時止めメイドと黒い玉   作:ばるばろさ

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14、死の階段を踏みしめて

 

私たちは、じっと月明かりに照らされた千手観音を見つめ、油断せず銃を構えていた。すると千手観音は少し苛立った声で、

 

「おい、だから俺だって言ってんじゃねーか。銃を下ろしてくれ」

 

「本当に……西なのか?」

 

「ああ……こいつはどうも、俺たちと会話してみたかったらしい。俺の脳みそを食って、俺の言語と記憶を手に入れた、とこういうわけだ」

 

「会話………?」

 

加藤が聞くと、千手観音は頷き、答える。

 

「千手観音は、俺にこう聞いてきた。『君たちは何なんだ? 誰に頼まれたんだ? 僕たちは何も悪いことをしていないのに、とうとう僕1人になってしまった』ってな」

 

「それは……」

 

加藤は口ごもった。答えられるはずがない。私たちもまた、わけの分からないまま戦っているのだから。皆が黙っていると、再び千手観音ーいや、西が口を開いた。

 

「まあ、俺の記憶を手に入れたから、俺たち自身が何も知らずにこいつらと戦っていたということも知ったらしい。だからもう、千手観音はお前らが攻撃しない限り、戦うつもりは無いんだそうだ。お前らも殺されたくないだろうし、今回のミッションをやめることを考えてみろよ」

 

「ミッションを……やめる?」

 

「言ってなかったが、制限時間を過ぎれば俺たちはあの部屋に戻ることができる。頭がぶっ飛んで死ぬみたいな即死のペナルティは無い」

 

「じゃあ……俺たちは殺しあわなくても、いいのか? ……お前を、信じてもいいのか?」

 

「殺そうと思えばこのレーザーでやればいいだけの話だしな。信じていいぜ」

 

私と桜岡は、加藤を見た。私もまともに千手観音と戦いたくないし、その案に乗ってもいいかと思う。……相手が西でなければ、の話だが。

 

「分かった……お前を、信用しよう」

 

加藤が千手観音に向かって返答すると、

 

「分かった。制限時間が切れるまで、お互いに離れておこう」

 

千手観音はこちらに背を向け、歩き始めた。私がそれを見ていると、加藤が肩を叩いて、言った。

 

「今回は、これで終わりだ。俺たちも計ちゃんを迎えに……」

 

「終わり? 確かにそうなるといいんですがね」

 

「え?」

 

千手観音の灯籠が光った。肩にある手を振り払うと時間を止め、加藤を思い切り突き飛ばし、自分も地面に伏せた。

 

直後、熱線が頭上を走り抜けた。ほんの少し回避するのが遅ければ2人仲良くなますにされていただろう。今の攻撃で桜岡も千手観音の裏切りに気づいたようで、身構えていた。

 

「ちっ、まとめて殺そうと思ったんだがな」

 

「相変わらずの戦い方ですね。西さん」

 

「あんたもな」

 

喋りながら、千手観音は少しずつ近づいてくる。あまり近距離になるとレーザーは避けられない。私が警戒して下がろうとすると、その前に桜岡が立った。

 

「私……キックボクシングのジム通ってるから……何とかできるかも……」

 

 

 

 

 

俺が腰をさすりながら起き上がると、千手観音がこちらへ向かってゆっくりと歩いてくるところだった。

 

「まさか……裏切ったのか?」

 

「まさかって……こっちは仏像を皆殺しにしてますし、あっちはまだ無傷です。矛を収める理由がありません」

 

咲夜は桜岡の後ろでXガンを千手観音に向けながら、落ち着いた様子で答える。しかし、その腕は微妙に震えており、彼女が見た目ほど回復しているわけではないことが見てとれた。

 

「信用したのにな……」

 

「信じられない相手への信用は思考停止って言うんですよ。しっかりしてください」

 

「……そうだな」

 

俺もXガンを持ち上げると、真っ直ぐ千手観音の、再生機を狙う。

 

「2人とも……早くして。これ以上、近づかれると……」

 

桜岡は握りこんだ拳を軽く上にして、独特のリズムでジャンプしながら、千手観音と対峙していた。

 

「私は左の再生機を狙います……加藤さんは右を狙ってください。同時に破壊しないといけませんから、掛け声頼みます」

 

「分かった……いくぞ、1、2の3っ!」

 

2つの銃口から、ぎょーん、ぎょーんと音がして、数秒後、左の再生機が千手観音の肉体ごと弾ける。咲夜は成功したらしい。では俺は……?

