TS転生したら幼馴染が光の奴隷でした   作:生野の猫梅酒

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Chapter44 友との語らい/Aries

 近衛といえばエリート揃いが当たり前、国のトップを守るために厳しい訓練を己に課しながら、いざとなれば主君の盾となることも厭わない──などとまあ、ザックリした印象を近衛に対し抱いていた。だから自分の職務に対して忠実で、しかも多少偉そうにする気持ちも分からなくはない。栄えあるトップから「お前は強くて信用できる人間だ」とお墨付きを貰えばそりゃ嬉しいだろうさ。

 

「エリート……エリートねぇ……」

 

 だからこそ、もう何度目かも分からない溜息が出てしまうのも勘弁して欲しいものである。

 残念だがアドラー帝国の近衛とは、聞かされていた通り本当に名ばかりだったらしい。確かに座学は出来るのだろう、血筋だって上流階級ばかりで、何というか品がある。だが肝心の実力はちっともない。

 帝都は戦火より遠く安全だからと最低限の訓練だけで済ませた結果、近衛兵の地位に甘んじた実戦を知らない兵の群れ。誰かを守るために、(だれか)を殺したことのある人間など皆無だろう。上から目線となってしまうが、そのような印象を近衛部隊(アリエス)へと所属した二日後には抱く羽目になったのだ。

 

誓約者(テルース)殿からすれば、やはりこの近衛部隊(アリエス)の在り方は嘆かわしいものか」

「実が伴ってないのに威張り散らす奴とか嫌いな人間の典型だっての。つーか誓約者(テルース)いうのやめろよ、嫌がらせか?」

 

 そして、早いことに近衛白羊(アリエス)への転属から早数か月後。再びの政府中央棟(セントラル)勤務にすっかり身体が慣れてきた頃だった。

 時間がなくて中々会う機会の無かった東部戦線からの戦友をねめつけてやると、「これは失敬」と爽やかに笑い返してきたのである。

 

「そちらに相応しい呼び名を扱う方が礼儀に則るかと思ったのだがね。これは失礼した、ブラウン中佐殿」

「……ハーヴェス大佐殿におかれましては、皮肉もまたお上手なようで。もう何でもいいよ、勝手にしてくれ」

 

 先日またも階級が上がったらしいので素直に祝ってやろうかと思えば、すっかりその気が失せてしまった。久々に会ったというのに、はぁ、とまた一つ溜息をついてしまう。

 ともあれ、オレとアルが一年ほど東部戦線で頑張ってる間に、ギルベルトはギルベルトなりに改革派として行動していたようだった。息災そうで嬉しいような、何とも言えないような。

 

「さて、旧交を温めたところで本題だが、近衛としての仕事はどうだね? 数か月もあれば見えてくるものは多いと思うが」 

「東部より遥かに楽──なんてのは当然だな。殺し合いが滅多に起こらないだけでも気は休まる」

「これはこれは、人間関係で気苦労してるだろうという私の心配は杞憂だったかな?」

「……なんでもお見通しって訳か。ご明察だよ、身体は休まるけど心は結構きつかったりする」

 

 かなり強引にねじ込まれた代償か、オレがいるとそれだけで近衛部隊(アリエス)の空気がギスギスし出すのがだいぶ堪えるのだ。

 なまじ血統派(むこう)からすれば『下賤な民が恥知らず共(改革派)の力を借りて無理やり栄えある舞台にやってきた』という印象であり、しかも一兵卒としての実力なら文字通り人外と化している始末。目の上のたん瘤なのに力で黙らせることも出来ない、厄介な成り上がり者である。

 そのせいでほとんど全員から敵対的な雰囲気を感じ取るし、隙あらばこちらを蹴落とそうと睨まれている。同じ部隊の同僚たちのはずがちっとも信用できないのは思った以上に負担となった。いくら自分が正しい方だと信じていても、その一念を貫き悪意を跳ね除けるのも疲れるものだ。

 

「少しくらいは良い奴もいるんだけどな。アマツなのに腐敗に靡かず、微力ながらどうにかしようって気概のある人間もいたぞ」

「見どころのある上流階級も居たという訳か、これは重畳。向かい風に負けず己の足で立つことのできる人間ばかりならば、世の中はどれだけ綺麗に進んだものか。不遇の身から足掻く誓約者(テルース)を見習ってほしいものだ」

