時止めメイドと黒い玉 作:ばるばろさ
結果から言うと、大仏の攻撃は1人を除いて、全員が回避することができた。直撃したのは両手に銃を抱えた太っちょの男で、大仏の拳に彼の服が血と一緒にこびりついていたのでそれだとわかった。犠牲は1人ですんだものの、その過程で生み出された衝撃はメンバーを逃さずに吹き飛ばした。
私は刀を地面に突き刺すと、飛ばされないようそれを両手でしっかりと握り、他のメンバーがどうなっているかを確認する。
玄野はとっさに拳を地面にめり込ませ、私と同じように吹き飛ばされないようにしていたらしいが、他のメンバーはあらかた後方にいた。
「咲夜……こいつは、俺がやる。見ててくれ」
「しかし……先ほどの星人よりもはるかに大きいですし、1人で倒すのは無理では?」
「さっき思い付いた、作戦があるんだ」
玄野はそう言うと、走って大仏から離れていく。彼が何をするつもりなのかは分からないが、とりあえず私も1人では倒すことは難しそうなので、一旦隠れる方がいいかもしれない。
見上げると、大仏が足を上げ、今度は踏みつぶそうとしていた。
時間を止め、その足が着地するであろう危険区域から脱出すると、レーダーを取り出してステルスモードを起動する。
もしもこの大仏がステルスを見破ることができるのなら攻撃は続くだろうと思って、透明化した後も身構えていた。しかし大仏はゆっくりと顔を加藤たちの方に向け、走り出した。どうやら大仏は私を見失ったようで、怒りの矛先を後方にいる加藤たちに向けたようである。
「く、来るぞ!」
加藤が銃を構え、全員がそれにならい、絶望的に火力の足りないXガンで地響きをたてながら向かってくる大仏の足元を照準する。皆が次々に引き金を引くが、大仏の足は表面が弾けるばかりで、大したダメージになっていない。
「ダメだ!逃げよう!」
宮藤が叫ぶが、大仏はもはやそれがかなわないほどの距離に迫っていた。
「うおおおおおっ!」
その時、叫びながら加藤たちの前におどりでた人影があった。遠目に玄野だ、と気づいたのは彼が先ほど死んだ男を除けば唯一、2つの銃を所持していたからであるが。
玄野は大仏に向かって走り、彼我の距離数十メートルというところで、跳躍した。
そして空中で大仏の頭に向けて数発銃を撃ったと思うと、彼の姿はこつぜんと消えてしまった。
ステルスかと思ったが、彼はレーダーを持っていなかったし、あの混乱の中で誰かに借りたとも思えない。首をかしげていると、突然大仏の様子がおかしくなった。
両手で顔を押さえ、身をよじらせている。まるで頭痛の時に額を押さえていたが、やがてよろめいたかと思うと、バランスを崩し、ゆっくりと倒れる。
「……死んだのか?」
駆け寄った加藤が呟くと、大仏の口を押し上げ、玄野が出てきた。私が浴びた反り血とは比べ物にならないほど大量の血で濡れており、岸本が少し怖じ気づいたように下がった。
「額のとこから入ッて……頭ん中で撃ちまくってやったんだ」
すると、桜岡が進み出て、玄野と抱擁を交わした。
「絶対……生き残って一緒に帰るからね」
「ああ。俺は絶対死なねえ」
いつの間に彼女と玄野はこれほど親しくなったのだろうか。おそらく最初に2人で部屋の外に出ていったときに何かがあったのだろうが、玄野が何をしていようと私には関係ない。捨て置くことにした。
加藤もしばらく驚いたように2人を見ていたが、少しして転送されないことに気付き、私に訊いてくる。
「そういえば、もう1体は…まだなのか?」
「……はい。反応はまだ残っていますね」
レーダーの表示では、寺院内の光点が未だに消えずに残っていた。
「苦戦してるんじゃないか。俺たちも行こうぜ」
玄野が加藤に言った時、寺院の方から北条とサダコについていった2人の男が走ってきた。
「やべえ! まだ、こっちに強い奴らが残ってる! 男前の兄ちゃんと気持ち悪い女が戦ってる!」
加藤はそれを聞いて、すぐに助けることを決断したようだった。
「2人を助けにいくぞ! 計ちゃんと咲夜さんも来てくれ!」
私たちは加藤の指示に従い、これからスーツを着るという男たちと別れると、寺へ向かって走り出した。
「仏像は何体いるんだっけ?」
「さあ……ひょっとしたら数が多いかもしれませんね。北条さんたちもそれで苦戦してるのかも」
「関係ねーよ。ヤバかったら俺が何とかする」
玄野は未だに大仏を倒した興奮が冷めないようで、獰猛な笑みを浮かべる。自信があるのはいいことだが、それが過信となるとき、往々にして人間は失敗する。彼がその1例に加えられることがなければいいのだが…と思っているうちに、問題の場所までたどり着いた。
「……あそこだ」
加藤の指差す先にはお堂があり、 扉は閉まっていた。そこで私は、直感的に何か嫌なものが潜んでいるような気がして、眉をしかめた。
強敵というのなら、北条とサダコには逃げるという選択肢もあったはずである。扉は開いていないので、まだ彼らはこのお堂の中にいるのだろう。……だが、中からはことりとも音がしない。壁が厚いからと言えばそれまでだが、辺りがしんと静まり返っているのが、かえって不気味に感じる。
皆がそのお堂の入り口に集まったのを確認すると、加藤は黙って、ゆっくりと押し開けた。
