TS転生したら幼馴染が光の奴隷でした   作:生野の猫梅酒

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「純粋なシルヴァリオ ヴェンデッタ単体の二次創作がほとんど無いというのなら……執筆者が必要とされるならば、いいだろう、俺がやってやる」

そんな精神から書き始めました。シリーズ中の好きなキャラはほぼ全員ですが、しいていえば閣下と糞眼鏡です。よろしくお願い致します。


第一章 スラムにて/Childhood
Chapter1  スラムの少女/Margarethe Brown


 ──あの日見た光景を、後ろ姿を、オレはきっと生涯忘れないことだろう。

 

 熱く雄々しい拳が唸る。燃え盛る情熱を胸に抱いた少年の快進撃が止まらない。まだほんの子供でしかない少年の一撃はしかし、軽く五歳は上だろう男たちをことごとく打ち砕き憚らない。たとえ殴り返されようと意にも介さず平然と戦闘を続行するほどだ。

 

 まるで物語から抜け出してきたかのような少年だった。圧倒的な戦力差を前に単騎で戦い抜き、当然のように勝ち抜く英雄の在り方。見れば誰もが憧れてやまないような、正道を一心不乱に進み続ける者に特有の輝きを放ち続けている。

 その後ろ姿があまりにも雄々しくて、格好良くて、ほんの少しも目を離せない。多人数を相手に金髪を翻し戦う姿は冗談抜きに惚れ惚れして、曇りのない蒼い瞳は途方もない意思の強さをこれでもかと示していた。

 

 彼こそは、光の英雄。覇者の栄冠を担う器。

 

 そんなありきたりな、けれどこれ以上ない形容が脳裏を過った。オレと同じくスラムに住まうみすぼらしい少年のはずなのに、心の有り様は不動にして不屈。英雄譚を担うがごとく、前へ前へと進み続ける気概に満ち満ちていた。

 なんだ彼は、何者なのだ。どうしてそうまで真っすぐ生きていられるというのだ。その少年を構成するあらゆる全てが冗談みたいに輝いて見えて仕方ない。同じ人間とはとても思えないくらい、雄々しい姿を示している。

 

 そうして気が付いたときには、少年は五人もいたはずの年上たちを全て殴り倒してしまった。少年自身の傷も決して浅くはないが、それがどうしたとばかりにすまし顔で立っている。要するに気合と根性によるやせ我慢、だが極まればこうまでなれるのかといっそ感心させられるばかりだ。

 

「立てるか?」

 

 仏頂面を浮かべつつ、少年はオレに手を差し伸べてくれた。そこで初めてオレは自分が座りこんだままだったことに気づき、彼の手を借りて立ち上がる。がっしりとした力強い男児の手だった。

 ありがとう、と礼を述べてから自らの名を名乗った。続けてそっちの名前はと聞けば、やはり仏頂面のままだがしっかりと教えてくれたのだ。

 

「俺の名は、クリストファー・ヴァルゼライドだ」

 

 ◇

 

 新西暦一〇〇二年。

 アドラー帝国に存在する貧民窟(スラム)とは、一言でいえば塵屑の掃き溜めである。

 

 朽ち果てた建物が並び、衛生環境も最悪を越えた劣悪。煌びやかに輝く帝都の街に連なるはずなのに、どこまでいっても屑の寄せ集めでしかない、そんな場所だ。

 そこに生きる人々もまた人の形をした塵も良いとこだった。スラムなんぞを根城にするのは明日に困った浮浪者や意地ぎたない孤児たち、それに喧嘩に明け暮れる若者たちばかり。真っ当な精神を持った者など一人もおらず、皆が明日の糧を求めて蠢き奪い合う最低の見本市が貧民窟(スラム)の現実なのだから。

 

 ──当然ながらこのオレ、マルガレーテ・ブラウンもその例に漏れず屑のお仲間だった。

 

「ちぇ、今日はこんだけか」

 

 ガサガサとゴミ箱の中を漁る。都市の中心部に比較的近いこの場所は、どっかの誰かが廃棄した食糧が混じっていることが多い。なので今日も漁ってみたのだが、生憎とたいした量は入っていなかった。

 仕方ないが、それでも食べれるだけマシな方だ。惨めな思いを誤魔化すように拾い上げたパンを頬張る。パン自体はつい昨日にでも棄てられたのだろう、衛生面さえ考慮しなければ悪くない味である。

 それを貪って胃に収めてからスラム街を歩きだす。崩れかけた建物の陰には、オレと同じようにスラムで生きる子供たちが目に入る。かつてのオレならその姿をみてみすぼらしいと遠ざけたかもしれないが、今のオレはその同類だ。笑うことなど出来なかった。

