Episode1:記憶の蒐集者─2018─
<2068年>
一人の男が荒野に佇んでいた。
そこには男の他に誰一人としていない───否、男の手によっていなくなったと言った方が正しい。
男の顔には血の様な深紅の『ライダー』の文字。
その姿を形容するならば────
『魔王』
その言葉こそ相応しい。
<2018年>
「ふわぁ~…………ねむ」
親はすでに他界し、遠い親戚から生活費をもらい独り暮らし。それのお陰か家事スキルはカンスト、勉強・スポーツは両方においてトップクラスの万能型であり、コミュ力も高い。そして流れるような黒髪、引き寄せられるような深紅の瞳、言わずと知れた超が付くほどの美少女である。世界三大美女を越え、史上最強の美少女となる日も近い。
まあそんなことはともかくとして、今日も今日とてすれ違う人々の視線を一身に集めながら学校というブラック企業に出勤中である。ちなみに今は10時17分だが。
まぁ、多少はね?毎日何時間も働いてるわけだから、重役出勤も然るべき措置と言えよう。そんなことを言いながらまだまだ6月である。────いや、中間1位だったし、ちょっと遅刻したぐらいじゃ進級に支障はない筈だ。たぶん、きっと。
「あれ、レイちゃんじゃないか。今日も遅刻かい?」
「遅刻とは失礼な。重役出勤ですよ、じゅうやくしゅっきん」
「はっはっは、変わらないよ」
「むぐぐ……」
この人は常磐順一郎さん。クジゴシ堂という時計屋の店主だ。ちなみにクジゴシ堂で時計を買う地元民は地味に私だけだったりする。大抵は古い電化製品の修理などの仕事しか入ってこないのだ。私のバイト先である。軽く掃除するだけで時給1500円は、貧乏学生にとってとてもありがたい。
「そうそう、聞いてよレイちゃん。ソウゴくんってば、大学どうするのか訊いたら、『王様になるから進学はしない』って言い出してね。王様でもなんでもなっちゃってくれていいけど、進学はしてほしいんだよね。いやぁ参った」
ソウゴ、というのは常磐ソウゴという常磐さんの又甥で、私と同じ高校の3年生である。夢は『王様になること』で、クラスメイトなんかを自分の王国の役職に任命している面白い人だ。私なんかはその人を一目見るために同じ高校に入学したと言っても過言ではない。まあ嘘だけど。普通にクジゴシ堂で会えるし。
「まぁ、成りたいものをしっかり見据えてるだけでも立派なことだと思いますよ、私なんて将来の夢なんかまだないですし」
「そう言ってくれると、助かるんだけどね────」
やっべぇ。
現在時刻は12時10分、そろそろ昼休みである。あのあと順一郎さんと長話をしていたら普通に太陽が上にあった。私のバカ。
「ハァ、ハァ……遅れましたぁ…………」
あぁー視線が痛い。何もそんな『なんだこいつ、いつも遅刻してんな』みたいな目で見る必要ないだろうに。それともアレか?私が超絶美少女すぎて視線が誘導されてしまうのか?バスケやったら最強だな私。
「それじゃあ、明日は教科書の62ページからだ。予習しとけよー…………集、お前はあとで職員室に来い」
「…………はい、すいません……」
「一応理由を訊いとくが、なんで遅刻した?」
「えーっと、登校中に知り合いに会って、話し込んじゃいました」
「…………先生はお前の将来が心配だよ」
「大丈夫ですよ先生。私、家事スキルカンストしてるので」
「そういう話をしてる訳じゃじゃないんだよなぁ」
まあいいや。先生が去ってから手早く自分の席に陣取り、お弁当を広げる。いつもはコンビニのパンで済ましているのだが、長話に付き合わせてしまったお詫びにと、順一郎さんが作りすぎてしまったものを持たせてくれたのだ。
蓋を開けるとなんとまぁ、彩り豊かな具材達。順一郎さんの女子力の高さが伺える。しかし私はこのあと職員室に向かわなければいけないため、目で楽しむのも程々に、急いで食べなければならない。呼び出しがあってもその前にしっかりお弁当を食べる辺り、流石レイちゃんクオリティである。
ふと窓の外を見ると、大型犬の散歩をしているおじいさんや買い物袋を引っ提げて談笑している奥様方、そして上空のよく分からん穴から出てきたよく分からん乗り物っぽいのが見えた。いやぁ今日も平和。
───────ん?
