TS転生したら幼馴染が光の奴隷でした   作:生野の猫梅酒

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すっかり遅くなりましたが、あけましておめでとうございます。
だいぶゆったりとした投稿ペースになってしまいましたが、今年もお付き合いいただければと思います。


Chapter15 最初の戦線/Thüringen

 あまり良い印象を抱かなかった顔合わせの翌日、さっそく戦闘に向けて新たに武器が支給される流れとなった。いつまでも士官学校時代の武器では前線で渡り合えない訳だし、それ自体は何一つ異論ない。

 今朝には各々に適性のある武器が配られ、今は自室で三人揃って確認しているものの──

 

「おいおい、これがオレたちに支給される武器なのかよ……」

「マジか……冗談キツイぜ」

「さすがに予想外だったな、まさかここまで冷遇される立場にあるとは」

 

 武装の貧弱っぷりはこちらの予想を遥かに突き抜けるようものであったが。

 

 三者三様に苦言を漏らして顔を見合わせる。あのクリスですらいつもの不屈の闘志ではなく、呆れとも驚きとも付かない色を瞳に浮かべているのだから相当なもの。それくらい、兵士としてオレたちに渡された武器たちは貧相なものだった。

 内訳はオレに支給されたものが直刀一本と旧式拳銃が一つ、クリスとアルにはそれぞれ刀剣が二本という具合だ。それだけなら大したこと無さそうだが、生憎とどれも新品ではなく使いまわしの品である。第一、仮にも軍事帝国を名乗るからには銃は貴重でも出し渋るほどの武器ではない。取り分け拳銃程度なら一人に付き一つくらいは平気で量産されていると基礎教育で教わっていた。

 それすらほとんど渡されないとなれば……上層部の悪意が透けて見えるようである。元より剣一本で前に出る覚悟はあったが、実際に銃火の只中を”これだけで戦ってこい”と示されてしまえば心証も悪くなる。コスト削減の一環というのは理解できるが共感までは永劫できないことだろう。

 

 こんな部隊で戦って大丈夫なのか──オレたちに共通した想いだった。

 そして同時に、このくらいでへこたれないのも同様である。

 

「しかし、元よりこの程度は皆で想定していたはずだ。スラム出身は冷遇されると知っていたなら驚くに値しない。ならば次は結果を見せる、それだけだ」

「だな、今度はオレたちの方が上を驚かせてやる番だ。目にモノ見せてやらなきゃな」

「全くだ、むしろムラサメ教官に習ったことを活かせるチャンスだと思えば待ってましたってくらいだぜ」

 

 やる気は十分、不遇なんて慣れたものだ。これを跳ね除けてこそオレ達らしいというもの。むしろここにきてまで不平不満を延々吐き続けるならば、そんな惰弱は去れば良い。

 覚悟も新たに直刀を左腰に提げ、拳銃は懐へと仕舞い込んだ。ずっしりとした重さが今は無性に頼もしく感じられる。かつては剣を振るうのだって一苦労だったのに、気が付けばよくもまあここまでになったものだ。

 

 などと考えていたら、アルの方は刀剣を一つ装備したきりもう一本を神妙な顔で見つめている。

 どうしたのかと思えばいきなり「よしっ」と一言意気込んで、

 

「おいクリス、こいつはお前が使えよ」

「何?」

 

 言いながら右手に持っていた武器をクリスへと差し出した。突然の一声にクリスも怪訝そうな顔つきで聞き返す。

 

「俺は二刀流なんてやってこなかったからな。予備にしてもちと重いし、お前が使った方が効率的だろ」

「申し出はありがたいが……本当に良いのか? わざわざお前の物を俺に渡す必要など──」

「二度も言わせんな、俺が良いって言ってるからイイんだよ! お前みたいな凄い奴が使った方が武器だって本望だろ? 俺がわざわざ二本も持ったって宝の持ち腐れってやつだぜ」

 

 その強引ながらアルらしい言い草に思わず吹き出してしまった。本当にまあ、彼は彼でオレと同じくらいクリスのことを信じているというか。いくら自分に不必要とはいえこうも躊躇いなく渡せてしまう辺り、やはり気持ちのイイ奴だと思う。

 クリスもまたその想いを汲んだのか、それ以上は何も言わなかった。

 

