桜が咲いたら、雪が……   作:何故か外れる音

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九校戦編 Ⅵ

 九校戦・新人戦・三日目

 

 午前の競技が終了し、アイス・ピラーズ・ブレイク、新人戦女子の部は出場選手三名全員が快進撃を見せ、決勝リーグの三枠を独占した。

 バトル・ボードでも決勝に進出している、その一方、一年男子はお世辞にも良いと言える成績を収められていない。

 

 深桜は達也から送られていた経過報告を読み終えた頃、会場に着いた。

 決勝リーグが行われるのは午後から、ということを深桜は知っていた。

 

 達也から送られてきた経過報告には、深雪と雫が決勝戦を行うことが記されていた。

 そうなることが知っていたとは言え、巫女姿と振袖姿の女子が対峙する決勝戦を深桜は一応楽しみにしていた。

 

 

「……遅かった。いや、どっちかというと間に合った?」

 

 

 深桜が会場に着いたときには、既に試合は始まっており、さらに言えば、雫が二つのCADを握っている。

 雫の姿を見るからに、達也から授けられたCADの複数操作を行ったということが分かる。

 ただ、それが功を奏したかといえば全く意味を成しておらず、深雪の陣地の氷柱に傷をつけることすら叶っていない。

 本来であれば、深雪の陣地の氷柱に傷をつけることができていたはずなのだが、ここにいる深雪の集中力は、雫が見せた技術に動揺はしても、魔法の継続処理を途切れさせることは無かった。

 それどころか雫が放った『フォノンメーザー』に対し、冷静に処理していた。

 

 そして今、深雪が新たに魔法を展開するところであった。

 

 

 広域冷却魔法『ニブルヘイム』

 領域内の物質の比熱、相に関わらず均質に冷却する魔法。

 応用的な使用法として大規模冷気弾を作りだし、攻撃対象にぶつけるという使用法が存在する。

 

 

 もはや試合終盤の展開であった。

 明らかに間に合っていないが、深桜の目的を果たすという意味では間に合っていた。

 

 ニブルヘイムを扱う所を見る機会などめったにない。

 当然、この起動式、魔法式の回収を行わない理由は無い。

 

「達也に頼めば起動式を教えてくれそうな気はするけどね」

 

 あくまで気がするだけであり、扱えるかも分からない起動式を達也が教えてくれるかと言われるとあり得ない話ではあるが。

 そんなことを深桜が思っていると、深雪がニブルヘイムから氷炎地獄(インフェルノ)へと魔法を切り替えた。

 

 そして次の瞬間、雫の陣地の氷柱、全てが轟音を立てながら一斉に崩れ落ち、深雪の優勝が確定した。

 

「……うん。見たいものは見れたし帰りましょ」

 

 深雪がステージから舞台裏に引っ込んだ後、深桜はホテルに帰ろうと会場の出入り口に移動しようとした。

 ただ、その出入り口周辺に見覚えのある人物が立っていた。

 

「ここで何をしているの?達也」

 

 状況から考えて、達也が待っているのは自分だろうと当たりをつけ深桜は話しかけた。

 恐らく、深雪のことだろうとも。

 

「姉上に聞きたいことがあったのでこうして待っていました」

 

「私が居る事も忘れないでくださいね」

 

 達也が聞きたい事と言われても、深桜に心当たりはない。

 何を聞きたいのかが気になる。

 そのために。

 

「真由美さん。貴女は引っ込んでなさい」

 

「あのねぇ…。私も気になるからこうして達也くんと一緒に来たに決まっているでしょう?」

 

 正直な所、真由美が気になっている部分は達也の其れと違う。

 達也もそれを勘付いている。

 

「……姉上。同感です」

 

「ちょっと達也くん?」

 

 真由美としては、達也は自分の味方をしてくれると、愚かにも思っていたため瞠目した。

 非情にもそんな真由美を放置し、深桜が達也に尋ねる。

 

「それで達也、聞きたい事って何?」

 

「聞きたいことは一つです」

 

