TS転生したら幼馴染が光の奴隷でした   作:生野の猫梅酒

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Chapter8  諍い果てての契り/New Comer

 不良グループ二つとオレたちを巻き込んだ大乱闘は、結局原因となったグループが和解することで事なきを得た。

 

 意外かもしれないが、クリスという圧倒的な相手を前に一致団結して臨んだのが大きいのだろう。奇妙な、けれど強固な仲間意識を芽生えさせた彼らは()()()()()()合併することにし、十九人というさらに大きな規模のグループとなって存続していくことになる。

 彼らはスラムを根城にする悪童たちであり、決してその存在は褒められないことだろう。それでも生きていくためには徒党を組まなきゃ仕方ないのは事実だし、オレもそれは否定できない。だからせめて、どれだけ難しかろうと彼らがちょっとしたヤンチャ程度の犯罪で留まってくれることを祈るばかりだ。

 彼らの顛末についてはこんなところだろう。綺麗ごとかもしれないが少しでも正しく生きていける事を祈っているし、僅かに交わった道はもう二度と交わることもないはずだ。その先についてオレたちが関与できることは一つもない。

 

 その代わりといっては何だが、こちらもこちらであの後は大変だった。

 まず思い出すのは、大乱闘の後で全員が倒れ伏した後でクリスとした会話だ。喧嘩別れした直後に友達面して乱入してきたんだから、その気まずさといえばなかったものである──

 

 ◇

 

「……まったく、お前という奴は」

 

 オレとクリスで二人して座り込んで身体を休める。スラムの路地裏に吹いた風が喧騒の熱を吹き飛ばし、火照った身体に心地よく感じられた。

 その中で、友人はやはり呆れたような呟きを漏らしながらオレへと向き直ってきた。

 

「あのようなことを言っておきながら、まさか加勢に来るとはな。はっきり言えば意外だった」

「……悪かったよ、あの時はついカッとなった。冷静になってみれば、とんだ馬鹿言ったなってアホらしくなったさ」

 

 苦笑しながら頰を掻く。あの時は本当に、我がことながら完全に冷静さを失っていた。落ち着いて考えてみれば短絡的にも程がある絶交宣言である、まるで子供だと笑ってしまうくらいだ。

 けれど結局オレはこの道を選んでしまった。確かに全部クリスに任せていれば、きっといつものねぐらで傷つくことなくゴロゴロしたりも出来たのだろう。こんなにも全身を怪我で痛めさせる必要はなかったはず。

 

 だが、それでも──この傷こそオレには何より誇らしい勲章だった。

 

「で、どうよ? オレだって少しはやるだろ? 確かにオレはクリスに比べりゃ馬鹿みたく弱っちいさ。二十人も相手取って勝っちまったお前に対して、オレは一人と相打ちが精いっぱいだ」

 

 少なくとも今はこれが限界だった。たった一人に対して全力を出して、それでもこの結果がオレの限度だ。

 性別とか体格とか、言い訳しようと思えばきっとそこそこ要因はあるだろう。それは分かっているが、けれどクリスの前でそんな惰弱を吐く気は一つもない。そんなことをしてもただの現実逃避でしかないのだから。

 だから認めよう、オレはまだまだ弱いと。まずは現実としっかり向き合って事実をあるがままに認める。その上で目を逸らさずにどう努力をしていくのか、これこそが最も大切なことだと思うから。

 

「それでも、ちょっとはお前の力になれたと思う。だってほら、オレたちは友達だろう? なら助け合いなんて当たり前のことじゃないか」

「助け合い、か……」

 

 まるで初めてそんな言葉を知ったと言わんばかりの表情で、クリスがしみじみと反芻した。その意味を推し量るように難しい顔をして黙り込む。

 本当なら、例えクリスであろうと決して理解しがたい話ではないのだ。これまでだって互いに知識を持ち寄ったり、助け合ったりして生きてきた。そういう意味で彼が真から協力の重要性を理解できてないとは思わない。

 けれど今回の一件で知ったように、いざという時の彼は協力関係も何もかもを振り切って一人で突き進んでしまうのだ。最終的にはたった一人の力だけで、精神力を武器にあらゆる無理無茶無謀を真顔で踏み越え乗り越える。そこに”誰かの力をアテにする”という人として当然の感情は微塵も存在しない。

