TS転生したら幼馴染が光の奴隷でした   作:生野の猫梅酒

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Chapter34 星辰奏者/Esperanto

 星辰体(アストラル)──それはこの新西暦を新西暦たらしめる最大の要因にして、未だ詳細不明の粒子である。

 世界に齎される主な現象は既に判明しているが、いったいこれらがどのようにして生み出されているのか、他に役立つ使い道があるのかすら依然として不明な有様。出所だけは天空に鎮座す第二太陽(アマテラス)から常に放出されていると分かっているが、本当にそれだけのブラックボックスなのだ。

 そして、全ての元凶たる大破壊(カタストロフ)からおよそ千年の時を経て。人類が未だに星辰体の正体すら掴めていない傍らで、鋼の恒星(ほむら)は静かに静かに、星辰体を用いた新技術と計画を練り上げ続けていたのである。

 

 ◇

 

 なんだ、この男は──?

 

 眼前の硝子管(フラスコ)内に存在する圧倒的な()()に対し、まず抱いた感想がそれだった。

 外見は長身瘦躯の黒髪の男性……ということでいいのだろうか? 疑問形になってる理由は一目瞭然で、彼には下半身と片腕が存在していないからだ。常人ならば明らかに生きてるはずがないというのに、なにがしかの溶液で満たされた円管の中で泰然として浮かんでいる。というか、信じがたいがチラリと傷口から覗いているのは機械の類か?

 

 ”それ”はこちらを真正面から見据えると、傲岸不遜な口調で語りかけてきた。

 

「よくぞ来た、マルガレーテ・ブラウンよ。喜ぶがいい、お前を己の選ぶ二人目に据えてやろう」

「……おまえ、は」

 

 どうにか声を絞り出す。気が付けば喉がカラカラだった。

 はっきり言って状況の理解が追い付かない。なんだコイツは、いったい何者なのだ。どうしてクリスまでもがこの場にいて、しかも彼に匹敵する意志の力を携えていると一目で理解できてしまうのか。肌に感じるプレッシャーは天井知らずのようであり、馬鹿げた比喩かもしれないが、まるで太陽を目の前にしたかのような圧迫感と熱量を覚えてしまう。

 

 この異様な状況にオレが戸惑いと気後れを見せるなか、”それ”はあくまで自然体のままだった。

 恐ろしいし信じられないが、”それ”は何ら気負わぬ自然体で他者を圧倒できるだけの熱量を維持しているのだ。

 

「ああ、戸惑いを持つのは実に自然な反応だろう。しかし懇切丁寧に説明をする義理もないのでな、単刀直入に言わせてもらうが……お前には新西暦における最新最強の人間兵器(エスペラント)、その第三号になる栄誉がたった今渡されたのだよ」

 

 気遣っているようでその実、尊大で威圧的で、加えこちらを下に見ている物言い。なのにその態度が板についていると感じる程度には似合っているというか、まるでオレたちよりも上位の種族であるかのような……あたかもすべてを掌の上で操る神にすら似ていると思ってしまうのは大和(カミ)に対して不遜だろうか?

 だがそんな印象より先に、新たな単語が出てきたのが気になった。エスペラント、とはいったい何を指しているのか。察するに人間に対して何か行うということなのだろうが……きっとコイツに聞いても埒が明かない。

 

「なぁクリス、簡単でもいいから説明してくれ。コイツはいったい何者で、そのエスペラントとやらは一体何なんだ? ここしばらくお前を見ない日が多かったのはこんな所に来てたからなのか?」

 

 だからその隣で無言を貫いていた幼馴染(クリス)へとようやく意識を切り替えた。

 普段なら彼のことから目を離すなんて頼まれようと無理なのに、今度ばかりは完全に注意を奪われてしまっていた。それだけでも現状の異常性がよく理解できてしまう。彼に匹敵するような存在がまだいるなど、正直言って考えたことすらない。

 

 オレからの問いに対してクリスは、珍しく渋い顔で答えてくれた。

 だがその態度はまるで「お前には教えたくなかった」と言っているかのようで。その様を面白そうに眺めている正体不明の”それ”の姿が何処となく不快だった。

 

「一つずつ答えるとしよう。”それ”の名は迦具土神(カグツチ)──大和(カミ)の遺物にして星辰体(アストラル)を用いる人型人造兵器だ。そして今の俺はカグツチの代行者にして、同盟者でもある」

