けれど、その人は言った。

 

「……君の思い出は最初からなかったことになったと言ってもいい。君の記憶はもうないと言うのに、一体人間のどこに思い出が残っていると言うんだい?」

 

 なんとなく、この少女の答えは、

 そんな事など、一発で吹き飛ばしてくれるかも、と思ったから。

 

「どこにって、それは決まっていますよ」

 

 真っ白な少女は答える。

 

 

「―――――――心に、じゃないですか?」

 




突然の禁書ネタ。
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