スタンド使いはヒーローになれるのか?   作:玉砕兵士

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はい、皆さま大変お久しぶりでございます!

8ヶ月振りの更新でお待たせしてしまい大変申し訳ありません!!
物語の進行的には文字数が今までの3倍近くにもなっているくせに、あまり進んではおりません。
他の投稿している奴を進めるために、時間が掛かってしまいました。
そっちも一年半近く進めてないというドンガメっぷり、構想の都合上2話連続で投稿できるように準備をしていました。(まだ準備中)

もう忘れている方ももちろん多いと思いますので、読み直すのがめんどくさい方は大雑把ではありますが物語を少し解説します


USJへ救助訓練に訪れた吉良と1-Aは死柄木率いるヴィラン連合の襲撃に遭う。
なんと彼らの目的は平和の象徴オールマイトの抹殺であった!!
相澤先生ことイレイザーヘッドは広場で多数のヴィランを迎え撃ち、出入り口では1-Aとスペースヒーロー13号先生に黒霧が襲いかかる。
その戦闘の最中、黒霧の策略により1-Aは散り散りになってしまう。


はいほぼっていうか全部原作通りになります。
とりあえず今回は大人しめに変わってきてます。

ではどうぞ!


14話

〈水難ゾーン〉

 

 

「ありがとう、蛙吹さん。」

 

「梅雨ちゃんと呼んで。しかし大変なことになったわね。」

黒霧の策略により1-Aの生徒達らはUSJ中央広場を中心に様々な災害ゾーンに少数でしかもその災害ゾーンでの地理に特に効果的な個性を持ったヴィラン達がいる場所にワープさせられていた。

この水難ゾーンでは水中での戦いを得意とする個性を持ったヴィラン達が集められ、飛ばされて来た緑谷、蛙吹、峰田の3人を標的として襲い掛からんとしていたが、この水難ゾーンに飛ばされた中で最も機動力の高い蛙吹の機転で緑谷と峰田は辛くも一時的にではあるが危機を脱出して中央の船へと逃れることが出来ていた。

 

「カリキュラムが割れてた。単純に考えれば先日のマスコミ侵入は情報を得るために奴らが仕組んだってことだ。轟君が言ったように虎視眈々と準備を進めてたんだ。」

いつも教室では穏やかな表情を見せていた緑谷からは意外なほどに厳しい表情と口調に自分達の置かれた状況があまりよろしくない事を改めて認識する蛙吹は心中では不安ではあったが決してそれを顔に出すことはなかった。

 

「でもよ!オールマイトを殺すなんて出来っこねえさ!オールマイトが来たらあんな奴らケチョンケチョンだぜ!」

そんな彼女の心中を知る由もない峰田の楽観的な考えは分からなくもないが、現状はそこまで事が簡単に進むとはとても思えなかった。

 

「…。峰田ちゃん。殺せる算段が整ってるから、連中こんな無茶してるんじゃないの?」

彼女が比較的に冷静な判断が出来る人間であったということもあったが、不安を口に出すことはおろか心の中で思ってしまうことでさえもそれが現実に起きてしまいそうで恐ろしかったからだ。

だが、だからといって言わないままにしておくことは出来なかった。してはならなかった。

 

「そこまで出来る連中に私達嬲り殺すって言われたのよ。オールマイトが来るまで持ちこたえられるのかしら?オールマイトが来たとして無事に済むのかしら?」

悲観的になりすぎるのも良くないが、今は最悪もまた想定して動くのが最も最善だと蛙吹もまた不安になりながらも彼女は自身にも言い聞かせることも含めて峰田の主張を否定した。

 

「み、みみ緑谷ぁ!」

 

悲鳴にも近い、峰田の言葉を無視してでも緑谷は思考を途切らせない。

そしてそうこうしている間にも

 

「んのやろぉ!殺してやる!!」

飛ばされてきた生徒達を水中という自らのホームグラウンドで殺すことのできなかったヴィラン達が、一時避難をしていた船の周りに20人近くにも登るヴィランが緑谷達3人を取り囲み始める。

猶予はあまりにも残されていなかった。降参はもってのほかで、戦うにしても奴らに勝つ方法はまだ見いだせていなかった。

 

「奴らにはオールマイトを殺す算段がある多分その通りだ。それ以外考えられない。」

 

なんで殺したいんだ?

1人で平和の象徴と呼ばれる人だから?

(ヴィラン)…悪への抑止力となった人だから?

 

そもそも何で今なんだ?

 

いやちょっと待って。ま、まさか今襲う理由なんて

 

緑谷の記憶にはオールマイトから、その平和の象徴を、オールフォーワンの継承者に選ばれた自分に語られた公には出来ない真実を語ってくれた時のことを思い出していた。

 

かつて戦った巨悪との戦闘により負った重傷が原因で活動時間が3時間しか持たないこと。

世間には知られていない、知られてはいけない。

平和の象徴の大幅な弱体化。今の日本いや世界にとってそれだけ影響がある人なのだ。特にオールマイトという存在はそれ程の人だ。

人を(たす)けるという事は、ヒーロー活動の中で基本的な事であり、最も重要であり、さらに難しいものである。

 

それを当然のようにヒーローとして完璧にやってきたオールマイトはそれ以外にも平和の為に凄まじい活躍をしてきた。

 

その事実があるからこそ、ヴィランは悪は動けない。

 

しかしオールマイトの替わりを務められる人間が、いや超人が彼が引退した場合すぐに現れることも無いであろうということもまた事実であった。

あそこまでの大怪我と少ない活動時間を考えれば、引退もすぐ未来の話の筈だ。

 

こんな事が公になればまず間違いなく、治安は悪化する。

闇の中に息を潜めてジッと機を伺った真の(ヴィラン)がオールマイトの弱体化に付け入り必ず行動を起こす。

オールマイトを狙う者だけでなく平和を破壊しようとする者が必ずいる

 

しかし何処から一体、誰がそんな事を何故、今襲撃しているヴィランはそれをどうやって知ったのだ?

