時止めメイドと黒い玉   作:ばるばろさ

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1、奇妙な部屋

「また出てきたぞ……」

 

 俺は、気が付くと妙なマンションの一室にいた。目の前にいるのは、大勢の見知らぬ人たち。

 

「………ああ!?」

 

 おかしい、俺、玄野計は先ほど、おせっかい野郎の加藤勝と一緒に線路に落ちたホームレスを助けようとして、列車に撥ねられた。まさか死ぬとは思ってなかったが、案外人って簡単に死ぬものだな、世の中を舐めすぎた、と思った。

 

 ……しかし、だいたい俺が死んだのも、横にいるヤンキーみたいな奴、加藤のせいなのだ。ちらりと横を見ると、加藤も肩で息をしながらそこに立っていた。

 

 俺もぜえぜえと息をしていると、俺たちの目の前に座っている奴らの中から眼鏡をかけた男が一人、歩み出てきた。風采の上がらないサラリーマンと言った感じである。

 

「キミ達も……死にかけたの?」

 

 その男が話しかけてきた時、何が起きたかさっぱり分からなかった。しかし、なんだかもう帰れない場所のような、そんな気がしていた。

 

 ……列車は?

 

 俺と加藤は、ほぼ同時に背後を振り返る。が、そこにあるのは壁だけ。電車は来ていない。俺たちがまだ荒い息をついていると、眼鏡の男は

 

「やっぱりキミ達も、死にかけたんだ」

 

 と一人納得していた。

 

「ハア、ハア……なんかしんねーけど、ナ‼! 助かっただろ! ホラ……」

 

「ホラって……お前なあ……」

 

 遅れて震えが来て、床にへたり込む。俺は、助かったのだ—

 

 そう思った時、俺の心を読み取ったかのように誰かが呟く。

 

「助かってない……」

 

 言ったのは白髪の老人。隣のガラの悪い男は舌打ちをした。

 

「ここが天国だよ。私は、先ほどまでガンと闘っていた。今は痛みも全くない。これをどう説明できる?」

 

 ……死んでる!? 嘘だ! 心臓動いてるじゃん! 息だってしてるぞ!

 

「はは……とりあえず仮説の一つですよね……」

 

 眼鏡男がぼそりと言う。隣の加藤も呆然としているようだったが、やがて窓の外に目を向け、

 

「待てよ、おい、あれ、東京タワーじゃねーか?」

 

 見ると、本当にその通りだった。ここは東京だったのだ。しかし、考えれば考えるほど疑問点は湧いて出てくる。何故目の前にいる奴らはここにずっといるんだ? 目の前の大きな黒い玉は何だ? しかも、犬までいる……。

 

 その時加藤が横で窓を開けようと頑張っていた。何やってんだコイツ。

 

 先客—眼鏡男や老人、若者がくすっと笑う。何笑ってんだコイツら。

 

 やがて加藤は狼狽した様子で、

 

「開かねーよ。これ」

 

「は? 俺にやらして」

 

 簡単じゃねえか。こうやって鍵を開け……開け……あれ?

 

 窓の鍵には触れない。眼鏡男が「開かないって言うか、触れないんだ。出られたら皆こんなところにずっとこーしてないよ。携帯も電源入んないし」

 

 どうやらその通りらしい。俺が黙っていると、眼鏡男は高々と手を挙げ、

 

「みんな注目—」と声を上げようとした。だが、

 

 じじじじ、と音が聞こえ始めたのはその時だった。

 

「何だこれ?」

 

 足? いや、違う。だんだん足首、脛と大きくなっている。何かが見えない箱から出てきている、という感じである。しかし、その断面が見えるので、グロテスクなことこの上ない。

 

 足のほっそりとしたシルエット、つるつるの肌から、どうやら女であることらしいことは分かった。だが、その全身と顔が現れた時、俺は口をあんぐりと開けた。

 

 外国人だ。

 

 最初に、そう思った。銀髪で眼も色素が薄いらしく青に近い。歳は俺とそう変わらないか少し年上のようで16、7歳といったところだろう。さらに俺—正確に言うとその場にいた全員だが—が驚いたのは、その女がなかなか美人だったからだ。俗な表現をすると、マブい。