 

 ──そんな凄くて雄々(かな)しい男だから、オレは心から協力したいと願うのだ。

 

「オレはクリスの友達だから力になりたい。まだまだ弱くてどうしようもないけどさ、お前と並び立てる立派な奴になりたいんだ。ダメ……かな?」

「いいや、そのようなことはない。それはむしろ人として最も誇らしい姿の一つだろう。俺のような破綻者には絶対に不可能な在り方だ、素直に尊敬すら覚える」

 

 だが、と静謐に言葉は続く。

 

「お前も俺というどうしようもない男の本質を知ったはずだ。つまるところ、本心から人を信じられない塵屑が俺のことなのだろう。例え友であろうと目指すべき未来への障害になるなら躊躇なく切り捨ててしまうし、自覚があっても止められん」

 

 今回でいえばオレを共に連れていけば負ける可能性があったし、それではクリスの目指す”勝利”からは遠ざかってしまう。よって躊躇なくオレを置いて一人で進む決断を下して、事実ほぼその通りになりかけた。

 正しいことは痛いことで、その痛いことを迷いなく実行できてしまう天然の英雄(バケモノ)。オブラートに包むことなく言うならきっとこれだろう。確かに本人の申告通りに破綻しているかもしれない。

 

「こんな俺を今も友だと言ってくれるお前には頭が上がらない、感謝すらしているとも。だからこそ、もう俺のような人間とは関わるな。関わればいずれ訪れる未来で、俺はお前を──」

「なら敢えて言ってやるよ。()()()()()()()?」

 

 続くクリスの言葉を一刀両断して、オレはハッキリと告げてやった。その程度がいったいどうした、と。

 彼にしては珍しい驚いたような困惑の表情が表に出た。いつもの鉄面皮をちょっとでも揺らがせたことに微かな達成感も覚えつつ、さらに続けて抱いた決意を此処に表明していく。

 

「オレが弱くて邪魔ならもっと強くなればいいだけで、信じられないなら信じられるような人間になればいいだけだろう。それでもオレがクリスの道の邪魔になって、対立することがあれば──その時はまあ有用性とかを説得してみたり、戦って証明したり、色々とやってみるさ。その意義はきっとたくさんあると信じてる」

「……そこまでしてお前は、レーテは、俺のような人間の友で居たいと言うのか? お前にとってみれば辛く苦しい道のりしかないはずだというのに」

「なんだよ、悪いか? こんな凄い奴と友達やりたいって言うんだから、それくらい覚悟しなきゃしょうがないだろ。これがオレにとっての誓約だよ」

 

 こんな事を本人の目の前で宣言するのはやっぱり照れ臭い話だが、これがオレにとっての偽らざる本音であり誓約なのだ。破綻していたとしてもその在り方にはどうしようもなく憧れるし、格好良いと思う心に嘘は微塵も存在しない。

 

「それで、改めて聞くがどうだったよ? オレだって少しはやれるって示せたはずだと思うけど」

「そうだな──見事な戦いぶりだったとも。今回の件に関しては俺の方が節穴だったらしい、その非礼を詫びよう」

 

 真摯に頭を下げたクリスの姿を見て、ようやくオレも肩の荷が下りた思いだ。

 やっとここまで来れた、その感慨に胸が溢れてしょうがない。

 

「しかし、どうか忘れないでくれ。俺の本質は狂おしい程に悪が許せず、その為ならどのような困難にも足を止められない男だ。先ほども言ったがこれから先で──」

「決定的な破綻があるかもしれない、だろ? 何度も言わせんな、分かってるよそんなこと。そうなったらそうなったで手を尽くすさ。決意を宿した心があればどんな艱難辛苦も乗り越えられる、他ならぬクリスから教わったからな」

 

 未来を目指して脇目も振らずひた走る、そんな在り方をオレは知ることができたのだ。ならば後は心の強さと尺度の問題であり、輝く決意を胸に秘めれば道は必ず拓けるのだと信じている。

 光は光でどうしようもなく素晴らしいのだ。その意味を噛み締めながら、オレは痛む手のひらをクリスへと差し出した。

 

「じゃあさ、ここらでしっかり仲直りでもしとこうと思うんだ。まあほとんどオレの方が一方的に喚いただけなのが恥ずかしいけれど……」

 

