TS転生したら幼馴染が光の奴隷でした   作:生野の猫梅酒

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色んな意味でお待たせしました!

※指摘を受けてギルベルトの階級を変更しました。士官学校云々はヴェンデッタでもイマイチはっきりしてないのでこのまま行きますが、こっちは完全に私の知識不足によるミスです。申し訳ありませんでした。


Chapter20 四人目/Testament

 アドラー帝国に、とある男がいた。

 

 彼は肉体的にも、精神的にも、頭脳も、身体能力も、家柄も性格も容貌も何もかもが優れた人間だった。だがそれらに胡坐をかいて驕ることなく努力できる謙虚さすら持ち合わせた彼は、士官学校始まって以来の秀才とすら目される。実際、努力できる天才ほど完全無欠な事はないだろう。彼が素晴らしい人間と評することに誰も疑いは持たなかった。

 けれど彼の中では、そのような評価や自らの才能など些末事に過ぎない事象だった。彼にとって重要なのは『世界は正しい方向を目指せるようになっている』というその一点であり、故に自分が努力するなど当たり前の認識だった。

 

 何故なら、そちらの方が()()()()()()()だから。彼は綺麗なものや理路整然としたもの、つまり道理に適った善行こそ好んだわけである。やはり人として間違っていないし褒められるべき認識だろう。

 けれど現実はそう簡単にはいかない。確かに彼は天才だし努力もできる理想の人間だが、他の者まで全員がそうとは限らない。むしろ彼に比べればほんのちっぽけな才能程度で慢心し、自分を磨くことを放棄し、堕落に走る者たちの何と多いことか。そしてそのような手合いに限って彼が注意すると決まって言うのだ。『天才に俺たちの苦悩など分かる訳がない』と、上から目線で偉そうに。

 

 普通なら怒って良いだろう。その理屈は自分を棚に上げてよい理由にはならないし、子供でも間違ってると分かる穴だらけの理論だ。しかし彼にとってこの言葉は一応間違ってはいないし、『まあ確かにその通りだ』と納得できる潔さと度量の広さを備えていたのは幸いだった。

 ならば仕方ないとひとまず納得して、彼は自分に出来る範囲で善行を行おうと考えた。他人に無理強いをしたところでどうにもならないし、自らの在り方を変える必要もない。堕落や諦めといった負の要素はどうしようもなく存在するのだから、もし無くすなら世界を丸ごと叩き壊して再構築するより他に道はない。論ずるまでもなくそんなことは不可能だ。

 

 この時点で、彼は紛れもない傑物だった。自分に出来ること、他人に出来ないことをしっかりと見定めていた。いつか社会の上に立ったあかつきには、今よりもう少しより良い評価社会を作りたいと現実的な願いを持っていた。

 だけど心のどこかでその反対を、全ての言い訳を薙ぎ倒して正しい方向だけを目指せる世界を希求する想いも確かにあって。明晰な頭脳はその可能性を否定しながら、心はどこかで望んでいた。

 

 ──故にこの出会いは必然だったのだろう。

 

 恵まれない生まれながら()()()で全ての障害を乗り越える光の傑物と、彼に感化されて諦めずに努力する友人たち。まさしく彼の望んだ理想の人間たちがそこには居たから、思わずその行く末を気にかけてしまったのは無理もないことだった。

 

 ◇

 

 東部戦線へ投入され、第六部隊血染処女(バルゴ)の一兵卒として戦い出してから既に一年と半年もの時間が経過していた。

 オレからすればそんなに時間が経ったようにはとても思えない。せいぜいが半年とかそれくらいな感覚なのに、実際にはその三倍も経っているのだ。それだけ戦いに明け暮れ時間も早く過ぎ去ったということだろうか。

 

 戦いに続く戦い、青春時代を過ごすにはあまりに凄惨で血なまぐさい経験であるが……意外にも心の方はちっとも悲観していなかった。

 

「どうしたよ、レーテ?」

「いや、悪いな。ちょっとボケっとしてた」

「あまり気を抜くなよ。少しの慢心、油断が命取りになる」

「分かってる、そんな真面目に言ってくれなくても大丈夫だよ」

 

