TS転生したら幼馴染が光の奴隷でした   作:生野の猫梅酒

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お待たせしました。今回から新章突入です。


第三章 胎動する星々/Constellations
Chapter28 拡大する戦火/Four Years Ago


 新西暦一〇一六年──軍事帝国アドラーは破竹の勢いで領土を広げていた。

 

 激戦区の東部戦線をさらに東へ東へと押し上げ、ついにアンタルヤの保有する一大都市であるベルリンまで手中に収めたのが新西暦一〇一二年のことである。これには商人とその傭兵たちも堪らずベルリン一帯を放棄し、アドラーは東部領土をより広げる結果となった。このベルリン攻略戦において若き英雄クリストファー・ヴァルゼライドとその仲間たちが多大な戦果を挙げたことなど、今更語るまでもないだろう。

 あれから既に四年の歳月が経っていた。帝国はベルリンからさらに東へ、そして南へと進軍を続け、今や旧・チェコ領に位置するプラーガまでもう少しという位置にまで軍を届かせるに至っている。これまでの遅々として進まぬ東部戦線の膠着状態から考えれば、僅か数年の間にここまで状況が動いたのは破格の事態と呼んでいい。

 

 もはや文字通りの無敵もかくやな帝国に対し、いよいよ重い腰を上げたのはこれまで二国の戦争に不介入を貫いていた聖教国──旧・ブリテン領に国土を構えるカンタベリーだ。極東黄金教(エルドラド・ジパング)を掲げるこの宗教国家にとって、アドラーの進撃先となるプラーガは大きな意味を持っている。それ故に理由もまた明白だった。

 というのもこのプラーガ、先の大破壊(カタストロフ)の影響によって本来あり得ない建造物が鎮座しているのだ。それこそは旧暦における大和の政を決めたもの、国会議事堂を置いて他に無い。第二太陽(アマテラス)の先に消えたとも、大破壊(カタストロフ)の震源地として消し飛んだとも定かでない日本国だが、その最重要遺物があるとなればカンタベリーが黙っているはずがない。

 

 よってアンタルヤ商業連合国の支配するプラーガの一角、国会議事堂が鎮座する一帯は聖遺庭園(リーグロヴィ・サディ)と呼称される聖地に認定されており、古都(プラーガ)で唯一カンタベリー聖教国の軍が幅を利かせている土地でもあるのだ。旧暦の特級遺物ともなれば、この地に巡礼に訪れる信者もそれなり以上に存在した。

 そこに、軍事帝国アドラーの矛先が凄まじい勢いで迫っている──これにはカンタベリーもアンタルヤも頭を抱えた。どちらもプラーガという都市を蹂躙されてしまえば困るのだ。何としても食い止めたいし、そのために一時的に共闘してでも帝国の武威を跳ね返そうとするのは自然の成り行きだろう。

 

 こうして、古都プラーガに鎮座する国会議事堂を皮切りとしてアンタルヤ並びにカンタベリーは帝国に対する共同戦線を敷き、アドラーも堪らず進軍速度を緩める事態へとなったのである。

 だが……たとえ軍隊自体が足を止める運びになろうと、()()()が無為に立ち止まることだけは天地がひっくり返ろうとあり得はしないのだ。

 

 ◇

 

 アンタルヤとカンタベリーが臨時にせよ手を組んだ以上、アドラーも必然的に苦戦を強いられることになる。各地で勃発する局地戦において帝国は敗走、ないし痛み分けの結果となることが頻発し、ベルリン陥落前後のような進軍を出来ないでいた。

 しかし、数多ある戦線の中でも例外が一つだけ存在する。思うように勝利を得られないアドラー帝国の最前線に立ち、唯一にして確実な勝利を齎すのは──若き英雄、光の徒に他ならない。

 

 そして彼は、彼女らは、今日もまた戦い続けている。

 

 此度の戦場はベルリンより南東に位置する荒れ野。かつては木々が生い茂り、美しい川も流れていた地であったのだろうが、今や戦場と化したことで灰色の岩地と無残に折れた木々ばかりが主張する物悲しい景色となっていた。