 達也は真剣な表情で、前置きをする。

 達也のその言葉に隣で真由美が真剣に力強く頷いている。

 引っ込んでろ、と言ったとはいえ、真由美にもここまで力強くくるため、深桜はそれとなく身構えておく。

 

「深雪に何をしたんだ?」

 

「そうそう、深雪さんに何を…って違うでしょう!?聞きたいのは、深桜さんの今の恰好でしょう!?」

 

「えっと…?」

 

 いつもであれば暴走している段階の集中を見せていた深雪が、暴走する事なく競技を終わらした。

 競技が始まる前に見定めていた力量を、深雪は超えていた。

 それこそ雫が一矢を報いることすらできないほどに。

 

 そしてそれは、達也が見ていない場所で起こったことで、深雪がこの九校戦にかけているモノを考えれば、自ずと深桜が何かしたという可能性に辿り着く。

 

 だからこうして直接聞きに来たのだが、真由美の邪魔が入るとは思いもしなかった。

 だが、真由美の問いはそれはそれで気になるところではある。

 

「会長から先にどうぞ」

 

 それゆえに達也は真由美の件から先に済ますことにした。

 

「そ、そう?じゃあ、お言葉に甘えて。深桜さんのその恰好は一体何ですか?昨日は深窓の令嬢と言える衣服を着ていたと言うのに」

 

「…ん?何か変?」

 

 真由美にそう言われても、深桜は全くといってピンとこず、首をかしげた。

 

「何か変…って、「Welcome ♥ Hell」なんて意味の分からない服着てるの?何がウェルカムよ!地獄を司ったつもりなの!?」

 

「何を言ってるの?」

 

「うぐっ…。あとその服どこで買ってきたの?昨日の服の方がとても似合っていたわ!」

 

「同じところよ?」

 

「うそでしょ!?」

 

 無かったから深桜が作った、が正しい。

 真由美には同じ店で売っていた、と勘違いさせている方が面白いと考え、あえて、黙っておく。

 その意図を達也は察し、黙って見学に回ることにした。

 こんな真由美が見られるのはそうはないだろう。

 何より、いつも深雪に関することで弄られていると言うこともあり、今の真由美が新鮮である、ということもある。

 

 そんな勘違いを起こし、このセンスの幅は一体…と嘆いている真由美を放っておき、深桜は達也の方に向き直った。

 正直、真由美の件はどうでもよい。

 

「それで、達也は深雪の何が気になったのかしら?」

 

「あぁ、ただ、先にこれだけは言わせてほしいんだが」

 

「…?何かしら」

 

「その服のセンスはどうかと思うぞ」

 

「安心しなさい、達也。私も酷いと思いながら着ているから」

 

「そ、そうか…」

 

「それで?深雪がどうしたの?」

 

 再三の催促にようやく従い、昨日と今日の深雪の様子について達也は語った。

 その語り様に深桜は少しだけ引きはしたが、達也の事情を知っている以上、妹を熱く語る弟の姿が何故か微笑ましく思えた。

 

「と言われてもねぇ…。これといってした覚えはないわよ?強いて言うなら、昨日、深雪に頑張ってねって伝えたぐらいかしら。口パクで」

 

「…それだな」

 

「これなの?」

 

「あぁ。今の深雪を考えると、それ以外には考えられない」

 

「…そうなのね。ねぇ、達也。深雪ってそんなにシスコンだったかしら」

 

「そう言われてもな…」

 

 これに関しては、達也も分からないし、もちろんの事深桜にも分からないことである。

 

 二人して首を傾げるも分かるはずもなく、嫌われていないだけマシか、という結論に至り、この場は解散となった。

 

 

  ◇  ◇

 

 

 九校戦七日目、新人戦・四日目。

 今日から九校戦のメイン競技と言われるモノリス・コードの新人戦、予選リーグが始まる。

 しかし、観客の関心は女子生徒のみの競技であり花形競技である、ミラージ・バットに集まっている。

 カラフルなユニタードにひらひらのミニスカート、袖なしジャケットもしくはベスト、と言った恰好をした若い女性が空中を舞い踊る競技である。

 

