TS転生したら幼馴染が光の奴隷でした   作:生野の猫梅酒

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ラグナロクでぶっちぎり一番人気だろう彼の登場です。


Chapter42 限界突破な後輩/Overdrive

「──で、まんまとリーダーに逃げられちまったって訳か! こりゃ上が不機嫌になるのも当然っちゃ当然ですなぁ」

「うっさい、オレだって気にしてるんだから少しは気遣え」

「そいつは失礼しました、姐御。ま、人間失敗の一つや二つは誰だってあるもんです、これくらいでへこたれてちゃ”あの人”に顔向け出来ないですぜ。ハハハハハ!」

「確かにそうかもな……」

 

 実際その通りすぎて特に反論もせず、隣で豪快に笑う()()から目を逸らした。過ぎてしまった事を悔やんでも仕方ない。大事なのは次に同じ失敗をせず、この経験を活かして打開することだ。これを忘れてはいけないだろう。

 とはいえ、痛いところを突かれたのも事実で。気晴らしばかりに昼食へと手を伸ばしてもぐもぐと咀嚼していると、対面に座るアルが「今回は差し引きゼロに近いし気にするな」と呟いた。

 

「そうなのか?」

「そりゃダインスレイフとかいう、頭のおかしい反帝国傭兵を逃がしちまったのは大きいさ。だけど他の奴らをサクッと無傷で捕まえたのもレーテの星辰光(ちから)があってこそだし、俺もそれとなくアピールはしてる。つーか今回は相手の方が異常だったってのはすぐにお偉いさん方も理解してくれるだろうさ」

「……いや、ホントそうだよな! 無重力状態なのに普通に対抗してきた挙句、身体を改造してたり人質取って爆発させたりあんなのマトモな奴に出来るわけないって!」

「鬱憤溜まってるなぁ」

 

 当たり前だ、とばかりに水の入ったグラスをテーブルに叩きつける。

 こっちは真面目に相手を行動不能にする能力を使っているというのに、あの手この手で脱出されてはかなわない。しかもダインスレイフにいたっては身体改造による後付け武装や手段を選ばぬ外道戦法まで使ってくる始末。これを諦めない不屈の精神で支えているとくれば、手が付けられないにも程があった。あんなのが東部戦線で暴れてるともなれば帝国軍の足踏みも納得しかない。

 

 同時に、思う所もまた一つ。

 

「妥協せずにあらゆる手段を模索して、常に本気で頑張って自分を磨く……なんて言えば聞こえはいいけどさ。関係ない人間まで巻き込みまくって自分の目的しか頭にない、あんな奴をクリスと同じ人種(ヒカリ)だなんてオレは呼びたくないね」

 

 本人の評価はどうあれ、オレが憧れた光は間違いなく誰かの為に頑張ってはいるのだ。なのにそれを穢して踏み躙るような真似をされるのは面白くない。

 ついでに、何故かオレを『憧れの戦乙女(ワルキューレ)』と称していたのも気になるところだ。やはり思い返してもあんな鮮烈な男と出会った覚えはないのだが……こんなオレを憧れと言い切るからには『不死身の英雄(ジークフリード)』が指す人物も一人しかいない。やはり気に食わないところだ。

 

 などと考えていたら、隣の後輩に頭を軽く小突かれた。

 

「そう難しく考えなくてもいいんじゃないかと。気に入らないからぶっ飛ばす、これも一種の処世術だと思いますぜ?」

「ハッ、さすが初対面でクリスに喧嘩売った男は言う事が違うな」

「っと、それを今更持ち出すのは無しでしょうよ」

 

 皮肉半分感心半分にからかってやれば、慌てたようにその後輩──ジェイス・ザ・オーバードライブは手を振って誤魔化した。かつての黒歴史にして帝国軍人となった切っ掛けに関して、話のタネとして弄られると彼は結構弱いのだ。むしろ今も鮮烈に思い出せるエピソードなのだから仕方ないというか。

 元々はジェイス・ランリーグとして荒くれ者な一市民として生きていたのが、驚くべきことに彼はクリスに喧嘩を売るという無謀を通り越した無茶をしでかしたのだ。もちろん呆気なく返り討ちにされてしまい、それで落ちぶれたり逆恨みするならその程度で終わったのだろうが……跳ね返りな彼は”クリスに一発やり返す”というやっぱり驚きの理由で軍へと入り東部戦線へと参戦した。

 

 理由が理由なのでそりゃあジェイスはクリスに反発してたし、オレたちもまたそんな青年が気に食わなかった……という事もなく。むしろ珍しいタイプの相手に好奇心があったし、何よりクリス自身が邪険にしても無かったせいで積極的に絡みに行ってた始末である。