星辰体(アストラル)を用いる人型人造兵器……!? つーか待て、大和の遺物って……確かに政府中央棟(ここ)は旧日本軍の施設が融合したものだけど……それがクリスの同盟者? ちょっと待ってくれ、整理させてくれ」

「……当然だろうな。俺とて最初は戸惑った」

「いいや、お前は最初から実に堂々と振舞っていたと己は記憶しているが?」

 

 冗談めかした合いの手もいったんシャットアウトし、大きく深呼吸。冷静にならないとちっとも情報が頭に入ってこないのだ。

 ざっくりまとめれば、カグツチとはつまり旧暦の日本が作ったロボットという認識でいいはず。それがおそらくは大破壊(カタストロフ)によってこんな欧州(ヨーロッパ)方面にまで飛ばされ、以降は地下に潜んでいたという訳か。それなら新西暦で見たことのない機械がそこら中に転がっている理由も、このカグツチ自身が半壊ながら平気で生きているのにも頷ける。中核(コア)となるCPUやメモリが破壊されてないならどうにでもなるということだ。

 

 そしてクリスの語った代行者にして同盟者というのはつまり、

 

「要するに、そこのカグツチとやらはそのデカい試験管から出れないってことだな? だけどやりたいことがあるからクリスを選んで代行者に仕立て上げた。で、大人しくクリスが従う訳もないだろうから見返りも渡して、それで同盟者ってことだ。違うか?」

 

 詳細な目的も理由も知らないが、推測としてはこんなところだ。当たらずとも遠からずだろう。

 それが証拠に初めてカグツチがこちらに対して感心したような表情を向けてきた。

 

「ほう……存外呑み込みが早いではないか。さすがはヴァルゼライドの朋友、やはりただの凡夫ではなかったか」

「俺が友誼を結んだ人間は数少ないが、それだけに誰もが誇るべき友であると思っている。あまり見くびってもらっても困るな」

「クク、それはすまなかったな」

「ったく、随分と仲が良さそうなことで」

 

 思わず毒づいた。褒められたなら素直に受け取っておくが、それはそれとしてこの二人の奇妙な仲の良さが気になってしまう。

 いわばシンパシーでもあるのか、互いに隙は見せないながらも息が合っているように感じる。利用し利用される無味乾燥な関係だけではこうはいかない。もっと損得を外れた地点でノリが合っているかのような、これまで一度として見たことが無いクリスの姿だった。

 ……昔からの馴染みであるクリスのそれに、どこかモヤモヤした感情も広がるが。今はもっと重大な情報に目を向けよう。

 

「で、話の続きだが。エスペラントとやらはどういう意味なんだ? まさかオレをカグツチ(こいつ)みたいなロボに改造しようとか言うんじゃないだろうな?」

「似ているが、そうではない。正確には人間のまま強化手術を受けることにより、星辰体(アストラル)の恩恵を受けることが可能な超人へと進化させる。それこそが星辰体感応奏者──すなわち星辰奏者(エスペラント)だ」

星辰奏者(エスペラント)って……まるで物語に出てくる超能力者みたいじゃないか。本当にそんなことが可能なのか?」

「可能だとも、間違いなく。その生き証人がそこにいるではないか」

 

 その指摘にハッとした。そうだ、クリスはもっと前からカグツチと邂逅しているのだから、当然ながらその星辰奏者(エスペラント)になる時間もあったはず。最初にカグツチも言っていたではないか、オレは『己の選ぶ二人目』だと。ということは間違いなくオレの前にあと一人、この話を知っている人間がいる訳で。

 

 もはや考える必要すらない結論へと達し、クリスもまた頷いた。

 

「そうだ、俺は既に星辰奏者(エスペラント)になっている。身体能力はかつてと比べ物にならないほど上昇し、更にこの手は鏖殺(おうさつ)の光を宿すに至った。その証拠が、これだ」

 

 言いながら七刀の一本を引き抜いた。東部戦線から愛用している七刀流のスタイルは見慣れたものだが、刀剣の形状はわずかに異なっているようにも見えた。

 果たしてそれで何をするのか。期待と怖れと好奇心とに支配された心情のまま固唾を飲んで見守る。

 