 華やかさにかけては、魔法競技中随一であるミラージ・バット、その新人戦予選をほのかと里美スバルが見事勝ち抜いた。

 それだけに留まらず、ほのかが一位、スバルが二位というこれ以上と無い成績を収めたのだった。

 

 そんな女子の素晴らしい成績に対し、男子の方では事件が起こっていた。

 四高生徒によるものと思われるフライング、及びオーバーアタックにより、一年男子の代表生徒、全員が病院送りとなった。

 魔法治療でも全治二週間、三日間はベッドの上で絶対安静である。

 

 この事態に対し、十文字克人が相手の不正行為を理由に特例を認めさせ、選手の入れ替えを行えるように漕ぎ着けた。

 それを受け、一高は新人戦の優勝を目指すことにした。

 ただ、三高の出場選手は十師族の一つ、一条家の長男で次期当主である一条将輝、弱冠十三歳で仮説上の存在であった基本コードの一つを発見した天才、吉祥寺真紅郎の二人が出場するため、モノリス・コードを獲るのは難しい。

 そして、三高以外がモノリス・コードを獲らなければ、一高が新人戦で優勝することができないが、他高にそれを求めるのは困難を極める。

 

 そんな現状を打開するため、司波達也に白羽の矢が立てられた。

 最初こそ、拒否していたのだが、克人の言葉を受け、達也はそれを受け入れた。

 

  逃げるな、司波。たとえ補欠であろうとも、選ばれた以上、その務めを果たせ

 

 そこまで言われ、拒否し続ける理由もない。

 なお、責任は全て責任者である真由美達が負うとも伝えられている。

 

 更に、達也は他二人の入れ替えメンバーを決めるように告げられた。

 達也が悪乗りした結果、チームメンバー以外から選ぶことも許された。

 

  例外に例外を積み重ねているだけだ。あと、一つや二つ、例外が増えても今更だ

 

 そう言われたら、達也は例外を更に二つ重ねたくなった。

 まず一つ目の例外、チームメンバー外からの招集。

 これにより、急遽九校戦に出場する選手が二人増えることとなる。

 

 そして、栄えある犠牲者として指名されたのは、1-E、吉田幹比古。

 

 二つ目の例外は、女子生徒の指名。

 モノリス・コードは男性競技とされている競技である。

 

 そうして、達也は真由美と克人を引き連れ、幹比古の説得を行った後、深桜を説得するために一時間かけ深桜が宿泊しているホテルへと到着したのであった。

 因みに、達也に話が来たのが十九時頃の事であり、時刻は既に二十一時を指している。

 また、達也は深桜に、今から会いに行く、としか伝えていない。

 

「こんな時間に何の用かしら?ねぇ?真由美さん?」

 

 不機嫌であると隠すことなく周囲を押さえつける様な威圧を放つ深桜を目の当たりにして、真由美は固まって黙り込んでしまっている。

 ここに辿り着く道中は深桜さんに今日も会える!などと、調子よかったと言うのに、今となってはその欠片も見受けられない。

 こうなってしまっては何をしに来たのかすらも分からない。

 器用なことに、真由美を狙い撃ちし達也と克人には何のプレッシャーも感じさせていない。

 二人の目には、不機嫌さを隠すことなく見せている様に見えているだけである。

 

 決して、達也たちがこの時間に会いに来たことに深桜が不機嫌になっているのではない。

 達也から会いに来ると連絡があった時に、深桜は大体察していた。

 ただ、真由美を制圧しないといけないという謎の使命感に追われているだけで、その工程で都合の良い不機嫌さを見ているだけである。

 

 モノリス・コードに関する事、それも選手の入れ替えに関する事だと。

 でなければ、真由美と克人がここに来る理由が分からない。

 

 こんな時の切り込み隊長が使い物にならなくなっている為、代わりに克人が事情を説明し、達也が深桜に要請する形となった。

 

「だから姉上、モノリス・コードに出場してほしい」

 

「構わないわ」

 