最初に眼に入ってきたのは、正面に座る千手観音。何本もの手に剣や壺など、様々な武器を持っている。そしてそこから目線を下げると、そこには人の死体と言うにはあまりにも小さすぎるそれが、重なって落ちていた。
「きゃあああ!」
岸本は、キスをしている北条とサダコの上半身を見て、悲鳴を上げた。彼らの下半身は影も形も見当たらず、ただただ彼らが死んだという事実だけを、そこに残していた。
「おおおおおおっ!」
加藤は泣きながら、激昂した。玄野よりも、私よりもはやく捕獲用の銃を構え、突っ込んでいく。
そして引き金を引こうとしたその瞬間、死角になっていた側面から現れた仏像が、加藤の銃を弾き飛ばす。
「くっ………!」
加藤は横の仏像を力任せに振り払うと、腰につけていたXガンを引き抜く。そして、目の前の千手観音に向かって連射した。
次の瞬間、千手観音の顔面が飛び散った。しかし、加藤が銃を下ろそうとした瞬間、飛び散った肉片が、まるで映像を逆再生したかのように千手観音の頭部のあった部分に集まる。そして数秒もしないうちに元通りになってしまった。
「!?」
驚愕する加藤に向かって、千手観音は持っていた一升瓶から透明な液体を迸らせた。
刹那、岸本が走り、加藤の前に身をさらし、背中から液体をかぶる。
じゅっ、という静かな、それでいてとてつもなく嫌な予感を孕んだ音が、お堂の中に響いた。
ごとり。
岸本の下半身だけが、倒れた。あの液体はスーツを、そしてこの中身までも溶かしてしまったらしい。北条とサダコも、おそらくこの液体を体にかけられて、肉体が溶解させられたのだろう。加藤はそんな武器を持つ相手の前で、無防備に腕の中の岸本を見て、何も言わず、しっかりと抱きすくめていた。
「うわああああっ!」
玄野は叫ぶと、床を蹴って加藤を飛び越え、そのまま千手観音に膝蹴りをくわえる。
その勢いで後方に倒れる千手観音を足で押さえると、玄野は両手の銃でひたすら千手観音を撃ち続けた。
「死ねええええっ!」
肉が、血が、脳漿が舞い、千手観音の頭が完全に吹き飛ぶ。しかしその直後、飛び散った肉片が集まり、全くの無傷の状態まで回復する。
「ううっ!」
そしてどういうわけか、玄野の足が消え始める。玄野がなおも銃を向けようとすると、千手観音の持っていた剣が閃いた。
腕が斬り飛ばされ、玄野は数歩後ずさると、仰向けに倒れる。
「いやっ!」
それを見た桜岡が駆け寄ろうとするのを、私は手で制した。
「桜岡さん……私があの千手観音を先に引きつけておくので、その後に玄野さんをどこかに避難させてください」
桜岡が頷いたのを確認すると、私はXガンで千手観音を撃ちながら近づく。分かっている敵の攻撃は体を溶かす液体、持っている剣による斬撃と玄野の足をじわじわと消していく謎の攻撃である。ひょっとするとまだこちらに見せていない奥の手があるかもしれないので迂闊には近づけないが、おおかた再生能力の正体は見当がついた。
おそらく千手観音は時間を巻き戻すことで体を再生している。普通時間の逆行には時間を加速させたり止めるのとは比べ物にならないエネルギーが要るが、その効果範囲を自分の体のみとすることで不死身を実現したのだろう。
したがって、この攻撃は全くの無意味であるが、頭を撃ち続けることで頭部を常に再生状態にさせておけば攻撃は来ない。要するに玄野たちが撤退するための時間稼ぎである。
(…でも、いつまでもつかしら)
田中星人との戦闘から銃の練習はしたが、それでもこの緊張下で的に当て続けることは私にはできない。しかも、相手が不死身であれば、こちらがいくら時を止めて攻撃しても殺すことは不可能だ。こんな敵をどう倒せばよいのか─
1人残された私の周りには、千手観音だけでなく、4体の仏像が集まりはじめていた。千手観音だけでなくこの周りにいる敵も外にいた仏像よりも強いらしい。初めて、私の心の中に焦りが生まれる。
玄野はもう避難したのだろうか、と後ろを見ると、ちょうど桜岡が抱えて脱出したところだった。
とりあえず私もここから出るために、時間を止め、仏像たちの間をすり抜け、お堂の外に脱出する。
私はお堂で私が突然いなくなったことに戸惑っているらしい仏像たちを見ながら、刀を伸ばしていく。
普通の刀の長さを超え、何十メートルはあろうかという長さに達したところで、仏像たちはこちらに気がついたようだった。
「えーと、奥行きがこれだけあるから……これでちょうどいいわね」
私はスーツを着た状態でも重みを感じるほどの長さに達した刀を振った。
その一撃は千手観音をふくめた軌道上にある仏像たちをまっぷたつにしながら、お堂そのものを崩壊させた。
完全に押しつぶれ、残骸となったお堂を見ながら、私は刀を元の長さに戻し、構えた。あの千手観音がこんな建物の崩壊に巻き込まれて死ぬはずがない。絶対に、起き上がってくる。
直後、大きな木片が動き、下からのそりと千手観音が現れた。全くの無傷で、狼狽した様子もなかった。
「………嫌になるわね」
呟くと、千手観音も私を認識したようで、不気味な
皆のトラウマ、千手観音登場です。相手のギミックを見抜けなければ勝てないという点ではぬらりひょん並みの難易度ですね。Yガン、Zガンで一発という意見もありますが、このミッションでYガン持ってるの加藤と西(?)だけなんだよなあ……。