 戦車が闊歩し、少なくない数の銃弾が飛び交い、怒号と爆発音が鼓膜と脳を揺さぶる狂乱の戦場を駆け抜けるのは四人の影だ。誰が見ても無謀と分かるような無茶な突撃はしかし、味方からは歓迎されて敵からは畏怖の視線で受け止められる。

 

 何故なら、それだけの実績が彼らにはあるのだから。

 

「無茶すんじゃねぇぞクリス!」

「気遣いは無用だ、このまま押し通る!」

 

 物陰に隠れたアルバートの警告を不要と断じ、脇目も振らず駆け抜けるヴァルゼライドの視線の先には、歩兵たちに守られた戦車の姿がある。自分たちに近づいてくる英雄(かいぶつ)の足音に怯え、歩兵たちが狂ったように銃弾を浴びせかけるが、まるで冗談のように鉛玉は当たらない。むしろ弾の方から避けているかのよう。

 さらに彼は腰に装備された七本もの刀剣を煌かせ、その刃で冗談のように銃弾を弾いて止まらない。故に回避動作すら最小限、最短距離をただただ愚直に駆け抜ける様は敵からすれば恐怖の象徴以外にあり得ないだろう。

 

「それでこそ我らが英雄だ! 私も共に往かせてもらおう!」

「男ばっかで盛り上がるな、オレだって行くぞ!」

 

 予定調和のように無傷で弾雨を潜り抜け、ついに歩兵を斬り倒し始めたヴァルゼライドの背中を見てさらに奮い立つのが二人。彼に遅れること一拍、即座に駆けだしていたギルベルトとマルガレーテもさらに奮い立って彼の背中を追いかけた。散発的に向けられる銃弾など、数々の戦線を乗り越えた今ではもはや物の数ではない。英雄の行いを自分なりに咀嚼して、見切り躱すことを可能としていた。

 

「ったく、結局こうなるのかよ……! ちょっとは自分の身も心配しろってんだ!」

 

 そんな三人に対して呆れるような、けれども不思議と愉快そうに声を荒げ、アルバートも戦線に加わった。この中では彼が一番真っ当で常識的な思考を兼ね備えてはいるが、それでも歴戦の兵士であることは誰にも否定できない。同時に、マルガレーテがそうであるように親友の雄姿を見て憧れないはずもないのだ。

 とはいえ、アルバートの出番は今やそう多くない。歩兵たちはあらかた切り伏せられた後であり、ヴァルゼライドは残った戦車を単独で潰さんとばかりに猛っている。数年前の時点で戦車を潰すことを可能としていた彼だが、もはや洗練された域で”手慣れたもの”となっている。

 

 だがそれ以上に大きいのは、幼馴染の三人に新たな仲間が増えたことだろう。

 残っている歩兵たちの相手をしつつ会話を交わす二者の声が届いてくる。油断はしていないが、同時に余裕を感じさせる振る舞い。着々と戦車攻略を成すヴァルゼライドを片目にマルガレーテが呆れたような声音を漏らした。

 

「戦車の効率的な壊し方、か……なぁ、どこでそんな知識を入手してくるんだよ? そういうのも学校で習うものなのか?」

「まさか、私はただ式に数値を代入しているだけさ。例え戦車だろうと材質や各部パーツによって強度は異なる、後はそこに適切な衝撃を加えれば簡単に壊せるというだけの話さ。それさえ理解すれば、刀剣で履帯を止めるのすらスマートに可能だよ」

 

 薄ら笑いを浮かべて語る表情に戸惑いも嘘も欠片すら存在しえない。ギルベルトは真実『ヴァルゼライドなら必ず出来る』と信じて知識を授け、そして実際に実現させている姿を目撃しているのだ。そのサポートは単なる力よりもなお強大無比とすら呼べるだろう。

 本来ならこの四年の間に功績が認められて”少尉”から”大尉”の階級まで昇進しているギルベルト・ハーヴェスが、こうして前線に立つこと自体が道理に合わないと言えばその通り。後方で部下たちに指示を出している方がよほど立場にあった振る舞いだ。