創生せよ、天に描いた星辰を──我らは煌く流れ星」 

 

 まるで祝詞(のりと)のように厳かに、地下空間にその一節が響き渡った。

 それと共にクリスの握る刀剣が輝き出す。眩いまでに黄金の光を纏った剣。ただそれだけだが、そうではない。

 遠くから見ても分かるのだ。その輝きが秘めた圧倒的な熱量を、燃え盛る激情をそのまま形にしたかのような攻撃性を。理屈ではなく直感で途轍もない光であると理解出来てしまうのだ。

 

 だけど、そう。何よりもまず、その輝きに目を奪われる。

 彼の理想と意志が光になったような輝きに魅入られてしょうがない。

 

「綺麗……」

 

 鮮烈で、眩くて、憧れる。

 もうずっと昔になってしまったあの日、クリスが助けてくれた時の背中を思い出す。あの輝きに魅了された瞬間を思い出し、半ば反射的に触れてみたいと手を伸ばしかけた。もちろん触れば最後破滅しかないと頭では理解してるのに、それでもあの光に自分も近づきたいと願ってしまうのだ。

 けれどオレが理性と本能で逡巡してる間にクリスは光を鎮めてしまい、静かに刀剣を鞘に戻した。地下の空間を照らしていた黄金光も掻き消えてもとの薄暗さが舞い戻る。

 

 それを残念だと感じてしまった気持ちを引き締め切り替えた。本題はここからだ。

 

「これが星辰奏者(エスペラント)の宿す力、星辰光(アステリズム)だ。レーテが言った超能力者という例えも的を射ているだろうな」

「今のが、星辰奏者(エスペラント)の力なのか……あの輝きが……とんでもないな」

「カグツチ曰く、より詳細には個人によって千差万別になるらしい。個々人の性格や信条、星に対する素養の大小などがそれを決定付ける。まだ俺と()()()()しか検証出来ていないがほぼ間違いないはずだ」

「もう一人? いや、何となく想像は付くが……」

「ああ、そいつで間違いない。奴にはいずれ問わねばならないことがあった、これを機に腹を割って問いただすつもりだが……それは横に置いておこう。重要なのはこの力を改革派に持ち帰れば、政府中央棟(セントラル)におけるこちらの立場が計り知れないほどに巨大となることだ」

 

 それはもちろん承知していた。この技術が公になれば軍事国家アドラーに超能力者が量産され始めるのだ。すなわち戦場はアドラー帝国一強となり、東部戦線という激戦区すらさらに押し上げることが可能となる。帝国へ齎す利益は莫大という表現すら生温く、よって星辰奏者(エスペラント)とは政治的立場など容易にひっくり返せる最強の切り札となるのだ。

 確かにこれだけの見返りを提示されればクリスがカグツチの同盟者となったのも頷ける。彼の目的はあくまでも帝国の腐敗を一掃することなのだから、そのために必要な鬼札(ジョーカー)は喉から手が出る程に欲しいはず。きっと時間をかければいつかは改革も成功するだろうが、それまでに犠牲になる人間を鑑みればここで躊躇する理由すらない。

 

「ひとまずの詳細は理解したよ。つまりカグツチは星辰奏者(エスペラント)を生み出す技術を持っていて、それをクリスに渡す代わりに何某かの行いを代行させようとしていると。で、それならカグツチはクリスに何をさせようとしてるんだ? わざわざオレを選んだ理由はなんだ?」

 

 こちらを見据えるカグツチの圧にも今や怯みはしなかった。大丈夫だ、状況は呑み込んだし隣にはクリスだっているのだから。いつまでも縮こまってばかりではいられないとばかりに疑問を叩きつけていく。

 

「いいだろう 後者の疑問程度なら答えてやってもいい。これは単純に、検証結果が多い方がより良いからに決まっている。己の計画には数多くの実験結果(データ)があることが望ましいが、取り分け女性を星辰奏者(エスペラント)にした場合の情報が不可欠なのでな」

「女性を、ねぇ……」

 

 それが精神的な意味だというなら、カグツチの思惑は見事に木端微塵な訳だがそこは黙っておくとして。

 なんとも機械らしい合理的な理由付けだった。計画を成すなら当たり前にあらゆる角度から検証したデータがあった方が良い、そうすればどのような事態が起きようと対処が可能になるうえ、新たなことに挑戦する場合もサンプルとして活用できるからだ。基本にして奥義と言うべき情報収集をカグツチは愚直に成そうとしているのである。