「現状だとホントに足掻いてるだけだけどな」

現在(いま)に腐らず未来(あした)のために足掻き続ければいずれ成果は出せようさ。そうして諦め膝を屈するにはまだ早いと、気骨ある者に伝えられれば同じ光を仰ぐ人間としてこれ以上ない喜びだろう」

 

 同じ光を仰ぐ人間か、と呟く。クリスを筆頭に諦めないことだけはオレたちも一級品だったからな、そんな姿に感化された人が集えばアドラーもより良い国になるだろうか。簡単に投げ出さず自分の力を磨いていくのは大事なことだとオレも思う。何事も程々に、ではあるけれど。

 

「良いじゃないか、みんなの手本になれるように頑張ろうぜ。そう考えれば近衛白羊(アリエス)での職務もやり甲斐が出るってもんだ」

「……言葉を交わすまでも無かったようだ。私も同感だよ、共に輝く未来(あした)を目指し邁進するとしよう」

 

 などと良い話風に終わらせようとしてきたので、そこに急いで待ったをかける。

 

「──待てよギルベルト。いや、審判者(ラダマンテュス)と呼んだ方がいいか?」

 

 極めて挑戦的に、かつ敢えて二つ名を用いて他人行儀に呼びかける。 

 星辰奏者(エスペラント)の裏事情を知る数少ない人間同士、友人として雑談だけで終わらせるわけにはいかない。手がかりが何処までいっても少ないのだ、手段を選んでいられない。

 

「おや、どうかしたかね?」

「なあ、おまえは最近なにしてるんだ? ()()()()()()()()()があるんだ、教えてくれよ」

 

 この男相手に揺さぶり、策謀を仕掛けるなど以ての外とはいえ……やらねばカグツチに関する情報が一つも手に入らないままだ。故にクリスの他に唯一彼らの野望を知ってるだろう炯眼の──審判者(ラダマンテュス)とあだ名され始めた男へ不遜にも勝負を仕掛ける。

 婉曲な言い回しをしたが白夜の頭脳は即座に本題を見抜いたようだ。向けられる視線の質がスッと変わり、あたかも値踏みでもするかのような冷徹なものへと変化する。

 

「おまえに言っても仕方ないことだが、被験者に選ぶだけ選んで後は知らぬ存ぜぬなんて酷い扱いだと思わないか? 僅かでも奴に関わった者の権利として訊くが──カグツチの目的はどこにある?」

「答える義務はない……と普段なら返すところだが、友誼を結んだ相手に対しすべてを秘匿するのもまた難しいか。ここで私が口を噤んだところで行動を起こすつもりなのだろう?」

「当たり前だ。何ならこの場で殴りつける準備と覚悟もしてきてるぞ」

 

 最初から素直に内部事情を教えてくれるとは期待していない。ならばオレも(クリス)に倣い意志と暴力を携えて目的を叶えよう。褒められた手段じゃないがお行儀よく手段を選んでいられる段階じゃない。

 しかしこちらの物騒な覚悟とは裏腹に、ギルベルトの言動は予想外のものだった。

 

「ならば良いだろう、簡潔な説明程度はしても構わない。余計な敵を増やした挙句、知らぬところ引っ掻き回されるのがもっとも厄介だからな」

「……敵ってなんだよ、随分な言い草じゃないか」

「物の例えさ、しかし我が英雄にとってはあながち外れた表現でもないだろう」

 

 ついて来たまえ、とギルベルトが視線で促してきたので大人しく彼の後ろをついて行く。広大な政府中央棟(セントラル)の中でも人気(ひとけ)の少ない一角に到着して、ようやく男は口を開いた。

 

「君の詳しい事情は知らないが、英雄と神星の両者が盟約を結んだ結果星辰奏者(エスペラント)技術が帝国に齎されたことは承知している。となれば、その最終目的が一体何か、これが一番知りたいことではないかね?」

「開口一番、完璧な推理だな。ああ、オレはカグツチとやらに選ばれた三人目の星辰奏者(エスペラント)だよ。曰く、女性の被験者のデータを欲していたんだとさ」

「ほう、女性のか……私もそれは初めて聞いたが、なるほど、理由もおおよそ察しがつく」

 