「ならばお前の心意気をありがたく受け取らせてもらう。その代わり、この剣で必ずや勝利を掴み取ってみせると誓おう」

「そう固くなるなよ、互いに要所要所で助け合えれば良しさ。だってほら、俺たちは友達だからな」

「……なるほどな。まったく、本当にお前らしい理屈だ。素直に尊敬する」

「…………おーい」

 

 気が付けばいつの間にかオレだけ蚊帳の外である。なんだこれ、男同士の友情の確かめ合いなのか? オレだって元は男だし自然に割り込んでいけるはず。そうは思うものの、今は女なのでなんか入り込み辛い空気があった。

 一抹の寂しさを覚えて軽く自己主張。いつも一緒だった三人組のはずなのにオレだけ仲間外れなのは少しばかり心に来る。これが思春期というのだろうか。

 

「二人だけの世界に浸るなってんだ。オレのこと忘れんな、オレのこと」

「ああ、悪い悪い。レーテちっこいからすぐ視界から見えなくなっちまってよ」

「いや待てよ、その煽りは初めて聞いたぞ! 別に小さくねぇし、そっちが一気に身長伸びすぎなんだよ!」

「えーと、俺とクリスが一七〇超えてて、レーテがまだ一六〇未満だったっけか? ああ、悪いなこりゃ」

「あのなぁ……!」

 

 呆れながらアルの頭を叩こうとして、ごく自然にオレは背伸びをしてしまっていた。なんだろう、この敗北感と楽しさは。いつの間にこんな差が出来ていたのかと驚きながら、それでも変わらない関係に安心してしまう。

 これじゃさっきまで寂しさを感じてたオレが馬鹿みたいではないか。それくらいいつも通りのバカ騒ぎで、クリスもまた止めることなく見守っている。いつも通りのオレたちの光景だった。

 

 と、クリスがふと胸襟の中に手を入れた。彼には似つかわしくないチェーンのネックレスが引っ張り出され、その先には古ぼけた安物の指輪がある。

 

「忘れてなどいないさ、お前の分の想いはしっかりと貰っている。それも含めて俺は勝利を掴むのだ」

「──なんだよ、まだ持ってくれてたのか、そんなのをさ」

「当然だ。こんな俺を友としてくれる存在を無碍にできるはずがない」

 

 いったい何年前の話だろうか。いつかクリスに送った安物のお守りじみたネックレス。質実剛健を地で行くようなクリストファー・ヴァルゼライドが唯一身に帯びている装飾品が、よりにもよってオレの贈ったものだなんて。しかもそいつを今もしっかり所持しているなんて正直考えもしなかった。

 懐かしさと嬉しさと誇らしさがない交ぜになって心の中を支配して憚らない。ちょっとだけ泣き出しそうになったのは、やっぱり女になったせいで涙腺が緩んでるからだろう。でもこの感情を素直に表現できるなら、別に嫌なことではないと素直に思えた。

 

「ホントにずるい奴だよな、クリスはさ……自分だけでどこまでも突き進める癖に、たまにそんなこと言いやがって」

「そう言われてもな……俺はせめて当然のことをしているだけだが」

「だからだよ、全く。それが当然だなんて、臆面もなく言えるからずるいんだ」

 

 ならばせめてその想いに報いられるように、オレはオレの願いを貫き通したい。

 こんな格好良い男の隣に立てるような凄い奴に。いつか決意した誓言を改めて噛み締め、うっすら滲んだ涙を拭った。結局これくらいで泣いてしまうなんてちょろい女だ、だけど否定する気はないしさせもしない。

 

「で、なんだよ、これじゃ俺がすっかり場違いって感じじゃねぇか。おーい、俺のことのけ者にしてんじゃねーぞー」

「分かってるっての、ここまで来たらオレたち三人で最後に死ぬまで一緒だろ。言わせんなよ」

「いや、俺そこまで重たいつもりで言ってないからな!? どうしたレーテ!?」

「んー、なんだろうな、ちょっと場の空気に酔ったのかもしんない」

 

 アルの言葉に笑いながら応えた。嘘や誤魔化しは微塵もない、心からの本音である。

 ほんの少しのことで落ち込んだり、泣きそうになったり、また大笑いでもしてみたり。なんだか今日は自分の感情にとても素直な気がするが、いいじゃないかそれくらいは。もしかしたらこうやって馬鹿騒ぎ出来るのも最後かもしれないのだ、なら全部話してしまっても悪くない。

 