 相変わらずガタゴトと揺れる軍用車の中で軽口を叩き合う。軍人とは思えない気安さではあるが、これくらいの雰囲気と真面目さが心地よい。これから命のやり取りをしに行くならばなおさらに。

 軽く十人以上は乗れるはずの軍用車であるが、生憎と搭乗員はオレたち三人とスラム育ちの新兵が数人程度だった。一ヶ月前に起きた旧・ドイツ領バイエルン州での戦いでほとんど死んでしまい、生き残った者はごく僅か。首都から送られてくる人員だって当然限りはあるのでしばらくはこのままのようだ。完全に人手不足だが文句を言ってはいられない。

 

 オレたちの同期は既にゼロだ。大部分は予想外の”血塗れの雛罌粟”(なんてき)との出会いで殺されてしまったし、それ以降の数多の激戦を潜り抜けてきた者は皆無だった。その後にやって来た者もつい最近全滅し、最新の兵士は既に説明した通り。誇張抜きで酷すぎる状況だと思う。きっとオレたちだって運が悪ければそうなってた。

 

「なぁ、俺たち次も生き残れるかなぁ……」

「馬鹿、不安になること言うなよ」

 

 ふと対面を見れば、その新兵たちの二人が深刻な顔で会話していた。無理もない、オレたちに支給される装備はどれも粗末なものだ。もちろん装備が良ければ絶対に生き残れる保証もないが、安心度が違ってくる。ましてこの前の戦いで同僚はほぼ全滅したとなれば不安に駆られるのも無理はない。

 そんな彼らに何か言葉を掛けるべきだろうか。ちょっと迷ったがその心配は無いだろうと判断した。さらにもう一人が毅然と拳を握って語り出したからである。

 

「やる前からそんな諦めちゃダメだろ! ヴァルゼライド先輩たちだって僕たちと同じ境遇からここまで来てるんだから、どうにか出来るって信じようぜ!」

「た、確かに……」

「うん、そうかもしれない……弱気になっちゃダメだよな」

 

 どことなく熱血青少年な雰囲気を漂わせる彼の言葉に不安そうだった二人が元気づく。さっきまでの弱気を忘れて前を見据え、自分たちの力で未来を切り拓こうと決意をしたのだ。見てるこっちも何だか勇気づけられる。

 ただその切っ掛けがクリスなのは納得できると共に親友としてちょっと気恥ずかしいが。オレとアルの間に挟まって座ってる彼を一斉に小突く。気分は学生時代の恋バナ状態である。

 

「おーおークリス、めっちゃ尊敬されてるんじゃんかよ」

「どうよ、目の前で言われた気持ちは? やっぱクリスでも照れるか?」

 

 ニマニマと笑いながら問いかけて、

 

「照れるも何も、あれは彼らが自分たちで悟った意志の力だろう。俺はその切っ掛けになったかも怪しいというのに何を関わった気持ちになれば良いという」

「お、お前なぁ……」

「ここでマジレスするとは思わなかったぞ……」

 

 取りつく島もなく二人揃って撃沈した。

 まあ確かにクリスはそう答えるかもしれないが、にしても堅物すぎる。ほら見ろよ、例の新人君たちが割と驚いた様子でそっちを見てるぞ。謙虚も過ぎると大概というか。もうちょっと威張ってみた方が向こうもやり易いだろうに。

 

「だがその意志自体は尊いものであり、寿がれるべき感情だろう。それを持つお前たちに俺は敬意を評させてもらう」

『あ、ありがとうございますッ!』

 

 そしてこれまた意図せずに株を上げ、三人揃って彼への憧憬をより強めるまでがテンプレだ。うん、さすがは魔性の男である。この一年半で魅了した男たちは数知れず、勇猛な戦いぶりと謙虚な姿勢で一兵卒とは思えない支持者を獲得したのも頷ける話だ。狙ってやってる訳じゃないからなおすさまじい。

 

 などとやっている内に軍用車が止まり、いつの間にか静けさが辺りを支配した。もう戦場間際まで到着したのだろう。時期に室内の無線からオレたちへ指示が入るはずだ。たぶんいつも通りに先駆けを務めろという類の内容だろうが。