 

『よぉ、今日もクリス殴るために頑張ってるのかー?』

『げっ……ほっといてくれって、アンタらには関係ないだろ』

『そうかそうか、せっかくクリスの耳寄りな情報を持ってきたのになー?』

『マジか!?』

『マジだぞー。その無茶な鍛錬をストップして休憩するなら話してやるけどなー?』

『ちっ、分かったよ……』

 

 なんてやり取りを何度繰り返したものか。クリスへの対抗心で無茶な訓練を続けようとするジェイスを止めたり、たまには付き合ってみたり、からかい混じりに面倒を見ていた。そこには密かにクリスからの頼みがあったのだが、本人がそれを知るのはまた後の話だ。

 といった風に仲良くなりそうでなれない空気がしばらく続き……一つの切っ掛けから荒くれ者の青年は大きく変わった。その出来事については聞き及んでこそいるが、部外者があまり語ることでもないだろう。結果として彼は”誰か”を守ることの大切さを知り、それを体現するクリスへ憧れたと分かれば十分だ。

 以降はこれまでの気まずい空気もなくなり本当の意味で仲良くしてきたのだが、その最中にオレたちは政府中央棟(セントラル)へ帰還することとなり、それ以来の再会となったのが昨日のことだった。

 

 ダインスレイフとの戦闘から数日経ち、厄介な報告などもあらかた終えたところでの再会は良いリフレッシュになった。そのままアルも含めて三人で近況を語り明かし、今はこうしてオレの奢り──実は星辰奏者となってから結構な給金が出ている──で昼飯を食べているという具合である。

 

「だけど今回ばっかりは感謝しときますよ。人の奢りで食う飯は美味しいもんですわ」

「でも良かったのか? ジェイスはともかく俺だって金くらい出すが」

「気にすんな、オレの失態の分の埋め合わせって事にしといてくれ。あとおまえも、食べ過ぎて胃袋が限界突破(オーバードライブ)しないようにな」

「わーってますよ。そこは軍人なんで、自己管理も仕事の内ってやつですよ」

 

 ジト目で睨んでみると、ジェイスは肩を竦めて水を飲んだ。どうやら本当に分水嶺は弁えているらしい。

 

「にしても、ブラウンの姐御が戦ったそいつは今後も色々やらかすって事ですかね。だとしたら放っては置けないわけですが」

「これは勝手な予想だが、しばらくは出てこないだろうぜ。レーテの話を聞くにだいぶ傷……というか損傷を与えたみたいだからな。しばらくは星辰奏者(エスペラント)を警戒して表立って暴れたりしないだろ」

「だけど裏で何をしてるかはまた分からない。本当に、逃がした獲物は大きかったな……」

 

 呟きながらも改めて自分のミスを痛感する。未熟さが胸に刺さって仕方ない。

 もしあの時、ダインスレイフの言葉に惑わされず人質を躊躇なく見捨てる判断を出来ていたならば、結果は違っていたのか。数秒の差が互いの運命を変えたのは間違いない。あるいは奴を捕まえ無力化出来たかもしれなかった。

 

「なんて考えたりもするんだけどさ。実際問題、あの時は何が正解だったんだろうな」

 

 あの時のあらましを簡単に説明して、それでも煮え切れない想いを零してしまうと、男二人は呆れたように顔を見合わせた。

 

「間違いなく()()()()()()()。おまえは別に何も間違っちゃいない、胸を張ればいいだろ」

「俺もロデオン中尉に同感ですね。そこで躊躇いなく斬れたとしても誇れることはなんもないかと思いますぜ」

「……そうか?」

「そうだろ。迷いなく目的に突き進めるヤツはそりゃ強いが、同時に人として大切なモンを忘れちまってる。余計な躊躇や甘さだって時には大切だと俺は思うぜ」

 

 どっかの誰かさんにもそれを分かって欲しいもんだが。

 此処にはいない親友へとそう呟いて水を煽る姿を横目に、今度はジェイスへ問いかける。

 

「ジェイスはどう思うんだよ」

「やっぱ同意見っすわ。軍人なら時には残酷さも必要なんでしょうが、話を聞く限り俺だって少し躊躇いますよ。その上でなお『乗り越えてみせる』と決意したなら軍人としても及第点だと思いますがね」

「どっちに転び過ぎてもダメとなれば、いよいよ難しい問題になっちゃうな」

「葛藤もせず斬れるなら軍人として正しくとも人としてはおかしく見えるし、逆にビビって何もしなけりゃ人として正解でも軍人としちゃ失格だ。だから今回の話で言えば、レーテの悩みと結論は上手くイイとこ取り出来たと思うがな」

