TS転生したら幼馴染が光の奴隷でした   作:生野の猫梅酒

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前回はたくさんの感想を下さりありがとうございました。
都合60件超えをしており私も大変に驚きましたが、すべて喜びながら目を通しております。その上で今回は、全ての感想に対しる感想返しよりも更新を優先したことをご承知くだされば幸いです。


Chapter37 審判者/Elysium

 ──その男は、既に自らの夢を封じ込めていた。

 

 理想(ヒカリ)に焦がれる者たちが集い、徹底した信賞必罰により誰もが正道を目指して歩めるようになる極楽浄土(エリュシオン)。この世界が実現すれば正しい人間はどこまでも賞賛され、屑は屑としてどこまでも蔑まれる徹底的な優劣の世界となる。正しい選択をする者に、それに見合いし光あれ……それこそまさしくギルベルト・ハーヴェスという傑物(バケモノ)が目指した理想の世界であったのだ。

 しかしその野望は他ならぬ英雄(りそう)の体現者によって潰された。クリストファー・ヴァルゼライド、弛まぬ努力と不断の意志で前へと進み続ける鋼の英雄。彼こそがもっとも極楽浄土(エリュシオン)に歓迎されてしかるべき英雄であったはずなのに、ギルベルトの理想を一蹴すると当然のように彼を下して自らの管理下に置いてみせたのだ。

 

 その際にどのような激突が生じたか、また極楽浄土(エリュシオン)の本質的な悍ましさがどこにあるか、それはこの場で語ることではないだろう。

 重要なのはギルベルトは既に敗北していること。彼は完璧なまでに公平な優劣主義者、能力主義者であり、勝者の総取りこそ正義であると信じている。故に()()()()()()は恐るべき意志の力であらゆる命を轢殺しても進むのだが、一度敗北すれば自らもまた勝者に服従することへ一つの異論も挟まない。いっそ潔い程の優劣の物差しはこの男の宿す歪みであり、またある種の美徳でもあるのは違いなく。

 

「ああ、それは少し待ってはいただきたい。これではまだ星辰奏者(エスペラント)の本領は見れていないと思うのですが、どうでしょう、私との追加模擬戦(エキシビション)をさせてはもらえないでしょうか?」

 

 だから真実、この場においてギルベルトの目的に悪意も足掻きも誓って存在しなかった。

 自らを下した上位者に対して忠誠を誓っている以上、今更になって極楽浄土(エリュシオン)の野望を推し進めようとはしないだろう。ヴァルゼライドが生きている限り、あるいはヴァルゼライドすら打ち破る()()()()()()が存在する限り、恐るべき炯眼の男は二度と勝手は起こさない。

 ではどうして星辰奏者(エスペラント)評価試験の場に赴き、そしてマルガレーテ・ブラウンの眼前に立ったのかといえば──純粋に興味があったのだ。己が英雄と仰ぐ男に必死で追従する彼女の本質(つよさ)に。敬意を表しているからこそ、超えてみたくて堪らなくなる光の宿痾を発動させる。

 

 確かにギルベルトの野望は否定された。しかし頑張る者が報われる社会にしたいという願いまでは否定されておらず、ならば可能な範囲でそういう世界にしようと努力を続けることは自由である。

 後はやることなど一つだけ。直接剣を交えることで戦乙女(ワルキューレ)を見定め、これまで抱いていた彼女への敬意が確かなものであることを改めて証明する。その果てに同じ理想を掲げることが出来るならそれで良し、仮にダメでもそれはそれだ。実は眼鏡に適わなかったという決を下してそのように対応するだけである。

 

 かくしてここに、満を持して審判者(ラダマンテュス)が参上する。

 これが模擬戦であろうがなかろうが、肝心なのは戦える機会そのものでありそれが全て。自らを下した光より授けられた名前を戴き、白夜の如き意志で審判を行う時が来た。

 

 ◇

 

 唐突なギルベルトの登場に虚を突かれたのもつかの間、彼はほんの一分くらいの間に高官たちへ向かって言葉を重ねると、当然のようにオレの立つ訓練場へと歩を進めてきた。おおかた星辰奏者(エスペラント)の本領がどうだの、それらしい言葉をさらに加えたのだろう。もはや何も語るところがない程に手慣れた説得の手管には驚きすらしない。

