寒さで凍えるモニタールーム内で、オールマイト含めてみんなが震えていたが、それは寒さのせいだけではなかった。
「うわぁ、痛そう。てか痛いよ絶対。やばいってアレ!」
「漢らしいぜ!いややっぱダメだ!見てるこっちがいてぇよ!!」
「吉良少年、なんて無茶を。」
モニタールーム内で様子を見ていた全員が突然の吉良の凶行に驚き、そしてその痛々しさに寒さを忘れて体を震わせていた。
中にはその痛々しさに目を背けるものもいたぐらいだ。
吉良少年、君は何故そんなにも勝とうとするんだ。
今まで色んなヒーローやヴィランを見てきたが君のような人は初めてだよ。
なりきっているんだと信じたい。
今の君の目は我々ヒーローが戦うべきヴィランそのものの目をしているんだ。
ぐおおお!ちょー痛え!
覚悟はしていたが負けたくないあまりについ勢いでやってしまったが、めちゃくちゃ痛え。
私の人生のベストトップ10に入る勢いだ。
だが、今はとりあえず神経がむき出しになって痛いだけだ。
今はアドレナリンが出ているおかげか私の足の痛みも今は我慢もできるし、見たところ出血量は大したことはない。
これはいよいよをもってあのむかっ腹が立つ野郎にキラークイーンのラッシュを叩っこんで発散させるしかなくなったということだ。
だが問題はどうやってキラークイーンの有効射程にまで近づくかだ。
吉良は足の痛みから下手には動かずに思考を巡らせて。
轟はそんな足の皮を引き剥がすと言う常軌をいした行動を起こした吉良の不気味な様子に注意をしてその場から動かずにその吉良の動きにに注視していた。
どちらも動かないという奇妙な静寂が緊張が部屋を支配していた
だが
「しばっ!」
先に沈黙を破り、動いたのは吉良だった。
キラークイーンが轟を拳の間合いに入れるとすかさず拳を叩き込む。
そしてそれをすんでのところで避けて轟は横に転がるように間合いを開ける。
ドゴッ!
キラークイーンは轟が背にしていた壁をまるで発泡スチロールの板のようにいとも簡単に粉砕する様子を見て轟は冷や汗を流す。
ヤベェ、あいつの拳にまともに食らったら気絶どころか死んじまう
「ほう、大した奴だな今のを避けるとはな。大概の奴は今のを食らってすぐにダウンしちまうんだがな、なかなかやるじゃないか。」
「だが、いつまでも逃げていられるほど時間は待ってくれないぞヒーロー。」
そうなのである。轟が余裕を持って歩いた分、時間も進み後10分以下。
轟もまさか凍らされた相手が無茶な方法ではあるが氷の呪縛を脱出して、そして吉良の個性がここまでの能力があるとは思わず、ましてや戦闘が行われるとは思ってもいなかった。
挑発をされた轟もお返しに本体の吉良に向けて、氷の個性を使うものの瞬時に移動したキラークイーンがその氷の攻撃を文字通り粉砕して吉良自身をガードする。
轟はスピードでダメならば量で攻める作戦に切り替え、轟はがむしゃらに吉良の周りに氷での攻撃を行うものの吉良は痛む足でそれを避けてキラークイーンに氷を粉砕させつつ、時々轟に近づいてはキラークイーンで牽制攻撃を入れるを繰り返していた。
轟は負傷してあまり動けない吉良になかなか自分の個性が通用しないことに焦り自身の望んではいない長期戦へとなりつつあった。
そして吉良もそれが狙いであった。
上手くいったぞ。アイツ焦っていやがる。時間を稼げばキラークイーンの能力を使うこともないし、足は犠牲になるがこのまま時間いっぱい粘れば勝つことも十分に可能だ。
「チッ、あたらねぇ。」
「攻めあぐねているようだな。自慢の個性も封じられて、更に時間も無くなってきている。先程の状況を正反対にしたようだね。おっと、一つだけ違うことはあったな。」
「それは俺が勝利することか。」
「いや違うよ。君は必ず負けるということだよ。」
挑発する吉良の態度に轟が怒るかと思いきや顔は至って冷静そのものであった。
おかしい、優位に立っているのはこの私の筈だ。
奴は私の挑発に怒るわけでも焦るわけでもない、この部屋に来た時からずっと冷静な様子のままだ。
まさか!?
吉良は自分の足が密かに凍らされているのではないかと思い注意してみると確かにあった。
轟の凍らせる個性が今の吉良の弱点でもある足に近づいていたのである。
クッ、がむしゃらに攻撃しているだけかと思ったがなかなか妙なところで小細工をしやがって。
吉良は今たしかに轟の策を破ったかもしれない。
だが、轟から目を離した一瞬の隙が吉良にとって命取りになった。
「その足でよそ見とは余裕だな。」
「!?」
吉良がすぐに視線を戻すと、キラークイーンの攻撃を掻い潜った轟がすぐ近くにいた。
しまった!まさか今のはブラフか!!