 

 アルの言葉はとても優しく納得できるものだったけど。

 それはつまり、斬り捨てる前に嘆いて葛藤をすれば許されるという理屈にも繋がってしまう訳で。その時になって神妙な心持でいれば正しい人間かと言われれば一概にも言い切れない。

 結局こんなのは、深く考えてしまえば堂々巡りで結論なんか出やしない議論だった。

 

「考えすぎれば雁字搦(がんじがら)めだな、どうしたって粗が出る」

 

 だからそれ以上の思考はここで打ち切ろう。結論が出なければそれでも構わない、再びダインスレイフと戦った際に今度こそ完全なる勝利を得れば良いという話。人質を斬る斬らないの話に決着がつかないのなら、そもそも取らせなければ良いだけの事である。

 

「ふー……相談に乗ってもらってスッキリしたよ。ありがとな、愚痴に付き合ってくれて」

「これくらいの相談ならお安いごようさ」

「飯奢ってもらった借りもありますんでね」

「そっか、なら自腹切った甲斐もあったな」

 

 失敗やこうすれば良かったという後悔は一人で抱え込むより誰かに相談するに限る。気分がサッパリすれば次こそはという気持ちになり、新たに頑張れる力ともなる。孤高で頑張り続けられるのは本当に一握りの傑物だけで、オレはそんな傑物(えいゆう)なんかじゃないのだから。

 

 と、少し考え込みがちな思考を遮るように「そういや」とジェイスが明るく言った。

 

「実は気になってたんすけど、無重力状態ってどんな感じなんすかね? 旧暦以前はあの空の先で無重力を体験できたなんて話も聞いてますが」

「お、そいつは俺も気になるな。ふわふわ浮かぶって要はどういう感覚なんだ?」

「なんだよ子供か」

「男の子はいつだってデッカイ子供みたいなもんさ。なぁジェイス?」

「おう、そうですぜ! やった事ない経験は一も二もなく飛び込んでみたい性分なんすよ」

「なるほどなー」

 

 元男の子としては無重力を経験してみたい気持ちも理解できる。少年心があれば誰だって憧れてしまうものだ。

 そうなれば気晴らしに付き合ってみるのも悪くない。星の力を使って少しだけ馬鹿騒ぎ、なんてのも実は密かにやってみたかったりするし。

 

「じゃ、食べ終わったらやってみるか。ただし、昼食がある程度消化されてからだぞ?」

 

 よく分かってないらしくハテナを浮かべる二人を見ながらこっそり嘆息。

 ……虹をまき散らしながら空中浮遊する男たちなんて、死んでもみたくないからな。

 

 ◇

 

 その後は比較的平和な時間がいくらか続き、ジェイス以外の知己とも落ち着いて話し合えたりもしたのだが、最前線に送られた星辰奏者(エスペラント)に暇な時間はそうそう無い。ダインスレイフとの一戦だけで有用性を判断するのはあまりに早計という判断もあり、すぐにでも結果を求めて最前線の戦場へと飛び込んだ。

 もちろん今度はちゃんと戦果を出そうと意気込んでいたし、改めて超人としての驕りや油断もなくして全力で取り組もうと決意していた訳なのだが……ハッキリ言ってオレとアルの星辰光(アステリズム)は戦場とマッチしすぎていた。

 

 今もそうだ。鉄風と血臭の蔓延する戦場において二人の星辰奏者はとんでもない猛威を振るっている。

 

「レーテ、正面左から銃弾来るぞ! 防御頼む!」

「了解、っと!」

 

 部隊を指揮するアルの言葉に合わせて意識を向ければ、果たして遠方から不意打ち気味に機関銃が掃射された。だが銃弾の動きを認識できる今となっては不意打ちにも動じず、冷静に重力の網で銃弾を絡め取っていく。淡々と鉛の雨を処理しながら機関銃本体にも過負荷を掛けて圧壊させ、ついでとばかりに射手も同時に潰して沈黙させた。

 これによってアルが率いる部隊の誰にも被害は出ず、帝国軍は更なる進軍を続けていく。他の部隊と比べて明らかに前に出ているが、包囲しようとする傭兵たちの動きすら食い破らんばかりの奮戦である。 

 

「本当に馬鹿げた強さっすね、星の力とやらは。銃弾を防ぎながら遠距離で敵も銃も戦車も潰すなんざ、常識外れも良い所だ」

「そっちこそ、腰の銃が今じゃ飾りになってるなんて思わなかったぞ。まさか本当に拳だけで奮戦してるなんてな」

「銃を撃つより殴る蹴るの方が性に合うもんでして、ねッ!」

 