「なんだか悪かったな、変なことばっか言ってさ。こっからはいつも通り、オレたちに出来ることを頑張ってみようぜ?」

「……ま、そうだわな。時間もそう多くないんだ、一秒だって無駄には出来ないか」

「正しいことを続ける、それだけが俺たちに許された道だ。であればやるしかないだろう、どのような茨の道があろうとも」

 

 正しい努力が報われるとは限らない。これだけ息巻いているオレたちだって、戦場に出れば呆気なく死んでしまうかもしれないのだ。まあクリスが呆気なくやられるなんて考えられないが……とにかく、一筋縄ではいかないだろうし死に物狂いになるのは間違いない。

 それでも、やるのだ。何度繰り返したかも知れないが、まだ言わせてもらおう。心一つでどうにかする、それが出来なければ何も始まりはしないのだから。

 

 ◇ 

 

 それからは思ったより大したこともなく時間は過ぎていった。

 

 どうにも反感を覚えてしまった(あきら)隊長とは最初の顔合わせ以外で特に出会うこともなく、オレたちは軍隊として訓練に励んだりたまにフランクフルトの街並みを見物するといった具合だ。ありがたいが身構えてもいたこちらにしては拍子抜けである。

 だけどよく考えてみれば、隊長格がたかがスラム生まれの一兵卒を一々差別する方が面倒だろう。あの時に感じた嫌な視線もやはり気のせいだったと思い直し、来るべき戦争へ向けて牙を研ぐ毎日である。

 

 そして──ついにこの日がやって来た。

 

「攻撃目標は旧・ドイツ領におけるテューリンゲン州に敷かれた現国境線、そこに張られたアンタルヤの防衛網を突破することだ」

 

 ガタゴトと揺れる軍用車の中、淡々と影隊長の語る声が無線越しに伝わってくる。オレも含めて車中にいる十数人全員が、隊長からの命令を聞くべく張り詰めた空気をまといだす。

 既に作戦の数日前に突入し、前線で戦う兵士たちは当然フランクフルトからの移送が始まっていた。オレたちはかなり最後の方に移動させられている組であり、準備期間は多かったぶん現地に到着したら待ったなしで戦線が開かれることだろう。

 

 なので車中では大人しく体力の維持に努めていたのだが、上官からの命令が流れ出せばそうも言ってはいられない。

 

「かつて緑の心臓とも呼ばれていたこの地域は、その名の通りに木々が多く見通しが悪い地帯が多い。そのせいでゲリラ戦が頻発しやすく、我々アドラー帝国は動きの軽快なアンタルヤの傭兵たちに苦戦を強いられていた」

 

 特にニルヴァーナの雇った精鋭にして懐刀にはな──そう隊長は言葉を濁した。余程煮え湯を飲まされてきたのだろう、苛立ち混じりの声音が通信機越しに伝わってくる。

  

 軍隊は厳格な上下組織である一方、行動については融通が利かないこともままある。上からの命令を待っているせいで現場の思考が硬直化したりする、なんてことはその最たる例と言えるし、かといって命令違反に走れば必ず良い結果が出るわけでもないのだから難しい。まあ今のアドラーは結構上層部が腐敗しているところはあるが……それは脇に置いておく。

 

 だが翻ってアンタルヤはどうか。あちらは国家としての軍隊は大したことがない代わりに、潤沢な資金で傭兵を数多く雇っては戦場に出してくるのが基本だ。

 彼らは国のためではなく金と地位のために戦う。なので忠誠心や愛国心はないが、動きに制約がないので非常に身軽である。襲撃や撤退の判断の見極めが上手く、また最小限の被害で最大の被害を与える術に長けているのだ。

 

 そのような傭兵たちがよりにもよって木々に囲まれ視界や足場の悪い地帯を戦場に選べばどうなるか。その答えが先ほど影隊長の述べていたようなゲリラ戦法であり、地味ながら非常に強力この上ない。このせいで単純な兵力では勝るアドラー帝国軍をして今の国境線から先に進むことは出来ないでいたのだ。

 

「しかしそれも今回の作戦で終わるだろう。アンタルヤの守りを突破し、帝国の国境線をさらに押し上げる日は近い。故に君たちに私から要求することはただ一つだ」

 

 ──実はこれまで、オレたちは今回の作戦の詳しい概要はほとんど聞いていない。

 

