TS転生したら幼馴染が光の奴隷でした   作:生野の猫梅酒

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Chapter16 戦場を駆ける者/First

 巨大麻薬組織ニルヴァーナ。涅槃の名を冠するこの組織は、アンタルヤ商業連合国に根を下ろす十氏族の一つと密接な関係があると言われている。

 仮にも国の最大手が犯罪組織と蜜月の関係にある訳だが、ことアンタルヤにおいてそれは問題とならない。何故なら、この国では経済力と権力こそ全てなのだから。()()の犯罪に手を染めていようと揉み消し煙に巻くなど朝飯前、大した手間にもなりはしないのに得られるメリットは膨大となれば是非も無い。

 

 なにせ麻薬とはすなわち金の生る木だ。秘匿性の高い栽培環境さえ整えてしまえば、末端価格での儲けは何十倍、何百倍にも跳ね上がる。麻薬中毒となった者たちの人生を踏み躙るという行為さえ許容できてしまえば、これほど楽に稼げる仕事も他に無い。

 だからニルヴァーナと手を結んでいる十氏族が麻薬組織を保護するなど当然の成り行きだったし、そうして得られた金はステータスにも力にもなり得る莫大なもの。組織としても、その十氏族としても、絶対にニルヴァーナを壊滅させる訳にはいかないのが共通の見解だった。

 

 例えばそう、敵対氏族の足を引っ張ろうと画策する者から。

 正義感に駆られた自警団や麻薬の被害者家族たちから。

 果ては麻薬被害を憂い組織の壊滅を企むアドラー帝国軍まで──このような輩の手より組織を守る必要性があるのだ。現にニルヴァーナはその本拠地や流通ルート含め数多(あまた)の敵から幾度となく探りを入れられていた。

 

 にも関わらず未だ誰一人としてニルヴァーナの尻尾を掴むことすら出来てないのが現状だった。これほど大々的に名前や存在を知られているにも関わらず煙を掴むように成果は実らない。あまりにも不可解な実態の背後には、彼らの雇う腕利きの傭兵たちが居るともっぱらの噂である。

 

 名を、”血塗れの雛罌粟(ひなげし)”といった。

 

 いったいどのような経緯で巨大麻薬組織お抱えの用心棒となったのか、今では誰も知る者はいない。ただ一つ確実なのは、彼らの暗躍のおかげで今も犯罪組織がのうのうと生き残っている事実だけ。どのような密偵を送っても返り討ちにされ、また何処からか情報を仕入れては先回りして敵対者を潰していく。果ては戦場にすら駆け付けて猛威を振るいアンタルヤの領土と影響力を維持するまでなっているとなれば、その厄介さは計り知れないものがある。

 

 もはや一組織の用心棒という枠組みからは外れているし、国家にすら頭を抱えさせる高い実力は大したものだ。戦場で出会っても決して戦ってはいけないという評もあながち、どころか欠片の誇張もない真実だった。

 

 そんな彼らの次なる目的は東部戦線の戦況を遅延させること。強欲にも帝国にまで麻薬の手を伸ばしているニルヴァーナとしては、今より国境線が押し下げられてしまえば確実に儲けが少なくなってしまう。それを避けるべく用心棒を前線に出すという矛盾した荒業さえ行ってみせるのだ。

 

 そして今、旧・ドイツ領の森林地帯にて。彼らの暗躍は静かに始まっていた──

 

 ◇

 

 テューリンゲンにおける戦線が開かれてから、既に数時間が経過している。

 

 満を持してのアドラー帝国軍の侵攻に対し、その動きを察知していたアンタルヤ側も即座に応戦を開始した。長閑な森林地帯は瞬く間に血と鉄の嵐が吹き荒れ、そこかしこで銃声と怒号が飛び交う激戦地へと変貌したのである。

 状況としては現状五分五分と言えるだろうか。軍事帝国として軍備に一日の長があるアドラーは質も物量もアンタルヤ側を上回るが、代わりに地の利はアンタルヤが一歩先を行く。森という地形を上手く活用したゲリラさながらの戦法と、時間をかけて構築された防衛線は容易な突破を帝国軍に許さない。

 

 だから戦況はほぼ互角であるのだが──例外が二つ、ここに存在した。

 

