TS転生したら幼馴染が光の奴隷でした   作:生野の猫梅酒

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Chapter11 努力という才能/Mentor

 新西暦にて尊ばれる日系の血筋の一つに、ムラサメという家系がある。

 

 質実剛健な武系の家にして、自らが主人とならずにより貴いとされるアマツの家系に仕える者たちの総称だ。彼らは主人たるアマツの者の護衛にして懐刀として剣技を磨き、いかなる相手であろうと断てない存在はないという。

 愚直なまでに鍛え上げられた無骨な刀の前に敵は無し。主人の為に生き、そして死ぬ。ムラサメの名を継ぐ者とはまさしく一振りの刀そのものとすらいえよう。

 

 しかしそんな剣豪だろうと寄る年波には勝てず、時には主人から(いとま)を貰うこともあるという。そのような人物は大抵その後も忠義を貫くか、新たな後継者でも育てて主人に尽くすよう導くらしいのだが、稀にそういった通常とは少し外れた生き方を選択する者もいるのだとか。

 

 つまりオレたちの戦技教導官をしてくれている老練の剣士トナリ・ムラサメ中尉は、ムラサメの中でも珍しい人物ということだ。

 

「ブラウン! 踏み込みが甘いぞ! お前が握るそれは玩具なのか!」

「──ッ、いいえ!」

 

 厳しい叱責の言葉と共に、あまりに鋭い刀剣が翻った。

 目にも留まらぬ速度で繰り出された刺突をどうにか直刀で逸らし、反撃とばかりにもう一度踏み込んだ。先ほどは半歩足りずに悠々と回避されてしまった振り抜き、今度はさらに前のめりとなった攻勢に全精力を注ぎこむ。

 相手は剣豪といえど老齢、若さによる優位はこちらにある。現に突きを逸らされた格好から教官はまだ復帰していない。身体が反射的な思考に追いつけていないのだ。

 

 ついに一本取れるか──いいや、相手はそう甘くない。

 この人は数多の戦場を剣一本を頼みに生き抜き、この年齢まで到達した剣鬼とも称すべき存在だ。都合の良い(ぬる)い考えなど捨てて然るべきであり、現に有利な展開など何一つ起きはしない。

 

「良いぞ、先ほどよりは見れるようになった。だが、練り込みがまだ足りぬな。お前の呼吸は読みやすいぞ」

 

 予想外にも、いや、半ば予想した通りに相手は軽々と対応してのけた。真っすぐ落ちてくるこちらの直刀を半身になって避けると、右足でその切っ先を抑えてしまう。代わりにこちらの首元に刃が突きつけられることで勝敗は決していた。

 

「今度こそ一本取れるかと思ったのですが……まだまだですね」

「当然だ、そう容易く教え子に超えられてたまるものかよ。しかし良いだろう、今のは及第点をくれてやっても良い」

 

 ありがたいお言葉を貰えたものの、正直素直に喜べる気はしない。今の攻防は完全にこちらが読み切られていた。向こうは身体の自由度という観点すら計算に入れた上で、あらかじめオレの次の動きを予測して()()()()()()いたのだ。まるで仕掛けられた罠に鮮やかに引っかかってしまったようで逆に清々しさすら覚えてしまう。

 そういえばいつか、クリスとも似たようなことがあったが……やっぱり、昔からあまり成長していないのだろうか。何だかとても悔しく感じてしまう。

 

「では次はヴァルゼライドの番だったな。ブラウン、お前はロデオンと見学だ。しっかり技を見て覚えろ」

「はい!」

 

 大人しく引き下がり、グラウンドの片隅でオレと教官の模擬戦を見学していた二人の元に戻る。入れ替わりでクリスが前に出て、教官と対面して腰の刀剣に手を掛ける。彼のもっとも得意な剣技、抜刀術を用いる構えだ。

 そして次の瞬間には中空で剣がぶつかり合い、凄絶な火花を散らし合う。とても模擬戦とは思えない迫力を食い入るように見つめてるオレに、アルがふと肩を叩いてきた。

 

