時止めメイドと黒い玉 作:ばるばろさ
「咲夜! フランが逃げたわ! 捕まえて!」
そう言われた時私は皆の洗濯物を干し終え、昼食を作りに厨房へ向かっている最中だった。妖精メイドが役に立たないため、こうしてメイド長である私自らが紅魔館の家事、雑用を全てこなさなくてはならない。だから、フランドール様—お嬢様の妹である—を捕まえるのも、私の仕事なのである。
廊下の向こうから走ってくるお嬢様とフランドール様。フランドール様はお嬢様に長い間地下に幽閉されており、気がふれているという話だが、お嬢様に追いかけられて無邪気に笑っているのをみると、ひょっとして気がふれている偏執狂はお嬢様ではないかと思う。
「ぎゅっとして……」
おっと。前言撤回。フランドール様は前に立ちふさがる私を破壊なさるつもりだったらしい。すかさず時を止めててくてくと歩き、フランドール様の背後に回り込む。お嬢様を見ると、時の止まったままスピア・ザ・グングニルを構えている。まさか実の妹に投げつけるつもりだったのだろうか。とんでもない人でなしである。……元々人間ではないが。
「そして時は動き出す」
私はフランドール様を捕まえると、懐から取り出した麻酔薬をいつもの手順で注射しようとフランドール様の腕に手を伸ばす。
どす。
え?
私の胸にはグングニルが生えていた。ぎぎぎ、と音を立てそうなぎこちなさで振り返ると、お嬢様はてへぺろ、とでも言いたげな表情で、
「咲夜、ごめん。刺さっちゃった」
「刺さっちゃったじゃないですよ! これどうしてくれるんですか」
恐らくもともとフランドール様に投げる予定だったものが、時を止めて回り込んだ私に当たったのだろう。しかしもう少し気を付けてくれればこんなことには……。
あ、駄目だ、気が遠くなってきた。これは死んだな……。
「………というわけでここに来たわけです」
「そりゃあー災難だったわねー」
死んだ当人の目の前でけらけらと笑っているのは冥界の管理者、西行寺幽々子である。私はお嬢様の必死の手当(私が意識を失った後、傷口に絆創膏を貼ったらしい)の甲斐なく死亡した。幽々子は死者と接するのに慣れているせいか、特に私に同情はせず、笑い転げている。
人が死んだというのに、この無神経さときたら……と少し苛立ちを覚えたが、私は感情を抑えて訊く。
「で、私はあの世行きですよね。あとどれくらいでここを離れられるんですか?」
「そうねー、あと数日よー。でも、流石に可哀そうだし、チャンスをあげましょうか」
「チャンス?」
私が聞き返すと、幽々子は頷いて、
「ちょっと害虫駆除の仕事の依頼が〝外〟から来ててね……誰か死人が出たら向こうに送り出そうと思ってたのよー。もしやってくれるなら生き返らせてあげるけど」
「あのー、外とか害虫駆除とか、なんの話です?」
「ああ、そりゃもちろん幻想郷の外よ。そこで戦ってもらえれば、生き返らせてあげるってわけ。どう?」
「……まあこのままあの世に行くよりはましですね」
「でしょう? 詳しい説明は多分向こうであると思うけど、今から行く?」
「そうしてください」
「よし、じゃあ行くわよ……」
とたんに視界が暗転し、私の意識はそこでぷっつりと途絶えた。
数年前はまさか自分がクロスオーバー書くとは思わなかったなあ……しかもガンツと東方で。
何番煎じだろうと思いながらも、やっぱり書いてみたいと思って執筆した次第です。