「つまんねぇな」

 

 森の中、吐き捨てながら大剣についた血を振り払ったのはまるで雲を突くような巨漢であった。刈り込んだ頭部、鍛え上げられた肉体、傷だらけの顔は歴戦を示すように男に箔を与えている。そのうえ身の丈にも匹敵するような大剣を担いでいるとなれば、誰が見ても「コイツは強い」と警戒してあまりあるだろう。

 そして実際、その警戒心は限りなく正しかった。男の足元には血だまりに沈む五人の帝国兵たちの姿がある。鎧袖一触、行きがけの駄賃とばかりに彼らと交戦したこの巨漢は汗一つとてかかず勝利を収めてしまったのだ。

 

 いいや、それだけでない。この現場以外にも彼は何人も何人も斬り殺し、簡単にその命を奪っている。さながら移動する台風のように彼の進んだ後に敵は残らない。拮抗しているはずの戦況も、この男が本気で動けば即座に塗り替わることだろう。

 

 ──東部戦線における禁忌(タブー)、交戦してはならない者たちとされる傭兵団”血塗れの雛罌粟”。その内の一人、仲間からはクラックと呼称されているのがこの巨漢だった。

 

「…………捨て駒されてもな」

 

 クラックはゆっくりと剣を収めると、無防備にも戦場の真っただ中で葉巻へと火を付ける。森という視界の悪い中、奇襲を恐れる素振りすら見せないのは強者の余裕ゆえか。紫煙をくゆらせて佇む彼の心境はあまり穏やかではない。

 

 その大柄な体躯と真逆に寡黙な彼だが、この戦場には一言二言物申したいことがある。例えばそう、雑兵ばかり当てられてもただの作業にしかならない事とか。『戦場を左右する一騎当千』を求められても、それは英雄の領分だという不満とか。もっと言えば雇い主(ニルヴァーナ)の依頼とはいえ、そもそもこのような辺境で戦っている事とか。

 

 はっきり言ってやる気に欠ける。士気が上がらない。仕事だから任務はきっちりこなすが、どうにも独り歩きしてしまった”血塗れの雛罌粟”の評判を考えると頭が痛い思いだった。

 

「強い奴、どこかにいるかね……」

 

 他の構成員がどうかはともかく、少なくともこの男にとっては名誉や畏怖や金はそう重要なことではない。あくまでも生きていくために傭兵となり、その中で強者との命のやり取りを楽しむようになっただけ。やれ麻薬組織がどうだ、政治的な思惑がこうだ、英雄らしい活躍が云々、そんなものには一切興味がないのだから。

 故に弱兵ばかり現れては散っていくこの戦場には微塵の興味も抱けない。まるで促成栽培によって量産されたかのようで、その実力で戦場に送られてしまったことに憐れみすら覚えるくらいだ。

 

 そのような具合で活躍する気にもなれず、さりとて仕事だから投げ出す訳にもいかないクラックだったが。

 しかし、それでも。

 

「……フッ!」

 

 英雄に興味がなくとも、英雄に匹敵する次元の強者なのは疑いようもない事実だ。

 

 まるでナイフのように軽々と抜かれた大剣が背後からの銃弾を阻止、一拍置いて振るわれた横蹴りが遅れてやってきた襲撃者の体勢を崩す。奇襲を防がれ驚いたように目を見張るのはまだ若い少女だ。後ろで括った茶髪の映える美貌は戦場に似つかわしくないものがある。

 けれどそれもクラックにとってはどうでも良い事だ。奇襲を防がれた時点で彼女の敗北は確定している。蹴られた際に咄嗟に受け身を取ったのは見事だが、晒した隙の代償は大きい。後はこれまで通りその命を奪わんと大剣を掲げて、

 

「……ほう」

 

 するりと茶髪の女は真横に()()()。決して早い動きだった訳ではない。ただ意識の虚を突くような動作にほんの一瞬惑わされ、剣の狙いが修正できなかった。少女の真横へと振り下ろされた剣が土煙と共に地面へ刺さり、けれど少女は隙を突こうとせず即座に後ろへと下がることで木々に紛れ姿を見失う。まだ気配を追う事は可能だが、クラックは敢えて深追いをせずにまずは様子見に徹した。