「まあそう落ち込むなよレーテ。さっきの模擬戦、割と良い線いってたと思うぜ?」

「アル……ありがとよ、そう言ってもらえるだけ嬉しいぜ」

 

 心配されるくらい目に見えて落ち込んでいただろうか。そんなつもりはなかったのだが、もしかしたら無意識に表出してしまっていたのかもしれない。それくらい自分の成長のしなさ具合が歯痒かった。

 目指すべき背中はまだまだ遠い。こんな調子じゃ並び立つなど不可能だろう。今もクリスは教官相手に鬼気迫る表情で戦っている。模擬戦というのを忘れそうなくらいの迫力、ともすれば殺してしまうのではないかと錯覚するほど。けれど対面するムラサメ教官は涼しい顔で、着実にクリスの剣をいなしては退路を断っていく。

 

「どっちも凄いよな、ホントさ……いつだって前向きに頑張ろうとは思うけど、たまにちょっとだけ不安にもなる」

「気持ちはよーくわかる。だけどアレだ、上ばっか向いても仕方ないぜ? 少なくとも教官にかんしちゃ今の俺たちじゃ逆立ちしたって敵わねぇさ」

 

 それはまあ、確かにそうだろう。自分たちのような揃って十代半ばの若輩者と、既に六十は軽く超えてるであろうムラサメ教官。積み重ねた経験も蓄積も何もかもが雲泥の差という他ない。指導者としても間違いなく尊敬に値する人だ。

 そもそもこの戦技指導において、この教官に当たったことは士官学校入学以来の幸運だったと断言して良い。基本的には全体で訓練をして着実に技術を身に着けていくのだが、このような模擬戦などは数人組に対して一人の教官が付けられる。オレたちはそれが偶然ムラサメ教官だったという訳である。

 

 だからグラウンドの別の方向へとチラリと視線をやれば、やはり教導官と一対一で向き合い刃を交わらせる生徒が多々見受けられる。しかし、これもまた断言しよう。現在繰り広げられているクリス程の腕を持つ生徒も、それを悠々と受け流すムラサメ教官程の指導者も、他に存在はしなかった。

 

「呼吸を抑えろ、心を研ぎ澄ませ。次に振るう剣の事を考えながら、しかしこの一刀で終わらせるという気概を持て。蛮勇と臆病の感覚を乗りこなして戦うのだ」

「──ッ!!」

 

 ひたすら果敢に攻め込むクリスを前に、ムラサメ教官はしっかりと彼の太刀筋を見ながら指摘を出せている。これがもし他の教官ならば、少なくともそのような余裕はないだろう。ともすれば斬り殺されるようなクリスの勢いを前に他の思考を挟む余地など何処にもない。

 けれど、それが出来るからこそムラサメ教官は頭一つ以上抜きんでた剣士なのだ。言葉こそ抽象的で概念的なものが多いが、それでも一太刀一太刀丁寧に合わせることで読み取れる境地もある。あの人はそういう教え方を好むらしく、オレたちもまたそこから学び取れる内容を吸収するのに必死だった。

 

「心の在りよう、矛盾した表現を現実に出来てこそ一人前ってことなのかな……勉強になるよ」

「蛮勇も臆病もそれだけじゃ簡単に死ねるような危ないもんだしな。あのクリスに限って臆病とかそういうのだけは無さそうだけどよ」

「はは、確かに」

 

 軽く笑いながら初めてムラサメ教官と対面した時を思い出す。あれはまだほんの一ヶ月前の話、この士官学校に入学した当初の戦技指導でのだった。

 今日と同じくグラウンドに集い、初めて顔合わせをしたオレたち相手に教官はいきなり告げてきたのだ。

 

『剣か、それに類する物を振るったことは? ……あるか、なら今から俺と模擬戦をしてもらう。端的にお前たちの今の実力を見せてもらおう』

 

 そう言葉短く言われた時には既に刀剣が抜かれていた。目で追えないような速度ではなかったはずなのに、抜刀の瞬間をその場の誰も目で追う事が出来なかった。まるで魔法にでも掛かったかのような鮮やかさに、三人揃って冷や汗をかいたと後になって話し合ったほどである。