 こうしてオレが何かを言う前にあれよあれよと場を整えてしまった戦友(ギルベルト)は、装備を片付け引っ込んでいく一般兵士たちを横目にオレの前へと立ち塞がった。特に気負いもせず、腰に提げている剛剣をすらりと引き抜く姿は見慣れたもの。しかし刀身の輝きは間違いなくアダマンタイトで出来たものとみていいだろう。

 

「さて、まずは一言謝罪をさせてもらおう。突然にこのようなパフォーマンスを加えることになってしまい、申し訳なく思う」

「別にそこは構わないけど……目的は何だ? まさかおま──あなたが、ただ純粋に戦いたいだけだなんて考え難いですけども」

 

 戦友だけあり普段は気にしていないが、一応向こうの方が階級は上である。

 なのでひとまず畏まった喋りになったオレを見て、ギルベルトは何がおかしいのか微笑を浮かべて憚らない。

 

「こうして君に畏まられるのも不思議な気分だ。お互い同じ戦場を駆け抜け、功績を挙げたというのに、どうしてかこのような”溝”が出来てしまう……世の在り方というのを考えさせられてしまうよ、まったく」

 

 やれやれと頭を振ったギルベルトの姿に苦笑する。本当はもっと言いたいこともあるだろうに、一応は人目を気にして直接的な言動を避けたのだ。今更そんな気遣いをしたところで遅いだろうに、と内心で呟いた。

 彼は既に二重スパイという立場から完全に脱却し、改革派として精力的な活動を始めている。なので血統派からは裏切り者扱いすらされているはずなのだが……本人はほとんど気にしていない素振りなのが彼らしい。

 

 この世は結果がすべてであり、他者を弾劾するならまず自分が克己し乗り越えろ──なんて文句が聞こえるようだ。

 

「故にこそ、私はここに証明したいのだよ。君たちと私はあくまで同格であるのだと。軍としての階級が下らないとは言うまいが、しかしそれ以上に必要な評価が必ずあると信じているから挑むのだ」

「だからこうして、他人の目があるところで挑んでくると」

「ああ、その通りだとも。それに何より──」

 

 そこで急に声を落とすと、星辰奏者(エスペラント)の聴力でしか聞こえない程度の声量で続きを語る。

 

「こうでもしなければ、君と戦える機会などそうはあるまい。訓練ならばまだしも本気で友人と戦おうなどとは考えないはず、違うかな?」

「……違わないな。つーかこれも模擬戦ではあるんだけど、そこんところは?」

「さて、言い訳はいくらでも可能だろうさ。むしろ派手に演出した方が今後の展開も有利になると私は考えているとも」

 

 なるほど、そっちが本命か。

 これまでの戦いや日常の中で、ギルベルトの言う通りオレらが本気で戦うことは一度もなかった。当然だ、戦友同士が本気で殺し合う理由なんてこれっぽっちも存在しないのだから。もし普通に申し込まれたのならオレは絶対に断っていた。

 なのにこうして、避けられない状態でギルベルトからオレへと挑戦状を叩きつけてくるとは……絶対に何かしらの裏が存在するはず。まさかここで謀殺するつもりじゃないのは目をみれば分かる。

 

 アレは悪意など欠片もない本気の敬意を持ったうえで、こちらに戦いを挑もうとしている白夜の如き瞳だ。こうなればすべて遅い、どう動いてもアイツの掌の上で踊らされることになるのは確定だった。

 

「いいさ、そこまで言うなら受けて立つ。オレがお前の相手になるかは知らないけどな」

「ああ、まったく、そう謙遜しないでほしいものだ。我が英雄といい君といい、過ぎた謙遜は卑屈にさえ映る」

 

 嘆かわしい、勝者がこれでは誰一人として報われない。

 そう嘆息したギルベルトは向こうで座る高官たちと、そして何よりクリスの方へ視線をやった。

 いい加減に模擬戦を始めようという意志を向けられて高官たちが頷いた。クリスの普段よりもなお頑なに引き結ばれた口元がちょっと気になるものの、また否定せずに見守っている。

 

「では──」

「ああ──」

 

 互いの視線が交わり、そして。

 

『始めようか!』

 

 同時に地を蹴り、相手へと向けて肉薄した。

 

 ◇

 

 ギルベルトの強みというのは、嫌味な程に総合力が高い面にあるとオレは考えている。

 例えば才能。どのタイミングで剣を振り、どこでフェイントを置き、いつ呼吸していつ剣を戻すか、タイミングを掴み動かす才が卓越している。この感覚を得るために並の剣士がどれだけ修練をしなければならないことか、幼い頃から付け焼刃だろうと剣を振っていたオレにはよく分かる。