 

「ま、いいさ。どうにか皆で生き残ろうぜ、なぁ?」

『はい!』

「はは、お前の方が代わりに先輩面かぁ?」

「うっせぇっての」

 

 三人揃って威勢の良い返事をするのが何だか初々しい。オレたちも昔はこうだったのかなーと思いつつ、僅かな猶予時間を過ごすのだった。

 

 ◇

 

 兵士としてのオレたちの仕事は非常にシンプルだ。ただ最前線へと切り込み、一人でも多く敵を殺せ。与えられる命令は過不足なくこれだけである。

 だが何事も単純な方が意外に難しい。最前線だから敵側の洗礼を一身に浴びるし、アドラー兵の誰よりも長く戦わなくてはならない。疲労と緊張と死への恐れ、それらすべてと戦いながらアンタルヤの傭兵と刃を交える必要があるのだ。

 自分で言うのもなんだが、あり得ない難易度である。常識的に考えれば絶対に生還できるはずもないし、よしんば運を味方に付けても一回二回が限度だろう。それ以上は運や偶然の埒外と呼ぶほかない。

 

 だからこそ何度も生き残ってこれた理由は、光を仰いだ以上に思いつくはずもなし。

 

「今回もすごいなおい」

「いつものこった、やるしかねぇだろ」

「泣き言は後だ、正面から食い破るぞ」

 

 戦況はそう複雑ではない。荒野じみた広い土地に塹壕があり、アドラーもアンタルヤもその内部を拠点にしている。地上では重火器による援護を受けながら刀剣での泥臭い接近戦が演じられ、また戦車や爆弾すら存在する文字通りの地獄だ。毒ガスが無いだけマシだが、ほぼほぼ前世で習った第一次世界大戦の様相が一番イメージに近いだろうか。

 その只中をオレたちはこれから駆け抜ける訳だ。塹壕に隠れて縮こまっていることなど軍としても、個人の心情としても許されない。征くべきは前のみ、そのために全てを貫き進むのだ。

 ここしばらくの連戦連勝で勢いに乗っているアドラーがまずは仕掛ける。オレらを含め刀剣を持った兵卒が前を行き、後方からは戦車砲の轟音と銃の発砲音が響きだす。そうして相手側からも銃やら兵やらの応酬が起き、停滞していた戦線は一気に火が入り鉄火の吹き荒れる死線と化したのだ。

 

 敵陣から銃火器の洗礼がやって来る。最初のこの時が最も命の危険が多いだけに気を抜けない。向こうも同士討ちを恐れず気軽に銃弾をばら撒けるし、こちらは敵陣へ踏み込む先鋒かつ肉の盾なのだから。どちらの陣営からも死んで当たり前と思われるのが今のオレらの役目である。

 もちろん簡単に死んでやるはずもない。この場面の対処法は三人揃って散々頭を悩ませ、そして一つの解決策を見出した。運が悪ければ腕などに銃弾が当たることもあるが、それでも死ぬよりは余程マシだ。

 

 まあ解決策といってもかなり力任せな感じであり……要するに撃たれる前に殺れの精神である。

 

「おいアル、次はどっちだ!」

「二時と十時の方向だ! しっかり狙え、外すなよ!」

「分かってる!」

 

 叫びながらセーフティを解除した拳銃を構える。戦場においてその小ささはどこまでも頼りないが、オレたちの持つマトモな遠距離武器はこれしかない。それを走りながらアルのいった二時の方向へと向ければ──居た。塹壕からこちらに向けられた銃口だけが上に出ている。さらに一拍置いてガンナーらしき頭が出てきて、

 

「そこだ」

 

 即座に撃った。カン、と小気味よい音が響いてそいつの被ったヘルメットに弾かれる。殺せなかったがその勢いでガンナーは後ろに倒れ込み、銃弾は吐き出されることなく置き去りになった。惜しいところだが戦略的には十分だ。

 さらに十時方向のもう一人はクリスが短剣を投げつけ対処していた。いつか戦ったクラックというらしい傭兵から盗んだ小技で真っすぐ二人目のガンナーへと吸い込まれ、恐るべき勢いで喉に突き刺さる。何度見ても信じられないパワーと精度だ。