だが、キラークイーンを抜けたとしても山で鍛えた私の拳を避けることはできまい。
飛び込んできた轟に、すかさず拳を当てようとする吉良に轟は紙一重で避けて懐に飛び込んでくると轟も拳を吉良の腹部に叩き込む。
「ぐっ!」
無防備なボディにモロにくらい、一瞬怯む吉良であるがここで反撃を止めずに負傷した足も使って反撃を開始する。
だがその攻撃さえも轟は捌ききり、それどころか吉良の力を利用して背負い投げの要領で吉良を壁に叩きつける。
「ぐっ、つ、強い。」
驚いた。まさか近接格闘戦でもこんなに強いとはな、なるほど推薦入学をしたぐらいではある。氷の個性を使った戦闘だけじゃない、個性の強さだけが全てではないと言うことか。あの動きは明らかに対人戦を意識して動いてやがる。
「お前の個性、なかなか鋭いラッシュをしていて、懐に飛び込むのは至難の技だったが、いざお前自身と正面切って戦えばお前は自分に当たるのを嫌って個性での攻撃を仕掛けてこねえし、お前もなかなかいい動きをするがさっきのラッシュほどでもねぇし、足も痛いの我慢してんだろ、動きも鈍いぜ。」
轟は、そのまま吉良を掴むと柔術の要領で部屋の反対側へと轟が入ってきた部屋の入り口へと投げ飛ばす。
投げられた吉良は壁に叩きつけられる前にキラークイーンを出現させて、自身の体を受け止めさせる。
だが
「うぐぅ!」
轟は吉良を投げたと同時に自らの個性を使い、吉良の着地地点を狙って個性を既に発動して立ち上がった吉良の体全体を凍りつかせたのだ。
結果、足の痛みに耐えながらも立ち上がった吉良は首から下を凍らされて全く身動きが取れないようにされてしまった。
最も、増してきた足の痛みからこれ以上は動き回るのは限界に近かったが。
「これ以上、下手な真似をされて動けねえように今度は体全体を凍らした。」
「医学には詳しくないが、今度動いたらお前の言う雄英での平和な生活は送れねぇ。それどころか一生歩けねえ体になっちまうぞ。」
クソッ、確かに奴の言う通りだ。悔しいがこれ以上動くことはできない。
睨みつけながらも、動こうとしない吉良に轟はホッとし、安心して背を向けて次の階への扉に足を進めた。そんな轟を見て諦めたのか吉良は顔をうつむかせていた。
時間も十分にあることを確認した轟は来た時と同様、堂々と歩いてこの部屋から出て行く。
俯いていた吉良の目が部屋から去っていこうとする轟を見ている。
吉良の目は絶対に負けたくない相手に負けてしまった時の悔しい目をしてはいなかった。
無機質な、例えるなら蜘蛛のような感情が篭っていないようなその目はなにかを、自身の蜘蛛の巣にエサである蝶がかかるのをジッと待つような虫の捕食者のような目をしていた。
そう、その目は死んでいなかった。
吉良はまだ諦めてなどいなかった。
そして轟が扉を開けるためにドアノブに手をかける
ガチャ
「キラークイーンは既にそのドアノブに触っている。」
ドグォォォォォン!!
「グアッ!」
轟は思いもしなかった謎の爆発に吹っ飛ばされて、部屋の反対側にまで飛んでいく。
吹っ飛んだ!吹っ飛んでいったその先には!
轟を待ち構えるようにキラークイーンはファイティングポーズで待ち構え、その姿は今か今かと吉良の命令を待ち望んでいるようであった。
「貴様はキラークイーンの射程距離に入った。」
ま、不味い!
吹っ飛ばされていく先に見たキラークイーンを見て焦った轟が急いで防御しようとする。
しかし轟が個性を使って氷の壁を作るよりも早くキラークイーンはその光速の拳のラッシュを轟に叩き込む。
「しばばばばばばばばばばっ!」
防御するよりも早く拳のラッシュを叩き込まれた轟は、そのままキラークイーンの最後の渾身の一撃であるアッパーをくらうと数秒間空中を飛び、そのまま重力に従って床へと落ちると気を失った。
危なかった。
なんとかこの状況を切り抜けて奴にキラークイーンのラッシュを叩き込めたが、流石に怪我をさせることはしなかったが、これで奴も暫くは動けないだろう。
だが私も動けないことには変わりないし、したがって奴を確保テープで巻くこともできない。
さてどうしたものか。
吉良が凍った状態で意識を失うまいと足の激痛に苛まれながら思案していると、ひとりでに轟の体に確保テープが巻きついていき、ぐるぐる巻きの芋虫のような状態にしてしまった。
目の前で起きているこんな怪現象が起こせる奴は、私の知っている中では一人しかいない。
「吉良君。」
私が声のした方向に目を向けても誰がいるのかは分からないが、そこにいると私は目ではなく耳で分かった。
「足がそんなになるまで戦うなんて、無茶しすぎだよ。でもちょっと吉良君のこと見直しちゃった。カッコよかったよ!」
「その代わりに結局はこんな無様な格好だがね。」
「ううん、そんなことないよ。私はとってもカッコいいと思うよ。そして…」
「?」
私は足の痛みで気を失いそうになりながらも何故だかは分からないが私は葉隠の言葉を聞き逃すまいとしていた。
意識を保とうとするが、だが吉良の限界は近づいていた。
「私は、私は君の命がけの行動に敬意を評するよ。吉良君!!」
お、お前なんでそのセリフ知ってん…だ。
あんな激しい戦闘をしながらまさかこんなオチになるとは思わずに吉良は心の中で葉隠に突っ込みながら、気を失った。
つ、疲れました。
でも書けました。寝ます。