時止めメイドと黒い玉   作:ばるばろさ

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17、小島多恵と和泉紫音(サイコパス)

 

 

 

かなりの高度のビルの屋上にいるせいか、冷たい風が辺りを駆け巡っている。しかし、私たちを取り囲む異形たちは寒さに震えることも、身じろぎすらもしなかった。

 

異形ーチビ星人たちはじっとこちらを見たまま、攻撃できないでいるようだった。

 

『解体するか』

 

『まだあの攻撃の正体がわからない』

 

『様子を見るか』

 

チビ星人たちのテレパシーが断片的に聞こえてくる。このテレパシー能力自体が瞬時の仲間との情報共有を可能にしているらしい。しかし今回は私の能力を把握しきれず、半端に情報共有してしまっているため、かえって自分たちを縛る(くびき)となってしまっているようだった。

 

私はチビ星人たちの方へ銃を向けながら、加藤に囁いた。

 

「流石にこの数をいっぺんに斬り伏せることは難しそうです。今のうちに場所を変えるべきです」

 

「確かにな……手頃なのはあのビルだけど」

 

加藤は目で近いビルを示す。しかしその途中には、1体のチビ星人が立ちふさがっていた。

 

「……あれだけなら咲夜の能力で突破できないか?」

 

「可能です」

 

1体であればチビ星人を倒すのは簡単だ。私が肯定すると、加藤もその作戦を実行するのを決めたらしい。少し離れたところにいた玄野に手招きすると、玄野はチビ星人たちの様子を窺いながら、こちらへ走ってきた。

 

「皆で向こうのビルまで飛び移ります。私が始末するので途中のチビ星人は無視してかまいません」

 

「わかった。そろそろあいつらも動いてきそうだしな」

 

玄野はチビ星人たちをぐるりと見回しながら、呟いた。

 

『集団でかかれば倒せるか』

 

『ああ あちらから攻撃してこない』

 

『我々を一度に殺せないのだろう』

 

チビ星人たちは私たちが積極的な攻勢に出ないのを見て、今にも襲いかかってきそうな雰囲気である。この機を逃せば、3人で移動するのは難しくなる。すぐに行動を起こさねばならない。

 

「咲夜さん、計ちゃん……行こう」

 

加藤はそう言うと、向かいのビルへ向かって走りはじめる。私と玄野はそれに続き、チビ星人を射程内に収めた。

 

時間を止め、チビ星人の頭へ撃ち込む。直後、致命傷を負ったチビ星人はばったりと後ろに倒れ、道が開けた。

 

「行けます!」

 

 私たちは出しうる力の限りで地面を踏みしめ、ジャンプする。私たちは風を切りながら、地上から何十メートルもの高さを飛翔していた。

 

「あいつら、飛んできてる! とことん追い詰めてくるつもりだぜ!」

 

 その時、玄野が大声をあげた。振り向くと、チビ星人たちも私たちと同じようにこちらへ飛び移ろうとしているのが見えた。

 

「……ならチャンスだ。空中にいる間は身動きが取れない。十分狙えるはずだ!」

 

 加藤が叫ぶのと同時に、私たちは着地した。そして体を起こすと、すぐに玄野は両手のXガンを、加藤はYガンを構える。私は左手でXガンを持ち上げながら刀を伸ばし、チビ星人たちが来るのを待ち受けていた。

 

「来たっ!」

 

 向こうのビルからチビ星人たちが飛び移ってくるのが見えた瞬間、私たちは斉射した。

 

「避けられるんなら空中でも避けてみろッ!」

 

 不意に、最も近くまで迫っていたチビ星人が爆裂した。そしてその後ろにいたチビ星人は加藤のワイヤーに巻き取られ、下へと落ちていく。

 

「おおおおっ!」

 

 玄野と加藤は叫んで撃ち続けるが、結局撃墜できたのは玄野が2体、加藤が1体だけだった。残り5体はすでに目と鼻の先まで迫ってきている。

 