 加えて均整の取れた肉体、相手の次手を先読みする炯眼、さらには才能に胡坐をかかない鍛錬量、並大抵のことでは動じない精神力、どれだけの苦難に晒されようと諦めない意志の強さ──他にも他にも、およそ戦闘者が欲しがる要素の全てを備えていると評して良い。要素だけ挙げ連ねればクリスですら勝つことは不可能ではと疑う次元の存在である。

 

 努力出来る天才、そのような褒め言葉すら恥じ入り裸足で逃げ出すしかない男。それこそがギルベルト・ハーヴェスという人物の誇張なき評価であり、たった今オレと剣を打ち合わせている星辰奏者(エスペラント)なのだった。

 極限まで無駄を削いで剣を奔らせ、敵手の呼吸を乱し、歩を詰めて虚を突いて、視線を用いた誘導すら行い……オレの持てる技術を総動員してなお、対応してくるのが空恐ろしく感じられる。

 

「まったく……! 本当に、強い!」

「褒め言葉、恐れ入るよ。ここまでの百十三合、予想通りとはいえすべて凌ぎ切ったのは賞賛に値する」

「そりゃどうも……ッ!」

 

 吐き捨てながら斬り込んだ直刀は事もなげに払われた。甲高い音と共に衝撃が吹きすさぶ。

 その最中に返す刃で追撃されたのをいなして後方に下がると、ここまで激しく斬り結んでいたのが嘘のように状況が膠着した。

 

「分かってはいたけど、マジで隙がないな……」

 

 努めて冷静になるよう意識しながらギルベルトに聞こえないように一人ごちた。息はまだまだ上がっていないが、涼しい顔をしているあちらと比べられればどちらが優勢かは火を見るよりも明らかというものだ。

 戦闘が始まってからおよそ二分、互いに星の力を使わず純粋な身体能力だけで斬り合っていたのだが、その差は歴然も良い所。こちらの剣はギルベルトを捉えることは出来ても次手に繋がらず、さりとて相手の剛剣は的確に隙を突いて動いてくるから守勢に回ってばかりである。攻守の比はオレとギルベルトが四:六といったところであり、散々な押されっぷりと評すほかない。

 

 おそらく基準値(アベレージ)の時点では()()()()()()()はず。これに加えてデモンストレーションという名目も意識してか、今は星の力を用いず単純な身体能力の向上を見せつけるのをメインに戦っている段階だ。

 その上でギルベルトの剣筋にはこれまで同様に一切の隙がない。バランスよく整った総合値は綻びや弱点が一切なく、すべてを合理的に突き詰めるかと思えば一定の余地で遊びすら残している有様。星辰奏者(エスペラント)となって出力の上がった肉体すら難なく乗りこなし、オレが突飛な奇策に訴えかけても抜かりなく対応してくるとなればもはやどうしようもなかった。

 

「さてと、ここからどうするか……」

 

 割と状況は絶望的である。いい加減に能力を用いなければジリ貧で敗北する未来しかない。

 そのようなことを考えてしまうほど、オレが戦友として共に戦ってきた男の実力をこれ以上なく見せつけられてる一方で。

 さりげなく視線を動かしてみれば、どうやら高官たちの方はまったく別の事柄に注意を取られているらしい。

 

「これが星辰奏者(エスペラント)たちによる戦闘か……!」

「ヴァルゼライド少佐、彼らは本当にまだ異能の力を用いてはいないと?」

「ええ、事実です。どちらも未だ星辰光(アステリズム)を解放してはいません。これまでの戦いはまだ前哨戦も良いところでしょう」

「なんと……!」

 

 チラリと会話を盗み聞いてみる限り、偏った戦況や剣の腕よりも()()()()()の方が遥かに注意を引くらしい。

 まあその気持ちも理解出来る。普通は信じられないだろう、ただ剣で斬り合うだけで床に亀裂が走り、壁に(ひび)が入る状況など。訓練場はあたかも台風か巨大怪獣でも通りすぎたかのようになっており、砕け散った破片が散乱している惨状を呈している。それだけの破壊を爆薬も使わず二人の人間が成し遂げたのだから兵器としての強力さなど今や語るまでもないだろう。