 

「なぁんでこんな目に遭ってるんだろうな、オレ」

 

 ねぐらである廃ビルへと戻り、奇跡的に水道の生きている一角にうずくまる。口をついて出るのはいつだってどうしようもない自らの境遇への嘆きだ。言ったところで仕方ないが、どうしても恨み辛みにも似た感情は定期的に湧き出して仕方ない。

 

 オレは、いわゆる転生者と呼んで差し支えないのだろう。他人に聞かせれば間違いなく頭の病気を疑われるだろうけども、事実であるのだから仕方ない。こうしてマルガレーテ・ブラウンとしてスラムで生きる前、いわば前世の記憶をしっかり保持しているのだから。

 元々のオレ自身は大したことの無い人間だった。多少サブカルに傾倒しつつも最後は若くして病で死んだ普通の人間、その程度である。だからこうして二度目の生を受けたときの驚愕と喜びは七年経った今でも覚えているのだが。

 

 誤算は主に三つだ。

 一つ、生まれの親が揃って蒸発したこと。

 二つ、そのせいで二年前からスラムという最低辺で生きていく他なくなったこと。

 最後の三つ目、そもそも生前とは性別が違う姿で生まれてしまったこと。

 

 最初の二つは環境の問題なのだろう。オレの第二の親はろくでもない屑であり、そのせいでスラムで生きる事を余儀なくされた。かつての大人としての精神が残っていたのは不幸なのか幸運なのか、発狂はせず憂鬱になりながらもどうにか日々を生き延びている。

 だが最後の三つ目に関してはまるっきり話が違う。オレ、と自らを呼称しているようにかつての性別は男性だった。それがどうしてか女性になり、しかもマルガレーテという完全に女性の名前を付けられているのだから堪らない。今でこそ慣れたが、かつては違和感しか覚えなかったものだ。

 

 そんなこんなでわざわざ安全な現代日本から転生させられた挙句、こうして最底辺で燻ぶり足掻いているのがマルガレーテ・ブラウンの真実である。あまりにも惨めで泣きたくなるような生活ぶりだが、それでも死にたくはないので努力を続ける他にない。

 日々の楽しみといえば前世(かつて)を偲びながら眠りにつくことと、水面に映り込んだ自分を眺めることくらいだ。ナルシストな自覚はあるが、かなり顔は良い方なのだ。くすんだ茶髪と明るいオレンジの瞳も中々のもので、順当に成長できれば相当な美人になれると断言できる。

 

「ま、それも成人まで生きられればの話なんだけどな……」

 

 自嘲するように呟いた。せっかく男の精神のまま可愛い少女に生まれたのだ、第三者目線で成長を楽しみたい欲望は当然ある。だがそんなことよりも今日を生き、明日を乗り越えることが最重要だ。未来のことなど考えるだけ贅沢と学んでいた。

 それにしても、腹が減った。先ほど食べたパンだけだと成長期の身体には足りないようだ。そう都合よく食糧が手に入るとも思えないが、腹が減ったからにはこのままという訳にもいかなかった。

 

 億劫ながら立ち上がりねぐらを出る。風が吹いたその先にはこのアドラー帝国の象徴、要塞とビルが融合したかのような歪な造形をした”政府中央棟(セントラル)”が聳え立っていた。きっとあそこでは飢えも惨めさもない、快適な生活を送っている人間がたくさんいるのだろう。考えるだけで悲しくなる。

 このアドラー帝国、もとい新西暦の世界については多くを知らない。知っているのは精々この国が軍事帝国で、かつかなり内部が腐敗しているらしいこと。そして空に浮かぶもう一つの太陽、”第二太陽(アマテラス)”から流れ出す”星辰体(アストラル)”なる粒子のせいで既存の法則は大きく塗り替わってしまったらしい程度だ。

 

 なんで日本の神様の名前が浸透しているのか、そもそも星辰体(アストラル)とは何か、これだけでも気になることはたくさんある。しかし所詮スラムに居ては手に入る情報もたかが知れているのだ。先のものだってこの世界では常識に等しいもの、それ以上の詳しい内容など知る余地もなかった。

 

「オレも早く楽な暮らしがしたいなぁ……」

 

 オレには夢がある。いつかこのスラムを出て真っ当な生活を送ることだ。夢というにはあまりにもささやかで、ありきたりなものでしかないが。

 平穏な日々。きっと世の中の誰もが当然のように享受し、何の疑問も持たない概念だろう。だけどこうして一日一日を生きるのに必死になってみれば、いかにそれが素晴らしいかよく分かる。その尊さを噛み締めたからこそ、いつかはこの最底辺を脱出したいのだ。