「伏せてください!」

 

 私は警告すると、チビ星人が着地する寸前に刀を振りぬいた。瞬間、2体のチビ星人の体が両断され、その場に転がる。

 

『貴様!』

 

 斬撃を免れた2体のチビ星人は無事に着地すると、こちらへ飛び掛かってくる。通常ならば刀を振り終え、体勢が崩れているこの状態では攻撃を受けるだろう。そう、通常ならば。

 

 ぴたり、と飛び掛かってくるチビ星人の動きが止まった。私の警告を聞いた瞬間に伏せていた加藤も玄野も、瞬きすらしない。凍った時を、私だけが認識していた。

 

 私は返す刃でチビ星人たちを薙ぎ払う。テレパシーの影響か、動きまでシンクロしていたのでまとめて斬り倒すことは容易だった。

 

 時間が動き出すと、2体のチビ星人は空中で飛び掛かったポーズのまま、身体を残して首だけが空を舞った。

 

「やった……!」

 

 玄野と加藤は立ち上がり、最後に着地したチビ星人に目を向けた。

 

『……貴様らの手は分かった。次は確実にお前たちを……』

 

「次はない」

 

 チビ星人のテレパシーを、加藤が途中で遮った。

 

「すまなかった。せめてお前は殺さないで、上に送るから……」

 

 そう言ってYガンを向け、加藤はかちりと上トリガーを引くーつまりロックオンすると、即座に発射した。

 

『そんな攻撃が当たるとでも……』

 

 チビ星人は難なく避けるが、ワイヤーで繋がれた3つのロケットは軌道を変え、チビ星人を絡めとってしまった。

 

「……行ってくれ」

 

 じじじじ、と天から降ってきた一本のレーザーが、チビ星人の体をかき消していく。加藤が「上」へ転送しているのだ。

 

『許すまじ、許すまじ……』

 

 チビ星人は怨みのこもった思念を私たちに飛ばしていたが、頭が完全に転送されると、ぷっつりと消えてしまった。

 

「……ボスはいるか?」

 

「いえ。今ので最後だったようです」

 

「おっ、転送きた」

 

 私の言葉を肯定するかのように、玄野の転送が始まった。

 

 

 

 

 全員の転送が完了すると、玄野は「よし!」と言ってガッツポーズをした。

 

「今回、誰も死んでないぜ。やっぱりきちっと戦えば死人は出さずに済むんだ」

 

「ああ。俺たちなら、100点集めることだって夢じゃない」

 

 

『それではちいてんをはじぬる』

 

 点数結果だ。倒したチビ星人は玄野が2体、加藤が2体、私が6体である。今回は銃が効きにくく、純粋なパワーやスピードに特化した星人だったので、相対的に私が点を多く取ることができたのだろう。

 

『加藤ちゃ(笑)6点

 totaL6点 あと94てんでおわり』

 

「100点までの道のりは長いな……」

 

『玄野くん 6点

 TotaL42点 あと58てんでおわり」

 

「あと58点か……」

 

『咲夜ちゃん 18点

 TOTAL18点 あと82点でおわり』

 

 私の場合、100点を取って解放されるという選択肢がないため、必然的に報酬は新しい武器か、人間の再生となる。それは取れたときに決めるとして、問題はやはり他のメンバーが100点に達したときだろう。例えば加藤や玄野が解放されれば戦力が下がる。長い期間生き残ることが目標である私にとっては、彼らが抜けることは損失であり、防がねばならないことなのだ。

 

 そのため、100点報酬のためだけではなく、他のメンバーが解放されて戦力が低下するのを防ぐためにも、これからも私は他の人間を凌いで点を取り続ける必要があるのだ。死の危険に何度もさらされる彼らには申し訳ないが。

 

「やっぱ時間止められるってずるいよな。……あ、最初に言ってたズルってそれのことか」

 