 ここ数度の戦闘から相棒はアルではなく、共に前線を駆けるジェイスになっていた。剛腕で敵手の頭を揺さぶり強烈な蹴りで容易くダウンさせるという、まるでクリスを思わせるような近接戦闘のみの戦い方。己が肉体を武器に戦う男は不合理ながらも不条理な強さを誇っており、確実に相手を殺しながら自分は生き残るという無双を実現していた。

 かつての名前(ランリーグ)という名前を捨て、自ら限界突破(オーバードライブ)を名乗り出した男はどうやら伊達じゃないらしい。戦場で磨かれた実力は紛れもなく人間としての限界すら容易く突破してしまいそうな可能性に溢れている。今じゃジェイスに憧れる一兵卒も現れ始めているらしいのも頷ける話だった。

 

「ロデオン大尉の能力もすごいもんですよ。危険な場所が即座に分かるなんざ、兵士なら誰でも欲しい能力だ」

「死線認識能力、だったっけな。ちょうど指揮官気質なアルが持つには出来過ぎた力だよ、少し地味だけど」

 

 星辰奏者となって階級も上がり、現在オレとアルの階級は大尉となっている。この時点でも結構な地位と部下を持つことにもなるのだが、東部への送られ方がマズかったのか最初期は部下なんてほとんどいなかった。それを戦果と生存者数を出すことで地道に認めさせ、今じゃ階級に相応しく数百人規模の部隊となっているのはアルの能力があってこそだ。

 危険地帯が見抜ければ当たり前に死傷者の数は減る。さらにオレという広範囲型の特攻兵器が先んじて危険を潰せばご覧の通り、前に出ながらひたすら先手を打ち続けるという途轍もない戦況になる訳で。

 

「この直近五回の戦闘ひっくるめても死者は三十人足らず……よその指揮官が血涙流してそうだな」

「ま、俺としちゃあ頼れる先輩がいっそう頼れるとなれば嬉しいことですがね」

「ならもっとその期待に応えてやらないとな」

 

 嘯きながらひらすらに星辰光(アステリズム)を駆動させて敵兵を押し潰す。空間に付属するのではなく個人や物を対象に発動させる重力操作(グラビトン)だから、目視した対象にしか使えないのが弱点ではある。しかし強化された五感とアルのサポート、さらにそこら中に敵兵がいる状況下において、この欠点はほとんど意味を成さずに無慈悲な暴力を積み上げた。

 あたかも無双ゲームか何かのように簡単に命を奪っていく所業に、一抹の嫌悪感と()()を覚えそうになるが……これは戦争でオレは軍人だ。自分の意思で戦場に来てる相手に対して余計な感傷は持ち込まない。

 

「星辰奏者になれば俺もそれくらい強くなれるんすかね?」

「さぁな、どうだろう。宿す能力はピンキリらしいから保証は出来ないな」

「そっすか、なら精々期待しときましょうかね!」

 

 戦いながらも雑談を交わす余裕すらある始末。本当に星の恩恵を受けた超人とは圧倒的だ。

 こんな存在が今後も量産されるならば、いずれ戦場はアドラー帝国一強へと変貌するだろう。オレたちの挙げた、あるいは今も挙げている戦果は将来を暗示するには十分すぎる。時にはダインスレイフのように対抗しうる牙を持つ相手もいるが、それだって極希少な存在と言わざるを得ない。

 

 ──だからつまるところ、これは予定調和なのだろう。

 

 大した物語も山場もなくオレたちは戦功を重ね続け、ほんの一年もしない間にアドラーは着実に東への進軍を再開させた。その頃には星辰奏者の数も以前に比べて大きく増え、激戦区たる東部へ着実に投入される事となる。質と数が揃ってしまえばアドラーを止める要素など最早無い。

 そして新西暦1023年、再びオレたちの下に転属命令が出る。どうやら今度の内容を見る限り、今度の功績で十分とされ再び帝都へ戻ることになるらしいが……そうなるといよいよ、アルにはあの話をしておくべきなのだろう。

 

 帝都の地下深くに座し、密かにクリスと同盟を結んでいる鋼の恒星(ほむら)──カグツチについての情報を共有しておく時が来たのだ。




軽く敬語を使うジェイスさんが果たして読者的に大丈夫なのか……

軍の階級とかは正直雰囲気です。
現状だとヴァルゼライド閣下が少佐、おっちゃんとマルガレーテがどちらも大尉ですが、たぶんそこまで気にせずとも大丈夫です。
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