時止めメイドと黒い玉   作:ばるばろさ

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18、大虐殺の顛末

 

 

 

「玄野……お前、あの黒い球の住人だろ?」

 

和泉は何気ない様子で話しながら、拳銃をいじっていた。

 

「明日にしてくれよ。あの小説が面白いことはわかったからさ。……てかなんでエアガン持ってんの?」

 

和泉は俺の質問には答えず、黙って拳銃をいじっていた左手を下ろした。

 

「俺は……お前たちガンツの住人たちが、とてつもなく、羨ましいんだ。それこそあの小島まで羨ましくなるくらい」

 

駄目だ。和泉は俺と、おそらく咲夜もガンツのメンバーであることを確信してしまっている。和泉の目には迷いや懐疑的な色はまるでなく、明確な意志が浮かんでいた。

 

「だから次の土曜日……俺は、あの部屋に戻る」

 

「も、戻る?」

 

思わず聞き返してしまった。すると和泉はポケットから黒いボールを取り出して、俺に渡した。そのボールには『いっぱい人を連れてきてくだちい』という文字が浮かび上がっていた。

 

「和泉、お前……」

 

大勢の人間をガンツの部屋に連れてくる。それはつまり、和泉に大量殺人を求める文章なのだ。

 

「土曜日に、新宿だ。俺を止められるのは、お前しかいない」

 

「……ほんと何言ってるのか、さっきから全然……」

 

俺があくまでしらばっくれようとすると、和泉の銃を持った右手がはねあがり、俺に狙いをつけた。

 

「は?」

 

鋭い炸裂音。それが聞こえたと思った瞬間、俺はいつの間にか床に伏せていた。ちらりと後ろの壁を見ると、ぽっかりと壁に小さい穴ができていた。

 

「玄野さんを殺されると、私が困るんですが……」

 

見上げると、咲夜が和泉と対峙していた。今のは時間を止めて弾丸から守ってくれたのだろう。

 

「そうか。お前もそうだったな。俺を止められるのは今しかないが」

 

「止めるとか止めないとかはよく分かりませんが、人の家で発砲するような人にはさっさとご退去願いたいのですが」

 

「そうか。結局はあんたも、玄野と同じか……」

 

和泉はそういうと、今度は咲夜に拳銃を向けた。撃つつもりだ。

 

しかし和泉の人差し指が引き金を引く前に、拳銃そのものがその右手から消え失せていた。

 

「何っ?」

 

突然丸腰になって驚く和泉に向けて、咲夜は時間を止めて奪いとったらしい拳銃を突きつけた。

 

「ここから出ていってください。私もあなたの脳漿で玄関を汚したくないので」

 

咲夜がそう言うと、和泉は何かを諦めたようにため息をついた。

 

「……分かった。今日は帰ろう。まだ俺はノルマ達成してないし、今殺されるのも面白くない。だが、土曜日の新宿……それは、忘れるなよ」

 

和泉は言葉の後半を俺に向けて言うと、くるりと背を向け、そのまま出て行った。

 

「あいつ、本気かよ」

 

和泉の持っていた拳銃は本物だった。つまり、あいつには本当に大量虐殺が可能なのだ。そして俺を躊躇いもなく撃とうとした。スーツを着ていなかった今、咲夜が助けてくれなければ死んでいただろう。

 

「土曜日、となると明日ですね。新宿に行きますか?」

 

「……ごめんだ。どうせあいつは捕まるよ」

 

そう言うと、咲夜も「そうですね」と言って、薄く硝煙の立ち上る銃口を見ていた。

 

 

 

 

 

 

和泉が新宿を殺戮の場として選んだ理由は、7時ごろに到着してからすぐに分かった。人が多いからだ。どこで和泉が殺戮を始めても分かるように、私はとあるビルの屋上から、地上の様子を眺めていた。

 

昨日、和泉が来たときはその場で殺してしまおうと思ったが、自分の住まいの周りで騒ぎになるのは困る。死体処理も面倒なので、和泉が虐殺を決行してから始末することにしたのである。

 

こちらの世界ではごく稀にそんな大量虐殺があるらしく、犯人は心の内も想像できない殺人鬼として扱われることも少なくないらしい。そのため和泉をどさくさに紛れて始末しても、後は警察が勝手に理由をつけてくれるに違いない。木を隠すなら森の中、死体を隠したいなら死体の山があればいいのだ。

 

私は服の下に着たスーツと拳銃(自殺に見せかけるため)、そして何よりも肝心なレーダーを確かめた。

 

ガンツについて嗅ぎまわってくる和泉は私の身の安全のため、いずれは始末しなくてはならなかった相手であるが、ご親切にもわざわざ殺しやすい舞台を自分で作ってくれたので、西に比べればまだ与しやすいかもしれない。

 

玄野は一切関わらないという姿勢を保っていたが、それも彼の目を気にせずに和泉の抹殺を行えるので好都合だった。

 