 

考えても埒があかない緑谷は今はそれよりもと考えるのをやめる直前に内通者では?と恐ろしい考えが浮かんだ。

 

考えられる中で最も最悪な仮定。

それならまだ、情報がもれていた方がまだマシであった。

 

すぐさまその考えは無いと否定する筈だった。

 

だが事件直前にあるものを見た緑谷はそれを思い出していた緑谷はそれを完全に否定する事が出来なくなっていた。

偶然見かけたそれは事件の前兆としては余りにも無視できず。余りにも確かめなければいけない真実であり、内通者という存在を完全に否定出来ないものであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝にトイレに行く途中で見かけた窓の外の校門に注意深くジッと目を向ける吉良吉影。彼の姿を思い出していた。

 

 

 

 

緑谷の中に小さくはあるが人生の憧れの人であり、師でもあるオールマイトを守るために戦うという闘志と殺させてたまるものかという意思があわさり吉良への猜疑心を抱かせていた。

疑わしいという結果を持って今はそれで内通者の考えを終わらせて、目の前にいるヴィラン達との戦いに勝つことへと緑谷は思考を切り替えた。

 

「奴らにオールマイトを倒す(すべ)があるんなら」

戦って勝てるのかと内心では恐れている蛙吹と峰田は、緑谷の静かではあるが力強いその言葉に自然と聞き入っていた。

 

「僕らがすべきとことは戦って勝つ(阻止する)こと!」

 

 

 

「何が闘うだよぉぉ!馬鹿かよぉぉ!オールマイトぶっ倒せるかもしれねぇ奴らなんだろ!!矛盾が生じてんぞ緑谷!!雄英ヒーローが助けに来てくれるまで大人しくが決まってらい!!!」

蛙吹が不安を煽ったお陰なのか、緑谷の言葉にすぐさま拒否反応というかヒステリックを示す峰田の主張はあながち間違った答えでは無いが、この追い詰められたこの状況。相手がこちらを殺す気でくるこの状況ではどっちみち迎え撃たねばならないので戦うしか道はない。

 

「峰田君、下の連中明らかに水中戦を想定してるよね。」

 

「ムシかよぉぉぉぉ!」

 

「このUSJの設計を把握した上で人員を集めたってこと?」

尚も絶叫をあげる峰田のかわりに蛙吹が答える。

 

「そう、そこまで情報を仕入れておいて周到に準備してくる連中にしちゃおかしな点がある。この水難ゾーンにあすっ…つっ梅雨ちゃんが移動させられてるって点!」

 

「自分のペースでいいのよ。」

 

「あっそうなの。」

 

「だから、なんなんだよぉぉぉ!」

先程から若干蚊帳の外状態にされていた峰田が緑谷の言いたい事が理解できずに噛み付いてくる。

蛙吹も同意見だったのか、話の続きを聞きたそうに緑谷を見る。

 

「だから、つまり生徒(ぼくら)の個性は分かってないんじゃない?」

 

「「!!」」

ここまで説明がされ、たしかにそのとうりだと2人は特に緑谷が注目した蛙吹は納得した。

 

「蛙のわたしを知ってたら、あっちの火災ゾーンにでも放り込むわね。」

緑谷の主張に補足するように蛙吹が言う。

 

「僕らの個性が分からないこそきっとバラバラにして数で攻め落とすって作戦にしたんだよ。」

「数も経験も劣る。勝利の鍵は一つ!ぼくら(生徒)の個性が相手にとって未知であること。敵は船に上がろうとしてこないこれが仮説を裏付けている。」

だが、緑谷は内心で不用意に上がってこないヴィラン達は確実に自分達の事を子供だからとて侮っていないという事も理解し、自分達にとって本当に有利なのは個性を知られてないということだけであった。

 

「…。」

峰田は不安だった。

緑谷が言った言葉に微かに希望は見えていたが、それが尚更のこと彼の不安そして迷いを生じさせていた。

戦うという緑谷の案が最善である事は分かってはいるが何も積極的に戦うよりも、持久戦を行いヒーローの到着を待った方が良いという考えも捨てきれてはいなかった。

自分の力量を、そして心の中では諸刃の剣的な個性の緑谷の個性が戦闘に不向きである事を知っているが故に積極的に戦おうという選択肢は峰田は下策だと思っていた。

仲間の足を引っ張ってしまうのではないかと恐れていた。

この時、持久戦という似たような考えを導き出していた峰田そして吉良であったが似たような考えの2人の決定的な違いは峰田は吉良のように自分だけでも生き残る方法を考えもせずに自分よりも仲間の事を大切に思っており、逃げようとはせずに少なくとも3人で戦うおうとするあたりは峰田もまたヒーローの器に相応しい勇敢な人間である。

 

そして、各々の個性の詳しい情報を早速各自で話し始めた。

 

緑谷出久は超パワーの個性ではあるものの先程も述べたように、その力の反動で重傷になる諸刃の剣。

反動で怪我をするような個性は戦いとなると限定的というか使い所が難しく、救助活動ではむしろ足を引っ張るようなものである。

2人には勿論のこと話してはいないが、その個性の正体は現平和の象徴であるオールマイトから受け継いだ人から人へと受け継ぐという前代未聞の個性。

その個性を受け継いだはいいものの、それへの習熟が完璧ではなかった。

調整が難しく失敗すれば反動により重傷を負ってしまうというデメリットである。

バットに振り回される野球少年のごとく緑谷は受け継がれたその力を使い切れてはいなかった。

短期決戦ではともかくとして、このような相手が何人いるかもわからない相手では闇雲に使えば圧倒的にピンチになる可能性の方が高いと言えた。

 

蛙吹梅雨は個性(カエル)という、この中で唯一の水中での戦闘が可能であり、その個性名の如く蛙にできる事は大体出来るとのことであった。

例えば胃を丸ごと出して洗ったり、多少ピリッとする程度の粘液の分泌等だが勿論戦闘ではあまり役に立たない。

しかしカエルは生物学上(彼女は人間ではあるが)陸上での活動も可能なため、水中、陸上共に活動ができるという。

この水難ゾーンでは機動力に長けているオールラウンダー的な存在で、唯一この場にいる(ヴィラン)に対抗出来るであった。

 

