TS転生したら幼馴染が光の奴隷でした   作:生野の猫梅酒

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Chapter36 誓約者/Tellus

 星辰奏者(エスペラント)出力(つよさ)を表す指標として、基準値(アベレージ)発動値(ドライブ)の二つの用語が存在する。

 基準値(アベレージ)はその名の通りに基準となる出力値であり、常態の星辰奏者(エスペラント)が発揮できる身体能力や星辰光(アステリズム)の強さを表す。普段はもっぱらこちらの状態であり、しかもこの時点で常人より遥かに強力な人間兵器として完成されているのだが……これはまだ序の口にすぎない。

 そう、星辰奏者(エスペラント)の本領とは発動値(ドライブ)へ移行した時にこそ発揮されるのだ。各人固有の詠唱(ランゲージ)を紡ぐことで星辰体との感応量をより上昇させ、あらゆる能力が一時的に更なる高みへ押し上げられる。この状態で用いる力こそ、星辰奏者(エスペラント)の強さを真に評していると考えて間違いない。

 

 つまり、だ。

 今回の星辰奏者(エスペラント)評価試験においては全力を出す必要がある訳だから──マルガレーテ・ブラウンは躊躇なく己の位階を発動値(ドライブ)へと切り替えたのである。

 

 ◇

 

 最初から遠慮など何も無しに、マルガレーテ・ブラウンは己が兵器としての全力を発現させた。

 

創生せよ、天に描いた星辰を──我らは煌めく流れ星

 

 そして、紡がれゆくは人の身を最小単位の星へと変える詠唱(ランゲージ)

 統一された規格に沿って人造星辰(エスペラント)がここに具現を開始する。

 

原初の願いはただ一つ、皆の幸福なればこそ。この惨劇は目に余る

 血で血を洗い、傷つき憎んだその果てに、望む明日があるというのか。分からぬならば良いだろう、我が怒りにて思い知れ

 

 穏やかに、静謐に、そして厳かに唱えられるは地母神の苦悩と怒りの情。

 神話に謳われて久しい大地の怒りが、個人の内より解き放たれんと唸りを上げて目覚め出す。

 

地の獄舎にて伏す子らよ。その身に巻かれた戒めを、今こそ地母が解き放とう

 天の楽土にて座す子らよ。その身に宿した傲慢さ、今こそ地母が打ち砕こう

 

 朗々と紡がれる言の葉に迷いなど一切ない。自らの心へ無意識に浮き上がった想いのままに唱えるのみだ。故にマルガレーテ本人すらこの詠唱の真の意味など理解していないが、そんな事はどうでもいい。

 重要なのは貫く意志。そして必ず成し遂げると誓った心なのだから。幼少期(はじまり)から微塵も変わらぬ(おもい)を支えとし、宿した星の宿命(さだめ)をただ粛々と編み上げる。

 

誓約を此処に。槍を握りて剣を執り、この手で願いを遂げるのだ──子息(だれか)の庇護など求めない

 殺して救うその矛盾、覚悟の刃を最終闘争(ギガントマキア)に突き立てよう

 

 我こそまさしく誓約者、守られるだけの存在ではないと高らかに告げていく。

 それが証拠とばかりに放たれた圧力が暴力的な段階(レベル)へと膨れ上がる。自分にもまた戦う力はあるのだと、宣するように吹き荒れる星辰体(アストラル)の奔流は今や星辰奏者(エスペラント)でなくとも感じ取れる域にあった。

 

 さあ、今こそ目覚めろ地母神よ、微睡(まどろ)む時間はもはやない。

 己が手すらも血で汚し、最終闘争(ギガントマキア)を踏破して、輝く勝利(あした)を抱くのだ。

 

目指すべき鋼の未来(ひかり)は、天頂の先にこそ在るのだから──

 

 望むのはただ一つだけの未来。憧れの立つ輝く地平へ追いつくため、鳴動する地球(ホシ)の鼓動を携えた誓約者が降誕する。

 その名はまさしく──

 

超新星(Metalnova)──いざ希求せよ誓約者、眩き地平を抱くがいい(TerraGravitonTellus)!