 ともあれ教官がオレたちの実力を知りたがっているなら応えるまで。仮にもスラムで何度も繰り返した鍛錬の成果を見せてやろうと意気込み……それはもう呆気なく、笑えるくらい簡単にひねり潰された。

 

『なるほど、こんなものか』

 

 呼吸一つ乱さず、オレたち三人の拙い猛攻を捌ききった教官の呟きは静かだった。

 膝をついて呼吸を整えているこっちが何を言われるかと身構えていると、彼は滔々と諭すように語り出したのである。

 

『基本が何もなっていない。我流で鍛えたのだろうが、それでは動作に無駄が多すぎる。ひたすら鍛錬すれば我流だろうとより練磨された技術になるなど、甘えた夢想は捨てることだ。はっきり言って話にならん』

『な、それは……!』

 

 白状すれば、この時はけっこう腹が立った。こっちは正規の剣術を学ぶ機会など無かったし、生き抜くために必死で昇華させた技術なのだ。どれだけ無様に映ろうとも、それをこうも上から目線でこき下ろされるなど。例え正しいのは向こうであろうと我慢できなかった。

 だから、もしムラサメ教官がこれしか語っていないのならば、オレはこの人のことが嫌いだったろう。実力は確かだが個人的に嫌な相手、そういう認識で終わったはずだ。

 

『しかし五体に染みつかせた努力と研磨の足跡だけは見事だった。お前たちはお前たちなりに、相応な苦しい修練を続けてきたのだろう。ならば次は、正しい苦しみ方をオレが教えてやる』

 

 そして続けて放たれた少しの賞賛は紛れもない本心なのだと理解できたから、トナリ・ムラサメ中尉を嫌うどころか尊敬に値する人だと素直に認めることが出来たのだ。

 ただこちらの力を見極め、冷徹に批判するだけでない。努力もまたしっかり認めてくれる相手だと分かったからこそ嬉しかった。オレたちが今までやってきたことは無駄ではない、そう言ってもらえたも同然だったから。思えばスラムで生きてきたオレたちを評価してくれる者なんて、これまで出会ったこともない。

 

『体力筋力の付け方、剣の握り方、振り方、心の構えまで。例え短い時間だろうと──いいや短いからこそ基礎は全て叩きこんでやる。基礎こそ万事に通じる奥義だ、それさえあればどのような地獄だろうと生き抜けるようになる。分かったか?』

『はい!』

 

 威勢よく返事をしたのはオレだけでない。クリスもアルも、間違いなくオレと同じような想いを胸にしていたはずだ。

 今になってさらに分かる。ムラサメ教官のような人物はごく一握りだ。普通の講師や教官はスラム生まれなど気にしないし、たった半年という間に指導を叩きこむのすら無駄と感じることだろう。こうやって真正面から認めてくれ、講師としての本分を果たしてくれている人に会えたのが奇跡のようなものである。

 

 ぶっちゃけ、『正しい苦しみ方』と堂々と言っていたように課される鍛錬ノルマはかなりキツイ。死ぬほどキツイ。加えて勉強面でも手を抜けないのだから精神的にも辛い。たった一ヶ月の間に気絶するように眠りこけたことも割とある。

 それでも、衣食住が保証されているだけマシな方だ。次の日の食糧を計算したり草を食べて飢えを凌いだり、ゴミを漁ってまでやるような涙ぐましい生存の努力に気を配らなくて良い。例えスラム生まれと後ろ指を指されようが生きやすい環境なのは間違いないだろう。

 

「心の構えを作るのは難しいよな。体力とかは分かるくらいに上がったし、剣の振り方もだいぶ効率良いやり方を知れたけどさ。精神修養は一朝一夕にはならずか」

「心なんざそういうもんだろ。アイツみたいに心だけでどんな苦境も突破できるような奴だっていれば、俺たちみたいに心の強さだけじゃまだ足りないようなのだっている。弱さも強さもあまさず知って、それで初めて一人前ってことなんだろうさ。まだまだ悩んでたって仕方ないだろうぜ」

 