ちょ、ちょままままままま、えちょっと待って何あれ。全く平和じゃない。え、ワームホール的な何かなの?イスカ○ダルから来たの?え?語彙力まじでやばたにえん。
よーし冷静になれ私。見間違いかもしれないではないか。目をこすってもう一度見てみる。
見間違いじゃなかった。
え、何で誰も気付かないの?ちょっと、そこのおばさん絶対今視界に収めたよね?何平然と会話に戻ってるの?
町の住人達のボケ具合に軽く戦慄しつつも、やはり好奇心には勝てないため自分で確認してみることにした。好奇心とは若者の心を育むのに必要不可欠なものだ。それを無下にするというのは無粋と言うものだろう。別に職員室に行きたくないとかそう言った理由はない。
謎機械の後を追って行くと、それは何と我が家であるオンボロアパートの前に着陸した。物陰から様子を伺っていると、ハッチの様なものが開いて一人の女性が降りてきた。真っ白な肌とそれよりも更に純白に輝く艶やかな髪、影になってよく見えないがその横顔からしてもうかなりの美人であることが伺える。何やら懐かしいだのまだ帰ってきてないのかだのと言っているようだ。どうでもいいがうちのアパートは居住者が私だけなので、私への来客であるようだ。如何にも怪しくさいが、私に用があるなら対応せねばならないだろう。決してまだ学校に帰りたくない訳ではない。
「あのー、私に何かご用ですか?」
「あ、帰ってきた?いや、それとも学校を抜け出して来たのかな?あっはは、全然変わらないなぁ」
「え、エスパーか何かですか」
「いや、違うかな。私の知ってるあなたならそうするだろうなぁと思っただけだよ。ね、集レイさん?」
「それはそれは。私の事を本当によく知ってるらしいですね。あなたの事を私は何にも知りませんけど」
この人怖いよ。今からでも学校に戻ったりできないかなぁ。出来ないか。
「ふふふ、なんだか楽しいね、こうやってあなたと話してるって状況、昔の私じゃぁ想像もしてなかったろうなぁ。──────そうだ、本題。はいこれ」
女の人は鞄をまさぐると、黒と白の2つの物体を取り出して私に持たせる。
「これ、何だと思う?」
「何って…………ストップウォッチと、ベルトのバックル……?」
「正解!いやぁ、これ初見で当てる人少ないんだよねぇ」
私を放っておいて喋り続ける女の人。話に着いていけない。
「はぁ。で、これが何だって言うんですか?」
「それをあなたにあげる。──────すぐに、それを必用とする時が来る。そのときあなたがしっかりとした覚悟をもって想いを伝えれば、きっとその想いに答えてくれる」
「はぁ」
「あなた、時計好きでしょ?それも壊れて動かなくなって、持ち主の元を離れた時計」
「え、あ、はい」
何でったってそんなこと知ってるんだろう。ストーカーかな。
「それは何故?」
「えっと…………時計が時間と一緒に刻んだ、持ち主の思い出というか、記憶というか。そう言うのが、素敵だなぁって思うからです」
何でこんな素直に答えてるんだろう。でも、何故か、この人になら何でも話してしまう気がした。
「ふふふ。じゃあ、いい言葉を教えてあげる。いい?『誰の時間も、世界の記憶であり、記憶とは、世界の中で誰かが刻んだ時間である。それは不可侵であり、誰かの中に残り続ける』。私が大切にしている言葉。これを忘れないで」
「…………はい」
「ふふふ、いい子だね。それじゃあ、またね!」
女の人は謎機械に再び乗ると、空に穴を開けてその中に消えてしまった。
「──────何だか、すごい人だったな」
何故か既に消えかかっている記憶を必死に手繰り寄せ、白髪の女性を思い浮かべる。しかしもう、その顔は思い出せない。ノイズがかかったように、記憶を阻んでくる。
それでもその引き寄せられるような深紅の双眸は、くっきりと頭にこびりついていた。
<2014年>
「はぁ……勝てないなぁ」
控え室のベンチに、男が一人座り込んでいた。
男は以前は名の知れたレーサーで、幾つものレースを勝ち取って来た。しかし数年前に大事故を起こし、一線には戻ってきたものの、レースでは一向に勝てず、最近ではいつもビリ争いばかりしている。男の戦績が芳しくないことから、車両などへの融資を打ち切る企業も少なくはなくなってきた。