 

「付け加えれば、己はお前個人にも多少の興味があった。クリストファー・ヴァルゼライドという傑物を友と仰ぎ、その背中を追いかけた人間が果たしてどのようなものなのか。あと数人ほど候補はいたが、これに先の理由を加味してお前を選んだのだ、マルガレーテ・ブラウン」

「そいつはどうも。なら聞かせてもらうが、実際に会ってみてどうだった?」

「興味深い──というのが率直な感想だ。大和の使者たる己と相対しても立ち向かえるその態度、記憶回路(メモリー)に残っている一般的な女性とはかけ離れたその言動、ヴァルゼライドへ向ける信頼と憧れ……総評すれば『それなりに気に入った』と表現するのが妥当だろうよ」

「それなりか、随分とまた上からな褒め言葉をありがとう」

 

 別に自分が傑物であるなんて思ったことは無いが、こうもあからさまに評価を下されるとさすがにムッとくる気持ちもある。

 クリスが凄いのはオレも同感だが、初対面のお前にここまで言われる道理もないというか。さっきからどうにもカグツチとは反りが合わないような気すらしてくる。自分はあんまり怒りっぽい性格でないと自認してるが、これはもう相性が悪いのか。

 

「ならもう一つ、お前の目的は何なんだ? 何をするためにこんな破格の技術を渡してまでクリスを引き込んだ?」

「そちらに答えるつもりはない。最初に告げたであろう、懇切丁寧に説明をする義理はないと」

「ちっ、そうかよ。なら遠慮なくクリスの方に聞いてやるさ」

 

 薄々そうなるだろうと予測していたので、すぐにクリスの方へと向き直る。

 

「こんな見るからにヤバそうな奴から出された条件なんざ碌なものじゃないだろうし、出来る限りはオレも手伝うからさ。言ってみろよ、お前はコイツへの見返りに何を要求されたんだ?」

 

 よっぽどとんでもない話だとしても、微力だろうとオレはクリスに着いて行くつもりだった。当然だろう、彼がいればオレたちに負けなんてないのだ。最終的にカグツチと反目するのか協力するかも知らないが、どう転ぼうが最後は必ずクリスが勝つと何ら疑うことなく信じている。

 だから、そう、たった一つだけで良いのだ。これまでと同じように共に往けるならば少しの文句もないというのに。

 

「いいや、こればかりはたとえお前だろうとも明かせない。カグツチの目的に付随する艱難辛苦の全ては俺一人で背負うべきものだ」

「……おい、今更そんな水臭いこと言うのかよ。これまでだって──」

「この件はこれまでとは全く違う領域の話なのだ。どれだけの困難がその先に待ち受けているかなど想像すら出来ん。故にこそ、友であるお前にまでこの業を背負わせる必要はない」

「お前はまた、そうやってッ──!」

 

 オレを置き去りにして一人で雄々しく前へと進んでしまうのか。その言葉が喉の奥から出てこなかった。掠れたような声だけが小さく木霊する。

 幼少の頃の誓いであり、同時にトラウマにもなった()()()()を否応なしに思い出した。こいつはオレのことを気遣っているかのようで、その実『一人で進む方が都合が良いから』という理由で前へと進んでしまうのだ。抱いた友情が本物であることはオレだってちゃんと理解してるのに、呆気なく切り捨ててしまえるし孤高の選択を躊躇うことなく選んでゆく。

 だからオレはこいつの隣に立つのに相応しい人間になりたかったのに、友であることを誇れる人間になりたかったのに。まだ駄目なのか。オレには力も頭脳も大してないが、ここまで共に歩んできた道程だけは本物だと思っていたのだが。

 

「理解してくれなどと都合のいいことは言わん。恨んでくれて構わんし、友としての絆を断ち切るというならそれも一つの報いだろう。だが俺は決めたのだ──このアドラーに光を齎すためならば、どのような悪鬼外道が待ち受けようとも全てを斬り伏せ進むのだと」

「そうかよ、まったく……ホントにお前は子供の頃から変わらないな。いつまで経ってもあの頃と同じ頑固者だよ」

 