 

 ──少女の判断は正しい。もし先ほどの攻防を隙と見て攻めてくるようなら、跳ね上がった大剣は即座に少女の胴を二つに断っていたことだろう。

 

 ただしそれを出来なかったのがこれまでの帝国兵たちだった。誰もが()()()()()()隙に飛びついてしまい、あえなく散っていったのである。それを鑑みれば、先の少女がこれまでの雑兵とは頭一つ抜けているのは火を見るより明らかといえよう。

 これは面白いことになってきた。少しは戦い甲斐のある相手を見つけられたかもしれない。退屈だった心に燃料が注がれ、この任務にかけるモチベーションが多少なりとも上昇した。

 

 クラックは静かに口元に笑みを浮かべると、少女を追うべくゆっくりと前へ一歩を踏み出した。

 

 ◇

 

 時間はしばらく前に遡る。

 

 一進一退を繰り返し大きく戦況の変わることのない戦線だが、例外が二つ存在した。

 一つは血塗れの雛罌粟の一員であるクラックの立つ戦場だ。彼の飛び抜けた実力はシーソーゲームが発生する余地もなく蹂躙しか起こりえない。

 では二つ目は何か。こちらはアドラー帝国側の兵士であり、他とは一線を画する勢いで森の中を前へ前へと駆け抜けていた。

 

 青年が二人と少女が一人。ひたすら敵を斃してきたのか返り血を軍服に染み込ませ、それでもなお怯むことなく突き進む。

 

「後ろはオレらがやる! クリスは前だけ見てろ!」

「ああ、任せたぞ」

「ったく、初っ端からキッツいなおい……!」

 

 現れた敵兵を前にヴァルゼライドが三刀を構えて突き進み、マルガレーテとアルバートで即座に背後からの奇襲を警戒する。士官学校時代に仕込まれた三人一組(スリーマンセル)の動きは初めての戦場でも彼らに自信と勇気を与えていた。

 敵の内訳は前が三人と背後に二人。当然ながら全員が成人した傭兵たちであり、マルガレーテたちとは踏んできた場数が異なっている。尋常に考えれば絶対に太刀打ちできるはずもない。

 

 けれど、そのような道理を踏み越えてこその三人だった。

 

 互いに強い信頼関係で結ばれているから、仲間の実力を疑うことなど一切しない。後ろを振り返ることなく前だけ向いて正面の敵を討ち果たすべく駆けだした。

 

「はァッ──!」

 

 まず踏み込んだのはヴァルゼライドだ。彼は前方を塞ぐアンタルヤの傭兵三人に向けて一直線に突き進む。相手は剣と共に銃をも携えている。このままでは一秒後にでも風穴を空けられて死ぬのが道理だろう。

 そして即座に発砲、銃弾が吐き出されマズルフラッシュが明滅する。だがヴァルゼライドは止まらない。怖れを知らぬとばかりに銃火の中へと身を投げ出すと最小限の動きだけで銃弾の雨を掻い潜る。並の度胸と修練では決して出来ない荒業だ。

 

「なんだ、こいつは……!?」

 

 戸惑いの声が漏れた時には既に遅い。当然のように剣の間合いへと肉薄したヴァルゼライドは、最速の刺突で心臓を貫きまず一人を始末した。達人(きょうかん)の下で愚直なまでに何度も何度も鍛錬を重ねた一撃はいっそ鮮やかにすら映るほど。

 ただしヴァルゼライドも無傷ではない。無謀な突撃の代償は当然その身で支払っている。あくまで行動不能と即死を避けただけであり、腕や足に掠り傷は無数に存在する上、腹部は一発銃弾が貫通してすらいた。常人ならその時点でうずくまってしまうだろうし、せめて顔を苦痛に歪ませるくらいはするはずだ。

 

 なのに、

 

「おかしいだろ、銃弾は当たってんだぞ……! なんで平気な顔して──」

 

 ヴァルゼライドは止まらない。表情一つ変えることなく、心臓に突き刺した剣を引き抜き負傷したはずの身でなお敵へと追い縋る。既に一人を殺された傭兵たちはすぐに距離を離して銃弾をばら撒くが、今度は掠りすらしない。弾丸を躱して、見切って、刀剣を盾にし、あろうことか叩き落して止まらない。さっきまで()()()()()()()()()()()()()()()はずなのに、恐るべき成長速度である。