かつての彼ならそこでストイックに自分を責めることも出来たろうが、今の彼にはそんな心の余裕はなく、ただただライバルのレーサーを恨むばかりである。
「ちっ…………あいつら、性能のいい車両だからって調子乗りやがって。俺の運転技術なら、車両の性能が同じなら絶対に勝てるんだ」
「そっかぁ。じゃあ、他社の車両を壊しちゃえばいいんじゃない?」
「っ、だ、誰だ!?」
控え室には自分しかいない筈だと、入ってくるとき確認した筈だ。男は慌てて周囲を見渡すと、隅の方に寄りかかっている少年の姿を見付けた。
「僕はタイムジャッカーのウール。君が望むなら、僕が君に力をあげよう」
<2018年>
数日後、先生にこってりと絞られた私は、町を散策していた。今では全然思い出せない女の人に会ってから、何だか胸騒ぎがして毎日学校から帰ってくるなり町へと繰り出している。なんか言い方が悪いな。
今日はクラスメイトの一人が急に早退したらしくクラスが騒然としていた。伝聞形式なのは、勿論遅刻してその場に居なかったからである。
なんでも、そのクラスメイトの父親がレーサーらしいのだが、走行中に何らかのアクシデントがあり大爆発、辛うじて救出には成功したものの未だ予断を許さない状態らしい。
それにしても、レース用の車はレース前に入念にチェックをすると聞く。ちょっとしたアクシデントぐらいならあったりもするだろうが、大爆発に繋がると言うのはどうも考えにくい。何かありそうだ。
「止まれ!止まりなさい!」
歩いていると、道路を蛇行しながら猛スピードで進む車があった。パトカーの必死の制止も虚しく、電柱に激突して炎を上げる。
辛うじて運転手は助かったようだが、車は大破。警察官が消防車を呼んだようだ。
─────おかしい。
運転手の男性は混乱している様子だ。何か、急に操作が利かなくなったというようなことを言っている。
ふと、視界の隅に赤い人影が映る。
考える暇もなく、私はその影を追っていた。
§§§
「チッ……、また事件が起きたか……」
「今度も車……ねぇ、やっぱりあの、2014年の」
「だろうな。しかし、事件を起こしているヤツも『魔王』も見付からない。───しょうがない。事件の方に向かうぞ」
「えぇ、分かった」
「『魔王』が力を得る日は近い……それまでに、こちらも力を得なければ……」
§§§
奇妙な赤マンを追いかけていると、人気のないシャッター街に来ていた。追い付くと、赤マンがゆっくりと振り返る。
「…………うわぁ、きっも」
お世辞にもイケメンとは言えないその顔には複眼と鋭い牙が並び、左の肩口から右の脇腹にかけてタイヤがかかっている。そして腰には何やら文字の書いてあるベルト。
『やっほー』
「うわっ!?」
声の主を探ってみると、こないだもらったバックルからだった。黒い時計と一緒に取り出すと。何やら説明を始める。
『あなたがいま目の当たりにしているのは、『アナザーライダー』という者。時間を統べる王を擁立するために、『タイムジャッカー』と呼ばれるヤツらが、歴史を改竄して『仮面ライダー』って呼ばれる戦士の力をアナザーライダーに植え付けた。つまり、タイムジャッカーは、仮面ライダーが戦ってきた『記憶』、そして、アナザーライダーが刻む筈だった『時間』を奪う、赦されない存在』
「だとしたら──────」
人や物、それぞれに『記憶』と『時間』がある。それを『王を擁立する』だなんてよく分からない目的の為にねじ曲げて無かったことにするなんて、
「─────赦せない」
黒い時計を持つ手に、きゅっと力を込める。
─────お願い。私に、力を。
黒い時計が淡い光を放ち、色を持つ。
『さあ、あなたは、その力の使い方を知ってる筈だよ』
時計────否、ライドウォッチのフレームを90度回転させ、ボタンを押す。
《『アイズ』!》
腰に巻いた、
「───────変身!!」
そして一気にバックル部分を回転させる。
《RIDER TIME!KAMEN『RIDER』!!─O-IZ─!!》
「カウントダウンは始まった。異論は認めないよ!!」
まずは、奪われたアナザーライダーの時間を取り戻す!