峰田実は、頭に付いている髪の毛ではない粘着性のある球体状の物を使った能力。

この球体状の物(本人曰くもぎもぎ)はその日の健康状態により粘着性が変わり、それを本人が触ってもくっつかずに跳ねるというものである。だがしかし、このもぎもぎを取りすぎると出血してしまう。

蛙吹とは比べてるまでもないとして、緑谷と比べると峰田の個性はそれよりかはマシといった程度ではあるが、本人はそうは思わなかったのか説明していた時は落ち着いていたのに話終えた後にそれだけ?と言った2人の様子を見て、自分の個性の不甲斐なさに絶叫に近い非難?自虐?をしている。

 

そして、そうこうしている間にも痺れを切らしたヴィラン達は船の上にいる緑谷達を確実になおかつ有利な状況で殺すため、船に穴を開けて彼等を水中に引きずり込もうとしていた。

 

追い込まれていく緑谷達。まさに絶望的な状況であった。

 

だが、

 

「「敵が勝利を確信した時が大きなチャンス」昔、情熱大陸でオールマイトが言ってた。」

 

「勝つには、これしかない。」

 

「な、何を?…!!」

峰田は見ていた、そして分かった。

震えているのを、自分と同じように震えるほどに怖いのだと。

 

 

しかし緑谷は自分とは違ってただ震えてヒーローに助けてもらうのを待つのではなく、それに立ち向かおうとしていた。

ヒーローになりたいと思ったのは下心があるのは自分も自覚しているが、幼い頃からずっと憧れてきたカッコいいと言われるヒーローになりたいと思っているからだ。

だが中学の頃、周りにいた人間の誰よりもヒーローに憧れていた自負はあった。あったからこそ、努力してここに来た!!

 

峰田には緑谷の背中はそんな頼もしいヒーローの背中を、誰かを助ける憧れの人間の背中を見ている気がしていた。

 

体はまだ震えているが、やってやろうと戦って倒してやると峰田は決意した。

さっきまでの心の怯えは吹き飛んで、急に体の底から力が湧いてくるような気がした。

 

緑谷お前だけにいいカッコはさせねぇぞ。おいらだってヒーローになりたいんだ。誰にも負けないおいらだけの個性で強くなりたいんだ!

 

時間にして五分程と言ったところか、戦闘は終わった。

いや戦闘というには、あっけないものでほぼ緑谷の作戦勝ちと言ったところである。

 

緑谷の超パワーで、待ち構えていた敵もろとも水面に穴を開け、その水が周りを取り囲んでいたヴィランを巻き込む形で急速に集まったところにすかさず峰田がもぎもぎを大量に投げ込んでまさしくひと塊りにして拘束した。

 

こんなあっけないほどの勝利が緑谷を緑谷達を錯覚させてしまった。

緑谷には知りもしない事ではあるが、たかだか寄せ集めのゴロツキに勝っただけの事でプロヒーローが戦っている邪悪なヴィランに通用すると思ってしまっていたのだ。

蛙吹も、峰田もそれを惑わされ、緑谷を止めることはできなかった。

 

‘‘やばくなったら逃げればいい’’と逃げられる保証も根拠もないのに、いやその考えすら思いつかなかったという方が正しいのかもしれない。

 

彼らもまたヴィランに通用すると勘違いしたが故にである。

 

 

 

 

 

 

同時刻

 

 

 

 

 

 

 

黒霧は油断していなかった。

 

さしもの黒霧でも最初あの場所に災害救助が専門ではあるがプロヒーローの一角である13号と戦闘経験は皆無ではあるが能力の強さは未知数の生徒達を纏めての戦いに簡単に勝てるとは思ってはおらず、むしろ不確定要素の多い相手で注意を怠ってはいなかった。

 

故に彼等を確固分散しての生徒達の撃破は無理でも足止めをさせるために今日までに集めた社会からのはみ出し者のヴィラン(ゴミ共)や過去にオールマイトやプロヒーローに捕まりヒーローという存在に対して強い恨みを持つ犯罪者(捨て駒)を中心に仲介人を通して集めさせていたのだ。

数だけは大所帯であり連合の名にふさわしい規模ではあったが、内情は所詮、底辺の中の底辺を集めたゴロツキの集団。

 

身内でいつ仲間割れや裏切りが発生するかも分からない不安定なものであった。

 

それ故に最初から仲間同士の連携など望むべくものではなく、集め始めたのが計画実行の1週間前でこれは極力情報の漏洩を防ぐ意味合いもあった。

校舎からは離れているとはいえ、そこは天下の雄英高校であり経験豊富なプロヒーローが集中的にいる場所で、今回の計画の一翼を担った者としては油断をすることもしなければ、ましてや過小評価は愚の骨頂であると思っている。

どこまで計画のための必要数を揃えられるかに計画の成否はかかっていたが、黒霧が心配するほど数は集まらなかったわけではなく寧ろ予想よりも多く集まっていた。

これにより計画成功の為の精鋭(個性にのみ)を集める事が出来ていた。

 

そして計画へ参加するかの否かを聞き参加するならば追って連絡するとし、否と答えれば万が一の情報の漏洩を防ぐために口封じをする。否と答えた者たちで逃げる事が出来た者はいない。

運が良くてもDr.の人体実験の材料になるだけで行き着く先は一つ。

 

この世から消えるだけであった。

 

今回の駒を集める為の仕事を請け負った仲介人は一見信用を失うという損をしている様に見えるが、実は黒霧からも迷惑料として金を貰っておりこうなる事は既に両者の間では織り込み済みであったのだ。

そもそも声を掛けられた彼等は何処にも行き場のないはみ出し者で寧ろ仕事の邪魔になるような輩には綺麗サッパリ消え去ってもらった方が周りの他の組織への好感度アップに繋がるという仲介者にとっては金もかせげる一石二鳥の商売であった。

 