 

 紡ぎ上げられし星辰光(アステリズム)が、光と誓約を糧に花開く。

 地球を支配する普遍的な法則、()()へと訴えかけるマルガレーテの星がここに顕現されたのだ。

 

「さてと……それじゃ、やってみましょうか」

 

 発動値(ドライブ)へと身体を移行させたマルガレーテは静かに呼吸を整えて前方を睥睨した。その先には銃を構えたままにどうしたものかと困惑している兵たちの姿がある。彼らをしても彼女の変化は理解しているはずなのだが、味方に向けて銃を撃つのはどうしても躊躇われてしまうのだろう。

 だがしかし、何も心配することはない。ここに立つは新西暦に産声をあげた超兵器、たかだか()()()()で斃れるようならかの神星の計画に採用すらされないのだから。自らに対し遠慮はもはや無用なのだとマルガレーテは直感で理解した。

 

「このままじゃデモンストレーションになりませんから、遠慮なくどうぞ。話はすべてこれからです」

 

 向けられた無数の銃口を一瞥するだけで恐怖心など消え去った。この程度の攻撃、今の自分ならば呆気なく見切れるし対処できると感覚が告げている。対外的な目を意識して女性らしい言葉遣いを選ぶ余裕すらあったほどだ。

 当の相手からそんな言葉を告げられてしまい、いよいよ困ったように隊長格だろう兵が高官たちを見やった。彼らもまたマルガレーテの変貌を見届けているからか、恐れるように喉を鳴らして小さく頷いた。ここまでお膳立てを整えられればやるしかない。

 

「これで名高き戦乙女(ワルキューレ)に死なれたらあんまりにも寝覚めが悪いんで、どうにか死なないでくれよ──ッ!」

 

 ほとんどヤケクソな掛け声を発して、とうとう数の暴威がただ一人に向けて放たれた。

 彼らもまた兵卒であり連携は大の得意とするところ。躊躇を捨てた都合三十人の兵士たちから放たれる銃撃はもはや点でなく面であり、音速を超えて迫る津波が如き弾丸たちが個人へと殺到して逃がさない。

 死ぬのが道理、虚しく地に伏せることこそ条理というべき鉛の波濤。これに対する星辰奏者(マルガレーテ)はどこまでも落ち着いた様子を見せており、恐ろしいことにその場から動こうとすらしなかった。

 

「こうやって……星を使えばいいと!」

 

 ならば身体中に穴をあけた女の姿がそこにあるかと言えばそうではなく。

 弾丸が、勝手に逸れて行くのである。間違いなくマルガレーテへと向けられたはずの弾丸の軌道は不思議なほどに曲がり逸れては背後の壁へと弾痕を刻んでいく。それどころか彼女の位置に達する前に地面へ急速にめり込むものすらある始末。戦車から放たれた砲弾すら不自然なほど上へと曲がり、銃弾と同じく壁の跡となって粉砕した。

 そうして全ての弾丸が吐き出された時、本当にただの一歩も動くことなく、どころか銃弾自体が避ける形でマルガレーテは無傷を演出してみせた。

 

「どういう……ことだ」

 

 誰かが思わず呟いてしまったこの言葉こそ、この場に集った者たちの紛うこと無き本音だろう。

 こんな不条理が起きるはずがない。いくら鋼の英雄だろうとこれ程までに無傷であるなど不可能だ。であればこれが星辰奏者(エスペラント)の力だとでも言うのか。あまりの理不尽さに力を見せつけられてなお信じられずにはいられない。

 一方、驚愕が辺りを支配する中で当事者たるマルガレーテは冷静だった。自分の授かった力の凄さを改めて認識しながら浮かれ過ぎずに思考を回す。

 

「今のは操縦性と干渉性を使ったやり口な訳だから……うん、これが出来るなら他にも色々試せるな」

 

 小さく呟き自分の力を確かめるマルガレーテ。先の不条理は彼女の星辰光(アステリズム)となる重力操作(グラビトン)と、特に優れた資質である操縦性と干渉性を活かした技であったのだが、この分ならばこの二つを組み合わせるだけでさらに色々と出来ることだろう。