 しかも何故かメイドの格好をしている。メイド喫茶でバイトでもしていたのだろうか。

 

「………ここはどこ?」

 

 少し低く、澄んだ声だった。メイドは周りを見回し、戸惑っているようだった。

 

「……東京。あんたも死ぬような目に遭ったんじゃないか?」

 

 隣の加藤が訊く。イキナリ話しかけるなんて、勇気あるな。

 

 銀髪のメイドはあら、と言って首をかしげる。「……そうね、死んだわ。でも一応、今は生きてる。よね?」

 

 日本語うまいな。日本生まれの外国人なのか? と思いながらも、俺と加藤は頷く。

 

「あのー、ここで切って悪いんですけど、自己紹介しませんか?」

 

 眼鏡男が提案する。応える者は誰もいなかったが、それでもめげずに続ける。

 

「最初は僕で……ごほんっ、山田雅史です。練馬東小で一年生を受け持つ教師です。スクーターに乗ってて事故っちゃいました」

 

 ふーん、センセーだったのか。俺がそう思っていると、眼鏡男、もとい山田は俺に目を向け、「じゃ、次、君……」

 

「はあ?」

 

 なんで俺からなんだよ。そう思ったが、流れとして言わなくてはならないだろう。俺は緊張しながらも立ち上がった。

 

「………玄野…計。高1。死に方は……こいつの巻き添えで」

 

 そーだ。元はと言えばコイツが全て悪い。俺は加藤をちらりと見る。すると、加藤は思いのほか沈んだ表情で、

 

「そっか、計ちゃんゴメン。俺、喜んで手伝ってくれてるのかと……あ、俺は加藤勝。死因は……電車にアタック」

 

 なーにが電車にアタックだ。反省してんのかてめー。

 

 その後、おっさんが鈴木五郎という政治家であることが分かり、おっさんの隣に座ってたヤンキーは名乗りを上げなかった。体育座りの少年は、西丈一郎。暗そーな奴だ。向こうにいるオッサン二人の自己紹介は、「こいつと俺は、やくざ……はい、これで終わり」

……コワいから近寄らないようにしよう。

 

 そして最後に視線が集まったのは、あのメイドの女だった。

 

「あ……私は十六夜咲夜と言います。お仕事中にちょっと刺されて……あ、私を呼ぶときは十六夜ではなく、咲夜とお呼びください。慣れていますので」

 

 名前がばりばりの日本人。しかも十六夜とかいう聞きなれない名字である。おそらく帰化したイギリス人とかフランス人とかそんな感じだろう。しかし、仕事中に刺されたというのは、ストーカーか何かにやられたのだろうか。顔もスタイルも(胸はそうでもないが)いいし、初対面の人間に下の名前で呼ばせるような、何というか、かなりフレンドリーな性格で何かと勘違いする奴が多そうだ。

 この人は多分そんな勘違いヤローに刺されたのだろう。

 

 

 

 

 ここが外の世界か。

 

 お嬢様に死という休暇を賜った私は職場に復帰してお嬢様から迷惑料をふんだくるべく、西行寺幽々子の話に乗り、外の世界での戦いに参加することになったのである。だが、ガラスの板から見える外の景色は幻想郷とは全く違い、驚いていた。

 

 しかも着ている服が皆珍妙である。目の前にいる若者2人—といっても私と同年代だろうが—は同じような服を着ているので、同じ集団に属しているのかもしれない。他は窮屈そうな服に毛糸で編んだような服など様々だったが、彼らに共通しているのは突然連れてこられ呆然としている、ということだった。

 

 誰も戦いに行くなどとは思ってもいないらしく、何故集められたのかさえ分かっていないようだった。その証拠に隣にいる玄野と加藤はぼそぼそと何かを喋っている。作戦会議でもない、ただの雑談だった。

 

 じじじじじ。

 

 その時、私の耳に何かの焼け焦げるような音が聞こえてきた。

 

「あ、計ちゃん……」

 