 

 ともあれ、食べ物を求めてスラムのめぼしいところを歩き回る。運が良ければ気紛れにパンの廃棄を配ってくれる大人が来たりもするのだが、今日は生憎と姿が見えない。第一それが来ると決まって壮絶な取り合いが始まり、最後は喧嘩やらにまで発展するのだ。ありがたいが、しかし争いの種なのも否めなかった。

 しばらく様々な箇所を歩き回り、ゴミ箱を漁り、ようやく新たな食べ物をゲットすることができた。やや傷んだ林檎だが、十分に食べられるし腹も満たせる。上々の結果だった。

 もし露店相手に底辺らしくスリでも出来れば話は違ったのだろうが、この身体ではかなり厳しい。見つかった際のリスクも考えれば無用な危険は冒せないし、下手に目立てば角が立つ。

 

「なぁ嬢ちゃん、その飯俺らにくんねぇかな?」

「──……ッ」

 

 だってそう──このような手合いに目を付けられる可能性が高まってしまうのだから。

 

 林檎を手にホクホク顔をしたオレの前に現れたのは、見ただけで不良っぽいと分かる少年五人組だった。彼らは徒党を組んでオレの前に立つと、さも当たり前のようにこの手に握る食糧を要求してきた。

 外見十二、三程度の少年たちが、七歳の少女でしかないオレに対して寄ってたかって飯をたかる。それも傷んだ林檎一つにだ。一見すれば滑稽にしか映らないだろうが、しかしこれがスラムの実状なのだから根は深い。卑怯で恐ろしい手合いだが、彼らもまた飢えていることに違いはないのだから。

 

 しかし、そう簡単に貴重な食糧を渡してやるわけにもいかない。オレにはオレの人生がかかっているのだ。はいそうですかと渡してやるのも勘弁願いたい。

 

「誰が渡すかよ、バーカ」

「待て、このクソ餓鬼が!」

 

 捨て台詞と共にすぐさま背を向け、一目散に少年たちから逃げ出した。少女の足ではすぐに少年たちに追いつかれるだろうが、幸いにしてこのスラムは入り組んだ建物も多い。小柄を活かしてそれらに逃げ込めば撒くことは十分に可能だった。

 積み重なった鉄骨の下に潜り込みホッと一息。少年たちはこの奥へと入ってはこれず悔し気に見るだけだ。これであとは反対側にでも抜け出せば良いと考えていたのだが──

 

「そら、やっと捕まえたぞ!」

「手間かけさせやがって、ったく!」

「この、放せよッ!」

 

 なんとも呆気なく捕まってしまった。

 理由は簡単で、鉄骨の先が建物の壁で通れなかったこと、割と簡単に鉄骨をどかせるような重なり方をしていたようだ。そのせいで隙間を広げられてあえなく捕まってしまった運びである。

 仕返しとばかりに思い切り顔を殴られ、薄汚い路上に放り投げられた。頬が燃えるように痛い。反射的に涙がこぼれたが、泣き声だけは決してあげてやらない。それをしたが最後、きっと自分は折れてしまうと分かっているから。

 

 無様に泣き叫ぶのだけは堪えるオレの前で、しかし少年たちは更に恐ろしいことを平然と口にした。

 

「これで食糧確保と……おい、こいつどうするよ?」

「面倒だし放っておけばいいんじゃないの?」

「いや待て、こいつけっこう顔立ち良いぞ。ここは一つ……どうだ?」

「どうだってお前、相手はめっちゃ小さい餓鬼だぞ。ま、いいか、中々こんなチャンスもないしな」

「おうおうそうだな、楽しまなきゃ人生損だぜ」

 

 最後の言葉に「違いねぇな!」と少年たちは下卑た笑い声をあげた。オレからすればお前たちだって同じ餓鬼だろ、そう感じたがしかし言い返せない。これから何をされてしまうのか、仮にも男だった記憶があるから理解できてしまう。それだけはダメだ。

 尻もちをついたまま後ずさる。首を振りながら「やめろ」というが少年たちは一切気にしない。余裕ぶって歩いて近づき、ついにオレの正面に立った。彼らの一人がオレのまとう襤褸布に手を掛け、抵抗できないように両手足を掴まれた。

 

 もはやこれまでか。圧倒的な絶望に襲われ諦めた、そのときだった。

 

「──いいや、そこまでだ」

 