故に今回の作戦はオールマイト(平和の象徴)の暗殺がなされるためならば、捨て駒達の屍がいくら転がろうとも問題ではなかった。

そしてゴロツキの相手をする生徒がついでに死ねば、ラッキーといったものであった。

 

このように黒霧は全く生徒達を過小評価どころか過大評価するぐらいには雄英の生徒達(ヒーローの金の卵)を警戒していた。

 

そのはずなのに

 

「流石、委員長!」

 

「しゃあぁぁぁぁぁぁ!!」

出口に走り去った飯田の背中に声援を送った佐藤と女子というよりも男性にいるような熱血系の勝利の雄叫びを上げる麗日。

 

無重力でフワフワと出口とは反対方向に飛ばされていきながら、黒霧は今までの人生で久方ぶりとなる嫌な予感を感じていた。

 

「…応援を呼ばれる。」

ゲームオーバーだ。

と呟きそうになるのを途中で辞めた。

自分の個性が物理攻撃無効であることを良いことに、油断して痛い目を食らったのはこれまで何度もあった。

 

逆に隙を見せたこの私に襲いかかった連中を罠にはめて殺してやった。

それの方が、自分の企みが成功した方がよほど多かった。

ではなぜ、なぜ逃げられた?

途中まで罠に誘導しているところまでは上手くいっていたはずなのに

 

 

だから、私は相手に背中を見せたとしても警戒は怠っていなかった。

 

だから、あの小娘が出口に向かうメガネを援護するために私に近づいてきたのは分かっていた。

 

だから、私はあの小娘を転ばせてメガネへの援護を許さずにメガネはガキどもの目の前で真っ二つにすることができたはずなのに。

誰も逃げられない絶望を与えることが出来たというのに

 

「くっ!一体誰だ?あの時、私を攻撃したのは?」

 

 

 

数分前   USJ正面出入口

 

 

「ちょこざいな!外には出させない!」

 

「くっ!」

 

走る。

 

走る飯田の10メートル先には出入口がある。

ほんの数秒もあればあの出入口に到着できる短い距離と少ない時間。

だが今の彼にはあの扉までの距離が、そして何よりももっと早く走れない自分が憎くてしょうがなかった。

 

唯一目の前のヴィランに対抗できる個性を持った先生(13号)はやられてしまった。

出口へと向かう最適な隙を伺っていた飯田は、これ以上は隙を伺うということが出来ないと悟った。

走り出した今はなによりも最速で最短であのヴィランよりも早く走らなくてはあの出口の、扉の向こう側に早く行かなければ、みんなを救えないとそう思った。

 

 

だが現実は飯田を今以上に早く走らせてはくれなかった。

 

「生意気だぞ、メガネ!」

あっという間に飯田に迫ってくる黒霧。

この時、黒霧が注目していたのは背を向けて走る飯田ではない。

その援護のためこちらに向かって走る麗日に注目していた。

 

いくらどんなに早くても、たとえ私より早くても出入口の扉を蹴破るにせよ開けるにせよ必ずスピードは落ちる。

その落ちる瞬間を狙えば確実に仕留められると確信していた。

今、脅威なのは無防備に出入口に走る者ではなく援護のために私に攻撃できる確信を持って走ってくるあの小娘。

小娘の攻撃を許せばこちらが、少しでも対処できる時間が無くなればメガネには逃げられて応援を呼ばれる。

 

ゲームオーバー、撤退しかなくなる。

 

故に小娘の進行上にいつでも私の個性を発動できるようにし、私の弱点である部位を晒した。

エサを付けた釣り針を垂らし、あとは魚が食らいつくのを待つのみ。

 

あとは念には念を入れて、疑似餌のように私が気づいてない最後のお芝居をして終わりだ。

 

「消え」

その時、黒霧はこちらに向かって飛んでくる石が見えた。

誰が投げたのかは知らないがあの小娘以外の者の援護のつもりかなんなのかは分からなかったが、勇敢にこちらに走ってくる小娘以上に脅威ではない。そんな事をしても無駄だと思い無視した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それが爆発するまでは

 

ドグォォォォォォォオン

 

 

「ぐっ!?」

この爆発は!さっき飛ばしたあの金髪のガキか?!もう戻って来ていたのか!?

 

この時、黒霧は飛んできた石から興味を無くし視線を切った事から飛んできた石自体が爆発したこの攻撃を爆豪のもの勘違いした。

だが、そうではないことに気づくよりも早く自分の体重が軽くなったような、一気に無くなったような奇妙な感覚が黒霧を思考から引きずり戻した。

 

「理屈は知らへんけど、こんなん着とるなら実体あるって事じゃないかな!」

 

しまった!!

 

「行けぇぇぇぇ飯田君!!」

飯田から引き離される黒霧は無重力という宇宙飛行士以外感じたこともない感覚に襲われ、さらには瀬呂の腕から射出されたテープが、宙でもがく黒霧の唯一実体化しているところを見事に捉えてさらに出口にいる飯田から黒霧を引き離していく。

 

空高く飛ばされた黒霧には、出口を出て行く飯田が見えた。もはやあのメガネには追いつけないと諦めた。この状態では追えない。

無理に追おうとすれば必ずしっぺ返しがくる事を黒霧は経験上知っている。

それと同時に地上にいる生徒達の様子も空高く飛ばされた事からその様子を見てとれた。

そしてその中に金髪の子供こと、爆豪がいない事も確認していた。

 

そして先程の正体不明の謎の攻撃を認識した。黒霧は不気味なものを、危機感を感じていた。

「………ゲームオーバーだと。ゲームオーバーどころではない、早急に撤退しなければ私どころか死柄木弔も捕まったバッドエンドになるかも知れない。」

 

「オールマイトだけでなく、他のヒーローもここにくる可能性がある以上ここに用はない。急いで、死柄木弔と共に撤退せねば。」

 

悪く言えば、諦めやすい。よく言えば引き際を心得ている。

 

いつかのオールマイトが言っていたように真に賢いヴィランとは闇に潜むということ以外にあげるとするならば、感情に左右されない冷静さと、切り替えの早さという点で見ればヒーローにとって黒霧というヴィランはとても厄介な相手と言わざるを得ないだろう。