少しして駅の方からぱららら、という銃声、そして悲鳴や怒号が聞こえてきた。ついに和泉は行動を起こしたらしい。だんだんその音は近づいてきているようだった。

 

「あの人…かな」

 

銃を乱射する、黒いメイクを施した顔が見えた。犯行予告をしていなければ、私でも和泉と気づかなかっただろう。

 

人々は襲ってくる弾丸から身を守るため、逃げ惑っていた。勇敢にも死体を盾にして近づき、和泉の首を締め上げた者や念力のような力で渡り合った者たちもいたが、全員が弾丸の餌食となってしまった。

 

「さて、と」

 

見下ろすと、ちょうど和泉は私のいるビルの手前まで来ていた。もしこちらに来なかったらチビ星人のときのようにビルの間を飛び移っていこうと思っていたが、ラッキーだった。

 

誰かに見られては厄介なのでステルスモードを起動させて姿を消すと、奪った銃を腰のガンホルダーから取り出す。そして転落防止用であるらしいフェンスの向こう側に立つと、そのまま空中に身を踊らせた。

 

重力に引っ張られ、私の体は下へ下へと運ばれていく。風を切って加速する中で、私の眼は和泉をしっかりと捉えていた。

 

地上に到達した瞬間、ふしゅーっ、と靴の底からガスが出て、衝撃を和らげた。スーツが壊れていないことを確認し、顔を上げた。

 

「……?」

 

何かが落ちてきた気配には気づいたらしく、和泉は振り返った。しかし姿を消している私には気づいていないようで、その目は私のはるか後方を見ている。

 

私は拳銃を持ち上げ、ぴたりと和泉の額に狙いをつけた。それでも和泉は気づかない。

 

私が黙って引き金を引くと、乾いた音がして、和泉はばったりと倒れた。

 

 

 

 

 

『新宿大虐殺!

長身の男の銃乱射で死者、怪我人多数

犯人の男はいまだ姿を見せない』

 

夕食をとった後にテレビを見ていると、俺の目はテレビに映ったそのテロップに釘付けにされた。

 

「おい、これって…」

 

「和泉さんでしょうね、間違いなく」

 

咲夜はそれほど驚いた様子もなく答える。しかし咲夜は顔を上げてテレビを見ると、何故か眉をよせ、

 

「犯人が姿を見せていない、ですか」

 

と呟き、少し考え込んでいた。

 

「どっかに逃げてるんだろ」

 

「……まあそうなんでしょうけど」

 

そう言いつつも、何故か咲夜は納得がいかないとでもいうような表情は変えず、ニュースに見入っている。

 

ぞくり。

 

俺がテレビに目を戻そうとしたとき、うなじに寒気が走った。咲夜もそれに気づいたらしく、顔をしかめる。

 

「今日は働きすぎな気がしますね……」

 

「そうか? あ、今回はスーツ忘れねーようにしねーと」

 

慌てて椅子に掛けてあるスーツを引っつかむとその直後に体が硬直し、転送が始まった。

 

 

 

「ここは……?」

 

目を開けると、俺は妙な部屋にいた。周りにも同じように何人もの人間がいる。

 

「桜井、お前も来たのか」

 

声のした方を見ると、そこにいたのはサングラスをかけた微妙にキムタクっぽい男ー坂田師匠だった。俺に超能力を教えてくれた恩人だ。だが、俺も師匠も、さっきの乱射魔に殺されたはずだ。ここは死後の世界なんだろうか?

 

「師匠。ここどこだか分かりますか?」

 

「…一応、天国ではないってことは分かる。ほら、東京タワーがあるだろ」

 

「ホントですね。でもこの状況って一体どうなってるんですか?」

 

「俺が知りてーよ。皆分からんらしい」

 

俺たちの他には家族らしい3人と筋骨隆々な大男、数人の外国人、隅の方で顔を隠して黙っている女、うるさく騒いでいる数人の男女、おっさん、パンダ、そして黙ってたたずむ長髪の男がいた。

 

俺が首を捻っていると、じじじじと音がして、目の前に人間が現れ始めた。

 

「うっわ、なんですかこれ」

 

「どうも俺たちはこんな風にしてこの部屋に来たらしい。つまり、まだ新しく人が入ってくるってことだ」

 

そして現れたのは髪をオールバックにした長身の男だった。不良のようなーというか実際にそうだろうー外見だったため、あまり印象は良くない。

 

「あれ……まだ計ちゃんと咲夜は来てねーのか」

 

呟くと、そいつは俺に目をとめ、

 

「すまない…外国人と、もう1人高校生が来なかったか?」

 

「外国人ならあそこにいるけど…学生は多分俺だけッすよ」

 

そいつは俺の指差した外国人ー黒人だったーを見て、かぶりを振った。

 

「そうか。じゃあ2人とも、まだ来てないってことか」

 

そいつがそう呟いた時、後ろで再びあの音が聞こえてきた。

 

「お、加藤の方が先に来てたのか」

 

出てきたのは少し背の低い、普通という言葉がぴったりきそうな高校生だった。どうもこのオールバックー加藤とこいつは知り合いらしい。

 