「あ、あぁ」

 

「何か?」

 

「いや、姉上が纏っている雰囲気からして断られるものと思っていたからな。快諾されるとは思いもしなかった」

 

 達也がそう考えるのも無理がないほどに、真由美は縮こまっていた。

 とある犯罪シンジゲートによる九校戦、というよりは主に一高への妨害工作が行われている事もあり、真由美はいつも以上に張り詰めている。

 だが、そんなことは知らんとばかりに縮こまらされている様をみていると気の毒にさへ思える。

 

「あぁ、それね。可愛い子が怯えて縮こまってる姿ってとても可愛らしいじゃない?」

 

「はっ…?」

 

 深桜が満面の笑みを浮かべながらそう言うと同時に、真由美を支配していた威圧感は霧散した。

 深桜の言葉が理解できず、呆けた声がでたのも仕方ないだろう。

 声だけでなく、間抜けな姿をさらし続ける真由美に深桜は薄らかに口元に笑みを浮かべる。

 

「勿論、他意は無いわ」

 

 最初こそ、何故そんなことを言われたのか分からなかったが、理解が追い付いた真由美は怒っていますとでもいうように頬を大きく膨らませる。

 子どもっぽさをみせる彼女の姿に、可愛いとか思う人はこの場に一人もおらず、居たたまれない空気が流れる。

 そんな空気を察しながらも怒っているんだと意思表示し続ける真由美を深桜はあからさまに嘲笑し、一言付け加えた。

 

「悪気もないけどね」

 

「尚更悪いわよ!」

 

 

  ◇  ◇

 

 

 あっさりと深桜もモノリス・コードに出場することとなったわけだが、深桜が出場するということは深雪たちには伏せることとなった。

 サプライズ、などと宣う真由美に深桜が迎合した結果である訳だが、達也はこの事を深雪に黙っている事を考えると胃が痛くなるのを感じている。

 だと言うのに、深桜がモノリス・コードに出場すると決めた理由が、深雪にだけ頑張らしておいて、自分だけ何もしないと言うのは違うんじゃないかと思ってね、と語っていたのは嘘だったのではと、今の達也は愚考する。

 深雪を通した嫌がらせをされているのではとすら一瞬考えてしまうも、今回言い出したのが真由美だったことをしっかりと思い出し、それは無いな、と考えなおした。

 

 あのあと激怒した会長を上手いこと鎮圧し、短いながらも築き上げた縁を更に深めると言うなんとも不思議な手腕を発揮した深桜を見ていると、何故三ヶ月にも渡って深雪との膠着状態を作り続けたのか理解に苦しむ。

 

 そんな二重の状態異常を負っている達也と数名を引き連れるように深桜は自分が使用するCADを準備するために作業車に来ていた。

 時間は既に二十二時を回っているからか、深雪たちはここに来ていない。

 仮に来ようとするものなら、取って付けた理由で真由美に連行されたことだろう。

 

 作業に移る前に作戦会議とやらを終わらさなければならいないのは、深桜にとって億劫であるが。

 また、その作戦会議に移る前に幹比古に付いて来たE組メンバーをどうにかしなければならない。

 エリカに至っては、なんで一科の女子生徒がここに居るのよと不満げである。

 深桜にとっては一応、アウェーの環境に置かれているため達也が場を仕切る。

 

「知っている人も居ると思うけど、一応皆に紹介するよ。1-Aの司波深桜。四月の件と深雪の不本意な頑張りで俺達と無関係ということになっているが、実際は俺と深雪の姉だ。皆、仲良くしてほしい」

 

 軽めに深桜の紹介が行われたが、司波兄妹の姉と言われ、最初こそ困惑していたが気を取り直し、エリカから順に自己紹介を行う。

 だがやはりと言うのか、未だにどこか納得していない様子ではあるが、話を続ける。

 

「言い忘れていたが、姉上がモノリス・コードに出場することは深雪たちには伏せておいてくれ」

 

「え?」

 