 どうかな? なんて躊躇いがちに伸ばした右手を、クリスの無骨な手のひらが握ってくれた。無言のままに行われた握手ではあるけれど、万の言葉よりも雄弁に互いの気持ちを伝えてくれる。これでやっと仲直り、今までよりもなお強固な友情の結びつきが出来たのだった。

 

 ◇

 

 そのような経緯(いきさつ)があり、たった一日にも満たない決裂は無事に元の鞘へと戻ってくれた。これでほっと一安心である。

 むしろそのおかげで更に互いの本音や本質をさらけ出せたとも言えるし、雨降って地固まるというのはこういう事だろうか。友人と喧嘩なんてしても悲しくなるばかりだが、こうしてぶつかり合うのもまた重要なことだと思えたし良しとしよう。

 

 加えて、良いことはさらにもう一つある。クリスが壊滅させた二つのグループは合併を果たした訳だが、その中でただ一人だけそこから抜け出た者がいた。不良少年たちから惜しまれつつもこちら側にやって来た彼こそ、クリスとオレに喧嘩を売ってきた張本人だ。すなわち──

 

「どうしたんだ()()()、そんなとこでボケっとして」

「別に何でもねぇよ、()()。ちょっと黄昏てただけだ」

 

 いつもの廃ビルのねぐらから外を眺めてたオレに声をかけてきたのは、クリーム色の髪が特徴的な男子だ。もっといえば、ついしばらく前に殴り合いをした相手でもある。

 そう、かつて不良少年たちの長を張っていたアルバート・ロデオンが、オレたちの新たな友人となったのだ。

 

 話は今からおよそ二週間前に遡る。あの大乱闘の直後、オレとクリスはいつものねぐらに戻って休息を取っていたのだが、次の日そこに唐突に現れたのがロデオンだった。いきなりやって来たから何事かと思って驚いたが、彼はさらに驚くようなことを恥ずかしそうに告げたのだ。

 

 ──もしそっちさえ良ければ、俺と友人になってくれないか?

 

 まさかそんな事を言われるとは思わなかったし、わざわざリーダーをしていたグループから抜けてまでオレたちの所に来るとは信じられなかった。だから驚いたまま理由を問えば、彼は正直にその本心を明かしてくれたのだ。

 

「今まで俺は真面目に生きることを諦めてた。こんな掃き溜めで真っ当に生きるなんて絶対に不可能で、だから何をしてでも生きていこうと考えてた」

「なら、やっぱり向こうのグループに居た方が良かったんじゃないのか? オレたちはたった二人だけ、生きやすいかどうかで言えばそんなことは無いと思うけど」

「言ったろ、()()()()諦めてたって」

 

 きっぱりと言い切るロデオンはいっそ清々しい笑みを浮かべてすらいた。本当に彼の中で何かが変わったというか、あのぎらついた瞳をしていた少年と同一人物とは思えないような変貌ぶりである。

 そのせいで自分たちも彼の言葉を疑うつもりは微塵も起きなかった。真摯に語られる言葉に耳を傾けて、その本心を聴く姿勢になっている。

 

「自分でもなんでお前たちに喧嘩を売ったのか、本心ではよく分かってなかったが……昨日やっと理解できた。俺はたぶん、お前たちが羨ましかったんだ。そんな風に正直に生きられるお前たちが妬ましくて、羨ましくて、凄くて……子供みたく意地になっちまってた」

 

 だから、と彼は吹っ切れたように笑ってみせた。

 

「今なら素直になれる。お前たちみたいな凄い奴と友達になってみたいんだ。勝手に巻き込んでおいて都合のいい言い分だって自覚はあるが……ダメだろうか?」

「いいや、オレは全然ダメじゃないな」

 

 自信なさげに付けたされた言葉に思わずこちらまで笑みが浮かんだ。昨日とはまるっきり違う姿と、なんだかんだで誠実な態度にすっかり絆されてしまっている。

 本当の意味で暴力には頼らなかったりだとか、律儀にも朝っぱらに一人でやって来てみたりだとか、根っこから屑かと言えばそれは違うだろうと感じていたが……こうして本心を聞いてみれば全て納得できる事だった。

 