 けれど、世間に合わせた常識なんて知ったことではない。指揮官が前線に出てはいけない道理など無いのだ。ならばこそ、彼にとっては珠玉唯一たる英雄の助けになることが本望であり、現に彼の助けを得たヴァルゼライドはさらなる戦果を重ね続けているのだから是非も無い。簡素な連絡しか出来ないような通信機器を駆使して他の者への指示すら的確に出せるとなれば文句などつけようはずもなしだ。

 

「ま、大前提からしてクリスじゃないと出来ないとは思うけどな……!」

 

 もはや握り慣れた直刀を振るいつつ、彼女は視線を戦車の方へとやって見せる。すぐ傍らでは履帯を()()()()()によって破壊された戦車が擱座しており、上部のハッチから侵入したヴァルゼライドが次々とその刃で鏖殺している音だけが聞こえてくる。こんな無理無茶無謀、いくら効率的な戦車の壊し方を知っていても実行可能なのは彼くらいだろう。

 気合と根性さえあれば戦車含めた敵兵の一団すらまとめて葬れるなどと、そんなことは現実的にあり得ないのだ。あらゆる理由で不可能だと分かってしまうのに、それでもヴァルゼライドは可能としてしまう。そんな不可能を可能とする姿に二人は心惹かれたから、こうして共に前線を駆けている。その後ろ姿が理屈抜きにどこまでもカッコいいから、まるで熱に浮かされたかのようにその足跡に続きたくて仕方がなくなる。

 

 かくしてたった四人で二十は超える敵兵士と、戦車一台を散歩でもするかのように壊滅させてしまった四人であるが、この程度の戦果で英雄たる男は満足などするはずもない。その手に握った刀剣が全て折れるまで、決して歩みを止めることなどないのだから。

 

「これでこの辺りは片付いたか。となれば──」

「次は向こうの方だろうな。指示は出しているが、苦戦しているようだ。英雄の助けを求めているようだ」

「ならば論ずる余地はない。すぐにでも向かうぞ」

「おいおい戦車潰してすぐに連戦か? 勘弁してくれってんだまったくよ……」

 

 光の奴隷は止まらない。往けるならばどこまでも突き進んで憚らず、妥協とか諦めといった軟弱な言葉なんて生まれる前から持ち合わせてなどいないのだ。故にこそ、鮮烈なまでに輝く意志の力は個人の力で劇的なまでに戦場すら変えてしまう結果を齎す。いいや、望むまでもなく齎してしまうのだ。

 かくして休憩は終わりとばかりに刀剣の血糊を払い、次の戦場を目指してひた走る。誰も彼もが止まらないし止まれない。ここまで来れば仕方ないとばかりにアルバートもまた走り出す。

 

 ──彼らの紡ぐ英雄譚は、新たなステージへと突入を始めていた。

 

 ◇

 

 英雄とは、多数の人間を殺した者に贈られる称号であるといつか聞いた覚えがある。その言葉を額面通りに受け取ればオレやアルもすっかり英雄の仲間入りでもしているのだろうが……()()がすぐ隣にいるとなれば口が裂けても英雄などと名乗れるはずもない。

 軍人となってから早五年以上は経つのだろうか。振り返ってみればあっという間だが、特筆すべきことは悲しいくらい何も無い。戦場を巡り、敵を殺し、自分を高めていくだけの日々。いつ死ぬかも分からないような激戦区に放り込まれ続ける毎日は心が擦り減って当然かもしれない。なのにこうしてマトモな思考をする余地が存在する辺り、オレもすっかりおかしな方へと足を踏み出しているのかもしれなかった。

 

 今回の戦いも順当にアドラー帝国の勝利で終わった。当然のことだろう、こちらにはクリスという一騎当千すら生温い男が居るのだから。彼が存在する以上は帝国の勝利は微塵も揺るがず、勝者たるアドラーは戦場の()()()をすべくこの地に留まっている真っ最中だ。オレも今は休憩中だが、いつ新たに呼び出しがかかるやら。