何故かは分からないが、頭のなかに必要な情報がどんどん流れ込んでくる。取り敢えずアナザーライダーは倒せばオッケーだ。
「はぁぁァァァ!」
アナザーライダーに次々と打撃攻撃を加えていく。
元から運動神経は男なんかよりも遥かに高いが、やはり身体能力がかなり強化されているのを感じる。
「私の必殺技、その一!ガチ殴り!」
力を込めて思いっきり殴り飛ばすと、アナザーライダーはまるでボールのようにぶっ飛んだ。すげぇ。
しかしここで距離を話したのが悪手だったのか、アナザーライダーは車を具現化して私に発射してくる。いや、車だから発車か?
当然為す術もなく追い詰められていく。飛び道具がほしい……。
《ShotGun》
すると手に銃が現れた。有能過ぎる。
「ショットガンかぁ。中々高威力だって聞くけ……どッ!」
ふむふむ。反動は多少はあるが、それを差し引いてもかなりの威力だ。しかも引き金を引く加減によって散弾と単弾の使い分けができるようである。
「私の必殺技、その二!!百烈連射!!」
散弾をこれでもかとばら蒔き、向かってくる車を全て粉砕する。ひえぇ、これ向けられたら怖すぎる。
するとジリ貧だと判断したのか、アナザーライダーはこちらへと高速で向かってくる。
≦SPIKE≧
するとかかっているタイヤにトゲが生え、高速回転を始める。威力の高めな単弾放つも弾かれ、その攻撃を受けてしまう。
「いった…………。殴るのは無理そうだな……っていうかこのショットガンへんな形してる。ここ回るのかな」
《ChainSaw》
いやチェーンソーて。13日の何曜日だよ。
とにかくトゲトゲに対する対抗策は出来た。回転刺には回転刃を、だ。大丈夫かな?刃の形状バイオレンスすぎない?まあいいや。
「おらおらおらおら!」
トゲトゲをものともせずにジャクジャクとアナザーライダーを切りつけていく。音がひどいなもう。人に向けちゃいけないぞ、これ。
「私の必殺技、その三!!キラースライス!!」
チェーンソーをギュイギュイいわせながら、向かってくる相手の勢いも利用して思いっきり振り抜く。かなりの大ダメージだな。
「よし、そろそろフィニッシュだよ!」
再びドライバー上部のボタンを押し、バックルを回転させる。
《FINISH TIME!!》
足にエネルギーを満たして上空へ高くジャンプし、どこからともなく現れた『KICK』の文字がアナザーライダーを拘束、そこまでの道筋を示す。
「行くよ!私の必殺技、その四!!」
《TIME BLAST!!》
「───────ギガトン・キィィィィィィッッッッック!!!!」
私の
「ふう、終わった終わった。息は……あるね」
「貴様、何者だ」
「え?」
振り返るとそこには、私と同じように腰にジクウドライバーを巻きライドウォッチを構える青年と、その後ろでこちらに銃口を向けている少女がいた。
「貴様、何故ジクウドライバーとライドウォッチを!!」
《カメン『らいだー』!!》
「ちょまま、ノー!話し合い、話し合いをしよう!!」
「追跡、撲滅、いずれも────」
「「変身!!」」
《ARMOR TIME!!Mach!!》
《ARMOR TIME!!Drive!!》
Episode2:超音速のデッドヒート
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