 

だが、しかしそれはもしかしたら少し遅かったからもしれない。

 

「…?死柄木?」

 

先程まではたしかに広場に死柄木と脳無はいたはずなのに、今はイレイザーヘッド(相澤先生)すらもいない。

広場にいるのは、イレイザーヘッドに無力化されて転がっている(ヴィラン)共だけであった。

 

 

 

 

 

 

 

さらに数分前   USJ中央広場

 

「ぐぅぅ!!」

脳無のその人間離れした握力により捕まった相澤の腕が普通ではありえないぐらいまで細くなっている。

それはまるで濡れ雑巾を絞るがのごとく簡単に、限界まで潰されているその腕からは血管が握力に耐えきれずに中で内出血を起こして、赤黒く変色していた。

その気になれば腕をいつでもその握力でもってちぎるのは容易いはずなのに脳無は、その脳無に命令を与える死柄木弔はあえてその命令は出さずに相澤を苦しめていた。

 

「個性を消せる。素敵だけどなんて事はないね。圧倒的な力の前ではつまりタダの無個性だもの。」

 

歯を食いしばって、痛みに耐える相澤の目は未だに死柄木を睨みつけていた。

常人であればとっくに腕の痛みでいつ気絶してもおかしくないはずなのに相澤の目からは闘うヒーローの炎は消え失せるどころか、さらに強くなり、ヴィランである死柄木を睨みつけていた。

射殺すような相澤の視線に物怖じせずに、死柄木は挑発するように笑って見せた。

 

バギィ!

「グアァァァ!!」

脳無にへし折られた腕とは逆の腕を折られ苦痛の声を上げる相澤を見て、ますます歪んだ笑みを深くする死柄木だが、それもすぐに変わった。

 

なにかが飛んでくるのが分かったからだ。

目ではなく、耳で分かった。その風切り音で。

弾丸ではないが、石かなにかを投げてきているのだ。

脳無を使うどころか振り向くまでもない、そんな物よりも瀕死になってはいるが見ただけで個性を消す。目の前に転がっている相澤の方が厄介だ。

 

死柄木が笑みをやめたのはそんなことではない

 

飛んできた物の軌道上から体をずらしてナニかが当たるのを回避しようとするがほんの一瞬だけ小さくはあるものの、後ろから耳元で死神に囁かれたような不気味な声が聞こえたからだ。

 

コッチヲミロ

 

「!?ッ脳無!!」

 

死柄木の声に、正確には命令にしか反応しない本来人間にあるはずの感情や体の機能を排除され特定の人間の命令にのみ反応する人形の改造人間の脳無はすぐさま死柄木を守りに入る。

 

それが死柄木を救った。

 

ドグォォォォォォォン!!

 

脳無が命令した死柄木を守る為に飛来したソレを弾いたと同時に至近距離で爆発。

爆発の威力を巨体である脳無越しに感じて冷汗を感じつつも死柄木は視線を爆発物の飛来した方向を見やるもその姿は見当たらなかった。

 

なんだ今のは!?爆弾?

 

正体不明の攻撃に先程から汗をかく死柄木は右手首から上を完全に無くした脳無の腕を見て冷汗を流し、古傷だらけの首をさらに掻き毟りながら必死に爆発の犯人を探す。

 

死柄木は自分を襲った下手人を探すために周りを必死に探していたが、犯人は直ぐに現れた。

 

「コッチヲミロッテイッテルンダゼ」

 

「!?」

 

ギャルギャルと無限軌道(キャタピラー)の音を鳴らせながら、ソイツは段々と晴れてくる土煙の中から死柄木の前に姿を現した。

 

大きさは成人男性の拳よりも少し大きい程度であろうか、大きさはそれほどまででもないがその見た目は主に全体を青い装甲で覆われておりシルエットで見れば三角形よりも丸っこいと言われるような形で、下の部分には無限軌道が軽快に勢いよく動き、だが重厚な音を規則的に立てていた。

 

そして何より目立つのはその真ん中にある人間の髑髏の目の部分で紫色の怪しい光は見るもの全てに得体の知れない恐怖感を、カタカタと口からは骨と骨が触れ合う鳥肌が立つような不気味な音を立てていた。

 

「オイ、コッチヲミロ」

 

「っ!!脳無!!!」

 

髑髏(シアーハートアタック)から発せられる。死神のようにおどろおどろしい声に常人であれば怯んでしまうであろう。

無限軌道の轟音を立てつつ真っ直ぐにこちらに向かってやってくるシアーハートアタックに死柄木は再度脳無に指示を飛ばす。

その間に死柄木は激痛の叫びを上げた後に気絶した相澤のトドメを刺すべく振り返るもそこに探していたヒーローの姿は無かった。

 

馬鹿な!あの怪我でまともに動くなど出来るはずがない!!!

 

脳無に勇敢に立ち向かい、もはや死に体だった相澤は何処にもいなかった。

 

だが、体から流れ出た痕跡(血の跡)は点々とUSJのゾーンの一つ倒壊ゾーンへと続いていた。

 

いつのまにそこまで逃げられていたとは、面倒になったと思いながらも顔は面白いと嗤っていた。

 

あんな怪我をして一人で逃げられるはずもない。

誰かが助けた可能性が高い。せっかく楽しい所だったのに邪魔をしてくれたんだ。どうしてくれようか?