 

「他には!?」

「今のところ大丈夫だ。向こうも今のですっかり及び腰になったな!」

 

 こうなればもうオレらを止める者は誰もいない。一気に敵陣へと乗り込み抜刀した。クリスが三刀を用いた抜刀術で暴れまわり、サポートをオレとアルの二人で行う。何度となく繰り返した戦場での黄金パターンだ。

 洞察力に長けたアルが敵のガンナーを探り、それをオレとクリスで出来るだけ迅速に処理してしまう。これがオレたちの出した結論であり先制攻撃への対処法である。頭のおかしい事をしている自覚はあるが上手くいっているのだから良いだろう。気合と根性、意志の力の前に不可能は無いと信じておく。クリスなんて放っておけば銃弾を斬りかねないし。

 

 ともあれ、アンタルヤ側のど真ん中までくれば逆に安全だ。銃弾は飛んでこないし適度な密集はオレの小柄な体躯ですり抜けやすい。上手く間を縫って走り回りながら直刀で斬りつけ、時には同士討ちを誘発しながら立ち回る。かつては一対一の戦いで非常に苦戦していたが、どのように戦うかの型が出来ればすんなりと動けるものだと実戦に学ばされた。

 走り回り、斬りつけ、たまに紙一重で攻撃を躱し、明らかに息も上がってきたところでガラガラと機械的な音が聞こえてきた。それはこの一年半で何度も聞いた無限軌道の音、キリキリ回転する砲塔の音はいっそトラウマにすらなってるほどだ。

 

「あ、おいアレは……」

「戦車か、しかもこっち向かってきてやがるぜ!」

「ならば潰すまでだろう。どのみちアレを自由にさせるのは危険だ」

「あ、おい!? ……ったく!」

 

 言うが早いかクリスが一気に駆けだした。その途中で剣を向けてきた相手をバッサバッサと薙ぎ倒しながら戦車へと肉薄せんと突貫する。生身で戦車に立ち向かう無謀さなどお構いなし、知ったことかと勇猛果敢に距離を詰めていく。()()()()()()()()()とんだ命知らずと言う他ない。

 戦車の潰し方なんてオレたちが知ってる訳ないので、やり方はいつも強引で力任せだ。どうにかして接近し、よじ登り、ハッチを空けて突入し制圧する。それだけだ。やっぱり頭のおかしいことをしている自覚はある。

 

 だがまあ、この状況で泣き言を漏らしている暇はない。周囲には敵だって多いし戦車自体が難物だ。油断すればあっという間に死ぬのは確実だった。

 警戒すべきは銃座からの支援射撃と砲塔からの実弾、それに戦車自体が回転してこちらを轢き殺そうと動くことの三つだ。逆にそこさえ気を付けておけばひとまず死ぬ危険だけは免れる。だからといって潰せるとは微塵も思わないが、現にクリスはやらかすから何ともいえない訳で。

 

 まずキャタピラー部分まで詰め寄ったクリスは、相手がその場で旋回をするより先に履帯の隙間へと刀剣を突き刺した。隙間にねじ込まれた刀剣はキャタピラーが動き出せば呆気なく折れるだろうがクリスの狙いはそこでない。恐ろしいことに柄の部分を足場にして、ひらりと戦車の上へ飛び乗ってしまったのである。

 そうなると上部に備えられた銃座と射手に鉢合わせだが、そこはこっちの出番である。先んじて発砲して相手の気を逸らしておき、その間に彼はいとも容易く銃ごと首を切り裂いた。後は内部に侵入して、たぶんまだ持っているのだろう短剣で制圧してしまえばお終いだ。

 

 現実離れしたジャイアントキリングの証人になりながら周囲で直刀を振るうこと一分弱、平然とクリスが戦車上から飛び降りてきた。折れてダメになった刀剣を履帯から取り出し、ひとまず鞘に納めている。

 

「これでクリスが戦車潰すの何台目だよ!?」

「数えてねぇっての! そんなこと言ってないでお前も戦え!」

「こんなところであまり騒ぐな、二人とも」

 