 呆れや怒りを通り越して乾いた笑いしか出てこない。本当に、始点からベクトルが微塵もズレていないのだから恐れ入る。分かっていたが筋金入りでどうしようもない。一度決意を抱いたクリスを説得するなんて、無限の時間があったとしても不可能という他ないだろう。

 

 しかし、分かっているならやりようは幾らでもある。

 

「ま、それならそれで良いさ。秘密って事にしといてやる」

「……意外だな、お前らしくもない。レーテならばもっと食い下がると予想していたが」

「そんなことしてもお前が相手じゃ押し問答で時間の無駄だからな。我慢比べなんてしたら誰がクリスに敵うかよ」

「ならばお前はなんとする、マルガレーテ・ブラウン? 諦めて泣き寝入りするというなら己は止めぬが」

 

 ここで問いを投げかけてきたカグツチへ、オレは誇りをもって宣誓する。

 

「決まってる、オレはオレで勝手にやらせてもらうだけだ。別にお前やクリスの邪魔はしない、だけど事情を知らないからと一人で諦めたりだってしない。どうにかして食らいついて関わるさ」

「自らを役立たずと言って切り捨てたも同然の男を、まだ見放さぬということか」

「そんな当たり前のことを聞くか普通? 悪いがオレだって意固地で諦めが悪いんだ、じゃなきゃ友達なんてやってないさ」

 

 その程度でこれまで積み上げた絆が壊れるほど、やわな関係ではないと信じているから。

 今度こそオレは”誓約者(オレ)”であり続けよう。胸に刻んだ決意に恥じない人間として、クリスを助けてやるために。

 

「忘れるなよクリス、オレは何があってもお前の友達なんだから。絶対にお前の力になる」

「──…………そうか」

 

 ゆっくり、深く、クリスは一言だけ呟いて。

 

「後日叡智宝瓶(アクエリアス)から新たに特命が来るはずだ。星辰奏者(エスペラント)になることに異存がなければそちらの指示に従って行動しろ」

「異存なんか一つもないさ。お前に追いつくための第一歩、必ず踏み出してみせるとも」

 

 ──かくして此処に、オレの運命は再び決定づけられた。

 

 共犯でもなければ敵でもない、第三者として鋼の英雄を追いかけるという運命へとひた走りだしたのだ。

 

 ◇

 

 そして、薄暗い地下から光差す地上へと帰還したマルガレーテを見送って。

 後に残された英雄と神星は二人して静かに言葉を交わす。

 

「お前は随分と友に恵まれているな。まさか怒ることなくあのような反応を返すなど、己をしても予期してなかったと認めるほかない」

「ああ、まったく得難い友だとも。アルもそうだが、光しか知らぬ俺にはあまりに過ぎた友人だ。誇りと思う心に嘘など欠片もありはしない。だからこそ、お前がアイツを呼ぶと言い出したときは忸怩たるものがあったが……」

 

 だがそれでも、目的の為なら躊躇なく友を切り捨て駆け出せるのがクリストファー・ヴァルゼライドのどうしようもない宿痾(しゅくあ)である。自覚はあっても止められない。いいや、そもそも止まり方すら知らないのだ。

 一度走り出せば後は目的を達成するまで絶対に屈さず駆け抜けてしまうその在りよう。そんな姿に驚愕と賛辞を覚えたからこそカグツチもまた彼を代行者に選んだのだから。喝采こそすれ正そうという気は少しもない。

 

「しかし、これで”聖戦”に向けての準備は整った。彼女を星辰奏者(エスペラント)とし、データを得ればもはや盤石だろう」

「後は俺とお前、どちらが”第二太陽(アマテラス)”を手に入れるかの勝負だけだ」

 

 どちらもそれこそが本命。しかし目的は正反対であり、いずれヴァルゼライドとカグツチは雌雄を決することになる。

 互いに利用し利用されるが、最後の一戦だけは決して譲らず揺るがない。

 

「いずれ来るべき”聖戦”に向け──”勝つ”のは己だ」

「いいや、”勝つ”のは俺だ」

 

 両者は強く強く宣言し、本懐を遂げるその日を待ち望むのだ。

 




いよいよ星辰奏者が本格登場です。1年くらい温めてきたマルガレーテの星辰光(アステリズム)やステータスももう少しで登場ですね。たぶんゼファーさんは狂い哭きます。
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