「計ちゃん、咲夜さんは?」

 

「多分俺の次に来る」

 

計ちゃんと呼ばれた高校生の言うとおり、また人間が現れた。透き通るような銀髪で、すこしエキゾチックな美貌の持ち主の女だった。

 

「今回は人が多いですね。敵が多いかもしれません」

 

彼女ー咲夜というらしい、は俺たちをちらりと見やって、そうコメントした。

 

「おい、ひょっとしてあんたら何か知ってんのか?」

 

師匠は、その3人に話しかけた。いきなりここに連れてこられても全く動揺しないのはこの状況について何か知っているからに違いない。

 

すると加藤は師匠の方を見て、頷いた。

 

「ああ。今から説明する。といっても何もかも知ってるわけじゃないが…俺たちの答えられる範囲ならー」

 

その時、加藤が続けようとするのを遮るかのようにラジオ体操の曲が流れ始めた。

 

「何すか? これ」

 

「これから戦う相手をガンツが教えてくれるんだ」

 

加藤が説明した通り、あの黒い球に、妙な表示が浮き出てきていた。

 

『てめえ達は今からこの方をヤッつけに行って下ちい

 

《かっぺ星人》

・特徴 なまる、汗かき

・好きなもの トカゲ、鳥

・くちぐせ おーらのどーごがなまっでんだいっでみろっつの』

 

 

 

 

加藤の説明は要点を押さえていて、まずはスーツを着ること、次に銃や刀などの武器を駆使して生き残らなければならないことを伝えた。最初こそ新規メンバーはそれを緊張した顔もちで聞いていたが、やがて失笑や含み笑いが漏れ始めた。誰も信じていない。そのため、加藤の話が終わってもスーツを着る者はいなかった。

 

「やっぱ誰だってそー思うよな……」

 

玄野がぼやいていると、その目の前に筋肉を鎧のように見にまとった男がやってきた。

 

「玄野……お前、学校で会うたよな」

 

「げ……お前、あの時の奴か」

 

どうやら知り合いだったらしい。玄野に聞いてみると、昨日言っていたあの手加減していたとはいえスーツを着た玄野とまともに渡り合った男だという。

 

「ひ弱なガタイなのに俺を負かせたんは、そのスーツって奴を着てたからなんか?」

 

「……ああ。これを着れば、誰でもお前以上の身体能力を発揮できる」

 

玄野の答えを聞いてその大男は黙っていたが、しばらくして自分の分のスーツを取って戻ってきた。

 

「こいつはどうやって着ると?」

 

「首から通すんだ。てか外で着替えてこいよ」

 

一応1人にスーツを着せることに成功した。これを見た鈴木という年配の男と帽子を取った女ーレイカという有名なアイドルらしいーがそれに倣ってスーツを着たが、残った人間はスーツを着なかった。ある1人を除いて。

 

「玄野さん。気づいてますか?」

 

「何が?……って、あいつか」

 

私が指差したのは、スーツを着て、壁にもたれかかっている和泉である。私に暗殺された結果、この部屋に転送されたのだろう。ニュースで死体が見つからなかったと報道されていたときは妙だと思ったが、ガンツに回収されていたのだ。

 

「あいつ、殺人犯だよな。どうする」

 

「殺人犯って言っても証拠が無いわけですし……それにここに来ることができた以上、もうあちらから干渉してくることも人を殺すこともないでしょうし、黙っていたらどうでしょう」

 

それを聞いて玄野は複雑そうな顔をしていたが、仕方ないと割りきったのか、「そうだな」と答えた。

 

「駄目だ。全員着ない」

 

加藤がそう言ってこちらへやってきた。あのスーツは奇抜なデザインなので、やはり着るのに抵抗があるのだろう。

 

「今から着させても遅いですし、私たちが先行してあの人たちを守るしかありませんね」

 

これまでと違い、私たちは新規メンバーを生き残らせて戦力にしなければならないのだ。そのことを承知している加藤は頷いた。

 

「ガンツ!俺たちを先に転送しろ!」

 

玄野が叫ぶと、ガンツは玄野、加藤、私の順で転送を開始した。

 

 

 

 




特に今回は書くこともないので、こんなガンツ2次も書いてみたかった、というのを紹介します。

・GANTZ REVENGE
ミッションでまた死んだ人を集めて再挑戦させてみる話。最初にやられていくモブからサダコ、東郷とか死んだキャラが活躍。
・星人たちの日常
ねぎ星人の親子愛、仏像たちの心温まるエピソードなどを描く。最後の一文は必ず、「そして、ガンツメンバーがやってきた」
・ガンツゲームブック
実はこの小説も最初はゲームブックにしたかったが、作業量が半端ないので断念。読者の選択で異なるルートを辿る(玄野がタエちゃんじゃなくて桜岡と結ばれるとか)マルチエンディング形式。これは新しいだろうと思ったが、今更ながらこれfateだと気づいた。
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