 かくして平然と戦車を潰したり、敵陣のど真ん中で大暴れすること数時間。そろそろ身体の限界を感じ始めた辺りで無事に戦闘終了の狼煙が上がり、何とか今回も無事に生還することが出来たのだった。

 

 ◇

 

「ふむ、今回も君たちは見事な活躍だったそうだな。結構結構、素晴らしいではないか」

 

 パンパンとどこか白々しい拍手が鳴り響く。一応は影隊長から手柄を賞賛されている訳だが、今更素直に喜べるほどオレも楽観的ではない。まして親友二人に至っては白けた視線を向けないようにするだけで精一杯なくらいだろう。

 今回の戦いも無事にアドラーの勝利で終わり、東部戦線はまた一つこちらが陣地を得た形になる。この一年半の間に旧・ドイツ領での勢力図は大幅に塗り替えられ、今やアンタルヤ側の主要拠点であるベルリンまで目と鼻の先という段階だった。

 

「ここまでの躍進には君たちの手柄も大いにあると部下たちからは聞いている。あまり下賤な身である君たちに便宜を図るのもどうかとは思うのだが……他の者の手前何も褒美を与えない訳にはいかないだろう」

 

 これまた臆面もなくこっちを見下してくれる。いい加減に慣れたがこの慇懃無礼な態度はどうにかならないものなのか。今のところ態度や言葉以外で実害は無いから良いものの……それが逆に不気味ですらある。いったい何が狙いなのかとついつい上官を邪推してしまう程だ。

 

「一年半の間、君たちはよく戦ってくれた。その功績を鑑みて、今この時をもって二等兵から一つ上げて一等兵に昇格とする。感謝したまえ、これまでスラム生まれから一等兵まで来れたのすら一握りだぞ」

『ありがとうございます!』

 

 揃って礼を述べるものの、内心は『どの口が』としか思えない。粗末な装備を与えて使い捨てるように前線へ送っていくのだから、昇格する者がほぼいなくて当然だろう。それをこうも恩着せがましく言われれば怒りも覚えるというものだ。

 だがそれを表に出せばまた話が拗れることだろうし、ひとまず素直に昇格は喜んでおこう。これで軍隊の最底辺からはどうにか脱出できた訳なのだから、この調子で頑張っていくしかない。

 

「ああ、それから。君たちを呼び出したのは何も昇格と祝いの言葉を掛けるだけではないのだよ」

「……? 私どもに何か落ち度でも?」

「いやいや、落ち度ではないさ。だが紹介したい人間が居てね。もう外で待っているだろう、入りたまえ」

 

 部屋の外へと影隊長が声をかける。すると「失礼します」という冷淡な声と共に扉が開けられ、一人の青年が入室してきたのだ。

 年の頃は十七歳までなったオレたちとほぼ同じだろう。だが眼鏡の奥にある表情はまるで能面のようであり、どことなく精密機械のような冷たい印象を与えてくる。そして何処かで顔を見たことがあるのだが……はて、どこだったか。中々思い出せない。

 

 その同年代らしい青年はツカツカとオレたちの前まで歩いてくると、サッとこちらを流し見た。

 

「その、この方は……?」

「彼は本来ならこちらとは別の戦線に配属される予定だったのだが、本人たっての希望で君たちと行動を共にしたいらしい。私としても彼ほどの人材が君らから良いも悪いも学んでくれるのは願ったりだ。故にこうして引き合わせた」

 

 さ、自己紹介をと影隊長はやけに丁寧に促した。一応彼はアマツでトップクラスの血脈のはずなのだが、その彼をしてこの青年の家柄は無視できないということだろう。そんな男がどうしてオレたちに関わりを持とうとするのだろうか? 理由がよく分からないが……どうしてだろうか。ほんの一瞬、彼の口元に笑みが浮かんだような気がした。

 

「本日付けで第六部隊血染処女(バルゴ)に所属されました、ギルベルト・ハーヴェス少尉です。以降よろしくお願いします」

 

 ──どうやら唐突に新たな仲間が増えたらしいということは、すぐに理解できたのだった。

 




新たな仲間、その名もギルベルト・ハーヴェスの登場です。

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