 今やオレたちもすっかり階級が上がってしまい、身分は既に一等兵から軍曹にまでなっている。なので下に兵を持っていて当然なのだろうが、生憎とそんなに多くは回ってこない。

 

 たぶん、クリストファー・ヴァルゼライドという”英雄”が多くの部下まで手に入れることを上は恐れたのだろう。だから階級は上がったというのに、戦場での役回りは変わらず一兵卒と同じようなものである。

 

「はぁ……さすがに疲れたな」

 

 呟きながらそこらの岩に腰かけた。爆発によって転がったそれは腰かけるのにちょうど良く、走り続けて疲労の溜まった足を休めるのに適していた。周囲を見渡せばアルが新兵たちに簡単な指示を出しながら働いている姿が見える。オレもさっきまでは混じっていたのだが、彼の厚意で休憩させられてしまったのだ。

 少しばかり足が届かないのでぶらぶらさせつつ、二つ結びにした茶髪を結び直していると、すぐ隣に立役者たるクリスが腰かけた。

 

「よっ、お疲れさま。今日も獅子奮迅の活躍だったな、さすがだよ」

「この程度は出来ねば帝国に勝利を与えるなど出来はしまい。いいや、更にアドラーの犠牲を少なくするべく精進していかなければな」

「……ったく、褒めてるんだからもう少しは喜べよな。素直に笑ってみたらどうだ?」

「生憎、笑うなどとは無縁な身の上でな。悪を許せぬ憤怒ばかり抱くこの破綻者が、人並みに笑うことすらおこがましいだろう」

「そんなこと無いさ。お前が幸せそうなら嬉しい奴だって隣にいるんだぞ?」

 

 冗談めかして伝えてみるが、この頑固者は頷けないとばかりに首を振った。オレからすれば何処までも格好良くて憧れて、目指すべき背中であってくれるのに。これ程までに自己評価が低いのがどうしても悲しいし、それを否定させられない自分への不甲斐なさばかりが募って仕方ない。

 いつか必ず、彼に並び立ちたい。そして自らの行いを笑顔で肯定して欲しい。そんな気持ちを抱きながら、話題をこの戦場跡地の方へと動かした。

 

「……それにしても、日に日にアンタルヤもカンタベリーも勢いを増してる気がするな。それだけプラーガへの進軍は抑えたいってことかね?」

「だろうな。プラーガは商業国にとってはベルリンに並ぶ流通の要だ。これすら失ってしまえば損失は計り知れず、また逆説的に帝国が手に入れた時のメリットも凄まじいのは目に見えている。なんとしても勝ち得なければならん」

「全ては帝国の勝利のために、決めたからこそ成すべきだ──そういう事だろ?」

「その通りだ。どれだけ難易度が高かろうと、さりとて足を止めて良い理由にはなりえない。決めたならば、成し遂げるのみ」

 

 先ほどとは一転して燃え滾る意志の込められた言葉に、オレは無言で頷いた。これこそがクリスの強さなのだから。誰にも折ることの出来ない鋼の意思を以ってして、すべての無理難題を乗り越え踏破し打倒してしまう。

 そんな鋼の英雄は休憩も終わりとばかりに立ち上がると、スタスタと歩き出す。オレも遅れないように腰かけた岩から降りるとその後を追った。

 

 向かう先にあるのはこの戦場に用意された仮設陣営の本部だ。上官たちがこぞって詰めているそこにはもちろんギルベルトもいるだろう。むしろ本来ならば後方で指示を出す方が自然なのだから。

 

「どうした?」

「一つ、気にかかることがあってな。ハーヴェスなら何か知っているだろうと考えた」

「気になること? ……いや、それってまさか」

 

 先の戦いでクリスが気になるような事柄など一つしかない。実はオレもちょこっと気になってはいたのだが、戦闘も終わって気が抜けたのかすっかり頭から抜け落ちてしまっていた。

 

「おそらくだが、今回の敵兵は麻薬に手を出しているだろう。これまでより明らかに斬った際の恐怖や痛みを感じにくい体質が有ったように思える」

「薬キメて身体感覚が鈍ってるってことか……ニルヴァーナも随分と派手に儲けてるようで」

「忌々しい限りだがな。あの”血塗れの雛罌粟(ひなげし)”とやらも、この付近の戦いでは散発的に見受けられた。末端まで麻薬が出回っている事といい、存外にニルヴァーナの抱える麻薬製造の本拠地も近いのかもしれん」