「いいじゃないですか。楽に勝てたのなら」

 

「そうだけどよ」

 

 玄野はぼやきながらも気力が横溢し、足取りも軽いようだった。生き残れた安堵、達成感、戦いの興奮が混ざり、彼を浮かれた気分にしているのだろう。心なしか、加藤の表情も明るく見えた。

 

「2人とも車に気をつけろよー」

 

 加藤と別れると、私と玄野は帰路についた。

 

 

 

 

 

 

 

 暗い部屋の中、俺は何度も読んだパソコンの記事を見た。

 

『一宮』

 

『アパート 崩壊』

 

『羅鼎院 テロ』

 

 何故か俺の興味を引き付けてやまない黒い球ーガンツのゲームの舞台となった場所を見るたびに、何か熱くたぎるようなものが俺の体の中を駆け巡る。俺をそうさせるのはあの荒唐無稽なのに妙にリアルな日記か? それとも頭の中に残る狩りのイメージか……?

 

 だが、今俺の左手の中に握りこまれている黒い球体、そしてガンツの住人たちを思い出すと、それは手に届くという証拠となって、俺を苛んでくる。行きたい。あの部屋に。悪魔に魂を売ってでも……。 

 

「玄野計。十六夜咲夜」

 

 ついに見つけた手がかり。ガンツの住人たちの名。あのサイトが更新されなくなったーつまりベテランの管理人でさえ死んでしまうほどの激しい戦いがあったのだ。彼らは間違いなくそれを生き延びている。

 

「俺もあいつらと同じ部屋に……」

 

 夜な夜な行われる、血沸き肉躍る戦い。それを想像して、全身の産毛がそそり立つような興奮を覚える。これが現実のものにするためならば、人を殺せと言われても嬉々として従うだろう。

 

「……とにかく、調査だな」

 

 玄野にはいつでも会える。明日は十六夜の方を調べるのもいいかもしれない。

 

 そう思った瞬間、左手に持っていた、黒い球に白い文字が浮かび上がってきた。

 

「……何だ?」

 

『部屋に来たい人は、でちるだけいッぱい人を連れてきてくだちい』

 

 部屋に来たい人……「できるだけいっぱい」連れてくる……。これはまさか、ガンツの指令だろうか。人を連れてくる……あの部屋に行けるのは死人のみ。ということは、俺がなすべきことは……。

 

 それに思い至った時、悪魔が俺に微笑んだような、そんな気がした。

 

 

 

 

 

 

「玄野さん。帰りました」

 

 私は職場から帰ってくると、いつもの挨拶と同時に玄関を開けた。これから食事と自分の分の洗濯(洗濯はお互い別々でやることになっている)をしなくてはならない。しかし紅魔館にいたころの忙しさと比べれば天国のようなものである。

 

「……?」

 

 玄野の返事が無いので怪訝に思いながらも、私はそのまま部屋の中を歩いていった。ヘッドホンで音楽でも聴いているのかもしれない。

 

 私が玄野の寝床のある部屋の扉を開けようとすると、玄野が慌てて飛び出してきた。

 

「ちょっと待ってくれ。咲夜。ほら、キッチンに行くとか……」

 

「なんでです?」

 

 玄野は何故か異様に焦っており、どうしても私を部屋の中に入れたくないようだった。

 

「ねえー玄野くんどうしたの?」

 

「あ、いや、これは……」

 

 後ろから誰かの声が聞こえてくる。声の高さからして女性だろう。全く、部屋に連れ込んで昼間から何をしていたのかと呆れていると、ぴょこっと後ろから見知らぬ女の子が顔を出した。

 

「え、玄野くん、誰その人?」

 

 こちらのセリフだ。……岸本や和泉の時もそうだったが、どうして玄野の家には妙な来客が多いのだろうか。そろそろ私も別のアパートを借りる方が良いかもしれない。

 

「ただの同居人。ここに泊める代わりにご飯作ってもらったりしてる」

 