 何のトリックもなく、単純に剣が空を切っただけで圧力が発生し衝撃波となるからには、高官たちはとっくの昔にクリスに誘導されて遠くへ避難を済ませていた。下手にその場に留まれば”剣戟”の巻き添えを喰らってしまうのは誰の目にも明白なのだから仕方ない。

 

 この場を満たす驚愕と焦りは分かっているだろうに、やはりギルベルトだけは憎たらしい程に普段と同じ様子だった。

 

「さて、デモンストレーションはここまでだろう。そろそろ勿体ぶらずに星辰光を開帳すべきと考えるが?」

「そんなこと、言われずとも──!」

 

 この状況を打開するには星辰光(アステリズム)の力を解放せねばならないことくらい、ギルベルトにはお見通しであるようだ。おそらくこの状況に到達した時点でオレが星辰光こそ唯一の突破口と考えるのも織り込み済みなはず。

 いいだろう、上等だ。優位を作っている男の言葉に乗るのも癪だが仕方ない。こちらはギルベルトの星辰光(アステリズム)を全く知らない不利こそあるが、どのような能力相手だろうとボロ負けしない汎用性はあると自負している。

 

創生せよ、天に描いた星辰を──我らは煌く流れ星

 

 朗々と詠唱(ランゲージ)を口にしたその途端、ギルベルトもまた己が星の真価を出さんと覚醒を開始した。

 同時に紡がれる言葉はしかし、状況を支配している男のモノだけが道理を超えて大きく聞こえてきてしまう。

 

いざ並べ、死後裁判は開かれた。眠りにまどろむ魂魄ならば、我が法廷に凛と立て。

 公正無私な判決に、賄賂も媚態も通じはしない。宿業見通す炯眼は、清白たる裁きのために重ねた功徳を抉り出す

 

 それは、死者を裁く冥界の判決。

 オレが紡いだ地上(せいじゃ)の祝詞と全く正反対となる、地底(ししゃ)の法則を具現化するものに他ならない。

 

汝、穢れた罪人ならば禊の罰を受けるべし。地獄の責苦にのたうちながら、苦悶の淵へと沈むのだ。

 汝、貴き善人ならば恐れることなど何も無し。敬虔な光の使徒に、万代不易の祝福を

 

 ……なのだがしかし、肌が粟立つ感覚が止まらない。

 謳われしは地獄の判決、いわば閻魔の(のり)に他ならないはずなのに。どうしてこの言葉(ランゲージ)が地上で生きる人間へと向けられたものと感じてしまうのか。あたかも人の生き様を点数で評価し今後を決めるかのような、無機質で不条理な沙汰がどこまでも不吉を連想させてしょうがない。

 

これぞ白夜の審判である。さあ正しき者よ、この聖印を受けるがよい。約束された繁栄を極楽浄土で齎そう

「──ッ、目指すべき鋼の未来(ヒカリ)は、天頂の先にこそ在るのだから──!」

 

 この勢いに押されてはならない、その直感に導かれるようにしてオレ自身の星を一息に紡ぎ上げる。

 これより先は手加減も油断も一切不要。ただでさえ純粋な剣技で劣っている以上、星辰光(アステリズム)まで気圧され負ければ勝機はないのだ。これが”ただの模擬戦闘である”という認識すら捨てなければいけない難敵と改めて理解して、

 

超新星(Metalnova)──楽園を(St.)照らす光輝よ、(stigma)正義たれ(Elysium)ッ!

超新星(Metalnova)──いざ希求せよ(Terra)誓約者、眩き地平(Graviton)を抱くがいい(Tellus)ッ!

 

 自らを最小単位の星と定義する、二人の星辰奏者(エスペラント)の本領がここに発揮された。

 感じる圧力それ自体はオレと同じ程度のもの。おそらくギルベルトの発動値(ドライブ)もこちらとそう変わりはしないだろう。さらには目に見えて大きな変化もない以上、少なくともクリスのような派手な星辰光(アステリズム)でないとも予想できる。

 ではどのような能力を発現させたというのか。近距離型か、遠距離型か、それとも直接的な攻撃力は存在しないのか。星は一人につき固有のものが宿るとなれば、情報がなければまずそこから探らねば話にならない。

 

「悪く思ってくれるなよ、ギルベルト──!」

 

 もはや口調を取り繕うつもりもなく、最初から全力で重力操作(グラビトン)の星を解放した。

 影響させるのはオレでなくギルベルトの方。アイツにかかっている重力そのものに()()し、下向きの矢印を一瞬だけ上向きに、ついで無方向へと()()してみせる。所要時間はほんの数秒足らず、その間に白夜の天才は”空気のある宇宙空間”へと放り出されたのだ。