 追う者と追われる者のどちらが有利かなど明白だ。ましてやこの森の中、背後を気にしながらでは大した距離も稼げない。足場の悪い状況かでは大した距離も稼げず、あっけなくヴァルゼライドが接近して、

 

「終わりだ」

 

 居合切りの要領で鞘から刀剣が走った。逆手で抜き放たれた刃は圧倒的な速度で二人目の胴を切り裂き、息の根を止めてみせた。さらに右手の刀剣を手放して三本目に手を掛け、目にも留まらぬ早業で居合切り。引き金を引くよりも早い抜刀に反応できるはずもなく、三人目もこれまた自らの血の海へと沈む羽目になったのだ。

 

「おま、え……は……」

 

 断末魔と共に息絶えた傭兵たちの疑問は仕方のないことだろう。

 

 これがクリストファー・ヴァルゼライドという男の本領なのだから。徹底的な鍛錬により高い基礎能力を持つのに、実のところ本質は何処までも格上殺しに振り切っている。自らより強い者にこそ追い縋り、覚醒し、逆転して、英雄譚を紡いでみせる圧倒的な光の使徒。

 窮地に追いやられるほど経験値を獲得して強くなる英雄(モンスター)こそ、この男に他ならないのだ。受けた傷など気合一つで我慢できる程度でしかない。むしろこの傷から得た経験値こそ重大なものであり、この先で必要になる技量だから痛みに呻く暇すら惜しかった。

 

 自身の請け負った戦闘を終え、状況次第で後ろを任せた二人に加勢しようと振り返ったヴァルゼライドだが、果たしてその必要は薄いようだった。

 

 ◇

 

 少女と成人男性の身体能力。あまり認めたくはないものの、その差はハッキリ言って歴然だ。例えばオレがアルやクリスと腕相撲しても絶対に勝てない。同じだけの鍛錬はこなしているにも関わらずだ。こればっかりはどうしようもない厳然たる事実と受け止めるしかない。

 けれどそこで腑抜けて諦めたところで何も解決しないのだ。であれば、自分なりに戦う手段を考えた上で勝てるように努力を積み上げていくしかない。自分の持ち味、武器を活かすのだ。

 

 ではオレにはどのような才能や武器が存在するのか。白状しよう──何もない。

 

「どう足掻いてもオレは三流だけどなァッ……!」

 

 たった一人の、それも銃を持っていない相手を前に直刀と拳銃で必死に牽制を繰り返す。相手のペースのまま懐に入れてしまえば終わりだ、力負けして押し切られるに決まっている。だからつかず離れずの距離を取って、悪くいえば逃げ回るような戦い方に徹してみせた。

 

 別にオレは殺しのセンスがある訳じゃない。人間相手なら絶対勝てますだとか、そんな生粋の殺人鬼では断じてない。あくまで一般的な女性の身体しか持ち合わせていないのだから。

 じゃあ他にはない一芸でも持っているのかと言えば、それも否と返すしかない。オレはあくまで凡人である。鍛錬して、反復して、自分の中に技術を強く定着させることは可能だ。けれど特別な何かなんてちっともない、人より早く走れはしないし力だって非力な方だ。悲しいくらいどうしようもないだろう。

 

 ならこんな戦場に出たことが間違いなのか?

 お前は何も出来ないから、大人しくスラムで生にしがみついていれば良かったと?