 だから今回の作戦の肝が何処にあるのか、オレたちがどのように戦えば良いのか、詳しいことはこれまで何も聞かされていなかった。一兵卒の扱いとしてはそこまで不思議でもないだろうが、上官が上官だけにやや疑念は残る。

 果たしてこれまで説明されていなかった、この東部戦線の行く末を左右する中でのオレたちの役割とは何なのか。予想は付くが、それでも固唾を飲んで隊長の言葉を待つ。

 

「派手に戦い、最後の最後まで一人でも多くアンタルヤの者を倒すことだ。命令はこれだけ、それ以上は期待しない」

 

 その言葉を最後に通信機は無言となり、車中にはガタゴト揺れる音だけが虚しく響きだした。対面に座るアルやクリスも含め、全員が今の命令ともいえない”玉砕指示”に考えを馳せているのだろう。

 最初の顔合わせから理解していたが、やはりあの隊長はこちらのことを捨て駒程度にしか考えてはいないのだろう。その上で今回の命令の意味を考えれば、数にモノを言わせた物量作戦か、あるいは陽動にして自分たちは裏からアンタルヤの拠点に攻め込むかのどちらかだろう。前者だと印象が悪いを通り越して無能な指揮官でしかないと思うので、せめて後者であることを祈るばかりだ。

 

 誰もが無言のまま車は進み、日が沈んだ頃になってようやく停車して揺れが収まる。ついに到着したのだ、東部戦線の最前線へ。

 車外へと降りてみれば、そこは丘陵地帯に造営された古風な村のようになっており、れっきとしたアドラーの拠点として目まぐるしく人が行きかっていた。さらに目線を太陽と反対の方角へと向けてやれば、微かな光の中にぼんやりと森林が広がっているのが見て取れる。つまりアレこそ、アンタルヤの守りの要たる天然の要衝なのだ。

 

「ついに来たんだなぁ……」

 

 軍用車が忙しなく動き回り、そこら中で人や物が行きかう慌ただしさ。松明や篝火の明かりも含めて一大作戦の真っただ中という空気であり、改めて自らの置かれた状況を肌で感じ取ってしまう。

 きっとアンタルヤもこちらの動きは把握しているだろうから、森に踏み込んでしまえば容易く生きては帰れないだろう。迎え撃つ用意は当然あるだろうし、オレたちはその渦中で捨て駒となりながら生存を目指さなければならない。

 

 ただし、そのためには”絶対に戦ってはいけない存在”というのも確かにいる。ひよっこのオレたちでは逆立ちしても敵わないような強大な相手、そいつと出会えば確実に殺されるという情報はこの数日の間に仕入れていた。

 影隊長が苦言をこぼしていた”ニルヴァーナの精鋭”、麻薬組織が護身のために雇った傭兵らしいのだが、彼らはそのままこの東部戦線でも帝国軍を相手に猛威を振るっているらしい。それも当然、アンタルヤの景気が傾けば麻薬の売買も難しくなるから当然というべきか。

 

「傭兵団、”血塗れの雛罌粟(ひなげし)”か……洒落た名前の癖にとんでもないよ」

 

 ──いわく、皆殺しの傭兵団。

 ──戦闘狂ばかりが集ったとんでもない組織。

 ──首領と戦って生き残った者がいないから、リーダーの情報が一つも存在しない。 

 

 どれもこれもすさまじい逸話である。狂犬としか思えないくらい戦闘に振り切れた傭兵団だが、それだけに戦場の機微にも聡く引き際も鮮やかなのだとか。規模はほんの十数人程度しかいないらしいのが逆に恐ろしさを際立たせる。

 あまり後ろ向きに考えたくはないものの、こんな奴らとは出来れば遭遇しないことを祈るばかりだ。オレだって普通に命は惜しい。勝てない相手へ無謀にも挑むのは勇気でなく蛮勇であり、ハッキリ言ってやりたくない。

 

 だけど、まあ。もしクリスが「それでも俺は戦う」と言うのなら。

 きっとオレは、どこまででも着いて行ってしまうのだろう。

 




次回からはいよいよ本格的に東部戦線での戦いが始まります。ここまで長かった……
段々と増えていくヴァルゼライド閣下の剣。今は三本ですが、いずれ何やかんやの挙句七本にまで増えるのでしょう。
勘の良い方はそろそろ気付いたかもしれませんが、この東部戦線編では結構ニルヴァーナも絡んでくる予定です。原作ではとある方の古巣だったこの組織、敵役としてちょうど良さそうだなと。
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