だが意味はない、死に損ないを助けようとした愚か者を殺す。

 

ミイラ取りがミイラに、結局は死ぬ時間を引き延ばしたに過ぎない

 

ボーナスポイントを手に入れる為のゲームの始まりだ。

 

情報では倒壊ゾーンは袋小路が多く、出口は広場を抜けての一つのみ。

訓練では要救助者の所までいかに迅速にたどり着き、安全地帯まで運ぶか?他のヒーローにどう効果的に場所だけでなく容態を伝えるか?を学ぶために通路は実戦さながらに複雑になり建物も高いものとなっている。

 

そんな迷路で逃げ惑う狐を追い立てて行こうではないか。

 

 

 

 

 

 

だが、ゲームを楽しむ前にそれは終わった。

もとより怪我人1人を背負っているのだ。血痕も短い間隔で落ちているところからしてスピードも早くはないのだろう。

通路を3つほど曲がったところで簡単に発見できた。

 

 

「見ーっけ。」

 

 

びくりと震えると男はゆっくりと振り返って此方を見るや情けないこえをあげながら怪我人を離して、尻餅をつきながらも後ずさる

 

 

「ひぃぃぃぃぃ、た、頼む!殺さないでくれ!!」

 

コイツヒーローを目指しているわりには見た目は普通のガキだった。大抵のヒーローはその身に宿す個性を効率よく最大限のパワーを発揮出来るようにそれに適した物であるヒーロースーツを着ている。

また補足ではあるがヒーローがここにいるから安心してくれと周りに示す為に、見てすぐに分かるような派手な色や形を使った物が多い。

 

人間は視覚から多くの情報を得ている生き物であるためだ。

 

しかし目の前にいる男はスーツ姿で特にこれといった武装もない。内側に隠している可能性もあるが、個性よりも隠された武器に重点を置いているような相手であると伺えた。

目の前の男は身体こそ鍛えて入るようだが、恐らくは弱い個性を補う為のものなのだろう。

 

そこまで脅威ではない。

 

「私はまだ学生なんです。貴方達を倒そうなんて微塵も思って無いんです!先生が危なかったから助けようとしただけなんです。だから命だけは助けて下さい!」

 

それにコイツ、いざ自分の命が危機に陥った瞬間に仲間を売るような奴と見た。

世の中で起こった災害や事件は自分の人生とは全くの無関係だと思っている奴だ。

案外こんな奴がヒーローになっているなら、自分が壊さずとも勝手にこの世界は自壊してくれそうだが

 

 

 

 

僕は今壊したいんだ。

 

 

 

 

平和ボケして笑っている奴らを恐怖の顔に染め上げて、

 

気に入らないヒーローが守る価値もない民衆を守れずに心が砕けていく様を、

 

安全な場所から喚くしか能のない人間が民衆を守れなかったヒーローを凶弾し、

 

暴徒と化した人間が弱い人間から大切なものを奪い、犯し、自らのエゴによって先人のヒーロー達が築いた平和をズタズタに壊していくのを見たいんだ。

 

その瓦礫の上に立つのは生き残った人間でも、誰かを助けようとするヒーローでもない。

 

この僕だ。

 

今回はオールマイトを殺せなかったが、別に()じゃなくてもいい。今日のところは憂さ晴らしにコイツを殺してから帰るとしよう。

 

瓦礫を積み上げるその第一歩として

 

そう心の中で呟きながら、目の前のガキをどうやって壊そうかと思いながら近づく。

どんな悲鳴をあげてくれるのかとワクワクしながら、狂気をその瞳に宿して。

 

 

 

 

 

 

「な、何をする気だ!?こっ、こっちに来ないでくれぇ!」

 

 

良し、いいぞもっと近づいてこい。

怯えた自身の演技に騙されてゆっくりと近づいてくる死柄木に吉良は心の中で小さな笑みを浮かべる。

キラークイーンの射程距離は2メートルと短いが、射程範囲内であれば必殺の一撃で、いや触れ(爆弾)さえすれば周りに目撃者がいないこの状況であれば確実にコイツを仕留めることができる。

 

 

 

「ひぃぃぃぃぃ、こ、殺さないでくれぇぇ!」

 

吉良の怯えた様子に笑みを浮かべる死柄木はその演技に気づいた様子もなく、ゆっくりと怯えた反応を楽しむように徐々に近づいていく。

 

 

あと三メートル

 

「う、うぅぅぅ。」

 

吉良の誘導に気づかない死柄木は、吉良の悲鳴を上げることも出来ずに怯えた様子を見てさらに笑みを深くしながら、近づいていく。

触れたものを崩壊させる個性を持つ死柄木の死神の手がゆっくりと吉良に触れようと伸びていた。

しかしそれはつまりもう1人の死神の手であるキラークイーンに近づくことでもあった。

言わずもがな、自分自身の手で触れなければ崩壊すると言う能力が発動しない死柄木に対してキラークイーンは本体から少しの距離を自由自在に出現することも可能である事を考えると近づいてはならないのは死柄木の方であった。

 

 

あと一歩!

 

吉良が今まさに内に秘めた本性を現して襲い掛からんとしていたその時、忽然と死柄木は先程までの位置に戻っていた。

勿論これは死柄木が吉良に攻撃されて吹っ飛ばされたものでも、死柄木が演技に気づいて吉良から距離をとったというわけでもない。

吉良どころか、死柄木自身も突然起こった不可解な現象に頭がついていかなかったが、こんな不可解な現象に先に頭が理解して追いついたのは死柄木弔の方であった。

 

 

「おい黒霧。お前僕の邪魔をするのか?もしかして僕に殺されたいのか?」

 

「いえ私はまだこんなところで死ぬつもりもありませんし、今回の失敗は必ず彼らの血で持って償い(殺し)ます。」

 

音もなくそこに現れた黒霧に、怒りを抱いてその感情を隠そうともしない駄々をこねる子供のように怒りの感情をぶつける死柄木。

唯一子供と違うのは単純なふて腐れたような怒りではなく、その年の子供に相応しくない殺意であると言うところではあるが

 

そして吉良もせっかく舞い込んだチャンスが目の前でなかったことにされるどころか敵が増えたこと、それも警戒していた相当な手練れが現れたことに、怒りよりも先に焦り始める。

 

 

「それよりも死柄木弔。何故このようなところに?」

 

「あそこにいるビビリ野郎が、イレイザーヘッドと一緒に逃げようとしてたから追ってきたんだよ。それよりなんでここにお前がいるんだ黒霧?さっき失敗とか言ってたけど、まさかとは思うが13号に夢中になってガキを逃したんじゃねえだろうな??」

 

「申し訳ありません。13号は行動不能に出来ましたが子供に1人逃げられました」

 

首を掻きながら、苛立ちを強くする死柄木に黒霧は申し訳なさそうにしながらも簡潔に突破された事を伝える

 

「…………………………………………………………。」

 

「…………………………………………………………。」

 

 

 

「………はぁぁぁぁぁ。黒霧お前が、お前がワープゲートじゃなかったら粉々にしてたよ。」

 

大きな溜息をついた後に、血走った目で黒霧を睨みつける死柄木。

 

「何十人ものプロが来たら敵わない。今回はゲームオーバーだ、帰ろっか。」

 

 

 

でもその前に平和の象徴としての矜持を少しでもへし折って帰ろう

 

 

 

踵を返して吉良を殺そうと向かったが

 

「待ってください死柄木。その前にこれを見てください。」

 

ズシャン!!