 どれだけの力があろうと無重力下で踏ん張るのは不可能。能力によってはこの時点で何も出来ずに藻搔くだけで終わるだろう。しかし、まさかギルベルトともあろう男がこの程度で終わるはずもない。油断なく見据えていればああ、やはり──

 

「ふむ、対抗策は幾らか考えつくが……こうするのが最も効率的だろうな」

 

 パチン。

 軽快に指を一つ鳴らした瞬間、空を優雅に泳ぐようにしてギルベルトの身体がこちらへと飛んできたのである。

 なんだそりゃ。思わず毒づきかけたのをグッと堪えた。ギルベルトはまるで身体に推進器(ブースター)でも取り付けているかのように自在に宙を移動しこちらへと突撃してくる。それこそ宇宙でカッコ良く機動するロボットの如く、身体全体を使ってバランスを取りながらどのような手段でか推力を得ているのだ。

 当然ながら種を見破るなど現時点では不可能だ。よって重力の向きをさらに変更、今度は上方向へとするもそれすらギルベルトは対応してくる。下方向へとしっかり勢いを付け加速して、気が付けばオレを剛剣の射程内へと収めていた。

 

「フッ!」

「この……ッ!」

 

 振るわれた一撃を直刀で受け流す。オレの星辰光(アステリズム)はあくまで重力に干渉するものであり、質量にまで影響を及ぼすのは難しい。なので重力の関与しない運動エネルギーを削ぐだとかは難しいのだが、不安定な姿勢から放たれる攻撃ならば培った剣技で跳ね除けられる。

 だからこの一撃自体に脅威など微塵もない。そう考えて二の矢で攻勢に転じようとして、おかしな事態に見舞われた。

 

「……剣が、曲がった!?」

 

 そうとしか表現できない異常事態。ブレない軌跡を描いていた直刀が不意に横へとズレたのだ。そのせいでギルベルトを捉えることが出来ず、それどころか一歩たたらを踏んで交代したところで、今度は()()が爆発した。

 

「な、なんだそりゃ!」

 

 予想もしてなかった意識外からの攻撃、下手な一撃よりも性質が悪い代物だ。

 これに動揺して星辰光の操作を無意識に解いてしまったのか、既にギルベルトは地上へと華麗に着地していた。その顔に焦りや驚きなどは一切なく、故に一連の流れが全て予定通りなのを明確に物語っている。

 

「いやはや、素晴らしい星辰光(アステリズム)だとも。豊かな発想を操縦性と干渉性に長けた能力値で見事に支えている、先達として素直な賛辞を送らせてほしい」

「……そっちはまた、随分と小憎たらしい能力じゃないか。嫌がらせに特化してるようにしか思えないぞ」

「それは済まない、なにぶん凡俗な私ではこのような能力を授かるより他になかったのでね」

「勝手に言ってろ、まったく」

 

 常人ならパニックに陥るだろう無重力を何事もなく突破しといて何を言うのやら。おそらく単純な使い道こそオレの星辰光(ホシ)が上回っているのだろうが、応用性に関していえば同格だろう。これがギルベルトという天才と組み合わさればどうなるのか、想像もつかない脅威となるのは間違いない。

 どうやら初の星辰奏者(エスペラント)同士の戦闘は一筋縄では終わってくれそうにない。その事実を改めて認識し、オレは懐に仕込んでいたもう一つの武器を取り出すのだった──

 




星辰光(アステリズム)に関してですが、諸説ありそうですが私は『基準値(アベレージ)時点でも能力の使用は可能』と解釈しております。主な根拠はヴェンデッタにおいて、ゼファーさんが起きぬけに索敵振(ソナー)を用いていた描写からですね。
なので本作では『基準値(アベレージ)では弱い星辰光になるものの使用自体は可能であり、発動値(ドライブ)に移行して初めて本領を発揮できる』としております。ただし基準値と発動値の中間で能力を用いる、という器用な真似は当然ながら不可能です。それは魔星の領分ですので。

次回はマルガレーテVSギルベルトの続きとなります。感想欄で考察されている『マルガレーテの星辰光の使い道』も、今後の話の中でそれなりの回答は用意する予定です。その上でギルベルトという光の薫陶を受けた者とどう張り合うか、今後もお読みいただければありがたいです。
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