 加藤が指で示すと、玄野は「また一人来た」と言った。加藤の人差し指の先を追うと、足が空中から現れていくところだった。断面が見えており、お嬢様の食事の為に人体を解体する必要のある私でも少し気分が悪くなる。

 

……ということは私が現れるときも、こんな登場の仕方だったのだろうか。

 

 なんとなく恥ずかしくなったが、黙って見守る。そのうち現れたのは、この部屋でもう一人の女だった。が、全裸である。

 

「おいおいおいおい!」

 

 山田と青年が近寄ってくる。新しく現れた彼女は意識が無いのか、そのまま地面に倒れこもうとして、たまたま近くにいた玄野にもたれかかる。

 

 ぎゅっ。

 

 玄野は何故か彼女を抱きしめる。と、青年から「てめー何やってんだ!」と叱責が飛んでいた。思いのほか常識人らしい。

 

「おい、手首に血いついてるぞ」

 

 加藤の指摘通り、彼女の手首には傷は無かったが、血がべっとりとついていた。

 

「手首切って自殺……か」

 

 なるほど、と思った。ここにいる全員は何らかの原因で一度死亡し、復活させられた命で何かと戦うのだ。おそらく手首の傷が無いのは、復活の際になくなったのだろう。

 

「はあ……」

 

 問題は、彼女が全裸ということである。風呂場で自殺したのだから当然なのかもしれないが、少々慎みに欠ける。彼女はどうやら夢だと思っているらしく、目を閉じて横たわった。

 

「あの……ちょっと私が説明しますんで、一旦出させてもらっていいでしょうか?」

 

「……ああ、そうだね。ほら、いろいろ……不都合だし」

 

 他の皆も頷いて、(やくざのうちの一人は渋々に見えたが)私は彼女を別の部屋に移動させる。

 

「ううーん」

 

 いつまでも目が覚めないのを訝しがってか、彼女は目を開けた。

 

「大丈夫? 言っておくけど、ここは夢じゃないわよ」

 

「へえっ!?」

 

 彼女は私の顔を見て、飛びのいた。どうやらようやく気付いたらしい。

 

「ここは……?」

 

「さあね。……というか服は?」

 

 彼女は素っ裸の自分を見下ろして、かっと頬を赤くしていた。しかし、困ったことに私はこのメイド服で上着を着ていない。誰かが持っていないだろうか。

 

 そう思っているとドアが開いた。そちらを見ると、加藤が目を瞑りながら上着を差し出している。

 

「これ……着て……」

 

 私が受け取ると、慌てて加藤は引っ込んでしまう。なかなか狂暴そうな見た目にあわず、紳士のようである。私が感心しながら彼女に上着を渡した時、「それ」は聞こえてきた。

 

 あったらしい朝が来た 希望の朝が

 

「……歌?」

 

 聞きなれない歌である。私は彼女が上着を着たのを確認すると、部屋のドアを開ける。皆、部屋の中央にある黒い玉を見ていた。山田が黒い玉を覗き込んで、

 

「なんか、文字が出てるぞ……」

 

 私がつられて覗き込むと、その文面が見えた。

 

『てめえ達の命はなくなりました。 新しい命をどう使おうと私の勝手です。 という理屈なわけだす』

 

「何だコレ? ふざけてんなー」

 

「でもこの文章ってさ、何か超バカバカしーけどさ、よく見たら怖い文章じゃね?」

 

 西という少年が呟く。まあ、私はこんなことをわざわざ説明されなくても幽々子の説明で大方は知っていたのだが。

 しばらくすると、表示が変わった。今度は文だけでなく写真も添付されている。何やら気色の悪い緑色の何か、としか表現ができないような人間が、そこには映っていた。

 

『てめえ達は今からこの方をヤッつけに行ってくだちい。

《ねぎ星人》

・特徴 つよい、くさい

・好きなもの ねぎ、友情

・口ぐせ ねぎだけでじゅうぶんですよ!』

 




所々の記憶が怪しいです。実は私、大仏星人までしか見てないしなあ……ガンツ買いなおさなければ。
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