 

黒霧のワープゲートより現れたのは腕辺りの血を滴らせながら何かを押さえつけている脳無であった。

 

「!!?……遅えと思っていたがまだ破壊できていなかったのか!!」

 

脳無はその怪力で握りつぶそうとしているようだが、シアーハートアタックは壊れる様子を見せる事なく爆発を繰り返しながら脳無の手から逃れようともがいていた。

 

「ここに来る途中で見かけたので、すぐに回収することが出来るようにしておいたのです。そして私の予想が正しければ。」

 

そしてシアーハートアタックだけを器用に吉良の近くにワープさせて見せた。

 

 

不味い!!!

 

 

このままでは私自身が爆発に巻き込まれる!

 

 

吉良は咄嗟にシアーハートアタックの攻撃命令を一時解除してしまう。

ギャルギャルと片側の無限軌道の音を立てながら、ひっくり返った体勢からダルマのように反動を利用して起き上がった。

間に合ったことに安堵の息をつく吉良

 

 

それを見て目を細めながら自身の考えが間違っていない事を確信した黒霧は語り始める。

 

 

「やはり、貴様の能力だったか。」

 

 

ぐうの音もない

言葉には出さずともシアーハートアタックが吉良を攻撃せずに活動を停止したこと、安堵の息をついた事でそれの指示者である事を物語ってしまっている。

状況が完全に黒霧の推測通りであるので、吉良は何も言えない。

この推測にそれらしい反論は超一級の詐欺師でもない吉良には出来なかった。

そんな怯えたフリの震えがいつの間にやら治っていた吉良を見て無言で死柄木は先程までの死ぬのを震えて待つような弱者としてではなく、脅威ある敵であるしれない者として吉良を見据える。

 

「さあ死柄木弔、私の後ろへ。まだ奴の能力には分からないところがあるので不用意に奴に近付くことだけは「フフ、残念だがもう既に射程距離内(・・・・・)だ。」」

 

ドドグォォォォォォォン!

 

死柄木がそれに気付いたのは吉良の企みが上手くいったときだった。

 

すぐそばでの炸裂音に反応して体は勝手に動いていた。

 

人体の急所の一つである顔を守るための死柄木の防衛反応は常人のそれよりも過敏に反応して顔を腕で守りながらも周りの視界の確保、爆発した場所そしてそれをしたと思われる敵を、視線から外さないことだけは怠っていなかった。

なまじ戦いの英才教育を先生から受けているが、初めての実戦でここまで冷静に対処できてしまう。これだけでも死柄木自身の能力と才能の高さが窺える。

その死柄木の視界には先程の自分に見せていた怯えた目とはまるで別人のように冷酷な目をしてこちらに不気味な笑顔を見せる吉良。

 

そして視界の端には唯一実体化している人間で言うところの顔の辺りを元の色が黒に限りなく近いためどれほどかは分からないが恐らく黒く焦がしながら、倒れ込む黒霧が見えた。

 

 

「なっ!?」

何をされたのかまるで死柄木には分からなかった

奴は少しも動いて(・・・)などいなかったのだ。ましてや動いたとしても黒霧が気付く筈なのだ。

 

 

予想外の出来事に思わず驚愕の声を上げる死柄木

突然の奇襲になす術なく倒れる黒霧

事がうまくいったとばかりに先ほどとは違った余裕の表情が窺える吉良

 

服に着いたホコリを手ではたきながらゆっくりと立ち上がり一撃で意識を失ったのかピクリとも動かない黒霧を見て不気味だった笑みをさらに深くした吉良を見た死柄木は身体中に虫が這い回るような鳥肌が立つ気持ち悪さを覚えた。

本当に先程の怯えた子供(ガキ)と今目の前にいる男が同一人物だとは今でも信じられない程の衝撃とそれと同時に目の前の男に先生とは違う初めて感じるおぞましさを死柄木は感じていた。

 

 

「頭が吹っ飛ぶかと思ったが、イマイチ威力が出ていなかったところを見ると爆発する瞬間にあの能力を発動して威力を適当な場所に逃していたらしいなぁ。」

残念だとばかりに肩を竦めてはいるが、全く気にしているような仕草ではなかった。

 

「くっ…。」

 

黒霧の戦闘不能

 

それはオールマイトに対抗する作戦の頓挫どころか、ここからの撤退が今すぐに出来ない事を死柄木に認識させていた。

しかも目の前には得体の知れない能力を持つヒーローの卵。

容易には勝てない。少なくともそう判断はするくらいには目の前の吉良という男は狡猾であり強敵だと死柄木は感じていた。

しかも戦いが長引いて、救援に駆けつけたオールマイトまでもが戦いに参戦したらゲームオーバーどころの話ではなくなる。

そんな状況に首を掻き毟る余裕さえ無いぐらいに死柄木は追い詰められていた。

 

「ま、頭にぶち込んでやったんだ。どんなに軽傷だったとしても脳震盪ぐらいは引き起こしているだろうから、暫くは放っておいても大丈夫だろう。」

 

「頭を吹き飛ばすとか言ってるけどよぉ、お前本当にヒーローか?たとえ(ヴィラン)と言えどヒーローは人殺しは駄目なんじゃないのか?」

 