 

ばん、ばん、という音とともに、千手観音の腕が弾ける。しかし、再生機は無傷のままだった。

 

「しくじった!」

 

俺が叫ぶと、千手観音はお返しとばかりに一升瓶を持ち上げる。まずい、溶解液が来るー

 

「ハアッ!」

 

溶解液が迸る直前、桜岡が一升瓶を蹴り飛ばす。一升瓶は宙を舞い、その中身は千手観音自身に浴びせられた。

 

ぼわっ!と一気に何かが蒸発するような音がして、千手観音の左半身が溶ける。そして俺が壊し損なった再生機も一緒に、溶けた。

 

「勝てる……!」

 

桜岡が呟くが、その時、千手観音の目が怪しく光った。

 

「気をつけろっ!そいつは、まだ……!」

 

「え?」

 

無事だった剣を持った腕が、桜岡の肩口目掛けて斬り下ろされた。桜岡は血を吹き出しながら、倒れる。

 

「撃ってください!加藤さん!」

 

咲夜は桜岡が倒れる後ろから、何度も引き金を引いていた。千手観音の腕が、胴体が弾け、血が吹き出る。しかし致命傷には至らず、反撃の隙を与えてしまった。光線が咲夜に向かって発射される。

 

「くっ!」

 

ぎりぎりのところで咲夜は回避したーように見えたが、光線が右足をとらえ、切断される。咲夜は短く声を漏らしながら、倒れた。

 

「訳わかんねー攻撃を使ってくるからこいつは一番警戒してたが……呆気ねーな」

 

千手観音は咲夜を見下ろして、呟く。そして、立っている俺に目を向けた。

 

「加藤……お前の偽善者ヅラにももううんざりだ……」

 

俺は千手観音を睨み付けながら、すくんでしまった。

 

計ちゃんも、咲夜も、西も勝てなかった。こんな奴に、本当に俺が勝てるのか……?

 

怖い。1人で、この千手観音と戦うのが、とてつもなく恐ろしい。引き金にかかった人差し指が震え、狙いにくい。だがー

 

まだ、計ちゃんと咲夜は生きている。

 

俺が負けたら、2人とも、ガンツに殺されるかもしれないー

 

「……腹、括るしかねーな……」

 

千手観音の灯籠が光った。俺は咄嗟に避け、Xガンを乱射する。

 

「はははは! 無駄だぜ加藤!」

 

しかし千手観音は素早い動きで避けると、俺を剣で引き裂かんと迫る。

 

「ちいっ!」

 

俺は大きく後ろにステップバックすると、千手観音から距離をおいた。この距離は、レーザーが来る―――

 

俺が頭を下げると、先ほどまでそれがあった位置を、熱線が通過した。俺は再び顔を上げ、千手観音の胸に狙いをつけると、Xガンのトリガーを引き絞った。

 

どばっ、と肉や骨が吹き飛び、千手観音の胸に巨大なクレーターが出来上がった。かっぽりとあいた空洞の向こうで、血がぽたぽたと滴っている。

 

「く……そ! やられた……か、加藤……っ…」

 

どさり、と千手観音はその場にくずおれた。

 

「はっ……はっ……」

 

俺は荒い息をつきながら、千手観音に近づく。最後に頭を潰して、終わりにしなくてはならない。

 

「すまない……」

 