 玄野は少し焦った様子で説明すると、彼女はほんのり疑惑を含んだ目で玄野を見て、こちらに視線を移した。

 

「初めまして。十六夜咲夜です。……あなたは?」

 

「小島多恵。玄野くんの彼女です」

 

 そう小島が言うと、玄野は何故か気まずそうな顔をした。しかし見た目が地味とはいえ、彼女がもういるとは驚きである。この前は桜岡を彼女だと言っていなかっただろうか。

 

「……まあ何にしてもおめでとうございます、玄野さん。小島さんも夕食をとりますか?」

 

「あ……もう帰るから。すみません」

 

 小島は丁重に断ると、鞄を持って玄関の方へ歩き始めた。玄野はそれを追っていそいそと外へ出ていった。

 

 

 

 

「……なんだかずっと過ごしてたら……なんていうか、可愛く見えてきてさ。最初はあれだったんだけど……」

 

 タエちゃんを送りだしてから、俺は咲夜にタエちゃんの説明をしていた。まあ勝手にタエちゃんを連れ込んで()()いたら、誰だって引くだろう。しかし罰ゲームで付き合っているなどと咲夜に言って、タエちゃんに知られたら困る。……うまく言い表せないが、今、俺はタエちゃんを好きと言える状態なのかもしれない。

 

「まあ深くは聞きません。ガンツのこと、ちゃんと黙ってくれればあなたが猫を殺そうが彼女を作ろうが問題ありませんし」

 

 咲夜はそう言いながら、静かにほうれん草とベーコンのソテーを俺の前に置いた。タエちゃんには咲夜について部屋の外でいくつか質問されたが、咲夜にとっては割とどうでもいいことらしい。自分の分の皿を用意すると、手を合わせてからもぐもぐと食べ始めた。

 

「で、和泉さんの様子はどうでした?」

 

「いつも通りだよ。普通」

 

 どちらかというとタエちゃんのことよりも和泉の方が気にかかるようで、近頃は帰ってくるたびに訊いてくる。まあ命に関わる話だから興味があるのは当然なのだろうが、流石に警戒しすぎだ。

 

「……それより、今日さ、やべー奴に絡まれてさ。口調が田舎っぽいんだけど、めちゃくちゃ強いんだ。星人かってくらい」

 

「スーツ着てたんですよね。バレませんでした?」

 

「まあ慣れてるしな。ホントあいつやばかったし……」

 

 続きを言おうとしたその時、ピンポーン、とチャイムの音がした。

 

「こんな時間に来客? ……小島さんが何か忘れ物でもしたんですかね?」

 

「そうかも。俺見てくる」

 

 あまり待たせるのも悪いので、俺は玄関に飛びつくと、急いで扉を開けた。しかしそこにいたのはタエちゃんの小柄な体ではなく、見上げるほどの高身長ー和泉だった。学生服のポケットに右手を突っ込んだまま、そこに立っている。

 

「よぉ」

 

「は? 和泉? なんでここに?」

 

「いや。ちょっと話したいことがあってさ……」

 

 和泉はポケットから手を出す。その右手には、一丁の黒光りする拳銃が握られていた。

 

「なあ……ハリー・ポッターは……淀川長治に似てねーか?」

 

「はあ? 似てねーだろ。ていうかそういうのなら別に明日でもよくねーか?」

 

「……ああ。俺にはこういう会話は難しいな。さっさと本題に入らせてもらうか」

 

 和泉はそう言うと、かちっと音をさせ、撃鉄を起こした。

 

 

 

 




何だかチビ星人編が消化試合みたいに……強めの3人がいるので苦戦はしませんでした。

新規ガンツメンバー(死ぬ前の描写はあまりないけど)やタエちゃんもいますし、これまで結果が変えづらかったストーリーも少しずつ変えられますね。旧東京チームも嫌いではないですが、人数が多すぎると把握しきれないので……。
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