「それを言うなら世間一般的に無実の可哀想な人や、無関係な私(・・・・・)に人殺しを行うヴィランに情けを掛けることも、容赦もするべきではないと、少なくとも私は思っている。そして私はそんなヴィランに対して正当防衛(殺される前に殺す)をしているにすぎないと思うが?」

ヴィランの死柄木にそんなヒーローとして当たり前のことを言われる吉良であるが、言われた本人はあまり気にしてないというよりも興味がなさそうに持論を死柄木に語った。

 

「…ヒーローがそんな理屈言うとは思いもしなかったなぁ。」

 

「確かにあの合理主義の先生(ヒーロー)は私の考えを否定するだろうが、危険な悪の芽を詰むという点で考えれば、人殺しをこうも公然と宣言して実行するような輩には実に適切で合理的な手段(殺害)だとは思わないかな?」

 

目の前のヒーローの卵に、いや敵に身構える死柄木に吉良は思いもよらぬ事を言い出した。

 

 

 

 

「突然だし、信じられないとは思うがこのまま逃げてくれないかな?」

 

 

 

 

「?」

 

 

 

 

一瞬聞き違いかと思ったが、どうやら冗談の類いでも無さそうな吉良の驚くべき提案に呆気に取られる死柄木に構わずに吉良は続けて話をする。

 

 

「正直に言うと、このまま君と戦っても私は勝てるだろうけどそれでは意味がない。君以外の奴を消すことができればそれで良いんだ。時間がかかって他のヒーローが来て拘束されたんじゃあ消せなくなる。

ヒーローである私が殺しを平然と行っているなんて周りに知られるのは良くない事なんだ。他のヒーローにとってもこの私にとってもね。」

 

「…………」

 

「話をしたのは(ヴィラン)の君一人が生き残ったとしても唯の妄言になるからだ。だから君だけが逃げれば私はここにいる奴らを始末できるし、私の不都合になるような事にはならない。」

 

「…」

 

「どうだい?悪くない提あ…」

 

「嘘だな。」

「そして、あんたはヒーローじゃねえ」

 

 

「フフ、そう言ってくれると思ったよ。

もし君が受け入れても消す算段は出来ていたから言ってみただけだよ。形だけとは言えヒーローなんだ。怪我人の事を考えて動くのは当然だろう。そして、」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私の名前は吉良吉影。」

 

「???」

 

「年齢十六歳。自宅は雄英高校から30分ほどの距離にあり、彼女はいない。」

 

「は?」

 

「休日はジョギングをしたりして無理のないように体を動かしたり、カフェでコーヒーを飲みながら本を読むのが日課だ。コーラとか炭酸飲料は飲まない。ジャンクフードはもってのほかだ。」

 

「お前、何言ってやがる?」

 

「夜10時には床につき、必ず8時間は睡眠を取るようにしている。」

 

「……………………………………………………。」

 

「寝る前に温かいミルクを飲み。20分ほどのストレッチで体をほぐしてから床に着くとほとんど朝まで熟睡さ。」

 

「…………………………………………………………………………。」

 

「赤ん坊のように、疲労やストレスを残さずに目を覚ませるんだ。健康診断でも異常なしと言われたよ。」

 

「さっきからベラベラと僕を無視して喋りやがって、一体何を言ってやがるんだ?」

 

「私は常に「心の平穏」を願って生きている人間だということを説明しているのだよ。

勝ち負けに拘ったり、頭を抱えるような「トラブル」とか夜も眠れないといった「敵」を作らない。というのが私の社会に対する姿勢であり、それが自分の幸福だということを知っている。」

 

 

 

「ヤレ、脳無!!」

 

 

 

常人では捕らえられないほどの冗談のようなスピードで動く死柄木より命令を受けた脳無の攻撃は一瞬にして脳無と吉良の2人を土煙の中に包み込む。

 

ビシャ!!!

 

流石は先生だと死柄木は先程まで心中で疑っていた命令を待つだけの脳無ではなく、世間には未だ知られていない巨悪に感謝の言葉を言う。

 

 

土煙と共に此方の足元にまで飛んできた血飛沫を見て

 

 

「ぷっ、アハハハハハハハ!!大層な事を言ってる割には、呆気なく死んじまったなぁ。なんだっけ?心の平穏だっけか?良かったなぁ死んじまえば少なくとも静かに生活はできるぜぇ!」

 

アハハハハハハハ、さも愉快だと言わんばかりに笑い転げる死柄木に水を差す出来事は起きた

 

 

 

「人の話は最後まで聞くものだ」

 

「!?!?!?!?」

 

「君のような、自分に酔っている人間は誰かに何を言われても否定しかせずに最後には私のような関係のない人間をも巻き込んで迷惑をかける人間はほとほと関わりたくないものだ。

まぁ、今の大体の人間は1人が右を向けば全員が右を向くような、前を見て歩くことはせずに命令だけを聞いているだけの愚かな羊と無能な羊飼いのようなものだがな。」

 

脳無の攻撃を受けて、余裕すら感じさせる吉良の様子に度肝を抜かされた死柄木は吉良の神経を逆撫でするような言葉も耳には入っていないのか信じられないといったような心持ちで掻いていた手を止めて、治まりつつある土煙の先を見逃せなかった。

 

「話を戻すが、君は私の睡眠を妨げる「トラブル」であり、「敵」というわけさ。」

 

 

「こ、これは!!」

 

 

ドゴォ!!!!

 

 

肉と肉、いやそんなものでは形容できないほどの重い音が鳴ると同時に手首からブシュと血を吹き出させながら吹き飛ばされてきた脳無

 

それをした下手人の姿が現れる

 

 

「キラークイーン」と私はこいつを名付けて呼んでいる」

 

 

ピンク色の美しくギリシャ神話の何者よりも強く逞しい体をした人間ではないそれは、手刀のようにしている手から脳無の血は腕へと流れていく。死柄木はこれこそが吉良の個性だと認識して、これから対峙する相手に冷や汗を流しながらも身構える。

 

 

 

「お前達がここから逃げる前に、再起不能になってもらう。今夜も安心して熟睡できるようにね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ごめんなさい。

交代で投稿していきたいので、次はちょっと遅れると思います。


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