 エリカたちは別に言っていいんじゃないのと疑問符が飛び交っている。

 そんな面々を見て深桜が補足した。

 

「真由美さんと克人さんが決めた事ですから」

 

 真由美の言葉に迎合した自分の事を伏せ、その光景を見ていただけの克人を首謀者の一人として担ぎ上げ、エリカたちに笑いかける深桜を見て達也はどこか他人事のように二人の事を案じていると、そのまま作戦会議へとシフトしていった。

 たった一言ではあったが、十師族の血筋たる二人の名が出たこともあり、渋々ではあるが納得していた。

 

 あまりにも時間が無く、作戦らしい作戦は立てられず、ぶっつけ本番の力技となると、会議は始まった。

 作戦らしい作戦が立てられないのに行われる作戦会議とは一体何なのかと、深桜は一人明後日の方向を考えているが会議は依然と進んでいく。

 

「まず、フォーメーションについてだが、オフェンス二枚と遊撃一枚、もしくはオフェンス、遊撃、ディフェンスにそれぞれ一枚づつ配置する二つを考えている。あぁ、どちらにせよ、幹比古には遊撃を頼むことになる」

 

「…後者の方がバランス取れていいんじゃない?」

 

「遊撃ってなにをしたらいいのかな?達也」

 

 幹比古の問いはエリカの質問が先に為されたこともあり後回しにされる。

 

「最初に言ったと思うが、俺たちはぶっつけ本番で力技を披露していかなければならない。姉上が出場しないなら、レオを巻き込んで後者のフォーメーション一択になっていたんだが、今回は姉上がいるから、攻撃に重点を置くこともできる」

 

「お、おう。…お姉さんがいてくれて助かったぜ」

 

「代わってあげましょうか?」

 

「…………遠慮するぜ」

 

「まぁ、今回は姉上と話を終えていることもあり、オフェンスが俺、遊撃が幹比古、ディフェンスが姉上となる」

 

 会場に戻るまでの間に、役割については既に話し終えていた。

 達也としては、深桜にオフェンスを頼みたかったものだが、達也にディフェンスを仕切れるかと言われると、正直分からない点が多い。

 そういった事情も汲み入った結果、この型となった。

 

 この後は、幹比古に遊撃でやることを説明し、幹比古のCADを達也が借り入れ、競技用CADに幹比古の扱う魔法を改良し、書き込むこととなった。

 深桜としては、そこに記録されている起動式の数々を観させてほしいモノだが信用にかかわる問題でもあるので諦める。

 競技に使用できるCADを準備してきた中条あずさから、CADを受け取っている深桜を見て、幹比古が気になったことを聞く。

 

「ねぇ達也。僕のCADは達也が準備することになったけど、深桜さんのCADも達也が準備するの?」

 

「いや、俺が準備するのは自分のと幹比古のだけだ。姉上は自分で準備するそうだ」

 

「え、深桜さん自分で準備するんですか?」

 

「達也くんに任せた方が良いんじゃない?何て言ったって、達也くんが担当した子は皆上位入賞しているわよ」

 

 深桜が自分で調整すると聞いて、美月が驚くように反応し、その驚きを補完するようにエリカが続けた。

 あの深雪が達也にCADの調整を任せている事もあるが、何よりこの大会での達也の実績を鑑みればそう思うのも仕方がない。

 そんな二人の言葉に反応を示したのは、深桜ではなく達也であった。

 

「言い方が悪かったな。姉上のCADは姉上以外で準備することができないんだ」

 

「ん?それってどういうことだ?」

 

 レオが達也の言葉に素直な反応を示した。

 そしてそれはあずさを含めた全員の総意でもある。

 

「そうだな…。幹比古の競技用CADは、幹比古のCADにプログラムを書き込むことで準備するんだけど、姉上の場合はこれが使えないんだ」

 

「それってつまり?」

 

「姉上はCADを持ち歩いていない。さらに言えば、姉上のCADを調整したことが無いから、姉上のCADにどんな魔法がプログラムされているのか分からないということもある。要は、俺は手出しできないということだ」

 