 そう、星辰光(アステリズム)には大きく分けて六つの性質が存在する。集束性、拡散性、操縦性、付属性、維持性、干渉性の合計六種類に分けられるそれらは、星の素養によって才の優劣が決まってくる。六つの資質のどれもが高ければ星の力を万能に揮える者となれるし、秀でたものがなければどれだけ扱いやすい能力に目覚めようが出来ることの幅は少ない。

 

 この点を鑑みてマルガレーテの星辰光(アステリズム)を評価すれば、その特徴はまさしく()()()()と呼ぶべき尖ったモノとみるのが妥当だった。決して総合力に優れた万能な星ではないが、さりとて応用の幅は非常に広いものがある。

 まず特筆すべきは能力自体が”重力操作(グラビトン)”であること。これに起因した万物全てに訴えかける有効範囲は驚嘆に値する代物だ。さらに操縦性並びに干渉性に特化した性質を駆使することにより、一つ一つの物質へ粒子レベルで自在に干渉した上で重力を操作し捻じ曲げて、挙句の果てに強弱を付けることさえ可能とするのがこの星光の正体だった。

 

 先ほど行った銃弾の雨霰を回避した手法も種を明かせば簡単だ。一つ一つの弾丸へ星辰体を介して干渉することで重力のかかる方向を真下から左右方向へと変更し、軌道を逸らしてみせたのだ。発動値(ドライブ)状態にある星辰奏者(エスペラント)の動体視力と反射神経ならばその程度の認識は造作もなく、更には自分に直撃しそうにないものは床へと叩き落してみせる実験すら行えた。

 つまりマルガレーテ・ブラウンという存在を銃弾で倒すことは事実上不可能なのだ。どれだけ撃ち込もうが近づく傍から重力に干渉され、軌道を逸らされてしまえば当たるものとて当たらない。

 

「それじゃあ、今度はこちらから行ってみますか」

 

 嘯きながら腰に差した直刀を引き抜いてみせる。これこそが星辰奏者(エスペラント)にとっての肝心要、星辰光(アステリズム)を用いるのに必要不可欠な触媒(アダマンタイト)であった。これがなければ如何な星辰奏者(エスペラント)といえど発動値(ドライブ)には移行できないとなればその重要性は推して知るべしというもの。

 武器に用いても非常に頑丈なそれを構えてマルガレーテは一歩踏み込む。その単純な動作だけでもう速い。元より戦場で鍛えあげた体捌きはあるにせよ、これは尋常でない踏み込みだった。

 

 人間兵器となることで強化された脚力に加え、さらに()()()()()()重力の向きを真横へ変更したことで射出装置(カタパルト)の如く加速した結果である。

 

「よっ、と」

「な、いつの間に……ッ!?」

「こいつ、早すぎるぞ!」

 

 認識すら許させない刹那に間合いへと飛び込むや否や、直刀の峰で兵の持つ銃を叩き落とす。圧倒的な膂力の前にたまらず銃を手放した兵を一瞥し、さらに次の二人ほど武器を落とさせたところで勢いよく()()した。

 強化された脚力にものを言わせたジャンプ、のみならず自らにかかる重力を天地逆さにすることで勢いよく上昇してみせる。訓練場だけあって高い天井にも即座に到達してしまうが、今度は自身への重力を無とすることで滞空しつつ眼下へと視線を向けた。真っ向から地球法則に抗った光景に度肝を抜かされたのか、ヴァルゼライドを除いた誰もがぽかんとした表情でマルガレーテを見上げているのがよく見える。

 

「重力に関して思いつくこと全て、自由に出来るみたいだな……っと!」

 

 本人も二ヶ月の間にシミュレーションはしていたし扱うための訓練も続けてはいたが、大っぴらに星辰光(アステリズム)を揮うのはこれが初めてだ。故にこれまで試せなかったあらゆる使い方を試しながらもデモンストレーションを続けていく。 

 空中から全員を見下ろしながら標的を武装だけに限定する。遅れて銃口が空へと向けられるがもう遅い。全ての銃への干渉は既に済んでおり、後は彼女の意志次第で──

 