 背後から、あまりにも巨大な熱量を秘めた決意の声が届いた。

 思わず振り向いたのはオレだけでなく、まさに欲望をぶつけようとしていた少年たちもそちらを見た。そして、彼はそこに居た。

 汚れでくすんだのだろう金髪を揺らし、やはりスラムの子供らしく服装も貧相だ。けれど鋭い蒼の瞳だけは不釣り合いなほど強烈な意志に満たされ、これでもかというくらい嚇怒の炎を燃やしている。直視すれば目を灼かれる太陽のような、圧倒的な情熱が燃え盛っているのだ。

 

「男どもが寄ってたかって少女を凌辱などと、情けないにも程がある。ふざけるなよ悪党ども。貴様ら全員この俺が相手をしてやろう」

「な……なんだよ、お前は? 邪魔するってんなら容赦しねぇぞ?」

「や、やんのかおい……!」

 

 明らかに歳の離れた子供を前に少年たちの方が及び腰になるという奇妙な光景。だが彼はそれすら不思議に思えないくらい、圧倒的な存在感と莫大な感情を示しているのだから是非もない。すなわち、眼前の悪を許せぬ怒りの炎。

 前へ前へと進む意志、紛れもない高潔なる心を冗談みたいに備えた彼は、それ以上言葉を交わすこともなく少年たちへと殴りかかった。数の利はオレを襲った方にあり、彼の方は明らかに多勢に無勢も良いところだ。一分後には袋叩きにされる未来しかないはずが、しかし──

 

「どうした、温いぞ。その程度か?」

 

 さも当然と言わんばかりに彼は問うた。彼の拳は容赦なく少年たちへとめり込み、逆に彼へと奮われる拳や蹴りはほとんどが当たらない。それでもたまに直撃するのだが、涼風程度の衝撃と言わんばかりに表情一つ崩さず耐えているのだ。

 

「なんで倒れねぇんだ、なんで倒せねぇんだよ……! 化け物かコイツは!?」

「ふざけやがって、この──ガハッ」

 

 なんて圧倒的な光景だろう。年齢、体格差、数、全てが金髪の少年の不利を裏付けているはずなのに、おとぎ話のように彼は不滅で最強だった。気が付けばオレを襲おうとした少年たちは全員が逃げることもできず路上に伸びており、ただ一人勝利を手にした者だけは厳然として立っていたのだ。

 

「立てるか?」

「あ……」

 

 その彼が、尻もちをついて座り込んだままだってオレに手を差し伸べてくれた。がっしりとした力強い手を握り返し、どうにか震える己の足で立ち上がった。この人の前で無様な姿はこれ以上見せられない、何故だか強くそう感じたのだ。

 

「その、助けてくれてありがとう」

「気にするな。俺がやりたかったからやっただけだ」

 

 素っ気なくそう言われてしまった。誰かを助けたのだからもっと誇らしげにしても良いだろうに、少年は仏頂面を全く崩そうともしない。

 そんな超然とした態度がますます気になってしょうがない。彼はいったい何者なんだろう。感謝と好奇心がない交ぜになったまま、気が付けばオレは去ろうとする少年の背中を呼び止めていた。

 

「オレはマルガレーテ・ブラウンっていうんだけど、よければそっちの名前を教えてもらっても良いかな?」

 

 この凄まじい人の名前を知りたいと心から願い、素直に口にする。こんなところで縁が切れてしまうなんてあまりにも惜しく感じられた。

 彼は足を止めてこちらを振り向く。鉄面皮は欠片も綻ばず、しかし真っすぐな視線と共に真摯に名を教えてくれたのだ。

 

「俺の名は、クリストファー・ヴァルゼライドだ」

「クリストファー・ヴァルゼライド……」

 

 告げられた名を自分の舌で小さく唱えた。それだけで理屈でなく心が震えた。同じスラムのみすぼらしい子供のはずなのに、彼は何故だかこちらの魂を奮起させてくる。まるで英雄の卵と出会ったかのような──否、実際にそうだと言われても臆面もなく信じられる。

 

 だって危ないところを助けてもらったオレにとって、紛れもない英雄(ヒーロー)なのに違いはないから。

 

 ──そしてこの出会いこそ、これから先へ続く運命への片道切符だったなど、この時は知る由もなかったのだ。




Q. なんで幼馴染ちゃんTSさせたの?
A. 心は男、身体は女でかつてないホモ(友情や純愛)を達成できそうだったから。

真面目に言えばあまり女性らしすぎると精神だと、確実にヴァルゼライド閣下に置いてかれてしまうと思ったからです。ただし逆ハーレムになんてなりません。全員がしっかり閣下へと矢印が向いてるので大丈夫です(白目)
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