先に攻撃を始めたのは俺たちだ。そして仲間が全員殺されたからこそ、千手観音は逆にこちらのメンバーを虐殺して回ろうとしたのだ。

 

だから、せめて早く頭を潰して、楽に―――

 

「加藤さんっ!」

 

その時、咲夜の呼ぶ声が聞こえ、俺ははっと我にかえった。

 

とす。

 

千手観音の腕が伸び、剣を俺の胸に突き刺していた。込み上げる血が口から吹き出て、地面にこぼれる。

 

「加藤……せめて、てめーを道連れに……!」

 

そう言って俺から剣を引き抜こうとした瞬間、千手観音の頭が吹き飛んだ。

 

「これで……終わり……です」

 

咲夜が撃ったのだ。俺はそのことを認識すると、何故か力が抜け、座り込んでしまった。

 

「あれ……おっかしーな……」

 

これで、帰ることができる。そのはずなのに、転送が始まらない。俺は、まさか……死ぬのか? 目を開けようとしても、瞼が重くなり、だんだんと視界が狭まっていく。世界から光と音と感覚が消え、意識も散っていく。

 

「あ……ゆむ……」

 

最後の一言は、実際に言ったのか、それとも思考の中で呟いたのか、わからなかった。

 

 

 

 

 

じじじじ、と音がして、私が目を開けると、そこはガンツの部屋だった。私は確か加藤や桜岡たちと千手観音を倒そうとしていたはずだが、何故転送されたのだろうか。私が首をかしげていると、先に戻ってきていた玄野が、こちらを振り返った。

 

「咲夜……! 生きてた、のか……」

 

「ええ、なんとか」

 

「俺の彼女と、加藤は……?」

 

「分かりません。途中から記憶が無くて……」

 

おそらく彼女とは桜岡のことだろう。私もこの状況をよく飲み込めていないのでそう答える。すると、ガンツから、ちーん、と音が鳴った。

 

『それでは、ちいてんをはじぬる』

 

 

いつもと変わらない採点表示。だが、それはこれ以上戻ってくるメンバーがいないということを示す、死の宣告に他ならなかった。

 

「……!? まて、待てよ、ガンツ!2人を転送しろ! 生きてんだろ! なあっ!」

 

玄野がさけぶが、ガンツは意に介さず、採点結果を表示する。

 

『玄野くん 6てん

TOTAL36てん あと64てんでおわり』

 

「おい、皆を返せ!ガンツっ!」

 

玄野がいくら叫んでも、何も起こらない。彼らは確実に、死んだのだ。

 

「くそっ……くそっ……!」

 

玄野が座り込むと、次の採点結果ーつまり私だーが表示された。

 

『咲夜ちゃん 72てん

toTAL100てん 100てんめにゅ~から選んでくだちい』

 

「えっ」

 

確かに仏像は多く、点数を稼げたと思ったが……これほどだとは思わなかった。後ろからも、玄野が息をのむ気配が伝わってくる。そして、「100点メニュー」が表示された。

 

『1、記憶をけされて解放される

 2、より強力な武器を与えられる

 3、MEMORYの中から人間を再生でちる』

 

西から聞いていた通りだった。当然、私の目指す選択肢はずっと前から決まっている。

 

「……い」

 

ちばん、と言おうとした時、後頭部に固いものが押し付けられる感触がして、口をつぐんだ。この金属の冷たさは、銃だろうか。

 

私が振り向こうとすると、後ろから玄野の声が、聞こえた。

 

「咲夜……頼む。皆を、皆を生き返らせる……3番を、選んでくれ」

 

 




咲夜の点数内訳
・あばれんぼう 3点
・弱い仏像 1点×4
・千手観音の周りの仏像 5点×4
・千手観音 45点
……計72点

千手観音45点って無理ありますかね……? でもYガンやZガンで楽に勝てそうでも射程距離に近づくまでに光線が来そうだし(東郷が狙撃していた距離までレーザーは十分な威力で届いていた)、ブラキオサンよりは上、オニ星人よりは下って感じかな……。
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