 

「ふざけんな、そんなこと出来る訳ないだろう……!」

 

 心の中に鎌首をもたげた疑問を一喝して吹き飛ばす。馬鹿げてる、向いてないから絶対に無理だとどうして言い切れる? 出来ない奴は出来ないかもしれないし、どうしようもなく苦手なことは誰だってある。それは事実だ。

 それでも、オレは無理無茶無謀の三拍子へと挑んでみたい。憧れた彼のように、どんな困難でも涼しい顔で踏破できるようになりたいのだ。

 

 だってそうでもなければ、オレはクリスの友人で居られない。

 生涯を彼に守られたまま、あくまでも庇護するべき対象としてしか見られないのだ。そんなものは対等とは言わないし、まして友人などとは口が裂けても言えないだろう。一度足を止めれば最後、目指すべき鋼の光はどこまでも遠ざかって永久に追いつけない。

 

「だからッ!」

 

 どれだけ遠回りをしても良い。準備期間を重ねても良いだろう。でも最後は絶対に難題へと挑むし、その道から逃げてはならない。心を強く持て、オレはオレの誓約を忘れてはいけないのだ。

 距離を取っていた状況から一転して懐へと肉薄する。突然の直接的なアクションに相手も面食らったのか、一瞬動きが遅れた。その隙に距離を詰め切り、自分から相手のごく間近へと踏み込んだ。

 

「──ッ!」

「この──ッ!」

 

 オレの振るった直刀が相手の刀剣と噛み合い、鈍い音と衝撃を響かせる。かなりキツイ。たぶん両手で握ったとしても数秒持たずに押し負けてしまうだろう。

 だから素直な力勝負の土俵には立たない。オレは弱いのだから、愚直な力比べなんてやったところで勝てるはずもないのだ。故に力を逃がすように手首を返して、するりと半身になって相手の隣へと潜り込んだ。

 

『そうだ、それでいい。お前は自分の弱点を理解しているようだ、相手の領分で張り合おうなどと考えては目も当てられない』

 

 スラムに居た頃、オレとクリスの模擬戦でよくやっていた手口だ。力で勝てないから受け流す。我流で行っていた技術はムラサメ教官の教えによって昇華され、今や一つの技術と化している。練習すれば誰でもできる基礎的な技術だが、オレにとっては生命線の一つである。

 こうなれば相手はもう無防備を晒したも同然だった。不意を突かれてこちらを見失った次の瞬間にはこめかみに銃口が当たっている。更に状況を理解した時にはもう遅い、飛び散った血しぶきと立ち上る硝煙が勝敗を物語っていた。

 

 これまでの数時間通り、一対一なら何とか勝ちは拾えるものの。

 あまりにも泥臭くて素直に喜ぶ気になれないのは贅沢だろうか。

 

「はぁ、ったく……! たった一人相手にこんな苦労するなんてな」

 

 息を整えながらクリスを見れば、彼は既に三人もの相手を前に勝利を収めていた。顔色一つ変えてない辺り楽勝だったのだろう、さすがと言う他にない。

 アルの方はといえば、やはりオレよりもかなりスマートに済ませていた。いつの間に手に入れたのか、縄のようなものを巧妙に森へと隠して転ばせる。後は生じた隙を逃さず刀剣で一刺しという具合だ。

 

「へぇ、いつの間にそんなの準備してたんだ?」

「さっき倒した奴が持ってたのを拝借したんだ。なんつぅか、この方が正面から戦うよりしっくりくるもんでな」

「森の中なら分かり辛いもんなぁ……もしかしてアル、暗殺者とか向いてたりして?」

「まさか、どっちかといえば戦わずに勝つ方が性に合ってるぜ。にしてもまあ、すっかり人を殺すことにも慣れちまったっつうかよ……やってみればあっさりなのが逆に怖いぜ」

 

 オレやクリスはとっくの昔に人殺しをしたことがあるが、アルは今回の戦いが初めての人殺しだという。むしろスラム育ちとはいえ経験のあるオレたちの方がおかしいのだが。

 そんな彼も良くも悪くも殺人に適応してしまったのか、言葉通りあまり堪えた様子はない。まあ下手に蒼褪めたり騒がれたりするよりはよほど良いのだが、なんだかんだアルの精神力も相当なものだと再認識してしまう。

 

「そっちも終わったか。もたもたしてる暇はない、このまま一気呵成に攻め込むぞ」

「はいよ、何処まででもついてってやるさ」

「ったく、猪突猛進な奴らだぜ……」

 

 初めての戦場は今のところ、思った以上に順調に進んでいた。このままいけば三人揃って生還も決して不可能ではない、それくらいの希望を持てるくらいには。

 

 だが、それも。

 

 ──背後からの奇襲を完璧に防いで見せる、規格外のバケモノに遭遇するまでの話だが。

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