「沈め」

 

 たった一言唱えるだけで、銃の重さが何倍にもなってしまうのだ。

 何も彼女の星辰光(アステリズム)は重力の偏向だけが取り柄ではない。平均的な収束性でも活かしてしまえばこの通り、重力自体を何倍にも増幅させることすら可能である。その気になればこの場の全員を地に這いつくばらせ、骨を折り、ミンチにすることだって容易い極悪無比な能力だった。

 もはや持ってられない重さとなり、それどころか地面へと埋まる勢いで落ちた銃を横目にマルガレーテが羽毛のように舞い降りる。天より下ったその姿はあたかも通り名である戦乙女(ワルキューレ)か、それとも命を刈り取る死神か。これが戦場なら自らの命は彼女の掌の上であることを兵達も理解しているからこそ、安直な表現だと笑い飛ばすなど出来っこない。

 

「さてと……とりあえず、これが私の星辰光(アステリズム)の力ですね。ひとまず星辰奏者(エスペラント)技術が嘘ではなく、しかも帝国にとって有益な技術となることは理解してもらえたと思いますが、どうでしょう?」

 

 途方もない実力を見せつけた本人は汗一つかかず涼しい顔で、冷や汗をかいた高官たちへと問いかけた。彼らとてもはや認める他にないだろう。これだけの実力、特殊性を見せつけられてなお首を横に振るなど自殺行為もいいとこだった。星辰奏者(エスペラント)という規格外の人間兵器の実在と有用性はこれを以って不動のものとなるはずだ。

 その反応を確認してかマルガレーテもホッと息を漏らした。これでも上層部の前で力を揮うことに緊張感を覚えてはいたが、どうにかプレッシャーに負けずに役割を真っ当することが出来たのだ。ヴァルゼライドの方へと視線をやれば、彼も珍しく「よくやった」と言わんばかりに頷いた。彼女にとってはこれだけでも報われる想いである。

 

「ま、これで何とかなったかな。大変なお役目もこれで終わりだ」

 

 聞こえない程度に呟いて、未だに呆然としている帝国兵たちと少し会話でも出来ないかと足を向けたその時に、

 

「ああ、それは少し待ってはいただきたい。これではまだ星辰奏者(エスペラント)の本領は見れていないと思うのですが、どうでしょう、私との追加模擬戦(エキシビション)をさせてはもらえないでしょうか?」

「……おいおい、このタイミングでかよ、ギルベルト」 

 

 曇りなき蒼天を瞳に宿したギルベルト・ハーヴェスが、”待った”をかけてきたのである。

 




随分と時間がかかってしまいましたが、マルガレーテ・ブラウンの星辰光お披露目でした。
下記に簡単にステータスと解説を載せておきます。私も自分で作ってみてドン引きしてますが、参考までにどうぞ。

星辰光(アステリズム)


いざ希求せよ誓約者、眩き地(TerraGraviton Tellus)平を抱くがいい
AVERAGE(基準値) C
DRIVE(発動値) A
STATUS
集束性 C
拡散性 C
操縦性 AA
付属性 C
維持性 C
干渉性 AA

 
 テラグラビトン・テルース。略称はTGT。
 マルガレーテ・ブラウンの星辰光(アステリズム)、その正体は重力操作(グラビトン)と評すべきもの。重力に関する事柄ならばかなりの広範囲に渡り操作が可能で、万物に関わる重力を扱うために汎用性は非常に高いものがある。
 ステータスとしては図抜けて優れた操縦性および干渉性を武器とする『二点特化型』ともいうべき代物であり、特に”重力を偏向”させる使い方を得意とするが、一方でその他の能力も平均程度はあるので集束も拡散もそつなくこなす。総じて特化型ながら高い汎用性すら備えた隙のない星光であるのは間違いないだろう。

 物理的には重力と重力加速度とか色々違くない?というツッコミは無しでお願いします。その辺りはあくまでフィーリングですので……そしてどちらかと言えば次回こそ本命。ギルベルトとの模擬戦という名のど突き合いです。
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