「で、その情報が何か出てないかギルベルトに聞こうって訳か。確かにアイツなら情報ゲットしてそうだもんな……」

 

 アンタルヤとも繋がりがあるとされる巨大麻薬組織ニルヴァーナは、オレたちが東部戦線に配属された五年前から今日まで変わらず悪の巣窟として蔓延り続けている。これまではまったく本拠地が掴めず麻薬をひたすら横流しされ続け、しかも用心棒たる傭兵組織”血塗れの雛罌粟”の存在もあって深入りは不可能という有様だったのだ。

 かつて、まだ駆け出しの新兵だった頃を思い出す。あの時に遭遇したクラックという名の大剣使いはまだ現役なのだろうか。元気にしててくれとは欠片も思わないが、初めて出会った格の違う強敵は強く印象に残っていた。

 

 あれ以降、あの男ほどの強敵と垣間見えることはついぞ無かったし、今のオレたちは数年前とは段違いに成長している自信はある。それでも、仮に彼ともう一度遭遇したとして勝てるかどうか。今になってもなお弱気になりかけるくらいには鮮烈な強さだった。

 

「今は進軍も停滞気味だが、これまでより帝国の版図がより東へ進んでいるのは事実だ。現状ならば日陰に隠れ潜んだ唾棄すべき者どもを一掃する機会があるやもしれん」

「で、そういうのを見抜く力はアイツが図抜けてる訳だ……もしそれで本当に本拠地が割れたらどうするんだ?」

「無論、攻め入るのみだ。民に堕落と腐敗を蔓延させて甘い汁だけを貪る輩、この地上に一秒たりとて生かしておく理由などない」

 

 一つの戦いが終わったばかりだというのにこの男は、悪が存在すると理解するが早いか放たれた矢のように止まらない。目立った負傷は無くとも疲労はあるだろうに、躊躇いなく言い切れる強さが羨ましい。

 などと話している内に、仮設陣営の本部前まで辿り着いた。そこには既にギルベルトがあの薄ら笑いを浮かべてオレたちを待つかのように立っていた。

 

「ああ、待っていたよ我らが英雄。ニルヴァーナの件を訊ねに来たと思うが、違うかね?」

「お前には俺の行動原理など既にお見通しだったという訳か」

「気を悪くしないでくれ。だが、あなたほどの男ならば滅ぼすべき悪を前にして、ただ坐して待つなど不可能だろうと信じていたまでさ」

「はー……オレはもう何も言わないからな、何も」

 

 気持ち悪い程の先読みに苦言を呈すのも飽きたので、速やかに本題へと入ることにする。

 

「で、オレたちを待ってたってことはだ。もしかしてだけど──」

「その通りだとも」

 

 鷹揚に頷いたギルベルトはオレの言葉を引き継いで、

 

「ニルヴァーナの本拠地がとうとう突き止められた。ここよりそう遠くない場所にあるという」

 

 至極あっさりとその情報を渡してきたのだった。

 これまでまるで尻尾を出さなかった巨大麻薬組織の本拠地が割れた理由はどうでも良い。ただ重要なのは、”悪の敵”が純然たる悪の塊を裁く機会を得たというその一点である。

 

「──詳細な情報を頼む、ハーヴェス。もはや一刻の猶予とてない、必ずこの手で滅ぼしてみせよう」

「それでこそだ、英雄よ」 

 

 この日、まるで散歩に行くことが決まったかのように気安い調子で、帝国を悩ませ続けた悪徳の終焉が決定づけられた。




一気に時間を四年ほど飛ばしました。作中で触れた通り現在は新西暦1016年、なのでマルガレーテの年齢は21歳となっております。
それから私事で恐縮ですが、最近になってVermilionをプレイして原初のヤンホモことアイザックさんを学びました。もちろん本気おじさんにもフィードバックするつもりです。

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