 らしくもなく難しい考えを語るアルに、オレも「そうかもしれないな」と呟いた。本当にこの男は、特に計算をしてる訳じゃないのに上手く空気を読むというか。まるで気を遣われてしまったようでちょっと恥ずかしい。

 そうだ、オレたちはまだまだ未熟者なのだ。”あんな風になりたい”だとか、”こういう風に生きてみたい”だとか、理想ばかり追い求めても現実との軋轢の前に砕け散るのがオチだろう。別に未熟を誇るつもりはさらさらないが、ほんの少しの間に成果が出てないからといって落ち込むのは時期尚早というものである。

 

「お、向こうもそろそろ終わるか? クリスの奴もだいぶ食いついてはいるけど……」

「経験値が段違いだな。アイツもそりゃあ凄い奴だが、さすがに勝負の土俵が違いすぎる」

 

 何度となく剣を振っても掠りもせず、逆にジワジワと自分の体力ばかりが削れていく。息が上がってもなおクリスは気力で立ち上がるが、それすら弁えているかのように教官は油断をしない。適切にいなし、的確に身体を動かし、視線と呼吸をしっかり見ながらクリスの動きを先読みし続ける。 

 

「ひとまずはこんなものか。お前の異常なまでの伸びしろにはいつも驚かされてばかりだ」

 

 本当に驚いているのか分からないくらい感情の希薄な言葉を手向けに、教官がほんの少し右足を前に突き出した。それは言うなれば道端に落ちている小石のようなもので、普段ならば絶対に躓くはずがない。けれど今この時だけは違っていて、僅かにズレたクリスの足並みを遮るように置かれた足は確かに彼を蹴躓かせたのである。

 前のめりに地面へと転びかけてどうにか受け身を取ったクリスを見下ろし、ムラサメ教官は静かに剣を鞘へと納めた。既にアルの模擬戦は済んでいるから、今日はこれ以上剣で切り結ぶこともない。 

 

「各々、今日はここまでだ。しっかり身体を伸ばして休息を取っておけ。空いた時間は無駄にするな、隙間だろうと鍛錬一つ挟む余地は十分にあるぞ」

「はい!」

 

 こうして、今日の戦技指導はひとまず終わった。毎度のことながらこの後に受ける講義は非常に眠くなるのだが、そこは気合と根性である。眠るな、オレ。

 

 ◇

 

 トナリ・ムラサメという男から見て、自分の受け持つ三人はかなり特殊な者たちだと断言できる。

 それは何故か。決まっている、何せ三人が三人とも──

 

「凡庸であるから、ですか。ああ、あなたの疑問はよく分かりますとも。私も一目見て同じ疑問をいだいたのですから」

「……お前か」

 

 戦技教導を終えて廊下を歩くトナリを呼び止めたのは、この士官学校始まって以来の秀才とも称される青年だ。まだ入学してから一年程度しか経っていないだろうに、明晰な頭脳の評判は誰もが知っている。知らないのはそれこそ不定期に編入されては半年で消えていく、スラム出身の者たちくらいのものだろう。

 だから当然トナリもまた知っている。教導官として彼に剣を教えたこともあった。拍子抜けするくらい簡単に剣の術理を盗み取った癖に、それでもなお驕って努力を止める事がない気真面目さは好感すら覚えるほどだ。

 けれど、この青年への評価は好感だけでは収まらない。能面のような無表情、眼鏡の奥に輝く理知的な青い瞳、それらはまるで人間をデータか何かで見ているようで、どうしても不気味さを覚えてしまいしょうがないのだ。

 

 そのような男が、いったい何用なのか。いいやそれより、どうして自分が()()のことを考えていると理解し、同意すら示してきたのか。底の知れない先読みの具現は知っていてもなお驚嘆しか浮かばない。

 

「ムラサメ教導官、あなたから見て()()の評価はどうですか。おそらくは私の考えている通りでしょうが、忌憚なきあなたの言葉を聴かせてほしい」

「……才能に恵まれている、などとは口が裂けても言えんだろう。劣等生ではないが、優秀でもない。どこまでも才能それ自体は普通であり、お前とは比べることすらおこがましい」

 