「…それって深桜もプログラムできなくない?」

 

 エリカの疑問はもっともであり、誰もが疑問に思う事。

 あの達也が準備できないと言っているようなものであり、深桜がどうやって準備する気なのか気になるところ。

 起動式というのは、もっとも単純な起動式ですらアルファベットで三万字相当の情報量がある。

 それは魔法師としては常識と言っても過言ではなく、当然、深桜が扱っている魔法が複雑化するほど起動式の規模は大きくなるのも言わずとも分かるだろう。

 

 だからこそ、深桜がどうするのか気になるのも当然と言え、エリカたちは深桜からレオに切り替えるべきではと考えるようになっていた。

 

 達也は深桜に大丈夫と言われ気にもしていないが、E組メンバーの思いも分からなくはない。

 そんな彼らの思いも他所に、深桜は達也に一つ要求する。

 

「ねぇ達也。ここに来る時に言っていた小通連だっけ?どこにあるのかしら」

 

「一応ここにあるが…。まさか使うのか?」

 

 深桜が要求したのは、達也が道楽で作った武装一体型のCAD。

 全長 70cm、刃渡り50cm程度でナックルガード付きの模擬刀のような形状をしており、刀身を二つに分け、分離した部分と柄に残った部分の相対位置を硬化魔法によって固定する仕組みになっているCADである。

 分離できる部分の重量はあまり無く、相手を戦闘不能に追いやるにはそれだけの腕力がないと成り立たない武器であり、使用者は著しく限定される代物である。

 それを分かっている達也としては、深桜がそれを要求するとは思いもしなかった。

 

 ただ、会場に帰ってくるまでの雑談のネタとして扱った遊び道具を要求されるなどと誰が考えようか。

 

「流石にこのまま使いはしないわよ。色々と弄らせてもらうわ」

 

「そうか…。それで、CADはどうするんだ??まさか、小通連だけで挑む訳じゃないよな」

 

「それはそれで面白そうね。そうしようかしら」

 

「えぇ…」

 

 まさか乗ってくるとは思わず、殆どの人が言葉を失っている。

 そんな光景が出来上がるとは思わず、深桜の頭の中は疑問符で溢れていた。

 

「え?冗談よ。それで、CADだっけ?どうするって言われてもね、準備する以外ないでしょう?」

 

 疑問符だらけの頭の中を切り替えるも、深桜にとっては疑問が尽きない。

 一体何を聞かれているのかが分からないのだ。

 

 何を言っているの?と表情に出していると、達也はその疑問をそれとなく理解した。

 

「姉上が自分のCADも無く、競技用のCADを用意するのかが気になっているんだ」

 

 先程の会話を聞いていなかった深桜は、ようやく聞かれていた意味を理解した。

 

 

「それは一つしかないでしょう?直接起動式を書き込めばいいだけの話じゃない」

 

 

 深桜が不思議そうな顔をしながら、さも当然とでも言うように告げた言葉が、エリカたちは理解できずにいた。

 

「いや、いやいやいやいや。何言ってるの?」

 

「何って…。えっ?自分が使う魔法の起動式ぐらい覚えているモノじゃない?」

 

「…………普通は覚えないわよ。そんなもの」

 

 そんなものとは酷い言い草ではあるが、間違っても覚えておくようなものではない。

 達也は深桜が四葉の秘匿技術であるフラッシュ・キャストをバラしているようにしか見えないが、深桜の様子を見るからには、起動式は覚えていて当然なものと本気で思っている様にしか見えない。

 

 エリカたちの身近な所に、起動式を解読できるという規格外が存在しているためか、その姉である深桜が起動式を記憶していることは自然なことと捉えてしまえる。

 

 達也という存在がフィルターとなったため、そういった技術が存在するという考えに至らないというのは、不幸中の幸いか。

 それ以上に、起動式を記憶するということと四葉家を結び付けることの方が非常に困難である。

 

「……達也と深雪の姉って話は嘘じゃないみたいね」

 

 エリカのその呟きはここにいる面子の総意を表していた。

 

 

 

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