 一人で納得したようなギルベルトへとさらに詰め寄る。

 

「その辺りの事情も含めて知ってること洗いざらい吐いてもらうぞ。いい加減に情報量で後塵を拝するのはご免だからな」

「覚悟があり、挑戦する気骨があるなら私に止めるつもりは無いが……敢えて問おう、()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 正論の刃が胸に刺さる。分かっているとも、それが一番の王道であり、誰もが真っ先に思いつくような行動だ。

 正面から本人にぶつからず婉曲に周囲から情報を集めている時点で、覚悟に緩みがある、まだ甘いと言われても何も否定は出来なかった。

 しかしだとしても、オレ達だってわざとこんな回りくどい方法を取っている訳じゃない。

 

「理由を訊ねて素直に答えてくれないから、なんて答えじゃ納得しないよな」

「無論だとも。他ならぬ戦友であり認めている君だからこそ疑うつもりはないが、そうでなければ惰弱の一言で斬り捨てているところだ」

「なら聞くが……互いに正しい理屈を掲げたとき、最終的に自分の意志を押し通せるのはどっちの方だ?」

「より決意(ただしさ)の強い方に相違ない。正しければ勝つ、それがこの世のあるべき姿なのだから」

「間違ってはない、それも一つの真理だ。そしてクリスは誰よりも正しい以上、ぶつかれば必ず最後は力で押し通す羽目になる」

 

 正しいことを正しいときに行って、ただの一度も間違えない。そんな男だからオレはクリスに憧れた。ではそんな正しさの傑物相手に善意を剣に同じ土俵でやり合ったとき、最後は何が残るのか。

 決まっている、互いの正しさを振りかざしての凄惨な殴り合いだ。彼が自らを案じてくれる相手すら切り捨てて前に進めてしまう(ただしさ)の奴隷であることを、オレは誰よりも深く痛感している。かつてはそれでもと意地を張ったし、今でも譲る気はないのだが……本当に相手を想って勝負を挑むことが正しいことなのか?

 

「で、正論同士のぶつかり合いなら力で殴って構わない? 相手の力になるためなら、相手を傷つけてでも認めさせる? 時には必要な衝突(こと)なのは認めるが、普通は誰が聞いたって矛盾だらけの論じゃないか」

「その痛みを糧にしてなお飛翔を遂げるのが英雄というもので、それに憧れた者の取るべき行いではないかね? はて、私と君でここに相違があるとは感じていなかったが」

「無用に傷つかなくて良いならそれが一番だろ。わざわざ好き好んで殴り合いたい馬鹿が何処にいるんだ」

 

 結局のところ、オレは恐れているのだろう。“助けるために助けたい相手と戦う”という矛盾を避けるために、こんなにも迂遠な道を通っている。目的の為に一直線であるクリスや、それに同調しているギルベルトからすれば何故最短を取らないのか疑問にばかり思うはずだ。

 だけど決まっている、これで良い。皆が皆、頑固者である必要はないのだから。相手の筋金入りな信念を理解した上でその力になる、それだけは何年も何十年も前から些かも変わってない。

 

「だからこうして、オレはオレなりの最短を突き進むことにした。さあ理由は話したぞ、政府中央棟(ここ)の地下に眠っている怪物について、おまえの知ってる内容を話してもらおうか」

「……なるほど、ならば良いだろう。ただし私も既にヴァルゼライドに敗北した身だ、故に上位者の意向に従うべきと我が身を戒めている最中でね。君ならば英雄の力になれると信じるからこそ開陳するが、同時に英雄の意思があるから全ては語れない。構わんね?」

「ああ結構だとも、後はせいぜいオレ達でどうにかして、その信頼を裏切らないようにだけしてやるさ」

 

 元よりギルベルト相手に完璧に説得、出し抜くことが叶うとまでは考えていないから、断片的な情報だけでも構わない。これをどう活かし、取っ掛かりとするかはあくまでオレ達の仕事なのだから。何もかもおんぶに抱っこではクリスにもこの男にも顔向けできなくなってしまう。

 

「さて、もったいぶってしまったが君が把握しておらず、私が知っていることなどそれこそ一つしかないのだろう──“聖戦”という言葉について、聞いたことはあるかな?」




次回は明日か明後日くらいに投稿します。
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