 全てありのまま事実だった。クリストファー・ヴァルゼライドも、アルバート・ロデオンも、マルガレーテ・ブラウンも、飛びぬけた才能を持つわけでは断じてない。いうなれば中の中、スラムという生まれも加味すれば中の下と評しても差し支えないだろう。

 眼前に立つ青年のような、一を聞いて十を知るような明晰な頭脳など望むべくもない。一を聞いて一を知る、そんな当たり前の存在こそ彼らである。

 

「しかし、素養それ自体は凡庸だろうと誰より努力を続ける様は抜きん出て強い。それこそ才能差が何だとばかりに諦めない。前を向く。不平を漏らさず、弱音を吐いてもすぐに立ち直り走り出す。お前たちのような温室育ちの者には望むべくもない力だ」

「これは手厳しい。だがしかし、あなたがそう言うのなら間違いなのでしょう」

 

 あの三人の中でひときわ目を引くのは、やはりヴァルゼライドだろう。彼はそれこそ努力と決意の概念が人になったかのようで、どんな状況だろうと諦めないし怠らない。一歩一歩は常人並の速度しか出せずとも、それを常人では及びもつかない反復で補っているのだ。あと数か月もすれば、この士官学校でヴァルゼライドに匹敵できるようになるのは目の前の青年と、友人である二人の男女を置いて他に居なくなるのは間違いない。

 

「アルバート・ロデオンも中々見応えのある男だが……俺としてはマルガレーテ・ブラウンも興味深い。本人は力不足に悩んでいるようだが、はっきり言って杞憂だろう。例え模擬戦だろうと俺と打ち合えている時点で実力は非凡の域に達している」

 

 これがただの大言壮語でないというのは本人のみならず青年もよく分かっていた。もしこの場で完璧に不意を突かれ複数に襲撃されたとしても、鼻歌混じりで切り抜け襲撃者は殺される。彼の炯眼ですらトナリを敵にすればその未来しか読み取れないのだから。

 だからそんな男から高評価を得ている時点で、マルガレーテ・ブラウンもまた努力の徒であることに疑いはない。ただ目指したい友が規格外すぎるだけであり、十分すぎるほどに常人からは逸脱した存在なのだ。

  

「ならば、それを本人に伝えても良いのでは? そうやって本人たちの自発的な力に任せるのは、ご老体の悪い癖だと思いますが」

「構わん、どうせ俺が言うまでもなくどうにかするだろう。それこそ、そういった心に関してはロデオンが一歩先を行っている。中々良い組み合わせだよ、あの三人は」

 

 とにかく前進していくクリストファー・ヴァルゼライドと、その背中を追いつつまだ一般人側に寄っているマルガレーテ・ブラウン。二人と上手く付き合いながら心の面では先を行っているだろうアルバート・ロデオンが調和を取る。まさしく惹かれ合うべくして友となった者たちだ。

 

「さて、それにしてもこんな事を俺に聞いてどうするのだ、お前は? 確かにアイツらは興味深い教え子だが、何がお前の興味を引いた?」

「──私には一つ、信じてみたい夢がありまして。いや、それが絵空事だという自覚はあるのですが、もしも現実に可能ならばきっとこの世は良くなるだろうという夢が。もしかしたら彼らは、私にそれを教えてくれるかもしれないのです」

 

 そこで初めて能面のような表情をした青年──ギルベルト・ハーヴェスは口元に薄ら笑いを浮かべた。三人の行きつく先にある未来を待ち望むかのような、祈っているかのような、寿いでいるかのような。今までの無感情が嘘のように感情豊かな笑みを浮かべて佇んでいたのだ。

 

「可能性は極小だ。あまりにも低い。けれどそれを乗り越えるような事が、もしあるというのなら……」

 

 希望の光を見つけた敬虔な信者のようなその姿に、初めてトナリはギルベルトの本質を垣間見たような気がした。




あまりこういうことを後書きで言うのはよろしくないと思うのですが、せっかく作ったので一度だけ宣伝を。
ちょっと前からTwitterアカウントを試しに作ってみました。作品についての裏話や、他の原作についてちょこっと呟いたりしております。

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