「アレだよアレ、喧嘩したから仲良くなるなんてよくあることだろ。いつまでもウジウジ言う気はないし、こうして素直な本心をくれたならそれに応えたいと思うんだ。クリスはどう思う?」

「そうだな……喧嘩をして、乗り越えた後で芽生える友情(こころ)もあるというのは俺もよく学んだ。むしろお前の気概は人として喜ぶべきことだろう。因縁はあるが、それをいつまでも気にする小心者になったつもりもないさ」

「なら……!」

 

 一転して嬉しそうな顔となったロデオンに対して、オレとクリスはしっかりと頷いた。

 

「新しい友人を歓迎しようじゃないか、盛大にな!」

「……あまり羽目を外しすぎるのもどうかとは思うがな」

 

 ──なんてやり取りがあって、晴れてアルバート・ロデオンがオレたちの友人として迎え入れられたのである。

 

「黄昏てたってなんだよ、お前はそんな殊勝な女じゃねぇだろうよ。せめて口調変えてから出直せっての」

「うっせぇ、オレだってたまにはこう、物思いに耽ってたい時もあるんだっての」

 

 軽口を叩き合いながら窓の外から視線を外した。スラムの退廃的な建物へしとしと降りしきる雨を眺めているのは好きだが、あまりそればかり見ていても心が寂しくなってしょうがない。人間もっと光がある方が心に余裕も出来るだろう、うん。

 新しい友人が増えてから、オレが寝床にしてる廃ビルはさらに賑やかになってきた。基本的に三人で一緒に暮らして、どうにか金を稼いでは食いつなぎ、そして余裕が出来れば鍛錬したり勉強したり。ライフワークは何も変わらないが、一人増えただけでも楽しさは段違いである。

 

 いつの間にか新しい友人のこともロデオンなんて他人行儀な呼び名からアルという愛称になり始め、彼のほうもまたオレのことをクリスと同じくレーテと呼ぶようになっていた。やっぱり根は悪い奴じゃなかったおかげで打ち解けるのも随分と早かったのだ。

 

「つーか忘れてた、この言葉の意味教えてくれよ? 政治関連の話になると話題が小難しくっていけねぇや。こりゃどういう意味だ?」

「あー、そいつは忖度って読むんだわ。意味はっと──」

 

 こうやってオレが買ってきたニュースペーパー相手に悪戦苦闘しながら読んでるアルの姿は大変そうだが、一方で充実感も感じているのだろう。お前らみたく真っすぐ生きてみたい、そんな事を言ってただけに必死で文字を追いかける姿もどこか楽しそうだ。

 そしてクリスの方はといえば、隅の方で相も変わらず刀剣の素振りを続けていた。さっきまではオレも一緒になってやっていたのだが、さすがに腕が疲れたので休憩中である。普段から限界突破なんてしてたら、簡単に身体が壊れてしまうので是非も無い。

 

「はぁー、こんな覚えることだらけでよくやれるなおい。やっぱ努力って辛いなぁ」

「んな泣き言漏らしていいのか? クリスなら出来たぞ? なら頑張んなきゃな!」

「分かってるっての! まったく鬼教官だなお前は……」

 

 ともあれ、今この瞬間が紛れもなく幸福で楽しいのは事実だった。まだまだスラムという辛い環境を抜け出せてはいないが、その代わり友との出会いに恵まれているのは間違いない。肉体的には満たされずとも、心の方では間違いなく満たされているのだ。

 オレも立ち止まってはいられない。休憩も終わったし、アルの質問に答え次第また素振りの練習に戻るとしよう。一秒でも早く振りぬいて、握り続けられるようにする。そんな単純なことからでいいから、ひたすら継続して努力を続けるのだ。

 

 ──光の頑固者に追いつくためには、やっぱり自分も頑固者にならなきゃ仕方ないのだから。




スラム編はあと二話くらいで終わる予定です。その後はアドラー帝国軍に入隊、東部戦線編に移行します。皆さん大好きなあのキャラやあのキャラもいよいよ登場が秒読みです。

……なんですけど、ちょっと今週と来週は忙しくなりそうなので次の更新はこれまでよりは遅くなりそうです。あとそろそろ匿名投稿してても活動報告や挿絵が使えないのは不便だと感じたので、匿名を解除しておきました。
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